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≪この世界と銀河と宇宙と・・・≫





第五話〜分かれ目〜




―――――法王の壁


「ここがサーギオス領の出口、法王の壁ね」

「そうね。ここを抜けて真っ直ぐ行けばすぐにケムセラウトが見えてくるでしょう」

「どうでもいいけど、やっぱり歩いてじゃここまで遠いよな・・・」

帝都サーギオスから神剣の力を使いながら早くきてはいるが、もう日がほとんど落ちかけている。

「私も飛べたら、もう少し早くこれたんだけど・・・ごめんね」

「あ! 別に攻めてるわけじゃないんだ、悪かった」

「まあ、飛べないことをせめても仕方ないわね。フィスも飛べないんだし」

「二人ともありがとう。・・・あ、あれじゃないの?」

足早に歩いていると、街が見えてくる。

「それなりに早かったわね、ついたら今日はもう休みましょう。そして明日・・・・・」


ラナが言葉を言いかけたその時、

「・・・! まて、何か街の様子がおかしい。神剣の気配がする」

「神剣の気配って・・・」

「これから向かう街にスピリットがいるってことじゃないの?」

「確かにそうみたいだけど、気配の数が多いし戦っているような力を感じる・・・」

【妖精の言うとおりだ。力同士がぶつかり合っている、それにその中でもかなり強い気配がある、これは・・・】


「わかったわ、確かに気にもかかるし私が様子を見て来ます」

「ラナ1人で大丈夫?」

「大丈夫です。私も飛べるし、いざとなればすぐに戻ってきます」

「じゃあリオの方は任せとけ」

「期待してるわ、アイシス」

ラナはハイロゥを展開して、ケムセラウト上空に向かって飛んでいく。

「いくら大丈夫って言ってもすこし心配ね・・・」

「平気だって、万が一襲われたとしても随一の速さでやり過ごすよ」

「・・・・・・」


【この気配はやはり・・・・・】

「『問い』? どうしたの?」

【うむ・・・いや、なんでもない】






ヒュオォォンッ

ハイロゥを羽ばたかせながら、ラナは上空へ到着する。

(私は言われるまで気配に気づかなかった、神剣の気配に一番鈍感なアイシスにわかって私にわからないなんて・・・)

「こんなに近くに来てもまだよくわからないわ、どういうことなの? 何か大きな力に邪魔されているような・・」

空からケムセラウトの街中を見下ろしてみると、確かに戦闘は起きているようだった。

(本当に戦いが起きている、そんな知らせは全くなかった・・・ううん、そんなことは今は良い。
 いったい何処の国がここに攻めてきているのかわからないと・・・)

高めに飛んでいたがよく見えないので少しずつ下に下りていく。

「あれは、ラキオスのスピリット・・・?」

以前、たった一度だけ見たことがあるスピリットを見て国がわかってしまった。

「確か彼女はラキオスのスピリットの中でも名高い、ラキオスの青い牙・・・!」

その人物はラキオスの青い牙。『存在』のアセリアであった。

(ウルカ隊長と同じくらい強いって聞いたことがある・・・ 一度、リオ様達の所へ戻ったほうがいいみたいね)




辺りを見回して、戻ろうかともう一度下を見たとき・・・アセリアと目が合ってしまった。

「!!!」




ジャキッ・・!


アセリアは無言のままハイロゥを展開し、神剣を構える。

(しまった、気づかれた・・・!)

バシュゥ、ダンッッ!

展開したハイロゥで飛び上がり、ラナに向かって切りかかってくる。



「間に合う・・・!?」



神剣の力を全快に開放して、スピードを上げさらに上に飛び上がる。



ブン、ゴォ!


