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・・・ラキオス城内、中庭・・・

 イースペリアで起きている聖矢の気まぐれから始まった事件など知る由もないイースペリア十二妖精部隊(ヴァルキリーズ)の最後の一人
【気合】のイリーナは譲渡調印を済ませた後、話があると言う、レスティーナと共に中庭へと足を運んでいた。

 『レスティーナ様の話しとは一体何だ?
  やはり、年少の二人と、基本的な訓練しか受けていないヘリオンの事か?
  実力的に十分とは言い難い奴等を連れて来た事で、ご立腹なのか?
  来訪者(エトランジェ)の野郎がいきなり現れやがるから・・・チクショウ!?
  そのせいでセリア、ナナルゥ、ファーレーンを連れて来れなかったんだ、クソ!? 俺のせいじゃ無ぇぞ!!』

 レスティーナの背中をチラチラ見ながら、イリーナは突然呼び出された理由を模索していた。
 そして、行き着いた結論が、訓練期間が十分にも関わらず、聖矢探索と言う任務に借り出された三人の変わりに連れてきた
 基本訓練課程を修了したばかりのネリー、シアー、ヘリオンの事で、怒られるかもしれないと言う事だった。

 『こ、こんな事なら・・・ニムントールの奴を首に縄付けてでも連れて来るんだった・・・あのクソガキ。
  なぁ〜にが、”お姉ちゃんと一緒じゃなきゃ嫌”だ!? 殺すぞ! ああ!!』
 
 「・・・イリーナ」
 「ひゃ、ひゃい!」

 突然呼び止められたイリーナは、飛び上がる位驚き、声が裏返ってしまった。

 「し、失礼しました!!」

 自分の余りにも間抜けな失態に、イリーナは顔を真っ赤にしながら、その場に膝を着いた。

 「そんなに畏まらなくても、良いのですよ?」
 「そうは参りません!! 貴方様は我等の君主の盟友に御座います。
  そんな御方に部下である我等が恥を晒すなどもっての他です!!」

 レスティーナの言葉に頭を振り、イリーナはそれまでの言葉遣いを正し、何とか先程の失態を取り戻そうと
 必死に頭を下げ続ける。

 「ふぅ・・・。私の言葉を一語一句逃さず、アズマリアに伝えなさい」
 「は!」

 レスティーナの言葉にイリーナは大きく頷いて見せる。
 そして、レスティーナから語れた事実は衝撃的な物だった。
 ・・・・・・・・・。
 ・・・・・・。
 ・・・。

 「ま、誠・・・です、か」

 レスティーナの話を聞き、イリーナは呆気に取られた顔で聞き返した。

 「来訪者(エトランジェ)が・・・二人も?」

 瞳を見開き、地面を見つめたまま、レスティーナより告げられた事実を口に出し、反芻する。

 「本当です。初めて伝説の来訪者(エトランジェ)の力を目の当たりにしましたが
  凄まじい・・・の一言でした」

 まるで遠くを見つめる様な瞳で、数日前の悠人とエスペリアの戦闘を思い出すレスティーナ。

 「そ、それが事実ならラキオス王は、バーンライトに戦争を仕掛けるの・・・です、か?」

 拳を震わせながら、イリーナは問いかける。

 「恐らくバーンライトのみには、留まらないでしょう。
  ダーツイ大公国更には、帝国にさえも兵を差し向けるかもしれません」 
 『そうか、だからヒミカ達を・・・一回に五人もの配属で少しは気になってはいたが
  まさか、ラキオスにも来訪者(エトランジェ)が居たとは』
 
 レスティーナの語る予測にイリーナはなぜヒミカ達が呼ばれたかについて察しがいった。

 「・・・イリーナ」
 「は、は!?」
 
 名を呼ばれたイリーナは、返事と共に頭を下げる。

 「来訪者(エトランジェ)の訓練、更にバーンライトはラキオスより多くの妖精(スピリット)を抱えています。
  いま少しの猶予があるでしょう。イースペリアにもう一人の来訪者(エトランジェ)が居る事を悟らせてはいけません」
 「は、は!?」
 『さ、流石はレスティーナ様。もうイースペリアが来訪者(エトランジェ)を保護した事を知っているとは・・・』

 イリーナは未だ告げていない聖矢の事をレスティーナが知っている事に、その情報網に感服した。

 「一刻も早くイースペリアへと帰還し、私の言葉をアズマリア女王に伝えなさい」
 「は!? 心得ました」

 開口一番イリーナは立ち上がると身の丈よりも大きな純白の翼を広げる。

 	バサッ!?

 「失礼致します!!!」

 レスティーナに敬礼と共に翼をはためかせると残像さえ残すような速度で垂直に飛び上がり
 上空でもう一度大きく羽ばたき、風を突き破る様な速度でイースペリアへと飛び去って行った。

 『頼みましたよ。イリーナ。人、妖精(スピリット)どちらも
  私にとっては・・・そう、生きるもの全て、”民”なのですから』

 イリーナの残したハイロウのフレアの軌跡を見つめながら、己の心に語りかけた。

 「レスティーナ様!?」

 物思いに耽っていると、一人の兵士がレスティーナの元へ駆け込んでくる。

 「何事です!」

 膝まづく兵士にレスティーナは鋭い眼差しと共に、声を掛ける。

 「は! ラースに攻め入りました国籍不明の妖精(スピリット)ですが、どうやら小型エーテル施設の研究資料を持ち出し
  サルドバルト領内アキラィスに逃亡した模様。どうか、指示願います」

 一度大きく頭を下げ、兵士は事の経緯を簡潔にレスティーナへ報告する。

 「なんですって!?」

 報告を受けたレスティーナは、驚きの声と共に兵士を仰ぎ見る。

 『今から領内戦闘許可を取っている余裕は無いですし。
  かと言って、小型エーテル施設の資料となると、逃すわけには行きません・・・』

 しばし、考えを巡らしレスティーナは、木陰に一度視線を移し、目の前の兵士に向き直る。

 「分りました。
  来訪者(エトランジェ)並びに妖精(スピリット)達を討伐に向かわせなさい」

 意を決した様にレスティーナは兵士へと命令を下した。

 「は! しかし、よろしいのですか?
  アキラィスはサルドバルト領です。場合によっては、領土侵犯にもなりますが」

 兵士は王女の決定に恐る恐る進言する。

 「構いません。
  幸いにもサルドバルトは同盟国です。
  事後承諾となりますが、領内戦闘許可を求めます。
  緊急事態ですし、サルドバルトが兵を出すより、現状最も敵に近い来訪者(エトランジェ)達を向かわせるのが最も良策です」
 「は! 出過ぎた真似を致しました。
  平にご容赦を」

