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	ブロロロロ・・・・

 澄み切った青空が広がる中一台の車が道路を走っていた。

 「父さん・・・仕事の方は、順調?」
 「ん?まぁ・・・ぼちぼちだ」
 「そ、か」

	バタバタバタ・・・。

 「・・・聖矢。窓、空けすぎだ」
 「ん?あぁ。わりぃ」

 俺は、父さんの忠告を受け、開け放っていた窓を閉める。

 「母さんが死んで・・・もう、六年、か。早い、ね」
 「そう・・・だな」
 「・・・父さん。再婚とか・・・考えないの?」
 「・・・何だ?藪から棒に?」

 母の墓参りの途中、今まで疑問に思っていた事を聞いてみた。
 母が亡くなってからの六年間、父は、俺を育てる為に毎日、朝から晩まで働き
 俺に寂しい思いをさせない様に、自分の事を後回しに何時も頑張っていたから・・・。
 俺も高校に進学したし、そろそろ、頃合じゃないかと思ったんだ。
 
 「いや・・・俺も高校に入ったし、もう手の掛かる年でも無いだろ?
  だから・・・その・・・俺の事、気にしてって言うのなら、俺は反対し無いからさ」
 「ふ・・何を馬鹿な事を・・・」
 「何だ〜?相手居ぇなら紹介するぜ?俺の通っている道場の先生なんてどう?
  父さんより三つ程年上だけどさ、よく言うだろ?『年上の女房は金の草鞋を履いてでも探せ』って!」
 「お、お前・・・何時の時代の人間だ?」
 「う、うるぇな!!先生の影響だよ!・・・気にしてんのに・・・はぁ〜」

 父に痛い所を突かれ、片手で顔を覆い深い溜息をつく。
 俺の師匠は見た目は結構若いのに、一々言うことが古臭い。
 だから、毎日顔をつき合わせているとどうしても、余計な知識が入ってきてしまう。
 
 「あっ!父さん!ストーープ!!」

	キキーーー!!!

