≪この世界と銀河と宇宙と・・・≫
第三話〜戦場〜
――――ゼィギオス街内
「ここね・・・」
瞬と別れて、大急ぎで到着した理緒は辺りを見回す。
「・・・あれ? 思ったより人がいっぱい入るし騒ぎにもなってない・・?」
街並みは見たときには好き勝手に遊んでいる平和そうな風景。とても戦いが起こっているようには見えなかった。
(いや、油断しちゃダメ。きっとこの辺りはまだ戦いが始まっていることに気づいてないのかも・・・)
サーギオスほどではないが、大きな街なのでまだ知れ渡ってないと理緒は思った。
【理緒よ】
「わぁ! 急に声かけないでよ。びっくりするでしょ」
【お前の諸事情など、どうでもいい。ストラロの方角に神剣の気配がする。早く行くのだ】
「す、すとらろの方角ってどっち・・・?」
【こっちだ・・・!】
『問い』は少し怒ったように音が響き、方角を示してくれた。
「えっと・・・10時の方向ね。わかったわ」
神剣の力が使われているのか、身体がさっきとは違い嘘のように速く走れる。
(すごいっ! さっきとは大違い!)
【当然だ。 大体戦うと言っておきながら力を使おうとしないなんぞ、お前は馬鹿か?】
「バカとはなによっ! そりゃ確かに私はバカかもしれないけど・・・」
【ならばなぜ反論する?】
『問い』はからかうように理緒へ聞く。
「あなたに言われると、なんかムカツク・・・」
【・・・・・フッ。それも一興のうちだ】
理緒は走っていると町の人々の様子がおかしいことに気がついた。
(みんな私を見てる・・・なんで?)
【・・・それはだな】
「わかったっ!」
【わ、わかったのか・・・?】
理緒に向かって『問い』が教えようとしたら、突然確信した顔になる。
「みんな私の華麗なる走りに魅入っているのね。そうかぁ、それなら仕方ないなぁ」
【・・・・・・・】
「どうしたの? だまりこんじゃって」
【・・・お前は本当にバカのアホ女だ。前の使い手もボケていたが、お前ほどではなかったぞ】
「なっ、アホまでつけなくたっていいでしょ!! だったら理由は何なのよ?」
【周囲の者どもは、お前がこの国の戦う戦士だからだろうな。そしてそれはお前に恐怖しているということ】
「なんで・・・? 国のために戦っているのにどうして怖がられなくちゃいけないの?」
【呼び出された異世界の者、すなわちエトランジェは妖精達と同様に戦える力がある。
そして、その力は妖精たちをはるかに超えている。 それに恐怖しない人間などいないだろう】
「そんな・・・」
【だから我ははじめに聞いたのだ、あの問いの答え次第ではお前に力を与えるつもりはなかった。
力さえ持たなければいずれ、恐怖されることもなくなる・・・・・】
「あなたはそこまで知っていて・・・ 私を思って力をくれたのね」
【別にお前のためなどではない。ただ、前の使い手のようになってほしくないだけだ】
「・・・うん、ありがとう」
【それに、そんなことになってしまっては我の・・・・・】
「? 何か言った?」
【・・・・・いや、何でもない。 そんなことより神剣の気配が間近に近づいたぞ、そろそろ戦闘の準備をしろっ!】
「・・・? わかったわ」
・・・・・・・・
・・・・・
・・・
「どういうこと・・・? これって・・・」
気配にたどり着いてみると、さまざまな武器を持った少女達が戦っていた。
「っく・・・やぁぁぁ!」
「・・・! そこっ!」
ガキン、キン、ズドォン、ゴオオォォォ・・・・!
青、緑、赤、黒と色鮮やかな少女達は炎にまかれたり、剣や槍などで切りあったりしている。
「これが・・・戦場・・・・・」
【初めての戦いに直面してもう怖気づいたか?】
「そんな・・・こと、ない・・・」
いつもの元気な理緒の声がしおれていく。
しかし、その時とんでもない出来事を見ることになる。
「!! きゃあっ!」
ドサッ
一人の赤い髪の少女が、いち早く逃げようとしている住民のところへ弾き飛ばされてしまう。
「な、なんだっ! スピリットの分際で人間に近寄ってんじゃねえよ。 お前達はただの戦争の道具なんだ!