 王女の説明に兵士は、大きく頭を下げる。
 
 「急ぎなさい。決して逃がしてはなりません」
 「は!?」

 王女の命令を携えた兵士は、立ち上がると急ぎ前線に伝える為に駆けて行った。

 「ヒミカ、ハリオン」

 そして、兵士の姿が見えなくなると少し離れた木陰に控える五人に内二人の名を呼んだ。

 「は!」
 「はい〜」

 名を呼ばれヒミカは気合を込めて返事を返し
 ハリオンはいつも通り間延びした声で返事をし
 一歩進み出て膝を着いた。

 「・・・聞いての通りです。
  親書の用意が出来次第、直にでも出発する用意をしなさい」
 「謹んでお受け致します」
 「おまかせくださ〜い♪」
 
 王女の前だというのに緊張感の欠片も無い、ハリオンにヒミカは無言で睨みつけるも
 当のハリオンはニコニコしたままだった。

 「頼みます。お前たちも帰ってきたばかりだと言うのに、申し訳ないですね」

 二人に対して、レスティーナは本当に申し訳無さそうに、言葉を紡ぐ。

 「め、滅相もありません。レスティーナ様の命令ならば・・・国の為にこの身が少しでも役立つのなら
  私は例えマナの塵となれと言われても本望です」

 そんな、レスティーナに対して、ヒミカは真剣な真っ直ぐな瞳で王女へと自分の決意の程を言葉として発した。

 「はい♪右に同じです〜」

 隣に佇むハリオンもヒミカの言葉に同意を示す。

 「わ、私もヒミカさんと同じ気持ちです!!」
 「ネリーも〜♪」
 「し、シアー・・・も」 

 そして、後ろの佇む三人も同じく同意を示す。

 「・・・」
 『ありがとうお前達・・・』
 「直に親書の用意を致します。しばし、待機なさい」
 「は!」
 「はい〜♪」

 心の中で皆に感謝するとレスティーナは城の中へと歩を進める。

 「・・・そうだ。ネリー、シアー、ヘリオン」

 何かを思い出したのか、レスティーナは一度脚を止めると、肩越しに三人の名呼んだ。

 「今、建築士達がお前たちの住む館を建築中です。
  ヒミカ達が帰ってくるまで、暇になりますから訓練の合間に手伝う事を許可します」
 「はい! わかりました」
 「わかったー!!」
 「・・・た〜」
 