 「なんだ!どうした!!」
 「花!まだ買ってないだろ?」
 「まったく。何かと思ったら・・・行ってこい」

 父は、呆れ顔ながらも快く、車を花屋へ寄せると笑顔で送り出してくれた。

††††
 「・・・聖矢」  芝生の上に片膝を着き、祈っていると隣の父が声を掛けてきた。  そして、俺に語りだした。    「私は、な・・・母さんが死んだ六年前に、母さんに約束したんだよ」  「・・・約束?」  「ああ。・・・お前が一人前になるまでは、私が責任を持って育てると、な」  「・・・」  「お前はな、私と母さんの宝だ。   そのお前を差し置いて、自分一人、寂しさに耐えかね誰かを頼ることは出来ない。   お前が二十歳になるまでは、決して寂しい思いはさせない。   母が居なくても、強く真っ直ぐに育ててみせる。   そう・・・母さんに誓ったんだ」  「・・・親父」  「こうやって、一年一年・・・。お前の成長を母さんに報告するのがな、私の何よりの楽しみなんだよ。   お前が二十歳になるまでのあと数年・・・私を嘘つきにしないでくれないか?」  父はそう言って、俺に頭を下げてきた。  俺の父は、俺の様に格闘技を習っておらず、何処にでも居るようなひ弱な中年の親父だ。  だが、俺はこの人に一生勝てないと思った。  育ち盛りの子供を誰に頼るでもなく、自分の全てを投げ出して育てる。  弱音を吐いた事だってあるだろう。  辛く無かった訳は無いだろう。  でも、そんな素振りを少しも見せず、俺を立派に育てると言う一方的な約束を  深く心に刻み俺を育ててくれたこの人を・・・俺は心から誇りに思った。   「・・・な、何・・・言ってんだ、よ!   し、仕方ねぇ、な!こ、後悔す、るな、よ!   何時まで自分の息子に頭下げてんだよ!?あ、上げろ!恥ずかしい」  父の話を聞き、俺の目に熱いものが込み上げて来る。  それを、隠そうと俺は背を向け、言葉を詰まらせながらも父に、強がりで返した。  「うん・・・ありがとう。・・・聖矢」  顔を上げた父は、優しい笑みを浮かべ俺に礼を言った。  父から感謝された俺は、何処かくすぐったくて、顔を逸らしたままでいた。  
††††
     「大分遅くなってしまったな。聖矢、すまんが今日はコンビニで済ませて良いか?」  「ふぁ・・・別に構わないよ」  日が沈み、時計の針が午後10時を指す頃にようやく、街へと続くインターを降りる。  母が富士山が好きだった事から、父は、晴れた日には富士山を一望できる高台に母の墓を作りったのだ。  確かに、絶景なのだが、高速道路の混み具合によっては、こんな時間になることもしばしばだった。  眠い目を擦りながら、父の提案に俺は同意した。  「すまないな。何時も何時も」  「謝るなよ〜。俺は気にしてないって   てか、父さんは俺に構いすぎ、そろそろ子離れしてくれよ   この間も飲み会の誘い断ったろ?   もう少し、自分の為に時間を使っても罰は当たらないと思うぜ?」  「はは。考えて置くよ」  父は、俺の提案に笑いを浮かべ答えると、コンビニへと車を着けた。
††††
  ブロロロ・・・  弁当と、晩酌用のビールを購入し、コンビニを後にした俺たちは、家まで数キロという所で  信号に差し掛かり、父は、車を停止させる。 ガサガサ!!  「どうした?聖矢」  「ん?流石に何時間も車に乗っていると眠いから、ね。ほい!」    俺は、先程買った、コンビニの袋を漁り缶コーヒーを二本取り出し父に一本渡した。  「気が利くな・・・と、言っても、元は私の金か」  「こ、細かい事気にするなよ」  「ありがとうな・・・聖矢」  「お、おう」  軽いジョークを交えつつ、親子の会話をしばし楽しむ。 パッ!  「あ、信号変わったぞ?父さん」  「おっと」 ガクン!? バシャッ!!  「おいおい、父さ〜ん」  信号が変わり、父は慌てたのか、暗かった事もあり缶を上手く置くことが出来ず、落としてしまった。  