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≪この世界と銀河と宇宙と・・・≫




第十話〜愛という想いの力〜



――――理緒の部屋


理緒はアイシスを館へ連れて行った後、自室へ戻り休息をとっていた。


「ふぁ・・・朝か」

外を見ると、天候はあまりよくなく曇り空だった。

「うわぁ、今日は曇ってるなぁ。こんな日は気分までどんよりしちゃう・・・」

寝床から起き上がり、身なりを整えているとドアをノックされる音が聞こえた。


「誓いの守護剣殿。シュン様がお呼びです。至急に皇帝の間へお越しください」

(秋月様が私を・・・? なんだろう、いったい・・・)


急いで整え、瞬のいるところへ向かった。














―――皇帝の間


「・・・秋月様。ただいま到着いたしました!」

走ってきて見ると、皇帝の間には誰の姿も無かった。

「あ、あれ? 誰もいない・・・?」

理緒は不思議そうに、辺りを見回していると、



「・・・うん? ようやく来たようだな」

すると、違う方向の出入り口から瞬が姿を現した。

「あ、秋月様。よかった・・・いなくてビックリしました」

「ふん。すこし佳織の様子を見てきただけだ、特に問題は無い」

「そう、ですか・・・」

目を俯けてると、瞬が声をかけてくる。

「今日、貴様を呼んだのはこの帝国内の視察のためだ。今日一日、貴様は僕の補佐としてついて来るがいい」

「え・・・」

「どうした。何か不服か?」

理緒は思いもよらぬ事で、顔が赤くなる。

(え、え、これってもしかして・・・・・)



「何だ? 何か言え」

あまりに理緒が黙っているので、すこし瞬は苛立っている。

「あ、はい! 喜んでお供させていただきます!!」

「そ、そうか・・・急にでかい声を出すな。驚くだろう・・・・・」

相変わらず、こいつにはペースを乱されると言う顔をする。

「じゃあ、さっさと行くぞ。遅れずついて来い」

(やっぱり・・・これって・・・・・)








(で、デートなのよね・・・キャー!)

内心、理緒は喜び、叫びまわりたい気持ちなのだろう。




・・・・・・・・・








・・・・・・・









・・・・






―――サーギオス帝国領 ゼィギオス街中


ここは帝都サーギオスから最も近い都市。名はゼィギオスと言う。

(ここには、一度来たことがあるわね・・・)

理緒はここに来たときのことを思い出していた。

(初めてみんなに出会ったときはびっくりしたなぁ。フィスもラナも強くて・・・
 あ、そうそう。アイシスのことなんか男の子と間違えちゃってたんだもんなぁ)

ふと、そんなことを思い返していると面白そうな店が目に入ってくる。



(・・・? サーギオスの名物「ミクルー弁当」? なんだろ、あれ)




「もしもし、秋月様」

「・・・なんだ?」

難しい顔をしながら、辺りを見回し歩いている瞬に声をかける。

「あれ、買ってください! あれ!」

理緒は先の店を指さしながら、瞬に申し入れる。

「貴様・・・・・これは視察だぞ? それに僕に指図とは随分なご身分じゃないか」

「違いますよぉ。指図なんかじゃありません! 私は興味本位で言ってるんじゃないんです!」

「ほう・・・? 本当か? ならば、それにどんな意味合いがある?」

少し感心したように、理緒に答えを求める。

「えっとですね・・・ほら、やっぱり名物って言うと気になるじゃないですか。
 それに、こういう物を手に取るのも視察ですし、えっと・・・佳織ちゃんもきっと気に入るだろうな〜って・・・」

理緒はとっさに思いついたことを並べてみるが、変な言葉になってしまった。特に最後のほう・・・・・



「・・・・・・・」

(さ、さすがにまずいかな・・・)

瞬は暫く黙っていたが、やがて口を開く。

「・・・まぁ、いいだろう。確かに貴様の言っていることに正論はある」

(ホッ・・・よかった)

