「お兄ちゃん、起きて。 お兄ちゃん!」
「ん、んんぅ……」
佳織の声に珍しく起きる悠人。
「あ、起きたね。 おはよう、お兄ちゃん」
「あぁ、おはよう佳織」
朝の挨拶を返す悠人の声は、酷くしゃがれていた。
「あれ? お兄ちゃん?」
「どうしたんだ、佳織?」
「もしかしてお兄ちゃん、風邪ひいてるの?」
言われて悠人は、身体がダルいのに気付く。
「あぁ……ちょっとダルいな。 でも、これ位大丈夫だよ」
「駄目だよ、お兄ちゃん! ちゃんと休まないと!」
「でもなぁ……学校もバイトもあるし……」
「それで身体を壊したら、元も子もないよ……」
心配そうな顔で訴えかける佳織。
「大丈夫だって、無理ならすぐに帰るからさ」
「う、うん……本当に無理しちゃ駄目だよ、お兄ちゃん?」
「分かってるって」
特効薬
ヒヤリ。
悠人のおでこに、冷えたタオルが乗せられる。
「んっ……」
冷えたタオルからの感覚からか、悠人の意識が浮上する。
「悪い佳織……結局迷惑掛けちまったな……」
朦朧とする意識の中、呟く様に謝罪する。
「ユートさま……?」
「ん……?」
次第にハッキリしだしてきた意識で、看病をしてくれていた人を見る。
「あ、エスペリア……?」
「はい……ユートさま、お加減の方は如何ですか?」
「あぁ……まだちょっとダルいかな……」
関節の痛みと、身体のダルさを素直に言葉にした。
「エトランジェでも風邪ってひくんだな……」
苦笑しながら呟く悠人。
「ユートさま……ユートさま、体調が悪い時はあまり無理をなさらないで下さい!」
「あぁ、悪いエスペリア」
「階段から落ちてこられた時は、何かと思いました……」
「そうか……」
そこで、ふと気付く。 階段から落ちたと言う割には、身体が痛くない。
「階段から落ちたにしては、痛く無いなぁ……」
「怪我でしたら、私が治しましたので」
「あぁ、そうか。 有り難うエスペリア……」
「いえ……」
コンコン。
「はい」
ノックされたドアの向こうの人に返事を返す。
「ユート……起きたか?」
「アセリア?」
「ん……入って良いか?」
「あぁ、どうぞ」
トレイの上に鍋を乗せて、アセリアが入ってきた。
「アセリア、それは?」
「作ってみた……」
鍋の蓋を開けてみると、鍋の中にはお粥が入っていた。
「へぇ……アセリアが作ったのか?」
「ん……ハイペリアで……ユートに作って貰ったの……憶えてたから」
「そっか、有り難うなアセリア」
一瞬、以前アセリアが作った料理を思い出したが、お粥なら大丈夫だろうと思い礼を言う。
「ん……」
起き上がるのも億劫な身体を起き上がらせて、スプーンを取る。
「大丈夫ですか、ユートさま」
「これ位なら、1人で大丈夫だよ」
そう言って一匙掬い、口に運ぶ。
「うん、上手い。 さんきゅアセリア」
「ん……」
「あっ……どうしました、ユートさま!?」
「えっ?」
悠人の目から、一筋の涙がこぼれ出ていた。
「やっぱり……不味かったか……?」
「いや、そうじゃないんだ。 何か懐かしくってな」
「懐かしい……ですか?」
「うん。 俺が風邪で倒れた時、佳織が看病してくれたのを思い出してさ……」
悠人から、優しい笑みがこぼれた瞬間―――。
カーンカーンカーン! カーンカーンカーン! カーンカーンカーン!
