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≪この世界と銀河と宇宙と・・・≫






第九話〜生きる意味〜



「・・・・・・」



「・・・落ち着いた?」

理緒は暫く泣き続け、今ようやく会話ができるようになっていた。

「うん・・・・・」

「・・・よかった、いきなり泣き出しちゃうんだもん。ごめん、私のせいだよね・・・?」

「・・・・・・・」

俯いたまま顔を上げず、何かを考えているようにも見える。そして、



「あの・・・・・」




「どうしたの・・・?」

心配そうに理緒を見つめる明に、理緒は笑顔で、


「ありがとう・・・」

「? どうしてお礼なんか言うの? 私、理緒を泣かしちゃった悪いやつなのに・・・」

「あのね、私、本気で人に怒ってもらったことってないんだ・・・」

「私のことを本気で心配してくれて、怒ってくれたのって明さんが初めてなんだ・・・」

「・・・・・・・・」

「だから、それに対してありがとうっていったの」

「・・・・・・・・」

涙を拭いながら話していると、理緒の顔を見て明はずっと黙っていた。




「・・・? どうしたの、明さん。さっきから黙って」

「名前」

「え・・・?」


「私達、もう何でも話し合える親友でしょ? なのにずっと『さん』づけ何でおかしいよ」

「理緒が私のこと呼び捨てで呼ぶまで話なんて聞いてあげないんだから」

「え、ええっと・・・でも、その・・・・・」

そう言われてしまって、理緒は目を泳がせて悩む。

「でもも、そのも、ないの! ちゃんと私の顔を見て、はっきりと言って!」

「は、はいぃ・・・」







「・・・・・・・・ら」

「聞こえない」

「うぅ・・・」









「・・・・・・きら」

「聞こえない」

さっきから喉の奥から出そうとしているが、全て却下されてしまう。


「もう、明! ほんとは聞こえてるんでしょ!?」

「はい。良くできました♪」

「あ・・・」

「ね、普通に名前で呼び合ったほうが何倍もお互いの負担を和らげることができるんだよ」

「これで私達、本当の意味で親友だね。そうだよね、理緒?」

「えと・・・うん。これからはよろしくね、明」

「これから『も』、だよ」

「・・・・・うん!」

「・・・理緒の生きる意味が見つかるといいね」

そうして私達は、本当の意味で親友となった。
これが、愛。私ははじめてそれを知った。彼女が居なければ今の私は存在しないだろうと深く思った。





・・・・・・・・・






・・・・・・・






・・・・・






―――――教室


「さ、私達もそろそろ帰ろうよ。もう日が落ちて暗くなってきちゃったね」

「そうね」

理緒たちは屋上から教室へ、かばんを取りに戻ってきた。

すると・・・



「あ、明。何処言ってたのよ、みんな探してたのよ。一緒に帰ろうって」

教室に戻って声をかけてきたのは、先の明の友達だった。

「・・・・・・・・」

「・・・ほ、本条さんも一緒にいらしてたのですね」

その娘は理緒に気づくとばつの悪そうな顔をする。


「ま、いいや。明、一緒に帰ろうよ」

続いて理緒を無視して、明へ声をかける。

「お断りするわ」

「え・・・・・?」

「私達はみんなで友達のはずなのに、仲間はずれにする人となんて一緒に帰れないわ」

「私達は別に仲間はずれにしてたわけじゃ・・・」

「そうかしら? さっき勉強しているときも理緒の陰口をたくさん叩いてたじゃない。
 ・・・とにかく、私は理緒と一緒に帰るからまた今度ね」



「・・・・・・・」

その者は暫く沈黙していたが、やがて顔を上げ、

「そう、そうまでして『本条』の名にすがりたいのね。・・・明、見損なったわよ」

捨て台詞をはき、その者は横を通り抜けて走っていってしまう。

「え、えと・・・」

理緒は隣でずっとその光景を見ていて、話すタイミングを失っていた。
それと同時に、また明に微妙な疑惑を抱いた。

「・・・理緒」

「な、何・・・?」

「私だけは・・・私だけは絶対に理緒を見捨てたりしないからね。たとえこの先どんなことがあっても・・・」

「!!」




(明・・・)