「じゃ、じゃあ早いとこいきましょう!」





店の前に到着して、瞬が店主に声をかけていると・・・

「ふん・・・じゃあこれをひと」

「二つください!!」

「あいよ!」

言葉を言おうとした瞬間、理緒の元気な声に店主は反応しさっさと詰めてしまって理緒に渡す。

「おじさん、ありがと〜♪ さ、秋月様いきましょう」

固まっている瞬を引っ張って、座れるところまで連れて行く。








「き、貴様・・・・・」

ようやく硬直が解けた瞬は、小刻みに震えている。

「? 秋月様はいらないんですか?」

「いるか、こんな気色悪い物!! さっきから隣でべちゃべちゃ音を立てて食べやがって!」

買ってみると、ミクルー弁当とはミクルーという香草を茶状にしたものをご飯もどきにかけて食べるものらしい。

「そうですか? 見た目はアレですけど、結構おいしいですよ♪」

「下品な女だ・・・頬に粒をつけて食べやがって」

「え・・・?」

理緒はそういわれて瞬のほうを見ると、フキンのようなもので理緒の口の周りをふいてくれた。




「な、あ、秋月様・・・!?」

「なんだ? 僕はな・・・こんな下品な奴を連れてうろうろしたくなかっただけだ」

一緒に行くぞといわれたときよりさらに、理緒の顔は赤くなる。
マンガであったら、頭から蒸気を噴出している頃だろう。

「そろそろ行くぞ」

「えぇ・・・!? あ、はい・・・!」

思考回路がまだぐるぐる回っている理緒に対し、催促する。





・・・・・・・・











・・・・・












・・・




―――サーギオス帝国領 リレルラエル街中


「本条、どうした。さっきから顔が赤いぞ?」

「えぇ!? そ、そうですか? わ、私はいつでも元気溌剌ですよ!」

何気なく声をかけられて、あせる理緒。

「そうか、なら良い。貴様のことを少しは案じてやってるんだ、ありがたく思え」

「はい、もちろんです♪」

とびきりの笑顔で返事を返す。・・・そうすると、少し心が落ち着いてきていた。

(ふ〜、何とか収まりそうね。この調子で心臓のバクバクを抑えていけば・・・・・)



ガシッ



(・・・うん?)

落ち着けようとしていると、不意に手を掴まれる。

「ここには用がない。・・・が、やたら人数が多い、さっさと抜けるから放すなよ」



(・・・はい? え、えぇ・・・・・!?)





掴んでいるのは瞬だった。それにより、さらに赤面が激しくなる。

「あ、秋月しゃま!!?」

変な喋り方をしている理緒を無視してさっさと歩いていく。






人ごみを掻き分けて、ようやく開けた場所へ来ると、

「秋月しゃま・・・・・限界です、休ましぇてくだしゃい・・・・・」

「なんだと? なんと軟弱な奴だ。たったこれだけ歩いてきただけだろうに」

「す、すみましぇん・・・・・」

理緒はそれどころじゃなかった。頭はぐるぐる回り、意識も朦朧としていて、立っているのがやっとだった。
・・・すべて、自分のせいだが。

「まあいい、ここで最後だから僕は用事を済ませてくる。貴様はここで街見学でもしているが良い」

「はいぃ・・・・」

それだけ言って、また人ごみの中へ消えていってしまった。



(わ、私、意識しすぎ・・・秋月様はそんなこと微塵も思ってないのに、やっぱり私って・・・・・)

