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≪この世界と銀河と宇宙と・・・≫




第八話〜涙の理由〜



「リオの過去・・・?」

「そう。私もあなたと同じ、悲しいときに涙が流せなかった。でも・・・それでも私は立ち直ることができた」

「あれは、忘れもしない。・・・もう八年も昔になるのかな」



・・・・・・・・・




・・・・・・




・・・




〜西暦2000年 8月〜



夏の日照りが皮膚に照らす中、一人の少女が歩いていた。

「あ〜あ、あっついなぁ・・・今日はやけに日差しが利くなぁ・・・」

この少女が当時、8年前の理緒だった。

「早く家に帰って休もうっと」

一刻も早く帰るために理緒は走り出し、家へ向かう角を曲がったその時・・・



ドンッッ!



「あたっ! ご、ごめんなさい・・・急いでたので」

「・・・・・・・」

ぶつかった相手は自分より大きい男だった。

「あの・・・その、すいませんでした」

無言で理緒の顔を見ている男を不審に思いながらさらに謝罪をする。

「・・・・・・・・・けた」

「え・・・?」



「やっとみつけた・・・銀色の姫君」


「はい・・・? いったい何を言って・・・」

不安そうにしている理緒をよそに、男は理緒の視線の高さまでしゃがみ顔をじっと見る。

「なぁ・・・君は自分の存在に疑問を持ったことはないかい?」

「・・・?」

男は理緒の頭をなでながら淡々と話す。

「君はさっき、家に帰ろうとしていた。でも家の中では君はどのように扱われている?」

「・・・・・言っている意味がよくわかりません」

「そうだな、例えば・・・・・!」


ヒュンッ・・・!

突然、手が動いたかと思うと理緒の服がけが八つ裂きに切り裂かれる。

ビリ、ビリィ!

「!!」

「これでよく見える」

理緒は声にならない悲鳴を上げ、身体を隠しながらひざをつく。


服の下には無数の痣があり、所々事故でついたものではないものもある。

「これが君への扱い。君の背負った宿命と言うヤツだよ・・・クク」

「・・・・・・っどうして、こんなことするんですか!?」

「あん? ・・・はぁ、まだよくわかってないみたいだな。でも・・・・・無理もない、か。
 生まれてからすぐに君はこの居心地の悪い世界に飛ばされたんだしね」

「生まれてから・・・? 飛ばされたっていったい・・・」

わけのわからないことを喋っている男に対し理緒は困惑する。

「まぁ見つけることもできたし、どうでもいいか。さっさと連れて行くとしよう」

そう言って理緒の腕を掴んで引っ張りあげる。

「嫌・・・! 放して・・・」

「・・・・・・・」

首を振りながら引っ張りあげる男にむなしい抵抗をする。

「・・・リオ」

あきれたような顔をして理緒の小さな手を放す。


「!? どうして私の名前・・・知ってるの?」

「いいか? 落ち着いて話を聞いてくれ・・・」









「お前はこの世界の誰にも必要とされてないんだよ」

「そして、必要としているお方なら他に居る・・・」




突然言い放たれた残酷な言葉。幼い理緒でも何を意味しているかすぐわかった。









「・・・友人に家族、すべてにだ。この世界すべてにお前は必要とされてないんだよ」


「そんな・・・そんなことない!!」

だが、それを認めようとはしない。認めたくないと言ったほうが良いか。

「認めたくない、か。・・・それとも、生まれた時のことを忘れているのどちらかかな」

「それに・・・そんなことはないと君は言うがそれを君に証明できるか?」

「!!」

答えろとばかりな顔で疑問を返す。しかし、理緒はそれに答えることはできなかった。



「・・・やっぱり答えられないか。当然だよな、本当に必要とされてないんだから」

「・・・・・・」



「大体、君だって酷い思いをするのは嫌だろう?」


「そ、それは・・・・・」

理緒は身体についている痣をさする。


「だが、俺なら君を救える。俺と一緒に来ればこんな思いをしなくてすむんだよ・・・」

「こんな悲しい思いをさ・・・・・!」

困惑しており、さらに自分を否定された理緒はその言葉に一筋の温もりを感じた。

「救える・・・私を救ってくれる・・・・・?」

「ああ、そうだとも。嘘はつかないよ」



「・・・さぁ、一緒に行こう。君の居るべき場所へ」

そうして、差し出された手に理緒は弱々しく手を伸ばす。







・・・・・ヒュ、



「・・・!」

「!?」

急に光が飛んできたかと思えば男は理緒を置き去り、飛びのいた。

ズドォォン!



