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≪この世界と銀河と宇宙と・・・≫






第七話〜誓いの守護剣〜





―――――国境付近


「・・・・・・」

佳織が連れて行かれた場所にようやく到着した。ずっと走り続けていたが、疲労はない。

(感情が高ぶっているのからかな・・・?)






「ふん、人攫いくらいはできるようだな」

「・・・・・・」

目的の場所を見てみると、ウルカと兵士が会話をしているところだった。


否、命令どおりちゃんとつれてきたが罵声を浴びせられているウルカの姿だった。

「スピリット風情が・・・まあいい、これでシュン様もお喜びになられる」


「シュン様・・・? 秋月先輩のことですか?」

「アキツキ先輩だと・・・貴様ごときがシュン様をそのように呼んでいいと思っているのか!」


ドンッ

佳織の言葉が気に入らなかったのか、兵士は佳織を突き飛ばしよろめいた佳織を理緒が支える。


「理緒、先輩・・・?」

「リオ様!? もう、お戻りになられてたのですか」

「そこのあなた、この娘は丁重に扱いなさい。もしこのことが秋月様に知れたら、死ぬことになるわよ?」

理緒の言葉を聞いた瞬間、兵士の顔が恐怖に染まる。

「・・・・!! し、失礼しました!」

「それに佳織ちゃんもエトランジェ、下手なことしたら殺られちゃうかもね」

一気に佳織の見る目も変わり、早く馬車へ乗るように催促する。


「さあ、佳織ちゃん。これに乗っていけば秋月様の元へ行くわ」

「・・・・・・・」

理緒が佳織に乗るよう言うが、なかなか動こうとせず先にウルカが乗ってしまう。

「あ・・・・」

ようやく佳織もそれに続いて乗り込む、すると馬車は動き出す。




ガラガラガラガラガララ・・・・・



・・・・・・・・



・・・・・・



・・・



〜数日後〜


――――森の中


理緒たちを乗せた馬車は、食事のための休憩で馬車をいったん降りていた。

「・・・はぁ、やっとおりられた。佳織ちゃん、顔色悪いけど大丈夫?」

「・・・平気です」

平気といっているが、佳織の顔色は良くない。ずっと馬車にこもりっきりなのだから。

「もう少しでつくわ、だからがんばろう。ね?」

「はい。ありがとうございます」

佳織にとって理緒だけが心の支えだった。今、唯一元の世界での知り合いだから。



そして、食事が済んだのと同時に乗ってまた動き出す。

「・・・・・・」

(サーギオスまでもうすこしか・・・佳織ちゃんも連れてきたし、秋月様もお喜びになられるだろうな)

そんなようなことを考えながら目を閉じ、着くのを待った・・・・

【・・・・・・】




・・・・・・・・・・




・・・・・・・・




・・・・・



〜さらに数日後〜



――――神聖サーギオス帝国


帝国に到着すると、佳織と兵士、そして理緒は皇帝の間へ向かった。


皇帝の間には、瞬が待ち望んでいたように来た佳織へ声をかける。

「佳織! よく来てくれた!」

「秋月先輩・・・・・」

嬉しそうに佳織を見て、理緒のほうへ向く。

「本条、長期の任務と佳織の救出を良くやってくれたな。僕は今非常に気分がいい。
 お前は自分の住居へ戻り、身体を休めておけ」

「わかりました・・・秋月様、御用があるときはいつでもお呼びください」

理緒は瞬へ礼をして佳織へ言葉を継げる。

「じゃあ、佳織ちゃん。バイバイ・・・」

「・・・あ」

そう言って、理緒は皇帝の間を後にする。

「佳織・・・本当によくきてくれた!」

その後ろでは、瞬の歓喜の声が耳に聞こえていた・・・・・



・・・・・・・・・



・・・・・・



・・・・



―――――理緒の部屋


バタンっ


扉を閉め、倒れこむようにベッドに転がる。

(・・・さっき入ってきたとき、誰も居なかったな。部屋にでも居るのかな)