改めて、自分の想いを実感していると見覚えのある姿が三つ。


「・・・・・あ、リオ様じゃないですか!」

その姿はアイシス・ラナ・フィスの三人であった。

「みんな揃って今日はどうかしたの?」

理緒はそんなのんきな質問をする。

「何をのんきなことを。今日は私たちが見張り兼護衛の任なの。いつも暇そうにしているあなたとは違うわ」

「うぅ・・・確かにそれはあってるけどぉ・・・・・」

ラナの言葉は図星で理緒は反論することができない。

「でも、今日で終わりだから今は今日の夕食の材料を買いに回ってるんだよ!」

フィスが慌しく動いてるのが目に入る。

「そうなんだ。・・・久しぶりにみんなのご飯食べたいな」

「今度、俺が作ってもって行ってやるよ」

「うん。ありがと・・・」

アイシスがいつもの元気を取り戻している姿を見て、理緒は少しは安心するが、空元気の様にも見えてしまう。




「・・・・・・・・」




「リオ様、私もフィスの買い物の手伝いをするのでアイシスと話でもしてて」

それを気遣ってくれてたのか、ラナもフィスのところへ向かって走っていく。


「ラナ、気を遣ってくれたんだね」

「・・・・・・」



理緒の隣にアイシスが座り、暫く黙っていたがやがて、

「リオ、俺はまだ正直言って元気を取り戻せそうにない・・・」

「アイシス・・・」

「もちろん、みんなの前ではいつもらしく振舞ってるけど、あの二人のことだ。どうせバレてる・・・・・」

アイシスは体育座りをしながら顔を俯ける。



「・・・・・・それでも」

「・・・?」

「それでも、私はあきらめてほしくない。アイシスには絶対にあきらめないで生きる意味を見つけてほしい。
 ・・・だって、あなただって普通の女の子なんだもの・・・!」

「・・・・・どうかな」

「!!」

初めてとも言える理緒への意見。いつも言えば必ず言うことを聞いたアイシスが初めて意見した。

「だって俺達は・・・」





ズシャッッ




「い、痛いよ〜・・・・・」

会話の途中で、子供の女の子が理緒たちの前で転び泣いてしまう。

「・・・大丈夫か!?」

すぐさまアイシスが飛び出し、転んだ子の元へ行く。



「うーん・・・転んだだけで擦りむいては無いみたいだ。・・・立てるか?」

「・・・・・うん。大丈夫だよ! ありがとう、お兄ちゃん!」

「お、お兄ちゃん・・・俺は一応、女なんだけど・・・・・ま、いっか!」

微笑ましい光景のさなか、周囲がどよめく。



「こ、子供がスピリットに!!」

「誰か、あの娘を!」



声が飛び交う中、一人の先の娘より大きな少女が走ってきて、

「妹になにする気!? ・・・さ、もう行こう」

アイシスの近くにいた少女を引き剥がし、庇うようにして連れて行く。

「・・・・・・・・」

その後姿をずっと切なそうに見つめるアイシス。


(・・・・・アイシス)

その一部始終を見ていた理緒は、アイシスを見つめているとあることを呟く。




「姉妹、か・・・・・・・」




そう呟いたアイシスは、理緒のところへ戻ってくる。


「・・・これでわかっただろう? 俺達は普通の女の子なんかじゃない。ただ戦って死ぬだけの道具に過ぎない。
 そんな俺達にいまさら生きる意味なんて必要だと、それでもリオは言うのか?」


