・・・第一館リビング・・・ 「冗談じゃねえ!!」 バン!?十二妖精部隊 並びにアズマリアが居並ぶ中 アズマリアに、聖矢が今後副隊長に着くと言い渡されると イリーナは、テーブルを叩き大声をあげた。 「冗談じゃないよ。ほら書類もここにあるし」 そう言って、アズマリアはイリーナに副隊長着任の認可証を見せる。 「だああ!? なんだこんな物!!」 それを見たイリーナは、認可証を奪い取ると、破り捨てる 「こ、コラ! イリーナ!!」 「う〜〜!!」 リアやアルフィアがとめようとするがもう遅い。 既に、認可証は細切れにされ、紙くずになっていた。 「あ〜あ。ま、いいや、もう一枚あるから、はい。リア後でセイアに渡してね」 「なに!?」 「お預かりします!」 アズマリアがもう一枚の認可証を取り出し、リアに渡すとイリーナは驚き リアはイリーナに取られまいと奪い去るようにアズマリアから認可証を受け取った。 「それと、ラティオ片付けて貰える」 「はい」 床を見渡し、イリーナが細切れにした認可証の残骸を見つめ アズマリアがラティオに掃除を命じると、ラティオは静かに頷きホウキとチリトリを取りに、席を立つ。 「おい! リアそれよこせ!」 「駄目です!!」 ラティオがホウキとチリトリで、紙くずを片付ける中 リアとイリーナは認可証をめぐりもみ合いとなっていた。 「止めろバカモノ」 サイネリアがイリーナの頭を小突き、威嚇すると ようやく、イリーナは大人しくなり、不機嫌そうにしながらも大人しく席に着く。 そして、片づけを終えた、ラティオが席に着いたのを見て、アズマリアは再び、事の次第を話し始めた。 「突然のことで皆も驚いているとは思いますが、これは決定事項です。 セイアの了承も得ましたし、リアも納得済み。なのに、イリーナは何が不満なんですか?」 一口紅茶を飲み、アズマリアは、イリーナに視線を向ける。 「不満? 不満だと? なんでよりによってアイツが隊長なんだよ。 俺は、アンタに忠誠を誓ったが、奴に忠誠を誓った覚えは無いし、誓うつもりも無い。 それに、リアには背中を預けられる。だが、奴にはあずけられねえ」 頬杖を着き、明後日の方を向きながら、イリーナは不満げに呟いた。 「確かに。イースペリア国軍副隊長は代々十二妖精部隊 の隊長であり イースペリアの全妖精 を統括する役職。 それを来訪者 と言うだけで、何の実績も無い者に任せると言うのも 些か、無責任と言うか、無謀だね」 「そ、そうだろ! アネゴもそう思うだろ!?」 サイネリアが、もっともな事を言うと、イリーナは嬉々として賛同する。 「イリーナの場合、かなり私的な感情が、混ざってると思うだがな?」 「るせえな! そう言うお前はどうなんだよ。あいつが隊長でいいのかよ」 痛いところをレイアナにつかれたイリーナは、顎をしゃくりながら聞いてみる。 「別に良いんじゃない? ちょっとばかり考えなしの所はあるけど なかなか骨のありそうな奴だし、言うだけ言って、何もしない奴よりかは ましだし、リアがしっかり補佐するんだろし、ちょっとは講習受けさせるんでしょ?」 「はい。全力でお使えするつもりです」 「もちろん。二週間程度の短期間だけど講習は受けて貰うよ」 「なら、うん。大丈夫じゃない? 私は賛成」 リアとアズマリアの返答を聞き、レイアナは一つ頷くと、賛成の意思を伝える。 「女王よろしいですか?」 「なに? ジーン?」 「来訪者 様が副隊長になるのを容認するかしないかは ひとまず置いといて、部隊配置はどうなさるおつもりですか?」 「部隊配置? 私は、セイアに戦線に立って貰うつもりは無いんだけど?」 ジーンの質問を受け、アズマリアは。キョトンとした顔をする。 「え? ど、どういうことですか? 副隊長となれば、戦線で指揮するのは当然では無いんですか?」 