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≪この世界と銀河と宇宙と・・・≫






第四話〜潜入任務〜





〜戦いが終わって一日後〜



――――自室


ギィンッ!

「・・・痛っ!」

【寝ぼすけ女め、ようやく起きたか】

朝から『問い』の声とともに強烈な頭痛で目が覚める。

「あ〜ん頭が痛〜い・・・何すんのよ!」

【早く起きないから我が目覚ましになってやったのだ。感謝しろ】

「だからってもっとほかにやさしい起こし方があるでしょ、全く」

【お前がさっさと起きればいいことだ。これからは警告して五秒以内に起きなければ今日と同じようにするぞ】

「五秒!? 無理、無理だって! 許して〜・・・」

理緒は泣きそうになって、『問い』に許しを請う。


「リオ様、どうかなさいましたか?」

自分の部屋の外からフィスの声が聞こえる。

「フィス・・・!? なんでもないわ、今行くね」

ガチャッ


「リオ様。おはようございます」

「おはよう。それと昨日はごめんね、なんだか部屋に入っちゃったら眠くなっちゃって・・・」

「大丈夫です、それに関してはみんなわかっています。特にアイシスは随分心配してました」

「・・・そっか、みんなにも心配させちゃったね」

「では、食事にしましょう。下へ参りましょうか」

・・・下に下りていき、食卓へ向かうともうアイシスとラナが席についていた。

「あ、もう来てたんだ。二人とも早いね」

「何を言うのかと思えば。ただ、あなたのおきるのが遅いだけです」

「そうだぜリオ〜。もう俺お腹へってマナに還りそうだよ・・・」

「ごめん、ごめん」

そして、理緒とフィスも席につき食事を始める。

「いただきます、っと。 わぁ〜おいしそう♪」

「俺とフィスで作ったんだぜ。どうだ? リオ、旨いか?」

「もぐ、んぐ・・・うん、おいしい! すごいね、二人とも料理上手なのね」

「お褒めに預かり光栄です」

「ほんとは隊長とも一緒に食べたかったんだけど、忙しいみたいでろくに話すらできないもんな」

「そうね、他のみんなにも食べてもらいたかったね」

「他のみんなって、このほかにあった館のみんな?」

「そうです、でも彼女達は私達と違いほとんどの時間が訓練ですね。
 私達も本当はのんびりして入られないのですけれど・・・」

「みんな大変なのね・・・・・」

「確かに私達も大変ですが、リオ様の言葉も早く慣れていただかないと困ります」

突如、ラナに言葉を指摘される。

「確かにリオの言葉は変だけど、大丈夫! 十分に通じるって」

「それではダメよ。いざ戦場になったときにちゃんと言葉を伝えられなかったら意味がないわ」

「でも・・・・!」

「ありがとう、アイシス。私も言葉ができるよう努力を尽くすわ。フィス、この世界の本はないの?」

「この世界の本ですか?」

「ええ、何でもいいの。もしあったら私に貸して頂戴」

「わかりました。後でお持ちしますね」



そこでいったん会話がきれ、しばらく沈黙した後理緒が思い立ったように言う。

「・・・・・思ったんだけどラナは料理作ってないの?」

黙々と食事をしているラナに声をかける。

「・・・・・・(汗)」

「あはははは、リオ〜無駄だよ。ラナは料理、激烈にへたっぴなんだから♪」

「そ、そこまで言うことないでしょう! そりゃ私は決して上手ではないけど、ブツブツ・・・」

ラナは手のひらに「の」の字を書きながらいじけている。

「なんかまずいこと聞いちゃったのかしら・・・」

「あまり料理に関しての話題はあの娘には、よくないかもしれませんね」

「うぅ・・・ごめんね、ラナ」

「イジイジイジ・・・・・・」

そんなこんながあり、騒がしい食卓は終了した。




・・・・・・・・・




・・・・・・




・・・・




「・・・はぁ〜食事が終わったら、みんな訓練にいっちゃった。流石は戦争中、ほんとに大変ね」

【理緒。お前も訓練をしたらどうだ】

暇そうにベッドに横たわっていると『問い』が声をかけてくる。