「・・・そうよ。アイシス・・・・・あなたはもし諦めても、私は絶対諦めさせない。
 人間もスピリットも分け隔てなく、共存できる世界を必ず描き出してみせる」

「・・・・・・・」

真に迫る言葉を二人ともつむぐ、その言葉は偽りなど無し。

「・・・俺はそろそろ二人の所へもどるよ。・・・・・リオ、じゃあな」











そういい残して、アイシスも人ごみの中へ消えていってしまう。

















じゃあな、その言葉がやけに引っかかる。まるでまた会うという意味ではなく、最後の言葉であるかのように。





















「・・・い、おい!!」

「・・・・・へ?」

「貴様・・・僕を無視するとはいい度胸じゃないか」

深く考え事をしていたので、戻ってきていた瞬に気がついていなかった。

「秋月様!? す、すいませ〜ん・・・・・!」





・・・・・・・









・・・・・・










・・・・



―――神聖サーギオス帝国 瞬の部屋前


「ようやく、終わったか・・・」

流石の瞬も、疲れの色が顔に出ていた。


「・・・よし、では本条。今日はこれでお前は」

「はい! 夜のお仕事ですよね!」

「・・・・・何?」

「いや、だから、秋月様は今日の疲れを癒していただくために私が夜のお勤めを・・・」

「いらん」

即答。


「そんな、遠慮せずに〜♪」

逃げるかのように、浴場ほうへ向かっている瞬を理緒は追いかけていく。





















――――エトランジェ専用の浴場


「ふぅ・・・ここまでは流石のあいつも」

やっと、一息つけるなと安心していると、



「えへへ〜いますよ♪」

「何・・・!?」

バスタオル姿の理緒が顔を出す。


「何故ここにる・・・?」

「え、だって、秋月様がスピリットの館からこっちに移動しろって言ったから用具もちゃんとあるんですよ」

「・・・・・そういえば、そうだったな」

「ほら、せっかくですからお背中、お流ししますよ!」

「・・・ふん。まぁいいだろう、そこまで言うなら仕方ない」

疲れていてこれ以上相手にするのが疲れたのか、観念して奉仕を受ける。




「この世界へ来る前も思ったが・・・」

「はい?」

理緒が背中を流していると、不意の声をかけられる。



「貴様は本当に変な女だな」

「ひ、ひど・・・そんなに変ですかぁ?」

「ああ、かなり変だな。
 前にも聞いたが、何の得もないのにそんな行動をとって何がいいんだ?」

めずらしく聞いてくる口調。

「私はただ・・・本当にあなたの側にいたいだけ。
 今こうしているのも、今日一日ずっと行動を共にしてただけでも、私は十分に得をしましたよ♪」

「? それはいったい、どんな得だ?」

本当にわからないように、理緒へ答えを求めてくる。



「それは・・・愛。・・・という得、かな」



「・・・・・愛? 僕には佳織と一緒にいると同じようなものか」

「・・・・・・」

そして、身体を洗い終わると瞬は立ち上がり、さっさと浴場を上がっていってしまった。



「・・・・・・・そうですね。秋月様は、佳織ちゃんがどんなにも大事。私の愛となんら変わりは無いんですよね。
 そう・・・なんら変わりも無いんだ」

誰もいなくなった静かな、浴場の中で理緒の呟きが静寂に響いた。





・・・・・・・・












・・・・・・・












・・・・




―――瞬の部屋


「秋月様〜! 私に何かできることは無いですか!?」

先のこともあるが、理緒はあくまで明るく振舞う。

「貴様のすることなどない。部屋にもどれ」

「そんなぁ・・・やはり、お疲れだから休みたいのですね。すいませんでした」

「そうだ。貴様も早く寝ておくんだ、いつ戦闘になるかわからんからな」

「・・・わかりました。では、お休みなさいませ」





「あ、ああ・・・・・ぐっ・・!」

理緒が後ろを向いて出て行こうとすると、突然、瞬の苦しそうな声が聞こえる。

「秋月様!? どうかなさいましたか!?」

すぐに振り返るが、瞬は苦しそうに頭を抑えて動かない。







【この娘は、妖精たちと同じ力・・・いや、それ以上の極上のマナを持っている。犯せ、奪え・・・!】

(やめ、ろ・・・くぅ! 僕を支配していいのは僕だけだ・・・貴様などに、指図される筋合いはない!)

瞬の中では『誓い』の意思に押しつぶされそうになっていた。







心配そうに瞬に理緒は近づいていく。

「秋月様!?」

「本条・・・僕に近寄るな・・・!」







(貴様を支配するのはいいが、僕を支配することを許してたまるか・・・!)






(秋月様は苦しんでる・・・いったいどうすれば)

すると、オロオロしている理緒に向かって、





「今日はさっさと帰ってしまえ、今日はもう絶対に僕に近づくんじゃないぞ・・・!」

「・・・・・わかりました。秋月様、おやすみなさい・・・」

尚も心配そうにするが、命令なので仕方なくドアへ向かう。





バタンッ

「はぁはぁ・・・ぐぅ、がぁぁ・・・・!!」

理緒が出て行った後、すぐに瞬は意識を失い、床へ倒れこんでしまう。









(秋月様、大丈夫かしら・・・)

「私が、あの苦しみを取り除けてあげられればな・・・」

【理緒・・・】

(問い? 何?)

【すこしすまぬ、『誓い』と話がしたくてな。・・・少しの間だが借り受ける】

「え・・・? それってどういう・・・」

フッ・・・

理緒が言いかけた瞬間、意識が途切れ倒れてしまう。





カチャッ





出て行ったはずの理緒が、また瞬の部屋へ訪れる。

「・・・・・・・」

「・・・? 戻ってきたのか? ・・・いや、これは違う。貴様、『問い』だな」

「ふっ・・・すぐに気づくとは流石と言ったところか『誓い』?」

瞬と理緒が会話をしているように第三者の目には見えるが、
今の理緒の意識は『問い』、瞬には『誓い』の意識が入っている。

「こうして話をするのは初めてだな」

「・・・・・そうだな。我とお前が最後に目を合わせたのはメルを部屋に招きいれた後だ」

「メル? ・・・ああ、あの妖精か。あのときのマナはとてもよかったぞ。
 最後には身が震えるくらいの心地よい鳴き声が、部屋中に響いてな」

「・・・・・・・」

「でもま、結局前の我の契約者は深い傷を負わされ、使い物にならなくなってしまった。
 死に際もあの妖精に対する謝罪の言葉だったな。無論、我に支配されていて口には出せなかったがな、クク・・・」