「うん、わかった。・・・ありがとう」

理緒はその一言で抱いた疑惑を無くし、明に微笑みかけた。




・・・・・・・・・・








・・・・・・・・









・・・・・






〜時が過ぎ・・・・・〜



――――高校の教室


「おっはよ〜明!」

「あ、おはよう。理緒」

理緒はその後もずっと明と親しくあり、高校も同じところへ入学した。
そして、現在に至るまでの明るさを取り戻していたのである。


「今日は朝から一段と元気ね。何かいいことでもあったの?」

「えへへ〜。明って好きな人っている?」

「・・・・・・・」

「? 明、どうしたの?」

理緒が聞くと、明は機嫌悪そうにそっぽを向いてしまう。




「・・・・・別に。それがどうかしたの?」

「え、いや、あの・・・・・ちょっと、聞いてみただけ・・・」

(そうだ、忘れていた・・・)

明はこの手の話になると、急に機嫌が悪くなる。
いつも優しい笑顔を向けてくれるけど、この話をするとこうなることを忘れていた。

(なんでなんだろ・・・明って別にもてないわけじゃないのに。好きな人の一人や二人・・・)




「ねえ・・・聞いてる?」



「・・・あ、何?」

そのことを考えていて明の声でハッとした。

「理緒は今好きな人っているの、って聞いてるの」

「えぇ!?」

「・・・何よ」

まさか明の方から聞いてくるとは思っていなかったので、内心あせってしまう。

「え、いや〜明のほうからそんな話をするなんて意外だなぁって思っただけ」

「さっきあんたに言われてちょっと気になってね・・・」

「ええとね〜私は・・・」

急に聞かれてしまい、つい赤面してしまう。


「いるんだ・・・?」

「ど、どうしてわかるの!?」

「顔をみてればそれくらいわかるって。理緒って昔と違って今はすごく感情が顔に出るもんね」

すると明は、ニコリと笑いかけてくれる。


「あ、あはははは・・・」

「他クラスの秋月君だよね〜♪」

「うん、そうそう。明良く知ってるね〜♪ ・・・って何で知ってるの!?」


「明はこの手の話好きそうじゃないから、一度も話したことなかったのに」

「誰が見たって一目瞭然でしょ。教室でも理緒ってば彼が廊下通るたびに、しまりのない顔になるじゃない」

「えぇ、そうかなぁ・・・」

「そうなの」

「うぅ・・・」

不意に明は窓辺を見ると、すこし真剣な顔をして、


「理緒・・・」

「うん? 何?」

「・・・彼に近づくのはほどほどにしといたほうがいいわ。これはあなたのために言ってるんだよ」

「彼が近寄り難くて、財閥の御曹司だから?」

「・・・・・まあ、そんなような所かしら」

「だいじょーぶ。彼にだって優しい所はちゃんとあるもん。みんな気づいてないなんて不幸よね・・・」

「・・・・・・・」

理緒が冗談めかして言っていると、明はすこし怒っているような雰囲気でまなざしを向けている。

「明、どうしたの・・・? 今日はなんかちょっと変だよ」



「・・・ごめんね、変なこと言って。別に理緒の恋を邪魔しようってわけじゃないんだ。
 ただ、気をつけてほしい。それを伝えたかったの」

「結局、最後は本人であるあなたが選択することだしね・・・・・」

そういい残して、明は席を立ち上がり教室を出て行ってしまった・・・




・・・・・・・・・








・・・・・・・








・・・・・



――――教室


あれから明は少し変わった。
いつものように優しく接してくれていて、さらに恋愛話にも機嫌を悪くしないようになった。

(ただし、私が秋月さんの話題出さなければだけど・・・・・)

この話題を出すと必ずと言っていいほど、気をつけろと念を押される。なぜだか、わからないが。





・・・まぁ、この話はとりあえずおいといて。私、本条理緒は一世一代の勝負に出ようとしています。

(今日こそ・・・!)



