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・・・イースペリア王都、広場・・・

 白い石畳が噴水を中心に同心円状に敷き詰められた美しい広場
 その一角に設けられた、妖精(スピリット)を処刑する為の処刑台
 高さは約5M程の高さの処刑台は、少し離れれば処刑される妖精(スピリット)の姿が良く見える。
 アズマリアの代になり、使われる事が無くなり久しいその処刑台に今一人の妖精(スピリット)の姿があった。
 彼女の名は、オリビア=ブラック・スピリット・・・イースペリア及び龍の魂同盟と敵対関係にある
 同じ北方に属する国ながらも、異世界最大の国家にして最強の国、神聖サーギオス帝国に与するダーツィ大公国の妖精(スピリット)である。

 	ザワザワ・・・!

 鎖に繋がれ、口には猿轡を噛み。
 顔や体に幾つ物の痣を傷を刻むオリビアの姿を見て取った市勢の者達が何事かと集まってくる。

 「なんだ? 処刑か?」
 「え? 処刑? 随分久しぶりね?
  何時以来かしら?」
 「おい! 処刑だ!! 酒だ、酒!!
  ケッケケ! 久しぶりに妖精(スピリット)の死に顔が拝めるぞ!?」

 街の者達は、久方ぶりに行われる処刑に在る者は、首を傾げ
 在る者は、何年ぶりの処刑かと指折り数える。
 また、在る者は嬉々として酒の肴にとビール片手に騒ぎ立てる。
 貧しい者、貴族、兵士を含め誰も、オリビアに対して哀れみを口にしない。
 誰も、これから死に行くオリビアに涙を流さない。
 人では無い妖精(スピリット)とは、その最後の時まで
 人々にとっては、どうでも良いこと。
 その死は、酒の摘みに等しい価値しか無い物だと言う事がその様子から窺い知れる。

 『・・・セイア、さん。
  これが、私の命の価値です。
  こんな・・・こんな、私に・・・一時とは言え
  優しい言葉を、哀れみを・・・ありがとう、ござい・・・ました』

 あっと言う間に集まった人の群れを前にして、オリビアは聖矢に感謝した。
 今まで、牢獄で対等に等しい会話を送った日々に・・・。
 その中で向けられた優しい言葉に・・・オリビアの告白に、身を震わせる程、今にも涙を流しそうな表情で悲しんでいた
 聖矢のその姿に・・・走馬灯の流れるこれまでの日々の中で
 唯一と言って良いほど、闇の中で聖矢と共に過ごしたその日々がオリビアの中では一等、輝いていた。

 『っ!? いけません、ね。
  私を友とまで、思って下さった、貴方を・・・傷つけ、裏切った私が・・・
  貴方の事をこんなにも、愛しく思って・・・は・・・。
  私は、貴方の敵・・・イースペリアの敵・・・ダーツィの妖精(スピリット)なのだか、ら』
 「お集まりの皆々様!!
  どうぞ、ご注目ください!?
  此処に置かれました妖精(スピリット)は、彼のダーツィの妖精(スピリット)めに御座います!
  今より、このガラクタの処刑を執り行います。
  切り落とされた首から、吹き出す血潮が、穢れたマナの塵と化す様を!
  最後の卑しい断末魔をどうかお聞き逃さぬよう、とくと御覧頂きたい!!」

	ウォオオオ!!

  処刑場に上る総隊長が、前へ出て
  集まった民衆たちに、両手を広げ説くと
  地鳴りの様な声が木霊する。

 『クックク・・・! なんとも壮観なり。
  今に、この者達が我を王と崇める様を想像するだけで、逝ってしまいそうだ!!』

 空を見上げ、恍惚とした表情で、身を震わせる総隊長、ガリオン。
 
 「総隊長・・・よろしいのですか?」
 「う〜ん? 何がだ?」

 その時、配下の者がそっと近づき、耳打ちする。

 「あ、いや。来訪者(エトランジェ)との約束は
  夕刻との事、まだ、あやつからは返事は聞いていませんが?」
 「ああ・・・そのこと、か。あれは、嘘だ」
 「嘘?」
 「奴が返事をしようが、しまいが、妖精(スピリット)は消す。
  書面に記された約束でもあるまいに、我がたかが口約束を、それも来訪者(エトランジェ)となど守る謂れはあるまい?」

 総隊長は、悪びれる様子を一切見せず。
 部下に即答する。
 
 「それに、奴は必ず首を縦に振るとも・・・。
  調べによれば、奴は随分と妖精(スピリット)に御執心の様だからな!
  アハハハ・・・!!」
 「・・・そうです、か。ククク・・・! 
  それに、たかだか一体とは言え、僅かでも我が国のマナの足しに成るのですからな!
  正に一石二鳥ですな! アハハハ・・・!?」
 「全くその通りよ! アハハハ・・・!!」

 総隊長と配下の者は、共に腹を抱え笑いあう。
 
 『・・・そん、な・・・セイア・・・さん!』

 その二人の暗いやり取りを聞いて
 オリビアは、涙を流した。
 オリビアの目には、腹を抱え、肩を揺らし笑いあう二人が、人間には見えなかった。
 そこに居るのは、腐りに腐りきった肉の塊を纏った悪魔だった。

 「お待ちください! 総隊長殿!!」

 その時、人並みを掻き分け、若い兵士が飛び出して来た。

 「なんだ? 貴様は? 我に何を待てと言うのだ?」

 上機嫌な総隊長は、突然現れ叫ぶ兵士に
 薄ら笑いを浮かべながら視線を向け、問いかける。
 
 「先程、女王陛下に此度の処刑について、その真偽を確かめて参りました!!」
 「・・・何?」

 兵士の言葉を聞き、先程まで浮かべていた笑みを消し
 低く唸る様な声と共に睨みつける。

 「女王陛下は、処刑の命は下して無いとの事、これは一体どう言うことですか!?
  今すぐ、お止めください! 下手をすれば女王に対する反逆になりますよ!!」

 兵士は下肢付くことはせず、総隊長を見上げ叫ぶ。

 「・・・ちっ! 馬鹿な奴だ、一介の兵士が女王に問いただすなど
  本当に、馬鹿な男だ!!」

 ガリオンは怒りの表情を浮かべ、腰に下げる自らの剣を引き抜くと
 若い兵士に向け、投げつけようと構えを取る。

 「そ、総隊長! 何―――」
 「小僧。肩・・・借りるぞ!」

 何を・・・と叫ぼうとした時、突然声と共に
 肩にずしりとした重みがした。
 何事かと思う間もなく、次いで両肩に何者かが乗りかかり
 間を空けず、私の両肩を踏み台にして、軍服を纏う者が総隊長に向けて飛翔した。
 