「私は〜ちょっと・・・」

【まだ先の戦いの恐怖が残っているのか?】

「そういうわけじゃないんだけど・・・今のままじゃ身に入らないかも」

【ならば先ほど受け取った書物を読み、勉学に励んだらどうだ】

「書物って・・・ああ、あれね」

理緒はおもむろに机の上を見る。

「考えてみたら『問い』のおかげで言葉がわかっても、字が読めないって事に気づいてね。どうしよう・・・」

【そうか。それならば少しだけ力を貸して、ある程度の文字くらいは読めるようにしてやろう】

「え゙!・・・・・それってもしかしてまた頭痛くなっちゃうヤツ?」

【無論だ。そんなことお前にもわかっているだろう】

「いや〜! 痛いのはいや〜」

【誤解を招くような声を出しおって、ほんの少し我慢すればいいだけだ】



・・・・ゴォォォ、キィンッ!




『問い』の力が発現し、頭に強い頭痛が響く。

「あ、くぅ・・・痛・・・い、よぉ・・・」

【いつまで痛がっているつもりだ。それでも本当に我の契約者か?】

「うっさいわね、痛いものは痛いんだからしょーがないでしょ!」

【議論はここまでだ。早く始めるのだな、お前だけが怠慢していて良い状況ではないだろう】

「むぅ〜わかったわ」

理緒は『問い』の言うことが少し気に入らなかったが、正論だったので机に向かう。

【我は少し力を使って疲れた。しばし休むとしよう】

「剣のくせに疲れるのね」

キィンッ!

「痛っ! いった〜い・・・」

【では、サボることのないようにな】





そして、数十分後・・・・・・・。

「う〜ん・・・・むにゃ・・・秋月さまぁ〜だめですよぉ・・・」

【・・・・・・・】

ギィンッッ!

いつもの数倍の頭痛がして飛び起きる。

「あいたたた・・・何よぉ」

【な〜にが、何よぉ・・・であるか。我が休んでいる間に寝るとは何事だ】

「そうだ、せっかく良い夢見てたのに・・・」

【反省がたらんようだな・・・】

「え〜ん秋月さまぁ〜『問い』が家庭教師みたいでイジメるぅ・・・」

【・・・? そのカテイキョウシとは何だ? いや、とにかくお前だけ怠慢するとは覚悟が足りないようだな】

「だってぇ、ずっと机に向かうと眠くなっちゃうんだもん」

【・・・・・・】

「だ、黙っちゃってどうしたの? もしかして怒ってる・・・?」

【・・・ふむ、確かにそれは一理あるな。ずっと同じところへいて身体を動かさないのもよくはない】

「え・・・あ、でしょ、でしょ!? そうだよね、やっぱり!」

内心怒られてまた頭痛が来るのかと思っていた理緒は、必死に言う。

【これならどうだ? あの妖精たちの訓練の見学をしながら、勉学をする。
 それならば、少しは動けるし戦闘勉強にもなる。眠くもならないだろう】

「そうね、それがいいわ。じゃあ早速いきましょ〜♪」

やっと机から離れられると思い、うれしそうに訓練所へ向かう。



・・・・・・・・・・



・・・・・・・・



・・・・・



――――サーギオス 訓練施設


「ここね・・・」

訓練所についた理緒は、アイシス達を探す。

「ええと・・・・・あれ? あの子達は・・・」

アイシス達を探していると、他にも訓練に来ていたと思われるスピリット達を見つける。

「あなた達も訓練に来てたの?」

「・・・・・・・」

すこし大き目の声を出して声をかけるが何の反応も見せない。

「・・・・・・・」

チラッと理緒の方を見るが何も言わずにそのまま歩いていってしまう。

「あんまり良く聞こえなかったのかな? まあ、それならしょうがないか」



【・・・・・・・】

(あの娘達、アイシス達と同じスピリットなのになんか感じが違った・・・ 何か光を感じないと言うか・・・)



考え事をしながら歩いていると、探し人たちが見つかる。

理緒は先のこともあるが、今は目の前のことに集中しようとしていた。

「・・・うん、これなら眠くならなそうね」

パラリと本を広げ、読んでいるとアイシス達は訓練に没頭している。

「はあ! ったぁ!!」

「・・・っ!」

ガキィン、ダン!