 レスティーナの提案に三人が元気よく応えるのを聞き、レスティーナはニコリと笑みを浮かべると
 再び歩行を再開した。

††††
・・・ラース・・・  「うぉおおお!?」  振り被られる大剣。  それを見た青妖精(ブルー・スピリット)は、素早く周りのマナへと語りかける。  すると、瞬く間に温度が下がり、空気中の水分が氷へと換わり一瞬にして少女は氷に覆われた。  青妖精(ブルー・スピリット)の操る上位ディフェンススキル『フローズンアーマー』である。  基本ディフェンススキルの『ウォーターシールド』に比べ高いHP効果を誇る防御である。  『この攻撃に耐え、相手の体勢が整う一瞬を狙う!?』  振りかぶられた剣が打ち下ろされる刹那の時、青妖精(ブルー・スピリット)の少女は、既に次の一手を考えていた。   ガキッ!?  剣先が氷の壁へとぶつかり、鈍い音を立てる。    『良し!?』  それを見て取った少女は、神剣を握る手に力を込め、相手が二撃目を放とうとその大剣を振りかぶる一瞬を見逃すまいと身構える。  だが・・・。 ビキ・・・バキバキ!? バキャーーーン!!!  信じられない事が起こった、男の放った剣は少しも威力を削がれる事無く、氷の壁へと突き刺さり  いとも容易く『フローズンアーマー』を粉砕した。  そして、フローズンアーマーを砕いても尚その男の剣は進むことを止めず、少女へと迫る。  「くっ!?」  少女は同様しながらも、迫り来る剣の軌道に自身の剣を重ね防御を試みる。 ガキーーーン!?  剣同士が触れ合うと、辺りに甲高い金属音が木霊する。  「やれーーー、【求め】!? 【エクスプロード】!!」  男が叫ぶと、男の手にする剣が鍔迫り合いで生まれた金属音とは別種の甲高い音を奏で、刀身が淡く輝きだす。 ドグォワ!?  少女が男の押し込もうとする力に必死に抗うのを嘲笑うかのように、まるで爆発したかのように、男の剣を中心に  青白い衝撃波が生まれ、少女を跡形も無く消し飛ばした。 ヒュオ・・・。  衝撃波によって弾かれた空気が元の場所に風となり戻ってくると、土埃を跳ね除ける。     「はぁ、はぁ!?」     芝生が青々と生えていたその場所は、そこだけ綺麗にポッカリと掘り起こされ、赤土が顔を出していた。  その同心円状に広がる地面には、一人の男が肩を大きく揺らしながら、荒い呼吸を繰り返していた。  どうやら、先程倒した妖精(スピリット)で最後だったようだ。  『ぁ・・・ぁ。こ、ころ・・・した。俺、が・・・殺し、た』  「うぉげぇ!?」 びちゃびちゃ・・・。  今まで目の前で剣を交えていた少女が跡形も無く消し飛び  少女が手にしていた剣が無数にひび割れ、地面に突き刺さるのを見た男は  腹を押さえ、手にする剣を杖代わりにしながら、その場に嘔吐した。  「ユート様!! 大丈夫ですか!?」  「あ・・・大丈夫、大丈夫だ、よ・・・エスペリア」  男・・・悠人は心配そうに駆け寄ってきたメイド風のドレスに身を包んだ緑妖精(グリーン・スピリット)のエスペリアに  薄く笑顔を浮かべながら片手を挙げ、心配無いとアピールする。  『ユート・・・様。申し訳ございません』    だが、悠人の様子は明らかに疲弊していた。  肉体的にではなく、精神的にである。  そんな、悠人にエスペリアは、唇を強く噛み締め、心の中で謝罪した。  なぜなら、悠人を戦闘へと巻き込んだのはエスペリアにも少なからず、責任があったからだ。  この日、館で休んでいた悠人とラキオスの妖精(スピリット)達にある指令が下った。  国籍不明の妖精(スピリット)達が、ラキオスとサルドバルトの国境に位置する  小さな村、ラースに潜伏し奇襲を仕掛けてきた。  制圧されたラースを奪還し、潜伏する南東部国家所属と思われる妖精(スピリット)達を駆逐するのが今回の任務である。  今回の任務に参加しているのは、悠人、エスペリア。  そして・・・。  「ユート・・・大丈夫か?」   ぴと・・・。  「あ、・・・アセリア」    青い髪、青い瞳に純白の翼を携えた少女が、悠人の額に手をやり語り掛ける。  彼女の名はアセリア=ブルー・スピリット。  帝国の妖精(スピリット)に襲われていた悠人を助け  ラキオスへと”保護”した者である。  そして、何を隠そう”イースペリアの紅の瞳リア”と並ぶ”大陸四大妖精(スピリット)”の一人で  ”ラキオスの蒼い牙アセリア”と呼ばれる程の猛者でもある。  アセリアはあまり感情を表に出さないし、無表情だから分りづらいけど  心配してくれてるの、か?  でも、アセリアの手は冷たいな、なんだか、落ち着く。    「ち、ちょっと疲れただけだ   サンキュ、心配してくれて」  「ん」  アセリアは悠人の感謝の言葉に、短く声を発し頷くと、悠人の額から手を退けた。    「パパ〜♪ ねぇ、大丈夫?」  まるで太陽の様な笑顔をした少女がヒョコリと下から顔を出す。  「オルファ。あ、ああ・・・もう、大丈夫だよ」  その少女に悠人も、先程エスペリアに向けた笑顔よりも  幾分マシな笑顔を向ける。  どうやら、少なからず、落ち着いた様だ。  この少女はオルファリル=レッドスピリット。  現在正式配属されているラキオス妖精(スピリット)隊の中で一番年下であるが  その力は、同年代の中でも群を抜いており、秘めたる潜在能力は未知数である。  そして、王城に捕らえられている、佳織の親友であり、悠人の事を父親と呼び、佳織のいない寂しさを少しでも  癒そうとする心優しく、どんな時も笑顔を絶やさぬ、元気な娘である。  「ホント? パパ元気ないから、オルファ心配しちゃったよ。でも、良かった♪   パパお仕事終わったし、早く帰って、カオリを安心させてあげよ♪」  『佳織・・・そうだ。   俺は、佳織を助ける為に、戦うって決めたんだ。   佳織は俺の家族なんだから、俺がやらなきゃいけない事なんだ。   この程度でヘコ垂れてちゃ駄目だ!俺は、戦うって決めたんだ!!』  「良し!? 早く帰ろ――」  「スピリット隊に本城から伝令」  背筋を伸ばし、心の中で自分に活を入れ、皆に向き直った時だった、一人の兵士が駆け込んでくる。  「逃亡した妖精(スピリット)は、小型エーテル施設の実験情報を持ち出した模様。   エーテル関連技術情報は、最高機密に位置する」  事務的にエスペリアに敬礼すると、兵士は背筋を伸ばし、休めの姿勢になると、声も高らかに命令を読み上げる。  「機密漏洩がないよう、妖精(スピリット)を殲滅せよ。   一体残さず、息の根を止めるように。   以上」  一方的に命令を読み上げると、手にする命令の詳細が書かれた紙をエスペリアに渡すと兵士はさっさと元来た道を駆け戻る。  