こんなところで倒れこんでないで、あいつらを倒せよ!!」
「そうだ、そうだっ! さっさと戻って道具は道具らしく戦ってろよ!」
「!!」
街のために命を懸けて戦っていた、少女に向かって住民達は下劣な言葉を吐く。
(言葉がわかる・・・これも神剣の力なの? いえ、今はそんなことより・・・)
「どうして・・・許せない、あんなに小さな娘が必死で戦っているのにあんなことを言うなんて!!」
【まて。何をするつもりだ、お前は早く敵を倒すんじゃなかったのか?】
許せない状況に駆られて、『問い』の声にも耳を貸さない。
「あなた達っ! 何をしているの!!」
「な、何だお前は!?」
いつの間にか言葉を理解できて、その言葉も話せるようになっていた理緒はへ以前と言葉を続ける。
「あなたこそ誰よっ! それよりあなた達、この娘に謝りなさい。
自分達のために戦ってくれてるのにどうしてそんなことが言えるの!?」
「何だと!? スピリットに人間のために戦ってる兵器さ、なのになんでそんなやつらに謝らなくちゃいけない?」
「全くだ、人のために戦って、人のために死ぬ。それが定めなんだよ!」
(スピリットって・・・まさかこの子達の事!?)
そう聞かされて瞬の言葉を思い出す。
『簡単に言えば戦争の道具だ。 そう覚えておけ』
(戦争の道具って聞いたからもっと道具みたいなのかと思ったけど、まるっきり普通の女の子じゃない・・・)
「おい、こんなのにかかわってたら命がいくつあっても足りない。早く行こうぜ」
「そうだな・・・行こう」
住民は消沈する理緒を置いてそのまま走り出してしまう。
「・・・・・・」
「あ、あの・・・」
「・・・え?」
赤い髪の少女は理緒に遠慮気味に声をかけてくる。
「どなたかは知りませんが、私を助けてくれたのことにはお礼を言います。ありがとうございます」
「気にしないで・・・私が許せなかっただけだから」
「助けてもらったことには礼を言いますが、私達スピリットは住民の方々の言うとおり、戦うための存在です。
だからこの命が尽きるまで人のために戦うのです」
「そんなの、悲しすぎるよ・・・・・」
ズゴオオオォォォォンッッ!
「!!」
「今の音は!?」
スピリットの存在の意味に哀しんでいると、また轟音がする。
【理緒、哀しんでいる暇などありはしないぞ。妖精たちのことなどほおっておけ】
「『問い』あなたにはわからないわ・・・自分の存在を否定され、それが運命だといわれた者の気持ちなんて・・・」
【・・・・・・・】
【そのことについて我はわからないわけではない・・・
だからと言って戦える力があるのにこのまま何もせず殺されてやるのか?】
「そんなことはさせないっ! 誰も死なせたりしないわ、だから私はあなたに護る力を欲した!」
【そうであったな。では、妖精達と協力してこの場を生き延びて見ろ】
「ねえ、あなたの名前は?」
「? 名前ですか・・・?」
突然、名を聞かれ少し戸惑う少女。
「・・・私は、フィス・レッドスピリットです」
「わかったわ。フィス、私はね、戦うためにこの戦場へと来たの」
「戦うために? ・・・と言うことはあなたがシュン様とともに現れたエトランジェ様?」
「そういうことになるわね。みんなを護るために私も協力したいの、だから今の戦況を教えて!」
「・・・わかりました、そういうことなら」
「今、このゼィギオスには多数の部隊が来ています。おそらくここにきているのが本隊と思われます。
ただ、この辺り一帯には戦力が残っておらず、ダーツィ程度の国の兵にも苦戦を強いっています」
「時間の稼いで少しの間持ちこたえていれば、前線に出ている隊長と、何部隊かが戻ってくるはずです」