間一髪でアセリアの一撃を避け、その直後全力で先の場所に向かって飛んでいく。


「・・・・・・」

アセリアも逃がさないとばかりに、剣を構えて追いかけようとするが、

「アセリア、どうした!?」

「・・・ユート」

黒髪の少年に呼ばれて、追いかけることをやめ、下に下りていく。

「何かあったのか?」

「ん・・・・・・なんでもない」

「? そうか、だったらもう今日は帰ろう。明日はダーツィの首都を陥落しなきゃいけない・・・」

少年は少し嫌そうに言葉を紡ぐ。

「わかった、ユート。行こう」

アセリアは少年と一緒に街から出て行く・・・・・





「はぁはぁ・・・やっぱり、いきなり神剣を開放しすぎたわね・・・飛ぶのも辛いわ」

急に攻撃され、力を使いすぎたラナはフラフラと飛びながら理緒たちの元へ戻る。



「・・・あ、リオ。ラナが帰ってきたよ」

「ほんとだわ。・・・でも、少しふらついているように見えるけど」

二人は帰ってきたラナに向かって歩いていく。

「はぁはぁ・・・・・・」

「ラナ、どうしたの!? 随分疲れているみたいだけど・・・?」

「すこし向こうの敵に攻撃されて、逃げてきただけです・・・全く、情けないわ」

「向こうって・・・・あそこにはやはり違うスピリットがいたんだ!?」

「ええ、相手国はラキオス王国よ。潜入任務の国だわ」

「ラキオスってことは、もしかして『求め』の使い手にやられたの・・・?」

「・・・申し訳ありません、誰が『求め』の使い手はわかりませんでした。攻撃相手は相手は違うスピリットです」

「ううん、ラナが無事ならそんなのはいいの。後で突き止めればいいんだしね」

ラナの調子が落ち着いてきたところ、理緒が話を切り出す。


「さて、この後はどうしようかしら・・・」

「もう日が落ちて、結構たつね」

「・・・ケムセラウトからは、神剣の気配は感じられませんね。兵達はどうやら別の場所に向かったみたいです」

「ただ制圧しただけなら、やり方次第で街の中には入れるんだけど・・・・・」

「普通、スピリット隊が陥落させた後は、人間の兵士たちが見回りをしているはずです」

「う〜ん・・・だったら大丈夫かなぁ」

「リオ、何をする気なの?」

「何をする気って、堂々と、真正面から街の中に入るつもりよ?」

「え゙!」

「な、何考えてるんですか!? いくらもういないからってそんなことしたら神剣の気配でばれちゃうでしょう!」

アイシスとラナは理緒のとんでもない発言に、動揺する。

「気配でばれることはないわ。ねえ、『問い』?」



【む・・・・・・?】



「あなたは神剣の気配が消せるんでしょう?」

【・・・! よく、わかったな?】

「おかしいと思ったのよ。 ラナは気づかれたのに私達は何で気づかれなかったのかなって。
 そりゃ、ラナは近くに行ったからばれたって言うのもあるだろうけど、気配はあるんだから私達もそれは同じ」

【・・・・・・・・】

「『問い』は私達にわからないように気配を消してくれてたんでしょう、どうして?」


【・・・我の力で気配を消すことは簡単だが、
 それを使用することによってお前や妖精達の力が少しだが弱まってしまうのだ】

【我が気配を消せるとわかればお前はこの力を多用するであろう?】

「ん・・・そうかもしれない・・・」

【それに、この力は万能ではない。 四神剣の一つ、『因果』と言う神剣も我と同じように気配を隠せる。 同じ力を持つ神剣同士では、気配を隠していてもわかってしまう。 だから、すこしでも力を抑えることになれておかなけばならない】