【よいのか・・・?】

「・・・・・何が?」

部屋に戻ると、『問い』が声をかけてくる。

【あの人間の側にいなくて良いのか、と聞いている】

「秋月様のこと? そりゃ、居たいけどさ佳織ちゃんとの対面を邪魔をするわけにはいかないでしょ」

【そうか。お前がいいのであれば別に構わない・・・】

「・・・? あ、そうだ。暫くみんなにあってなかったし声をかけにでも行こうかな」

【この館の妖精たちのことか、今ここには居ないようだぞ】

「居ないの? なんで?」

【そんなこと我が知るものか。ただ、気配が全く感じられない】

「そういえば前にフィスが言ってたっけ。私達、普通は会話をする機会なんてほとんどないって。
 それだけ忙しいってことかな・・・じゃあ何しようかな」


【・・・うむ、どうやらいい暇つぶしができそうだぞ】

これから理緒は何しようかと考えていると、『問い』が声をかけてくる。






「どういうこと?」

【何者かがお前の部屋へ向かってきている、妖精達ではない】

「・・・・・・・・」

誰だろうと思い、寝転がっていたベッドからムクリと起き上がる。


コンッコンッ

すこし大きめのノック音、その主は誰かわからなかった。

「・・・・誰ですか?」

「ここにいらしたのですね。誓いの守護剣殿」

(誓いの守護剣・・・?)

ドアの向こうからは男の声。理緒はこの世界の国で男の知り合いと言えば瞬と佳織だけだったので警戒した。

「シュン様のご命令であなたをお連れしろとのことです」

「秋月様の?」

「はい、今お時間はよろしいのでしょうか?」

「・・・・・特に問題はありません。すぐに向かうのでそのように秋月様に伝えてください」

「わかりました。・・・では、失礼します」

人間の足音が遠ざかっていくのがわかる。


「ふぅ、びっくりした。この館に人間が入ってくるなんて思いもよらなかったわ」

【おそらく妖精たちがいないからであろうな。・・・理緒、早く行ったほうがいいと思うぞ。遅れるのは良くはない】

「わかってるって」

理緒は立ち上がり、ドアを開け館から城へ向かっていった。



・・・・・・・・・



・・・・・・



・・・・




―――――皇帝の間


「秋月様、ただいま参りました」

「ようやく来たか。誓いの守護剣」

「? さっきも思ったのですがその、「誓いの守護剣」とは?」

「この国ではお前を皆そのように呼んでいる。
 おそらくはこの『誓い』を守護していたスピリットが用いていた剣を持っているからだろうな」

「なるほど・・・そういうことだったのですね」

「ああ。さて・・・いきなり本題だが僕は非常に忙しくてね、佳織の側にいられないときも多くあるんだ。
 その時の佳織が寂しがらないように貴様をつけておく。本当はずっと一緒にいたいのだが仕方ない」