「じゃあそれまでの間はここを徹底防衛ってことね」
「はい、今戦っているのは二人だけなので急ぎましょう。彼女達も相当な腕ですが、数が多いもので・・・」
「わかったわ、行きましょうっ!」
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
完全に戦場に入った理緒たちは傷ついた一人の少女を見つける。
「ラナッ! 大丈夫!?」
「フィス、あなたこそ平気なの・・・? さっき弾き飛ばされてからなかなか戻ってこないから心配したのよ・・・」
「大丈夫、私は平気。それより戦力が増えたわ。えと・・・・・」
「あ、私の名前は本条理緒。理緒でいいわ」
「・・・と、シュン様とともに現れたリオ様が加勢に来てくれたわ」
「シュン様とともに・・・エトランジェ・・・ね」
ラナと呼ばれた黒い髪の少女は、ちらりと理緒のほうを見る。
「私はラナ・ブラックスピリット。よろしくお願いします、それと・・・・・
リオ様、一緒に戦ってくださるのは大変結構ですが、足手まといにはならないようお願いします」
「・・・・・・」
「ラナ、リオ様に向かって失礼なこといっちゃダメだよ!」
「いいの。私はこれが初陣なんだし、本当に足手まといにならないように注意するようにするわ」
「・・・フィス、話なんかしている時間はないわ。また敵の部隊が2つほどこっちにきている」
「2部隊か・・・そうだ、アイシスはどうしたの・・・?」
「あの娘は、別のところで1部隊相手にしているわ。
私がこちらの様子を心配していたから先にいかせて、今は一人で戦ってるみたい」
それを聞いた理緒は、黙っていたが言葉を言う。
「なら早く、助けに行かなくちゃっ!」
「もう敵部隊は限界近くだったわ、それにあの娘なら十分戦える。
だから私にも行かせたのよ、それくらいわかって当然だと思いますが?」
「・・・・そう、だよね」
二人の険悪な会話をしていると2部隊が三人へ向かってくる。
「・・・! きたみたいね。フィス、後方で魔法をお願い!」
そう言うと、ラナは傷ついた身体で2部隊へ向かって走り出す。
「まってラナッ! その身体じゃ、2部隊は無理よ!」
フィスの声も届かず、ブラックスピリットの持ち前の速さを生かして、攻撃をかわしつつ敵を迎撃する。
「もう、しょうがないわ。早く魔法を・・・!」
フィスが魔法を唱えようとした時、
「どうしてなの・・・・・・」
「・・・?」
フィスは急に隣で小声で言葉を言う理緒に対して、疑問する。
「どうしてそうやって自分を犠牲してまで戦うの? なんでなのよ・・・!」
「どういうこと・・・ですか?」
「あのラナって娘は私にも気をつかってあんなに必死で戦っている。ついさっき会ったばかりの私のために・・・」
「そんなのスピリットの役目だからです。他意はありません」
「役目・・・? そんなくだらない理由で命を捨てるって言うなら私は許さない! 絶対に死なせたりしない。
必ず守って、それでその後ひっぱたいてやるんだから!!」
ジャキィン、シュゥゥゥ・・・
「!!」
感情が高ぶってオーラフォトンが漏れ出すように理緒の周囲へあふれてくる。
「待っていなさいよ、ラナッッ!」
そう叫ぶと、理緒も敵部隊に向かって走っていく。
「はぁ、はぁ・・・・!」
「随分と体力を減らしてしまったようだな。サーギオスの兵といえど、所詮数がものを言うのだっ!」
そう言って、敵のブルースピリットの神剣がラナで振り下ろされようとしていた。
(この傷じゃ回避しきれない・・・! ここまでなの・・・?)