「・・・・わかったわ」

【わかればそれで良い。・・・では、今回だけは気配を隠せる力を貸してやろう】

「うん、ありがと!」




「まあ、そんなわけで、私の神剣は神剣の気配を隠せるの。だから、大丈夫なのよ」

「そんなわけ・・・? いやしかし、もし隠せたとしても私達の瞳の色や髪の色でスピリットとわかってしまいます」

「それに、リオだってサーギオスの服を着てるからばれちゃうかも・・・」

「ふっふっふ・・・・・その辺りは抜かりないわ。ええっと、たしかここに・・・・」

理緒はいつも腰に身につけている、携帯バッグから帽子を取り出す。



「じゃ〜ん♪ ただの帽子です!」

理緒はいかにもすごそうに帽子を取り出す。




「それをどうする気ですか?」

「こうするのよ・・・!」


バフッ


理緒は二人の頭に帽子を目深にかぶせ、顔が良く見えなくなる。

「頭の色と違う帽子だし、深くかぶっていればわからないわ。これなら、普通の女の子と思われるわ」

「ほんとに・・・? でも、リオは服どうするの?」

二人は隠せたが、理緒の格好はまだ黒いコートを羽織ったまま。

「これも脱いでと・・・ここにしまうのよ」


「え゙!」


長いコートが畳まれて、とても入りそうじゃない大きさのバッグに吸い込まれるようにしまわれる。

「どうなってるんですか、そのバッグは・・・」

「どうなってるって、どうしても知りたい・・・?」

「い、いえ・・・・・」

「さて、・・・ん〜このままじゃ制服だし、変わりに青いコートでも羽織っとこうかな」

またも、バッグからコートを取り出し、きる。

「ほんとにいろいろすごいなぁ・・・」

入る準備が終わった三人は街の入り口に向かう。




「さあ、とっとと行って寝床を探しましょう〜」

「こんな堂々とした潜入・・・きいたことありません」

「確かに、潜入ってのはこそこそして行くものだとおもってた」

「こういうのは堂々としているのが、逆に見つかりにくいのよ。・・・きっと」

そして一行は、闇夜を歩いていき宿を探す。


「なかなか見つからないわね・・・」

「そうでもないみたいですよ。ほら、あそこ」

ラナが指差した方向を見ると、なにやら微妙な雰囲気が漂う宿が見つかった。

「なあ、ここなんか変な空気漂ってるんだが」

「気のせいよ、もう遅いし早く入りましょう」

「文句も言ってられないか。行こう」


宿内に入ると、やけに薄暗い部屋だった。

「・・・・・お客さん、三人かい」

理緒たちをみると二十歳くらいの草臥れた青年は声をかけてくる。

「ええ、そうです。部屋はあるかしら?」

「ああ・・・まだ一つだが残っているよ」

「じゃあそこでお願いします。おいくらですか?」

そう言った瞬間、理緒は冷や汗をかく。

(しまった・・・! 私ここのお金なんて持ってないや・・・)

「宿代はいらないよ・・・」

「え、良いんですか?」

「今日の戦争でこの国は負けた。それで兵士達に散々かき回されたから今日はもう休みたい、タダでいいよ」

「ラッキー♪ ありがとうございます!」

「場所は30K2108号室だからな」



「―――え?」

「だから部屋は30K2108号室だって言ってるんだ」

「・・・はい。 わかりました」

(な、なんて長い号室名なの・・・・・)

とりあえず、決まった寝床へ三人は向かっていく。




・・・・・・・・



・・・・・・



・・・・



――――宿屋 30K2108号室


「ふぅ、ここね・・・」

「・・・・・」

「二人ともどうしたの? さっきから黙って」

「本当に私達の正体がわかってなくて驚いてたんです。この帽子はすごいですね・・・」

「俺もびっくりだよ。人間の人にみられて、文句言われなかったの生まれて初めてだ」

二人とも理緒のかぶせた帽子を尊敬のまなざしで見ている。

「あはは。あの人はなんかかぶってなくても、わからなそうだったけどね」

「・・・リオ様、ここまでようやくこの話をするときが来ました」

「ラナ? どうしたの、あらたまって」

「今まで寝ておられたり、戦いのせいでいえませんでしたが・・・・・」

「・・・?」

ラナは顔を赤くしながら、言う。





「あの・・・お風呂に入ったほうがよろしいです・・・」





「――あ」

「風呂? あ〜そっか。何十日も寝てたせいで、リオってぜんぜん風呂入ってないよな」

考えてみればそうである、理緒はこの世界にきてからまだ一度も風呂に入ってなかったのだ。

「私達が綺麗してはいましたが、やはり届かぬところも多くて・・・」

「まあ、気にすることないって。俺だって昨日の訓練終わった後入るの忘れちゃったけど」

「アイシス! いつもフィスが怒っているでしょ。女の子なんだからちゃんと綺麗にしないと」

「え〜だってなんか面倒なんだもん」

「あなたもリオ様と一緒に入るの!」

(そうか・・・なんか忘れてると思ったら、私ずっとお風呂入ってなかったんだ。汚いなぁ・・・)

「はぁ・・・・・」

「リオ、どうかしたか?」

「え、いや、なんでもないわ。さ、早く入りましょう!」



・・・三人で浴場に向かうと、広々とした場所に出た。

「脱衣所も広いわね。 外の見た目はあれだけど、中は意外といいものね」


「わぁ、やめろラナ! 脱がすな!」


「何言ってんの、無理やりにでも脱がさないとあなた入らないでしょ」

理緒は服を脱がされているアイシスをみる。

「私も入ろ〜っと」


服を脱いで向かう。入ると軽く身体を流したあと湯船につかる。


チャプン・・・・


「はぁ・・・何日ぶりのお風呂なんだろ。この暖かい感触を忘れてたわ・・・」

「うぅ〜〜〜」

「ようやく入ったわね。全く」

ラナとアイシスも格闘していたようだが、ようやく落ち着く。


「・・・ラキオスのスピリットに『求め』の主、これを掻い潜りながら潜入捜査をするって言うのも骨が折れるわね」

「そうですね、絶対に戦闘は避けたほうがいいでしょう。強さはこちらに分があれど、
 向こうのほうが明らかに数が多いですし、それにラキオスにもエトランジェと強力なスピリットが多い」