†††††
   駆け抜けた。  ただ、駆け抜けた。  人並みを縫って、身を翻し、押しのけ。  処刑台の上で叫ぶ、バカ野郎を目指し、駆け抜ける。  「うぉおお!! いいぞ! やれやれ!?」  数メートル先に見える一人の男が、バカ野郎に賛辞を送っている。  その男は、懐からタバコの箱を取り出し、手にはマッチを持っている。  「・・・よこせ!」  それを見て、これ幸いにと男の脇をすり抜ける間際に掠め取る。  「あ! ド、ドロボーー!!」  男が、拳を挙げ俺に向かって叫ぶが無視する。  走りながら、早速貰ったタバコを一本、口に咥えマッチを擦り火を点け  手で風を遮りながらタバコに火を灯す。  「ふぅ〜・・・!」  久々に吸い込むタバコは、何とも言えない感じがした。  やはり、これが無いといまいちしっくり来ない。  そのままタバコを吸いながら、走りぬけ、人並みを抜けると  鎧に身を包んだ兵士が一人、壇上に向かって叫んでいる。  処刑台はさほど高くは無いが、さすがに、何か台になるもが無くては、上がれない。  はしごらしき物が、後ろの方に見えるが、そんな遠回りをするのは、この上なく面倒だ。  そう結論付けた俺は、足に力を込め、更に速度を上げ兵士に向かう。  「小僧。肩・・・借りるぞ!」  一言断りを入れ、肩に手を置き、体重を預けると  流れる様な動きで、両肩に足を掛け、間髪入れず、空中に身を投げた。   シュパッ!?  「うあ!?」  俺が飛ぶと同時に、踏み台にした兵士が激しく転倒するが気にしない。  丁度良い所に立っていたテメェが悪い。  ・・・まぁ。少しは、感謝してるが・・・ほんの少し、だけな。  「き、貴様は!?」  俺の姿を見て取った、クソバカ野郎が驚いている。  そして、その手には、剣を握っている。  そして、さらにその後方には、鎖に繋がれたオリーブの姿がある。  見つけた・・・。見つけたぞ!   「はぁあ!!」 バキン!?  「ぬぅ!?」  未だ空中に我が身が晒される状態で、剣を逆手に持ち、振り上げるバカの手に一撃を入れて  剣を舞い上げる。  一撃目で・・・迎撃。 スタタン・・・!  着地すると同時に、一と二がほぼ同時のリズムで再び  上に大きく飛び上がる。 バシッ!?  自分の頭よりも高く掲げた足で、先程の蹴りで舞い上げた剣に  向けて追撃を食らわす。  ・・・二撃目で迫撃。  舞葉拳の基本とされる拳打。・・・【紅葉(もみじ)】  その動きを理解。会得すれば、例えそれが空中でも踏み出した力を利用し、打ち出すのは容易い。  さらに、それが、例え脚であっても、基本は同じ。    ガズッ!   ・・・ズダン!?  オリーブのやや前方に突き刺さる剣。  遅れて、俺が更にその数歩前に着地する。    「・・・ふぅ〜・・・!」  タバコを咥えたまま、薄く開けた口から煙を吹き出し。  オリーブの目の前に突き刺さる剣を取り、信じられない者を見るように  俺を見るオリーブの首に、剣を宛がう。   「よう・・・。死にてぇか? それとも、生きたいか?   死にたいなら、俺が殺してやるよ。   でも・・・」  ・・・・・・・・・。  ・・・・・・。  ・・・。  
††††
 目の前に貴方が居る事が信じられなかった。  牢獄で見た時、顔は腫上がり、声は擦れ  初めて会話を交わした声とは、似ても似つかなかった。  でも、私の首に剣を宛がい、真っ直ぐに私を除き込む貴方は  猛禽類を思わせる鋭い目、眉間にシワを寄せる程に吊り上った眉  赤子が貴方を見たら、泣き出してしまうだろう。  男性にしては、少し長い髪は、申し訳なさそうに、その眉と目にかかる。  私よりは身長は高いが、他の方々と比べればそれ程高いとは言えない。  体も、身に纏う衣服が少し余り、筋肉隆々では無いけど  今見せた鷹が舞うような一連の動きが、滲み出る闘気が、貴方の強さを物語る。  始めてでしょうか? 傷も無く、痣も無く、血を流さぬ在りのままの貴方を見たのは・・・セイア様。  「でも・・・生きたいなら。   しょうがねぇ・・・生かしてやる。助けてやるよ。   お前は、ダチだからよ・・・オリーブ」  貴方は、私に、そう声を掛けると、口元を吊り上げ、目を細め私に笑いかけた。 ブツッ・・・!  「どっちだ? 選びな・・・オリーブ」     貴方は私に問いかける。  口に噛まされた猿轡を、その手にする剣で切り裂いて・・・。  私の答えは、あの時、貴方に私の正体を明かした時に決まっていた。  「・・・生き・・・た、い・・・です」  何を言っているのだろう、私は?  セイア様にアレだけの事をしておきながら、・・・何を今更  もう、死を覚悟していた。  ハイペリアに逝けなくても本望だった。  例え、バルガロアーに落とされ様とも、貴方の信念が折られる事だけは  守り通した事を誇りに死ぬつもりだった。  でも、貴方の姿に、貴方の言葉に、私の口を吐いて出たのは、生への執着、懇願だった。  「・・・あいよ」  セイア様は、私の答えを聞き、短く答え背を向けて民衆の方々の前に歩き出した。  「き、貴様!! どいうつもりだ!?   い、嫌! そもそも、なぜ貴様がここに居る!!」  総隊長殿は、予期せぬ貴方の登場にうろたえていた。  貴方は、今にも掴み掛かって来そうな総隊長殿に一瞥もくれる事無く無視し  壇上の先に立つと、ようやく、進める歩を止めた。  「すぅ〜・・・。良く聞け虫けらども!? 俺の名は聖矢! 白銀 聖矢!?   今! この時!! この瞬間!? オリーブは俺の物だ!!!」     吸っていたタバコを弾き飛ばし、突然、大衆を前に自分の名を叫び  振り返る事無く、親指で私を指差し声も高らかに貴方は宣言した。  呆気に取られ、先程までざわついていた皆さんは、身動きも出来ず静まり返る。  「文句のある奴ぁ・・・かかって来い!?   一人残らず相手しやる!!」  貴方は、何と言う事をするのです。  バ、バカですか? よりにもよって、集まった民衆の前で  貴方は宣言したんですよ。自分が反逆者だ、と。  わ、わかってるのですか! 貴方は? こ、事の重大さ、が・・・。    「な、舐めるな!!! 掛かれ者共!!   最早こやつは、生かしておけん!!」  総隊長殿は、貴方の振る舞いにとうとう怒りが爆発し  眼下の兵士、壇上の部下に手を振り、号令を飛ばす。  「は!? 上等だ! 全員まとめて相手してやるぜ!?」  貴方は、身を翻すと同時に、剣を抜き放つ兵士達に  中指を突き立てるジェスチャーをする、意味は分らないが、決して良いものでは無いことは、何となく察しが行く。  そして、総隊長殿を突き飛ばし、貴方は、私に向かって駆けて来る。  「おっしゃ!? 逃げるぞ!」   ガッ! ガッ! ゴキャ!?    セイア様は、手にする剣の柄で、手枷を破壊し  意気揚々と、声を掛け。  「あ、貴方は! 自分が何をしたか分ってるんですか!?」  「ああ? もちろんだ。テメェを助ける。    と、そうだ。おい! うすらトンカチ!?」  私を立ち上がらせながら  さも、当たり前とばかりに、私の問いに答えると   総隊長殿に向かって、侮辱めいた言葉を投げつける。  「ぬぅ!?」  「か、え、す、ぜ!!」   ビュン!?  「ぬああああ!?」 ドガーーン!?  「そ、総隊長!? だ、大丈夫ですか!!」  