「う〜ん。じゃあ聞くけど、神剣を持たないセイアが戦線に立てると思う?」 「・・・いえ。しかし、それでは、副隊長としての責務が・・・」 少し、思案しジーンは答えるが納得がいかないらしく、尚もアズマリアに食って掛かる。 「私は、セイアにとりあえず役職を与え、同盟国。特にラキオスの国王にセイアの存在を知られないように する為に、彼に副隊長の席を与えたの、多分だけど、ラキオスはこれから戦争をするつもりよ」 ”戦争”その一言に、皆がざわつく。 「な、何を根拠に!」 ライオネルが席を立ち、身を乗り出しながらアズマリアに問う。 「少し前に、ラキオスから一度に、五人の妖精 の徴収があったの。 しかもセイアを保護して一週間程度経った後に、よ」 「なるほど。”『求め』の来訪者 ”を手に入れた訳、か」 アズマリアの答えに合点が行ったのか、サイネリアが答えた。 「そ。最初は、少し多い。どうしたのだろう? くらいに考えてたんだけど、イリーナがレスティーナからの忠告を持ち帰って その理由も、合点が行ったわ。そして、セイアを隠し通さなければならないこともね」 「え? どうして?」 アズマリアがそう答えると、カレンが首を傾げる。 「つまりですね。来訪者 がそれだけ巨大な戦力と言うことですよ。 ラキオスは決して強国ではありません。以前のラキオスであればバーンライトと同程度の戦力しかありません。 まあ、”蒼い牙”とエスペリア、そして5、6人程度の戦力で考えれば ラキオスの三倍近い妖精 を保有するバーンライトと同等ならすごいことなんですけどね」 「え〜と、ごめん分からない」 「あ、あのね。ここまで言って分からない?」 「アハハハ。カレンはバカだな」 「ああ! なによ。イリーナだってバカのくせして!」 「んだと! 誰がバカだって!」 察しの悪い、カレンをイリーナがが小ばかにすると 怒ったカレンに悪口を言われた、イリーナは、椅子の上に立ち、テーブルに脚を載せ、腕まくりをする。 「やめろ! バカ共!?」 再び、サイネリアの拳骨が二人の頭に振り落とされた。 「てぇ〜なあ。頭悪くなったらアネゴの所為だからな」 サイネリアの拳骨を食らった箇所をさすりながら、愚痴を零す。 「貴様は元からバカだからこれ以上悪くはならないよ」 イリーナをあざ笑いながら、サイネリアがそう返すと、バツが悪そうにするイリーナ。 そして、見事な返しに周りから笑いがこぼれる。 「ちくしょ。ん・・・」 皆に笑われ、イリーナが悔しがって居ると、袖を引かれ振り返る。 すると、そこには、アルフィアが立っていた。 アルフィアは、イリーナにそっとメモ帳の切れ端を渡す。 そこには書かれた内容を読んだ、イリーナは、その切れ端をカレンへと渡す。 「今まで同等だった戦力バランスを崩し、勝つことが出来る力を来訪者 が有していて そんな強力な来訪者 がイースペリアに居ると知られれば、受け渡しを要求してくるでしょ? ああ! なるほど! アルフィアちゃんあったまいい〜!」 アルフィアのメモを呼んで、リアの言わんとしていたことを理解したカレンが満面の笑みでアルフィアを褒め称えると アルフィアは恥ずかしそうに、頬を染め、俯いた。。 「あれ? でも、セイアは神剣もってないよね? それなら、別に知られても大丈夫じゃない?」 だが、カレンから新たな疑問が聞こえた。 カレンは想像以上にバカだった。 「はぁ〜。セイアが神剣持って無いの知ってるのは、俺達だけだろが それに、なきゃ無いで、ある所には在る、だろ?」 「ある所、て・・・あ!」 ため息を吐き、イリーナが半分呆れながら、カレンに言う。 「マロリガン、か。なるほどね。北方五カ国だけでなく、大陸全体の運命の鍵はあの大将が握ってる訳、か」 レイアナが代弁すると、皆、納得が行った様に押し黙った。 