「すまん、すまん」  何時もの笑顔を浮かべながら、謝る父。  俺は、”仕方無いな”と思いつつ、家に着いたら、掃除する事を面倒臭く思っていた。  何処にでもある、何気ない日常の一コマ・・・。  でも・・・これが、俺が見た父の最期の笑顔だった。  その瞬間は何の前触れも無く訪れた。  ドガーーーン  「うあ!」  「あがっ!?」 キュキューーー!!  突然、後ろから一台の乗用車がスピードを上げ、突っ込んで来たのだ。  俺たちは、何が起こったのか訳が分からず、パニックに陥った。  タイヤが甲高い音を立て父の車は左右に振られた。  「と、父さん!!止めて!?ブレーキ!ブレーキ!!」  「こ、こっちか!!」 ガッ!! ゴーーーー!?  「それ、アクセル!!逆!逆!!」  「こ、この!この!」 ガッ!ガッ!  「と、父さん!!ブレーキーーー!!」  「き、利かない!ブレーキが利かない!?」。  【わぁあああああ!!!】   ガシャーーーーン!!!  俺は、幸か不幸かシートベルトをしていなかったお陰で  ガードレールに激突した表しにフロントガラスを突き破り、助かることが出来た。  でも・・・父は・・・。 ボーーーン!!!  漏れ出したガソリンに引火し、激しく燃え上がる父の車。  父は、車体にその体を挟まれ身動きが取れないまま、生きたまま焼かれ・・・  ・・・死んだ・・・。  奇しくも時間は、午後11時44分・・・。  母が近くの総合病院で癌との闘病生活の果てに死んだ日時と同じだった・・・。    後に警察の現場検証の結果  ブレーキの利かなかった理由が判明した・・・。  ブレーキオイルを抜かれているとか・・・。  激突された表しに、ブレーキが利かなくなったとか言う。  ドラマでよく聴かれる話とは違い、もっとありきたりで、簡単なモノ・・・だった。  ブレーキが利かなかった理由・・・それは・・・。  ブレーキに挟まった、缶コーヒー・・・だった。  そう・・・俺が何気なく買った・・・あの・・・缶コーヒー・・・だったんだ。 父さんは・・・俺が・・・”殺したん”・・・だ。    そして・・・母さん・・・も・・・。    俺が”約束”を守れなかった・・・から・・・死んだん、だ・・・。 皆・・・俺の・・・セイナンダ・・・。
††††
    ・・・???・・・ ガチャ  朝日が差日込む部屋の中に少女が静かに入室してくる。  そして、足音を立てない様にゆっくり窓へと向かう。 シャ・・・  カーテンを開く音が部屋の中に木霊する。  音を立てない様に注意したつもりだったが思いのほか大きな音が出て、少女は少々戸惑った。    『・・・ほっ』  窓辺のベッドで規則正しい寝息を立てている青年に視線を向け。  青年が起きる様子が無いことを確認し、胸を撫で下ろす。   カチャ・・・ チュン!チュチュン!  窓を開くと二羽の小鳥が窓枠に降りてきて、少女に挨拶でもするかの様に鳴いた。  「しぃ・・・」  少女は優しい微笑と共に視線を小鳥の高さまで下げると、人差し指を唇に当て  ”静かにしてください”と二羽の小鳥にお願いする。  何事か分らない小鳥達は小首を傾げる様な仕草をした。  その時だった。  「・・・ぅ・・・と・・・さ、ん・・・」  「・・・っ!!」  突然後ろから聞こえてきた寝言に驚き、少女がビックリして振り返る。  振り返った少女に驚いたのか、小鳥達は脱兎の如く外へと飛んで行ってしまった。  「・・・」  少々残念そうに少女は肩を落すと  青年の様子を見る為にベッドへと歩み寄った。  『・・・?。・・・涙?』  何か悲しい夢でも見ているのだろうか?  青年の閉じた瞼から、一筋の涙が零れ落ち、道を作っていた。  それを見た少女は、ハンカチを取り出し、青年の涙の後を拭こうとした。  「ぅ・・・ぅう・・・ご、めん・・・な、さい・・・」 ガバッ!!!  「父さん!母さん!?」  「・・・っ!!!」 どしっ!!  突然。