「・・・そうはさせないわ」

光が爆発した煙の後ろから少女の声が聞こえる。

「お前か・・・・・」











煙が晴れていくと、高校生くらいの少女がそこへ立っていた。

「その娘をつれて行かせはしない」

「・・・お前がこいつを連れて行くことを阻止しようとする理由は良くわかる。
 我らに下に戻ればそれだけお前達には不利になるのだからな」

「・・・・・・」

「元々お前達が、邪魔さえしなければすべてはうまくいっていたのだ・・・
 いい加減に俺もそろそろ成果を上げなければ消滅させられかねん」

「・・・そんなことはどうでもいいわ。そんな小さな娘を道具にしようとするなんてあっちゃいけない!」

「ん?・・・そういえばそうか。お前だけはこいつを消すことを躊躇っていたからな。
 そのおかげで他世界に送り込むこともできたが」

「―――ようやくみつけたからにはもう逃がさない。それに彼女を連れて行かせもしない」



「・・・・・・・クク」

突然、不敵な笑いを浮かべ少女は不気味に思う。

「・・・・・!」

「なあ、知っているか?」

「・・・?」

「希望があるから絶望は生まれる。見てみろ・・・そいつの表情を!」

「表・・情?」






「ま、まって・・・!」





「私を・・・救ってくれるって・・・・」


「もう、一人は嫌・・・たす・・・けて」

「!!」

理緒は救ってもらえないことをわかった直後、絶望していた。

「意外と遅かったじゃないか。気づくのがさ・・・! もう、リオの心は元に戻ることはないだろう」

「誰もそいつの【生きる希望】になることはできないのさ」




「お前じゃリオに手出しはできまい? ・・・逃げさせてもらおうか」

少女は呆然と立ちつくしてしまう。

そして、男が去ろうとしたとき理緒へ声をかける。



「よくきけ、リオ!」

「この後も君がいくら望もうとも、この世の誰からも必要とされることは絶対にない。絶対にだ!
 君を導いてくれる者なんて存在しないさ!」

「君の必要とされる役目はただ一つ、・・・・・・・・・」










その後の言葉は良く覚えていない。


「・・・・・っ!」

助けてくれた少女が理緒に話しかけてくれた言葉すら、もう理緒の耳には届いていなかった。



その事が起きて数日後、理緒の両親は原因不明の事故で命を落とした。


・・・・・・・・・



・・・・・・



・・・・



〜西暦2000年 8月8日〜



「・・・・・・」

今日は両親の葬式である。どうやら親戚が開いてくれたようで、理緒もその場に居る。



「・・・ここのご両親さん、原因不明の事故で亡くなったみたいですね」

「そうみたいね。何でも【あの娘】を拾ったときから災難続きみたいで・・・」

「と言うことはあの捨て子のせいで亡くなったの!?」

「ちょっと・・・声が大きいわよ」



葬式に招かれた者達の話し声が聞こえる。当然、理緒にも聞こえていたが・・・

(・・・・・・・・・)

理緒は無表情に前を見つめている、何かを見ているわけでもない。


完全に心が抜けた人形のような状態になっている。

(・・・・・・・私は、必要ない)

理緒はあの時に会った男に言われたことを何度も思い返していた。
むしろ頭から離れなかったのかもしれない。









お前は必要ないんだ。










ただそれだけ。


何か暴力を振るわれるわけでもなく、罵声を浴びせられるわけでもなく、ただ自分がいる意味を否定された。
その後もずっとその言葉がやけに染み付いて放れることがなかった。

内心、理緒の心はかなり傷ついていた。これなら暴力を振るわれるほうがまだよかったかもしれない。
何度も・・・何度も・・・同じこと頭の中で繰り返され続けついに理緒は悲しいということを忘れてしまった。