「そう言うことです。どうか、な? 皆、協力して貰えないか、な?」 皆が何もしゃべらなくなり、沈黙が苦しかったのか、アズマリアが再び、聖矢を副隊長に置くことの賛否を問いかける。 「私からもお願いします。皆どうかお願いします!」 「う〜!!」 リアとアルは立ち上がると、皆に勢い良く頭を下げる。 「・・・ふ〜。そういうことなら、反対しても仕方あるまい。 だが、いくら飾りと言えど、副隊長と言うからには、職務をしっかりと全うして貰う。 戦えとまでは言わないが、な」 「あ、ありがとうございます!」 「う〜♪」 サイネリアが、一つ大きく息を吐き、リアとアルにニコリと笑顔を浮かべ 賛成の意思を見せた。 「貴方達はどうですか?」 「命令ならば・・・」 「・・・同じく」 アズマリアに意見を求めらると、ラティオとフィオーネの二人は、小さく呟き、頷くのみだった。 「そう。ありがとう」 そんな二人に、アズマリアは優しく微笑むと、礼を言い。 次いで、ライオネル達に意見を求める。 「僕も、良いよ。来訪者 が隊長なんて何かカッコいいし それに、副隊長て事は、訓練士も兼任するんでしょ? 僕あの舞みたいなやつ教えて貰いたいし」 そう言って、聖矢の舞葉拳を真似た動きを見せるカレン。 「全く貴方は、これは重要な事なのよ。分かってる?」 「分かってる。分かってる。で? ライオネルは?」 「私? 私は・・・賛成よ。 正直不安もありますが、何でしょう、こう、彼が隊長となった時の期待感と言う物があります。 リアさんとの戦闘には驚きましたし、あんなに成ってまで戦う姿に衝撃を受けました。 そして、オリビアさんを助ける為に、単身で総隊長。失礼。元総隊長に立ち向かった勇気には 脱帽の一言。そんな方が隊長に着くと聞いて、何かを期待せずには居られません」 「私は、反対と言いたい所ですが、事情が事情だけに仕方ありません。ですが」 嬉々として、セイアについて語るライオネルに次いで、ジーンが立ち上がり言葉を挟む。 「確かに、あの人の行動は端から見れば、賞賛に値するものかも知れませんが それは、民間人が火事の中に飛び込み、取り残された人を助け出したのと同じ 場当たり的で、独りよがりの行動です。 隊として考えた場合、そんな行動は、和を乱すことに成りかねません。 そんな人が私達の隊長だなんて、私は認めません」 言いたい事を言い終えたジーンは、席に着く。 ジーンの意見を聞いた、イリーナは嬉しそうに拍手していた。 レイアナは先ほど、賛成の意思を伝えていたので、ハルナに意見を求められた。 「わ、私も・・・賛成・・・です。 ちょ、ちょっと・・・怖い方、です、が。 わ、私・・・に。笑い掛けて・・・下さい、ました。 オリビア・・・さんの為に・・・一生懸命、頑張ってました。 私も、一緒に頑張って・・・また、笑いかけて・・・貰いたい、です」 ハルナは真っ赤になりながら、最後のほうは声が小さくしぼんで行ったが 最後まで頑張って自分の意見を言った。 そして、その姿に皆は少々驚いていた。 恥ずかしがり屋のハルナが、自分の意見を誰に流されるでもなく言ったからだ。 「さて、イリーナは?」 「あいつの事は大嫌いだ。俺の事をチビチビ呼びやがるからな。 だが、俺もガキじゃねえ。アズマリアがあいつを副隊長の席に着けるのに、どんだけ苦労したかも 察しがつくし、リアやアルがあいつを慕ってるのも知ってる。 あいつに、俺のことをチビ呼ばせるな。それが条件だ」 そっぽを向きながら、そう答えるイリーナ。 イリーナの答えを聞き、アルフィアが嬉しそうに抱きつくと イリーナは、顔を真っ赤にして照れていた。 「え〜と。後はセリーヌだけだけど・・・あれ?」 最後に意見を聞こうとしたセリーヌはずぅっと窓の外を眺めていた。 