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・・・ラキオス王宮、城門・・・

 既に日も落ち暗くなり始めた頃・・・。
 ラキオス王都を目指していたイリーナ率いる六人はようやく城門へと辿り着いた。

 「づ〜い〜だ〜・・・」
 「づ〜か〜れ〜だ〜」

 城門に差し掛かると、ネリーとシアーの二人が、情けない声を挙げる。

 「ったく! 情けないぞ? お前等・・・」

 そんな二人を横目にイリーナは、おもむろに服の中に手を突っ込むと
 そこから五人の譲渡に必要な書類を取り出した。

 「ちょっ! イリーナさんどこから出してるんですか!?」

 未だに眠り続けるヘリオンを背負ったヒミカが顔を朱に染めて抗議する。

 「るせ! ここなら無くさないんだよ!! オイ!
  イースペリアからラキオスへ妖精(スピリット)を届けに来た」  

 ヒミカの抗議を一蹴しながら、手にするアズマリア女王のサインの入った書類を門番の兵士の眼前に突きつける。

 「ちっ・・・了解した。謁見の間に案内させるからしばし待て」

 兵士は面倒くさそうに舌打ちすると、事務的にイリーナ達に待つように命じると
 仲間の兵士に王城内に報告に行くように催促する。

 「はぁ・・・やっとこれで俺もヤサに帰れるぜ」

 五人の元に歩いてくるイリーナは、肩の荷が降りたと言わんばかりに背伸びをした。

 「ど〜もありがとうございました〜♪ イリーナさ〜ん」
 
 そんなイリーナにハリオンがニコニコとお礼を言う。

 「本当に今まで、ありがとうございました。イリーナさん」
 「ありがと! イリーナ!?」
 「あ、ありが・・・とう・・・」

 ハリオンに習うように残りの三人もそろってイリーナに礼を言う。 

 「・・・ちっ! 起きろヘリオン!?」

	ガツン!?

 それを聞いたイリーナは、何処か居心地わるそうに頭をガリガリとかき、ヘリオンをゲンコツでたたき起こす。

 「イタ! あ、あれ・・・ここどこですか?」
 「ラキオスだ。ついさっき着いた」
 「え?・・・え? ええーーー!!」

 イリーナの言ってる意味が分らなかったらしく、不思議そうに周りを何度も見渡し
 目の前にそびえる見覚えのある城門を見てようやく自分がどこにいるか理解したヘリオンは、驚きの声を挙げた。

 「るさい!!」

	ガツン!!

 ヘリオンのあげる奇声に理不尽に怒ったイリーナは、再びヘリオンの頭を叩く。

 「あひっ!・・・痛いです〜」

 イリーナのゲンコツを食らい、一度肩を竦ませて、涙目で頭をさするヘリオン。

 「ヘリオン=ブラック・スピリット!」
 「は、はい!」
 
 そして、突然フルネームでヘリオンの名を叫ぶイリーナ。

 「ヒミカ=レッド・スピリット!」
 「・・・はい!」

 次いでヒミカに向き直り名を叫ぶ。

 「ハリオン=グリーン・スピリット!」
 「はい〜!」
 「ネリー=ブルー・スピリット!」
 「ほ〜い!」
 「・・・ん! シアー=ブルー・スピリット!」
 「は・・・はい」

 ネリーの気の抜けた返事に一瞬、額に血管が浮かぶが、何とか我慢し気をとり直すようにセキをするとシアーの名を呼ぶ。
 この場にいる全員の名を呼び終わり、ゆっくりと全員の顔を見渡すイリーナ。

 「あ〜。この後になるともう言う機会が無くなるから今言っとく。
  この後の譲渡調印を持ってお前達は、栄えあるラキオス妖精(スピリット)隊の一員となるわけだが・・・。
  即ちそれは同時に、俺達は”龍の魂同盟”の外敵に対して、肩を並べる”同士”となるということだ」

 イリーナのその口上を聞き、皆何かを察したのか佇まいを正し、後ろに手を回し休めの姿勢になり、イリーナの声に耳を傾ける。

 「・・・戦士としてより一層の努力を続けろ!・・・おめでとう」

 今までの厳しい顔を緩ませ、五人に優しく微笑み、賛辞を送るイリーナ。
 イリーナの言い分の意味するところ・・・それは、五人とイリーナの別れを意味していた。

 〔ありがとうございます!?〕

 それに対して、五人は声を揃えてイリーナに礼をする。

 「総員! イースペリア妖精(スピリット)十二妖精部隊(ヴァルキリーズ)!!
 【気合】のイリーナ=ブルー・スピリット殿に敬礼!?」
 〔はっ!!〕

 	ザザッ!!

 ヒミカの掛け声を合図にイリーナに対して最敬礼を送る五人。
 それぞれの胸に去来する物があるのだろう・・・。
 敬礼する五人はそれぞれ瞳に涙を溜めていた。
 そして・・・。
 