『誓い』はさも、面白そう笑う。

「・・・・・今の我の契約者も昔のように、お前の契約者になら何をされても構わないというやつだ。
 我は、理緒の望むようにしてやろうと思う。・・・『誓い』、お前の答えを聞こう」

「貴様は何の抵抗もせず、その身体とマナを明け渡す。そう言いたいのか?」

「それが我が契約者の望むことだ・・・・・」

頬に緊張の汗が流れる。そして、『誓い』の答えを待つ。





誓いは暫く、何かを考えていたようだがやがて口を開く。




「ほう・・・・・では、望みどおりいただこうか。その極上のマナを」

「・・・・・」






「と、言いたいところだが」

「・・・?」

「確かにとんでもないマナを頂けるが、今のその娘を犯しても何の楽しみもない。『問い』、貴様の意識ではな」

「今はやめておくとしよう。・・・だが、次に時が満ちたときには問答無用で貰い受けるがな」

「そう、か・・・・・」

問いは、内心ホッとしたかのように胸をなでおろした。

「ではな、我は休むとしよう。無理に身体を支配したんで体中が痛いんだ」

「・・・・・ああ」

そういい残すと、『誓い』はさっさと寝床のほうへ歩いていってしまう。

(理緒・・・今のお前の望みは叶えられた。次に誓いが現れるまで彼の者は安全であろう・・・・・)

そして、『問い』もまた『誓い』と同じように理緒の部屋へ足を向けていた。






・・・・・・・









・・・・・









・・・・







――――理緒の部屋


「・・・ん、朝?」

理緒はいつの間にか寝床に戻っていて目を覚ます。

「私、昨日どうしたんだっけ・・・? ・・・あれ、全然思い出せない。秋月様の部屋を出てからの記憶が・・・」




ガラゴロゴロゴロ・・・・

不意に、外から何か物音が聞こえてくる。

「何・・・!?」

窓を見てみると、多少の雨が降っておりその雷鳴であった。

「雷・・・? 耳を澄ましてみると、この城内も何か騒がしいみたいね。皇帝の間に行ってみよう!」









――――皇帝の間


理緒が皇帝の間についた頃には、慌しくスピリット達が外へ駆け出して行ってる姿であった。

(いったい何がおきてるの・・・?)

「秋月様! これはいったい・・・」

状況確認をしようと、外へ向かう準備をしている瞬の姿があった。

「貴様か、ちょうどいい。僕について来い」



「・・・何かあったんですか?」



「侵入者だ」

「侵入者、ですか・・・相手の国はやはりラキオスなのですか?」

もう、このあたり一帯はラキオス王国かマロリガン共和国しかなかったが、
領地の広いラキオスが勢力を伸ばしているのかと思った。

「貴様にしてはなかなかいい推測だが、違うようだな。報告では侵入者は二人だ」

「二人・・・? たった二人にこんな大勢で行かなくたって・・・」

「そんなことは僕にだってわかっているさ、バカなお前と同じにするな。
 だが、その二人組は警備に出ていたスピリット共を一撃で消し去ったらしい。だからこんな大所帯なんだよ」

「そうなのですか・・・」

「とにかく、これ以上荒らされでもしたらせっかくのエーテルジャンプシステムが台無しだ。・・・いくぞ」

「あ、はい!」

理緒は瞬につれられ、城門をくぐっていった・・・






・・・・・・・・








・・・・・・








・・・・・





――――神聖サーギオス帝国周辺



「・・・・・!!」

サーギオスの兵達が黒い大剣を持つ男に飛び掛るが、

「所詮はこの程度か、ぬるい・・・!」

ジュゴォ! ドゴォォォン!!

一振りで、何人ものスピリットを消し去ってしまった。



「・・・・・遊びはそのあたりでおやめなさい。そろそろ来ますわよ」

「ハッ、失礼をいたしました」

少女の一言で、大剣をもった大男は制止する。









「ここだ!」

瞬と理緒が到着する頃には、先発に出てていたスピリット隊が全滅していた。

(何なの・・・? この二人から感じる力は、普通じゃない・・・!?)