アズマリアの声が聞こえていないのか、振り返る様子は無い。 「セリーヌ?」 アズマリアが再度呼びかける。 そして、皆もセリーヌに視線を向けた。 「・・・アズマリア様。セイアさんはどうして、副隊長になる事を了承したんですか?」 セリーヌの口から漏れた最初に漏れた言葉は、賛成、反対の類ではなく アズマリアへの質問だった。 「・・・御子息の為だと言っていました。 最初、彼は自分にはこの国で命を張る理由が無い、と でも、友達を助け出すために、御子息の安全の為にこの国の為に命をかけると言いました。 何ででしょうね? 彼はまるで自身の人生が自分の為では無く 自身の大切な人の為のみにあるようですね」 「・・・9、いえ。10ですか」 窓の外を見ていた、セリーヌが訳の分からない事を言い。 皆が、首をかしげる。 「セイアさんが、この窓の外を走って行った回数ですわ アズマリア様。私も賛成に一票入れますわ。 自分の人生は大切な人の為にですか。でもそれは自分が大切な人達に 幸せになって欲しいから、傷つく姿を見たくないから・・・突き詰めれば自分の為 それが出来るように守って差し上げたい。可笑しいかしら、こんな考え方?」 セリーヌはそう言うと、窓から離れ、スカートをつまみ上げ一礼すると リビングを出て行った。 ・・・・・・・・・。 ・・・・・・。 ・・・。 「ぜえ! ぜえ!」 聖矢は芝生の上に大の字になり胸を上下させていた。 「所為が出ますわね」 「ぜえ! ぜえ! ・・・?」 突然上から声が聞こえた。 片目を明けると、その先に、金の髪に優雅に微笑む女が居た。 「セリーヌと申しますわ。 本日より、貴方を隊長とする十二妖精部隊 の第三部隊で隊長をしていますの どうぞ、お見知りおきを」 汗だくの聖矢の汗をタオルで拭いながら、セリーヌは自分を紹介する。 聖矢は何が何だか分からないが、先ほどまで、全力疾走で走っていたので、今は聞き返す余力が無く セリーヌの一方的な自己紹介を聞かされていた。 「これ、置いていきますわ。それでは」 聖矢に、タオルを手渡すと、セリーヌは優雅にお辞儀をし、自分の館の方へと歩いて行く。 『人は他人の為に、あんなにも辛く厳しい訓練に耐え、立ち上がり、そしてまた歩く事が出来るんですね なんて、美しいのでしょう。流す汗一つ一つに、その行動の一つ一つに 貴方の大切な人への想いの強さを感じますわ』 「おと〜さ〜ん!! もうすぐご飯だよ〜!!」 第一館の二階の窓から子供の声が聞こえる。 声のした方向に目を向けるとそこには、嬉しそうに手を振る幼子の姿があった。 「おう! 今行く!!」 そして、次いで、その声に答える様に、野太い男の声が響く。 「セリー!! ありがと!?」 立ち止まり、その二人のやり取りを眺めていると、突然、声が飛んできた。 そこには、先ほど渡したタオルを掲げ、私に手を振るセイアさんの姿があった。 『人にお礼を言われるなんて初めてですわ。 なんでしょう? 些か・・・いえ。結構嬉ですわね』 私は、セイアさんに向き直り、スカートの端を摘みながら大きくお辞儀をし その場を離れる。 明日から今までと違う一日が始まる。 少しの不安。 少々の期待。 そして、これからの日々を想い私の胸は高鳴っていた。 ・・・・・・・・・。 ・・・・・・。 ・・・。††††† ・・・第一館、聖矢の部屋・・・ 聖矢が、十二妖精部隊 の隊長、並びにイースペリア国軍副隊長に 就任し今日で調度二週間の月日が経っていた。 これまで、いろいろと教習めいた座学や、訓練施設、兵舎、エーテル変換施設などの説明や訪問、さらには日々の訓練や語学の勉強と言った事を繰り返し 本日ようやく、聖矢は副隊長としての初仕事に着くことになった。 朝、何時もの様に早朝の訓練を終え、部屋で準備をしていると、リアとアルフィアが部屋を訪れた。 