アイシスとラナの激しい攻防が聞こえてくる、すると・・・

「マナよ、爆炎となりて舞え! アポカリプスッ!」


ゴオオオオ!


「わあ! えと、えと・・・マナよ、我に従え。氷となりて、彼の者を動きを封じよ」

「アイスバニッシャーッ!」

その瞬間、フィスの周りに氷の壁が浮かび上がり魔法が打ち消される。

パキィィン!

「へえ〜、ブルースピリットってすごいのね。 魔法が打ち消せることができるなんて」

【たしかに、強力だが・・・・・】



・・・二人が会話をしていると、こんどはラナが魔法を詠唱し始める。

「マナよ、我が求めに応じよ。黒き衝撃となりて敵を打て!」

「ダークインパクトッ!」

「うわ、もう来た! えと・・・アイスバニッシャーッ!」

またもアイシスは同じ魔法を詠唱するが、ブラックスピリットの魔法はとどまらず直撃する。

「いったぁ・・・」

「だ、大丈夫? アイシス!?」

「全く、何度言ったらわかるの? 私の黒スピリットの魔法や、エトランジェ様のような魔法は、
 アイスバニッシャーではとまらないっていつも言ってるでしょ」

「そういう時は、捨て身でもいいから相手に仕掛けて詠唱を中断させるのよ。わかった?」

「うん・・・・・」

「あと、フィスの魔法を封じるときもオドオドしてちゃダメ。もっとすばやく詠唱しなきゃ」

「だって・・・ラナが攻撃を仕掛けてくるから旨く反応できないんだもん・・・」

「戦場で敵が一人なんてことはほとんどないのよ。こういうことにもなれなきゃ」

「まあまあ、ラナもそこまでにしとこうよ。アイシスもよくがんばったんだから」

「・・・そうね、ちょっと焦ってたわ。少し休憩にしましょう」




【・・・・・とまあ、あんな感じに青き妖精も万能ではないと言うことだ】

「うん、勉強になるわね」

いつの間にか『問い』の講義を受けるような形になってしまった。

「今休憩に入ったみたいね。私も参加してみようかしら」

【少しはやる気が出てきたか?】

「まあ、ね」

理緒は立ち上がり、休憩しているみんなに向かって走っていく。



「みんな、訓練ご苦労様」

「あ、リオ」

「リオ様、どうかなさいましたか?」

「いや、よかったらでいいんだけど私も参加させてほしいなって思ってさ」

「別にかまいません。けど、やるからにはちゃんとやってくださいね」

「わかってるって」

そうして、休憩が終わり訓練を再開する。



「じゃあまずは1人ずつ戦ってみるか、誰から行く?」

「なら、私からでいいかな?」

「フィスね、じゃあフィスと私で一対一の戦いをしてみよう。後の二人は・・・」

「俺達は見学とさせてもらうよ。終わったらフィスと誰かが交代でいいか」

「そうね。だったら次は私でいいかしら?」

「別にかまわないぜ」



・・・・・・・・・・



・・・・・・・



・・・・




二人が下がると、こちらも戦いを始める。

「じゃあ、何処からでもかかってきて」

「はい、初めから全力で行きます。手加減は一切いたしません」

「え゙、いや、すこしは手加減を・・・ほら、私まだ慣れてないし!」

「大丈夫です。昨日と同じくらいの力を出せば問題なしです」

「えぅ〜・・・」

シャキン、とフィスが乾いた音を立てて神剣を抜く。

「『問い』・・・ 頼んだわよ、あんな熱そうな炎にまかれたらどうなっちゃうやら・・・」

【だろうな。我の加護がなければ、人間のお前では即死だ】



「即死・・・・・」

【即死とは、即座に死ぬと言う意味だ】


「そんなことはわかってるわよ! 説明せんでもいい!」


「・・・じゃあ、そろそろいきます。 神剣よ、我が求めに応じよ!」

「き、来た! 私も集中しなきゃ・・・!」

「紅き星々となりて降り注げ!」

「スターダストッ!」

空からスターダストが降り注ぎ、理緒を襲う。

「っく! ・・・マナよ、我が声に従え。オーラとなりて、我に迫るモノを反射する力となれっ!」

【まて、それでは・・・!】

「リフレクションッ!」

同時に理緒も魔法を唱え、リフレクションを張るが・・・・・・

ジャキィン、ゴオオォ、ズドドドドド、ドォン!