青年が起き上がり。  大きな声を出すものだから、少女は驚き、尻餅を着いてしまった。  「はぁ!はぁ!はぁ!・・・夢、か・・・くそ!」  起き上がり、聖矢は今まで見ていた物が夢だと気づくと  とても悔しそうな顔をし、シーツを力一杯握り絞める。  そして、自分の腕に包帯が巻かれている事に気が付いた。  「・・・こ、ここ・・・は?」  シーツを握っていた手を離し、包帯に包まれた手を凝視し  手だけではなく、上半身も包帯でぐるぐる巻きにされていることに気付いた。  服だと思っていた物が包帯だと気付き、自分の上着を探して、部屋を見渡すと  自分が見知らぬ部屋に居る事に気付く聖矢。  「ぅ〜〜・・・」  「ん?」  その時、腰をさすりながら、見知らぬ少女がベッドに手を掛け、起き上がる。  「っ!!」 ドテン!! バタ!バタタ!!  「お、おい」  聖矢と目が合った少女は、驚いたのかまた尻餅を着き  真っ赤になりながら、もの凄い勢いで、カーテンの裏に隠れてしまった。  だが、聖矢の事が気になるのか、カーテンに隠れながらも  顔の半分を出し、様子を窺っている。  「あ〜・・・その、なんだ?・・・大丈夫か?」 コクコク!!  聖矢が声を掛けると少女は、顔をカーテンに隠し  また、ゆっくりと顔を出し、勢い良く頷いた。  「・・・そう、か」  そう言って、視線を横に移すと、聖矢の荷物が机の上に並べられていた。  その中にタバコと携帯灰皿を見つけた聖矢は、迷う事無く手を伸ばした。 シュボッ!  「・・・ふぅ〜」   チラ・・・チラ・・・  「っ!!」 シャッ!  少女はチラチラと聖矢の様子を伺い、視線が合うと勢い良く  カーテンの中に隠れ、そして、直に顔を出し聖矢を覗き見る。  『・・・なんなんだ?これは、新手のいじめか?』  「・・・おい」  「っ!!」 シャッ!!  「・・・ふぅ。お前が手当てしてくれたのか?」   コクコク  「ふ〜ん・・・」  『しかし・・・妙だな?俺、相当な大怪我だった・・・はず?だよな?   え・・・と?なんで怪我したんだっけ?』  聖矢は自分を手当てしてくれたであろう少女に取り合えず確認を取り  そして、相当な大怪我を負ったはずなのに  全身が少々軋むものの、起き上がる事が出来る位まで回復している自分の状態に違和感を感じた。  そして、なぜか怪我を負ったであろう出来事が頭の中からすっぽりと抜け落ちていた。  『・・・恐らく一時的なものだな。落ち着いてくれば思い出すだろう』  聖矢は、古武術の修行時代にも似たいような経験を体験していたので別段、気に留める事も無く  視線を窓の外に向けた。  「・・・綺麗な青空だ」  視線を向けた先には目も覚める様な雲ひとつ無い青空が広がっていた。  それを見た聖矢の口から素直な感想が漏れる。  その時・・・。 ココン!!  『ん?誰だ?』  誰かが、勢い良く扉をノックする音が聞こえた。  すると、カーテンに隠れていた少女が慌てた様子で扉に駆け寄ろうとした。  「っ!!!」 ドデン!!  扉に駆け寄ろうとした少女は、途中で躓いたかと思うと、そのまま床に顔面を痛打した。  『・・・紫、か。・・・見かけに寄らないな』    少女が転んだ拍子にスカートがめくれ上がり、少女の下着が見えてしまった。  それを見た聖矢は、特に気にする事無く、冷静な評価を心の中で下した。  「ぅ〜・・・っ!!!」 バッ!!  少女は涙を耐え起き上がると、痛打した顔面を押さえ、呻き声を上げた。  そして、捲れ上がった自分のスカートをもの凄い勢いで押さえると  両目に涙を溜め、真っ赤になりながら、聖矢を上目遣いに見上げる。   ドンドン!!  「ちょっと!!アルフィア!さっきから何ドタバタしているの!!   早く此処を開けなさい!!」  『ビクッ!!』   扉の外に居る者がとうとう我慢の限界を超えたのか、扉を乱暴に叩くと  部屋の中に居る者に怒鳴りつける。     バタバタ!! ガチャ!!  