「おはようござざいます」 二人は、部屋に入るなり、一礼する。 「おはようございます」 それに習うように、リュウセイが二人にお辞儀する。 家に帰してくると言い、家を出たのに 帰ってくると、俺の息子だといって、ひと悶着あったが いまやすっかり慣れたのか、皆何も言わないし、俺の息子として認知してくれている。 「ああ。おはよ。どうした」 リュウセイの頭に軽く手を置きながら、挨拶を返し 突然の訪問の理由を尋ねる。 「今日が正式な着任と言うことですので、挨拶をと思いまして」 リアがそう言うと、アルもコクコクと頷く。 「相変わらず、堅苦しい奴だな。 別に今まで通りでいい、て」 もう、うんざりと言うように、手をヒラヒラさせる。 「すみません。それと、良かったこちらを御召しになってください」 「ん? 服となんだこりゃ?」 リアが差し出したのは、赤と白を基調にしたコートと黒い胸当てだった。 胸当ては持ってみると見た目以上に軽く、そして丈夫そうだった。 「う〜♪」 次いで、アルが嬉しそうに、何か包みを差し出してきた。 「今度はなんだ?」 「セイア様。デオドガンのレイチェルさんとシャオメイさんを覚えていますか?」 聖矢が首を傾げると、リアが俺に問いかけた。 「レイとシャオ? あ、ああ。覚えてるけど・・・。 なんでお前が知ってるんだ」 「あ、私は会ってないのですが、セイア様が牢獄に居た時に尋ねて来られたらしく これをセイア様にと、助けられたお礼らしいですよ?」 「礼だと? ・・・あれか? たく、変な気回しやがって、貸し、借り無しだって言ったのによ」 リアの説明を聞き、頭を掻く。 「おとうさん。見せて見せて」 「ああ。わかった。わかった」 リュウが目を輝かせながら、俺に聞いてくる。 軽くなだめながら、包みを開けて行く。 「・・・手?」 「篭手です」 包みを明けて現れた物を見て、俺が呟くと リアが間を置かずに、答える。 そうそれは、手・・・もとい篭手。 銀色に輝き軽く、細工が施された素人目にもそれが、高価なものだと分かる 見事な篭手だった。 「わあ。キレイだね。おとうさん」 「ん? あ、ああ」 綺麗、そうとても綺麗だ。 ただ。綺麗なだけじゃない。なんて言うかすごく魅力的だ。 これを付けて戦いたい。そんな想いを駆り立てる妖しい魅力があった。 「それにしても、すごいですね。ちょっとよろしいですか?」 その見事さに、リアやアルも感心しきりだった。 リアは、篭手を取り、軽く分解し裏側を見て驚いた顔をした。 「ク、クォーフォデ!! これ、クォーフォデ様の作品ですか!?」 クォーフォデ。人の名前だろうか。 どうやら裏側には、銘が刻まれているらしく、それを見て リア、だけでなく、アルも驚いている。 「クォーフォデ? なにこれそんなにすごいの?」 「す、すごいも何も。さ、最高級品です。 高名な技術者にして、最高の鍛冶職人であるクォーフォデ様の作品。 わ、私も見るのは初めてです」 「う〜〜!!」 「へぇ〜。ま、いいや付けてみるか」 少々興奮気味の二人を置いて、俺は、その最高級と言う篭手を付けてみた。 「お。こ、こいつは」 「ど、どうしたんですか!?」 篭手を付けてみて、まずその付け心地に驚いた。 内側に巻かれた布状の物は、エーテル繊維と糸の様な合金とで編まれており それがまるで俺の腕にあつらえた様に吸い付いてくる。 肘まで覆っているのに、まるで、動きを阻害せず、手首まで綺麗に回る。 通気性も良さそうだ。なるほど、最高級と言うのも頷ける。 「すごいな。武具に関してはまるで素人だが、こいつは、俺でも 只者じゃないのを理解できるぜ」 二人に、その付け心地を説明すると ものすごく、羨ましそうに篭手を見ていた。 