「やっぱり『求め』の担い手はエトランジェなんだよね・・・」

「それはそうだよ。ラキオスの神剣『求め』は第四位の剣だ。そんなの使えるのはエトランジェしかいない」

「それに、四神剣の勇者達もエトランジェですしね」

「・・・・・・」

(エトランジェだとして、いったい誰なの? 私と秋月様以外にもこの世界に来訪した人間が他に・・・)


「よ〜し、じゃあ俺はもう上がるとするか。じゃあな」

「コラ、アイシス・・・洗わないで逃げようなんて、そうは行かないわよ」

「みぎゃ〜・・・」

理緒たちは身体を清め、元の自分達の部屋へと向かっていった。







――――宿屋 30K2108号室


「あぁ〜久々に入ってさっぱりした! やっぱりいいものね」

理緒はタオルで髪を拭いていると、ラナがじぃっとみつめてくる。

「? ラナ、どうかしたの?」

「あ、いえ・・・入ってるときも思ったけど、リオ様はきれいな髪しているなと思って」

「そう? 気にせいじゃないかしら」

髪を拭き終わり、理緒は鮮やかな黒いロングヘアーを靡かせる。

「・・・・・やはり、綺麗です」

ラナは理緒の髪に食い入るように見入っている。

「あはは、それはよかった。じゃあもう寝るとしましょうか」

「なぁ、リオ。寝床が一つしかないんだけど、どうしたら良い?」





「――――え」


恐る恐る部屋を見回すと、大きめのベッドが一つあるだけであった。

「こ、これってもしかして・・・・・」

(・・・もしかするも何も、ダブルベッドじゃない)

枕が二つおいてあるのをみてそれがわかる。

「要するにここは・・・こういう宿だったってわけね」

あの怪しい雰囲気がようやくわかった気がする。

「? こういう宿ってどういう意味だ?」

「いや、気にしなくていいよ」

「それにしてもどうしましょうか、これでは・・・・」

「やむ終えないから三人で寝ちゃえばいいんじゃないの?」

無垢なアイシスが危険な発言をする。

「・・・でも、迷っている暇はなさそうだね。明日も早いし、こんなことをもめているときではないわ」

「そう、ですね・・・・・」

「じゃあ、みんなで寝よう〜♪」


のそのそと三人が布団の中へもぐっていく。

(さすがに三人は多いわね。 ちょっと寝づらいかも・・・)

「んふふ〜リオのからだあったか〜い♪」

前で寝るアイシスが理緒の胸に顔を擦り付けている。

「ちょ、ちょっとアイシス! くすぐったいからやめなさい!」

「〜♪ リオって良いにおいがするな」

さらに小さい身体を理緒に密着させてくる。 かなり寝づらそうだ。

「ちょっと、あ・・・そこはダメ・・ん、くぅ・・ヘンなとこ触んないで・・・・」



「ZZZzzz・・・・」

身体を密着させながらアイシスは眠りの世界へと落ちてしまった。

「あ、寝ちゃったか・・・」

「全く、アイシスったら子供なんだから」

「え・・・きゃぁ!?」

「何を驚いているのですか?」

後ろから声がしたので振り向くとラナが後ろで横になっていた。


「でも、まあ、アイシスはまだ子供なんだしいいんじゃないの? こういうのも」

理緒はアイシスの頭をなでながら返事を返す。

「・・・・・ねえ、ラナはどうしてそうやって大人みたいな見栄を張るの?」

「・・・! いっている意味がわかりませんね」

「そうね、例えば今みたいな敬語とかかしらね。
 ラナだってアイシスとそんなに年が違わないのに、どうして大人っぽくみせようとするの?」

「私を子ども扱いしないでください! そういうの嫌いなんです」

「でもさ・・・私を心配してくれたときのラナの顔は、すごく明るかったよ。
 すごく、自分自身が出せてるって言うか・・・ なんか、こう生き生きしているように見えたわ」