 「・・・ぐす。ははっ・・・いけない、な。年取ると涙もろくな、て」

 それは、イリーナも同じらしくその目は、美しい青い瞳の周りは、正反対に赤くなっていた。
 
 「・・・王女様がお会いになる」

 それを何処か喜劇を見るように見つめていた兵士が、冷ややかな目で六人を見ながら城門を開け、入るように促す。

 「お、おう! 行くぞ、テメェ等!?」
 〔はい!!〕

 五人は今一度イリーナに大きな返事を返し、先を歩くイリーナに続くように歩いて行った・・・。

††††
    ・・・イースペリア、デオドガン駐屯所・・・ ザパッパーーン!!  「ぷあ!?」  聖矢は勢い良く桶でを頭上でひっくり返すと、重力に引っ張られた大量のお湯が頭に降り注ぐ。  市場で偶然とは言え、二人の妖精(スピリット)を助けた聖矢が  その後二人に拉致されて連れて来られたのは、デオドガンが所有するイースペリアの10人は泊まれそうな豪華なコテージだった。  何時も大陸各地を放浪し、商品を売り買いするデオドガンは各国に人間用、妖精(スピリット)用の宿やコテージを幾つも所有していた。    「お兄さ〜ん! 湯加減はどーですかー!!」  浴場の外からシャオの元気な声が響く。  どうしても聖矢に礼をすると言って聞かない二人の主張を  聖矢は渋々ながら了承し、まずは降り注いだビールを落す為に風呂をもらう事にしたのだ。  「ちょうど良いぞー!! どだ、一緒に入るか?」  「え!? そ、の! あの・・・お望みなら・・・」  「・・・冗談だバカ」  冗談で言った一言にアタフタしながら今にも入って来そうなシャオに、聖矢は速攻で謝った。  「え!?・・・そ、そう・・・ですか。はぁ〜」  聖矢の謝罪にシャオは残念そうに溜息を吐くと脱衣所から遠ざかっていった。  「・・・マセガキめ」 ブクブク・・・。  体を洗い終わり湯船に入った聖矢は、シャオに呆れながら湯船に身を沈めていった。  ・・・・・・・・・。  ・・・・・・。  ・・・。  「あ、お姉ちゃん。準備できたの?」  「ええ。でも本当にこれだけで良いのかしら?」  二人が聖矢に対して・・・。    「必要な物や、夜伽でも、何でも申して下さい・・・お金はちょっと困りますけど」  と言った二人に対して聖矢が所望したのは、極有り触れたものだった。    「ふぅ〜。さっぱりした! ありがとよ」    そうこうしている内に聖矢が風呂から上がってきた。  「あ、今しがた準備が出来た所です」  「お! ありがと」  テーブルに並べられた料理と酒を見て顔を緩ませる聖矢。  聖矢が二人に要求したのは美味い飯と酒だった。  食事を所望したのは至極当然の理由・・・。  日頃アルフィアの不味い料理ばかりを食べさせられている為、異世界の美味しい料理を食べたくなったから。  酒を頼んだのは昔の修行時代から師匠に・・・。  「いいか聖矢。戦いを終えたら酒を飲んで体に溜まった怒気や邪気を清めるんだ・・・だから飲め!!」  そう言って中学生の聖矢に一升瓶片手に無理やり流し込むなんて事は日常茶飯事だった為。  聖矢は荒れていた時にも喧嘩の後は必ず、酒を飲むようにしていたのだった・・・。  「でも・・・本当にこれだけで良かったのですか?」  「いや。さっきもう一つ欲しい物が出来た・・・これもらって良いか?」  そう言って小脇に抱えていた物をレイチェルに見せる。  「黒板・・・ですか?」  聖矢が手に持っていたのは、デオドガンの妖精(スピリット)達が  誰が何時、何処を警備し、交代時間等が事細かに記された小さめの黒板だった。  「なんでそんな物が欲しいの?」  「そんな物って言うなよ。今の俺にはこれが一番欲しい物なんだから」  腰に片手を当てながら、シャオに言い聞かせる聖矢。  「ご、ごめんなさい」  「気にするな。実用化されるのは大分先になるから・・・」  手に持つ黒板を見つめ少々困った顔をする聖矢。  「分りました。どうぞお持ちください。明日で大市も終わりですし、しばらくは必要の無くなる物ですから」  「お、マジで? いや〜助かる」  レイチェルの申し出に対して聖矢は、笑顔と共に感謝を示す。  その笑顔は本当にうれしそうだった。  「さて。それじゃいただきます」  「?・・・なんですか? それは?」  聖矢が席に着き、手を合わせてお辞儀したのを見て不思議そうに首を傾げる二人。    「ん? そうだな? なんて言うか・・・風習と言うか、習慣?」  「は、はぁ」  「俺の師匠の受け売りだが、”俺たちが食す物は嘗て命在った者たちの成れの果て・・・   だから、その命を糧に生きてるのだから、それに対して感謝を捧げてから食すのが責めてもの礼儀”だそうでな。   こんな時分になっても身に染み付いて、やっちまうのさ」  「命在った者達に対しての・・・感謝。素晴らしいですね」  「うん! 私もこれからは、感謝してから食べる!」  左手に持つフォークを指揮棒の様にして語る聖矢の言葉に、二人は感嘆の声を挙げる。  「まぁ・・・好きにしろ」  自分にとっては何でも無いことで褒められても聖矢は別段何も感じる事無く  シャオの返事に素っ気無く答えると並べられた料理の一つにフォークを伸ばす。  「あぐ・・・う、美味いな」  口に入れた瞬間にアルフィアの料理とは比べ物にならない美味さに  聖矢は思わず目を見開いた。  「有り合わせで作ったのですけど、お口に合って良かった」  聖矢の素直な感想にレイチェルは頬を緩ませ、聖矢のグラスに酒を注ぐ。  「ん。ありがと・・・んぐっ・・・んぐ・・・ぷはっ!」  「す、すごい・・・」  大ジョッキに注がれたビールを一気に飲み干す聖矢の豪快な飲みっぷりにシャオが唖然とした声を挙げた。  「少し酸っぱいか? まぁ酒なら何でもいいか」  トウモロコシから作られた乳白色のビールは独特の酸味が有り。  実世界では特にこれと言う好みの無かった聖矢は、独特の酸味に首を傾げながらも  直に笑顔を浮かべるとジョッキをレイチェルに差出し、次を催促する。  「・・・んぐ・・・んぐ・・・んぐ・・・!! ぷはっ!」  「そんなに慌てて飲まなくても・・・」  「これが俺の普通の飲み方なんだよ」  「そ、そうですか」  レイチェルのさり気ない忠告に無表情で答える。  間を置かずに二杯を一気に飲んだにも関わらず、聖矢は平然としていた。  「あのセイアさん? 一つ聞きたいのですけど・・・」  「あん? なんだ? 答えられる事なら何でも答えてやる」  食事と酒に舌つづみをうつ聖矢に、レイチェルがおもむろに質問してきた。  「あの・・・人間の方々を倒した、”アレ”は何だったのですか?」  「”アレ”?・・・舞葉拳のことか?」  レイチェルは真剣な眼差しで聖矢に対して、スキンヘッドの男を瞬く間に倒して見せた  聖矢の舞葉拳について問いかける。    「マイヨウケン?」  「・・・其の動きは舞い散る葉の如く」 しゅるり・・・。  「??」  古めかしい言葉を並べながらシャオの目の前に掌を揺らめかせながら掲げる。  その聖矢の不思議な手の動きを見ながらシャオは首を傾げる。  