そして、黒金色の胸当てと背中に大きなイースペリアの国旗と胸に小さな国旗が描かれた コートを着込むと、二人から感嘆のため息が漏れる。 「おとうさん。カッコイイ」 「へへ。ありがとよ。じゃ行ってくる。 いい子にしてろ」 「うん!」 息子に言われ、少々照れくさい。 とりあえず、軽く頭をなでてやり、副隊長としての初仕事に出ることにした。 「はい。では、訓練場まで案内します」 「と、そうだ。アル」 リアと共に部屋を出ようとして、ある事を思い立った俺は 部屋の片隅に置いて置いたある物を取り出し、そこにさらさらと文字を書く。 「これやるよ。メモ帳を破ってちゃ大変だろ。 貰い物だが、こいつ使えよ。じゃあな」 そう言って、それをわたし俺は、リアと共に部屋を出る。 俺がアルに渡した物それは、”黒板”篭手と同じく、俺がデオドガンの奴等に 貰った、黒板だった。デオドガンのコテージでそれを見たときから決めていた。 こいつで、アルと会話しよう、と・・・。 『リュウセイを頼んだ』 それが、俺が黒板に書いた最初の言葉だった。 ・・・訓練場へと続く道・・・ 「セイア様。こちらが訓練メニューなります」 「ん? メニュー?」 リアに手渡された資料をペラペラと捲って見る。 そこには、これから聖矢が他国から預けられた妖精 達へ 訓練メニューが事細かに記されていた。 「こんな物があるのか・・・」 「そしてこちらが、これからセイア様が訓練される妖精 達の プロフィールです」 「ん。ラキ・・・オ・・・ス」 書面の冒頭に記された。所属国家の表記を見て聖矢が読み上げる。 「はい。セイア様の要望どおり。 ラキオスの訓練生四名を担当していただきます」 「助かる。これで、ラキオスの妖精 達の特色や 戦闘レベルが図れる。すまんなこんな根回しをさせて」 「いえ。気にしないで下さい」 気にするなと言う、リアに聖矢は苦笑し、自分の都合に付き合わせた謝罪もこめて 頭をくしゃくしゃになでてやる。 「わ、きゃ!」 「わはははは!?」 「もう。何をなさるんですか」 リアは、聖矢になでられ、崩れた髪を整えながら聖矢にこれからの訓練や 聖矢が担当する四名について説明していった。 ・・・・・・・・・。 ・・・・・・。 ・・・。 ・・・イースペリア訓練場・・・ 「ラキオス訓練生集合!?」 訓練場に着き、聖矢の横でリアが叫ぶと、青妖精 と赤妖精 の二人組みと黒妖精 と緑妖精 の二人組みが近づき整列する 「休め。今日から貴方達を担当することになったセイア様です。 セイア様どうぞ」 「ん。 セイア=シロガネだ。 これから訓練を担当するが、俺の訓練をお前等がやろうとやるまいとどうでもいい 訓練をやりたくない奴は、やるな・・・」 「な、何を言っているんですか!!」 突然、訳の分からないことを言い出した聖矢をリアが制止する。 訓練生の面々も訝しげな視線を向ける。 「ただし!! やる気の無い奴は出てけ。 他の奴等に迷惑だし、俺もやる気の無い奴に構う時間を他の奴等に割ける。 訓練は、辛く厳しく、お前達に常に問いかけるだろう。 もう嫌だ。もうやりたくない。少しくらい休んでも良いだろう。 休みたい奴は休め! やりたくない奴は止めろ!! だが、強くなりたければ、そんな弱音を殴れ飛ばせ! ぶっ殺せ!! そうすれば、今よりは強くなれる。以上だ」 「セイア様・・・」 聖矢の言葉を聞き、安心したのか、リアは目を細める。 「それでは、各自自己紹介を」 「はい。【熱病】のセリア=ブルー・スピリットです。 ロールは、アタッカー、サポートです」 髪をポニーテールにし、何処か涼しげな表情の少女が名乗りを上げる。 「【消沈】のナナルゥ=レッド・スピリット。 ・・・サポート」 次いで、前髪をまっすぐに揃えた長髪のレッドスピリットが淡々と名乗る。 何処か、雰囲気がフィオーネやラティオと似ていた。 