「・・・・・・」

「今のあなたの顔は光を感じられないわ。自分で自分を押さえつけて感情を表に出さない。
 そりゃ、私なんかがまだ信用されてるとは思わないけどさ。もうすこしハメをはずしてみたらどう?」

「そんなこと・・・できません」

「どうして?」

「だって、本当の私なんかをさらけ出したりしたらきっとあなたは・・・」

「嫌うとでも思っているのかしら?」

「・・・・・・」

「嫌うって言うなら、今のラナのほうが嫌いかな。だって、私に嘘をつくもん」

「! そんな、わたしはただ・・・!!」

「だからさ・・・」


ゴロッ

アイシスに掴まれているのに器用に寝返りを打ち、ラナの方へ顔を向ける。

「そんな見栄張らなくたって良いんだって。あなたはあなた自身のままでいればいいんだから」

「リオ様・・・」

「ほら早速、様づけ?」

「あ、いえ、これはすぐには難しいかと・・・」

「・・・そうね、わかったわ。それは別にそのままでいいわ、だったらせめて敬語を直してもらって良い?」

「はい、わかりました・・・いえ、わかったわ」

「うん、よろしい!」

ちゃんとできました、と言うような感じで頭を優しくなでる。



すると、ラナは顔を真っ赤にしながら言葉をつむぐ。

「・・・本当は、アイシスがうらやましかったの。リオ様にいつも構ってもらっていて。
 どうせかまって貰えないなら、こっちから離れてやろうと思っていたの」

「・・・・・・」


ふに


「んむ・・・! はなしてぇ・・・」

理緒はラナのはなをつまむ。

「何、そんなことであんな態度とってたなんて本当に馬鹿ね」

「うぅ・・・・」

「そんなことならいくらでもしてあげるわよ。約束して、もうあんなことはしないってそしたらはなしてあげる」

「あい、わかったです・・・・」

返事が聞けるとつまんでいた手を離して、また頭をなでる。

「なら、今日はこのまま寝なさい。明日もあることだしね」

「うん、そうで・・・そうだね」





そうして暫くして、ラナも眠りにつき理緒だけがまだおきていた。

「・・・・・『問い』、おきてるかしら?」

【うむ、今日こそ来ると思って十分休んでおいた】

「そう、だったらもういいわね・・・?」

【無論だ、何なりと好きなことを聞くが良い。概ねわかってはいるがな】

「あの戦いの前からとなると・・・この世界に来た理由が知りたいわね」

【理由だと? そんなことを我が知るものか。だが、すべてはあるべき姿にとだけ言っておこうか】

「すべてはあるべき姿に・・・か、いったい最後はどんな未来なんだろう」

【・・・・・・】

「じゃあ次は・・・私がこっちへ来る前に声が聞こえたけど、それってやはりあなたなのよね?」

【・・・そうだ、お前の思念は前に我を使っていたものに良く似ていたのでな】

「『問い』の前の使い手ってどんな人だったのかしら」

【そうだな、寝ぼすけという所以外はお前に本当にそっくりであったな】

「む・・・寝ぼすけで悪かったわね」

【その昔、四神剣の勇者がまだこの世界にいるときだ。我の使い手は妖精だったのだが、変わり者でな・・・】

【本来、妖精達はもっていないはずの位の我をその妖精は持っていた。
 なぜかはわからぬ。 変わり者の妖精の神剣は、同じく変わりモノというとこだろうな】

「ねえ、その娘が変わっているってどんな感じ?」

【お前と大して変わり映えしない。 出会うこともあれば仲が良かったかも知れぬな。
 その妖精・・・名はメルと言うが、四神剣の勇者の1人。『誓い』のソードシルダを愛していた】

「『誓い』って・・・!」

【そうだ、お前の知っている通り。今の『誓い』の担い手のことを好いているだろう?】

「そ、それは・・・・・」

【ようするにそういうことだ。もしかしたら、それがお前がこの世界にきた理由かも知れぬな】

【人間の恋する妖精など存在しなかった。だから周囲からは変わり者の妖精といわれてたのかもな。
 だが、周囲にどんなことを言われようとも決して諦めはしなかった。その後もずっとな思いついに・・・】