「こ、殺せ! 奴を殺せーーー!!」  貴方が、手にする剣を総隊長に向けて、大きく振りかぶり投降すると  それを避けようとして、総隊長は、壇上から踏み外し  数メートル下の地面へと転げ落ちて行った。  「ちっ! 仕損じた!?」  下から、総隊長殿の怒声が聞えると  貴方は、悔しそうに、舌打ちし、指を打ち鳴らす。  威嚇では無く、本当に殺すきで投げた様だ。  「な、何て事を!?」  「るせぇ!! 動けるか!?」  「―――!?」  私が、セイア様の行動に言及しようとする  睨み付ける様に私の顔を覗きこみ、怒鳴りつける。  その迫力に、私は貴方に対する言葉を飲み込んでしまった。  「動けるか、て! 聞いてんだ、答えろオイ!!」  「っ!? は、はい!! だ、大丈―――あ・・・」 グラッ!?  私の襟を掴み挙げ息が掛かるぐらいの距離に居る貴方を押しのけ  ”大丈夫です”そう言おうとすると、私の四肢力が入らず、貴方の胸の中によろめく。    「駄目、そうだな・・・ちっ!」  私の肩にそっと手を添え、私を支えると貴方は  私の様子に舌打ちした。    「も、申し訳―――」  「いいか!? 俺から離れるなよ! 分ったな!!」  私が謝ろうとすると、貴方は、私の両肩を掴み私を引き剥がすと  怒鳴りつける様に命令する。  「返事!!」  「は、はい!!」  私の瞳を除き込みながら、私に返答を要求する。  その有無を言わせぬ迫力に、思わず私は返事をしてしまった。     「・・・行くぜ」  一言告げ、私に背を向ける。  貴方が振り向いた先に視線を向け、私は息を呑んだ。  私の・・・いえ、セイア様の見つめる先には、幾人もの兵士様が梯子を上り  我々に剣を振りかざしていた。  ・・・まずい。瞬間私はそう思った。  今私は【瞑想】を帯びていないし、体力も体もボロボロ・・・この状態では逃げられない。  それに・・・人を斬るなんてことは・・・。   「道は・・・俺が作る。   テメェは、手を出すなよ」    シッ・・・ボッ!  迷う私を尻目にセイア様は、スタスタと歩を進めながら  マッチを擦らせ、新たなタバコに火を点けながら私に言葉を投げる。  「な、何を言って・・・」  「悪かったな。テメェが・・・テメェ等が悠人を攫った奴だと思って   喧嘩売っちまって。俺の所為でキツイ目に会わせちまって、よ」  振り向く事無く、私に謝罪を口する。    「責めてもの謝罪だ。逃がしてやる」  「何言っているんですか!?   貴方が相手にしようとしているのは、イースペリアですよ!?   北方五カ国最大戦力を抱える国なんですよ!!」  目の前に居る方は、迷い無くそう告げる。  私の様な一介の、それも敵国の妖精(スピリット)を逃がす為に  一国を相手に戦おうしている。それも、その理由が私の様な妖精(スピリット)に対する・・・”謝罪”。  そのあまりのバカさ加減に私は、セイア様に怒鳴る。  正気の沙汰じゃない。常識を知る者なら、この世界に生きるものなら誰だってそう思う。  「貴様!! 何をしている!!!」  セイア様の眼前に剣を振りかざす兵士が、迫る。  「るせええ!!?」  頭にはヘルム、体には軽量ながらも腹部や心臓を守る鎧、腕には篭手と肘当て  足には膝当を付け、素手では打ち込める場所も数少ない。    バチ! バァン!!   「がぴゃ!」 ドシャ!!  剣を振り上げたことで、唯一さらけ出された顔面  その顎先へとセイア様の右腕が伸び  右腕を引き戻す刹那、全く同じ箇所に次いで左腕が伸びると  兵士様は膝から崩れ、前のめりに倒れる。  「テメェには、約束があるだろが!   テメェの国の奴等との約束がよぉ!?」 ビリ・・・! ビリ・・・!  先程の打撃音よりも更に大きな怒声が響き渡る。  セイア様の声に、迫力に、眼前で突然もの言わなくなった同僚の  無残な姿に、先程までセイア様に踊り掛かろうとしていた  方々も萎縮し、数歩後ず去る。  「・・・約束てのはなぁ! 交わす相手が居るから出来るんだ。   そして、それを守って、初めて意味のあるものになるんだ! 覚えとけ、バカ野郎!!    は! 最強? 国? 上等だよ。   喧嘩は・・・派手な方がやりがいがあるぜ。   それに、テメェを助けるのは、ついで、だ。   俺が、あのクソで、バカの、ウドの大木野郎をぶっ飛ばす・・・ついでだ」  セイアさんの瞳が私を一瞥し鋭く睨み、背を向け私に向け諭すると、そのまま  身を硬くし、立ちすくむ兵士様達に向かって行く。  「・・・あ・・・!」  セイア様の言葉が、私に森で仲間達と分かれる時交わした言葉を思いださせた。  そして、セイア様の語る言葉の意味を自分勝手かも知れないが、汲み取った。  私の存在を大衆が、兵士様達が気にならないほど派手に、自分が立ち回るから、その隙をついて逃げろと  ついでだ、と言うその言葉には、これは俺の戦いだから、お前が気にする事は無い・・・と。  私の思い込みかも知れないが、最早私に振りかえる事無く  兵士様達に何時か森で見た舞と共に立ち向かうその背中が・・・語っているように見えた。  『・・・ありがとう、ござい・・・ます・・・!!』  私の瞳から一筋の涙が流れる。  出会ってまだ幾日も経っていないにも関わらず、私の為に一国の兵団を相手に一人で立ち向かう貴方に  貴方にアレだけの事をした私を、未だ友と呼んでくれた貴方に  故国の仲間との約束を思い出させてくれた貴方に  本当ならその傍らに並び、背を守り戦いたい。  でも・・・それは、出来ない。私には出来無いのです。  私には、人に対して剣を向ける事が出来ません。  私の頭が、体が、拒むのです。  それに・・・貴方は、きっと助けを必要としないから、貴方が戦うのは自分の為であり  私を逃がし、仲間との約束を果たさせると言う、誓いにも似た想いで戦うから  私が、共に戦うことは、その信念を頑なな想いを無下にする事だから・・・だから  例え、人に対して剣を向ける事が出来たとしても・・・私は、戦えない。  『すみません・・・! すみません・・・!!   そして・・・ありがとう』  「・・・くっ!?」  溢れ出る涙は、拭っても、拭っても、止めど無く押し寄せる。  悲壮な覚悟で戦う貴方には見せられませんね。  こんな泣き虫を、貴方は友と呼んだ訳では無い。  やはり、私は卑怯者だ。  貴方が振り返る事が無いことを知りつつ、その事に安堵している。  私は、オリーブ。  ダーツィ大公国妖精(スピリット)隊の一員にして  来訪者(エトランジェ)セイアの友人。  オリビア=ブラック・スピリット・・・。それが、私の名前・・・。    「うらぁあああ!? どっからでも掛かって来い!   俺は、ここだ! 幾らでも相手してやるぞ、オラァアア!!」  風に舞う木の葉の様に、相手の攻撃に逆らう事無く寸での所で兵士様の剣を交わすその動きは・・・華麗。  相手の打ち終わりを狙い、急所目掛け放たれる一撃一撃は鋭く、的確に相手を地に伏せて行く、その所業は・・・疾風迅雷。  臆する事無く、立ち向かう姿は勇猛果敢にして、野生の獣を思わせる。  私は、この方を・・・この人の友であることを一生忘れないだろう・・・。  ・・・・・・・・・。  ・・・・・・。  ・・・。  「ぅぉおおお!!?」  壇上に居た三人の兵士をのして、後・・・。  