「まったく!!貴方は何をしてるの!来訪者(エトランジェ)様が寝ているのよ   もう少し静かに出来ないの!!粗相の無い様にとあれ程言ってるでしょ!!」 ペコペコ!!  少女が扉を開くと、真っ赤な髪をオールバックにした少女が大きな声で説教を始めた。  それに対して少女はひたすら頭を下げる。  何かコントを見ているみたいで楽しい光景だった。  「ふぅ・・・。その変にしてやれよ。その子、謝ってるじゃねぇか。   それに、俺が寝てるのを知ってて、デカイ声だすアンタもアンタだろ?」  そんな二人に、聖矢が一つ大きく天井に煙を吐いてから仲裁を入れる。  「あっ!こ、これは・・・その・・・起こしてしまい、申し訳ありません!!」  聖矢が声を掛けると、赤い少女は、恥ずかしそうに口ごもると、勢い良く頭を下げ、大きな声で聖矢に謝罪した。  そして、それに習うように、もう一人の少女も頭を下げる。  「別に・・・アンタが来る前にから起きてたからな。気にするな」  「はっ!ありがとうございます!!」  頭を下げた状態のまま赤い少女は大きな声で聖矢に礼をした。  「・・・いつまで頭下げてるんだ?俺は気にして無ぇつったろ?顔上げろよ」    一向に頭を上げる様子の無い、二人に聖矢は、少々苛ついたのか  声を荒げ、頭を上げるように声を掛ける。  「はっ!」    聖矢にそう言われようやく頭を上げる二人の少女。  「それで?何なんだ?アンタ等?」  「申し遅れました!私はイースペリア十二妖精部隊(ヴァルキリーズ)一番隊の隊長!及び   副総隊長を勤めさせて頂いております【紅蓮】のリア=レッド・スピリットと申します!?   私の隣に居る者は、同じ部隊の隊員で【慈愛】のアルフィア=グリーン・スピリットと申します。   彼女は喋れないので、僭越ながら私が紹介しました。どうぞ、お見知り置きを、来訪者(エトランジェ)様」  敬礼なのだろうか?赤い少女は、胸の上に拳を掲げると自己紹介をした。  「イースペ?ヴァルキ?・・・は?喋れない?えっと・・・ちょっと待て」     意味不明な紹介を受け、聖矢は混乱した。  「・・・ふぅ〜・・・まず此処は何処だ?」  最後に一つ大きく煙を吐き出し、タバコを携帯灰皿にしまい、幾分落ち着いた聖矢はリアと名乗った少女に質問した。  「此処ですか?私達が住むことを許されている兵舎の客間です。   何分、急なことでしたので、この様な部屋で申し訳ございません」  聖矢の質問に答えると、謝罪と同時に再び頭を下げる二人。  「兵舎?此処は日本じゃないのか?」  「・・・?ニホン?それは一体?」  「何って・・・日本だよ、ジャパン!お前ら日本語喋ってるじゃないか、なのに日本を知らないのか?」  「・・・??。あの、申し訳ありません。おっしゃる意味が分らないのですが?」  『一体・・・どうなってるんだ・・・』  二人は聖矢の言っている事が本当に分らないらしく、頭の上に?を浮かべていた。  その後、聖矢は、様々な質問をリアにぶつけた  聖矢の質問に対して、リアは嫌な顔一つせず、一つ一つ答え、説明して行った。  聖矢の今、居る国がイースペリアと呼ばれる北方五カ国の内、ラキオス、サルドバルトと”竜の魂同盟”を結ぶ国であること  自分達は人では無く、妖精(スピリット)と呼ばれる戦闘種族であり、国の所有物であり、戦争の道具であること  永遠神剣、マナ、エーテル技術などまるで信じられない様な話ばかりだった。  そして、聖矢が来訪者(エトランジェ)と呼ばれる異世界から召喚された存在であることを説明された。
††††