「・・・・・・・・・・」

「どうした、僕の命令が聞けないのか?」

しばらく理緒は下を向いて返事をしないと、瞬から不満げな声が聞こえてくる。



「あ・・・いえ、そういうわけでは・・・・・」

新たな任を与えられた。だが、それは理緒にとって非常に耐え難いものだった・・

「ならば早く返事を返すんだな。今回は特別に許してやる、・・・これから貴様のやることはわかっているな?」

「はい・・・佳織ちゃんについて、相手をする。と言うことですね」

「わかっているなら良い。
 早くあのスピリット共の館から移住するんだ。今日からは佳織の部屋の隣がお前の部屋だ」

「え? でも、私はあの館に住むと・・・」

「状況が違う、それにお前は人間の佳織と人じゃないスピリット。考えれば選ぶほうは決まっているだろう」


「・・・・・・・わかりました、すぐに支度をして向かいます」

理緒は暗い顔をしたまま皇帝の間を後にする・・・・・




・・・・・・・・・・




・・・・・・・




・・・・



―――――佳織の軟禁部屋


ガチャッ

「・・・!」

「佳織ちゃん・・・?」

「え、理緒先輩?」

佳織は一瞬驚いたが、理緒が入ってきたのを確認すると普通の笑顔に戻る。

「私、今日から佳織ちゃんの隣に住むことになったからよろしくね」

「あ・・・はい」

「秋月様に相手をしてろって命を下さってね。監視みたいな形になるけど、まあ気にしないで」

「いえ、大丈夫です」


この後、二人は暫く普通に話していたが理緒が違う話題を振る。


「佳織ちゃんはさ、秋月様といつ知り合ったの?」

「え、えと・・・何時と言うと、随分小さいころです。秋月先輩が、病院で入院しててそれのお見舞いに・・・」

「へぇ・・・そうなんだ」

(このときからもうすでに秋月様は佳織ちゃんのことを・・・・?)

「理緒先輩は秋月先輩のことをどう思っているんですか?」


そのとき佳織は意外な話題をふってきた。


「どうって・・・そりゃ、私はあの方を好いているわ。彼のために私は誓いの守護剣として戦い続ける」

「でも・・・・・今の秋月先輩はなにか違うような気がするんです。そう思いませんか?」

「・・・? 別に私はそんなふうに思わないけど」

「以前・・・この世界に来る前よりもっと怖くなったと言うか・・・」

「・・・・・・・・・」

「秋月先輩、言ってました。お兄ちゃんを必ず倒すって・・・そうすれば私が秋月先輩のものになるって・・・
 でも、私はそんなの嫌なんです。お兄ちゃんを倒してほしくなんかない、私は・・・・・」

「・・・つまり佳織ちゃんは悠人さんの事を思っているのね」

「でも、いくら私が思っても、もう・・・・・」


(・・・・・ッ!)



「―――今日のところはこれで失礼させてもらうわ。・・・また明日ね」

「理緒、先輩・・・?」

佳織の話の途中を破って、理緒は立ち上がり部屋から退室する。







――――新しい理緒の部屋


「・・・・・・ふぅ」

足早に自分の部屋に入り息をつく。

【あの娘と話すのは苦痛か・・・?】

『問い』の突然の声に理緒はドキリとする。

「・・・! な、何言ってるのよ急に!」




【お前の様子を見ていれば言いたくもなる。
 理緒、お前はさっきからあの者と会話をしているときも一度も笑顔は見せなかった】

「そんな・・・ちゃんと笑って会話をしていたわ」

【そんな作りモノを「笑顔」などと言えるものか。仮面の下ではどんな素顔をしている・・・?】

(・・・・・・・・・)

【・・・我にはお前の考えていることはほぼわかる。これだけいつも近くに居ればな】


【私は何をしているんだろう、私はどうしてこんなことをしているんだろうとな】

「それがどうしたって言うのよ・・・!」

『問い』の執拗な言葉に少し苛立ちを感じる。

【お前は自分では気づいていない心の奥底で思っている・・・いや、気づかないふりをしているだけか?
 私が佳織ちゃんならよかったと、何で私じゃなくてあの娘なの? ・・・とな】

「!!!」

【否定・・・・・できまい?】

【お前の心は自分が思っているほど綺麗なものじゃない。むしろ、私欲の塊とでも言っておこうか】

「そんな、そんなこと・・・!」

【思っていないとは言わせないぞ。 現にこうして我は、お前の感情を深く感じている。
 怒り、憎しみ、独占欲・・・・・そのすべてがお前の心の中に住み着いている】

【感情を内に秘めておくのは良くない。
 溜まっているのなら発散させればいい、お前の憎悪の源を消してな・・・・!】




理緒は頬に冷や汗が流れた。

『問い』の力が身体全体を駆け巡る。理緒の身体すべてを憎しみに染めようとして・・・

ギィィン、ビキィン・・・!!