ハシゴから壇上へと手を掛けた兵士へと雄叫びを挙げ、駆ける。  ヒョコリと顔を覗かせる兵士が驚いた顔で俺を見る。  迫り来る俺に、どう対処して良いか分らない顔だ。  俺は、走りながら歩幅を狭め、軽く跳ねる感じで正面を向く体を捻り体を真横へと変える。 タタ・・・!!  着地と同時に、片足を大きく踏み出す。 ダン!?  聖矢は踏み出した足をその場に固定し、固定した足を支点にして  逆足を地面を蹴る様に送り出し、下半身に連動する様に、上半身がその後を追い  コンパスの様に体全体を捻り180度回転する聖矢。  最後方に残る聖矢の腕が唸りを挙げ、地面スレスレから兵士の顔面目掛け振りぬかれる。    「らあ!?」 ドパァン!?  聖矢から放たれた【銀杏(いちょう)】の一撃。  まるで流れる様なその動きは、風に舞うひとひらの木の葉を連想させる。  だが、その軽妙さとは裏腹に下半身が刻むリズムから生み出された力は、兵士の頭を弾き飛ばす。  一瞬にして、意識諸共【銀杏(いちょう)】の一撃に刈り取られた兵士の  体は、重力に引かれ、後方に同胞が上るのを待ち構えていた兵士達を巻き込み、地面へと落ちて行く。 ガタガタ!! ドーーン!!  「はぁ・・・! はぁ・・・!!」  一時とは言え、一段落ついた所で、聖矢は肩で息をしながら、額に浮かぶ汗を拭う。  先程の攻防で、聖矢も無傷とはいかなかった、顔や体に数箇所、擦り傷や切り傷を作っていた。    「ふぅ・・・! おし、行くぞ。立て」  大きく息を吹き出すと、座り込む、オリビアに手を貸し立たせる聖矢。  「ま、待ってください!」    立ち上がり、腕を引き処刑台から逃げようとする聖矢の腕を握り引き止める。  「なんだ? 走れないなら、おぶってやる」  「え? そ、それは・・・で、では無くって!!」  聖矢の一言に、一瞬頬を染めるも、頭を振り本来の言葉を引っ張り出す。  「じゃぁ、なんだよ! あ!?」  オリーブのハッキリとしない様子に、イラつき、つい大声を出してしまう。  「す、すいません! あ、あの、【瞑想】を・・・神剣を探さないと」  「あ? 剣だぁ? これで我慢しろ」  そう言うと、俺は先程倒した兵士が持っていた、剣を拾い上げオリーブに差し出す。  「だ、駄目です!! 【瞑想】は私の命・・・他の物で代えが利くものでは無いんです!!」  すると、オリーブは拳を震えるほど握り、大声で否定する。  命・・・そう聞いて、俺は自分の軽率な行動がもの凄く恥ずかしくなった。  「せ、セイア様が、命を掛けていらっしゃるのに、誠に申し訳ありません! でも・・・! でも・・・!!」  「・・・すまねぇ・・・」  「・・・え?」 ふわ・・・。  オリーブに差し出した剣を捨て、オリーブの頭に手を乗せ、謝罪した。  自分の命とまで、言い切る大切な物を俺は、その辺の物で代替しようとしたなんてな。  師匠も言ってたっけ、剣士の剣は物に在らず、己の肉体その物だって・・・。  はぁ・・・俺、最悪だな。  「・・・でも、何処にお前の剣・・・【瞑想】だっけ?    何処に在るか、知ってるのか?」  「あ、いえ、何処か・・・とは、分りませんが・・・”声”が」  「・・・声?」  俺が最もな質問をすると、オリーブは目を閉じ両耳に手をやりながら答える。  「はい・・・。私を呼ぶ声が聞えるんです」  『そういや・・・レイの奴が剣に意思が在るとか、無いとか言ってたな』  俺には物の声を聞いた事は無いが、何となく分る気がする。  修行時代に、師匠から似たような事を聞かされ、色々と訓練したから。  風の声を聞く訓練、動きの先を読み取る訓練だとか感覚に関する訓練は嫌という程やらされたからな。  声と言うか気配を感じると言った感じだろうか?  本人の感覚的な部分でしか感じ取れない何かを声という単語で表してるのかも・・・な。  まぁ・・・良く分らないけど・・・。  「それじゃ、分るんだな。 だったら、とっととそいつを探しに行け!」  「は、はい!!」  俺がそう催促すると、オリーブは力強く答えた。  すると、処刑台の四方の淵から、兵士達が登ってくる。  奴等もバカじゃない。  ハシゴが使えなければ、台なり、一壁なりを使うだろう。  「ちっ! めんどくせぇなぁあ!!!」 ブワッ!!  「舞葉拳【大根判(だいこんばん)】」  相撲の四股を踏む様に高々と天高く突き上げる足。  本来倒れた相手の顔や体などを全体重を掛け踏み砕く技だ。  「あああああ!!!」 ドーーーン!!  「きゃ!!」  速度と体重を乗せ振り下ろす足。  その衝撃は、足の面全体を使うことで波紋の様に広がってゆき。  処刑台全体をグラグラと大きく揺らす。    「まだ、まだぁああ!!」 ドーーン!! ドーーーン!!!  続けざまに右、左と振り下ろしてゆく。  その度に揺れは激しさを増してゆく。  淵にしがみ付く兵士達も落ちないようにするのが精一杯と言った様子だ。  「おりゃぁあああ!!! 砕!?」 ドゴーーーン!!  渾身の力を込めて打ち込んだ一撃。  度重なる衝撃に等々足場と柱が音を立て崩れる。   ガラガラ・・・!?  へばり付く兵士達を巻き込み、崩れ落ちる処刑台。  それは、あたかも妖精(スピリット)の処刑を考えた先人達を否定し  今も尚繰り返す現代の異世界の人間たちへの挑戦の様だった。   ・・・・・・・・・。  ・・・・・・。  ・・・。 
††††
 「これは・・・一体・・・!!」  聖矢に遅れること十数分後、セリーヌ率いる第三部隊と共に広場に到着したアズマリアは  その惨状に唖然とした。  広場には妖精(スピリット)の処刑が今や遅しと行われる雰囲気は微塵も無い  変わりに、本来妖精(スピリット)が晒されるその壇上に、幾人もの兵士が登り  何者かと乱闘を繰り広げていたのだ。  想像もしなかったその様子に、アズマリアはしばし、足を止め自分が何をして良いのか分らなかった。  「アズマリア様? どうかなさいまして?」       そんな、アズマリアにセリーヌが声を掛ける。  その声にハッとして、我に返るアズマリア。  「が、ガリオン! ガリオンは!?   ダーツィの妖精(スピリット)は何処ですか!!」     そして、当初の予定である。ガリオンと処刑される妖精(スピリット)の姿を探す。  「・・・見当たりません、ね。   と言うか、この惨状で目当ての人物を探す・・・至難ね」  アズマリアの言葉を受け、レイアナが少し視線を走らせるが  兵士達が怒号と共に、壇上に押し寄せるその様子に、肩を竦めてみせる。  「・・・れ、レイアナ・・・さん。   そ、そんな、こと・・・言わないで・・・探しま・・・しょ」  やる気の欠片も見えぬレイアナの様子に  ハルナがおっかなビックリと言った様子で探索を促す。  「ん〜? でも、ね? あの中からでしょう?」  身長の低いハルナに視線を落としながら、面倒くさそうに  兵士が群がる一団を指し示す。  「レイアナさん。頑張ってください」  ポンとレイアナの肩に手を置き、ニコリと笑いかけながらセリーヌが    優しく促す。  しかし、それは、直訳すれば”やれ”と言う命令にも似ていた。  「れ、レイアナ〜・・・! お願い!?」  恨めしそうに、レイアナを見つめながら両手を合わせ、拝み  勢い良く頭を下げるアズマリア。 