街を一台のバイクが走っていた・・・
 バイクに乗っている青年の名は白銀聖矢(しろがねせいや)。
 悠人達が通う学園の卒業生である
 悠人とは、同じバイト先のコンビニで知り合い、自分と同じく両親を亡くしながらも
 自分の様に腐る事無く、逃げる事無く、たった一人の(守るべき者)の為に頑張る悠人の姿に
 自分の今までの愚かな行いを恥、人生を一からやり直した男である。
 
	キキッ!!

 信号が赤になり、単車を止めた聖矢の目に驚くべき人物が飛び込んでくる
 巫女服の姿少女である。
 歳は同じ位か、少し下・・・位だろうか?

 「・・・マニアックな・・・」
 
 奇妙な格好で街を歩く少女の存在にあっけにとられていると

 「きゃっ!!」

 あたりを見ながら歩いていた少女は、裾を踏んづけ前のめりに転び、顔を思いっきりぶつけてしまった。

	カラカラッ!!

 巫女の少女の持ち物だろうか、恐らく儀礼等に使うものだと思われる短剣が転がった。
 
 『・・・普通、普段着に着るのか?』
 
	プップー!!
 
 「っと!青か」

 少女に見とれていて、信号が変わった事に気付かなかった聖矢は、パッシングを受け
 慌ててブレーキを離し、発進させようとした。
 
 【・・・み・け・・・た・・・】
 「え?」

 その時、微かに自分を呼ぶ声が聞こえた気がした。
    
 「誰だ?」
 【・・・もうすぐ・・・もうすぐ・・・出・・・・え・・る】

 辺りを見渡すが、巫女服の少女が、路上で短剣を鞘から出し、なぜか剣に申し訳なさそうに謝っているだけだった。

 『・・・?空耳か?』

	プップーー!!

 「おい!!信号が見えないのか!さっさと行けよ!」

 信号が青に変わっているのにも関わらず、まったく発進しようとしない聖矢に
 これから出張に行くらしいサラリーマンが怒鳴り声を上げる。
  
 「ぁあ!!んだっ?コラ?殺すぞ!?」
 「ひっ・・・す、すいません・・・で、でも出来れば。その・・・発進していただけないでしょうか?」

 それを聞いた聖矢は凄みのある睨みと共に、サラリーマンを威嚇した。
 すると、先程の威勢は何処へやら、サラリーマンは速攻で謝り、明らかに年下の聖矢に対して敬語でお願いした。
 
 「気が向いたらな!?」

	シュボッ!!

 『んだ?この親父?年長者としての誇りは無ぇのか?』

 聖矢は、サラリーマンの態度にムカついたのか、その場でタバコを吸い始めた。

 「おい!!何やってるんだ!!」
 「早く行けよ〜!!」

	プー!!ブップーー!! 

 「あ、す、すいません!!」
 『ちくしょう〜!私のせいじゃないのに〜〜!?』

 聖矢の姿は、後方の人たちにはサラリーマンの車で死角になっているらしく
 非難の声は全てサラリーマンの男に向けられた。

 「ふぅ〜・・・そろそろか」

 	ブブーーーン!!