先程まで国の為に、刃を交え戦っていた  悠人や妖精(スピリット)達に労いの言葉の一つも無い。  『また・・・戦うのか。   やっと、終わったと思った、のに・・・また・・・』  兵士の命令を聞いた悠人は、拳を握り締め小刻みに震えだす。  生まれて初めて体験する戦争と呼ばれる血で血でを洗う戦いに身を投じた  恐怖を噛み締めていた。     「ラースを占拠していた妖精(スピリット)は、南下しサルドバルト領に撤退したようです。   ラキオスから事後承諾となりますが、サルドバルトに領内戦闘許可を求めます。   軍事同盟国なので問題ありません。このまま妖精(スピリット)をサルドバルトから駆逐します。   アキラィスに追撃戦を仕掛けます」  命令の詳細を見て取ったエスペリアが、その場の皆に今後の方針を説明する。  「ん。分った。早く行こうエスペリア」  「は〜い♪」  エスペリアの説明を聞いた二人は、ヤル気満々。  アセリアに至っては、既に【存在】を抜きエスペリアの進軍の指令を今や遅しと待っている状況だ。  「パパ見ててね、オルファ。がんばっちゃうよ♪・・・パパ?」  オルファが嬉々とした表情で、後ろの悠人へと声を掛ける。  すると、そこには、うな垂れ恐怖に震える悠人の姿があった。   「どうした、ユート。何処か痛いのか?」     オルファの声にアセリアが視線を悠人に向け、問いかける。  『怖い。また妖精(スピリット)を殺すのか?   それに今は生きてるけど、今度は・・・』  「ユート様。無理に、戦う必要は無いのですよ?」  そんな、悠人にエスペリアが、優しく諭す様に語りかける。  「・・・それは、出来ない、よ」  エスペリアの問いかけに、悠人は震える声で何とか搾り出す。  「さっき見たいに、エスペリアが危ないのに、自分だけ見ているなんて事・・・出来ないよ。俺。   昔みたいに、何も出来ない子供じゃない。   今は・・・力が、コイツが【求め】が居る。   俺、怖いけど・・・男、だから・・・女の子だけに戦わせるなんて、出来ない、よ」  泣きそうな顔。  恐怖に震える足で、【求め】を強く握り締めながら悠人はエスペリア、オルファ、アセリアへと  決意を口にする。  決して、カッコ良くは無いかもしれない。  「分りました。ユート様は私が必ず御護り致します」  「ん。ユートの敵は、私の敵。必ず倒す」  「パ〜パ♪ オルファ敵さんいっぱい。い〜・・・ぱい! 倒すからね♪」    だが、その場に居る者達にとっては、彼を死なせてはいけない。  彼を守る為に全力を尽くす。  そう抱かせるには十分だった。
††††
・・・アキラィス・・・  「見えた・・・」  先頭に立って駆けていたアセリアが前方に見えるアキラィスの民家の光を見て呟く。  「敵・・・倒す。行く」  アセリアはアキラィスの光を確認すると速度を速め、小さく気合を入れると共に  ウイングハイロゥを広げるとまだ小さく見える街の灯りへと一目散に飛んで行った。  「アセリア!!」  アセリアのすぐ後ろに佇むエスペリアが止めようと声を掛けるが時既に遅かった。  「アセリアお姉ちゃん! オルファもいっくよ〜!?」  かたや傍らに並ぶオルファはアセリアの行動を見て、続けとばかりにスフィアハイロゥを展開し  アセリアの後を追い、エスペリアを置き去りにして駆けて行く。      「もう・・・オルファまで、ユート様仕方ありません、私達も続きましょう。   どうか、私から離れないようにして下さい」  エスペリアからやや遅れる悠人に声を掛ける。  「わ、分った」  悠人はエスペリアに了承と共に頷きを返した。  「では、行きます!?」  エスペリアも先の二人と同じくシールドハイロゥを展開し、空気の摩擦さえも遮り  速度を上げ、アキラィスへと突っ込む。  まだ、怖いけど。  自分だけ何もしないで居るなんて出来ない。  自分が正しいのかどうか分らないけど・・・。  今は自分の出来る事を・・・佳織の為に生き抜く事を考えるんだ。  「うぉおおお!? 求めぇえええ、力を!!!」  瞳を閉じ自分の中にある迷いを無理やり封じ込め  両手で【求め】を力一杯握り締め、力を引き出す。  すると、妖精(スピリット)のハイロゥとは異なり、悠人の足元に魔法陣が展開され  悠人の全身を青白い光が包み込み、力強く地面を蹴るとエスペリアにも負けない速度に加速すると、あっと言う間にエスペリアの横へと並ぶ。  『待ってろ佳織! 俺はこんな所で死なない、必ず帰るんだ!! 二人で元の世界に帰るんだ!!!』    ・・・・・・・・・。  ・・・・・・。  ・・・。
††††
   『ん? エスペリアが私を呼んだ?何故だ?   命令は敵を全て倒すこと。   悠人は疲れている。   悠人に無理はさせられない。   だから一刻も早く敵を倒し、悠人を休ませる。   悠人の分も私が倒すのは当たり前。   うん・・・私は間違ってない』  アキラィスへと更に速度を上げて突き進む。アセリアはアキラィスの灯りを見つめながら  自分を呼び止める様にエスペリアに名を呼ばれた事に対して疑問を抱くも  考えを巡らせし、自分のとった行動が間違っていない事を再確認する。  命令がどうと言う前にアセリアは自分の行動が全て悠人中心である事に全く気づいていなかった。   「居た」  見つめる先に三体の敵をその目に捉えるアセリア。  「ん。【存在】よ・・・私に力を!」  右手に握っていた剣型永遠神剣【存在】を両手に握り直し、大きく振りまぶる。 チャキ!  「インパルス――ブロウ!!」    純白の翼を大きくはためかせると、アセリアは一筋の光の軌跡を残しその場からまるで消えたかの様な加速で  敵へと突っ込んでゆく。  インパルスブロウ・・・青妖精(ブルー・スピリット)の操る上位アタックスキル。  基本アタックスキルのリープアタックにハイロゥの力を利用し、剣そのものを加速させる技。  一直線に突き進む突進力は、相手の出鼻を挫き、先制するにはもってこいの技である。    「ていやぁあああ!!」 ズドバー!!  敵ディフェンダーへと雄叫びと共に肩口に袈裟懸けに切りかかるアセリア。  半ば奇襲の様な攻撃は、敵に防御の暇を与えず。  敵の緑妖精(グリーン・スピリット)はあっと言う間にマナの塵へと返された。  「て、敵!! てきしゅ―――」   バヒュ!!  「ふっ!!」  アセリアがディフェンダーを消し去り残りの二人はラキオスの妖精(スピリット)達が攻め入って来た事にようやく気づく。  一人が敵の進入を周りへと知らせようと、叫ぶのも束の間、アセリアは翼を大きく広げ突進する。   