「ぅっぐ・・・嫌、やめ・・・!!」

【どうした、我がお前の願いをかなえてやろうと言うのだぞ。
 あの佳織という娘を殺せばお前は随分楽になるだろう。我はお前の苦しさを取り除いてやろうと言うのだ】



「わ、私はもう感情に流されない精神を持つ。憎しみに犯されたりしない・・・だから・・・・・」

「やめなさい!!」


キン、キィ・・・

理緒の頭の中から頭痛が消え、身体の自由が戻る。

【なぜだ? なぜそこまで、憎い相手を庇い続けるのだ?】

「彼が・・・秋月様が決めたことだからよ。佳織ちゃんが死ねば秋月様も悲しんじゃう、そんなのはだめなの・・・!」

【・・・・・・本当にお前は、前に我を使っていたものにそっくりだ。・・・だがそれは今でも、我には理解不能だ】


「ねえ・・・今なら、あの時聞かせてくれなかったことはなしてくれても良いんじゃない・・・?」

【あの時・・・あの夜、最後に話しかけたことか】

「・・・そうよ」

【そうだな、今のお前なら・・・いや、我を持つお前は聞く権利と義務があるやもしれん】

外は完全に闇夜になり、理緒は横になりながらも『問い』の話に耳を傾けていた。






「―――それで、その娘は結局どうなっちゃったの?」

理緒はあの時聞いた、潜入任務中の夜中に聞いた昔の『問い』の使い手について聞いていた。

「あの時聞かせてくれた話の後が本番なのよね。さあ、聞かせて頂戴」

【その前に確認だ。お前の精神はこの話を聞いて耐えられるか? 覚悟はいいんだな】

「・・・ええ」

【下手をすればお前は精神を保っていられない恐れもある。・・・それでもいいのか?】

「それでも、私は知りたいの。昔、あなたの使い手と『誓い』の使い手の間に何があったのかを」

【わかった。では、話すとしようか】


【これから我は、お前の頭の中に我の見たイメージを直接流し込む。それを見るといい】

「? どういうこと?」

【我はそのやりとりをずっとではないが見ていた。その時のビジョンという訳だ】

「・・・わかったわ、始めて」

理緒はスッと目を閉じ、『問い』から流れてくるイメージを感じる。



・・・・・・・・・



・・・・・・



・・・




〜四神剣の勇者がまだ存在した頃〜


――――皇帝の間


「私があなたが好きなんです・・・!」

すぐに写ったのは黒い髪の少女が、王座に向かって立っている一人の男に思いを告げる瞬間だった。

「お前が・・・この俺をか? 何故だ」

1人の男が少女のほうを向きながら言葉を返す。

「あなたは私を必要としてくれた、誰からも存在を否定された私を必要といってくれた!」

「それはお前が強力な戦力になるからだ。別に特別な思いなどありはしない」

「それでも・・・! あなたに、ソードシルダ様にだけは私の思いを伝えたかったの」

ソードシルダと呼ばれた男はその言葉に不思議そうな顔をする。

「私を愛してほしいとはいわない。ただこれからもあなたの側にいたい・・・」

「メル、お前・・・・・」

「だめですか?」

ソードシルダは何か考え事をするように、目を瞑ったあと口元が少しにやける。


「そうか、お前は俺を愛してくれていたんだな。すまなかったな、今までずっと気づいてやれなくて・・・」

そういいながら、メルと呼ばれた少女に向かって歩いていく。


「構わないさ。そうだ、俺はお前が必要なんだ。ずっと側にいて俺のために戦ってくれるな?」

「はい・・・あなたが望むのであれば私は・・・・・」

「良く勇気を持って言ってくれたな。俺はこれから自分の部屋に戻る、夜になったら俺の部屋へ来い」

「はい、わかりました!」

少女は男に明るい笑顔を向ける、そして男も頭をなで自分の部屋に戻っていく。


「よかった・・・この思いが伝えられて。ねえ、『問い』。あの方は私の思いを受け止めてくれたわ。
 ちゃんと伝えて私は後悔してないわ」


【・・・・・メル、あの人間の部屋に行くのはやめておけ。何か嫌な予感がするのだ】

「私は大丈夫・・・信じてるから」

何か哀しい笑顔を浮かべながら言う。

【そうか・・・・・ならば、もう我は何も言わない。お前の好きにするが良い・・・】

「・・・うん」

ギクシャクとした会話。理緒はこの二人の様子を見て、



(なんかあの娘と『問い』の会話って険悪な雰囲気ね)

【この頃はもうすでにわかっていたのかもしれないな。奴が・・・・・】

(? どうしたの?)