 「来訪者(エトランジェ)様の質問に補足を加えますと、以上になります」  「・・・マジ・・・かよ」  「少々驚かれている事はお察しいたしますが・・・全て事実です。」  『此処が・・・異世界?なぜか知らないが、俺はこんな訳の分らない所に召喚され、おまけに、こいつ等が人間じゃない?   更に、訳の分らない言語が俺には翻訳されて聞こえる?信じられねぇ』   クイ!クイ!!  「ん?何?アルフィア?」  聖矢が、リアの説明を受け、落ち込んで居るときアルフィアがリアの袖を引っ張っると  リアの腕を取り、掌に何かを伝えようと指で文字を書く。  「・・・あ!そうね、ええそうしましょ   来訪者(エトランジェ)様のを運んで来てくれる?」 コクリ  リアのお願いにアルフィアは一つ大きく頷くと、パタパタと下に下りて行った。  「来訪者(エトランジェ)様」  「あん?」  リアに呼ばれ、聖矢は少し不機嫌な返事で答える。  「只今、食事をお持ちいたしますので少々お待ち下さい」  「食事?」  「はい!来訪者(エトランジェ)様は3日も眠っていたのですから   遠慮なさらずに食べてください」  リアに言われ、自分の腹が異常に空いている事にやっと気付いた聖矢。    『・・・そうだな。此処で悩んでも仕方なぇし。”腹が減っては戦は出来ぬ”と言うし・・・。   まずは、飯を食ってから、今後の事について考えるか』  「わかったご馳走になる」  そう言って、聖矢はベッドから起き上がろうとした。  すると・・・。 グラッ。  「っ!?」  「大丈夫ですか!?」  バランスを崩し、倒れそうになった聖矢をリアがすぐさま支えてくれた。  「・・・すまん」  「まだ、無理はなさらないで下さい。   傷は塞がりましたが、体力は戻ってないんですから」    聖矢に肩を貸しながら、部屋の中央に置かれたテーブルへと案内し、座らせてくれた。   コンコン  「あ、今開けるわ」  リアが、ノックの音を聞き、扉を開くとそこには、聖矢の食事をお盆に載せたアルフィアが立っていた。  聖矢の体調を考えてだろうか?  食事は、野菜スープとパンだった。  「・・・あり・・・」  「っ!?」 バタバタ!!  「・・・ふぅ〜」  おそるおそる、お盆をテーブルに置くと、聖矢の礼を聞く前にアルフィアはリアの背中へと隠れてしまった。  聖矢はやれやれと肩を竦め、息を一つ吐いた。  「も、申し訳ありません・・・。来訪者(エトランジェ)様・・・。   アルフィアに悪気は無いのですが、何分極度の恥ずかしがり屋なもので・・・」  アルフィアの行動に、リアは本当に申し訳なさそうに聖矢に説明した。  「気にしてない。   ・・・いただきます」   その謝罪に、素っ気無く答え。  両手を合わせ、食材となった者たちに感謝を示し、スープへと手を伸ばした。  その様子を一瞬たりとも逃すまいとアルフィアはリアの背中に隠れながら、食い入るように見つめている。 ゴクッ!  そして、聖矢がスープを口へと運んだのを見て、緊張した面持ちで喉を鳴らした。  ・・・・・・・・・。  ・・・・・・。  ・・・。  だが、一向に聖矢の口からスープに対する感想が聞こえない。    「・・・」   「・・・(シュン)」  「あ、あの来訪者(エトランジェ)様?」  無言で、スープを口へと運び続ける聖矢。  そんな聖矢の様子に落胆した様に、肩を落すアルフィア。  瞳には薄っすらと涙すら浮かんでいた。  アルフィアの心境を察してか、リアが聖矢に声を掛ける。  「・・・なんだ?」  スープを飲みながら、視線だけリアへと向ける聖矢。    「その・・・。味の方はどうでしょうか?」  「言わないと駄目なのか?」  「お願いします!」  勢い良く、頭を下げるリア。  「・・・まずいな。   点数を点けるとするなら、100点満点中30点だ」  「・・・も、申し訳ありません」  お世辞も、社交辞令も無く。  素直な感想を口にする聖矢。  それを聞いたアルフィアは、先程よりも俯き、完全に下を向いてしまった。  「・・・ご馳走様」  そう言って、スプーンをお盆の上に置く聖矢。  なんだかんだ言いながら、スープの皿は空になっていた。  「・・・おい。これを作ったのはお前か?」     ビクッ!?  聖矢に、突然呼ばれ、飛び上がる位に驚き、申し訳なさそうに頷くアルフィア。  