バゴンッ!!  爆風と共に【存在】を真横に振りぬくと、敵妖精(スピリット)の首から上がザクロの様に吹き飛ぶ。 ぶしゅぅううう!!  アセリアのリープアタックによって生じた突風に首の取れた妖精(スピリット)の亡骸が後方に倒れ込みながら  頭を失った首から真っ赤な血が噴水の様に吹き出し、地面をアセリアを紅に彩る。    「ぅ、うああああ!!」  「はぁあ!?」  慌てふためく残りの一人に【存在】を大きく振り上げながら瞬く間に肉薄する。  残った妖精(スピリット)が防御しようと神剣を翳すも間に合わない。 ばしゃっ!?  だが、アセリアの剣は同時に展開した水の壁に遮られる。  青妖精(ブルー・スピリット)の基本ディフェンススキル。ウォーターシールド。  青妖精(ブルー・スピリット)が水の妖精と呼ばれる所以を象徴するかの様な技だが  防御として使うには、少し心許無い。それに、彼女が相手にしているのは並の妖精(スピリット)では無い。  「はぁぁあ・・・」 ずぶずぶ・・・。  水の壁に遮られながらもアセリアは握り絞める【存在】に力を込め押し込もうとする。  すると、徐々に水の壁を切り裂いて行く。  「・・・てぃやあああ!!」 ばしゃ!?  カッと両の目を見開き押し切ると水の壁を突き破り【存在】を振り切る。 バギャーーーン!!!  水の壁を突き破る為に込めた力の威力は止まらず、敵の頭から肉を、骨を切り砕きながら一刀両断し  【存在】は地面へとぶつかり、衝突共にしたかの様に地面を砕き。  その場に居た三人もの敵妖精(スピリット)を切り伏せた。  その所業は正に獣。  ラキオス最強の剣士にして、大陸四大妖精(スピリット)”蒼い牙”の異名も持つ意味と強さが伺え知れた。   ピピィーーー!?  一部隊を瞬く間に切り伏せたアセリアは、【存在】を手にする腕で、顔に付着した血を拭う。  すると、甲高い笛の音が響く。  それは、敵襲を知らせるモノだった。  笛の音を聞いた敵妖精(スピリット)達がゾロゾロと手に手に神剣を持ち  アセリアへと向かってくる。  「ん。来い・・・」  それを見たアセリアは【存在】を握り締め腰の高さまで下げると、半身となって構えを取る。  その時・・・。 ザザーー!?  「オルファ、さんっじょぉ〜〜〜♪」  アセリアの横で急ブレーキを掛け停止するとオルファ。  現れるなり迫り来る敵に向かってピースサインを送りながら、嬉々としてポーズを決める。  「だめだよ〜。お姉ちゃん、一人でじゃあぶないよ?」  「ん。すまないオルファ」  構えを取るアセリアの横で、笑顔で見上げながら先に行ってしまった事を注意するオルファ。  それに対してアセリアは、無表情のまま謝罪した。  「うん! 次からは気をつけてね?    それじゃ、いっくよっ〜〜〜っっっっ!」 ガツ!?  アセリアの返答に対してオルファは大きく笑顔で頷くと地面に【理念】を突き刺し、両手を突き出す。  「【理念】のオルファリルが命じる。   その姿を燃えさかる火炎へと変えよ!」   迫り来る一部隊に向けて狙いを定めると、オルファは神剣に祈りを捧げる。  【理念】の前面に魔法陣が広がり、赤く輝く。    「アークフレア!」  光が臨海に達したと同時にオルファはその光を解き放つように叫ぶ。   シュゴォオオオ!!  まるでその声に応える様に、魔法陣は炎と変わり二つの炎の塊が敵部隊から数十メートル離れた位置に顕現し  二つの炎は敵を取り囲むように左右対称に円を描いて行く。   ズドオオーーー!?    二つの炎が完全な円を描き、敵部隊を結界に閉じ込める。  それと同時に火山が噴火したかの様な炎が立ち上り敵を業火に包み込んだ。  断末魔の叫びを発しながら蒸発して行く妖精(スピリット)達・・・。  炎が治まるとそこには黒焦げた大地以外何も存在していなかった。  「アセリア! オルファ!?」  「あ。エスペリアお姉ちゃん! パパ〜♪」     オルファが敵を消し去ったと同時に遅れていた悠人とエスペリアが合流する。  「アセリア!! 言いたいことは山ほどありますが、今は敵を殲滅させるのが先決です」  「ん!」  合流するなりエスペリアは勝手な行動を取ったアセリアを睨みつつも、迫りつつある敵を前にして【献身】を構える。  「ユート様は下がって下さい!! 行きますよ。アセリア!? オルファ!!」  「分った。【存在】よ・・・力を」  「うん! オルファにおっまかせ〜〜♪」  エスペリアは大声を張り上げ、悠人を下げると敵へとアセリア、オルファを伴い突っ込む。  「あ、みんな! お、俺はどうすれば・・・」  一人取り残される悠人。  悠人は、自分はどうして良いか分らず、アタフタしたまま、置き去りにされた。  ・・・・・・・・・。  ・・・・・・。  ・・・。  「食らえぇええ!!」 ガキーーーン!?  「んっ・・・くぅ。・・・ちょっと、痛い」  『フローズンアーマー』を纏い、敵の攻撃を受け止めたアセリアがたたらを踏む。  「アセリア、動かないで!?」 ボヒュッ!?    顔をしかめ『フローズンアーマー』を解いたアセリアの耳にエスペリアの声と共に、肩越しに頬を掠め  エスペリアの【献身】の一突きが敵へと伸びる。     「やらせるか!?」  だが、敵も易々に攻撃を食らわせはしない。  アセリアに攻撃を加えた青妖精(ブルー・スピリット)を守る様に  緑妖精(グリーン・スピリット)が進み出る。 ガギィン!?  「・・・私の動きを見切れますか?   見切れないなら・・・。これで、終わりです! 【ライトニングストライク】」  初撃を防いだ相手にエスペリアは、挑発するかの様に呟くと同時に一息に全体重を乗せるように  踏み出すと同時に高速の連撃を放つ。 ズバババ!?  「ぐぅ!? た、盾が・・・もた、ない!!」  エスペリアから繰り出される重い一撃一撃に耐えながら、その余りの衝撃に毒づく。  ライトニングストライク・・・。  それは、緑妖精(グリーン・スピリット)の操る上位槍技。  凄まじい加速により大気の摩擦から発生した、その雷の力を刃に乗せる槍技は  全力で貫くため、多様は出来ないが敵の防御を崩し、打ち砕く確かな威力を持っていた。    「はぁあああ!?」 パキーーーン!?     気合と共に放った雷を纏う刃を受け、敵ディフェンダーの敷く防御結界を打ち砕く。  「今です。オルファ!?」  敵の盾が砕けたのを見て、オルファの名を叫びながら真横に飛び引くエスペリア。  「いっくよぉぉ〜♪   まっすぐ、ずばばーんっていっくよぉ〜〜♪ 【ライトニングファイア】!!」 