「放つ拳は敵を彩るが如く紅に染めあげ」 ヒュオ!!  「っ!」  そして、突然シャオの頬を掠める様に掌を真っ直ぐに突き出すと、シャオの耳に風切音が聞こえた。  「四季を巡りて・・・汝は千年樹となり億凛の花弁と散る」   すぅ・・・ピタ。  シャオに放った紅葉をゆっくりと戻し、真剣な眼差しで構えを取る。  「備前四宝院流古武術・・・心身口伝。舞葉拳の理とする」  「・・・」  「・・・」  二人は聖矢のあまりにも浮世離れした語りに目が点となった。  「俺が習った古武術の師匠に毎度毎度、耳にタコが出来るくらい聞かされた理だよ」  「は、はぁ・・・???」  「???」  だが、二人は全く意味が分らないらしく首を傾げるばかりだった。  「え、と・・・つまりだな。舞葉拳というのは、自分の体術で、どの様にして敵を上手にぶっ壊すかを突き詰めた格闘技、てことだ」  「「・・・カク・・・トーギ?」」  二人にも分りやすいように簡単に説明したつもりだったが  二人は顔を見合わせると、聖矢の予想の斜め上を行く言葉を放った。   ガク!?  「格闘技だよ!格闘技!・・・まさか格闘技を・・・知らない?」  聖矢は身振り手振りを交え必死に説明しようとし、そこで始めて驚愕の事実に行き当たる。  「・・・」  「・・・」 コク。    「「はい!」」  二人はお互い見つめ合い、頷き合うと聖矢に顔を寄せながら自身に満ちた肯定を示した。   どさっ!?  「駄目だこりゃ・・・」  「セ、セイアさん!どうしました!?」  「お兄ちゃん! 大丈夫!?」  聖矢は後方にバタリと倒れると、疲れ果てた様に一つ呟いた・・・。 ガバッ!!  「良いか!? 格闘技とは・・・というか、俺の舞葉拳とは、体格に頼る暴力抗争とは根本的に違う   理に基づく闘力を技と呼び! その運用式を術と呼ぶ!   技術の粋は即ち闘法の合理化だ」  気を取り直し起き上がった聖矢は、二人に顔を突き付け、切々と語りだした。  「は、はぁ」  「え? え?」  「軽く、速く最短距離で相手の機先を突く!   格闘技は己の空間の争奪戦だ。   ・・・攻撃距離を測る初弾は重要な意味を持つ初弾で牽制!?」 ヒュン!!  「わ!」  「きゃ!」  「次弾で迫撃、両足の揃う角度で打ち出せば半分の力で倒せ、る!?」   ドガン!!  聖矢はそういうと、コテージの壁に向けて掌低を突き出した。  するとその衝撃で壁が揺れる。  未だ嘗て見たことも無い動きに二人の目は釘付けだった。  「これが、舞葉拳の基本の掌撃の一つ・・・先の当て【紅葉(もみじ)】と呼ばれる技だ」  聖矢の語る舞葉拳の話しに真剣な眼差しで聞き入る二人・・・。  特にシャオの目はキラキラと輝き、やってみたそうにしていた。    「・・・教えてやろうか?」  「え!? 良いのですか!?」  そんなシャオを見た聖矢は、おもむろに切り出した。  すると、シャオは笑顔を浮かべ立ち上がる。  「ん・・・まぁ。おれも人に教えられる程の腕前じゃ無いし、”破門”された身だけど・・・。  【紅葉(もみじ)】だけなら、まぁ問題ないだろう」  一度腕を組み、考え込む仕草をしながら、無理やり自分を納得させると聖矢はシャオに舞葉拳の基本技の一つを教え始めた。  聖矢は嘗て師に教えられた舞葉拳を全て修めて居る訳では無い。  基本の技は全て使えるが、舞葉拳に存在す四つの奥義となると二つしか修めておらず。  さらにその先に”千年樹の法”なる究極の闘法が存在すると言われているが  舞葉拳を唯の暴力として使った時期があり、その行いを悔いた聖矢は自ら進んで師に破門を願い出た。  その為、聖矢の闘技は未完成のままだった。  舞葉拳と聖矢の過去については、後々語ることとしよう・・・。   ・・・・・・・・・。  ・・・・・・。  ・・・。  
††††
・・・イースペリア城門前・・・  イースペリア王都とへと通じる城門前に一、二・・・全部で十一人の色とりどりの妖精(スピリット)達が集まっていた。  その全てが戦乙女(ヴァルキリー)以上のクラスを有するもの達で構成され。  クラス、実力共に大陸屈指の妖精(スピリット)・・・  至高の妖精(ディバインスピリット)の【紅蓮】のリア=レッドスピリットを筆頭に集められた  彼女等はイースペリア最強を誇る妖精(スピリット)達である。  「今回集まってもらったのは先の任務で保護した・・・来訪者(エトランジェ)様が街へと赴いたという   情報を受け、最悪の事態を危惧した女王陛下が我等に出動を要請されました」  ゆっくりと集まった面々を見渡し、十二妖精部隊(ヴァルキリーズ)に下された任務を確認するリア。  皆は既にある程度の情報は耳に入っているのか、これといった動揺は無い。  淡々と語るリアの顔は涼しげで何の感情も窺えない。  何時も真面目すぎるというくらい真面目なリアだが、十二妖精部隊(ヴァルキリーズ)の長として立つ  その姿からは、それまであった柔らかさ、暖かさが消えた様だった・・・。  いや、正確には無理に感情を十二妖精部隊(ヴァルキリーズ)の副隊長という名の無表情という名の  仮面に隠している・・・そんな印象が感じられた。  「・・・第二部隊!」  一つ息を吸い間を置き、鋭い眼差しと共に十一人の一団に叫ぶ。  「はっ。【灯火】のライオネル=レッドスピリット此処に・・・」  リアの号令に赤く長い髪を三つ網に纏めた赤妖精(レッド・スピリット)が一歩前に出てリアに敬礼する。  「は〜い♪ 【紺碧】のカレン=ブラック・スピリット居ま〜す!」  ライオネルに続き黒い髪を髪飾りで小さく纏めた黒妖精(ブラック・スピリット)が進み出て  軽いノリと共に名乗り出る。  「・・・【演舞】のジーン=グリーン・スピリット此処に」  最後にウエーブの掛かった髪の緑妖精(グリーン・スピリット)の少女が名乗り出る。  「第二部隊以上三名」  ジーンが名乗り出ると三人は敬礼を解き、リアに報告する。  第二部隊は敵のかく乱、他部隊の支援、遠距離攻撃に優れた妖精(スピリット)で構成された部隊である。  遠距離魔法攻撃に優れた力を持つ赤妖精(レッド・スピリット)の部隊長のライオネルをサポーターの位置に置き  若輩ながらも投降技能に絶対の自信を誇る緑妖精(グリーン・スピリット)のジーンをディフェンスに置き  遠距離魔法と近距離戦闘の両面をこなす黒妖精(ブラック・スピリット)のカレンをアタッカーに置いた布陣が  第二部隊の基本布陣となっている。    「・・・第三部隊!」  第二部隊の面々の点呼を聞き、次いで第三部隊の面々を呼ぶ。  「【大気】のレイアナ=ブルー・スピリット」  気だるい感じで、頭をかきながら進み出て挨拶する。  青い髪を束ねた青妖精(ブルー・スピリット)。  「・・・【言霊】・・・の、ハ、ハルナ=グ、グリーン・・・スピリット・・・」  オドオドとした感じで小さな声で控えめに前に出る幼い緑妖精(グリーン・スピリット)。  「【時雨】のセリーヌ=グリーン・スピリット此処に」  優雅にスカートを掴みリアにお辞儀をし、進み出るブロンドの髪を持つもう一人の緑妖精(グリーン・スピリット)。  