「告白したのね!?」


理緒は少し感情が高ぶり『問い』に聞く。

【うむ・・・・・】

聞いた答えの『問い』の声は重い、もしやと思い理緒は・・・

「もしかして・・・ダメだったの?」

今の自分と重ねているために、消え入りそうな声になる。

【ダメだった、か・・・そのほうが幸せだったのやも知れんな】

「え・・・どういうこと?」

【・・・・・メルは、ソードシルダに思いを伝えた。その答えは意外にも快く受け取ってもらえたのだ】

「ならそれでよかったんじゃないの・・・?」

【そうだな。そこまでならな・・・】

【理緒よ。お前も今朝見たであろう? あの違和感を感じだ妖精を】

「違和感を感じた・・・?」

『問い』に言われ、今朝の訓練の時であった少女を思い出す。

「確かに・・・なにか変な感じはしたけど、それが何か関係あるの?」

【あの妖精は完全に心が壊れていた。目に光はなく、生気を感じないから違和感があったのだ】

「・・・心が壊れるってどういうこと?」

【言葉の通りだ。心をなくしてだ戦うためだけの兵器と言うことだ】

「!?」

【・・・あの国は元来、妖精たちの心など必要としていない。心は邪魔なだけだ、とな】

「心が壊れちゃった娘はどうなっちゃうの・・・?」

【どうにもならないな。よほどその者の心が強くない限り、戻ってくることは不可能だろう】


「・・・・・だけどやっぱり、それは今の話の接点があるとは思えないよ」


【これから先が本番だ、今までのはその一部の話でしかない】

【だが、その話はもう少し後にしよう。今話してもお前が理解できるものではない】

「・・・・・・」

【とにかく今は寝ろ。我の話を聞いたことで、戦いに集中できなくなってもらっても困るからな】

「・・・・わかった。でも、そのときが来たらちゃんと話してよね」

【―――わかっている】

こうして、理緒も『問い』に中断され眠りにつく・・・・




・・・・・・・・



・・・・・・



・・・





〜サーギオス出立から一日目〜


――――宿屋の一室


朝になると、日差しが差し込みアイシスが目を覚ます。

「ふぁ・・・朝か。なんだ、二人ともまだ寝てるのか?」

目を覚ましたアイシスは隣で寝てる、ラナと理緒を見る。

「おい、二人とも早く起きないとやばいかもしれないぞ」

「・・・ん、そうね。早く起きないと・・・」

声が聞こえたのか、ラナが眠そうな顔でムクリと起き上がる。

「じゃあ俺、顔洗ってくる」

「あ、待って! 帽子かぶっていかないと、怪しまれるわよ」

「そうだった、そうだった。・・・と、これでよし」

アイシスとラナは理緒にもらった帽子を深くかぶると、顔を洗いに部屋を出る。

「ZZZzzz。。。」

二人は顔を洗いに行ったにもかかわらず、まだ理緒はグースカと寝ていた。


「・・・いや〜ほんとにすごいな、これ。周りに人がいっぱい来たけど、ぜんぜん気づかれなかったし」

「全くね。来たときは私、どうなるかと思ったわ」

二人は部屋に戻ってくると、まだ寝ている理緒が目に入る。

「リオ、まだ寝てるな」

「ええ・・・・・」

ベッドを見ると幸せそうな顔をして寝ている理緒が見える。



「ZZZzzz。。。」



「可愛い寝顔だな・・・・・」

「ええ、本当に・・・」




「いくらこのままにしときたいっていっても、やっぱり早くでたほうが良いよな」

「そうね。ほら、起こすわよ」

二人はベッドに来ると、掛け布団を引き剥がしたり、頬をぺちぺち叩いたりする。

「・・・んぅ〜あと5分〜・・・・・」

理緒は寝言を日本語でしゃべったのでもちろん二人にはわからない。

「アトゴフン? どういう意味なのかしら?」

「きっと、『もっと気合入れて起こせ』って意味だよ」

かなり大きな勘違いをしている二人は神剣を用意する。

「仕方ないわね・・・神剣よ。彼の者の眠りを起こす力を放て!」

ラナは神剣を握ると、力が集中していく。

それと、同時に『問い』の警告音が頭に響く。


キィンッ!

(・・・痛っ! なんなの?)