あきらめかけたその時、
「マナよ、我が声に従え。オーラとなりて、彼の者に迫るモノを反射する力となれっ!」
「リフレクションッ!」
バシュウゥゥゥゥ・・・
ラナの足元に星型のサークルが展開され、ブルースピリットの剣を弾き返す。
「何、この力は!?」
「・・・リオ様!?」
「あなた、勝手に一人で死のうとするなんて許さないわ!」
「何言ってるの! あなたは足手まといよ、早くここから下がってください!」
「うるさいっ! そんなボロボロの身体でえらそうなこと言わないで!!」
「私一人で平気だといっているんだ。早く・・」
ラナは言葉を言いかけた瞬間に理緒は間髪いれず言う。
「あなたは死なせやしない。護りきって、一発ひっぱたくまで絶対死なせないんだからっ!!」
「・・・!」
ラナの前まで走ってきて、守るように剣を構えラナの様子を見る。
(さっきの魔法を使ったら、傷か少し癒えている・・・これって)
【それはオーラの力だ、先にお前が使った魔法は精霊光。 つまりオーラフォトン利用した魔法だから、
少しばかりの傷なら癒せる力がある、だがあの妖精の受けている傷はそんな生易しいものではなかったようだな】
少しは回復したはずなのにラナはまだ苦しそうに肩で息をしている。
「・・・そうなんだ、じゃあ『問い』。いくわよっ!」
黒い刀身が眩い光を放ち、理緒は部隊へ突進する。
「何者か知らぬが、我らを甘く見るな! いくぞっ!」
ガィン、キィンッ!!
相手は六人だが幸い、いるスピリットは青と緑だけなのでどうにか相手ができる。
「すごい・・・2部隊を相手に一人で立ち向かうなんて・・・」
そうしていると、ラナは自分の後方で膨大なマナが集中していくのを感じ取る。
(これは、フィスの神剣魔法が来るっ!?)
「リオ様、離れてください! フィスの『アポカリプス』が来ますっ!」
「・・・・・かまわないわ、このまま食い止めてる」
「な、何を言ってるんですか! そのままじゃあなたが・・・」
・・・ゴォォォ、ズドドゴオォォォォッッ!!
理緒が残ったまま怒り狂う爆炎が敵部隊すべてを包み込む。
「リ、リオ様・・・・」
「フィス! どうして・・・リオ様がいるのに躊躇なく!?」
そのままの感情を後ろにいるフィスへぶつける。 その時・・・
「・・・私がどうかしたって?」
「え・・・?」
煙幕が消えていくと敵は全滅し、リオはその中心へ平然と立っている。
そして、その足元には、自分の足元と同じように星型のサークルがあった。
「リオ様に命じられていたの。 大丈夫だからそのままおっきい魔法ぶち込んじゃってって・・・」
「えへへ、ラナったら私のこと心配なんかしてくれちゃったの?」
悪戯っぽくラナに、くすくすわらいかける理緒。
「べ、別にそんなんじゃありません!」
ラナは恥かししそうにそのまま後ろへむいてしまう。
「へぇ〜、ふぅん、そうなんだぁ」
「いけませんかっ!? 心配したら?」
顔を赤くして振り向いたその時、
「・・・・ううん、すっごくうれしい。敵部隊に突進したのだってほんとは私のこと心配してくれたからなんだよね」
ギュッと前から抱きしめる。
「!!!」
「本当にありがとう」
抱きしめて少し頭をなでた後、身体を離す。
「・・・ねえ、アイシスって娘はもう戦いが終わったのかしら?」
「あ、はい。 もうこっちに向かってると思います・・・」
「そっか。 でも、フィスの話だとここに本隊がきてるって言うなら油断はできないわ、警戒を怠らないでね」
「・・・はい!」
「わかりました」
テキパキと考えをまとめていく理緒に二人はすこし呆ける。
(リオ様、初めて会ったときとぜんぜん感じが違う・・・ちょっと格好いい)
フィスはあまり頼りないと内心思っていたが、今は尊敬さえ感じるようになっていた。
「よし、今はこの辺りに神剣の気配はないし、その娘が戻ってくるまであなた達の身体を何とかしましょう」
「私達の身体・・・?」
ラナは、フィスと自分の身体を見回してたくさん傷があるのに気づく。
「よくもまあ、そんな身体で戦っていられたわね」
「これはいつものことですから・・・」
「そうです、リオ様。 お構いなく」
「そうはいかないわ。 いやっていっても癒しちゃいます♪」
迷惑かけまいと遠慮する二人に対して、理緒は楽しそうに近づく。
「じゃあ動かないで。 『問い』、力を貸してね」
【何をするつもりだ?】
「いいからいいから。 ・・・・・精霊光、オーラフォトンよ。彼の者達の傷をその大いなる力で癒せ」
「ヒーリングッ!」
シャラン・・・!