「以上。第三部隊全員おりますわ、リアさん」  顔を挙げニコリとリアに笑いかけ報告するセリーヌ。  防御に優れた緑妖精(グリーン・スピリット)を二人も要することからも分るとおり  第三部隊は防御を主眼に構成された部隊である。  攻撃に関しては引っ込み思案な性格も相まって今ひとつだが  それを除けば防御、支援共に上位レベルの技を習得しているハルナをディフェンスに置き。  やる気の無さが珠に傷だが、意外と細かく気が利き、何でもそつなくこなすレイアナをサポートに置き。  攻撃、防御、支援共に上位レベルを習得し何時も一歩引いた位置から冷静に戦況を分析できるセリーヌをアタッカーに置くという  鉄壁の布陣を敷き、戦場に置いて仲間の命を守る砦・・・それが彼女たち第三部隊である。     「ありがとうセリーヌ。・・・第四、部隊!!」  最後の部隊を呼ぶとき、リアは申し訳無さそうに唇を噛み締めた。  だが、それは先に呼ばれた二部隊の隊員達、リアと同じ第一部隊に所属するアルフィアも同様だった。  第四部隊・・・戦闘において常に最前線に立ち、イースペリア全部隊中最も強力な攻撃力を誇り  ・・・全隊員がハイロゥを”黒く”染め上げられた・・・部隊でもある。    「・・・【森羅】のラティオ=グリーン・スピリット・・・」    まるで人形の様に冷たい目とボロボロの戦闘服、ボサボサの髪をした長身の緑妖精(グリーン・スピリット)が静かに口を開く。  まだ、何とか自我は保っているものの既に彼女の感情は希薄になって来ていた。  「・・・【無音】のフィオーネ=ブラック・スピリット・・・」  伸ばし放題の腰まである長い髪をした黒妖精(ブラック・スピリット)が俯いたまま、名乗り出る。  彼女もまた感情が希薄になり、ラティオ同様身だしなみに全く無頓着になっていた。  「【琥珀】のサイネリア=ブルー・スピリット。以上三名だよ」  最後にハキハキとした口調でリアよりも年上の青妖精(ブルー・スピリット)が部隊点呼を終える。  彼女は十二妖精部隊(ヴァルキリーズ)でも最も古株で他の二人よりも深く黒く染め上げられた  翼を持ちながらも超人的な精神力で自我を保ち続ける”大地揺るがす者(フェンリル)”のクラスを有する  妖精(スピリット)である。本来なら彼女が副隊長を勤めても良いのだが  いつ神剣に精神を完全に食われるかもしれない自分がやるよりも将来的に要となる資質を持ったリアにその座を譲った程の者でもある。  サイネリアは、期待に応えたいと言う気持ちと、持ち前の勤勉さで”大陸四大妖精(スピリット)”と呼ばれるまでに成長した  リアを自分の娘の様に思っていた。   「・・・第一部隊。【慈愛】のアルフィア=グリーン・スピリット居ますね」  第四部隊の所存を確認したリアは、アルフィアに向けて声を掛ける。    「(コク)」  喋る事の出来ぬアルフィアは一歩踏み出すと緑妖精(グリーン・スピリット)の操る槍型永遠神剣の中でも珍しい  十字槍の【慈愛】を立て、リアに大きく頷く。  「そして、私【紅蓮】のリア=レッド・スピリット。以上第一部隊二名。   ラキオスに出張中のイリーナを除き、総数十一名確かに確認しました」  最後にリアが名乗りをあげ、全員の点呼を終える。  第一部隊。それは、十二妖精部隊(ヴァルキリーズ)最強の部隊の証でもある。  イースペリアの妖精(スピリット)中唯一人リアと互角に戦うことが出来  相性の悪さからリアの後人を配しながらも、最高の保有マナを持ち、エレメントブラストと呼ばれる緑妖精(グリーン・スピリット)唯一にして  最強の魔法攻撃を有する【慈愛】のアルフィア=グリーン・スピリットをディフェンダーに置き。  この場には居ないが、バニッシュスキルを大の苦手としながらも  白兵戦において間違いなくイースペリア一を誇る【気合】のイリーナ=ブルースピリットをアタッカーに置き  剣技、防御、魔法の全てがトップクラスであり、どんなロールでもこなすイースペリア最高戦力のリアをサポーターに置く  ディフェンス、サポート、アタック全てを兼ね備えた部隊、それが・・・第一部隊である。  「・・・次に、それぞれの探索場所を知らせます。   まず、私とアルフィアは街の――」  「ちょいと待ちな、リア」  全員の所在を確認し、次に進もうとした時、サイネリアが突然リアの指令を遮る。  「・・・なんですか?サイネリアさん」    上官に当たるリアの指令を何の前触れも無く止めた事を咎める事無く  サイネリアに向き直るリア。  「・・・来訪者(エトランジェ)と何か、あったのかい?」  サイネリアはまるで探るようにリアを見ると、おもむろに切り出した。  「・・・任務に関係の無い質問は止めて下さい。続けます」  サイネリアの質問に答える事無く一度目を閉じるとリアは無表情な顔のままサイネリアから視線を逸らすと  第二部隊のライオネル達に視線を向ける。  『やはり・・・何かあったのか』  リアの飽くまでも任務に徹し、皆の長として自分の役割を完璧にこなそうとするリアのあまりに完璧すぎる  その姿から何かを察知したサイネリア。    「リア・・・」  「まだ、何か?」  指示を伝えようとしたリアをサイネリアは再び呼び止める。  対してリアは、振り向くと無くサイネリアに先を促す。  「来訪者(エトランジェ)とは・・・もう寝たのかい?」  「な!?」  唐突にサイネリアから投げかけられたこの場にそぐわず、任務に何の関係を無いと思われる言動にリアはそれまでの涼しげな  顔を真っ赤にして、口を開けたままサイネリアに振り向く。  「ふ・・・図星かい? 来訪者(エトランジェ)は逃げ足だけでなく、手のほうも早いようだね」  ボヒュッ!!  リアの表情を見て、薄ら笑いを浮かべながら、聖矢に侮辱めいた言葉を吐いたサイネリアの耳に  大気を切り裂く風切音が聞こえた。 ガキーーーン!!  「隊長に、は・・・手出しさせま、せん」  聖矢に対しての侮辱に誰よりも素早く反応したのはアルフィアだった。  日頃の姿からは想像も出来ないほどに怒りの表情をしたアルフィアが無言のままサイネリアに自身の神剣。【慈愛】を突きつけた。  その奇襲とも思えるアルフィアの攻撃をまるで察知していたかのごとく  一瞬で強力な防御陣をサイネリアを包むようにラティオは展開した。      「う〜!?」  ラティオに止められながらも、一層強く握り締め押し込もうとするアルフィア。 チャキ・・・!    「・・・ひ、け・・・」  『フィオーネ!?』        まるで気付かぬ間にアルフィアの背後に背中合わせに立ち、首筋に刃を当てがうフィオーネ。  手にする神剣の名が示す通り、その動きは正に神速とも思える程速く、何より・・・静かだった。  感情の起伏の少ないフィオーネはその体からは殺気、怒気といったものは感じられず、より速く感じられた。   キーーーン・・・。 ゾク!?  背中合わせで、姿の見えぬ同士ながらもお互いに相手が次に移す行動を予測し  頭の中で数十合に及ぶ攻防を繰り広げていた二人にそれぞれの神剣が警笛を鳴らす。  