「あっつぅ・・・いたた・・」

【あの高位の魔法相手ではリフレクションでは無理だ。 ・・・! 理緒、煙幕の上から気配がくるぞ!】

「え・・・?」

ドン、ゴオォ、ギィン!

「私は魔法だけではありませんよ。凌いだからと言って油断しては、死を招きます」

「早い・・・!」

リフレクションのおかげで、なんとかフィスの攻撃を耐えることができたが効果は長くない。

(さっきの魔法が強すぎて、もう魔法効果が切れちゃいそう。どうする・・・)

【聞け、理緒よ】

(こんなときに何? 今は・・・)

【こんな時だからだ。 お前のオーラを自分自身にだけ集中して発動させよ。
 そうすれば、物理、魔法ともに強力な防御効果が期待できる魔法が使えるはずだ】

(自分自身にだけ・・・?)

【そうだ。今お前が使っているのは自分の周りに展開して包み込むように使っているが、自分の身体だけ・・・
 すなわち、身の内からオーラの凝縮させれば無駄なマナを使わずに、すべて防御にまわせる】

(つまり、ヒーリングと逆で回復にすべてのオーラを廻すわけじゃなくて、防にすべて注ぐってことね?)

【その通りだ。急ぐのだな、あの赤き妖精のマナの流れが激しくなってきたぞ】



「リオ様、これで終わりです! ・・・マナよ、炎となりて万物を呑め」

「この距離ならかわせないはず。インフェルノッ!」

効果が切れたその瞬間、近距離で魔法を唱え黒い炎が舞う。

「間に合わせてみせる! ・・・マナよ、我が声を聞け。我に集い、すべてを退ける衣となれっ!」

「いまさら何をしても無駄です!」



「・・・・・プロヴィデンスッ!!」



詠唱が終わると理緒の身体が輝き、発動したインフェルノを弾き飛ばす。

カン、ドォォォン!

「・・・え」

「たあぁぁ!」

ガィン!

一瞬、何がおきたのかわからず戸惑うフィスに対して理緒は追撃を仕掛け、フィスは尻餅をつく。



「きゃうっ!」

「――どうやら、私の勝ちね」

「はぁはぁ・・・・・そうですね、参りました」

「ううん、私もギリギリだったわ。 フィスも強いわね」

「いえ、あの・・・ありがとうございます!」

褒められると顔を赤くして、礼を言う。



「すっごいな、リオってばフィスの最高の魔法を凌ぐなんて!」

戦いが終わったのを見計らってアイシスとラナが近くに来る。

「リオ様、次は私とお手合わせお願いします」

「次はラナね。 じゃあ始めましょう」

フィスとアイシスは元の場所に戻り、二人の動向を伺う。

「あ〜早く俺もリオと戦いたいなぁ」

「ふふ、そうね。アイシスとリオ様ならすごい戦いが見られそう」




「・・・では、早速参ります!」

「来なさい!」

ダンッ!

さっきのフィスとは比べ物にならないスピードで、ラナが距離を詰める。

「・・・居合の太刀!」

「!?」

ザシュッ!

距離を詰めた瞬間に目にも留まらないスピードで居合いを放つ。

(すごい・・・今の攻撃ほとんど見えなかった。ダメージは薄いけど何回も受けたらまずいわね・・・)

「どうしました? リオ様。まだまだこの程度では終わりませんよ!」

素早さを生かし、距離を詰めて攻撃、そして離れると言うヒット&アウェイを繰り返す。

(・・・・・よし、いまだ!)

ザン、ガキィンッ!

乾いた金属音が響き、ラナの神剣を『問い』で受け止める。

「・・・!」

「だいぶ、目が慣れてきたわ。もうその攻撃は通用しない!」

「まさか目を慣らすために私の攻撃を受け続けるとは・・・たいしたものです。なら、これならどうですか?」


「星火燎原の・・・太刀っ!!」

さっきの数段早い速度で迫り、三段撃を繰り出す。

ザン、ザン、ザシュ!