あの事件があった後、理緒は目の前で動物などが倒れようとも、
それを気にもとめず踏みしめて歩き、育ててくれた両親が死んだ時だって理緒は泣かなかった。








別に我慢していたわけではない。




ただ、どうしたら涙を流せるのかわからなかっただけだ。







その後、両親が亡くなった理緒の私は親戚がいたのだが、どうやら引き取るのが嫌らしく施設に押し込んだ。
もちろん当時の理緒はわかるはずもなかった。





・・・・・・・・





・・・・・・





・・・・




〜西暦2000年 9月8日〜


それから1ヶ月が過ぎ、理緒もすこしは施設に馴染んできたようだ。

「・・・理緒ちゃん、どうしたの?」

施設の長と思われる人物が、その場で腕を押さえている理緒に声をかける。

「ちょっと、痛くて・・・」

そういいながら患部を見せると思ったよりも怪我は酷かった。

「! こんなになって・・・どうして教えてくれなかったの?」

「ごめんなさい・・・・・」

「あ、いいのよ別に。もしかしたら伝えたのに聞こえなかったのかもしれないわね。
 こんなに酷いなら子供みたいだけど、泣いて教えてくれても構わないのよ」

「・・・・・・」

行った瞬間、長はハッとした。

(そういえば・・・この子は泣かないんだったっけ)


理緒は多少の表情の変化は見せるが、泣いたところは一度も見たことがない。

同い年の子が泣くようなことでも、理緒だけは無表情にそれを見つめているだけである。


(どうにか、できたらいいんだけど・・・)

ここまで酷い怪我でも涙を流さない理緒をみて苦悩した。







〜西暦2000年 9月12日〜


「・・・・・朝」

いつものように起床すると、なにやら外が騒がしい。

「何・・・いったい?」

ボケーっとした顔はこの頃から変わっていないようで、眠そうな顔で身なりを整え騒がしい外へ向かう。


ガチャッ


ドアを開け、歩いているとなにやら黒い服の集団が居て慌しくうごめいている。

「今日ってなんかあったっけ・・・?」

「あ、理緒ちゃん」

理緒に気がついた長が声をかけてくる。

「先生・・・なんですか? これって」

「今日は年に一度の選別の日なのよ。他の子たちもみんな選ばれようと必死にアピールしてるわ」

「せんべつ? なんです、それ?」

「それはね・・・・・・」




長が説明してくれるのを要約すると、

財閥の使者という者が訪れ有能な人材を探しにきたということ。
良いと認めてもらえれば、養子・養女として引き取ってもらえるらしい。

親が居なくて、不自由に感じているものは皆必死と言うわけだ。


(そういうことね。・・・・・ま、私には関係のないことだけど)

どうせ選ばれるわけがない、と思った理緒はおなかが減ったと思い集団の真ん中を通って食堂へ向かう。



ザワザワザワ・・・・・

(すごいな、こんなにいっぱい居たっけこの施設?)

いつも見てないようなものたちが自分が選ばれたいと前に出ようとする。

それを怪しい黒服で身を包んだ集団が見ている。


その中で数人が理緒の方を見て、何やらヒソヒソ話し合っているのが見える。

(おなか空いたな・・・早く行こう)

それに気づかない理緒はドアノブに手をかけていると・・・




「そこの君」





「・・・うん?」

突然、声をかけられて少し驚きながらそちらへ向く。

「君、名前はなんていうんだい?」

「・・・理緒、ですけど」

「なるほど・・・よし」

品位のある男が名前を確認すると同時に後ろを向き、



「全員集まれ、今回の選別は終了とする」

「・・・?」


男が号令をかけると周りにいた者達は当然の文句を言う。
もちろん、そんなことはお構いなく黒服全員が理緒のところへ集まる。

「どういうことですか? もう選別は終わりって・・・」

「それは今回選ばれたのが君ということだからだ。
 さらに、今までは秘書からメイドまで幅広く採っていたが今回は次期財閥の跡取りとする」

「!!」


その発表聞いた途端、周囲にいたギャラリーを含め黒服たちも驚いていた様子。

「跡取り・・・私がですか?」

「そういうことだ、では行こうか。君さえ居ればここには用はない」

(・・・・・・・)