警鐘が鳴り響く。
「アセリア、エスペリア!」
「ユート!」
「ユートさま!」
「ん……行って来る!」
居の一番に駆け出していくアセリア。
「待て、俺も!」
「駄目です! ユートさまはここで安静にしていて下さい!」
「でも! うぐ!」
起き上がろうとして、間接が悲鳴を上げた。
「その身体では、戦いは無理です!」
「くそ! すまない、エスペリア……」
「いえ、では私も行ってまいります」
「気を付けてな」
「はい」
そして、エスペリアも駆け出していった。
「くっ!」
そのまま布団に寝転ぼうと思ったが、おじやがあるので、わざわざ律儀にトレイごと机に置く悠人。
『契約者よ!』
「ぐぁ……なんだよバカ剣!?」
ベットに戻ろうと言う時に、『求め』が悠人に語り掛ける。 風邪を引いている悠人には少し辛い。
『今回は敵の妖精が少し多い様だ……もしかしたら、あの青き妖精が危ういかもしれぬ……』
「なんだて!? アセリアが!?」
『そうだ』
「くっ! 行くぞ、バカ剣!」
壁に立て掛けてあった『求め』を引っ掴むと、悠人は部屋を飛び出した。
「待ってろよ、アセリア!」
神剣の力を解放して『存在』の気配を探ると、その周りには15の神剣の反応があった。
「15体か……間に合えよ!」
ガッキィィィン! キィン! ドシュ!
「『存在』よ、力を……。 はぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「きゃあぁぁぁぁぁ! もう……駄目……」
ヘブンズスウォードで敵スピリットをマナの塵へと返すアセリア。 しかし―――。
「てやぁぁぁぁぁぁぁ!」
如何にラキオスの青い牙と言われようと、攻撃後の隙は出来てしまう。 そこを狙った敵スピリットがアセリアに凶刃を振り下ろそうと、襲い掛かってきた。
「んっ!」
予想される一撃に身を構えるアセリア。 しかし、その一撃が来る事は無かった。
「ぐぁぁぁぁっ……こんな……馬鹿な話が……!」
倒れ行くスピリットに目をやると、スピリットの胴には深々と『求め』が突き刺さっていた。
『何をするのだ、契約者よ!!』
「五月蝿い! 間に合ったんだから良いだろう!」
敵が呆気に取られている隙にアセリアの元に駆け寄り、『求め』をスピリットから引き抜く。
「ユート……どうして?」
「どうしても無いだろう? これだけの敵……まぁ、話は後だ! 行くぞアセリア!」
「ん……!」
残りは13対。 俺とアセリアはお互いを背に敵へと突っ込む!
「ふっ……」
『どうしたのだ、契約者よ?』
突然笑みを浮かべる悠人に、疑問をぶつける『求め』。
「いや、アセリアと居るだけでこんなに力が湧いて来るんだなっと!」
そんな事を言いつつも、スピリットを袈裟懸けに切り付ける。 戦闘に支障が無いのは、多分に『求め』が力を貸しているのも間違いではないが……。
「うぁ……あぁぁぁぁぁ……」
「良し! 後12!」
「くぁぁぁぁぁぁぁ!」
後ろからも、断末魔が聞こえる。 これで11!
その後も2体、3体と順調に殲滅していく。
「くっ!」
体勢を立て直す為に一旦下がると、アセリアも背中を合わせてきた。
「大丈夫か、アセリア?」
「ん……ユートも」
「俺は大丈夫だ。 マナよ、オーラへと変われ。 聖なる衣になりて、我等を包め! ホーリー!」
「ん……これなら行ける! ていやぁぁぁぁぁぁっ!」
低空を這う様に駆け抜け、左足を軸足に逆袈裟。 慣性に任せて振り抜いた右足を地に着け踏ん張り、初撃の隣に居たスピリットに袈裟で切り付ける。
「俺達も行くぞ、バカ剣!」
障壁を張るスピリットに容赦無く『求め』の一撃を叩きつける。
ドシュウ!
障壁を破り肌を切り裂くものの、如何せん浅い! しかし悠人は下へ向かう力のベクトルを、強引に上へと持っていく。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
そのベクトルは敵を切り裂きながらも止まる事は無く、地上3階にあたる所まで悠人を運び上げる!