バサッ・・・!?  「・・・はぁ〜・・・。全く、人使いの荒い王様と、上官ね」   ヒュン!?  しぶしぶと言った様子で、翼を広げ一つ大きく羽ばたき  上空へと瞬く間に上昇して行く。  頼み込まれると嫌々でも、行動に移す辺りは、レイアナの人の好さが窺い知れた。  「さあ! 私達は地上から探しましょう!」  上空のレイアナから視線を、セリーヌとハルナに移し     無い力こぶを作り、張り切るアズマリア。  「はい。了解しましたわ。   ですが、私達からあまり、離れないで下さいましね」  「わ、わかってま―――」 ドォオーーーン!?  アズマリアがセリーヌの言葉に返事を返そうとした時  地響きと共に、処刑台が崩れ落ちる。  「キャッ!?」  あまりの轟音に、アズマリアは頭を抑え短い悲鳴を挙げ、うずくまる。  「・・・え・・・? ま、まさか!!」  「あ・・・来訪者(エトランジェ)・・・様」  「・・・え? エト・・・ラン、ジェ・・・?」  だが、次いで聞えたセリーヌとハルナの声に顔を挙げると  二人の視線を追い、崩れ落ちた処刑台の方に視線を向けた。  すると、そこには・・・。     ・・・・・・・・・。  ・・・・・・。  ・・・。
††††
   眼下に広がる、原型を留めぬ瓦礫、巨大な粗大ゴミとなった処刑台が見える。    『・・・なんでだ?』  俺の頭に疑問が浮かぶ。  俺が、アレを壊したんだぞ。  なのになんで、俺は落ちないんだ?  「だ、大丈夫ですか?」  背中から声がした、その声に振り返る。  「オリーブ!」  そこには、俺を抱きしめ鶴の様な白い翼を広げるオリーブの姿があった。  「い、今・・・降りますね」  フワリと言った感じで地面に降り立つ。  地面に降りると俺は、呆けた様に上空を見上げる。  「俺・・・飛んだの初めて、だ」  人生初の飛行機や気球と言った人工の物では無く生身の肉体で  空を飛んだにも関わらず、俺の口から漏れた感想だった。  どうも、気が動転していて、そんな感想しか出てこなかった。  「はぁ・・・! はぁ・・・!! せ、セイア・・・さ、ん。   む、無茶苦茶・・・です!」  荒い息と共に、膝を着くオリーブが俺の行動を抗議する。  「う、うっさい! ”終わりよければ全てよし”それでいいだろ?」  俺は、オリーブの抗議に少し焦りながら反論する。    「それよりも、大丈夫か?」  「は、はい。な、なんとか・・・」  そう言って息を整えたオリーブが立ち上がる。  「ま、なんだ? その・・・ありがとよ」  とりあえず、オリーブが立ち上がったのを確認し  明後日の方向を向きながら俺は礼を言った。  「い、いえ・・・礼には及びません」  恐縮しているのか、オリーブは俺に手をバタつかせていた。  それを見て、俺はなんだか可笑しくて口の端を持ち上げ薄く笑った。  ・・・・・・・・・。  ・・・・・・。  ・・・。  崩れ落ちた処刑台、その周りに倒れる何人もの兵士達。  瓦礫の下敷きになった者、傷ついた者同士肩を貸しながらその場を離れて行く。  集まっていた民衆達は、悲鳴を挙げ蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。  「呼べ・・・」  そんな中、ガリオンが静かに口を開く。  「は、はい・・・?」  ガリオンの言葉を聞き、側近の一人がその言葉の意味が分らず聞き返す。  「妖精(スピリット)を呼べと言っておるのだ!?   早くせぬかあ!!!」  「は、はい〜!!」  側近の襟首を捻り上げ、今にも殺しそうな憤怒の表情で鼓膜を破るくらいの声で怒鳴る。  総隊長ガリオンの言葉を受け、側近は首から下げる小さな笛を口に咥え、勢い良く吹き鳴らす。 フィィイイ・・・・!!!  人間の耳には聞えぬ超高音の笛の音。  その笛の音は、総隊長が抱え込んだ訓練士達に命じ、密かに訓練、編成した  総隊長の命を忠実に実行する妖精(スピリット)を呼ぶ為のモノだった。
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 「がぁあ!!?」  「きゃっ!!」  突然耳の奥がキーンと痛くなり、俺とオリーブは思わずその場に  耳を押さえ蹲った。  「な、なんだ? クソ!」  「い、今のは?」  痛みが治まり俺は、立ち上がり未だ耳鳴りの様に残る音に頭を振りながら、悪態を吐く。     ザザッ!? バサッ!!  すると、人並みを縫う様に、数人の少女が現れ、一箇所で土煙を上げながら停止する。  そして、空からも黒い翼を従えた少女達が下りて来る。  その数、全部で十数人・・・。  少女達を見た瞬間、ゾクリと悪寒が走り、背中に冷たい汗が浮かぶ。  「ゴクリ・・・! な、なんだ・・・こいつら」  異常に乾く喉に、生唾を飲み込むと俺の口からやっと言葉が漏れる。  さっきの兵士達よりも小柄だし、明らかに女、中には明らかに年端も行かぬ子供の姿もある。  なのに、肌で感じるこいつ等の強さは、優に兵士達を超えていた。  「神剣に精神を食われた・・・妖精(スピリット)・・・」  少女達を牽制する様に、睨んでいると隣のオリーブが口を開く。  「け、剣に食われた?」  オリーブの言葉の意味が良く飲み込めない、俺は思わず聞き返した。    「は、はい・・・。我々妖精(スピリット)は、必ず自身の神剣と対となる存在です。   そして、妖精(スピリット)には大きく分けて二通り存在します。   己の意思で神剣を従える者や神剣と共存する者、そして、神剣に己の精神を支配され己の感情を失い、殺戮を繰り返す人形になる者、です。   か、彼女たちは明らかに後者・・・」  「に、人形? な、なんで分るんだ?」  自身を持って言い切るオリーブに聞き返す。    「それは・・・彼女たちのハイロゥが・・・”黒”に染められているから、です」  「・・・黒・・・?」  そう言われ、佇む少女達に目を向けると、青い衣服と黒い衣服の少女達の翼や、緑の衣服、赤い衣服の少女達の  空中に浮かぶ円形のモノや、球体が黒く染められていた。  「なるほど、ね。分りやすいな」  「き、気をつけてください・・・!」  「な、何をだ?」  焦った様に、オリーブが忠告してくる。  「神剣に食われた者達の精神は神剣そのものです。   その為、通常の妖精(スピリット)よりも神剣とのつながりが強く   繰り出す技の威力は強力です。そう・・・己が身を滅ぼす程、に」  語るオリーブの額から汗が一筋流れる。  オリーブの説明を受け、何となく理解した。  奴等は俗に言うリミットを外された状態と言う訳だ。  人は無意識かで自分の身を守る為に、限界以上の力が出ないようにリミットが掛けられていると言う話を聞いたことがある。  神剣に食われた奴等は、そのリミットが外されている状態と言う訳だ。  「・・・行け」  「え?」  一歩踏み出すと同時に、俺はオリーブに声を掛ける。    「剣を探しに行け、そして、見つけたら・・・さっさと逃げろ   戻ろう何て、考えるなよ・・・次は、もう無い」  仁王立ちでオリーブの前に出て、腕をポキポキと鳴らしながら  背中越しに声を掛ける。  そうだ、恐らく此処でつかまったらもう、お前を逃がしてやる事は出来ない。  アレだけの啖呵を切ったんだ、俺も殺される。  