ズババババーーン!?  アセリア、エスペリアから幾分離れた後方から既に攻撃の準備が整っていたオルファは、エスペリアの合図と同時に  炎を召喚する。    「うぅ・・・。ぁああああ!?」  オルファの強力な炎を全くの無防備で受けた妖精(スピリット)は、民家ごと吹き飛ばされる。  オルファの炎がその威力を弱め、マナへと帰ると、真っ黒に焦げた槍型永遠神剣が民家の壁へと突き刺さっていた。  ライトニングファイア・・・。  赤妖精(レッド・スピリット)の操る炎の中でもディフェンダーをピンポイントに狙う炎である。  マナの使用量も多いが、威力はもの凄いものがある。正に必殺と呼べる一撃だが、敵ディフェンダーがいない場合は召喚不可能な攻撃魔法である。  「アセリア!? 右!?」  「分った」  敵ディフェンダーが消え去ったのを見て、エスペリアがすぐさまアセリアへと指示を出し。  二人は残る妖精(スピリット)二体に向かって二手に分かれる。  「はぁぁぁぁっっ!!」   「やぁぁぁぁぁっっ!!」  守りの要を失い、右往左往する二人の敵妖精(スピリット)。  だが、戦場に置いて、その行動は・・・ラキオスでもトップレベルの実力を誇るアセリアとエスペリアには、圧倒的な隙を生じさせるものだった。  「パワー・・・ストライク!?」   ズドーーーン!?  大気の力を【渾身】の一撃に乗せて放たれる一突きの槍撃。  全体重を乗せ、深々と突き刺さる【献身】だが、エスペリアはまだ止まらない。  敵を突き破るかの様に未だ攻撃の手を緩める事無く突き進むみ。  【献身】に貫かれぶら下がっていた妖精(スピリット)がマナの塵へと消える事で  ようやくエスペリアはその突撃にブレーキを掛け停止する。     「フューリー!!」 ドバーーーン!?  【インパルスブロウ】をしかけた後、ハイロゥの力をすべて神剣にのせて叩きつけるその剣技。  龍の怒りに例えられるほどの威力を持つ剣技の威力は凄まじく、爆発的な突進力と共に放たれた横薙ぎの一撃は  敵を竜巻に巻き込まれたかの如く上空高く舞い上げる。  舞い上げられた妖精(スピリット)は地面に叩きつけられる事無く  上空でマナの塵へと替わり、フューリーによって巻き起こされた風に散り散りになった。  す、すげぇ・・・。  あ、あれだけいたのに・・・。 何をして良いか分らず、あたふたしている内に  目の前で敵妖精(スピリット)が  次々とマナの塵へと消えて行くさまを見つめていた悠人は  エスペリアの冷静な戦闘運び。  アセリアの圧倒的な攻撃力。  オルファの凄まじい攻撃魔法を見せ付けられ、正眼の構えのままカタカタと震えだした。  『お、終わった? もう・・・終わった、のか?』  視線だけを彷徨わせ、周りにもう敵が見当たらない事を確認する悠人。   キーーーン!?  『まだだ。契約者よ!?』  視界に敵らしき者達が見あたらず、少々安心した時だった。  手にする【求め】が甲高い音と共に注意する。  「ぐわっ!?」  突然。頭に鳴り響いた【求め】の声に悠人は顔をしかめ、膝を着いてしまった。  「パパ!? どうしたの!!」  悠人が苦しそうに膝を着いたのを見て、オルファが心配げに駆け寄って来る。  「ユート様!?」  普段なら目の前の敵を倒しても神剣の気配を探るのだが  悠人の様子にエスペリアは、その事が頭からスッポリと抜けていた。  「どうし―――!?」 キラ!?  「っ!? エスペリア!!」  暗がりで、赤い光が一瞬光ったのを見て、アセリアは珍しく大声を張り上げる。  「え?」 ズドーーーン!?  「きゃぁあああ!?」  一筋の赤い光がエスペリアに向けて伸び、触れた瞬間だった。  その光はエスペリアのマナに触れると凄まじい炎へと換わり、エスペリアを吹き飛ばした。   「っ!?」  奇襲の様な攻撃。  吹き飛ぶエスペリアを見た、アセリアは先程攻撃して来たと思われる  赤い光が見えた方向へと振り向く。  すると・・・。  「・・・ダブルスイング」  何処からとも無く現れた、真紅の髪と瞳。   漆黒のスフィアハイロゥを従えた赤妖精(レッド・スピリット)が目の前に剣を振りかざしていた。 ズババッ!?  「あ、ぐ・・・。」  突然の事にさしものアセリアも反応する事が出来ず、十字に切り裂かれ  口から血を出しながら、崩れ落ちる。  「アセリアお姉ちゃん!? これ、あっついんだからぁっ!」  無残にも切り伏せられた姉の姿を見たオルファは、怒りの表情を浮かべると  謎の赤妖精(レッド・スピリット)へとファイアボールを放った。  「・・・・・・」  赤妖精(レッド・スピリット)はオルファのファイアボールを前にしてスッと腕を前に差し出す。   ズドーーーン!?  「やった〜♪ 大当たり〜〜♪」  赤妖精(レッド・スピリット)に見事に命中したのを見て、オルファは小躍りして喜ぶ。  「オル・・・ファ・・・逃げ、ろ」  「え? パパなにか言った?」     だが、そんなオルファに悠人は、頭を抑えながら苦しげに呟く。  オルファは、悠人の声が良く聞き取れなかったらしく、身を屈め聞き返す。  「・・・にげ、ろ!」  「え? なんで? アイツならやっつけたよ?」   ブオッ!?  オルファが、笑顔で悠人に語りかけるとオルファの背後で突風が巻き起こり、オルファは何事かと思い振り返る。  「え!? なんで! なんで!? ばっちりめいちゅうしたのに!?」    オルファの視線の先には、顔に少々すすを被っているものの、ほとんど無傷な赤妖精(レッド・スピリット)が立っていた。    「うぐっ!・・・オルファ・・・逃げ、ろ」  再び、オルファへと逃げる様に言う悠人。  その額には薄っすらと汗をかき、どうも様子がおかしい。  まるで、何かを一生懸命耐えているかのようだ。  「だ、だいじょうぶ! パパは、オルファが守るから!!」  自分の身を案じて、言っているのだろうと思ったオルファは、ニコリと笑いかけ宣言する。  だが・・・。    「ち、ちがう! 俺から・・・逃げろ!?」  「え?」  怒鳴るようにオルファへと叫ぶ悠人。  オルファは、何を言っているのか分らず、首を傾げた。  「も、う・・・。抑えられ、ない」  「え? え?」  訳の分らない悠人の言動に、オルファは半ば混乱した。  「あ! パパ剣が・・・光ってる」   キーーーン  「ぐああ!?」  「パパ」  『マナを・・・マナを・・・』  『お、大人しくしろ!? 【求め】!』  『足りぬ! まだ、足りぬ!?・・・今の我の力では”奴”には勝てぬ』  『”や・・・つ”?』  『マナが・・・マナがいる!? 