 タバコを緩慢な動作で取り出した携帯灰皿でもみ消すと、聖矢はようやくアクセルを開き単車を発進させた。

 「ようやく行ったぁ〜・・・あの!クソガ・・・え?」

 聖矢の余りの理不尽な行動に腹を立てながらサラリーマンも車を発進させようとした、が
 信号は聖矢が発信すると同時に赤に変わっていた。
 
 「そ、そんな〜〜・・・」
 
 落胆しながら、前方を恨めしそうな瞳で睨むが、聖矢の姿は、もう影の形もなかった。

†††††
 「よぅ、親父。お袋。また・・・来たぜ?」   シュボッ!  両親が眠る外人墓地の前に膝を付いた聖矢は、タバコに火を点けると台座の上に置き、今は亡き両親に語りかける。  「・・・俺もとうとう二十歳だ。もう・・・良いよな?   親父がお袋とした、”俺が立派な大人”になるまでって約束・・・一時期忘れててさ、ごめん。   立派かどうかは分らないけど、取り合えず・・・世間一般が言う”大人”。   には成ったからさ・・・もう良いよな?この世界は・・・俺には疲れるよ」  聖矢はこれまで、どんな人生を歩んできたのだろうか?  聖矢の醸し出す不陰気は、同年代の者たちが持つそれとは余りにもかけ離れていた。  「そろそろ・・・行くよ。余り長く居ると・・・”雨”が振、て、来ち、まう、からよ」  雲ひとつ無い、冬の空に星が輝く夜に雨が降るはずなどまず、ありえない。  だが、聖矢の去った後の墓石の上には確かに、一粒の水滴の落ちた痕が残されていた  世界の誰も振った事を知らない”雨”が此処には確かに落ちたのだ。 
†††††
時計の針が10時30分を指そうかという時刻一人のバイト終わりの青年が家路へと歩いている。  青年はコートのポケットから携帯を取り出すと何処かに電話をかけた。   トゥルルルルル、トゥルルルルル・・・ ガチャ。  「あ、佳織?俺」  青年は何がうれしいのか電話の声を聞いて、頬を綻ばせる。  それから、僅かな間、一言二言電話の向こうの人物と話。  再び手をコートに入れた。  「はぁ・・」  少年が白い息を一つ大きく吐き出すと、両手をポケットに突っ込み歩き始めた。  少年の名は高峰悠人。実の両親と里親の両親を事故で失うという。  苦しみを味わいながらも、妹を悲しませまいと、周りに両親を無くした事をおくびにも出さず  明るく生きてきた、強い心を持つ男である。  佳織と二人暮しを始めて大分立つなぁ・・・  最初の頃は俺に全く懐かなかったのに、今は下手な兄妹より仲が良い。  佳織と仲良くなったのは・・・あの頃からだ  高峰の義父さん達が、死んでからだ。  やさしかったなぁ・・・義父さん。  こんな俺にやさしい笑顔を向けてくれて、本当の子供の様に可愛がってくれた。  今でも鮮明に覚えている。  あの、笑顔を、俺を優しく抱きしめてくれた腕を、俺は一生忘れないだろう。  「俺は誓ったんだ。二度と悲しませないって。義父さん見ててね?俺、頑張るからさ」  一生を掛けてでも、佳織を守る。  それが・・・俺に出来る唯一の義父さん、義母さんへの恩返しなんだから・・・。  「光陰と今日子も居る」  今日子ならばきっと、佳織の力になってくれる。  光陰だって力を貸してくれるだろう。  それに・・・あの人も・・・。  「いや・・・先輩にはこれ以上、迷惑は掛けられないな・・・」  「なぁ〜に。黄昏てんだ、よ!」 ガツ!  「イテ!・・・え?せ、先輩?」  突然誰かに、硬いもので頭を殴られ、青年は頭を抑え振り返った。  そこに居たのは青年の良く知る人物。  自分が尊敬する大恩人。白銀聖矢だった。  「久しぶり。相変わらず頑張ってるようだな」  そういって、聖矢は青年に缶コーヒーを投げた。  どうやら、先程の衝撃はこれだったようだ。   「何時、帰って来たんです?」  「おお、今日の夕方にな」      缶コーヒーを受け取ると、青年はうれしそうに聖矢に笑顔を向けた。  「これから帰りか?少し先に単車とめてあるから送るぜ」  「いや、そんな悪いよ」  「俺と、お前の仲だろ?遠慮すんなって   年上の申し出は快く受け取っておけ」    そう言って、青年の肩に手を回し、ゲンコツで悠人の頭をグリグリと撫でる。  「わ、分りました!?お願いします。だからそれ、止めて!」  「あいよ」  その後、聖矢の単車に乗り、悠人は家路へと着いた。  聖矢のヘルメットを悠人が使った為、聖矢がノーヘルだった事は  突っ込まないでおこう。