「! くっう・・・!」

攻撃の強さもさっきの攻撃より数段に重い、理緒の『フォトンバリア』が崩れかける。

【あの黒き妖精、相当な実力のようだな。 まだ戦いなれてないお前では少し分が悪いか】

(ねえ、どうしたらあの娘に勝てるかな・・・・・)

【とにかく今の状況は非常に好ましくない。まずはあの攻撃を脱し、短期決戦しかないだろうな】

「やるしかないわね。 ・・・マナよ、我が声を聞け。我に集い、すべてを退ける衣となれっ!」



ジャキン、パキィン!




「さっきのフィスの魔法を弾いた業ね・・・ だけど私は負けない、星火燎原の太刀っ!」

「はぁぁぁ!」

ギィン、ズダン!

ラナの剣を弾きとばし、捨て身のごとく距離を詰める。

「・・・ぐ!」

神剣でラナを飛ばし、勝負をかける。

「まだ終わってないわ! ダークインパクトッ!」

「そんなもの・・・!」

ドォン!

素手で衝撃を受け止め、理緒が『問い』の切っ先をラナに向ける。

「・・・・・・」

「参りました・・・完敗です、リオ様」

「ラナも早くて捕らえるのが大変だったわ。やっぱり、私はまだまだ修行が足りないわね」




「二人とも、実に良い勝負でした」

「ほんと、ラナもすごかったけどリオもあの動きをとらえるなんてすごいよ」

「ありがとう。じゃあ、次はアイシスね」

「あ、そうだ。次は俺だったな。リオ、実りある訓練にしようぜ」

「そうね」

「その前に、リオ様・・・」

「フィス、どうしたの?」

「アイシスと戦い前に治療を行ったほうがよろしいです。この娘との戦いに備えるために」

「そうだな。俺もどうせなら全快のリオと戦いたいし♪」

「わかったわ。 ・・・精霊光、オーラフォトンよ。我の傷をその大いなる力で癒せ」

「ヒーリングッ!」

シャキィン・・・

精霊光が理緒をやさしく包み込み、傷が癒えていく。

「では、リオ様。がんばってくださいね」

「よしやろう、やろう!」



フィスとラナが理緒の横を通りはなれて行こうとすると、フィスが小声で理緒の耳元でささやく。

「アイシスはまだ子供っぽいところがありますが、あの娘は私達の部隊の中で最強クラスの強さを持っています。
 お気をつけて・・・・・・」

「え・・・」

小さくささやくとフィスは離れていく。

【・・・先の黒い妖精も只者ではなかったがあの妖精も相当な実力だ。心してかかれ】

『問い』からの声もアイシスへの言葉だった。

「さてと、俺はいつでもいいよ」

「・・・? アイシスは神剣を持ってないの?」

よく見るとアイシス手には、ラナやフィスのような武器を持っていなかった。

「俺の神剣は・・・ここだ」

そういいながら自分の手の平をプラプラさせる。

「手が神剣・・・?」

「ちがう、俺の神剣はこの手につけているナックル型のものだ」

「ナックルなのに剣っておかしくない?」

「永遠神剣って言うのは、剣がすべてってわけじゃないしな。俺みたいなのもあってもおかしくないだろ」

確かに、前の戦いで槍のようなものも見たような気がする。さらに、アイシスの神剣は戦いやすそうであった。



「へへ、わくわくするな。さっきからドキドキがとまらないよ、じゃあ行くぜ!」

ハイロゥを全快に利用し、理緒に向かって急接近してくる。

(この娘も早い・・・けど、ラナよりは遅いから攻撃も見える!)

ズダァン! ギン・・・!

迫ってきたアイシスの拳を理緒は神剣で受け止める。

(重・・・・い!)



「・・・アイシスは、ブラックスピリット並の速さを持ちながら攻撃の重さはブルー特有の強さを持っている」

「あの娘はとにかく早い、それにつどって攻撃が重いなんて反則ね」

「そして、あの娘の神剣形状のおかげでさらに早い追撃を可能にする」



ズダン、ドン、ダァン、ガキィンッッ!

