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・・・イースペリア王宮、アズマリアの私室・・・

 オリーブがイースペリアを去り数日が経った。
 その日、いつもの様に、訓練に行こうとすると、リアに呼び止められた。
 
 「セイア様。本日の訓練は控えていただけませんか?」

 などと、言って来た。
 当然俺は、断り、そのまま訓練に行こうとして
 チビの当身を食らい、縛られ、リアとアルに担がれてここに居る。
 そう、あの大きな城の中、嬢ちゃんの部屋にだ。

 「みんな、ご苦労さま。もういいですよ」
 
 縛られたままの俺をソファーに下ろし
 三人は一礼して退席して行く。

 「もう一度会っておりますが、とりあえず挨拶させていただきます。
  この国の女王をしております。アズマリア=セイラス=イースペリアと申します
  どうぞ、気軽にアズマリアとでもおよびください」

 などと、優雅に微笑みながら俺に挨拶する嬢ちゃんに
 俺は、縛られた状態のまま、睨み付けるとともに
 この扱いの苦情を吐露した。

 「おう・・・。嬢ちゃん。
  なんのつもりだ? 俺は忙しいんだ。
  とっとと、離せ」
 「ええ分かりました。では、話ますね」
 「あ?」

 紅茶に一口飲むと、嬢ちゃんは、縛られた俺に向かって
 なにやら、意味不明な事を話始めた。

 「実はですね。この間の処刑事件で我が国の、防衛力が些か低下してしまいまして
  妖精(スピリット)の被害は微々たるモノで差たる事は無いのですが
  何分衛兵の数がそれなりに不足してしまい、まあそれは、傭兵を雇うことで事足りるので良いのですが
  命令系統に些か問題がありまして・・・」
 「いや、おい? 誰もそんな事は聞いて・・・」
 「ほら、今までイースペリア国軍の最高司令官の地位についていた、ガリオンがその地位を剥奪されてしまったでしょ?
  そうなると、新しく誰かをその地位に置かないといけない、ですが、ガリオンと一緒に、その副官や部下まで
  ガリオンと一緒に捕まってしまいましたし・・・」
 「なあ? 俺は、な。離せ、は・な・せ、て言ったんだぞ?
  お〜い? 聞いてるか?」
 「そこで、私は考えました。
  どうです? イースペリアの総隊長をやって見るきはありませんか?」
 「人の話を聞け〜!!」

 ・・・・・・・・・。
 ・・・・・・。
 ・・・。

 ようやく、開放された。
 そして、差し出された紅茶を飲みながら、俺は嬢ちゃんの話を聞いていた。

 「・・・で、どうですか?
  貴方は、ラキオスに居るご友人を助けるのでしょ?
  その為には、情報、仲間、衣、食、住。何かと入用になると思いますし
  悪い話ではないと思いますが?」
 「・・・ご馳走様。そいじゃ、な」

 目をキラキラさせ、俺に詰め寄りながら再度念を押すように聞いてくる
 嬢ちゃんに、飲み干した紅茶のカップを置き、俺は立ち上がる。

 「あ、ちょ、ちょっと」
 「別に俺は、この国の誰がどうなろうと興味が無え。
  面倒な事は、嫌いだし。好き好んで他人の為に張るモノは持ち合わせて無い。
  リア、アルと何人かには感謝しているし、友達だと思ってるが
  国なんぞの為に働く気は毛頭無い、それに、悠人は俺の力で助け出す。
  あんたにとやかく言われる筋合いも、義理も無い」

 尚もしつこく俺に食い下がる嬢ちゃんに俺は、出口へと歩きながら 
 飾る事無く本心をそのまま聞かせる。

 「それに、真っ先に他人を頼ろうとするあんたが気に食わない
  そんなに、その隊長さんが必要ならテメェがやれ」

 中指を立て、ちょい低めの声と共に言ってから扉を閉める。

 「・・・ん〜。やっぱり駄目かぁ・・・。
  リアの言ったとおりだ。プランAは失敗。
  よ〜し! プランBはっつどー!」

 ・・・・・・・・・。
 ・・・・・・。
 ・・・。

	コンコン・・・!

 「失礼します」

 聖矢が、城を後にしたのち、アズマリアは聖矢が断ることも見越し
 もう一人呼びつけていた。

 「よくいらっしゃいました。
  先の反乱では、よく働いてくれました
  え、と・・・名は何と言いましたか?」
 「はっ! 私は、城の衛兵を任されております
  ”ディオス=ペンドルト”と申します。
  お褒めに預かり光栄です。陛下」

 アズマリアが現れた兵士に、声を掛けると
 兵士、ディオスは、手を後ろに回し、胸を張り
 微動だにする事無く、敬礼と共に声を張る。

 「では、ディオス。
  早速では、ありますが貴方に頼みがあります」
 「はっ! 何なりとお申し付けください」
 「・・・貴方にはイースペリア国軍総隊長の地位に着いて貰います。
 「はっ! 了解しま・・・は?」
 