その後、何が気に入ったのか理緒は「本条」という大財閥の養女として引き取られた。




「今日から君は【本条理緒】だ」





・・・・・・・・・




・・・・・・・




・・・・



〜西暦2004年 10月7日〜









それからの生活は不自由などは一切なかった。










だけどそこには愛、というものは一切ない。








進学してからもそれは変わらず、ただ私が「跡取り」だから屋敷の侍女も、
周りの私を友達だと言っていた者も「本条」だからと言う理由で接している。






「理緒」という私を見てくれるものは誰一人居ない。







それがわかっているから私は内面では思ってもないことをずっと口にする。






自分1人のとき意外は私は偽りと言う厚い仮面をかぶっている。
私を名前で呼ぶ者は完全にいなくなってしまった、彼女と出会う時までずっと・・・







〜西暦2007年 4月〜



中学でも最高学年となり、理緒のクラスも変わった。

「私の行くクラスは・・・ここね」


行くところを確認し、教室へ足を向ける。
行く途中、様々な者達から挨拶や声をかけられる。

理緒はそれに精一杯の造り笑顔を向け、心にも思っていない会話をし、歩いていく。







―――――教室


(やっと着いた。思ったよりも遠かったわね)


席を確認して座り、教員が来るのを待っていた。

そして、この日から理緒は自分が変わっていくと言うのは知る由もなかった。




ガタッ

(・・・隣の席にも誰かきたみたいね)

チラッと横目で相手をみると、その相手も理緒を見ていて目が合ってしまった。

「・・・・・・」

「ねえ・・・」

すぐに視点を戻すが、声をかけられてしまう。
その声に応じるように、いつもの作り笑顔を向けて、

「何か私に御用がおありですか?」

「名前を教えてよ」




「・・・え?」

あまりに即答過ぎて思わず表情が呆けてしまう。

「名前よ、名前。せっかく隣の席になったんだから知っておきたいでしょ?」

すこし図々しく問いかけてくる少女に理緒は内心、苛立ちを感じる。

「ごめんなさい、相手の名前を聞くときはまず自分から答えると教えられてますので」

理緒は心に思ったことは押さえ、優しく言う。

「・・・・・・あ、ごめん! えっと私は・・・」

理緒の言った言葉に、一瞬険しい顔になったがすぐに答える。

「私は香野明。明って呼んでもらって構わないから!」

「そうですか・・・私は本条理緒です。よろしくお願いします、明さん」

「そっか〜理緒、か・・・すごく良い名前ね。気に入ったわ」

「・・・・・・」

彼女の向けてくれた笑顔と言葉は理緒が口にしている言葉とは遥かに違う。

(何か今までと違う気がする・・・この娘はいったい・・)


その後も明は理緒と一緒に行動を共にするようになる。





〜時はたち 昼休み〜



「ねえ、理緒ってば・・・!」

「明さん・・・何か御用かしら?」

「これからお昼でしょ。一緒に食べようよ」

こんな自分に優しく問いかけてくる明に対し理緒は、

「結構です。私、食事は一人でとるようにしてるので」

「え〜そんなこと言わずにさ」

「・・・・・・」



ガラガラッ・・・




何度も言ってくるがそれを振り払い教室を後にする。



「・・・ふぅ、何なのかしらあの娘。私なんかに声をかけて・・・何か裏があるのかしら」

ため息をつき、明のことをふと考えた後屋上へ向かって歩いていった。






食事をとった後、いつものように屋上のベンチに座り、一息ついていた。

「・・・・・・・」


(もうすこし・・・このままでいよう)

精神的にも疲れたのか、理緒はそのまま目を閉じる。





暫く時間がたった後、最近聞いたような声が聞こえてくる。


「・・・あ、理緒。ここにいたのね」

(・・・?)