もう、この時しかチャンスは・・・無いんだ。  「な、何を言って―――!!」  「さっさと行かなきゃ、ぶん殴るぞ!!!」  「ビク!?」  「背中を気にしてたら・・・死ぬ」  オリーブに怒鳴りつけると同時に、自分に気合を入れる。  此処から見てるだけで分る。  こいつ等の力は明らかに俺を超えてる。   バサッ!?     「・・・【瞑想】と共に必ず戻ります!?」  後ろから翼を広げる音が聞えた。  そして、やや上方から、俺に向けてオリーブが叫ぶ。  「へ・・・! バカが・・・」 ブワッ!!!  空気を吹き飛ばし、突風が巻き起こる。  背中越しにオリーブの気配が遠ざかるのを感じながら、前方に佇む者達を睨みつけ  構えを取らずに静かに息を吸い吐く、それを幾度も繰り返し全身に練りこんだ気を巡らせて行く。  迎え撃つ為に構えを取れば、膝の向きで動きを悟られる。  故に、棒立ちの様に自然体で立つ事で、次の動きの幅を、選択肢を多くする事で  相手の出方を窺う事に専念する。  ・・・攻撃に出ることを極力少なくし、防御に・・・避ける事に全身全霊を傾ける。  
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 「追え・・・。奴を生かして返すな! マナの霧にしろ!!」  飛び立つオリビアを見たガリオンは、すぐさま黒妖精(ブラック・スピリット)青妖精(ブルー・スピリット)に  顎で示しながら命令を飛ばす。  「貴様等は奴を・・・来訪者(エトランジェ)を殺せ!?   殺して殺して殺して・・・肉片一片に至るまでも、細切れにし、刺し貫き、焼き尽くせぇえええ!!!」  次いで聖矢を刺し示しながら、ガリオンは、妖精(スピリット)に命令を下す。  その怒りに目は赤く充血し、髪は逆立ち、聖矢に対する怒りから骨格さえ歪める程の表情を浮かべていた。   バッババ・・・!!  ガリオンの命を受け、十数人の妖精(スピリット)達が一斉に動く  一糸乱れぬ完璧に統制が取れた動き、まるで十数人が一個の精巧な機械であるかの様な動きだ。  その中から数人の妖精(スピリット)がオリビアを追い、漆黒の翼を広げ飛び立つ。    「ちっ! オリ―・・・!?」 ヒュン!?  敵が向かった事を知らせようと、オリーブに声を掛けようとした瞬間  前方から風を切り裂く音が聞えた。  「うおっ!」  咄嗟に後方に飛び引くと、目の前を剣線が通り過ぎる。  前髪がスパッと斬られ、空中に舞い飛ぶ。   ザッ!  息つく暇も無く、次いで青妖精(ブルー・スピリット)の打ち下ろしの斬撃と  緑妖精(グリーン・スピリット)の刺突が襲い来る。    「はあ!!」  横に転がる様に飛び引く事で、何とか回避する。  地面に転がると、兵士が落としたらしい盾が目の端に写る。  条件反射の如く、手を伸ばす。 カツ・・・!  『だ、駄目だ!』  前面に掲げた盾に妖精(スピリット)の武器が当たる音がした。  その音を聞いた瞬間。脳に電流の様に情報が伝達される。  ・・・防げない・・・と。 バキャ!  「ガハッ!!」  予想通り、槍が盾を容易く突き破り、右肩に突き刺さる。  信じられない痛みが突き抜ける。  「ぅ・・・がぁあああ!?」  その痛みを叫びと共に、脳内から追い出し、無事な左手を大きく振って馬乗りになっている奴に【銀杏(いちょう)】を放った。 バキッ!  闇雲に放った一撃は、運良く相手の顔面を捉えた。  俺の一撃を受け、傾ぐ緑妖精(グリーン・スピリット)。  俺は、間髪入れず攻撃した左手で、緑妖精(グリーン・スピリット)の髪を掴み  上体を勢い良く起こし、顔面に頭突きを食らわせる。  「・・・ウィンドウィスパー」 ブオ・・・! ガコーーン!?  俺が頭突きを食らわせる刹那、横合いから何か不思議な風が割り込んできた。    「ぅ・・・ぁ・・・ぐぅ・・・」  何とか、引き剥がす事に、成功した。  よろめきながら立ち上がり、少しでも距離を開けようとするが、足が上手く動かず  数歩を行かぬ内に、膝を着く。   ボタボタ!!  ズキズキ痛む額。  頭の奥で鐘が鳴っている様な感覚。  思考が上手く纏まらない。  な、なんだ? ど、どうなった?  「・・・血・・・?」  痛む額に手をやると、ベットリと大量の血が付着していた。  それだけじゃない。地面にもぶちまけた様に血が滴り落ちている。  ・・・聖矢が額を割られたのは、聖矢自身の頭突きによるものだ。  聖矢が頭突きを食らわせようとした瞬間。仲間の緑妖精(グリーン・スピリット)が逸早く  防御力強化呪文『ウィンドウィスパー』を発動し、一時的に防御力を飛躍的に強化したのだ。  その為、生身の聖矢の額は、まるで鋼鉄に頭突きを食らわせる様な感じになってしまったのだ。  しかも、勢いを着けた分カウンターになってしまい、脳を揺らされ足が言うことを聞かないと言うオマケまで受けてしまった。   ゾクッ!  「ぁ・・・や、べぇ・・・」  歪む視界の向こうで、赤妖精(レッド・スピリット)が数人俺に向かって剣を構えている。  リアとの戦闘で、赤妖精(レッド・スピリット)が炎を操る事を理解している。  しかも、首筋がチリチリして全身に悪寒が纏わりつくこの感じ・・・リアの放った炎よりもやばい気がする。  「・・・イグニッション」  「アポカリプス・・・」  「イン・・・フェル・・・ノ」      キィ・・・ン・・・! ブゥォオオオ!!!  「あ、ぅああああ!?」  迫り来る炎・・・いや、最早、炎とはいえない。  まるで迫り来る溶岩の津波の様だ。  そんな表現がピタリと当てはまる。   バサッ!  「我【気合】の契約者にして使い手なり。マナよ、凍てつく風を運べ。   争乱を止め、場に静寂をもたらせ。サーーーイレントォオ! フィーーーールドッ!!」   フィ・・・・ン! カキィーーーーン!?  もう駄目だ。そんな言葉が頭を過ぎろうとした瞬間。  空から天使が降って来た。  膝を着く俺と同じくらいの背格好の少女。  そんな少女よりも遥かにデカイ剣を地面につき立て、空気さえ吹き飛ばす様な大声で少女は叫ぶ。  すると、突き刺さる剣を中心に、同心円状の魔法陣が広がり、迫り来る炎の波が一瞬にして氷着いた。    「ふん!!」  少女が突き刺さる剣を抜き、横薙ぎに振るう。 バキャーーン!?  それだけで、氷の氷壁となった炎の壁は砕け散り。  空間に溶け込むように、光の粒となり消えてゆく。  「すぅ〜・・・。   俺は、イースペリア十二妖精部隊(ヴァルキリーズ)第一部隊アタッカー【気合】のイリーナ=ブルー・スピリット!!!   女王アズマリアの命を受け、反逆者。元イースペリア国軍総隊長、ガリオン=ラクサスを捉えに来た!!   反逆者に与する貴様等も同罪だ! この場でタタッ斬る!!   又、名乗る必要も無い!? 責めてもの手向け、俺の名をバルガロアーに持って行け!!」  一度息を吸い、腹に力を込めて、鼓膜が破れるかの様な大声で名乗り出る。  成りは小さいが、なんとも男臭い奴だ。  しかも、これだけの人数を前にしても、まるで臆する事が無い。  剣を突き出し、気迫をぶつけるその姿は正に威風堂々。  それに、あの津波の様な炎を一瞬にして滅して見せた事からも  コイツが、もの凄く強いと言う事が判る。  ・・・とても、そうは見えないが・・・。  「よう。