「コネクゥゥゥゥゥティドォォォウィルッ!」
そのまま自由落下に従い、またも敵に叩きつける。
敵スピリットは脳天から股下までを切り裂かれ、声を上げる事無く絶命した。
『契約者よ、右だ』
「分かってる!」
神剣を振り下ろしてくるスピリットに、カウンター気味に一閃する。
「ぐがぁぁぁぁぁ!」
敵スピリットが悶え苦しむ。 そう、悠人は胴ではなく腕を切り落としていた。
ここで語るべきでは無いと分かっているが、言わせて貰う。 悠人は優し過ぎる。 死を持って喜びを知るか……生を持って喜びを知るか……腕を無くし、どう生きれば良いか……。 優しさ故の残酷。 生かす事だけが優しさではない……。
「ラスト!」
神剣の力で場所を把握し、一気に間合いを詰めて『求め』を振り切る。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
キィィィィン!
骨を砕き、肉を貫いた感触の後に、刃が交じる音が響く。
「アセリア!?」
「ユート……」
マナの塵へと変わり消え果たスピリットの後には、刃を交えたまま静止する悠人とアセリアの姿があった。
「終わったか……」
「ん……」
神剣の反応を確認すると、敵の反応はもう間もなく消えようとしていた。
「これなら大丈……夫……だな……」
緊張の糸が切れたのか、神剣からの加護が切れたのか……膝から崩れ落ち、悠人の意識は暗転していった。
「ユート! ユート!」
喉の渇きを憶え、目を覚ます悠人。
「お兄ちゃん!?」
悠人が声の方に顔を向けると、そこにはベットの横で涙目になった佳織が居た。
「佳織……」
「もう、だから無理しちゃ駄目だよって言ったんだよ〜!」
「悪い、佳織。 けど俺、どうしてここに?」
悠人が部屋を見回すと、日本に居た頃の自分の部屋だった。
「憶えてないの、お兄ちゃん?」
「あぁ……」
「はぁ……お兄ちゃん学校で倒れちゃって、碧先輩に送ってもらったんだよ」
「そうか……光陰には悪い事をしたな……」
「私や今日ちゃん、小鳥だって心配したんだからね……」
「あぁ……悪い」
「ううん……あ、今お粥持って来るね」
「サンキュ、佳織」
それから佳織は悠人を甲斐甲斐しく看病した。 お粥を作り、熱を測り、頭のタオルを変え、汗を拭き、お尻にネギを……は流石に無かったが。
そこでふと悠人は思い当たる。
(エスペリアも、こんな風にしてくれたのかな……)
「お兄ちゃん?」
急に考え込む様な仕草に、佳織は不思議な顔をする。
「そっか……佳織」
「何? お兄ちゃん?」
「俺、絶対助けてやるからな」
「……?」
「ちょっと寝るわ。 お休み佳織」
「あ、うん。 お休みお兄ちゃん。 早く良くなってね」
「あぁ」
そして悠人は目を閉じると、再び意識が暗転していった……。
悠人が目を開けると、また涙がすぅ……っと零れ落ちた。
「! ユートさま!?」
「おはよう……エスペリア」
「何故あんな無茶をしたのですか!?」
悠人が身体の無茶をおして、出撃した事を咎めてくるエスペリア。
「ごめん。 無茶するなって、さっきも佳織に怒られたよ……」
「カオリさま……にですか?」
「あぁ……夢……で、まだ向こうに居る時に、今みたいに風邪を引いて……その時も風邪をおして学校に行って倒れたんだ」
「ユートさま……」
「ごめん、エスペリア。 先に謝らせてもらうよ……」
「えっ?」
悠人は静に……だが確かな決意を持って言う。
「俺は大切な人が危険な状況になったら、迷わず助けに行く。 それがどんな状態であっても……」
「ユートさま……はい。 ですが、その為にも今はお体をお休め下さい」
「あぁ」
コンコン。
ノックの音が響くと、ドアが開けられた。
「ユート……」
「アセリア」
「ユート……枕持ってきた」
アセリアが手に持っていたのは、氷枕だった。
「アセリア、それは?」
「ん……これの方が気持ち良い」
そう言って、さっと枕を取り替えるアセリア。 1人エスペリアが分からないと言った様子だった。
「これは氷枕って言って、風邪の時はこうするんだ」
「そうなのですか」
「ん……ユートは私が診てる……エスペリアも休んだ方が良い」
「そう……ですね。 それじゃあ、お願いしますアセリア」
「ん」
少し考えて、アセリアに看病を任せるエスペリアに、自信満々に頷くアセリア。
「何か有りましたら、ベルでお呼び下さい」
「サンキュ、エスペリア」
静かに一礼して、エスペリアは部屋から出て行った。
「じゃあ、悪いけどもうちょっと寝るな」
「ん……分かった」
悠人が目を閉じ、暫くすると寝息が聞こえてきた。 そしてアセリアが一言―――。
「私はユートと一緒に居る……そしてユートを守る。 それが私の生きてる理由」
その呟きは、誰にも聞かれる事無く部屋にとけた。
座談会
往 初めまして、斎 往兎(いつき ゆきと)と申します。
ア ん……アセリア。 ブルーアセリア。
往 アセリアは自己紹介する必要は無いだろう?