†††††
 翌日・・・  「朝は、災難だったな・・・悠人」  昼休みに入り、光陰が近寄って来たかと思うと、開口一番そう言った。  「全くだ。人の家に勝手に上がりこんで   更につまみ食いした挙句に、しかも逆切れだぜ?」  「佳織ちゃんが居ないからって油断したな」    そう言って、光陰は哀れみを込めた瞳で悠人を見た。  「あいつは、もっとおしとやかになれないのかよ」  「まぁそう言うなよ」 ガラッ!!  二人で、今日子の性格について話し合っていると  突然ドアが開き、噂の人物が現れる。    「悠!悠!!」  「おう、今日子!今な、悠人がお前の悪口言ってたぞ」  「ちょっ!光陰、おま!!」  「そんなことより!先輩!帰って来たんだって」  突然慌てた様子で、現れた今日子に、平然と告げ口する光陰。  再び、ハリセン攻撃を受けると、焦りまくる悠人に今日子は昨日帰郷した聖矢の事を聞いてきた。  「あ、ああ。昨日帰って来たんだって」  「そっか〜♪それで?何時まで居るの?先輩」  「えっと。今週一杯までは居るって聞いたけど?」  「おっ!それは良い。また何処かに連れてってもらおう」    二人は、聖矢が帰ってきた事を知ると、まるで小躍りする様に喜び  聖矢ともども遊びに行く算段を始めた。  「その情報、誰に聞いたんだ?俺まだ、誰にも言ってないと思ったけど?」  「さっき職員室で、先輩が挨拶に来たって小耳に挟んだの」  「と!それなら、まだ居るかも知れないわよね!   行くわよ悠!光陰!遊びの約束しとかないと!?」  「あ、おい!!」  「やれやれ・・・」  一気に捲し立て、台風の如く教室を去って行く今日子。  それを、悠人と光陰が仕方ないと言った様子で、追いかようとした。 キーーーン!?  「え?」  【とき・・・が・・・その・・・け・・・】  「んぁ・・・誰の声だ?」  突然耳鳴りがして、視界が歪んだかと思うと何処からとも無く  声が聞こえて来た。  【・・もと・・・め・・・よ。まだ・・・やい】    時間が圧縮された様な。  まるで世界に自分しか居なくなった様な感覚。  鮮明に聞こえるはずの音が良く聞き取れない。  「おい悠人・・・どうした?おい!?」  誰かが、俺の肩を揺らし、呼びかけるが声は聞こえているのに  それに答える事が出来ない。  【まけ・・・でい・・・けん・・・】  「この声・・・むかし・・・」  聞き覚えのある声が、耳では無く、頭の中に鳴り響く。  「悠人っ!しっかりしろっ!   おい誰か・・・手ぇ貸してくれ!?」  声が小さく、遠のいてゆく・・・。  フッと目の前が真っ暗になる。  「なん・・・だ?あれは・・・剣?」  広がる暗闇の中に一振りの剣が・・・。  その剣は妖しく、ぼんやりと蒼色に輝いていた。  【時が満ちる・・代償の時が。もうすぐ・・・もうすぐ・・・】  やけにはっきりと聞こえた声を最後に、俺は意識を失った。
†††††
 「本当に大丈夫?悠・・・」  心配そうな顔をした今日子が悠人を覗き見る。    「大丈夫だって。疲れてただけだって先生も言ってたし」  「しかしなぁ・・・   そんなに疲れてるなら、少し休んだらどうだ?」  悠人の返答に、光陰が悟らせる様に声を掛ける。  どうやら俺は教室で突然倒れたらしい。  驚いた光陰が急いで保健室に運んでくれたのだ。  「まぁ適当に休む・・・よ。!!」  そう答えた時、視界に見たくも無い顔が現れる。  秋月瞬だ。  金持ちで勉強も出来、運動神経抜群のくせに何も面白く無いという様なコイツの態度が  気に入らない。  俺がもっとも嫌悪する奴だ。  「・・・チッ!」  瞬は、悠人たちの教室を見渡していたかと思うと  悠人を見つけ、舌打ちしたかと思うと、去り際、悠人に肩をぶつけて来た。  「邪魔だ」  「なんだと?」  見下したような目で、悠人を見下ろす瞬。  その口元は歪み、どこかに狂気のようなものを感じさせる。  「邪魔なんだよ。