【なんでもない。・・・次の場面に移り変わるぞ、しかと見ておくのだな】





―――――『誓い』のソードシルダの部屋前


「ここね、あ〜緊張するわ・・・・・」

メルは部屋の前で深呼吸をしてドアをノックする。

コンコンッ

「来たか、早く入れ」

澄ました愛しい男の声、ゆっくりとドアを開け中に入る。

「ようやく来たな、待ちくたびれたぞ」

ソードシルダはイスに座っていて、待ちかねたように声をかける。

「すみません、遅れてしまって・・・・・」

「まあいい、俺はお前のためなら時間を使ってやるのも惜しくはない」

メルにとって彼の一言が嬉しかった、それが何を意味するのかも知らずに・・・



「さて・・・もう一度聞くが、お前は俺とずっと一緒にいたいか?」


「・・・えと、はい! ずっと一緒にいられるなら・・・あなたのためならなんでもします!」

「なんでも、だな・・・?」

難しい表情をしていたソードシルダはその言葉を聞いた直後、表情が変わる。

「なら、早速だが俺の言うことを聞いてもらおうか」

「はい、何なりと・・・!」

メルに向かって歩いてきて目の前で立ち止まる。



すると・・・


ガッ、ビリィィィィィ!!

「!!!」

メルの服を掴んだかと思った直後に破りさる、可憐な胸がさらけ出される。

「何でもするといっていたな。さぁ、俺を愉しませてくれ」

「ソ、ソードシルダ様・・・!?」

「『誓い』がお前の鮮やかなマナをほしがっていてな。それを今から貰い受けるとしよう」

「・・・・・ッ!」

【メル! どうした、早くそこから離れろ!!】

『問い』の必死の声も哀しく、届かない。

「どうした抵抗しないのか? すこしはイイ声が鳴いてくれなくちゃ面白みがないぞ」



「泣きません・・・私は何でもするといいました。だから抵抗もしません・・・」


身体を隠し、震えながら言葉を返す。

「そうか、そうか。だったら命令だ。俺を愉しませろといったはずだ、ほら鳴けよ、叫べよ・・・!」

その言葉を聞いて、メルの最後をつなぎとめていた緊張の精神が切れた。
ソードシルダの邪悪な触手と腕がメルに触れる・・・

「・・・・・・・!」

「大丈夫だ、安心しろ。お前の望みどおり側にいられる、ただしその時お前に心があるかどうかは別だがな・・・」

くちゃりと音を立てながらさらけ出された胸を這いながら、下へ近づいていく。

「よかったな、ずっと一緒にいられるんだ。俺の忠実な駒としてな!」

「・・・・・・・」

メルは声にならない悲鳴を上げ・・・・・・



・・・・・・・・・・・



・・・・・・・



・・・・・



そこでイメージはブツっときれた、その瞬間に理緒は目を覚ます。

「ぅ・・・!」

ダッ!

急いでトイレに向かい、吐き気をさらけ出す。

「ゲホ、ゲホ・・・! ぅぐ・・・・・」

理緒は見て後悔したとは思わないが、最悪の悪夢を見たと自覚する。

「『問い』が言っていたのはこのことだった・・・のね」

落ち着いて、洗面所に向かって顔を洗い寝床へ戻る。


【どうだ? あまりいいものではなかっただろう】

戻ってきた理緒に『問い』は言う。

「・・・いいものどころか、最悪だったかもね」

【うむ、だからお前もあの者には・・・】






「・・・でもさ」





『問い』が言葉を続けようとしたところに理緒は言う。

「彼女は・・・幸せだったのかもしれないよ」


【な、何だと・・・!?】

【マナを奪われ、完全に心をなくしたことをお前は幸せだったというのか!?】

「確かにそれは悲しい事実よね。彼はあの娘のことを本当の意味で道具しか思ってなかった。
 でも、彼女は泣かなかった。どんなカタチでも思い人が自分を必要としてくれるならそれでも・・・ってね」