 一瞬アズマリアの言っている言葉が、理解できず
 ディオスは静止した。

 「それに伴い、部隊配備及び指揮、適材適所の建築指示、訓練士、兵士の配属、任命等の
  指揮権が貴方には与えられますが、貴方は一般兵士訓練課程を終えたばかりですので
  明日より、二週間の特別上級仕官訓練課程を受けていただきます。それを終えたのち
  正式に任命、通達と言う形になります」
 「え? あ、あの・・・それは・・・」

 書面に目を通しながらディオスに対して淡々と説明するアズマリアの説明に
 明らかに戸惑うディオス。

 「本来なら、上級仕官訓練生を登用無いし、下士官に任命するべきなのでしょうが
  此度の一件で、私は自分の信用の置ける者に任せたいとの意向を大臣達に伝え
  了承を得ました。そこで、あの一件でもっとも国の為に奔走してくれた貴方を
  私は、評価しました。そこで、貴方に任せることにしました。
  軍部の者達には、反対する者も居るでしょうし、同盟国の中には、市勢出の貴方を
  見下す者も居るでしょうが、私は、貴方を信頼します。
  上級仕官訓練期間、二週間と言う短い期間では、半ば拘束に近い時間貴方を
  縛りつける事でしょうが・・・どうぞ、頑張ってください。
  すみません。この様な事しか言えず・・・」

 説明を終えたアズマリアは、ディオスになぜディオスを総隊長に推したかを
 切々と語り、最後には頭を下げた。

 「・・・頭をお上げください。
  このディオス=ペンドルトをそこまで、評価していただきありがたき幸せ。
  陛下、イースペリアの為に成る事でしたら、私は、命を掛ける覚悟
  貴方の信頼を裏切らぬ様、精一杯やらせていただきます。
  若輩者の私が、この様な扱いを受け、恐悦至極・・・謹んでお受けします」
 「・・・ありがとう。期待していますよ・・・ディオス」
 「はっ! 失礼します」

 最後に、アズマリアに敬礼をし、部屋を出て行くディオス。
 その目には、権力と地位を得たと言う喜びよりも
 自分が民を親、兄弟を守るんだと言う、強い意志が窺い知れた。
 また、それが、ディオスを総隊長に任命する決め手になった。
 そして、アズマリアは、最初から聖矢が断る事を十二分に予想できていた。
 もし、聖矢がこの話を受けた場合、最低限の権力のみを与え、ディオスを副官にし
 総隊長の職務を自分が行う、覚悟で居たのだ。
 
 「ふふ・・・。やはり、あの二人は、強い。
  イースペリアを頼みますよ。ディオス。
  そして・・・セイア。必ず、貴方を引き入れて見せます。
  貴方を、戦争の道具などにはさせません。
  四人の来訪者(エトランジェ)の悲劇を繰り返さぬ為に・・・」

 誰も居なくなった私室で、アズマリアは外を見つめながら
 誰とも無く、決意を口にする。

・・・イースペリア、郊外・・・

 アズマリアの元を去った後、聖矢は、今日も訓練に勤しんでいた。
 本格的な訓練を始めてより、まず体力強化、とりわけ長距離のランニングに
 多くの時間を費やしていた。
 この日も、リア達の館から街を抜け街の入り口に差し掛かったあたりから
 再び引き返す。また、走る中でダッシュや舞葉拳の型を確かめる事は忘れない
 基本の体力を引き上げ、疲れていても動ける体、あらゆる状態での技を放てる様に
 体に技を動きを覚えこませてゆく作業を、黙々と繰り返す。

 「はあ! はあ! よ、よしっ・・・次、だ!」
 
	リィ・・・ン

 日が落ち、夜になるかならないかの時間
 木に手を着き、汗を拭いながら、息を吐く聖矢の耳に鈴の音が聞こえた。
 その音に、振り返ると、何時ものようにアルフィアが、聖矢を迎えに来ていた。

 「・・・もう、そんな時間、か」

 アルフィアを見て、そうこぼすと、アルは軽く微笑み頷く。
 アルフィアは、何時も同じ時間に、夕食の時間になると聖矢を迎えに来る。
 訓練を始めた頃は、此処に聖矢が辿り着く前に、倒れていたり
 今にも倒れそうな風体で辿り着く事も日常茶飯事だった。
 ようやくその自殺的な訓練に体が慣れてきたのか、聖矢も倒れたりするのも少なくなっていた。
 
 「ああ、わかった。行こう」
 
 木から手を離し、アルフィアの元に歩き出す聖矢。
 その時・・・。

 「お、お父さん!!」

 突然、後ろの方から子供の大声が聞こえた。
 その声に、振り返る。

 「ちっ・・・おい、ガキ。
  俺は、テメェの親父じゃねえ・・・帰れ」

 振り返った聖矢は、またかと言うように
 舌打ちすると、子供に向かって威圧する。

 「お、おとうさん。おとうさん」
 
 聖矢を父と呼ぶ子供は、フラフラになりながら聖矢へと近づく。
 
 「お、とう・・・さん」

 そして、聖矢の下にたどり着くと
 抱きつき、嬉しそうに微笑んだ。

 「だから! 俺はお前の親父じゃねえ!!」

 だが、聖矢はそれを振りほどく。
 聖矢の力に年端も行かぬ子供が抗うことなどできるはずも無く
 子供は派手に転倒し、打ち所が悪かったのか、ピクリとも動かなくなる。

 「う〜〜!!」

 それを見たアルフィアは、すぐさま近づき助け起こす。
 そして、子供が気を失っているだけだと分かると
 ホッと息を吐く。

 「・・・ほっとけ、行くぞ」
 「う〜〜!!」

 だが、聖矢は、子供を心配する事無くさっさと行こうとする。
 それをアルフィアが非難する様な目を共に止める。

 「・・・ちっ。勝手にしろ!?」

 アルフィアの非難の目に対して、舌打ちと共に視線を逸らすと
 聖矢は、先に第一館を目指し、歩き始める。
 アルフィアは、子供をこの場において行けず、抱きかかえると
 聖矢の後を追って、歩き始めた。