早くどけ・・・目障りだ」  その言葉を聞き、悠人は拳に力を込めた。その時・・・。  「お〜い。コラ!」 パカン!?  「な、何をする!?っ!」  突然。後ろから現れた者が、瞬の後頭部をゲンコツで叩いた。  「あ、兄者!」  「全く、そのケンカ腰の態度、直せって言ってるだろが   悪いね君達って。お前ら!」  【せ、先輩!!】  突然現れた男を見て、瞬と悠人たちは驚いた。  その男は、先程捜しに行こうとしていた、聖矢だったのだ。  「くっ!今日の所は引いてやる。兄者、失礼します」  「ん、ああ」    瞬は、聖矢にたいして、一礼するとその場を去っていた。  去り際に、嫌悪を込めた瞳を悠人に向けて。  「相変わらず、お前らウマが合わないようだな」  「先輩こそ。良くあいつに親しそうに声が掛けられますね」  「ま、何だかんだ言っても、元同門の弟弟子だからな」     悠人に向き直り、聖矢に笑顔を向けた。  先程、瞬に向けたのと同様の笑顔を・・・。  「先輩!久しぶりですね。いや〜、助かりましたよ。   秋月の奴、私らの言うこと何一つ聞かない奴だから」   「岬〜。この野郎ぉ元気にしてたか?あ?」  そんな聖矢に悠人の後方に居た今日子が声を掛けた。  それに、対して今日子の頭を乱暴に撫でながら挨拶をする聖矢。  「私、野郎じゃないです!でも元気ですよ!それが私の良い所ですから」  「まぁ。馬鹿は何とやらと言うしな」  「光陰!?」 バシン!!  「ぐぇ・・・」 バタ・・・。  「おうおう。お前も相変わらずの様だな?碧」  余計な一言を放ち、何処からとも無く取り出した今日子のハリセンの一撃を受け  廊下に転がる光陰の傍に腰を屈め、呆れた様に声を掛ける。  「よっ・・・っと。お前こんな彼女で良いのか?」  転がる光陰に肩を貸し、助け起こす聖矢。  「ハハ。でも、これがこいつなりの愛の表現ですから。それを受け止めなくちゃ」  「な、なな何言ってんのよ!光陰!!!」 ドバチーーン!?  光陰の発した、冗談の様な軽口に今日子は真っ赤になりながら  巨大なハリセンを水平に振るった。  「うぉ・・・。フルスイングかよ・・・死んだか?」  「た、多分」      廊下の先まで吹き飛ばされ、大の字に伸びている光陰を見つめ  聖矢と悠人はお互い顔を見合わせながらそんな事を言った。    「・・・せ、先輩!?」  「んあ?ぉお!元気だったか?ナポリタン」  「はい!」  急いで走ってきたのか、肩を上下に揺らし、佳織が現れた。  すると、聖矢は、佳織と同じ目の高さまで身を屈めると、頭を優しく撫でながら、挨拶した。  「ちょうど、挨拶に行こうと思ってたんだよ。手間が省けた」  「佳織ちゃん?どうしたんだい?そんなに息を切らせて?そうか!俺に会いに来てくれたんだね!」  聖矢の肩越しに、何時の間に復活したのか、光陰が現れる。  「・・・うざい。纏わり着くな」 ズガッ!?  「ぐぇ・・・」 バタッ  嬉々として佳織ちゃんに話しかける光陰の顎を掌打で貫くと、光陰は三度崩れ落ちた。  「それで?佳織どうしたんだ?」  「え?あ、うん。お兄ちゃんが倒れたって聞いたから、心配になって」    廊下に倒れる光陰を心配そうに見つめながらも、悠人の質問に受け答えする佳織。  佳織の優先順位を垣間見た日常のひとコマだった。  「俺は、大丈夫だよ。ちょっと疲れてただけだ。心配しなくても大丈夫だよ」  「う、うん」  悠人は、そう言って、佳織に笑顔を向けるが、佳織は尚も心配そうな顔をしていた。    「悠人・・・。ちっと面、貸してみろ」  そんな佳織の顔を見た聖矢は、立ち上がり、悠人の額に手をかざした。  『・・・なるほど。ちっと気の流れが・・・速い?』  「・・・良し。動くなよ」  「へ?あ、あの先輩?」  「ふぅ〜〜・・・。ハッ!」   ずどっ!  「ぅあ!」  突然深く息を吐いたかと思うと、聖矢は悠人の額に掌打を見舞った。  それを、受けた悠人は、堪らず尻餅を着いた。  「お兄ちゃん!?」  「ちょっ!悠!大丈夫?」  「ぁ、ぁあ」  悠人に駆け寄る佳織と今日子。  そして、二人は聖矢の訳の分らない行動に戸惑いの目を聖矢に向けた。  「どうだ?体は?」  