「ようやく来ましたわね。待ちくたびれてしまいましたわ」

すると、少女は待ちくたびれたかのように乗っていた杖から降りて理緒たちの方を見る。

「あなたたちはいったい、何者なのですか・・・?」

理緒の一声に少女は、ゆっくりと反応し答える。

「わたくしの名はテムオリン。法王テムオリンと申しますわ。そして、こちらが・・・」

「俺は黒き刃のタキオス。俺達が何者なのか話しても、どの道貴様達にはわかるまい」

「貴様ら・・・僕の国でよくも勝手なマネをしてくれたな。この代償は高くつくぞ」

すると、今まで沈黙していた瞬が口を開く。



「・・・・・そうですわね。では、まずはあなたからにしましょう。行きなさい、タキオス」

テムオリンがそう言い放つと、タキオスは剣を瞬に向かって構える。

「ふん、聞く耳持たずか。だったら、さっさと終わらせてやる・・・」

瞬もタキオスに剣を構え、二人は対峙する。






(秋月様!? 私も加勢をしなければ・・・・・!)





理緒もそう思い、動き出そうとしたその時、

「さぁ・・・・・あなたには、そこで大人しく見ていていただきますわ」

「・・・・!!!」

その声に理緒は、金縛りにあったかのごとく動けなくなってしまった。

(な、何・・・? 身体が、動かない・・・!? この娘は、いったい・・・)

「くすくす・・・・・」

そうして、理緒は瞬の戦いを黙ってみていることしかできなくなってしまった。













「はぁぁぁぁっ!!」

ガキィン、ギン!!

瞬の強烈な突きの一撃も、攻撃も全てタキオスに軽くいなされてしまう。

「・・・・・・・」

「っく・・・!」

(こいつ・・・全然本気を出してはいない!?)

「僕をなめているのか、貴様ぁ!!」

「なめる・・・? 違うな。俺は貴様を試しているだけだ」

「何!?」

「しかし、このままでは俺とてつまらん。すこし、その気でやらせてもらうとするか・・・!」

今まで防戦していたタキオスが、剣を振りかざし『誓い』とぶつかり合う。



ギィィィン!


「ふ・・・!」

瞬は急いで飛びのき、後ろに下がった後に神剣魔法を詠唱し始める。

「・・・マナよ、僕に従え。オーラとなりて、敵をぶち殺せ」

「オォォラフォトンッ、レイッッ!!」




ジャキィン、ヒュ、ゴォォォ、ズドォン!!





オーラの槍がタキオスへ向かっていき、爆発を繰り返す。

「・・・・・・・・」

だが、煙幕が晴れていくと何のダメージも無いかのように平然と立っていた。

「っぐ・・・小癪な」

「今のは、なかなか面白かったぞ。どうやら貴様は、もはや問題ないようだな」

「問題ないだと・・・!? それは、どういうことだ!」

「だから言ったであろう? それを聞いたところで理解できないと」

「だったら腕づくで、教えてもらおうか!!」

瞬は、効かないとわかっていながらもタキオスへ向かって攻撃を続けていた。




















「ほら。早く言って差し上げないと、彼、やられちゃいますわよ?」

動けない理緒に向かって、テムオリンは杖に乗って楽しそうに笑う。

(・・・ぅ! いったいなんだって言うの!? 何で足が、動かないの・・・!)

テムオリンから発せられる異常ともいえる、気配に圧倒され動くことは愚か、口を開くことさえできなかった。











(くす・・・・・そう、もっと深く感じなさい。あなたはその想いが力に変わる。次にあなたが動いたときには・・・)

必死で身体を動かそうとしている理緒をみて、テムオリンはそんなことを思う。













(動いてよ! ねぇ! 私は・・・私は秋月様を守りたいのっ!)

心の中で意から叫ぼうとしても、身体は言うことを聞かず、全く動かない。
前を見ると、タキオスと全身全霊で向かっている瞬を見て、ますます自分に苛立つ。

(『問い』! あなたの力でどうにかできないの!?)

【無理だ・・・あの者の強さは尋常ではない。
 その威圧で動けなくなっているお前に、我はどうすることもできない。・・・・・すまぬ】

『問い』にもどうにもできないと聞き、またさらに焦っていると、






「ぐはぁ・・・!!」

「そろそろいいだろう。終わりとしよう」

瞬がタキオスに弾き飛ばされ、気を失っている姿であった。

(!!!)