「お互い剣を納めよ・・・」  二人が振り向いた先には、その手に全赤妖精(レッド・スピリット)の頂点に君臨すると言っても過言では無い  リアが静かなる闘志をたぎらせ、【紅蓮】を構えていた。  「・・・引け。フィオーネ」  「・・・」   チャキ・・・。  今にも神剣魔法を放ちそうなリアにその場にいる皆が息を呑む中、サイネリアだけは冷静にフィオーネに命令を下す。  サイネリアの命令を聞き、静かに刀を納めると、フィオーネは戦列へと戻って行った。  「アルフィアあなたも槍を納めなさい・・・命令です」  「・・・(コク)」 ヒュン!?  真剣な眼差しを少しも変える事無く、アルフィアも槍をクルリと回し刃を下に下げると戦列へと戻って行った。  だが、尚もその顔にはサイネリアに対しての怒りが見て取れる。  「・・・少し、冗談が過ぎたね、謝るよ」    アルフィアの信じられない怒りを見せられ、サイネリアはその場で深々と頭を下げた。   「冗談?・・・どういうことですか?」  サイネリアの冗談と言う言葉に今度はリアの眉間にシワが寄る。  聖矢を捕らえると言う一大事だと言うのに、冗談と言う不謹慎極まりないといった感じだった。    「そんなに目くじらを立てるな。綺麗な顔が台無しだよ?」  「サイネリアさん!?」  再び、リアに対して冗談めかした言葉を投げかけられ思わず【紅蓮】に手を伸ばすリア。  「どうしたんだい、リア? 何時ものお前は、そんなんじゃ無いだろう? 確かにお前は真面目すぎるきらいがあるが   今日のお前は・・・私には何処か無理をしているように感じる。   それで、此度の件に関してでは無いかと思ったのだが・・・アルフィアを含め、何かあったな?・・・話せ」  今までの何処か、柔らかさを感じさせる顔を一変させ、サイネリアは睨むようにリアに促す。  「・・・ふぅ〜・・・分りました。お話します」  殺気さえ感じられるような迫力のサイネリアに睨まれ、リアは観念したのか一度息を吐くと  静かにこれまでの聖矢との生活の一部始終に関して語り始めた。  そして、リアの何時もと違う態度に皆も疑問を感じていたのだろう、リアの語る聖矢の話しに静かに耳を傾ける。  リアは、聖矢が大怪我を負いながらもダーツイの妖精(スピリット)を素手で倒したこと  アルフィアの料理に対して、文句を言いながらも残さず食べる頑固な事、自分たちに対して優しく接してくれること  言葉を喋れないアルフィアと話しがしたいとここ数日共に字の勉強を始めたことなどを皆に話して聞かせた。  「・・・私の知るセイア様は、イースペリアに仇成す者とはとても思えません。   確かにいつも怒った様な顔をされていて、口調も乱暴ですが、優しい方です。   それが、なぜこの様な行動に出たのか・・・分りません」  聖矢との生活で感じた聖矢の優しさ、今まで触れたことの無い暖かさを思い出し  聖矢の突然の逃亡という事実にリアは未だに信じられないといった様に、俯き血が滲む程拳を強く握り締める。      「・・・リア。お前何か勘違いしていないかい?   アタイ達は武器なんだよ。”如何に来訪者(エトランジェ)と言えどイースペリアに仇成す者ならば、マナの塵と返す”   それが、来訪者(エトランジェ)保護任務の際に受けた・・・命令だった筈だ。   ここ数日で来訪者(エトランジェ)に良くされたとは言え。リア・・・。アンタの立場を忘れるんじゃないよ」  少々キツイ言い方ながらも、サイネリアはリアに説いて聞かせた。  立場と心情との間でゆれる娘を正すために。  「分っています!? 自分の立場も、如何に望もうとも決して叶わぬ事もあるという事は、十分承知しています!?   ですが!・・・です、が・・・私、はあの人の優しさを・・・暖かさを知ってしまった。   捨てられない。一度知ってしまっては・・・捨てられないです!?」  涙を流しながらその場に崩れ落ちるリア。  悔しさに震えるリアの瞳から零れた涙は地面に雫となって落ちてゆく。  そのリアの哀れな姿を見かねたアルフィアはリアに近づくと、そっと肩を抱く。  そこに居るのは、最早十二妖精部隊(ヴァルキリーズ)の長では無く、一人の少女だった。  「・・・分った。リア、アルフィア。お前達は今回の任務から外す。此処はアタイ等に任せておきな」  その姿を見たサイネリアは踵を返すと、リアを通り越し背中越しに声を掛ける。    「そ、そんな!? 待ってください!!」  未だに涙を溜めた目で、リアは顔を上げると、サイネリアにすがりつく。  「皆に今一度任務を言い渡す!?   今回の任務は王都に潜伏する来訪者(エトランジェ)の捕獲!   生きたまま捕まえる事が前提条件! 抵抗、逃亡の際には戦闘も止む無し!!」  〔はっ!?〕 ザザッ!!       「サイネリアさん!?」  音頭を取るサイネリアの足に尚をしがみ付き、自分が見捨てられたという事実に絶望を感じたリアのしがみ付くその手は  弱々しく震えていた。  だが、そんなリアをサイネリアは無視する。  そして・・・  「良いか!? ”生きて捕まえろ”決して殺すな!? また戦闘に陥った場合は、我等第四部隊があたる! 他の者は手を出すな!!」  再度念を押すように皆に言い聞かせる。   それを聞き、リアは呆けた様にサイネリアを見上げる。  「リア・・・”汚れ役”はアタイが引き受ける。お前が、アルフィアが信じた男だ・・・必ず連れ戻す。   誰もお前を”弱い”とは思っていない。それに、諦めるな・・・いつか、いつか我等の存在を認められる時が来る   だから、今は休んでおけ・・・アタイ等に、任せておけ」  「サイ、ネリア・・・さん・・・」  リアに視線を合わせる事無く前を見つめたまま、サイネリアは力強く宣言する。  「第二部隊! 街の東方を探索!?」  〔はっ!?〕  「第三部隊! 街の西方を探索!?」  〔はっ!?〕  「我等は街の”南”の探索に当たる。皆にマナの導きが在らんことを・・・散開!!」  最後に世界の存在そのものともいえるマナに皆の無事を祈り、サイネリア率いる第四部隊は先に走り去って行く。  「リア、僕等に任せて!」  「必ず連れ戻すから♪」  「御安心ください・・・」  次いで第二部隊の面々が順にリアに励ましの声を掛け持ち場に散って行く。    「涙をお拭きなさい、みっとも在りませんわよ」    セリーヌはハンカチを取り出し、優しくリアの涙の後を拭うとウィンクしてリアにハンカチを握らせるとそのまま踵を返し走り行く。  「リア・・・様。ハル、ナ・・・頑張って、来訪者(エトランジェ)、様見つけ、る」  「たまには、私達に任せてよね」  ハルナとレイアナもリアに笑いかけると、先を行くセリーヌを追い駆けて行く。  「・・・ありがとう、ございます」  長として部下の前で醜態を晒したリアを笑う事無く、軽蔑する事無く  皆リアの為に任務に赴いて行く。  その優しさに、戦士としての誇り高き姿にリアは膝を付いた状態で去り行く皆の背に深々と頭を下げた。 サラサラ・・・ビリッ!?  リアと共に残ったアルフィアはメモ帳になにやら書き留めるとリアの背を優しく叩きメモを見せる。  「(信じましょう・・・皆を・・・セイア様、を・・・)」  「はい・・・はい!」  アルフィアのメモを読んだリアはセリーヌから貰ったハンカチで再び涙が溢れてきた瞳にあてがうと何度も何度も頷く。  そんなリアをアルフィアはしばらくの間優しく抱きしめた。  ・・・・・・・・・。  ・・・・・・。  ・・・。