まだ80%くらい寝てる頭で声をかける。

【理緒よ。早く起きないと、死ぬことになるぞ】

『問い』は冷静に言うが、当然理緒にはわからない。

「・・・? 死ぬって・・・?」

眠い頭で目を薄く開けると、アイシスとラナが戦闘態勢を取っていて、さらに矛先は自分に向いている。

「よし、これで攻撃すればきっと起きるだろ」

「アイシス、行くわよ!」

(え・・・何々?)

まさか・・・と理緒は必死に頭の中をめぐらせる。

(早くおきないと死ぬって、こういうこと!?)

完全に目が覚めてガバッっと起き上がる。



「あ、起きた」

「ほんと、残念」



「何が残念よ! 剣に起こされてなかったら私死んでるって!」

「いやぁ、理緒が気合入れて起こせなんていうからさ〜」

「そうそう、アトゴフンって向こうの世界の気合入れて起こせって意味でしょ」

「え゙! 違う〜もう少し寝かせろってな感じの意味よ!」

「なぁんだ、そうだったのか」

「全く人騒がせなんだから」

「どっちがよ! 私なんか勘違いで死ぬとこだったって・・・」

そうして騒がしい起床は終わり、支度を済ませ部屋を出て出入り口へ向かう。

「あ、受付のところ人いないな」

「別にタダだし、このままいかせてもらいましょう。私達は急いでるんだし」

「そうね、なんか悪い気もするけど・・・」

理緒たちは、戸惑いながらも宿を後にする。



「・・・さて、これからどうしようか」

「街をまわっていろいろ調べたいけど、それも結構危険よね・・・」

「そうね。リオ様だけならともかく、私達は無理ね」

三人はどうしようか考えながら歩いていると、前方からラキオスの制圧した兵と思われる男達が立ち話をしている。



「・・・・・・もう、ダーツィまで落とすとは、わがラキオスはこのままだと北方全土を手に入れるだろうな」

「全くだな、それもこれもわが国に二人のエトランジェが現れたと言うのがまた幸運だな」

「ああ、あの二人の男女か。確か、今現在『求め』を持っているのが男のほうのユートとか言う奴だったな」



「!!」



理緒は、兵士達の会話を聞きかなり重要な単語が出たのでもう少し聞くことにする。

「リオ? どうしたんだ?」

「アイシス・・・ちょっとだまってて」

盗み聞きするのは心苦しいと思いながらも耳を傾ける。



「そうだ。 だが、あいつだけだったら今の勝利はないな」

「陛下もお考えになられる。もう1人のカオリとか言う小娘を、人質にし、強制的に戦わせる。
 万が一、あのユートとかいうやつが死んでもまだ替え玉はあるとお考えなんだろうな」

「今回の建て前上のイースペリア救援がそうだろ? あそこでマナ消失を起こさせ、大半の戦力を奪うつもりだ。
 スピリットは補充できるし、エトランジェも剣さえ残っていればいける」

「・・・・・・」

理緒は信じられない話を聞いて、絶句する。 まさかこのラキオスのエトランジェが・・・




(高嶺・・・悠人さん・・・・・)




実物を見てないがおそらくは間違いないだろう、確証もある。

(悠人さんと佳織ちゃんもこの世界に来てたなんて・・・それに、今回の目的の『求め』の主が悠人さん・・・)