契約者よ目前の妖精を殺し、我の糧としろ!!   ”奴”を・・・奴を砕く為に、我の血肉としろ!!』  「ぐわぁああああ!?」  「パパーーー!?」  今まで苦しげに頭を抱えていた悠人の瞳がカッと見開かれると  大地を打ち砕く様な勢いで悠人は加速すると、赤妖精(レッド・スピリット)へと切りかかっていた。  「っ!?」  蝋人形の様な赤妖精(レッド・スピリット)の顔が初めて歪む。  獣の本能だろうか、迫り来る悠人の纏う空気が尋常では無いと悟った様に、自身の周りに熱波の壁を形成すると共に  体を抱くように両腕をクロスし神剣も防御にまわす。 ガドーーーン!!?  まるで熱波の壁がバターの様に切り裂かれ、【求め】が赤妖精(レッド・スピリット)の手にする神剣にぶつかると  爆発したかの様に、吹き飛ばされる。  「はぁ! はぁ! はぁあああ!?」 ブゥオオオオオ!?  【求め】を握る右腕、何も持た左腕を力一杯握りしめ、空に向けて叫ぶ。  雄叫びと共に開放される力。  衝撃波により、周りの家屋は揺れ、木々はざわめく。 ズドーーー!?  そんな中、青い火球が悠人めがけ家屋を吹き飛ばしながら襲い来る。  「かあ!?」 バコン!?  気合と共にその火急を左腕で裏拳を食らわせる様に払いのける。  それだけで、火球は軌道を外れ、真横に佇む民家へと吹き飛ばされる。 ドゴーーーン!?  火球を打ち込まれた民家は炎に包まれ、爆砕する。  それをスタートの合図の様に、三つの家屋を壁を突き抜けた赤妖精(レッド・スピリット)は、上空へと飛び出す。  「があああ!?」 ズド!?  悠人も赤妖精(レッド・スピリット)を追うかのように地を力強く蹴ると  上空に身を投げる。 ギーーーン!?  上空で青白い光と真紅の光が交差し、金属音が木霊する。   ズシャ!? ザシュ!?     二つの影がほぼ同時に、地面に降り立つ。    「うぉぉぉぉっ!!」「あああああ!?」  同時に振り返り、共に一足飛びに距離を消し、【ヘビーアタック】を放つ悠人。  悠人の攻撃に対して【トリプルスイング】で迎撃する赤妖精(レッド・スピリット)。   ガガガガッ!?  「かっ!?」「はっ!?」  両者は、何合も紡ぎ会いう。  そして、気合と共に悠人は体重を存分に乗せ、【求め】を振り下ろす。  赤妖精(レッド・スピリット)も、遠心力を利かせて、神剣を振り上げる。   ガギィーーーン!?  「ぐわ!?」「ぎゃっ!!」  剣同士がぶつかり合うけたたましい音を残し、両者は弾かれた様に左右に分かれ  共に家屋の壁を吹き飛ばし、身を沈める。 バゴーーーン!?  「だぁあああ!!」「がぁあああ!?」  だが、共に家屋を吹き飛ばしながら、再び飛び出してくる。  再びお互いに剣を振るう。     「エクスプロード!!!」 ドゴーーーン!?       だが、今度は先程の様な紡ぎあいは起こらなかった。  悠人の振り下ろされた剣が相手に剣に触れた刹那、爆発した様な衝撃波を生み出し、赤妖精(レッド・スピリット)のみが再び家屋へと吹き飛ばされた。  「ハァ!?」  それを見た悠人は、さも嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。  「殺して・・・やる」 ザッザッ・・・   赤妖精(レッド・スピリット)の吹き飛んだ家屋へと悠人は、【求め】を肩に担ぎながらゆっくりと歩を進める。  「・・・イグニッション」 ドグワァアアア!?  「ぬがぁああ!?」   ドカーーーン!?  悠人が家屋にポッカリと空いた穴に手を掛け、中に入ろうとした時、まるでそれを待ちかまえていたかのように  赤妖精(レッド・スピリット)の神剣魔法が発動し、今度は悠人が吹き飛ばされた。  ・・・・・・・・・。  ・・・・・・。  ・・・。
††††
 「パパ!?」  悠人が家屋へと吹き飛ばされたのを見て、オルファが悲鳴のように叫ぶ。  「ぅ・・・オル、ファ」  「ア、アセリアお姉ちゃん!? パパが! パパが大変だよ!?」  先の赤妖精(レッド・スピリット)の攻撃を受け、気を失っていた  アセリアが、戦闘による轟音とオルファの声に目を覚まし、起き上がる。  「ユ、ユートがどうし、た?」  助け起こしてくれるオルファの悲痛な表情を見たアセリアが、聞き返す。  「ぱ、パパが!パパの剣が光って、そしたら、アイツが吹き飛んで、でもでもパパも、吹き飛んで!あいつが!!」  要領を得ないオルファの説明に、アセリアは傷口を押さえながら、首を傾げた。  「ユート様、が。戦っているの、ですね? オルファ」  その時、火傷した右肩をダラリと下げ、足を引きずりながら、【献身】を杖代わりにしたエスペリアが現れる。  「ゆ、ユート、が。ゲホッ!!」  エスペリアの口から漏れた、悠人が戦っていると言う一言に、反応し、身を起こそうとしたアセリアが吐血する。  「お姉ちゃん!?」  「アセリア! す、直ぐに回復を・・・」  「い、いい。わ、私よりも、お前は自分の回復をしろ、エスペリア」  アセリアはエスペリアの申し出を、右手を出し遮りエスペリアの傷を指差す。  「こんな時に何を言ってるんです! 私よりもあなたが重症なんですよ!!」  「いい。大丈夫だ」  エスペリアの妹や、子供を叱り付けるような言葉に、耳を貸さず首を振るアセリア。  「いい加減に―――!?」   ドゴーーン!?  二人が言い争いをはじめようとした時、悠人が吹き飛ばされた家屋から一直線に突き進む巨大な炎が噴出してきた。  思わず、エスペリア、オルファ、アセリアは、そちらに視線を投げる。  すると・・・。  「ユート!」  「ユート様!?」  「パパ〜!?」    
††††