††††
  ・・・デオドガン駐屯所・・・  「こ、こうですか?」  「バカ違う! 前足に掛ける加重と後ろ足に掛ける加重の比率は6:4だ。   そうすれば踏み出す時、腕への加重がスムーズになる」  聖矢は、シャオの体に手を触れ舞葉拳の基本の掌撃【紅葉(もみじ)】について熱心に指導する。  「両足を肩幅に揃え、固定させたら腰を捻り前方を向く、良し。   後ろ足を蹴りだし、相手に向けて左手を突き出せ!」   「は、はい!」   ボッ!?  聖矢に言われるままに、左手を突き出す。  すると、シャオの掌が高速で突き抜ける。    「左手と右手が見えない紐で繋がっている様に、戻す勢いと連動させて、腰の捻りを聞かせて右手を突き出せ!!」  「はい!!」 ズバッ!!  聖矢の声を聞き、シャオが右手を突き出すと全体重が右手に乗り、先程とは違い空気を切り裂く様な音が聞こえる。  「お! よしよし、今のは良かったぞ」  聖矢はそう言って汗だくのシャオの頭を撫でてやる。  「あ、ありがとうございます!!」  パッとまるで花が咲いたような笑顔を浮かべ、聖矢に礼を言うシャオ。  「だが、まだまだだ、今の所10回に2回程しか見れる【紅葉(もみじ)】は出せていない。   一朝一夕で成るようなモノじゃないから、仕方ないが。中々筋は良い、これからも十分精進しろ」  「はい、セイア様!!」  シャオを撫でる手を止め、目線をシャオに合わせて身を屈めた聖矢は、諭す様にシャオに良い聞かせる。  聖矢の助言を聞いたシャオは、真剣な面持ちで元気良く返事を返す。  その返事を聞いた聖矢もう一度シャオの頭を撫でる。  「セイアさん、服が乾きましたよ」  そうこうしていると、聖矢の朱色のコートを丁寧に畳んだレイチェルが現れる。  「あらあら、こんなにびっしょりになって、またお風呂に入らないと、ね」  そして、汗だくのシャオを見るや、優しい笑顔で語りかける。  「んじゃボチボチ行くか、ね」    レイチェルから朱色のコートを受け取り、袖を通すと聖矢は身支度を始めた。  「セイア様・・・この度は本当にありがとうございました」    聖矢に対して再び、レイチェルは深々と頭を下げる。  「・・・気にすんな、俺もやっとまともな飯が食えた。   これで貸し借り無しだ・・・良いな」  「・・・はい」  自分たちを助けてお礼を受けたのではなく、あくまで自分の為にやった事だと念を押す聖矢。  そんな聖矢の言い分に対してレイチェルはクスリとハニカミ返事をした。  「お兄ちゃん。私これからも毎日頑張るね」  「あ〜・・・。無理をしない程度に、な」  聖矢は、シャオに対して釘を刺すとクルリと身を翻し、出口へと向かう。  その時・・・。 ガチャ・・・。  「ただいま〜」  「やっと片付け終わった〜」  「レイチェル、シャオ。もどったわよ」  「ん〜・・・疲れた〜」  玄関に他のデオドガンの者達が戻っ来た。  「お、仲間か?」  「あ、はい。シャオちょうど良いから、皆とお風呂に入りなさい」  「うん。分った」  レイチェルはシャオにそういうと、帰ってきた皆の元に向かう。  そして、なにやら廊下で話し合う声が聞こえる。 ドカドカドカ!!  すると何人かが廊下を走る音と共に聖矢の居る部屋に向かってくる。 ガチャ!!  「・・・アナタがイースペリアの来訪者(エトランジェ)?」  「うぉ! マジマジ? アタシ来訪者(エトランジェ)見るの初めてだよ」  すると、二人の青妖精(ブルー・スピリット)が無遠慮に聖矢を上から下まで見て  開口一番物珍しげに聖矢に対して声を掛ける。     ドグン!?  その二人の青妖精(ブルー・スピリット)を見たとき聖矢の中に言い知れぬ怒りが沸いてくる。  『な、なん・・・だ? こいつ等? な、なんで?』  突然沸き立つその怒りに聖矢は、訳が分らず混乱する。  二人の青妖精(ブルー・スピリット)が聖矢に笑顔を向けて  なにやら嬉々として話しているがその声は何処か遠く聖矢の耳にはまるで雑音の様に聞こえた。  『(悠人・・・今・・・行く・・・か、ら。すぐに・・・助ける・・・から)』    そしてフラッシュバックの様に目の前に映画の一コマの様に傷だらけで涙を流しながら  悠人を追おうとする自分の姿が浮かんでくる。  「なんだ、よ・・・一体なんだよ!?」  「え?」  「あ、ごめん・・・なさい」  突然大きな声を出した聖矢に先程まで聖矢を囲み、談笑していた二人が静かになり  自分たちの性で怒ったと思ったのか、二人は聖矢に謝る。  「あ、いや・・・すまん。俺帰る、から・・・退いてくれ」  そう言って、半ば乱暴に二人を押しのけ出口へと歩を進める。  沸き立つ怒りと、まるで記憶に無い一場面が頭をよぎった事も重なり  聖矢の心に言い知れぬ不安が広がっていた。  「お、お兄ちゃん? ど、どうしたの、大丈夫?」  「触るな!?」    顔面蒼白の聖矢を見て心配になったシャオが聖矢に駆け寄ろうとした時、聖矢が突然声を張り上げる。  突然の聖矢の怒声に驚き、身を縮込ませる。  そして、廊下のレイチェルを始めとするデオドガンの皆は突然豹変した聖矢に、訳が分らず首を傾げている。  「すま、ない。ちょっと疲れたみたいだ・・・すまない」  無意識の内に力のこもる右手を左手で強く握り何とか平静を保とうと笑顔を浮かべシャオに謝る聖矢。  だが、その顔は怒った様な、悲しんでいる様ななんとも言えない顔をしていた。  「黒板・・・ありがとう。それじゃ」  聖矢は、最後に心配そうな顔をするレイチェルに黒板を掲げ礼を言うと、そのまま駆け出す。  「セイア様!?」  「お兄ちゃん!!」 バタン!!  『ここに居ちゃいけない。ここに居たら、あいつ等を・・・ぶっ壊しちまう』  背中越しに聖矢を心配するレイチェルとシャオの声が聞こえるが聖矢は、決して振り返る事無く  まるで逃げる様に、扉を乱暴に開き走り去って行く。  「あ〜アタシ達何か悪いことしたのかな?」    申し訳無さそうに頭をカキながら一人の青妖精(ブルー・スピリット)がレイチェルとシャオに問いかける。  「分りません・・・何でも無ければ良いのですが」  「お兄ちゃん」  聖矢が開けたままで出て行った扉を見つめ、レイチェルとシャオは聖矢の豹変振りに酷く  不安な瞳を向けたまましばらく見つめていた。  ・・・・・・・・・。  ・・・・・・。  ・・・。  既に日も沈み、夜の静けさが訪れたイースペリアの街中を何処へ行くとも知れず  唯ひたすらに走っていた。  突然頭を過ぎった殺意にも似た怒りを振り払うように・・・唯ひたすら走った。  「ハァ・・・ハァ・・・くそ!!」 