「なあ、リオ。さっきから黙っちゃってどうしたんだ?」

「何かわかったの?」

二人は心配そうに理緒の顔を覗き込む。 理緒はそれにすこし険しい顔で、

「・・・ええ、わかったことがかなり多かったわ。一度この街を出ましょう」

理緒たちは、急いで街の外へ出る。そして、先ほどわかった話を二人にする。



「・・・じゃあ、『求め』の主はそのタカミネ・ユートって言う奴で間違いないんだな?」

「確証はないけどおそらく・・・そして、今ラキオスの軍はイースペリアの救援が発令されるみたい」

「なら、その報告は私がしてくるわ」

「ラナ? 1人でいいの?」

「全員で戻ったって、時間の無駄よ。それにリオ様飛べないんだし」

「うぅ・・・・」

「だから気にしないで。報告なら私の速さが一番良いでしょう?」

「それもそうだな。じゃあ気をつけて行ってこいよ」

「わかってるわ」

ラナは、ハイロゥを広げサーギオスに向かって飛んでいく。

「私たちはここで待機してましょう。何か指示が来るかもしれないし」

「・・・待機もめんどくさいし、ちょっとダーツィの方の様子を見てくるよ」

「まって! 私から離れたら神剣の気配がして見つかってしまうわ」

「大丈夫、もしわかってもかなりの上空を飛ぶから平気だよ。安心しろって」

理緒の静止も聞かず、ハイロゥを展開してダーツィ首都上空へ飛んでいく。


「あ、まって! 待ちなさい、アイシス!」

ため息をつくと、もうアイシスの姿は見えなくなっていた。

「あの娘なら平気だと思うけど・・・やっぱり少し心配ね」

もう追うことも不可能なため、無事を信じて待機することにした。




・・・・・・・・・



・・・・・・



・・・





しばらくすると、神剣の気配がこちらに向かってくるのを感じる。


「・・・! 誰かがこっちに来る、アイシスかしら?」

そう思い、もう一度場所を確認すると、方向は逆のサーギオス方面からだった。

「この気配は・・・・・・フィス!?」

そうして、猛速で走ってきたフィスは理緒の目の前に来ると話し始める。


「リオ様! ここで待機なされてたのですね、よかった・・・」

「フィス、あなた他の任務があるって言ってたけど、どうしたの?」

「ええっと、今その任務でこちらに来たところなんです」

「?」

「ラナが報告に来てくれたのをシュン様が聞いて、すぐに私をこっちに向かわせたんです」

「それはわかったわ。それで、具体的には?」

「はい。サーギオスはサルドバルトの後ろ盾をしてイースペリアを落としたのですが、
 ラナの報告、二人の来訪者の話を聞いた瞬間にウルカ隊長と私を向かわせました」

「そのウルカ隊長は今どこにいるの?」

「ウルカ隊長は私と別に、違う命令を命じられたみたいです。すぐにイースペリアの方へ行かれてしまいました」

「なるほどね・・・それで、私たちはどうすればいいの?」

「このままイースペリアに向かって、ウルカ隊長と合流しろとのことです」

(だったらその娘もここに来て、一緒に行けばいいのにな・・・いや、私なんかが秋月様の考えが分かるはずが無い)

きっと何かお考えなのだろうと思いながら、理緒はフィスとイースペリアに向かって駆け出そうとしたとき、

「そういえば、アイシスはいったいどこにいるんですか?」

「あ、そうだ! あの娘は確か・・・」



「おーい」



ダーツィ首都に行ったといおうとしたそのとき、帰ってくるアイシスの姿があった。

「アイシス、いったいどこにいたの?」

「リオに言われて待機してろって言われたんだけど、暇だからちょっと様子を見てきたんだ」

「だめじゃない! そんな危険なことをしたら、第一リオ様の命令にはちゃんと従いなさい!」

「いいのよ、フィス。私がもっと引き止めておけばよかったんだから。それよりそっちは何かつかめたの?」

「そうそう。もう、ラキオスの軍勢はとっくにイースペリアに向かったみたいだぜ。
 今は、後ろ盾に配備されている俺たちサーギオスのスピリットと交戦中だってよ」

「リオ様は甘いんですから・・・まあ、いいわ。なら、早く行きましょう」

「ちょっと待ってくれよ。このまま街とか経由していったらラキオスとぶつかることになるぞ」

「そうだけど・・・ほかにいく方法はあるの?」

「あるじゃねえか。ほら、マロリガン方面の砂漠を通っていけばだいぶ早く先回りできるだろ」

「何言ってるの! 飛べるあなたはいいけど、リオ様はどうするの?」

「あ、そうか・・・なら、西に折れてランサからイースペリアに向かえばラキオスは突破できるんじゃないか?」

「・・・・・・そうね、それなら私達も何とか大丈夫そうね。リオ様、それでよろしいでしょうか?」

「ん〜私はこの辺の大地に詳しくないし、あなた達に一任するわ」

理緒はてへへと笑いながらフィスへ相槌を打つ。

「わかりました。アイシス、いきましょう」

「おぅ」

二人ともハイロゥを展開して、走り出す、理緒もそれに習って後ろからついていくことにする。


「さぁ、早くラキオスを追うぜ」

「私達の目的は追うことじゃないってことを忘れないでよ」

「わかってるって」

アイシスとフィスはそんな話をしながら走る。

その時、理緒は・・・・・



(この先にはおそらく・・・いや、絶対に悠人さん達も来る。 その時、私は・・・・・・)








第五話〜分かれ目〜 終わり



⇒第六話〜対峙する二人〜





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