大丈夫か、お前?」  「おい! あぶ―――!!?」    肩越しに呼びかける少女。  その時、相対する者達の内、緑妖精(グリーン・スピリット)達が手にする槍を投降しようとしたのを見て  少女に危機を知らせようとした。 ガッ! ガッ!! ガキーーン!!!  「――な!・・・い・・・?」       俺たちに向けて目にも止まらぬ速さで迫る槍が、俺と少女の眼前で目に見えぬ壁に弾かれた様に  明後日の方向に、飛んでゆく。  何が起こったのかまるで分からない。  「くくく・・・!! 安心しろよ。   奴等のパワーストライク程度じゃ、内の”天才”の障壁は破れない。   なあ? アルフィア」  慌てふためく俺を見て、少女が可笑しそうに忍び笑いを浮かべ、俺に語りかけ、呼びかける。  アルフィアの名を聞き、俺は後方に振り返る。  「ア・・・ル・・・」  俺の後ろに十字槍を手にし佇む少女が居た。  少女・・・アルは俺が呼びかけると、微笑み浮かべ頷いた。  そして、俺を下から上へと観察するように見る。  俺の状態を見て手にする槍をギュッと握り締める。  カタカタと音を鳴らす槍が彼女の握り締める強さが尋常では無いことを窺わせる。  『よ、よくも・・・! セイア様を、傷つけました、ね』    轟と言う風と共に、アルの手にする槍に、風・・・と言ったら良いのだろうか?  緑色に薄く光る風が集まり渦を巻いて行く。  俺から視線を外し、前方に佇む妖精(スピリット)を睨むアルにゾクリとした。  日頃の虫も殺せないような、優しく、ドジなアルからは想像も出来ないような殺気が放たれ、まるで別人のようだった。  「お、おい? どうし・・・」  アルの様子に、小さな少女も困惑した様に声を掛ける。    「ぅ、うう〜〜!!!」   ブフォア!!!  少女の声が聞えていないのか、槍を大きく振りかぶると、敵の一団に向け突撃する。  まるでその場から瞬間移動したかの様にアルの姿が掻き消え、数瞬遅れて突風が巻き起こる。  アルは、あっと言う間に妖精(スピリット)達の一段に迫る。  それを見た緑妖精(グリーン・スピリット)達が、前方に手をかざす。  すると、まるで磁石に引き寄せられるかのように、彼女たちの手に先程、弾かれた槍が戻る。  そして、彼女たちの目の前に、黒い円形のモノが表れ、その場に居る仲間を守る様に、ドーム状の障壁が緑妖精(グリーン・スピリット)の数だけ層となっていた。 ドゴォオオオオ!!!  だが、そんなモノはまるで役に立たなかった。  目にも止まらぬ、恐らく突き・・・だと思うを  三人の緑妖精(グリーン・スピリット)に叩き込むと  彼女たちが作りだした障壁をぶち破り、爆風に煽られた様に、三人が吹き飛び、彼女たちは地面に落ちる事無く  金色に輝く霧となって消えうせる。  「すげ・・・」  目の前で何が起こったのか分からない。  俺は、アルの圧倒的にして、美しさすら感じさせる槍技を呆然と眺めていた。  「ひゅぅ〜♪ ソニックストライク・・・流石の威力だぜ」  俺の前方に佇む少女が、口笛と共に、感嘆の念を込めて口を開く。    「ソニック・・・ストライク?」  「ん? ああ。緑妖精(グリーン・スピリット)の操る最上位アタックスキルだ。   音速を突破する速度で繰り出される槍技。大きな衝撃によって、敵の体内から破壊する。アルフィアの必殺技さ。   アレだけの威力と速度の技を一瞬で何発も放てる奴はそうは居ない。   俺の知る限り、アルフィアと・・・マロリガンの”深緑の稲妻”くらいだろうぜ」  「音速・・・?」  まるで、現実味を帯びない言葉だが。  今、目の当たりにしたアルの槍技は全く見えなかった。  音速と言われても、信じてしまいそうな程に・・・。  「あ!」  取り留めの無い話を交わしていると、アルの打ち終わりを狙い  黒妖精(ブラック・スピリット)が二人、腰に帯びる  刀に手を掛け、迫っていた。  「エ、エ、来訪者(エトランジェ)様!! イリ・・・ナ・・・さん!?」  「伏せてくださいまし!?」    突然、後方から二つの声が掛かられる。  俺が、何者か確認しよう振り返ろうかと思った瞬間・・・。  「バカ野郎!!!」  俺を怒鳴りつけると共に、少女が俺の頭に手を掛け地面に押し付ける。  「はぁ!?」  「いやっ!!」 ビシュッ! ボヒュ!!  頭上を何かが、高速で空気を切り裂く音が聞えた。 ド! ドシュ!?  「ぎゃーーー!!」  「がぴゃ!!」  次いで、連続して突き刺さる音と、悲鳴が木霊する。  俺が顔を上げると、その視線の先で、頭を吹き飛ばされた黒妖精(ブラック・スピリット)と  腹を槍によって串刺しにされた黒妖精(ブラック・スピリット)の姿があった。  アルに攻撃しようとしていた二人だ。  頭を潰された奴は、直に霧となって消えたが、もう一人は、その場に膝を着き、まだピクピクと動いている。  「ふぅ〜・・・!」  「はふ・・・!」  そして、俺と例の小さな少女の隣には、ピッチャーの打ち終わりの様な格好で  安堵の溜息を吐く、緑妖精(グリーン・スピリット)と  まだ年端も行かぬ緑妖精(グリーン・スピリット)が居た。  「おす。セリーヌ、ハルナ」  俺が困惑していると、小さな少女は片手を上げ、二人に声を掛ける。  どうやら、知り合いらしい。  「な、なんなんだ! テメェ等!!」    俺は、突然現れた訳の分らぬ二人に、向かって叫ぶ。 バサッ!? ドシャ!  「細かい事気にするなよ・・・来訪者(エトランジェ)」  そんな中、空からまた、別の奴が降ってきた。  今度の奴は、白い翼に青い髪・・・青妖精(ブルー・スピリット)だ。  彼女は俺に声を掛けると同時に、前方に手をかざした。  「アイス・・・バニッシャー!!」 ゴォオオオ!! パキーーーン!  「な!」  開いた口が塞がらない、驚きの連続だ。  いつの間にか、迫っていた炎が一瞬にして凍り付いて、砕け散った。  「レイアナ。悪い、助かった」  「全く、イリーナは、バニッシュスキルは相変わらずカラッキシなの?   それなのに、どうして、サイレントフィールドが使えるのか・・・全く理不尽だわ」  レイアナと呼ばれた青妖精(ブルー・スピリット)は額に手を当てると  やれやれと言った様に、頭を軽く振った。  「う〜るせぇな〜! 俺にはこれがあるから良いんだよ!?」  そう言って、レイアナの小言に対して小さな青妖精(ブルー・スピリット)は、大剣をかざし  言い返す。  『な、なんなんだ・・・こいつ等・・・。   正体は分らないが・・・ど、どいつもコイツも、何て強さだ』  「は〜い! 邪魔邪魔!!」 バッ!?  俺がしばし思考を巡らせていると、明るい声と共に、何者かが俺を飛び越える。  「あ! コラ!? カレン! 俺を飛び越えるな!?」  「御怒りは、後で聞くから”そいつ等”の始末よろしくね。レイアナ、イリーナちゃん。   ”私達”は、赤妖精(レッド・スピリット)を叩くから♪」  「ちゃん! 言うなバカレン!!」   ガキーーン!!  「やれやれ・・・だよ」  「い、何時の間に?」  気が付くと、左右から青妖精(ブルー・スピリット)が二人   剣を振りかざしていた。  レイアナとチビ青妖精(ブルー・スピリット)がその剣を受け止めて初めて気がついた程だ。 ギーーン!!  