「っく、ぐぅ・・・なんて攻撃なの・・」

「リオ、反撃しなきゃこのままやられちゃうよ。さあ、もっと俺と戦いをしよう!」

(これがフィスの言っていた、力ってわけか。最強クラスは伊達じゃないと言うこと・・・ね)

【あの青い妖精は恵まれた戦闘の才を持っているようだな。どうするのだ?】

(このままじゃ、状況は悪くなるばかりよ。プロヴィデンスを使って一気にいく!)

【やめておけ】

(どうして?)

【赤き妖精と黒き妖精の戦いのときで力を使いすぎだ。
 今のお前に残っている力だけのオーラでは、あの妖精の攻撃を受けきれはしない】

(そんな・・・でも、このままじゃどの道やられちゃう。だったら、やるしかないでしょ)

【・・・・・試すのもまた一興か。仕方ない、我も力を貸してやろう】

(お願いねっ!)


「アイシス、私は負けない。いくわよ、プロヴィデンスッ!」

ジャキィン!

「そうだよ、そうこなくっちゃ面白くないよな!」

プロヴィデンスが張られた、理緒に向かって一撃を繰り出す。

「ラナとフィスを退けた魔法の力を見せてもらう!」

ズダ、ギィン!

今度は、難なく拳を受け止め弾き返す。

「よし、十分いける! 『問い』、このまま一気に・・・」



クラッ・・・ストン。




勝負を決めようとした時、突然めまいが起き、ひざをついてしまう。

【やはり無理をしすぎたようだな。もう、魔法効果に身体がついていけなくなったか】

「あくっ・・・まさか、ここまで辛いのが来るとは・・・・」

めまいで理緒が苦しんでいると、アイシスが次の攻撃の準備に入る。

「リオ、やっぱりお前と戦えて最高だよ。だったら、俺の最高の力をお前にぶつける」

「マナよ、世界を沈黙させよ。サイレントフィールドッ!」



ゴォォォォォ!



場に静寂がもたらされ、空気がシンとする。

「え・・・どうなってるの? 空気が冷たい、風の音も消えた・・・?」

「リ、リオ様!! 早くそこから離れてください!」

「・・・・?」

意識が朦朧としている中、フィスとラナのあわてる姿が目に映る。

「彼女がサイレントフィールドを使ってしまったわ、今の攻撃受けたらあなたでも・・・!」

「アイシス、やめなさい! そんなことをしたらリオ様が!」


「俺はリオみたいな強いヤツと戦えて今すごく幸せな気分なんだ。 ・・・・じゃまをするな」

まるで人が変わったように、アイシスは二人に向かって殺意を向ける。

「やっぱり・・・アイシスは普段はおとなしいけど戦闘になると興奮して、人が変わったように強くなってしまう。
 だから、早く!」

【たしかに、あの妖精たちの言うとおりのようだな。あの青き妖精の力が尋常ではない、早くしなければ・・・】

理緒はみんなの声はちゃんと聞こえている。だけど、意識は命令を出しているが身体がいうことを聞かない。

「あ、はは・・・身体、動かないや・・・どうしよう」

「リオ。終わりだよ!」

地を蹴って、理緒に向かってきたその時・・・・・・




ガキィィィィ、ズオォン!

黒いコートを羽織った少年が理緒の前に立ち、向かってきたアイシスを赤い剣で受けてふき飛ばす。

「・・・・!?」




「やれやれ・・・・いくら、兵を出してもこないと思っていたらこんなことになっているとは」




「あ、秋月様・・・・!」

「シュン様・・・?」

その正体は秋月瞬。アイシスは片手で弾き飛ばした張本人。

「・・・・っく! 俺とリオの戦いの邪魔をするな」

「ハッ、スピリットがずいぶんといい殺気をだしてるじゃないか。これなら任務も問題なさそうだな」

瞬は『誓い』を掲げると、赤い光が発せられる。



ビイシュゥ!