剣が光を放ち、二人の傷が少しづつ癒えていく。
「・・・! すごい、グリーンスピリットの魔法でもないのに傷を癒せるなんて・・・」
「どう? これでだいぶ楽になったでしょ」
「まあ、楽にはなったけどこんなことじゃ私はまだあなたを信用するわけじゃありません」
ラナはわざと憎まれ言葉を言う。
「・・・別にかまわない、信頼なんてそんなものよ。そのうちわかってくれればかまわないわ」
理緒はそれにめげず笑顔で答える。
「リオ様、ラナ、アイシスの気配を感じます。あと少しなので待ちましょう」
「わかったわ」
「ええ」
【まさかオーラをあんな形で使うとは思いもよらなかったぞ。
能力自体を高める効果を消して、傷を癒す力にすべてを注ぐとはな】
「さっき傷が癒えたのを応用してみたの。私にはこのほうが性にあってそうだしね」
【フフッ・・どうやら我はお前といて退屈しないですみそうだ。 ・・・理緒よ、気配が到着したようだぞ】
・・・青い短髪の子が家影から羽?を広げなら飛んでくる。 すると、理緒は目が点になった。
「え・・・・・あの子?」
思わず、フィスに聞いてしまう。
「はい。そうですけど、どうかしましたか?」
「アイシス! そっちはもう終わった?」
ラナが青い瞳の子を声をかけて呼ぶ。
「ああ、こっちはもう終わったよ。でも、そっちにも2部隊いたはずなのに俺より早いってすごいな。
流石、ラナとフィスだよ」
「アイシス、違うの。 私達だけじゃなくってこのエトランジェのリオ様がいたおかげなの」
「エトランジェ・・・リオ様ってもしかして・・?」
「や、やっぱり・・・ あなたあの時、私を秋月さんの所へ連れてってくれた子よね?」
「・・・やっぱりそうだったのか、どうりで聞いたことがあるし見覚えがあると思った」
「何? 二人はもう顔見知りだったの?」
「別に顔見知りってわけじゃないんだけど、ちょっとした知り合いかな。
おっと、自己紹介が遅れた。俺はアイシス。アイシス・ブルースピリット、よろしく頼む」
「あ、うん! ご丁寧に・・・・・・って、そんなことより、もっと重大なことがっ!!」
急に声を張り上げる理緒に対して三人は相当に驚く。
「あなたはアイシス。『娘』なのよね?」
「それがどうかしたか?」
「ええぇ〜・・・はじめてみた時から今までずっと男の子かと思ってた・・・・」
「と、いうかスピリットは元々女性しかいないわ。わからないほうがおかしいでしょう」
ラナから厳しい突込みが来る。
「まあしょうがないかもしれないな。俺はこんなしゃべりかただし、余計そう思ったんだろ」
「ごめん! ほんとにごめんね!」
「それでもやっぱり失礼よ。アイシスだってささやかなだけどちゃんと胸もあるでしょ」
そういいながらラナはアイシスの胸をふにふに触る。
「キャッ! く、くすぐったいだろ。それに『ささやか』で悪かったな、ラナだって負けてないだろ!」
「何ですって! 貧乳振りならあなたのほうが数段上よ!」
「まあまあ二人とも、そんな低レベルの争いは見苦しいからやめなさいって」
フィスが見ていられなくなったのか、口を挟んでとめる。
「低レベル・・・」
「っく・・・」
二人はフィスの背は三人の中で一番小さいのに一番大きな胸を見ながらため息をつく。
「あっはは♪ みんな仲がいいのね」
理緒にとってすごくほほえましい光景だった。
【理緒よ、楽しそうにしているところ水をさして悪いが・・・】
「何?」
様子見て気遣っていてくれてたのか、遠慮気味に声をかける。
【こちらに向かってきている数本の神剣の気配が感じる。だが敵意はないようだ】
「・・・と言うことは、フィスのいっていた隊長さんと他部隊かしら?」
「どうかしたんですか?」
『問い』との会話を聞かれていたようでフィスが声をかけてくる。
「こっちにきてる気配がいくつかあるんだけど、敵意はないみたいだから言っていた隊長さんかなってね」