聖矢は、両手をポケットに入れて、悠人に顔を近づけて質問した。    「え?体?・・・。あれ?何か、軽い・・・?」  「よしよし。ちっと元気の出るツボを押したからな」  聖矢に言われ、立ち上がり体の調子を確かめる悠人  確かに、先程に比べ随分体の調子が良くなっていた。  「さて、そろそろ行くわ。じゃ、な」  聖矢は踵を返すと、後ろ手に悠人たちに手を振り歩き出した。  「せ、先輩!」  「ん?」  「こ、今度。お兄ちゃんが主役の劇をやるんです。ぜ、是非見に来てください」  「佳織?」  「佳織ちゃん?」  去り行く聖矢を突然、呼び止める佳織。    「・・・了解、ナポリタン。是非見せてもらうよ」  そう言って、悠人達に笑顔を向けると、聖矢は階段を下りて行った。  「どうしたんだい?佳織ちゃん、突然?」  「う、うん。先輩・・・なんか、上手く言えないけど、何処かに行っちゃいそうな気がしたから」   
†††††
 数日後・・・  「よう・・・。瞬」  「・・・兄者。何の用です?」    放課後の通学路で、聖矢は偶然出くわした瞬に声を掛けた。  「もう、その呼び方は止めろって・・・まぁ、良いけどな」  「それで?何の用です?無いのなら僕はもう行きますが」  口調こそ、敬語で応対しているが、その顔は不機嫌だった。  「今度の学園祭、お前は何やるんだ?」  「・・・特に何も」  「出来れば出た方が良いぞ?ダチと馬鹿やれるのも、もうそんなに無いからな」  「友達?何言ってるんです?僕にそんなものは必要ない!」    聖矢の言葉に激昂した瞬は、聖矢に掴みか掛かった。  「そうか?お前と悠人。案外気が合うかも知れないぜ?」  「ふ、ふざけるな!!」 バキッ!!  聖矢の一言に、切れた瞬は、拳を聖矢の顔面へと放った。  「僕がアイツと?アイツは敵だ!僕から佳織を奪った、僕の敵だ」  「・・・何時までも、ガキみてぇな事言ってんじゃ無ぇよ!?」 ズドン!?    「ぐっ!」   「良いか!良く聞けクソガキ!手前ぇと悠人はそっくりだ   姿形、性格とかじゃない、お前らの纏う空気はそっくりだ」  聖矢の一撃を受け、崩れ去る瞬。  倒れそうになる瞬の胸倉を掴み、引き寄せると聖矢は瞬に怒鳴り散らした。  「同じ女を大切に想う仲間だろが!少しは気付けよ!?」  「お前と悠人が争えば、ナポリタンが傷つく!それが分ん無ぇのかよ!?」  「あ、兄者・・・」  ひとしきり、怒鳴り散らすと、聖矢は手を離し、瞬に背を向けた。  「・・・俺にとってお前と悠人は弟の様な存在だ。   そんな、お前らが憎しみあって、お互いを認めようとしないのを見てるのが辛ぇんだよ。   少しはお互い歩み寄れよ・・・俺の・・・最後の願いだ」  「な、何だ!それ!どう言う意味だ!兄者!?」  瞬の叫びを無視し、聖矢は単車に跨ると、そのまま何処かへと走り去る。  
†††††
ブロロロ・・・  『悠人にも言っとかねぇとな』  聖矢は、単車を神社の駐車場に止め、悠人たちが演劇の練習をしている所に足を向けた。  その時。   キーーーン!?  「な、なんだ!?くっ」  突然耳鳴りがしたかと思うと、聖矢を黄金色の光が包んだ。  【・・・扉が開かれる】  『だ、誰だ!?』  全てが眩いばかりの光に包まれ、視界が白く染めあげられる中、何者かの声が頭に響く。  まるで、年長の女の様な落ち着いた、澄んだ声だ。  【ようやく・・・見つけました。私の主に成りえる方を】  『何を言ってやがる?主?どういう事だ?』  【”因果”によりて戦いに赴き、闘争の果てに心は”空虚”に変わる。   ”求め”し力を持って、”誓い”を成し。   果てへと到る道は主の”誇り”となるでしょう】  『な、何を訳の分からねぇ事を!?誰だ手前ぇは!』  【私は・・・”誇り”永遠神剣第五位【誇り】。主の誇り()の創作者。いずれ・・・また】  「ま、待て!?」  女の声が段々と遠くなったかと思うと聖矢を一層強い光が覆ってゆく。  「う、うぉおおおお!?」 ・・・・・・。 ・・・・。 ・・・。  辺りが静けさを取り戻した時、聖矢の姿は、この”世界”から消えていた。   

作者のページに戻る

 

作者のページに戻る