(秋月様!? このままじゃ・・・このままじゃ殺される。嫌だ・・・・イヤダ・・・)








ジュゴゴゴゴォォォ!!










「嫌ーーーーーーーー!!!」

ジャキィンッ!!

「私は秋月様を守る・・・殺させない。・・・絶対に」

気がつけば私は、銀色のオーラを纏い、普通に動けるようになり喋れるようにもなっていた。

【何だこの力は・・・!? 我の力ではない、いったいこれは・・・?】











「む・・・・!?」

「これは全くもって嬉しい誤算ですわね。まさか、これほどとは・・・前とは比べ物にならない強さですわ」

タキオスは理緒に気づき、テムオリンは嬉しそうに笑っていた。



「秋月様から離れて・・・」

「・・・?」

ゆっくりとタキオスに向かって私は歩いていく。

「離れてって言ってるのよ!!」

ズゴゴオォォォォ!

銀の力を使えるだけ使って、タキオスと距離をつめ、神剣同士がぶつかり合う。



ガキキキィン!


「タキオス! 今の彼女は銀姫、幾ら力が違いすぎるとはいえ、侮ると痛い目見ますわよ?」




「なるほど・・・それで、ここまでの力が・・・・・面白い! 相手をしてやる、来い!!」

(銀姫・・・? いや、そんなことはどうでもいい。私はただこの男を倒して秋月様を助けるだけ!!)



「ダッァァァア!」

力おしで、正面から向かっていく。

「真っ向の勝負で俺にかなうと思っているのか。愚かな・・・!」

ビュオン、ゴォン!

大剣を振りまわし、理緒を吹き飛ばす。それと同時に、銀色いオーラが消える。


「・・・・・く! まだっ!!」

ジャキィ!

再び、輝きを取り戻す。


【理緒! 理緒っ! 我の声が届いているのか・・・!?】

「うぁああぁぁ!!」

今度は正面から突っ込んだと見せかけ、横にずれて攻撃を仕掛けるが、軽くあしらわれてしまう。

【だめか・・・今の理緒には我の声は届かない。我が声を聞かないということは我の力は使えない・・・】








「全く・・・とても嬉しい誤算でしたが、ここまで使い続けられるのも少し困ってしまいますわね」

「タキオス・・・! お遊びはそこで終わりですわ。あなたの力で一気に片をつけてしまいなさい」

「・・・了解いたしました」

ずっと見ていたが、勝負をつけるために命を出す。








「・・・と、いうことだ。そろそろ終わりにするぞ」

(・・・・・・・・・・)


「俺の力はこの程度ではないぞ。本物の力、貴様に味あわせてやる!」

「!!?」

「いくぞぉぉぉっ!!」




ズゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・









ズドォォン!!



「・・・さぁ、終わりにしよう」

マナを集中したかと思えば、とんでもなく力が上昇していた。

「こんなに強かったんだ・・・・・」

「・・・?」

「いまさら悩んだって意味無いよね。バカな私にできることなんてこれくらいしかないんだから」

「何だと・・・?」

「私の力全部を叩き込んで、戦う!! タキオスさんといったっけ? 私は本気よ!」

「・・・ふ、面白い。ならば、その全力とやらを見せてもらおうか!!」

すごいスピードでタキオスは迫ってくる。そこでも理緒は力を集中する。








「・・・・・・・・」

(私はどうなったって構わない・・・これで死んだって。だけど、秋月様は絶対に守る!!
 だってそれが・・・私の生きている証だもの!)

「はぁぁぁぁ!!! いっけぇぇぇ!!」

(お願い、『問い』! 私にある力で、秋月様を守ってぇぇぇ!!!)










ゴゴゴゴォォォォォォ!!!

オーラ同士が激しくぶつかり合う。






















ズガォォォォォ!!

あまりの力に爆発まで起こったようだ。


























そうして、わたしは光に包まれ・・・・・・・





























第十話〜愛という想いの力〜 終わり








⇒第十一話〜気がつけばそこは〜










〜〜〜アトガキ〜〜〜


こんにちは。板ちょこです。

ようやく終わりました・・・でも、できてよかったです。
いつもは第三者の視点から書いているんですが、今回の途中みたいに一部主人公の視点など書くときもあります。
なので気にせず読んでください。(気になるなら仕方ないけど・・・)





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