「んむ・・・たしかにこの気配は、隊長のもの。二人とも、戻ってくるみたいだからそろそろやめといたほうがいいわ」
気がつくと、また二人で言い合いをしているのが見える。
「あの二人は仲がいいわね」
「はい、私もそれがうれしい限りです」
フィスは背丈は一番小さくて、ひ弱そうなのに根はしっかりしているようだ。
【・・・来たようだな。どうやら『誓い』の担い手も一緒らしい】
『問い』の声が聞こえると同時に瞬とともに蒼白い髪の娘とその他の部隊と思われるスピリットたちがやってきた。
「ウルカ隊長。どうにか持ちこたえてみました」
フィスが蒼白い髪の少女に報告をする。
「アイシス、ラナ、フィス。たった三人でよく耐えてくれました」
「はい。ですが、リオ様が来てくださらなければ、無理だったかもしれません」
「リオ様・・・そうか、あなたがシュン殿と共にエトランジェ殿ですね。
手前は、ウルカ・ブラックスピリットと申します。リオ殿、よろしくお願いいたします」
「あ、はい! こちらこそ・・・」
理緒は独特のしゃべり方で、挨拶を交わされあわてて返事をする。
「・・・敵は全滅した。 さっさと戻るぞ」
隣でつまらなそうな顔をしてた瞬は、サーギオスに向かって歩き出す。
理緒たちもそれに続いて、歩き出す。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
サーギオスに戻った直後、スピリット達は人とは隔離されるように建っている、自分達の住居へ向かう。
「じゃ、リオ。またな!」
「うん、またね・・・・・」
アイシスが笑顔で手を振りながら帰っていった。
「・・・・・・」
理緒はスピリットと人間のどこに違いがあるのかと思いながら王宮へ入っていった。
「初陣の戦いはよくやってくれたな。流石、僕のために戦ってくれると言っただけはある」
王宮に入って、皇帝の間で理緒は瞬と対話をしている。
「・・・さて、急だったのでまだお前の住む場所は決まってなかったな。
どこか希望するところがあったら僕が何とかしてやろう。活躍した褒美だ」
「・・・・・・」
「どうした? 早く答えるんだな」
「でしたら、スピリット達が住んでいる館をお願いします。いいでしょうか?」
「随分と物好きなことだ。スピリットと同じ住居を進んで選ぶとはな」
「・・・彼女達は私達と同じ存在です。 だから私は進んで選びました」
「それをもし僕が却下したら、お前はどうする・・・?」
瞬は真っ直ぐな目で理緒を見る。
「そのときは・・・秋月さんの命であるのならやめます」
「・・・・・・ふっ。まあ、お前の住むところなど僕にとってはどうでもいいことだ。お前の好きにしろ」
「ありがとうございます」
「それと、お前も僕に敬語で話すのなら名の後につけるのは『様』にしろ。ここでは全員がそうだ」
「わかりました。秋月様の仰せのままに」
その後、瞬に一礼をして理緒は皇帝の間を後にする。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
・・・そして、スピリットの館についた理緒は静かにノックをする。
コンコンッ
「あれ、誰だ? こんな時間に・・・」
奥からは聞き覚えのあるしゃべり方、アイシスの声が聞こえてくる。
「あ、リオじゃないか! どうしたんだ、ここに用でもあるのか?」
扉を開けて正体が理緒としったアイシスはうれしそうな顔をする。
「えっと・・・私、今日からここにお世話になることになったんだ。よろしくねアイシス」
「お世話になるって、ここに住むってこと?」
「うん、ダメかな?」
意外そうな顔をしているアイシスに理緒は少し不安が出る。
「ううん、ぜんぜん大丈夫だよ。ここって俺を入れて三人しかいないけどかなり広いしさ。ただ・・・」
「ただ?」
「スピリットと人間が一緒に住んでいいのかなってちょっと心配になっちゃったから・・・」
「! そう・・・」
(こんな小さな娘まで・・・いったいスピリットが何をしたと言うの?)