「・・・こっちに来い」  「も、申し訳ありません!?以後、気を付けますので!アルフィアを許してやって下さい!」  聖矢は顎で自分の傍に来るようにアルフィアに催促した。  それを、見たリアは、アルフィアに代わりまたもや聖矢に謝る。  「ちっと、黙っててくれるか?・・・来い。何度も言わせるな」   トコトコ・・・。  聖矢の静かながらも、迫力のある声で再び呼ばれ。  ゆっくりと聖矢に近づくアルフィア。  その顔は、これから行われる事に対する恐怖からか、既に泣きそうな顔をしていた。 スッ・・・。  「(ビクッ!?)」  「っ!?」  聖矢の傍に立ち、俯きっぱなしのアルフィア。  そして、聖矢の手がアルフィアの頭上に上がると、体が一瞬大きく動き、目を力いっぱい瞑る。  リアも顔を逸らし、目を瞑った。  ・・・・・・・・・。  ・・・・・・。  ・・・。  だが、いくら経っても予想した事が起こらない。   リアは瞑っていた目を薄っすらと開き、聖矢を見た。  「あ・・・」  聖矢の意外な行動を見た、リアは思わず声を挙げてしまった。 ふわっ・・・。  『・・・え?』      予想だにしない感触が、アルフィアを襲った。  それは、拳、平手といった体罰の感触ではなった。  今まで味わった事の無い優しいモノだった。     「礼が・・・まだ、だったな。   傷の手当てしてくれて・・・ありがとう。   それと、一応、料理に対しても。   お前の料理は美味くは無かったが、食えない程じゃなかった」  キョトンと自分を見つめるアルフィアの頭に手を置き、優しく撫でる聖矢。  アルフィアのサラサラの髪を撫でながら、聖矢は傷の手当てと、料理の礼をした。       「・・・どした?ボーとして?   俺の顔に何かついてるか?」  そして、自分をボーとした様子で見つめるアルフィアの目を覗き込み疑問をぶつけ。  自分の顔を拭った。 ブンブン!!  すると、我に返ったアルフィアは、勢い良く首を左右に振り。  焦った様に、聖矢の腕から逃れると、そのまま部屋から逃げてしまった。  「・・・やっちまった。つい、癖で頭を撫でちまった」  それを、見て、片手で顔を抑え自己嫌悪に俯く聖矢。  聖矢には、年下の者を褒める時、頭を撫でてしまうという癖がある。  幼い頃の古武術の修行時代、師匠から、褒められる時、何時も頭を撫でられていた事から  聖矢は、深層心理に人を褒める時は頭を撫でるんだ・・・という事を刷り込まれてしまった為である。  人の癖とは中々抜けないもので、成長するにつれて、聖矢も頭を撫でる癖を意識して抑える様にしているのだが  無意識の内に出てしまう時だあり、一度、光陰に対しても行った事があり、その時の自己嫌悪は今の比ではなかった。   シュボッ!  「完璧に・・・嫌われた、かな」  タバコに火を点け、外を見やりながら聖矢は呟いた。 コト・・・。  「・・・そんなこと、ありませんよ。   ありがとうございます。来訪者(エトランジェ)様」   「あん?なんだ?俺、何か礼を言われる様な事したか?」  「ええ。本当にありがとうございます」  聖矢にもう一度、礼を言い、深く頭を下げるリア。  何の事か分らない聖矢には、訳が分らなかった。  「それでは、失礼します。来訪者(エトランジェ)・・・」  「待った」    お盆を下げ退出しようと、頭を下げようとしたリアを聖矢は呼び止めた。  「?何か?」  「聖矢」  「え?」  「俺は、白銀聖矢。   来訪者(エトランジェ)だか、何か知らんが・・・。   俺の名前は、白銀聖矢だ。それ以外の何者でもない」  「はっ!セイア・・・様。失礼いたします!!」  聖矢の言葉に、元気良く答え退出して行くリア。  その顔には、何処か、喜びの様な表情が窺えた。  

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