「!? っあぐ・・・つぅ」

光を受けると、アイシスは頭を抱え苦しみだす。

「! シュン様、何をなさったのですか・・・!?」

「暴走を留めてやろうとしているだけだ。本条、こいつが落ち着いたらそこの三人と一緒に僕のところに来い」

「あ、はい。わかりました・・・」

やることはすんだかのように、瞬はさっさと帰っていってしまう。



「全く、使えないやつらめ。お前らなどに頼った僕が馬鹿だったようだな」

瞬が訓練所を出ようとすると、兵士とおぼしき者が数人震えて理緒たちを見ていた。

そして、ラナとフィスは理緒とアイシスとつれて部屋に戻っていく・・・・



・・・・・・・・




・・・・・・




・・・



――――理緒の部屋


「リオ様、どうですか? 体調のほうはいかがですか」

「・・・うん、すこし休んだらだいぶ良くなったよ。 もう歩けそう」

理緒のつれてこられた部屋の横を見る。

「アイシスはまだ目が覚めてないようね・・・」

「はい、シュン様のおかげであの娘の動きが止まったのはいいのですが・・・」

「秋月様がさっきやったことについてね・・・大丈夫、彼は悪い人じゃないわ」

「そう、ですよね・・・」



「ううん・・・・・」

「! フィス、アイシスが目を覚ましたわ!」

「ほんと!?」

理緒と一緒に目が覚めたアイシスのベッドに向かう。



「アイシス、大丈夫・・・?」

フィスは先ほど赤い光にあてらてたので非常に心配をしている。

「・・・? 別に問題はないよ」

もう起き上がれるくらい元気になったアイシスは心配そうな顔をしている二人の疑問する。

「よかったわ・・・やっぱりなんともないみたいね」

「ええ、本当に良かった・・・」

「ラナ、どうしてみんなこんなに心配しているの?」

自分を看病してくれていたラナに問う。

「さっきまであなたは暴走してリオ様を殺しかけたのよ。覚えてないの?」

「え・・・・・俺がリオを・・・?」

「そうよ、シュン様が来なかったらどうなっていたことか」

「ごめん、リオ・・・・」

「ううん、いいよ。 そういうことは誰にでもあるわよ。 ・・・きっと」

「ねえ・・・アイシス、動けそう?」

「ああ、ぜんぜん大丈夫だよ」

「・・・だったら、とりあえず皇帝の間に向かいましょう」








―――――皇帝の間


「秋月様、遅くなって申し訳ありません。ただいま参りました」

「挨拶はいい。さっさとお前達がつく任務を説明してやる」

「任務ですか・・・?」

「そうだ。お前達の任務は四神剣の一つ、『求め』があるラキオスへの潜入調査だ」

「具体的にはそこへ行って何をするのですか?」

「まずはラキオスの情勢だ、今は小国だが昔は古豪だったらしいからな。
 次は、現在の『求め』の担い手を探せ。こちらのほうがかなり重要だ、失敗は許されないぞ」

「ラキオスまではかなり距離があるが、先の戦いでダーツィ、バーンライトともにこのサーギオスへ賛同した。
 途中で足止めも食らうことはないだろう」

「早速そこの黒スピリットと青スピリットと共に出立しろ。今日中にサーギオス領を出るんだ」

「あの、えっと・・・フィスとは一緒に行かないんですか?」

「ああ、そこのスピリットは別の任につく。この任務の総指揮はお前が取れ」

「・・・彼女達は漆黒の翼遊撃部隊のスピリット達とききましたが私が隊長をやってもいいのでしょうか?」

「あいつには現在、別任を行っている。この先会うこともあるだろう。
 さあ、話は終わりだ。さっさと行くんだな」

「ハッ。では、失礼します」

「そうだ、言い忘れたがお前もここの戦士の服を着ていけ。そのままだとまた何が起こるかわからんからな」

「わかりました」



・・・・・・・・



・・・・・



・・・




部屋に戻った理緒は、言われたとおり長めの黒いコートを制服の上から着て出る。



「・・・別行動になっちゃったね」

「仕方ありません。 このサーギオスではそんなことは当然です、どうかお気をつけて」

「フィスも頑張ってね」

フィスに別れを告げて、三人は館を出る。

「今日中にサーギオス領を出て、ええと、そのあとは・・・」

「賛同国、ダーツィの街ケムセラウトで休むことになりそうね」

「そうだな。よし、じゃあ行こう」

初任務に就いた理緒は法王の壁を抜け、ケムセラウトに向かうのだった。







この先『求め』の主に会うとはまだ思ってもいなかっただろう・・・・・・・







第四話〜潜入任務〜 終わり




⇒第五話〜分かれ目〜





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