・・・イースペリア、第一館・・・

 「ただいま・・・風呂借りるぞ」
 
 聖矢は館にたどり着くと、そのまま部屋へと上がり
 服を取ると、そのまま、風呂へと直行しようとした。

 「ちょっと待て!!!」

 だが、それを、イリーナに止められる。

 「あれ、なんだ?」
 「・・・ガキ」
 「んな事聞いてんじゃねえ!!
  なんで、人の子供を連れ帰ったか聞いてんだよ!?」

 イリーナは、アルフィアの胸に抱かれ、眠る事どもを指差し
 聖矢の襟首を掴みながらがなる。

 「知らん。俺が街を走ってたら勝手に着いて来たんだよ
  んで、俺を泣きながら”おとうさん”とか呼びやがるから
  ひっぱたいて、気絶させたら、アルが勝手に連れて来た
  俺は、無実で、無関係だ」
 
	ガシャーーン!!

 「お、お・・・お、とう・・・さん・・・。
  せ、セイアさまの・・・こ、こど・・・も・・・」

 聖矢が、掴みかかるイリーナに説明していると
 食堂から、料理を運んできていたリアが、食器を落とし
 虚ろな瞳で、小刻みに震えていた。

 「いやいや! 俺の子供じゃないから!?
  この世界に来て、まだ誰とも寝てないから!?」
 「この・・・世界?」
 「・・・へ?」

 リアが、何か勘違いしている事に慌てた聖矢が
 弁明すると、イリーナが聖矢の言葉にピクリと反応した。

 「この世界? この世界、て。どぉ〜いう事だ?
  つ・ま・り、ハイペリアでは、寝てったて事か? ああ?」
 「お、おいコラ! 人の揚げ足を取るんじゃねえよテメエは!
  話がややこしくなるだろうが!!」
 「るせえ! テメエやっぱりそういう奴だったのか!?
  さては、俺達の事も狙ってるな! この変態め!」
 「ほ、本当の所はどうなんですか! セイア様!!」
 「正直に吐け!! セイア!!」

 ここぞとばかりに、イリーナは聖矢を親の敵の様に睨み付けながら
 リアは、悲しみに満ちた表情で、共に聖矢に詰め寄って行く。
 聖矢は、二人の余りの迫力に、たじろぎ、後退してゆく。

 「あ、いや。俺、別にチビリーナに興味ないし
  だ、だからって別に、リアやアルに何かしようって訳じゃ・・・」
 「ああ!? だれがチビだってコラ!!」
 「わ、私はそんなに魅力が無いんですか!!」
 「いや、その魅力とかじゃ無くてだな・・・」

 最早、聖矢は修羅場へと突入していた。
 その時・・・。

	ピピィーーー!!

 収集の着かない状況をアルの笛の音が静止する。
 そして、メモをリアへと差し出す。

 「え〜と? 皆さん。そんな事より、今はこの方を寝床に運びましょう、話は、それからです。
  セイア様・・・ベッドを貸してください?」
 「ちょっと待て! 何で俺が見ず知らずのガキに自分の寝床を貸さなきゃいけないんだよ!!」
 「見ず知らず? テメエが何処かの女と作ったんだろが!!」
 「んな事してねえーー!!」

	ピピィーーー!!

 再び鳴り響く、笛の音。
 此処まで、ドタバタと音を立てても、子供に起きる様子は無い
 よほど疲弊しているのだろう。
 皆が、おとなしくなると、アルフィアは、聖矢に深々と頭を下げながら
 リアにメモを差し出す。