ドガッ!?  全速力で走り抜け、ふらつく足を支えようともたれ掛かった木造の壁に拳を叩きつける聖矢。  「どうしちまったんだ。俺はなん、で・・・ちくしょう!!!」  今までにもムカツク奴には容赦なく暴力で答えて来た聖矢だが  初対面のそれも、ただ視界に捕らえただけで怒りを抱いたのは始めての事だった。  そして・・・。    『何での悠人の事を・・・?あんな事、記憶に無いぞ・・・無いはずだ』  二人の青妖精(ブルー・スピリット)を見たときに怒りを抱いたと同時に   頭の中に広がった一つの光景を思い出し、聖矢は頭を抑え必死に記憶を彫りおこすが  該当する記憶は終ぞ見つからない。   「もう・・・訳分ら無ぇよ」  壁に背を預け座り込んだ聖矢は、自分ひとり孤独な異世界に居ると言う事実に初めて途方に暮れる。    「悠人・・・今どうしてるんだ?元気にしてるかな?   もう・・・会えねぇの、かな。ハハ・・・ハハハ」  友の姿を思い出し、乾いた笑いを浮かべる聖矢。  ・・・・・・・・・。  ・・・・・・。  ・・・。  「見つけたぞ・・・来訪者(エトランジェ)だ」  物陰からひっそりと”戒厳令”の敷かれた街中に佇む聖矢を見つけた兵士は、小声で仲間の兵士に知らせる。  「よし、総隊長殿に知らせてくる」  「ん・・・待て」  仲間の兵士が腰を上げると、命令を出した兵士が呼び止める。  「妖精(スピリット)共、だ」    兵士は、項垂れた聖矢に近づいてい行く、サイネリア率いる第四部隊を視界に捕らえ仲間に様子を見るように手をかざし静止する。  ・・・・・・・・・。  ・・・・・・。  ・・・。
†††††
 「そうだ・・・アル達の所に帰らなきゃ、な。やべ・・・勉強して無ぇや」  懐からタバコを出そうと視線を下に向けたとき、壁にもたれた時に落としたのだろうか?聖矢から少し離れた位置に転がる  デオドガンの妖精(スピリット)達からもらった黒板が目に止まり。  聖矢は自嘲気味に呟き、転がる黒板を拾おうと手を伸ばす。  その時・・・。  「来訪者(エトランジェ)・・・かい?」  黒板を拾おうとした聖矢に人型の影が伸び、頭上から声が掛けられる。  「・・・ああ。そう、呼ぶ奴も居る、な」  聖矢は黒板を拾い声の主を確かめようと身を起こす。  「・・・誰―――」 ドグン!?  顔を挙げ声の主の風貌を見た聖矢の瞳が見開かれる。  「アタイ達は、妖精(スピリット)さね。   ・・・来訪者(エトランジェ)探したよ。まったく」  『・・・青い・・・髪。・・・青い・・・瞳・・・』 ドグン!?  「うん? どうか・・・したのかい?」  まるで呆けた様に立ちすくむ聖矢を見て、サイネリアが心配そうに手を差し出す。  「っ!?」  聖矢はサイネリアを避ける様に、後方に数歩下がると顔をしかめ片手で頭を抑える。  「誰・・・だ? なん、で。俺を、知って、る」      ドグン!?  『ま・・・た。なんなん、だ。この・・・怒り、は』    聖矢はわけも分らず断続的に襲い来る。激情に何とか耐えながら苦しげに問いかける。  「ああ。アタイは、【琥珀】のサイネリア=ブルー・スピリット。後ろの二人は、部下のフィオーネとラティオ。   リアとアルの同僚だよ。アンタが急に居なくなるなるから、二人が逃げたのではと心配している。   アンタにも色々と事情があるのだろが、許可無く出歩く物じゃないよ? さ、アタイ等と一緒に戻ろうか?」  「戻、る? 許可? なんでお前は・・・悠人を・・・ぐぅ!!」  『悠・・・人? な、何言ってんだ俺? ここに悠人が居る訳・・・』 ドグン!?
(悠人が・・・殺される・・・っ!!)
 「がぁあ!!」  「ど、どうした!!」  先程よりもより一層苦しそうに両手で頭を抱える聖矢を見て、サイネリア達は聖矢に駆け寄ろうとした。  「く、来るな!?」  だが、それを聖矢は大声を張り上げ制止する。 ドグン!?
(・・・く・・・そ!)
 『なんだ。こ、れ? 何時だ? こんな記憶・・・無い、ぞ』 ドグッ! ドグッ! ドグッ!?
(ま、てよ。て、めぇ・・・ゆ・・・とを、何処、に・・・やったん・・・だよ。ま、まて・・・よ)
(待、てろ・・・悠人・・・す、ぐに・・・行く・・・から)
 心臓が大きく鼓動を繰り返す度に、視界に広がる見たことも無い光景に聖矢の頭は混乱する。  『居るの、か? 悠人もこの世界、に?』  「あ、あああああ!!!」  血だらけになりながら悠人を追おうとして、膝を付き夜空を見つめる自分。  突然目の前に広がった光景・・・  心を満たす後悔と、怒りに・・・  聖矢は頭を振り乱し、暴れだした。  「なんだ! どうしたのだ!?」
(・・・ま、待て! お前の目的は・・・っ!?)
 「俺の・・・邪魔を・・・するな!!」  聖矢を心配し駆け寄ろうとしたサイネリアに聖矢の瞳が怒りを、憎しみを孕んだ光を放ち  殺気と共にサイネリアに飛び掛る。  「な!?」  「・・・御下がり下さい」  それを見たフィオーネが一瞬にしてサイネリアを守るように前へと躍り出る。  「第弐式・・・【焔廻(ひまわり)】!!!」 ドゴーーーン!?  右手を引き絞ると同時に捻り。  鋭い踏み込みと同時に捻り上げた腕を突き出し、インパクトの瞬間に内側に捻る事で通常の掌撃の数倍の威力を生み出す。  舞葉拳四大奥義が一つ。内外破壊を同時に実現する剛拳【焔廻(ひまわり)】。  いままで見たことも無い動きながらもフィオーネは冷静に距離とタイミングを計る。  聖矢の【焔廻(ひまわり)】がフィオーネのわき腹へと伸びると同時に  フィオーネは【無音】へと手を掛ける。  「ぐぅ!? ぁああ!?」 ズドッ!?  「ガフッ!?」  聖矢の技のインパクトの瞬間に【無音】を鞘に収めた状態のまま振りぬく。  振りぬかれた一撃は正確に技を打ち終わり無防備となった聖矢のわき腹に命中し聖矢を吹き飛ばす。  相手の技に合わせ高速の斬撃を見舞う、黒妖精(ブラック・スピリット)が  得意とするカウンタースキルである。   ドゴッ!! ガラガラン!?  フィオーネの一撃を受けた聖矢の体は面白いように宙を舞い、家屋と家屋の間に積み重ねられていた古樽に激突する。  「・・・うぐっ!」  聖矢を吹き飛ばし、【無音】を振りぬいた格好で固まっていたフィーオーネが苦しげに膝を着いた。  「フィオーネ! 大丈夫か!?」  それを見たサイネリアがすぐさま駆け寄る。  「左・・・下腹部・・・損傷。戦闘力・・・30%・・・低、下。   並びに・・・来訪者(エトランジェ)にも同様の・・・箇所を攻撃・・・   神剣を持っていない事か、ら。恐らく失神したものと思われ、ます。隊長・・・早急の回復を・・・」  冷静に自分の状態を分析し、サイネリアに報告する。  表情こそ変わらないが、その額には脂汗が滲んでいる。  「・・・了解した。ラティオ!来訪者(エトランジェ)を回復!館に連れ―――」  後方に控えるラティオに振り向きながら命令を飛ばすサイネリア。  「・・・隊長」   ドン!  サイネリアが命令を言い終わる前に、サイネリアを突き飛ばすフィオーネ。  