  ガラガラ・・・。  「ゲホッ! ゲホッ!?」  先程、吹き飛ばされた悠人は、瓦礫を押しのけ立ち上がる。  そして、口元の血の跡を拭う。  「ぅ・・・俺は、一体・・・」  今の攻撃で、【求め】はダメージを受けたのか、肉体の主導権が再び悠人に戻る。  「そ、そうだ! 俺は、あの赤妖精(レッド・スピリット)と――!?」  頭が疼く様な痛みに、記憶が繋がら無かったが、ようやく【求め】に操られ、赤妖精(レッド・スピリット)と戦闘を繰り広げていた事を思い出す。  その時・・・。   ドガーーーン!?  「な!?」  壁を突き破り。  額が割れ血を流し、右腕を吹き飛ばされた赤妖精(レッド・スピリット)が現れる。   「がぁ!?」  光を宿さぬ瞳が悠人を捉えると、赤妖精(レッド・スピリット)は、神剣を振るい  悠人に攻撃を仕掛ける。  「わ、わぁあああ!?」 ブゥ・・・・ン  それに対して、悠人は【求め】を強く握り締め、頭をかばいながら防御陣を敷く。   ギン! ギィン! ガギーーン!!  「うぁぁぁっ! 駄目だ、このままじゃ・・・」    最後の一撃で、防ぎはしたものの足に力が入らず、床に尻餅をついてしまった。  「ぐぅ・・・」  苦しそうに何とか上半身を起こし、赤妖精(レッド・スピリット)を見ると  そこには、世にも恐ろしい光景があった。  「マナよ、力となれ。   敵の元へと進み・・・叩き潰せ」  「わ、わぁあああ!? マ、マナよ、我が求めに応じよ!! オーラとなりて、守りの力となれぇええええ!? レジストッ!!」     キキーーーン!?  炎を召喚しようとする赤妖精(レッド・スピリット)を見た悠人は青ざめた顔で  必死で抵抗のオーラを展開した。  「インシネレート」       ドゴォオオオオ!?  ギリギリだった。  抵抗のオーラを展開したとほぼ同時に火炎放射の様な強力な炎が至近距離で召喚され、悠人を家屋諸共屋外に吹き飛ばす。  「ぐわーーーーーっ!?」   ベシャ!?  吹き飛ばされ、地面に頭から激突する悠人。  薄れる意識の中、何処からか自分を呼ぶ声が聞こえた気がした。
††††
 「オルファ。私を、支えて、いろ」  「え、え?」  地面に仰向けに倒れた悠人。  それを追うように半壊した家屋から這い出てきた赤妖精(レッド・スピリット)を見たアセリアは、オルファに  自分の身を預ける。  「は、早く」  「わ、わかったよ〜・・・」  オルファは不思議そうな顔をしながらも、アセリアの背に手を回し、アセリアの身を起こしてやる。  「え、エスペリア。ユートを」  「わ、分かっています!!」  アセリアが今度は、エスペリアに何事か頼もうとするが、エスペリアはアセリアが言うよりも早く神剣を構える。  ・・・・・・・・・。  ・・・・・・。  ・・・。  「ぅ・・・ぅぁ」  朦朧とする意識の中、剣で体を支えながら立ち上がり、正眼に構えてみせる。  だが、視線は焦点が合わず、体は左右前後にゆらゆらと揺れていた。  「はぁ・・・。はぁ・・・。ライトニングファイア」  疲れた顔で敵の赤妖精(レッド・スピリット)が残りの力を振り絞り  炎を召喚すると、その炎は悠人の急所めがけ一直線に突き進んだ。  「紡がれる言葉。そしてマナの振動すら凍結させよ。   アイスバニッシャーッ!」 ガシャーーン!?  悠人に当たるか当たらないかの刹那、何処からともなく紡がれる呪文。  悠人の周りに存在するマナはその呼び声に答え、赤妖精(レッド・スピリット)の放った。  ライトニングファイアを氷つかせ、砕いた。  「っ!?」  赤妖精(レッド・スピリット)は声のした方向に振り返り  鋭くにらみつける。  その視線の先にはオルファに支えられ、赤妖精(レッド・スピリット)に向かって  【存在】を突き出すアセリアの姿があった。  「・・・」  だが、そんなアセリアに対して、赤妖精(レッド・スピリット)の少女はニヤリと薄気味悪い笑みを浮かべる。   ブン!?  そして、神剣を悠人めがけ投げ放つ。  神剣は、棒立ちの悠人の首を落とそうと、鋭く回転しながら向かっていった。 ガキーーン!?  だが、その神剣は悠人に届く前に何者かが張った防御陣に防がれる。  赤妖精(レッド・スピリット)の放った神剣は無常にも悠人の足元へと突き刺さった。  「〜〜っ!?」  悔しそうに、歯軋りしながら赤妖精(レッド・スピリット)は、アセリアの隣で【献身】に祈りを捧げるエスペリアを睨むのもそこそこに  神剣を拾おうと駆け出す。  「オルファ、頼む」「オルファ。お願い、ユート様を」  二人の姉は、残るオルファに全てを託すとその場に崩れ落ち、意識を失った。  「お姉ちゃん達!? よ、よっくもやったな〜〜!?   マナの支配者である神剣の主として命ずる。   渦巻く炎となりて敵を包み込め!」    姉達を苦しめた怒り。最愛の悠人を傷つけた怒り。  その怒りにオルファは、肩を震わせながら呪文を叫ぶ。  ・・・・・・・・・。  ・・・・・・。  ・・・。  『ここは、どこだ?』  悠人は、朦朧とする意識の中不思議な空間に立っていた。  そこには何も無く、ただ真っ白な大地と、真っ白な空が広がるだけ  そう、まるで白い草原に居るようだった。  『なんだろう? すごく・・・居心地がいい』  音、温度、何も感じず、白以外何もない空間。  だが、不思議と悠人は今まで感じた事の無い、不思議な心地よさを覚えていた。  『俺。何でこんな所にいるんだろう?』  『ユート』  誰だ?  誰かが俺を呼んだ?  悠人が疑問の浮かべた瞬間。  悠人の耳に聞き覚えのある声が一つ。  『ユート様』  また、一つ。  『パパ』  そして、また一つ。  アセリア・・・?  エスペリア?オル、ファ・・・。  何処だ?皆何処にいるんだ?  『お兄ちゃん』  佳織・・・。  そうだ。  帰らなきゃ。佳織の所に帰らなきゃ。 キーーーーン。  帰りたい。戻りたい。  純粋にただそれだけを願った時・・・。  純粋な願いが、悠人の手に力となって現れる。  それは、剣。  ただ一振りの剣。  純粋な願いから作られた大剣。  その青白く輝く剣を悠人は両の腕でしかっりと握り締める。   ポゥ・・・。  すると、目の前に赤い光の球体が突然姿を見せる。  悠人は、その光が現れてもなんら疑問を浮かべる事は無かった。  自分が何をするのか、不思議と理解できた。  何も考えず。  何も思わず。  ただ、その光めがけて、手にする巨大な剣をまっすぐに振り下ろす。 シュン・・・!?  軽く振るったつもりだった。  だが、それは、今までよりも格段に速く。鋭く。真っ赤な光の玉を切り裂いた。
††††
   「オーラ・・・フォトン・・・ブレー、ド」 ズドーーーン!?  悠人の放つ剣は、身の丈十メートルはあろうかと言う巨大なオーラフォトンの剣を形成し  その一撃は、一瞬で赤妖精(レッド・スピリット)を一刀両断し大地をも切り裂いた。  「―――――!?」  巨大なオーラの剣が家屋、大地、赤妖精(レッド・スピリット)諸共一刀両断した後  その横合いから真っ赤な巨大な炎が赤妖精(レッド・スピリット)目掛け突き進む。  断末魔を上げる暇さえ与えず。  赤妖精(レッド・スピリット)はマナの塵と消えうせた。 ドサッ!?  「パパ〜〜!?」  見たことも無い一撃を放った悠人は、巨大なオーラの剣が消えると同時に全ての力を使い果たしたかの如く、うつ伏せに地面に倒れた。   

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