 「・・・お願いします。だそうです」
 「・・・お願いします、か。
  ふぅ。分かった。勝手にしな」

 メモに書かれた文書を読んだ聖矢は、渋々と言った様子で了承した。
 そして、聖矢が了承すると、アルフィアは、頭を挙げ、笑顔と共に聖矢に、子供を渡す。
 
 「お、おい。なんだよ」

 聖矢が戸惑いを見せると、再びアルフィアがメモをリアに手渡す。
 
 「・・・アルフィアは、食器の片付けを。
  私は、食事の運搬。イリーナは、大人しくしていること。だそうです」
 「ヘイヘイ。了〜解」

 メモに書かれた事を説明され、聖矢は納得したのか渋々了解する。

 「クソガキ、てめぇこれ捨てとけ」
 
 リアから三枚のメモを奪い取り、ソファーに転がるイリーナの顔にメモを落とすと
 聖矢は、スタスタと自分の部屋へと上がって行く。

 「おいコラ待て! おい!!」

 イリーナの抗議の声が聞こえるが無視して・・・。

 ・・・・・・・・・。
 ・・・・・・。
 ・・・。

 聖矢が、部屋へと辿り着き眠る子供をベッドに下ろし
 部屋を出て行こうとすると

 「・・・む」

 子供が聖矢の袖を掴んでいた。

 「おい、コラ! はな・・・」
 「・・・おとうさん」
 「・・・ちっ。お願いします、か
  頼まれちまったし、な。今日だけだ。
  感謝しろよ・・・ガキ」

 聖矢は、そう言うと、つかまれる右腕をベッドの上に置いたまま座り込んだ。 
 
 「・・・父さん、か」
 
 昔を思い出し、口に出してみる。
 父は、俺を育てる為に、俺が起きる前に、仕事に行き
 俺が寝てる時に帰ってくる。
 だからか知らないが、たまの休みに二人で居る時は本当に嬉しかった。