キーンコーンカーンコーン・・・・・

授業終わりのチャイムが鳴り響く、それと同時に理緒は荷物を持って走り出す。





――――廊下


「はぁはぁ・・・間に合った」

理緒の前にはもちろん、秋月瞬のいる教室前だった。



「フフフ・・・ここから出てくるのを見計らって・・・・・・来た!」

理緒の計算通り(?)瞬が教室のドアから出てきたのであった。


「秋月さん!!」

「・・・また貴様か。僕に何のようだ」

瞬はまたこいつか、と言うような素振りで理緒を見る。

「何ってわかってるでしょうに! ご飯、今日こそ一緒に食べていただきます〜♪」

「ふん、あいにく今日は・・・」

「持ってきてないんですよね。食事」

いつもどおり対応しようとしていた瞬に対し、理緒は笑顔で言う。


「・・・なぜ知っている」

「えっとですね、それは・・・・・女の勘、かな」

「・・・・・・」

ニコニコ笑顔で瞬を見ていると、今度は、

「僕は佳織のところへいくのに忙しいんだ。貴様に付き合っている暇なんてないんだよ」

「大丈夫ですって〜佳織ちゃんもきっとまだ昼食で教室から出てませんって」

「あのな、僕はな・・・・・」

瞬が何か言いかけたとき、突如




グゥ〜〜・・・・・・



「・・・? あれ、今私じゃないな。う〜んと・・・」

鳴る音について考えていると、瞬は少し怒ったように、


「き、貴様! こっちへこい!!」

「へ? あ、あの〜・・・・・」

言われるまま屋上のほうへ引っ張られていってしまう。






――――屋上


「ふぅ・・・びっくりしたぁ。いきなり引っ張られて疲れちゃった」

「おい・・・」

「ひゃあ!?」

隣で肩で息をしている瞬に、理緒はびっくりする。


「誰にも言うんじゃないぞ・・・」

「・・・はい? どういうことです?」

「さっきのことに決まっているだろう!」

「さっき・・・・・ああ、さっきの! あれって秋月さんのだったんだ〜」

「こ、この僕がよりにも寄ってあんなところで、あんな無様なことを・・・一生に恥だ!」


「だから、絶対に誰にも言うんじゃないぞ。わかったな!?」

もう一度、念を押すかのようにはっきりと言う。

「は、はいぃ、わかりました・・・・・・いやまてよ・・・」


すごい剣幕に押されつつも、理緒はあることを思いつく。

「秋月さん」

「・・・何だ」

「私と一緒にご飯食べてくれたら、いいですよ〜♪」

「貴様・・・・・事もあろうか、この僕を脅迫するつもりか?」

「脅迫だなんてそんな大それたこと・・・ただ私は秋月さんのことを思って・・・ほら、お腹もすいてるでしょう♪」

瞬は俯いて小刻みに震えているが、やがて


「・・・仕方がない。僕は寛大なんで許してやる。一緒に食事をしてやる」

「あ、ありがとうございます!」

まさか本当に受け入れてくれるとは思ってもいなかったので、幸せな気分になる。



「ふふ・・・」

一緒に食事をしていると、理緒はかすかに笑みをこぼす。

「・・・何がおかしい」

「いつも冷静沈着な秋月さんも、あんな所があるんだなぁと思って」

「・・・・・・」

「そういえば、秋月さんは普段何を食べているんですか?」

好物でも聞けたらラッキーとか内心思いつつ、瞬に声をかける。

「いつもこの時間は何も食べてはいない。時間の無駄だ」

「そうなんですか〜・・・えぇ!? と言うことは、今日の今まで間に合ってるって言うのは嘘だったんですか?」

「当たり前だ。貴様といることなど、特に時間の無駄だ。あんなことが無ければここにはいない」

「うぅ〜・・・でも、何も食べないのは身体によくありませんよ。きちんと摂取しないと・・・」

理緒はすこし調子に乗って瞬に声をかけていると、


「そんなことまで貴様に指図される義理はない。
 勘違いするなよ、今日こうしてここにいるのは、あの事のためだ」




「そう、ですよね・・・すいません。私、調子に乗っちゃって・・・」

「・・・・・・」


そこで会話はとまり、シンと静まり返る。




(私って本とバカ、あんなことさえ言わなきゃもっと長く話ができたかもしれないのに・・・)