「まあ、こんなのは自分の存在を否定された哀れな者にしかわからない感情。
 愛情の中で育ってきた者には決してわかるわけがない」

【・・・・・・・・】

「少なくとも私は、あの娘の気持ちがわかる気がするよ。過酷な運命を背負った似た者同士だから・・・」

【わからぬ、そうまでしてなぜ尽くそうとするのだ・・・!】

「それが私の生きる意味・・・だからじゃないかな」

【・・・・・・・・】

その後、『問い』は一言も喋らず理緒も目を閉じ静かに眠りについた。




・・・・・・・・・・・




・・・・・・・・




・・・・・




・・・・・夜が明け、朝日が理緒へ差し込んでくる。

「ぅ・・・・ん」

ムクリと起き上がり、眠い顔をしながら目を擦る。

「もう朝か、まだ眠いからもう少し寝よう・・・・・」


そう決めて、また布団の中に潜り込み数分すると・・・



キィンッ!

「痛っ!」

【―――起きろ、このねぼすけ】

「いったぁ〜・・・何よ、随分元気そうじゃない?」

あの後の『問い』の様子を見ていた理緒は不思議そうに聞く。

【・・・これからは忙しくなるだろう、我を持つお前が吹っ切れたことだ。もう我もとやかく言う必要はない】

「そう・・・・・じゃあ、あなたの声も聞けたことだし起きるとしますか」

【もしやお前、我のタメに・・・?】

「ん? なぁに?」

【・・・いや、なんでも】

『問い』は理緒のまだ眠そうなボケた顔を見るとそうも思えなくなった。



・・・・・・・・・



・・・・・・・



・・・・



理緒は身なりを整えて、また瞬の命令どおり佳織の部屋前に来ていた。

「―――佳織ちゃん、入るよ?」

「あ、どうぞ」

ガチャッとドアを開け中に入ると、佳織は本を見ていた。

「今日も一日よろしくね」

「はい。・・・それと昨日何か失礼なことを言ってしまったでしょうか? 理緒先輩すぐに帰っちゃって・・・」

「えと・・・ごめんね、昨日はちょっと体調が良くなくてすぐに帰っちゃったんだ。別に気にすることでもないよ」

佳織の言葉に対して偽りで返した理緒は心が痛む。

「それで、何読んでるの?」

話題を変えようと佳織の読んでいる本に目を向ける。

「この世界の歴史を・・・どんなことがあったのかなって」

「そっか。そういえば佳織ちゃんはここの言葉、喋れる?」

「はい、大体は」

「すごいなぁ。私なんか剣の力があってようやくわかるくらいなのに、もっと勉強しなきゃダメだな〜」


「・・・・・理緒先輩」

「なぁに?」

「これからも戦争が続いていったらやっぱりあなたもお兄ちゃんと戦うことになるんですよね」

「・・・そうね、ラキオスはどんどん強くなっていっている。
 今はこのサーギオスとマロリガン共和国に匹敵する強国。このまま続けば何れ剣を交える日も来るかも」

「どうにか、できないんでしょうか・・・?」

「どうにも・・・できないでしょうね。私1人の力じゃ、やめさせることもできないし、
 秋月様が悠人さん達と戦うと決めるなら、私はそれに答えないと」

「・・・・・・・」

「佳織ちゃん、戦争って言うのはどこの世界と同じ。
 つく場所が違えば、親友同士が戦うことだってあるかもしれない。そういうものなのよ・・・」

そうして、会話が暫く途切れているとドアがノックされる。

コンコンッ

控えめなノックで、兵士のものではないらしい。

「・・・はい?」

ドアが開き中に入ってきた者はウルカだった。

「ウルカ・・・?」

「リオ殿? 何故ここへ?」

「私は秋月様に佳織ちゃんの相手を命じられて・・・あなたは?」

「手前は・・・カオリ殿が気になり参った次第です」


「良かった・・・私あなたにお礼を言いたかったんです。ありがとうございます」

様子を見ていた佳織が出てきて、ウルカに言葉を交わす。

「いえ、手前は・・・」