 「・・・なあ、お前も親父居ないのか?
  だからって、父さんはねえだろ?
  責めて・・・お兄様辺りにしろ、ガキ」

 少し、昔の自分を思い出した聖矢だった。
 もう戻れない。懐かしい寂しくも嬉しかった日々・・・。

†††††
・・・イースペリア、市街・・・  翌朝、俺は、街に居た。  今日は、訓練では無く、例のガキを家に返す為に・・・。  「あの・・・おとうさん?」  「お父さんじゃない! なんだ?」  「う、うん。ぼく、どうしてもかえらなきゃ、だめ?」  「駄目だ。テメエが居ると、俺はベッドで眠れない。   夜中に泣かれちゃうるさい。お前、うぜえんだよ」  「・・・ごめんなさい」  とりあえず、手を繋ぎながら街を歩いている。  さっきから、ことあるごとに帰りたくないと言ってくるが  俺は、それを一蹴し続け、そして、謝るという繰り返しだった。  ・・・・・・・・・。  ・・・・・・。  ・・・。  「おとうさん?」  「父さんじゃない! なんだ?」  「・・・タバコ」  「あ? タバコ?」  またしばらく歩いていると、ガキが俺に声を掛けてきた。  「・・・からだにわるい、よ」  「ああ。るせえなあ! もう!?」  もごもごと奥歯に物が詰まった様にしゃべるガキにこれ以上  怒鳴り散らすのも面倒だったので、タバコを携帯灰皿に押し付ける。  「おとうさん」  「今度は何だ!?」  「お家・・・着いた」  「・・・ここ、か?」  「・・・うん」  ガキに言われるままに、家を探していると  ようやく、その家にたどり着いた。  そして、驚いた。  ものすげえ大きな家だ。大邸宅だ。  「お前本当に此処に住んでるのか?」  「・・・うん」  何だか、様子がおかしい。  さっきからこいつは、俯き、俺の手を強く握ってくる。  何か、怖がってる?  「ちょっと、貴方! 何ですか、人の家の前で!!」  門の前に立っていると、馬車が近づいてきて  その馬車を駆る、一人の如何にも執事ですという  ジジィが俺に訝しげな視線と共に、声を掛けて来た。  「テメエ等の所のガキを連れて来たんだよ、タコ!!   こいつの所為で、俺は、一晩中床に座って寝かされたんだ!   さっさと引き取れ!?」  ジジィにムカついた俺は、ガキの首根っこを引っつかみ  掲げながら、怒鳴ってやった。  「まあまあ、それは、ありがとうございます」  「パウリー様!」  俺がそういうと、馬車の中から、今度はオバンが出てきた。  そいつは、何だか仮面を着けた様な、君の悪い笑顔で近づいてきた。  「あ〜! ボウヤ心配しなのよ。   さあ、お家に入りましょ、貴方どうもありがとう」  「礼は、いらねえ。自分の子供なら、しっかりと躾な、じゃあな」  「ま、待ってお父さん!!」  「お父さんじゃ・・・っ!」  また、俺を父と呼んだガキを怒鳴りつけようと振り返ると  ガキは、まるでこれから地獄に引き込まれるかのような表情で  俺を見つめていた。  「君、これは、ほんのお礼だとって置き給え」  「あ? いらねえよ」  「いいから! とっておきたまえ!!」  ジジイが十数枚の金貨を俺に押し付ける。  「行きますよ。何をしているのです」  「はい。奥様ただいま!」  「あ、おい!」  俺が止める間もなく、ガキとオバンを乗せた馬車は  門を通り、中へと消えてゆく。  「んだよ。こんな物が欲しくて連れて来たんじゃねえよ。   親なら、もっと、ガキの面倒をちゃんと見ろ、よ」  無性に腹立たしい。  あのガキ、父親は居ないかも知れないけど、母親は居るじゃないか  それなのに、俺を父と呼び、何があったか知らないけど家を出て  きっと寂しかったんだ。  だったら、親がもっと構ってやれよ。  「クソっ!」  俺は、やり場の無い怒りを、胸のうちに収め  その場を後にする。     このまま、帰ったらリアやアルに嫌な顔を晒しちまうと思い  街をぶらぶらしながら帰ろうとしていた時、突然声を掛けられた。  「あ、アンタ!!」  「ん?」  その、声に振り返る。  「久しぶりだね! お、どうやら服は見つかったようだね   良かった、良かった。でも、それは、それとして   どうして店に来てくれなかったんだい?」  「あ〜? どちらさん?」  見知らぬ褐色の女が、馴れ馴れしく俺に声を掛けてくる。  そして、俺のなりを見るなり、ことさら嬉しそうに  ヒートアップする。  「なんだい? その歳で忘れっぽいと大変だよ」  俺が、頭を掻きながら困ったように声を掛けると  女は、苦笑した。  「アリサ。アリサ=ペンドルト。   アンタに、何時だったかアンタに酒を奢ると約束して   すっぽかされた哀れな看板娘さ」  「・・・あ! あの時のうるせえ女か!?」  「うるさいとは、ご挨拶だね。   まあいいや、ここで会ったのも何かの縁だ。   約束どおり、酒奢るよ」    そう言いうなり、女、アリサは俺を引っ張て行く。  「酒って、まだ昼にもなってないぜ?」  「気にしない。気にしない。   飲みたいときに飲む、次にばったり会うかも分からないし   アンタ、場所分からないでしょ」  「・・・勝手にしろ」  俺は、苦笑しながらアリサに引かれるままについて行く。  約束の酒場、”デウネ・スート”一を否定する酒場  一人じゃないと銘打たれた酒場。  店は、まだ開店前だったが店主はアリサが連れだというと  快く、俺を通してくれた。   カウンターに座り、取り留めの無い会話をしながら  アリサと差し向かいで飲む。  自分が来訪者(エトランジェ)だと言うと  アリサは驚きはしたが、別段気にする事無く、酒のつまみだと言って笑い飛ばし、俺と共に酒を飲む。  俺が、注意すると、悪びれる様子も無く  「アタイ、あんまり酔わない体質だから。大丈夫!」  と、言って、俺の酒に付き合ってくれた。  そして、とりあえず、いろいろあったが  無事に服を見つけることが出来た礼は言って置いた。    ・・・・・・・・・。  ・・・・・・。  ・・・。  久しぶりに外で飲むのは、思いのほか楽しく  俺は、上機嫌だったらしく、気がつくといつの間にか  店は、営業を始めていて、アリサも仕事に入っていた。  俺程ではないが、結構飲んでたはずなのに、足取りや  口調に、問題は無い。本当に酒に強いようだ。  「兄さん。アリサとはどう言う関係だい?」  アリサを見つめていると、マスターが声を掛けてきた。  「・・・友達かな。   ズケズケと人の境界線の中に入ってくる変な奴だけど   割と嫌いじゃ無い、かな。でも、別に女にしたいとか思ってないよ」    何か指すような視線と共に、聞いてきたマスターに俺は  その目をまっすぐ見つめたまま、言う。  「・・・そうか。あの子とあの子の弟もこの国の生まれじゃないんだ。   おまけに、弟は軍に所属している。兵士はいけ好かない奴も多いから   何かと目の敵にされることもある。どうやら兄さんは悪い虫じゃなさそうだ」  クスリと笑い、アリサを見つめ目を細めるマスター。  アリサやマスターに何があったか詮索する気は無いが  マスターの目からは、親にも似た情が伺えた。  「そいつは、どうも。   俺そろそろ行くよ。ご馳走様」  「おい。待て」  「ん?」  タバコに火を点け立ち上がり、出口へと向かう俺にマスターが呼び止める  その声に振り返ると、俺がカウンターに置いた、金貨数枚を投げてよこした。      「・・・なんだ?」  「いらん。アリサの奢りだろ?」  「でも、結構飲んだからな。どうせ、貰いもんだ。取っとけよ」  「いらん。どうしてもと言うなら、今度来た時、倍飲んで払ってくれ」  「倍? おいおい。幾ら俺でも、そんなに飲めねえよ   でも、了解・・・また来る」  今朝の、苛立ちも何処へやら。  どうやら、アリサと話、その底抜けに明るい姿を見ていることで  俺は、大分平常心と言うのを取り戻していたらしい。  見ず知らずのマスターとも、こうやって、普通に話しているのもその証拠だ。      『へへ。そういや。あのガキにいろいろと辛く当たっちまったな。   駄目だな。幾ら悠人の事で苛立ってる、て言っても、よ   何時か会えたら、謝っとくか』  そんな、事を思いながら、店を気分よく去ろうとしている時  俺は、聞いてはいけない事を聞いた。  穏やかな心を、怒りへと蝕む話を・・・俺は聞いちまった。    「おいおい。聞いたか?   例の総隊長様に飼われていた奴隷いただろ?」  「ん? ああ!    良く此処に、迎えに来ていた奴な。   どうした? 何処かで、死んでいたか?」  「いや。それがよ。総隊長の私財はすべて売りに出されたって話しでな   そのガキも例によって、売られちまったよ」  「んだよ。そんだけか?」  「此処からが、面白いんだよ。   その売られていったところがよ。あの、パウリーの家だってよ」  「パウリー? パウリーってあの妖精趣味のババアの家かよ!   ハハハハッ!! 傑作だなそれ! 貴族はなに考えてるかわからねえよ!!」  「だろ? 一昔前は、サルドバルトから大金はたいて一匹手に入れて   ボロボロにして、マナの塵にしちまって、大問題になって   もう妖精に手が出せないから、今度はガキだってよ。頭おかしいとか思えないよな」 ドクン!?  ――な、んだ・・・と・・・。  「ちょっと。ここで、そんな話しないでくれる?」  「お、おう悪いアリサ」  「す、すまねえ」  スキンヘッドの男と黒髪の男は、アリサが注意すると  申し訳なさそうに、頭を下げる。  「まったく」  「・・・おい。そのパウリーとか言うのは   あのでっけえ家のババアの事か?」    アリサが肩を怒らせながら、二人に憤慨していると  音も無く近づいた聖矢が二人の男に声を掛ける。  「あ? なんだ? テメ・・・。   あああ!! て、テメエは!?」  「るせえ!?」 ドゴン!? ごちゃ! ゴキュ!?  聖矢を見て、突然驚き、声を上げた一人を一蹴すると共に  コメカミに打ち下ろし気味のひじ内を一つ。  倒れこみそうになるその男の髪を掴み、顔面に掌打を放ち  意識を完全に立ち、先後に、首を締め上げる様に手を入れ  顎を外してみせる。  「ちょ、ちょっとアンタ! 何を!」  「おい。正直に答えろ。   じゃねえと、テメエもこうなるぜ?」  聖矢を止めようと掴みかかるアリサに一瞥もくれず  晴れ上がった顔、鼻や口から血やよだれを垂らす。  男の顔を近づけ、脅す。  「ま、また。アンタ・・・かよ」 ガシャーーン!?  「ひっ!」  「俺の問いにだけ答えろ。それ以外は一言も口を利くな?   わかったら、頷け」  なみだ目になりながら、勝手に、しゃべった男へのバツだとでも言うように  ガラスのカップを握力で割ってみせる。  それが、利いたのか、いつぞや、大市で、半殺しにされたからなのかは  分からないが、スキンヘッドの男は饒舌に聖矢の言われるがままにしゃべりだした。    「どうも。よくしゃべってくれた。   こいつは、ほんのお礼だ。やるよ」  話し終えた男に、お礼だと言って、聖矢はその手からもう一人の男を離す。  ゴトリと音を立て、床に落ちる男。  話し終え、安心した男は、顔、下腹部からあらゆる汁を垂れ流しながら、気絶した。   「あ、アンタ・・・ど、どこへ?」  「・・・ガキんとこ。俺、あいつに辛く当たっちまったし。   それに・・・俺、あいつの父親だから」  そう言って、アリサに笑顔を浮かべ  聖矢を恐れおののく、店の者達を尻目に聖矢はデウネ・スートを出て行った。 ・・・パウリーの屋敷・・・  「やっと戻ってきてくれたのねぇ。   アンタが、居なくて、私寂しかったわぁ」  下着姿の、パウリー婦人はその手に、鞭を携えながら  全裸にされ、壁に縛り付けられ、猿轡を嵌められた一人の男児を  恍惚とした表情で見つめていた。  