やってきたのは明だった。理緒の目の前に来てすぐに隣に座る。


「少し探し回っちゃって疲れたよ」

「やっぱり私に用があったんですか?」

「ん〜・・・まあ、用って言えば用だね。少しお話がしたいなって」

「・・・私、今日は疲れているのでまたにしてもらえますか?」

「え、そう? ・・・・・わかったわ。じゃあまた明日必ず、ね」

(・・・・・・・)

そう言って理緒に笑顔を向けた後、明は去っていく。


「・・・どうしてあんなに積極的に私に接してくれるんだろ」

気づけば理緒は明のことばかり考えていた。

(今までの人たちとぜんぜん違うな。・・・ちょっといいかな、こういうって)

何年ぶりか、かすかに笑みをこぼし、屋上を後にした・・・・・



・・・・・・・・・・





・・・・・・・





・・・・・






〜2007年 7月〜




その後も明は理緒と仲良くなろうと必死に努力して、理緒も少しずつだが打ち解けていった。




―――――教室


「り〜お〜」

お昼時になると、隣の席だがいつもすぐに声をかけてくれる。

「あ、明さん?」

「今日も一緒にご飯食べようよ!」

「・・・まぁ、1人でするよりはいいからご一緒してもいいですよ」

「えへへ、ありがと」


また明は濁りのない笑みを向けてくれる。
理緒はこの笑顔が好きで、これが理由に打ち解けいったようなものだ。





「明、ちょっといいかしら・・・?」




理緒と共に行こうとする明を結構親しい女子生徒が止める。

「? 何?」

「ちょっと勉強を教えてほしくて・・・お願いできる?」

「勉強なら私より理緒のほうが適任だと思うけど・・・ね?」

「・・・・・・・・」

「え、えと・・・」

黙っている理緒を見て、女子生徒はあたふたしながら、

「ど、どうしてもこの娘が明に教えてほしいって言って」

何をあせっているのか他の友人を指してあてつけの答えを言う。

「う〜んと・・・」

突然のことで流石の明も戸惑い、理緒のほうを見る。



「・・・・・いいんじゃない。教えてあげて、すぐに済むでしょう? 私は先に行ってるから・・・」

そう言うとすぐに、背を向けて教室を出て行く。

「理緒、ごめんね。すぐ行くから!」

明の謝罪の声が聞こえるが、それに反応もせず理緒は行ってしまう。












「はぁ・・・・・」

屋上に着いた理緒は、明を待ちながらいつものように座っていた。

「私、なんで明さんのこと無視しちゃったんだろ・・・」

先ほどの言葉を無視していってしまったことに後悔している。

「・・・後悔するくらいなら始めからするなっていつも言われてるっけ」

理緒は反省をしながら、夏とは思えない涼しい風にあたり、待っていた。











「遅いわね・・・・・」

屋上の時計をみると、あと五分ほどで次の授業が始まってしまう。

「・・・明さんにも約束を守れないときがあるのね。今回の場合はしょうがないけど・・・
 仕方ない、戻ろうかな」

イスから立ち上がり階段を下りていく。








教室の扉の前まで戻ってくると、ガラス越しから明たちの姿が見えた。

(やっぱりまだ教えてる途中みたい・・・長くなっちゃったんだね)

扉に手をかけ、ゆっくり開けると中から声が聞こえる。









「・・・・・理緒ってさ、結構嫌な娘じゃない?」







(・・・・・!!)




中から聞こえてきたのは先の明を引きとめた女子の声だった。

「だよね〜自分が本条の令嬢だからって調子付いてるよね」

他に二人ほどの女子もそれに続いて喋る。

「それに、ちょっと可愛い顔してるからって男子にもちやほやされていい気になってるのよ」

「明さんもそう思いますよね?」

輪の中に居る明に勉強を教えてもらっている女子が聞く。

「・・・・・・・・」

明はその問いに無言で目下にある問題を見つめている。

「あ、でも明さんってよくあの人と一緒に楽しそうにしているけどやっぱり何か裏があるんですか?」

「バカね〜明みたいな可愛い娘が、何の理由も無しにあんな娘と付き合うわけないでしょ。
 彼女と一緒に居れば、本条の者と親しいって周りからもひいきされるしね」



(!?)