悠 まぁ、このSS読んでる人ならな……。
ア そうなのか?
エ えぇ、まぁ……そうですね……。
悠 まぁ、アセリアらしくて良いんじゃないか?
エ はい……そうですね、ユートさま。
往 しっかし……アセリアSSは書き辛いなぁ……。
エ そうなのですか、ユキトさま?
往 うん。 と言うか……俺の発想力の無さと、構成力の無さからかもだけどね……。
悠 全然駄目駄目だな……。
往 まぁ、今PS2版2週目アセリアルートやってるんだけど、それで浮んだネタはあった。
ア 私が……2週目?
チャキ!
往 わわわ、『存在』を構えるな!
悠 しっかし遅いな……出た当初に買ったんだろ?
往 PC版の強くてニューゲームになれちゃってたから……それにキハノレで挫折した……。
エ 確かにあそこはツラいものが有りますね……。
全 ……。
悠 ネタは浮んだって言うけど、どんなのなんだ?
往 まぁ、色々な……。 けど再構築物とかは書かない……他の人に任せる。 エタ後も出来るだけ書かない様にする。
エ それは何故でしょうか?
往 再構成物はEDさんに氾濫してるから見向きもしないだろうし、オリジナル設定がね〜。 それはエタ後の話も同じオリジナル設定がね。
ア オリジナル……嫌なのか?
往 うんにゃ、むしろ好きだね。 否定もしないよ。 でも俺はあくまで『永遠のアセリア』の中で書きたいからねぇ……元設定を大切にしたいのさ。
ア ん……そうか……。
悠 てか、何で突然ヨーティア口調なんだ?
往 意味なんて無いさね。 これだからボンクラは……。
悠 本当はそれが言いたかっただけじゃないのか?
往 ……。
悠 マナよ、我が求めに応じよ。 一条の光となりて―――
エ そ、そう言えば今回のお話に関して話していませんでしたね!
往 そそそ、そうだね! 今回は悠人が病気したら佳織ちゃんが心配して看病するんだろうなって思った所から書いたんだ。
悠 ちっ……。 まぁ、確かにあの時は心配掛けちまったな……。
往 ファンタズマゴリアに来たら、それがエスペリアになるんだろうなって。
で、看病と言ったらアセリアは悠人に看病されてた事あるなって事で今回の様になりました。
ア ユートが看病してくれた。 凄く……うん、嬉しかった……。
エ アセリア……。
往 後は、あれか……悠人の優しさ云々。 あれは、俺の主観だけど……残酷だったと思うぞ?
悠 な、何でだよ……俺は出来るだけスピリットを殺したくない……。
往 ぶっちゃけると、帝国戦時だぞ。 幾らラキオスがスピリットに友好的だとしても、サーギオスは違うだろう!
悠 ……。
往 正直、あの腕を切られたスピリットは殺されるぞ……。 役に立たないスピリットがどうなるか分かってるだろう?
お前の取った行動は、より残酷だったんだよ。
悠 だけど、俺は……。
エ ユートさま……。
往 さて、このままだと話も終わらないし……悠人が凹んでる内に〆よう。
往 『
ア 有り難う御座いました!
エ 』
悠 俺は……俺は……。