二人は、受けた剣を巻き込むように回し、跳ね上げる。  「はあ!」「ふう!」  跳ね上げた動作がそのまま、相手に攻撃を加える構えになっている。  それだけで、こいつ等の剣を・・・技を身に着けるのに血の滲むような歳月を費やしたのが分る。  二人が気迫と共に声を漏らし、握る柄に力を込めると、その背に白く輝く翼が生まれる。  「「インパルスブロウ!!」」 ズバーーーン!!  二人の声が重なる。  一息のうちに、羽ばたきと共に繰り出された斬撃に真っ二つに切り伏せられる青妖精(ブルー・スピリット)達。  二人の青妖精(ブルー・スピリット)は、光の粒となって消えて行く。  斬られたのにも関わらず、その二人の表情は何処か穏やかで、笑みさえ浮かべていた気がした。      その二人の最後の笑みが、その消え行く姿が俺にはこの上なく・・・羨ましかった。    「全く、カレンは! 一人だけさっさと行って。   どうせなら、僕達を運びなさいよね!」」  耳元で、声がした。  その声にハッとなり、振り返ると先に現れた緑妖精(グリーン・スピリット)とは、別の緑妖精(グリーン・スピリット)の少女と  もう一人、赤妖精(レッド・スピリット)が居た。  「ライオネルさん!」  「ジーン・・・ちゃん」  お嬢様言葉の緑妖精(グリーン・スピリット)と  オドオドした緑妖精(グリーン・スピリット)の少女が  俺の目の前に鎮座する少女と、恨みがましい目で先に行った黒妖精(ブラック・スピリット)を見つめる赤妖精(レッド・スピリット)の  名らしきモノを、笑顔を浮かべながら呼ぶ。  「動かないで下さいね。   この程度の負傷なら・・・大地の活力よ、傷つきし者の力となれ。   アースプライヤー・・・!」    俺の傷を冷静な目で観察すると、緑妖精(グリーン・スピリット)少女は大人びた口調と共に槍を立て、目を閉じ何かを口走る。  見た目は、もう一人の緑妖精(グリーン・スピリット)とそれ程、歳が離れている様には  見えないが、何処か冷めていると言うか、精神年齢が歳相応でないことを窺わせた。  そんな少女の槍が、牢屋でアルが俺の傷を癒した様な光を発しだし、その光が俺を包み込み  数瞬後にその光が治まると俺の怪我が、アルの時の様に治りかけの様に薄くなっていた。  「・・・ありがと。   誰か知らんが助かった。   お前達も・・・ありがと」  俺は、見ず知らずのこいつ等を警戒しながらも  とりあえず、礼を言って立ち上がる。  「あ。まだ、動いては」  ライオネルと呼ばれた少女が、立ち上がった俺を見て、静止しようと手を差し伸べる。   バシッ!  「るせぇ・・・」  思い切り手刀を叩き込めば折れてしまいそうな細く、小さな腕を叩き落す。  「テメ! 何してんだコラ!?」  それを見て、チビ青妖精(ブルー・スピリット)が俺の襟を掴んでくる。  「イリーナ。止めなさい!」  「イリーナ・・・さん。お、落ち・・・つい、て」  チビ青妖精(ブルー・スピリット)をレイアナとハルナと呼ばれてたと思う  緑妖精(グリーン・スピリット)が取り押さえ、俺から引き剥がそうとするが  俺の襟を捻る力は尋常では無く、全く引き剥がせない。  「・・・ダチが・・・」  「ぁに・・・?」  「ダチが、危なぇんだ! 邪魔すんな!!」 バチン!!  俺は、チビ青妖精(ブルー・スピリット)を怒鳴りつけると  顔に打ち下ろしの【紅葉(もみじ)】を叩き込む。  その衝撃に驚いたのか、まさか俺が攻撃するとは思わなかったのか、とにかくチビ青妖精(ブルー・スピリット)が離れた。  「お友達? それは、例のダーツィの妖精(スピリット)ですか?」  後方から聞えた声に、俺は睨むように振り返る。    「だったら何だってんだ? あ?」  「嫌ですわ。そんな怖い顔で睨まないで下さいまし。   彼女ならきっと、大丈夫ですわ」  「・・・何?」 ブォオオオオン!!!    お嬢様言葉の緑妖精(グリーン・スピリット)の言葉に俺が疑問を浮かべると  突然、後方のここからそう遠く無い位置で空に細く伸びる一筋の竜巻が起こった。  「・・・ぺっ! ありゃ・・・アネゴの」  先程俺が殴ったチビ青妖精(ブルー・スピリット)が、立ち上がりツバを吐き捨て  竜巻を見て口を開く。  「サイネリアの・・・」  「・・・フューリー」  チビ青妖精(ブルー・スピリット)の言葉を追うようにして  押さえつける二人が、その先を紡ぐ。 キーーーン!  竜巻を見つめていると、何か金属がぶつかり合う音が、アルの居る方向から聞え  俺を含めた皆が振り返る。  「月輪の太刀・・・!」  「雲散霧消の・・・た・・・ち・・・!」  そこには、二人の黒妖精(ブラック・スピリット)が刀に手を掛け  武士の居合い切りの構えと共に、一人は白い翼を従え、一人は黒い翼と共に二体の赤妖精(レッド・スピリット)に向かって行った。 ズバ! ズバババッ!!  白い翼の黒妖精(ブラック・スピリット)。奴は先程俺を飛び越えて行った奴だ。  そいつは、一刀の下に同を真っ二つに切り裂き。  黒い翼の黒妖精(ブラック・スピリット)は、初斬で双剣を握る  両手を切り落し、次いで袈裟懸けに同を、最後に首を一瞬で跳ね飛ばし、赤妖精(レッド・スピリット)を金色の霧へと変えた。  アレだけ、俺が恐怖を感じた奴等をこいつ等は、全く意に介さず時間にして十分足らずでこの世から消し去った。  黒い翼の奴、アイツには見覚えがある。  アイツは確か・・・。  「最後の一人は、僕達に任せて!   行くよ! 【灯火】!! インシネレート!?」  「この距離なら・・・外さない!   貫け【演舞】、パワーストライク!」 ボォオオ・・・・!! ドヒュン!!  残る最後の赤妖精(レッド・スピリット)に向けて  一筋の炎と、槍が放たれる。  真っ直ぐ正確に、青い空を背にし伸びる赤い筋それは、まるで・・・流星のようだった。  「な、何者だ? お前・・・等・・・」  俺の口から頭で思うよりも早く、疑問が言葉として出てきた。  「我々ですか? 我々は―――」 バサッ!?  「イースペリア国。十二妖精部隊(ヴァルキリーズ)   選び抜かれた最強の妖精(スピリット)達の集まりさ   来訪者(エトランジェ)殿」  お嬢様言葉の緑妖精(グリーン・スピリット)が俺の疑問に答えようとした時  空から黒い翼をはためかせ、一人のみすぼらしい長身の緑妖精(グリーン・スピリット)を抱えた  青妖精(ブルー・スピリット)が答えた。  数M上空を見上げるその視線の先に浮かぶ青妖精(ブルー・スピリット)緑妖精(グリーン・スピリット)にも見覚えがあった。  そうだ・・・あの夜、リアと一戦交えた夜に出会った。・・・奴等だ。  そして、もう一人・・・俺の良く知る人物が共に現れた。    「ご無事ですか? セイアさん・・・」  先程までの彼女と違うところと言えば、その身に刻まれていた傷が、俺同様に限りなく全快に近い程に目立たなくなり  その腰に、黒光りする鞘に収められた日本刀を差していること・・・。 シ・・・! ボッ!  「ああ・・・問題ないぜ、オリーブ」  俺は、タバコを取り出し、火を点けると  笑顔を浮かべ、再会した友に笑顔を浮かべ、問いに応えてやった。   

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