その瞬間、理緒の目の前に映っているものは闇へと変わった。

(明さんも・・・・・やっぱり、おなじだったんだ)

(私が、本条だから・・・一緒に居ると得するからこんな私と一緒にいたんだ)

あまりに衝撃的な出来事に足がふらつく。



(・・・・・そう、だよね。それならこの数ヶ月、私と仲良くなろうとした【振り】にも納得がいく・・・
 ちょっと考えればわかりそうなことなのに・・・私ってとんだバカだよね)



(生まれて初めて、やさしい言葉をかけてもらえたからって浮かれて・・・人の本質を忘れるなんて)



理緒は内心裏切られた気分だったが、何年にも前にも同じことは何度もあったので慣れていた。




無論、涙も流れなかった。










「・・・さ、もう終わりにしよ。次の授業始まっちゃう」

明は顔を上げ、みんなに告げると席に戻り理緒の帰りを待っていた。



キーンコーンカーンコーン・・・・・








授業開始の音が鳴り響く。









・・・・・その時、もう教室の扉の向こうに理緒の姿はなかった。






・・・・・・・・・






・・・・・・・






・・・・





――――放課後の屋上


(・・・・・・・)

理緒は屋上から柵の向こうを見ていた。
まるで、世界すべてを見ているかのように。



「理緒、探しちゃったわよ。何処いってたの?」

柵の向こうを見つめていると、後ろから明の呼び声が聞こえる。

「午後の授業も出ないで何していたの? 先生も心配してたわ、あの優秀な理緒がサボるなんてって」

「・・・・・・・・」

「ねえったら・・・! なんか変だよ、何か悩みがあるの? あるなら話してよ、私達友達でしょう?」






「・・・・・何が友達よ」






友達でしょう、と言う言葉に私はそんな言葉をこぼしてしまった。

「え・・・?」

「何が友達よって言ってんのよ・・・!!」

「あなたと私なんか友達なんかじゃないでしょう!?」

「! 何言ってるのよ、いきなり・・・!?」




「どうせ貴女も私が「本条」だから声をかけてきてるんでしょう!?」

「!!」

私の一言に彼女は驚愕する。



「いい加減に本性を現したらどうなの?」

ずっと内に秘めていた言葉が出る。私が少しでも明を疑っていた証拠だ。

「理緒・・・・・」

小刻みに震えながら明はうつむく。

「何よ! はっきり言えば!?」

「・・・・・ッ!」







パンッ!




その言葉を言ったと同時に、明が顔を上げ私の頬を平手で叩く。

「・・・・・・!?」

あまりに突然で、私を頬を押さえることも忘れ目線は彼女のほうを向いている。


「・・・・・私はあなたと本当に仲良くなりたかった」

瞳を潤ませ、搾り出すように言葉をつむぐ。

「ただ、それだけなのにあなたはそれを認めようとしない・・・
 私を信じれないならそれでも構わない、だけど気づいたときには本当の意味で周りに誰もいなくなるわよ!?」

「人間、1人では生きていけないの。あなたもちゃんとれっきとした1人の「人間」でしょう・・・?」

明は今にも泣き崩れてしまいそうな表情で私に向かって言う。



「だ、だって私・・・私は、誰にも必要とされてなくて・・・私は何も望んじゃいけなくて・・・・・」

少し頬がしびれてきて、その頬を押さえながら言い返す。




「だから・・・!!」

「そんなこと誰がきめたの!? そんなの言い訳に過ぎない。貴女を必要とする人間はここに居る!」

「辛いからそうやって都合のいいように解釈して逃げているだけでしょ!?」

彼女の言う言葉はすべて真実、この時の私に明に言い返せる言葉なんてあるはずもなかった。

「もしあなたが今、道が見えなくて困っているんだったら周りに頼れば良い!
 私だって頼ってくれたって構わないんだから・・・・・」

「誰もあなたを助けてくれないんだったら、私だけはあなたを助けてあげる・・・」






「私が・・・理緒を導いてあげるから!!」








「・・・・・・・・ぅ」

「ぅ、うう・・・うぇぇぇん・・・」







私はその場で泣き崩れた。








頬の痛みがで悲しくて泣いたわけではない。









明に言われた言葉が「悲しくて」泣いたわけでもない。









ただ私のことを純粋に思い、本気で怒ってくれたことがただ嬉しくて気づいたら涙が止まらなくて・・・



















第八話〜涙の理由〜 終わり





⇒第九話〜生きる意味〜










〜アトガキ〜


ようやく完成させることができました・・・
と、言ってもまだ理緒の過去編が完結してないので完成とはいえませんが。

9話で過去編が終わり、10話以降をお楽しみにして待っていてください〜




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