そして、ウルカも会話に加わり数日が過ぎていった・・・・・





・・・・・・・・




・・・・・・




・・・・







・・・ある日、三人で会話をしていて佳織がウルカへあるものを渡す。

「これをお兄ちゃんに届けてほしいんです。お願いできますか?」

「戦場で会うことがあれば・・・必ずや渡しましょう」

「渡しに行く時、私も行こうか?」

「いえ、手前だけで。あまり人数が多いと相手の戦意をあおることにもなります故」

「それもそうね。わかったわ、気をつけてね」

「―――承知」

この後、ウルカはまた戦場へ駆り出された。それ以降、ウルカが理緒たちの下へ帰ってくることはなかった。






・・・さらに数日たったある日、ウルカがラキオス軍の戦いで戦死したという情報が流れてきた。

「そんな・・・ウルカさんが?」

「秋月様から聞いた話によればそういうことになるわ・・・俄かに信じられないけど」

「そんな、お兄ちゃん・・・」

佳織はウルカが倒されるところを想像して絶望する。

「・・・そしたら、ウルカさんが束ねていた隊はどうなっちゃうんですか?」


佳織の一言で理緒の表情がいっきに変わる。

「そうだ、すっかり忘れてた・・・! 私、ちょっと行ってくるね!」

かなりあせった様子で部屋をバタバタ出て行く。

「理緒先輩・・・?」



・・・・・・・・



・・・・・・



・・・・



――――スピリットの館前


「はぁはぁ・・・全く、離れすぎよ」

全力で走ってきた理緒は館の前で呼吸を整える。

【どうした、そんなに急いで?】

「アイシス達のことが心配になってね。あの子達はウルカをすごく慕っていた。
 もし、この事実を知っていたら・・・いったいどんな顔して合えばいいのか・・・」

【なるほど。・・・運よく、妖精たちは全員この辺りにいるようだぞ】

「・・・そう」


ガチャッ・・・

中に入ってみると部屋はシンっとしていた。人の気配が全く感じないくらいに。

「リビングのほうへ向かってみよう・・・」




・・・向かってみると、そこにはラナがいた。


「ラナ・・・・・?」

「・・・リオ、様?」

テーブルに突っ伏していたラナは顔を上げる。目は赤く充血していた。



「リオ様・・・隊長が、ウルカ隊長が・・・!」



「・・・うん、全部聞いたよ。随分泣いたみたいね、目が真っ赤よ」

「どうして、隊長は私達を連れて行っては下さらなかったのか・・・もし行ってれば・・・」



「平気だった、とでも言うの?」

「・・・!?」

「ウルカのことは私も残念だと思っているわ。でもね、いつまでもそんなままじゃウルカも悲しむわよ?」

「あなたにそんなこといわれたくない! 私達は隊長が大好きで・・・でも、会話をする暇すら与えられず、
 ずっと戦わせられ、消えていった。これ悲しむなとでも言うの!?」

理緒の言葉にいきり立ったラナは立ち上がり近くに来る。

「あなただけは私達のために悲しんでくれると思っていた。だけど、所詮はあなたも人間だったことでしょう?」



さらに続けられるラナの言葉に理緒は奥歯をギリッと噛み締め、



スパァン!!



「・・・ッ!」

その瞬間、ラナの頬をひっぱたく。

「私が悲しんでないって? 悲しくない分けないでしょ! あの娘はこの国を守るために戦ってきた仲間、
 それをあなたは自分の無力感を私に向けて・・・いい加減にして!」

ラナは見上げると理緒も大粒の涙を流していた。

「・・・・・・・」

「だから・・・」

頬を押さえているラナを抱きしめ、理緒は、

「だからいつまでも泣くといいわ。・・・泣き疲れるまでずっと、私の胸の中でよければ・・・ね」

「ぅ・・・ぅう・・・・・」

すぐにラナは泣き崩れ、数分理緒の中で泣いた後眠りについてしまった。

(随分疲れてたみたいね。もう涙が流れないくらいに・・・・・)