「うぐっ・・・えっぐ・・・」  少年は、泣きながら。  今朝、自らが父と呼んだ青年の事を思い浮かべていた。  『おとうさん。助けて、おとうさん』  「まったく。いい買い物をしたわ。   これが、たったの金貨千枚で手に入ったのだから   さあ、楽しみましょう? ボウヤ」  まるで、少年を光り輝く宝石を見るような目で見つめ  恥辱に染まる表情と、恐怖に身を震わせる様子に  パウリー婦人に、ぞくぞくする高揚感を与えていた。  「アハハハ!? すばらしい。なんてすばらしい。   傷つけば、傷つくほど美しくなる!?   なんて、なんて美しいの!」  振るう鞭が、少年を打ち赤く染まる肌に  柔肌が裂け、にじみ出る血に  少年から漏れる、うめき声と言うBGMにパウリー婦人は  その全てに、他人には理解しがたい美を感じていた。  「ああ。美しいわボウヤ。でもね、なあに?   その目は? 気にら無いわ。   そんな、キラ星の様な輝きはいらないのよ?   もっと黒真珠の様な鈍い光を、漆黒の中に浮かぶ輝きが私は好きなの分かる?」  一見優しく見える微笑みの表情の中で、何かに取り付かれた様な  怪しげな光を放つ、瞳が、少年は怖かった。  そして、少年の瞳がパウリー婦人の望まぬ色をしているのは、当たり前  少年には、希望があったから・・・父という、希望が。  「ん〜? もう少し、痛めつければ、私の好きな目になるかしら?   まあ壊しても、また手に入れれば、済むことだし、ね」  そういって、パウリー婦人は、口が裂けるんではと言うぐらい  頬を吊り上げ、鞭を振りかざす。  その時・・・。  ―――舞葉拳【流撲・線(りゅうぼく・せん)】――― ボゴーーン!?  「な、何!!」  それは、強力な前方への前蹴り、紅葉を放つ際に踏み込む脚を後ろ足を蹴りだす事で  前蹴りへと転換する技。  「返してもらうぜ、オバハン」    開け放たれた、両開きの扉を通り、護衛を兼ねる執事を引きずりながら  傷だらけの男が一人、入ってきた。  その男は、私に、執事を投げつけると、私のボウヤにむかって行く。  「・・・大丈夫か?    すぐ、離してやる」  聖矢は、勤めて穏やかに声を掛けると  少年を縛りつける、縄を解き抱きかかえると、少年に自分の羽織を着せてやる  サイズが合わず、バスタオルを巻くような感じになってしまうが、仕方ない。  「歩けるか?」    そう、声を掛けると、少年はコクリと頷き  部屋の外へと消える。  「さて、アイツは、貰ってく。文句はねえよな?」    気絶する、執事に圧し掛かられ、動きの取れない  パウリー婦人に近づき、しゃがみ込むと、ニヤリと笑みを浮かべ  聖矢は、宣言する。  「あ、貴方。だ、れ?」  すると、パウリー婦人は、信じられないようなものを見るような目で  聖矢を凝視する。  「誰でも、良いだろがそんな事っ!   何だよ、ババア!?」  そう言って、立ち去ろうとする聖矢をパウリー婦人がその手を掴み静止する。  「あ、貴方。わ、私の物になりなさい!」  「あ? 何言って!?」  「し、信じられない。   何て目をする人なの、怒り、憎しみ、絶望・・・いえそれだけじゃない   あらゆる、負の感情が混ざり合って、折り重なっても体現できない   くらい、美しい闇色・・・。ほ、欲しい。欲しいは貴方が欲しい!?」 ドゴン!?  「・・・一生やってろ。クソ・・・バ、バア」  一撃。  狂った様に、よだれを垂らしながら、俺を見つめる  ババアを黙らせ、俺は、ガキと一緒に屋敷を後にした。  
†††††
・・・第一館へと続く道・・・  館を去った後、俺は、ガキを背負って館へと向かって歩いていた。  恐らく、明日は大変だろうな、館に居た人間は粗方ぶっ飛ばしたし  あのババア結構なお偉いさんだったみたいだし、困った。  また、リアやアルに迷惑掛けちまうう。  「ん。お父さ・・・ごめんなさい」  「目、覚めたか?」  「う、うん」  「良いぜ」  「え?」  「呼んでも。成ってやるよ。お前の親父に   俺で、良かったらだけど、な」  「ほんとう?」  「本当だ」  「ほんとに、ほんとう?」  「ほんとに、本当だ」  「え、えへへ。あ、ありがとう。おとうさん」  「お〜い。泣くか、笑うか。どっちかにしろよ」  「ごめんなさい。へ、へへ」  「ま、良いけど」  不意に、頬が緩む、今なら分かる。  俺の心がどれだけササクレ立っていたかを  今は、細波の様に穏やかで、そして、暖かいと思った。  背に居るこのガキが俺を恐れもせず、怯えもせず  笑顔を向けてくれるのがその証拠だろう。  もしかしたら、悠人もナポリタンと居るときはこんな気持ちなのかな。  こんな感じも、悪くわない。俺は、そう思った。  「と、そうだ。息子よ」  「な、なに? お、おとうさん?」  「何故に疑問系?」  「えへへ。なんでだろ」  「俺が知るわけねえだろ?   ま、何度でも呼べ、好きなだけ   今日から俺がお前の”お父さん”だ」  「うん」  何だか、和む。  て、俺和んでるばあいじゃねえだろ。  自分に、軽く突っ込みを入れ、本題に入ることにした。  「息子よ。お前名前は?」  「な・・・まえ?」  「そ、名前。なんて言うんだ?」  「ぼく。なまえないの、ぼく、ずっとおまえとか、ばかとよばれてた。   どれいだから、なまえいらないんだって」  くそ。んだよそれは!  この世界はどうしてこう、クソの掃き溜めみてえなんだ。  ああ! クソ!?  「じゃ、名前付けてやるよ。俺が!」  「え? いいよ。だってぼくどれいだもん」  「良いわけあるか! お前は俺の息子   だから、名前をつける。OK?」  「おけー?」  「分かったか、てこと」  「うん・・・。でも」  「ああ! もう!? 勝手につけるぞ!   気に入らないからって、文句言うなよ」    歯切れの悪い息子に、少々いらつく。  師匠にもよく言われたな。  