アイシスにつれらて、中に入ったらちょうどフィスが二階の部屋から出てきた。
「リオ様!? どうしてこちらへ?」
「えっと、その・・・」
「リオもここに住むことにしたんだってさ、よかったなフィス」
「よくないわ、人間とスピリットが一緒に住むなんて。そんなの人間の皆様に許してもらえるわけが・・・」
「・・・・・・・」
(フィスもすごくいい娘だけど・・・人間とスピリットの関係にすごく敏感・・・)
「フィス、いいのよ。私が秋月様に許可をもらったから、あなたが心配することはないわ」
「ですが・・・」
少し場の空気が重くなったとき、アイシスが話す。
「でも、リオがきてくれてすごく嬉しいぞ。フィスも、ずっとリオのことばっかり考えてたし」
「な、アイシス!」
「へえ、それは嬉しいわね」
「〜〜〜〜っ!」
フィスは顔を赤面させる、赤い髪の色をしているのでわかりにくいが。
「そういえば、ラナはどこにいるの?」
「ラナは・・・」
「私がどうかしたの?」
「わぁ!?」
急に後ろからラナが現れて、びっくりする。
「全く、誰かがきたおかげで騒がしくて訓練に集中できないわ」
「またまたぁ〜その誰かに会いたくてラナもきたんだろ。俺と同じくらい楽しみにしてたもんな。
部屋にいると落ち着けないから訓練を無理やりやってたんだろ♪」
「な、何でこの私がこんなお人のために平静を忘れなくてはいけませんの!?」
「ラナ、なんか言葉が変だぞ」
「わ、私は部屋に戻る!」
「私も、夕食の準備でもするわ・・・」
ラナとフィスはそそくさに、部屋に戻ったり台所へ向かったりする。
「・・・と、まあみんな歓迎してくれてるみたいだから気兼ねなくやろうな」
「そうみたいね」
「じゃあ俺もフィスの手伝いに行って来るから、好きな部屋を使って休んでてくれ」
「わかったわ・・・」
アイシスがいなくなった後に二階へあがり、開いている部屋に行く。
・・・・・・・・
・・・・・
・・・
「ふぅ・・・・・・」
ガチャンと、部屋の鍵を閉めて理緒は一息つく。
「意外と広いわね。 ・・・今日は疲れたな」
【だいぶ疲労が溜まっているようだな】
「うん、まあね・・・そうだ『問い』、いろいろあって聞けなかったけどちゃんと私の質問に答えてもらうわよ」
【いいだろう、だが今日はやめておけ。そんな状態で聞いても頭に入らないだろう】
「え、何言って・・・?」
自分に身体の様子を見てみると、足がガクガク震えてすぐに耐えられなくなりペタンとへたり込んでしまう。
「あ、あれ・・・? 立てない・・・どうしてだろう・・・」
【・・・本当はわかっているだろう?】
『問い』の言うとおり、身体はわかっていた。
初めての戦いの恐怖、いつ殺されるかもしれないと心では思いながら戦っていたのだ。
(あはは・・・今頃になって感じるなんてね。そうだ、私が通り抜けてきたのは戦場。
いつ殺されたっておかしくない、実際あの時魔法にまかれたときだって死ぬほどの恐怖を味わった)
そうして、震える足を何とか立たせてベッドへ倒れこむ。
「・・・・・・・」
そのまま理緒は深い眠りに落ちてしまうのだった・・・・・・
第三話〜戦場〜 終わり
⇒第四話〜潜入任務〜