・・・ラナを部屋に寝かせた後、部屋から出てきたフィスと会う。


「あ・・・」

「リオ様。どうかなされましたか?」

「・・・フィスはウルカの事、聞いたの?」

いつものような笑顔を向けたフィスに対し理緒は聞く。

「はい、私が初めに聞かされました。その後二人に・・・」

「もう平気なの・・・?」

「ええ。私はもう平気です、いつまでも落ち込んでても意味はありませんから」

明らかに造っている笑顔、その顔に理緒は哀しむ。

「・・・どうして隠そうとするの?」

「? 何がですか?」

「ウルカが居なくなって悲しいのにどうして、泣いてあげないの・・・?」

「仰っている意味がわかりません・・・」

後ろを向くが声がしぼんでいくのがわかる。


そして後ろから理緒が近づいていき、




「悲しかったら泣いてもいいんだよ? ここには私しか居ないんだから。
 ウルカみたいな頼もしくなくて華奢なヤツだけど、こんな私でもよければ・・・・・」

「リオ様・・・・・」

「―――何?」

「少し・・・胸をお借りしてよろしいですか?」

「いいよ、私のでよければ・・・」

「あり・・がとう、ございます・・・」

バフっと、理緒に密着するとすすり泣く声がシンとした部屋全体に響く。

その様子に理緒は無言で頭をなでてあげる。

(・・・・・・・)




たっぷりと泣いた後、理緒から離れいつもの笑顔を向けてくれる。

「リオ様、無礼を重ね失礼しました・・・」

「別にいいよ・・・それと、アイシスはどこにいるの? 探したけど見つからないの」

「・・・アイシスは訓練場だと思います。あの娘は悲しいことがあるとあそこに行くんです」

「そう、ありがとう。・・・元気出してね」

「・・・はい」









―――――サーギオス帝国 訓練場


「アイシス・・・?」

訓練所に着くと、アイシスの姿を探す。


明かりもついていない暗い訓練所を探し回る。




(・・・居た)

見つけるとアイシスは壁を背にして蹲っていた。

「アイシス、ここに居たのね」

「・・・・・・」

アイシスは言葉を返さず無言で伏せている。


「さあ、こんな暗い所に居ないで館に帰ろう?」




「・・・・・嫌だ」

ようやく返事が返ってきた。

「ウルカのことよね・・・?」

「・・・・・・」

無言で頷き、顔を上げる。

「リオ・・・俺・・・・・」

「とにかく、今はたくさん泣きなさい。泣いた数だけ思いは強く残る、居なくなったウルカのためにも・・・」

そのまま続けようとすると、アイシスが言葉を切る。




「・・・違うんだ。俺、泣いててここに居るんじゃないんだ。
 隊長が居なくなって死ぬほど悲しいはずなのに・・・俺、涙が出ないんだ」

「泣けないんだよ・・・!」

「!!」

その言葉を聞き理緒は驚愕する。その瞬間、アイシスの目元に手を当てる。




それは、涙の気配も無く乾いていた。

(そん・・な、アイシスも昔の私と同じ・・・?)

「なあ、リオ。どうしてなんだ? 何で俺だけ泣けないんだ?
 ラナもフィスもあんなに悲ししそうに涙が流れるのに、俺はその気配すらないんだ。どうして・・・?」

今にも泣きそうな顔なのにアイシスのまぶたには一滴の涙も浮かばない。

「ねえ、教えてよ。リオ・・・!」

「・・・・・・」

「俺、おかしいんだよ・・・
 もういつから泣けなくなったなんて覚えてないけど、ある日を境に涙が流れなくなったんだ」



「・・・・・それに対しては私も同じ、アイシス。あなたは私と同じように、心を閉ざしていたの」

「心を閉ざす・・・?」

「少しの間でいいの。私の過去をあなたに聞いてほしい。
 それがあなたの涙が流れない理由の答えになっているかはわからない・・・・・だけど」

「過・・・去・・・?」













第七話〜誓いの守護剣〜 終わり




⇒第八話〜涙の理由〜






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