不意に、理緒は明の「あの時」言った言葉を思い出す。





『理緒の生きる意味が見つかるといいね』

この言葉が頭をよぎり、理緒は初めて好きになった人を生きる意味にしたかった。






「生きる意味・・・か」

「・・・何だ、いきなり」

頭で考えていたことを口に出してしまい、瞬に聞かれてしまう。

「・・・・・え? あ、私何を・・・」

「生きる意味がどうかしたか」

「え、えと・・・・・」


「・・・・・貴様には生きる理由はあるか?」

「・・・?」

「自分が生きる理由はあるのかと聞いている」

突然、真剣に聞かれ一瞬戸惑うが、これは自分でも考えていたことなので心に思っていることをいう。


「・・・正直、ないです」

「・・・・・・・・」

「私、昔は何処に知られてないような小さな町の子供で、そこで存在を否定されたんです。
 それから私は、自分に生きる理由なんかないんだなってずっと思ってます」

「今でもそれは変わりません・・・」

「・・・・・ふん」

理緒の言葉を聞くと瞬は、


「だったら僕のために生きていればいいだろう」

「・・・・・え?」

「どうせ、この世は存在価値すらない者どもが巣くう世界だ。
 生きることに意味を成さないと言うなら、僕についていることが生きる意味にしろ」

「それでいいだろう」

独裁者的な言葉。だが、それだけに真っ直ぐで純粋な思いを感じとれた。

「貴様は僕に似ているところが節々あるような気がする。だから僕を生きる意味にさせてやる、ありがたく思え」

「いいん、ですか・・・・・?」

理緒は自分が思っている人に、そう言われて頭が少しぼおっとする。


「・・・だが、僕のそれについてこれるかどうかは貴様次第だがな」

「は、はい! 私は絶対に秋月さんについていきます、たとえその先に何があっても必ず・・・!」




・・・・・・・・






・・・・・・






・・・・










私は明に出会えて、本当に良かったと思っている。






もし、出会っていなかったらこの世界にも居なかったかもしれない。






私の生きる意味をくれた人にもこんな感情を抱けなかったかもしれない。






そう、私に生きる意味をくれた人にも・・・・・



「・・・・・これが私の過去のすべて」

「この間に私は涙の理由を取り戻し、生きる意味を見つけた」

話が終わり、理緒はアイシスの顔を見る。

「この話があなたのためになったとは思っていない。
 だけど、同じような体験をしているあなたにはどうしても聞いてもらいたかった」

「・・・・・・」

アイシスは理緒の顔を見ながら、真剣に耳を傾けている。

「だからね、アイシス。貴女にも生きる意味を見つけてほしいの」

「だけど、俺・・・」

何か悲しそうにアイシスは言うが、





「・・・ウルカを忘れろ、とは言わない」

「でも、あなたがそんなままじゃきっとウルカも悲しんじゃうと思うの。
 早くもとに戻らないと・・・いつもの元気なアイシスをみんなまってるよ・・・・・?」

「ラナもフィスもそれから・・・・・・・」









「それから・・・・・私も、ね・・・」

理緒は自分が今できるだけの優しい笑顔を向けて言う。


「リ、オ・・・」

「帰ろう、アイシス。私達の家に・・・」

「うん・・・ありがとう、リオ・・・」



「・・・それと、ごめん・・・安心したらなんか眠くなってきちゃった・・・」

「いいのよ。長い話につき合わせて、私こそごめんね」

そして、相当疲れてたのかアイシスはそのまま気を失い、理緒に倒れこむ。








「おやすみ、アイシス。明日からは元気な顔を見せてくれるよね・・・?」



理緒はアイシスを抱き上げ、館へと戻っていった。














第九話〜生きる意味〜 終わり






⇒第十話〜愛という想いの力〜








〜〜〜アトガキ〜〜〜


理緒の過去編終わりです。
今回は瞬君のありえない一面ばかり描いてしまった・・・
でも、こんなところもあるといいなぁとか思っている今日この頃の板ちょこです。

これはなかなか早めに終わったからこの調子で一気に行きたいと思います。
では、また〜




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