「・・・【曙光】のニムンストール=グリーン・スピリット ディフェンダー」 面倒くさそうに、まだ幼い少女が名乗る。 背格好はイリーナと大差なく。年齢的には、ハルナやジーンと同じくらいか少ししたくらいだろう。 「【月光】のファーレン=ブラック・スピリットです。 ロールはアタッカーです。よろしくお願いします」 最後に、礼儀正しくお辞儀をし、鉄仮面をかぶったおかしな妖精 が名乗り上げた。 「あの、セイア様」 「なんだ?」 皆の紹介が終わると、リアが聖矢に声を掛ける。 「セリアとファーレンは、セイア様が始めてこの世界に来た時、私と共に捜索隊として セイア様を助けた者です」 「そうなのか、とりあえず礼は言っとく。ありがとよ」 リアにその事実を知らされ、聖矢は驚くでもなく、素っ気無く答え。 事務的に礼を言うだけだった。 聖矢の反応に、セリアの眉がピクリと動く。 そして、ニムントールが怒り、ファーレンがそれをなだめていた。 「良し、早速始めるぞ。 まずは、テメエ等の実力が知りたい。各自一対一を一回づつ戦れ。 赤、黒からだ」 「は、はい!」 「ナナルゥです。始めます」 そんな事はお構いなしとばかりに、命令口調で聖矢告げると 二人が進み出て、構えを取る。 「始め!!」 聖矢の掛け声を合図に、二人の戦いが始まった。 「そ、それでは、セイア様、よろしくお願いします」 「まて、これ、返す」 後の事を聖矢に任せ、この場を去ろうとしたリアに、聖矢が二つの書類を差し出す。 「え? し、しかし」 「こいつ等の名前を覚える気は無いし、訓練のメニューは俺が決める。 全員同じ訓練なんてやっても意味は無いからな。こいつ等のことは俺が任されたんだ 俺の好きにさせてもらう・・・良いな」 「・・・分かりました。それでは」 「おう」 短く答え、聖矢は腕組をし、ナナルゥとファーレーンの戦いを静観する。 リアは、一抹の不安を感じながらも、その場を後にした。 『もう直ぐだ。悠人。もう少し待ってくれな。 直ぐに助けに行くからよ・・・こいつ等の譲渡に便乗してな』 聖矢が、ラキオス訓練生の訓練士を願い出たのには、先に述べた理由とは別に もう一つ重要な理由があった。 それは、講習を受けているときに知った事実、格訓練生の譲渡には、十二妖精部隊 から一人が 引率に当たるというものだった。 聖矢が、彼女達の訓練士をする理由それは、ラキオスに潜入する為、ただそれだけだった。 ・・・・・・・・・。 ・・・・・・。 ・・・。 ・・・イースペリア、地下牢獄・・・ 「お〜い。飯だ。しかし、アンタもバカだねえ。 元! 総隊長さん。そろそろ傷も癒える頃だ。 国外追放か、女王様に感謝しろよ罪人。あんな事をしでかした アンタを、処刑しなかったんだから、な」 ことさら、元を強調し、かつての上司に向かって 今までの憂さ晴らしをする、兵士。 「・・・ま、アンタとは二度と会わないだろうが元気でやりな」 ガリオンからは、何の返事も返ってこない。 今までもずっとこんな感じだ。 兵士は、つまらなそうに、ため息を吐くと、立ち上がり牢屋に背を向ける。 その時・・・。 ゴキャ! 「あぎゃっ!」 何かが折れる音が短く響き、次いで硬い石畳に明後日の方向を向いて、兵士が転がった。 転がる兵士から、鍵束を奪い取り 鍵穴に鍵を一つ一つ差し込み、牢屋の扉を開ける。 「エトラン、ジェ・・・アズマリア。 エトランジェ! アズマリア!! イースペリア!!!」 血走った目をしながら、ぶつぶつと呟くと共に 兵士が運んできた食事を貪るガリオン。 「復讐だ。消してやる。 この世から消してやるぞ。この国を、消してやる」 兵士の服を着込み、ガリオンは何食わぬ顔で、地上の牢番をやり過ごすと その日の内に、イースペリアから忽然と姿を消した。