お前は、戦い方は柳みたいだが性格は  樫の木やアオダモみたいだな、と  硬くて、まっすぐ、でも融通が利かない、短気でバカだ、と  クソ、子供との会話でそれを思い知るとは思わなかったぜ  「あ!」  「今度は、何だ!?」  「ながれぼし」  「ん? お!」  「きえちゃった」  「お願い事したか?」  「どうして?」  「流れ星が消えるまでに、三回お願いごとすると叶うんだぜ?」  「ほんとう?」  「本当だ」  「おねがいごとしなくても、かなったよ?」  「あ?」  「だって、おとうさんができたもん。へへへ」  満面の笑みで、言われて、少々照れる。  「おとうさん。おかおまっか」  「るさい。大人をからかうな!」  「えへへ。ごめんなさい」  「と、そうだ。お前の名前決めた」  「え?」  ――流星。白銀 流星。    今日からお前は、俺の息子。流星だ――  「よろしくな、リュウ」  「うん。ありがとう・・・おとうさん」  息子。リュウは俺の首に抱きつき、涙を流して喜んだ。  今日、この時が、こいつ流星がはじめて、この世界に生まれた日。  そして、素人の親と、素人の息子と辛くも、楽しい日々の始まりだった。
††††
・・・イースペリア王宮、アズマリアの私室・・・  翌日、聖矢は朝早くから王宮を訪れていた。  「遅え・・・」  アズマリアが聖矢の待つ部屋に入ると  ソファーに踏ん反りかえりながら、タバコを吸う聖矢から  漏れた第一声がそれだった。  「まだ朝食も食べていない時間に来て   貴方は、何を言ってるのです」  アズマリアは、笑っては居るものの  さすがに少々、苛立たしさを覚えながら、聖矢に告げる。  「こっちは、一時間近くも待ってんだ。   身支度に何手間取ってんだ」  「これでも、貴方が急ぎの用と言うので   化粧せずに来たのですよ。感謝こそすれ、説教されるいわれはありません。   それで? 何の話ですか?」  聖矢の正面の席に腰掛、幾分眉を吊り上げ、紅茶を飲みながら  聖矢に訪問の理由を尋ねた。  「この間の話の事だ」  「この間?」  聖矢の一言に、アズマリアは真剣な面持ちとなる。  「ああ。この国の隊長とやらになってやる。   その代わり。俺の生活と俺が悠人を助け出した後の悠人の生活面の保障   さらに、元の世界に返すことそれを飲んでくれるなら   この国の為に、命だってくれてやる」  「・・・・・・」  アズマリアは、その真剣な眼差しに  自分の全てを売るという、覚悟を見た。  だが、少々腑に落ちない点があった。  「なぜですか?」  「なぜ・・・?」  「ええ。貴方は昨日、自分はこの国がどうなろうとどうでもいい   赤の他人の為に、体を張る意味も義理も無いと言いました。   それなのに、どうして今日になって」  アズマリアの問いに、聖矢は、くわえていたタバコを消し  頭をガリガリと掻きながら、困ったように語りだした。  「・・・理由が出来た。赤の他人を助ける気は今も毛頭無いし   どうでも良いのは本当だ。   でも、守りたい奴が出来た。そいつの事を考えれば、な   自分がどれだけ勝手な事を言ってるかも理解してるし   俺は、一度アンタの顔に泥を塗った。それも分かってる。   でも、頼む・・・俺をこの国で働かせてくれ」  そういって、テーブルに手を着くと、聖矢はアズマリアに深々と頭を下げた。  「・・・分かりました。良いでしょう。   でも、困りましたわ。総隊長の席は先日埋まってしまいまして   副隊長の席なら空いていますが、そちらでよろしいかしら?」  「何でも良い。約束さえ守ってくれるなら。アンタの奴隷になれといわれても   喜んで受け入れる」  「では、本日付けで貴方は、イースペリア国軍副隊長に任命します。   重に、イースペリア正規妖精(スピリット)の管理   妖精(スピリット)候補精と各国妖精(スピリット)訓練精   が仕事になりますわ、あと、場合によっては、戦線にも立っていただきます。頑張ってくださいね。来訪者(エトランジェ)セイア」  「来訪者(エトランジェ)はいらねえよ。唯のセイアで良い」  アズマリアの話が終わると、聖矢は、立ち上がり、部屋を出てゆこうとする。  その聖矢にアズマリアは、声を掛けた。  「・・・あと」  「ん?」  「貴方が守りたい方と言うのは・・・   その、どんな方ですか?」  「方? 息子だよ。白銀 流星。   昨日俺の息子になった。今俺の一番大事な奴、さ」  気恥ずかしそうな、笑みを浮かべると聖矢は部屋を後にした。  「・・・お子様です、て   良かったわね、リア」  「な、ななな何を言ってるのですか!?   わ、私は、べ、別・・・に」  アズマリアが、呟くと、天井裏から慌ててリアが姿をあらわした。  「やっぱり、居たのですね」  「・・・すみません。セイア様が少々、思いつめた顔をされていたので   気になりましたので」  「まあいいでしょう。それより、貴方に言われたとおり、彼に副隊長の任を任せましたが   本当に良かったのですか?」  「・・・はい。アズマリア様以来なんです。    仕えたい。戦いたいと思ったのは・・・。   ご安心ください。あの方が我の上に立ってくれるなら   我らは、最強の盾にして剣となって見せます」  「・・・そう。でも・・・他の皆が納得するかな?   それに、彼には、訓練士も兼任してもらうけど・・・大丈夫かな?」  アズマリアの”大丈夫”にはいろいろな思いが込められていた。  聖矢に出来るのか、出来たとして、気に食わないと言ってその場で  殺しはしないか、などと、不安や心配と言った負の方面の憂いばかりが目立った。  「大丈夫・・・だと思います。・・・たぶん」  リアもアズマリアの危惧することが理解できるのだろう。  歯切れの悪い、返事しか返すことしか出来なかった。     

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