「ぅ、がぁあああ!!」 ドォン!?  瞬間、古樽の中から起き上がった聖矢が雄叫びと共にフィオーネに向かって砕けた古樽の一部を蹴り飛ばす。  フィオーネは素早く起き上がり、冷静に【無音】で飛来する破片を弾き落す。  そして、まるでそれを予測していたかのごとく、聖矢はフィオーネに向かって駆け出した。  『ぶっ殺す! 一人残らず・・・ぶっ殺す!!』  嫌、予測していた訳では無かった、例え破片が当たろうと、かわされ様と聖矢は最初からフィオーネに再び舞葉拳を見舞う  腹積りだったのだ。  「居合いの・・・太刀」  それを見たフィオーネは、聖矢を迎え撃つべく半身になり身を屈め、居合いの構えを取る。  「待て!? 抜刀は許可できない!!」  「っ!?」    聖矢が間合いまで後数歩と言った所で、サイネリアが声を張り上げる。  その声を聞いたフィオーネは、一瞬躊躇した。それが、決定的な隙を生じさせた。   「・・・死ね」  眼前に差し迫った聖矢が相手に聞こえるか聞えないかの声で、低い声で呟く。  その声は酷く冷たく・・・。完全なまでの殺意を帯びていた。  『この・・・構え、は』         そして、未だに下腹部にその攻撃の傷跡を残す、先程と同じ技の構えを取る。  それを見たフィオーネは柄と鞘に手を掛けた状態のまま、聖矢に対して抜刀では無い居合いの太刀を振るう。 ブン!?  「っ!?」  先程の攻防で既にタイミングを覚えたフィオーネは今度は完璧なカウンターが入ると確信していた。  だが、振る鞘先から聖矢がまるで陽炎の様に姿を消す。  「舞葉拳・・・【蓮華(れんげ)】」   ズド!?  「ぐぶっ!?」  眼下から聖矢の声が聞こえたかと思った矢先、先程とは逆のわき腹に鋭い痛みが走る。  そして間を置かずに振りぬき伸ばされた腕にしゅるりと腕が回されたかと思うと、天地が逆さになる。   『下か、ら・・・』  ウィングハイロウを展開し、空を舞うのに似た感覚を覚える最中、フィオーネは聖矢が何処から攻撃してきたか理解した。   ズドーーン!?  それと同時に強固な地面に激突する感覚、視界が白くなり、息が詰まる。  全身を駆け抜ける激痛・・・それは、今まで味わったことのない衝撃にどう対処して良いか分らず。  フィオーネの視界は揺らめいた。  「【紅――葉(もみ・・・じっ)】!!!」  激突し、跳ね上がるフィオーネ。だが聖矢の攻撃はまだ終わらない、叩き着けたと同時に連鎖反応で後方に振り上げられた腕を  今度は逆に腰の回転を利かせフィオーネの顔面に向けて突き出す。 ブオッ!? パーーーン!?  インパクトの瞬間・・・。  聖矢の目の前で火花が弾けた様に、緑色の光の粒が舞い飛ぶ。  「ちっ!?」  それを見た聖矢はバックステップで間合いを取る。  聖矢のとどめの一撃はフィオーネには届かなかった。  目に見えない障壁がフィオーネを守るように存在していたのだ。   ぶん!?・・・チャキ!?  聖矢が飛び引くと同時にラティオは、自身の【森羅】を勢い良く振り回す。  すると押しのけられた空気が突風となり砂埃を巻き上げる。  そして後方に【森羅】を携え、前屈みに聖矢に構えを取る。  「・・・待て」  聖矢に対し、まるで野生の獣が敵意に対して牙を剥くように本能的に攻撃態勢をとる  ラティオの肩にそっと手を置きなだめるサイネリア。  「我々は、貴様を連れ戻しに来ただけだ。誓って害を加えるつもりは無い、どうか気を静めてもらいたい・・・」  真っ直ぐに聖矢を見据えながらサイネリアは粘り強く聖矢に懇願する。  「・・・ひゅ〜・・・ひゅ〜・・・」  静かにわき腹を押さえ、ラティオの障壁に攻撃を加えた事で手傷を負ったのか  だらりと下げられた腕から血を滴らせる聖矢の口から乾いた風が吹きぬける様な音が聞える。    「・・・ゆう・・・と・・・何処に、やった!!?ゴホ!?ゴホッ!!」  ぎりっと奥歯を噛み締め痛みに耐えながらサイネリアに対して叫ぶ聖矢。  そして、叫び終わると同時に咳き込みその口から血を吐き出す。  『・・・何と言う目を・・・しているんだ』  自分を睨む聖矢の目を見たサイネリアにゾクりと悪寒が走る。  既に立っているのも不思議な位の大怪我を追いながらその目には怒りと呼ぶには生易しい殺意と気迫  死を恐れぬ強さを感じられた。  「・・・何の事か分らな――」  「とぼけんじゃねぇ!!! ゴホッ!!」  聖矢の質問が本当に分らないサイネリアは聖矢の問に答えるが聖矢はそれを怒声で否定した。  「ゴホ! ケホ!・・・俺、が・・・この世界に、来た、時。俺は見たんだぞ?   その蒼い髪! 目!! てめぇ、が・・・悠人を連れ去る、のを! 見たんだ!! ゴホッ!! ごぼぉ!!」  等々痛みに耐えかねたのか、聖矢は口と腹を押さえ口から血の塊を吐き出した。  すると、手に着いた血を腕を切るようにして振り払う、そして弾き飛ばされた血が空気に触れ乾くと  淡い光と共に上空へと上ってゆく。  「な、なんだ・・・こりゃ? 血が・・・光って、る? ゴホッ!!」  『い、嫌! 今はそんな事はどうでも良い。今はこいつ等だ! 考えろ   今の俺の状態でどうやってこいつ等を倒すか・・・   どうやって悠人の居場所を聞き出すか! 考えろ!?』  自分の血がまるで蛍の様に宙を揺らめくのに驚愕しながらも  頭を振りその疑問を追い出し、目の前の”敵”に集中しようとする聖矢。  「・・・すまないが・・・本当に知らない。   それに、蒼い髪、青い目を持つものならアタイ以外にも居る」  「な・・・んだ、と?」  「アタイは、妖精(スピリット)の中の青妖精(ブルー・スピリット)と呼ばれる   種類の者だ。青妖精(ブルー・スピリット)は皆、青い髪と青い目をしているのが特徴だ。稀に違う奴も居るがね」  「・・・そう、か・・・」  「分ってくれたかい。それじゃアタイ等と一緒に―――」  「なら・・・しらみ潰しだ。まずは、てめぇから血祭りだ」  一瞬。聖矢にやっと言葉が通じたと思い安堵した瞬間だった。  聖矢の口から信じられない言葉が飛び出した。  「一匹・・・一匹、潰して、いけ、ば。何時か・・・辿りつけ、る・・・あばよ」  そう言って聖矢は、サイネリアへと踊り掛かろうとした。  その時・・・。  「・・・ファイア・・・ボール」 ヒュン・・・ドーーーン!?  「ぐっ!」  突然聖矢の足元が爆発し、聖矢は数メートル程吹き飛ばされ、地面に転がった。  「なん、だ?」    聖矢は、毒づきながら攻撃してきたであろう方角に目を向けた。 ザッザッ・・・  「・・・セイア、様・・・私がお相手いたします」  「・・・リ・・・ア」  「リア!?」  聖矢とサイネリアが同時に声を挙げる。  聖矢はフィオーネに食らった攻撃の傷から呟くような小さな声で。  サイネリアは驚愕と共に、両者は同じ名を呼んだ。  二人が視線を向ける先、そこには聖矢に対して人差し指立て、感情の篭らぬ瞳で見つめるリアの姿があった。  

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