序章
異動・契約
PM 12:10学校
昼間の学校の職員室、そこで一人の生徒と一人の教師が話し合っていた。
「本当にやめるのか」
「はい、もう決めたことですから」
これはただの儀式。
「そうか、残念だよ」
「では、そう言うことで」
これはただの通過儀礼。
「ああ、元気でな」
そこで会話は終了し生徒は先生に一礼をしたあと教室を出た。
「全く、めんどくさい」
生徒、透はそんなことを呟きながら歩いていく。
先ほどの会話は学校をやめることの話だった。
やめる理由は「学校に通ってる意味がない」というものだ。
もともと大してやる気はなく楽しければいいなぐらいの気持ちで入ったのだからある意味当然の結果だ。
“まあどうでも良いか”
そんなことを考えながら一人歩いていく。
しばらく歩いて目的の教室までくると授業中であるにもかかわらず堂々と中に入った。
教室中の視線が集まるがそんなことは気にせずに歩いていき一人の生徒の前で立ち止まる。
「龍一、弁当」
そう言って生徒、龍一の前に弁当を差し出した。
「・・・ん」
龍一は当然のようにそれを受け取り、透は用が済んだので出て行こうとして扉の前まで行くと立ち止まった。
「先生、授業中すいませんでした」
それだけ言って教室を出た。
教室はしばらく静寂に包まれたが、やがて何事もなかったように授業が再開された。
「さてと、帰るか」
透はそう呟きながら学校を出た。
PM 12:50 学校
「草薙、誰だったんだあいつ」
授業が終わると同時に龍一にそんなことを聞いてくる人物がいた。
「・・・透だが、それがどうかしたか、碧光陰」
龍一の数少ない友人である光陰だ。
「なるほど、あれが噂のお前の同居人か。噂に違わぬマイペース&ラヴラヴっぷりだな」
「・・・用はそれだけか」
「何だ、相変わらず反応が冷たいな、ちょっとした冗談だ」
「・・・で、本当の用は何だ」
「はぁ、相変わらず鋭いな。なに、ただ弁当に誘おうと思ってな」
「・・・断る理由はないな。で、どこで高嶺悠人と岬今日子とお前と一緒に弁当を食べるんだ?」
「あんたそれ鋭すぎっ」
突然、龍一の後頭部めがけて誰かがハリセンを振り下ろした。
しかし、そのハリセンは軽い音と共に龍一に受け止められた。
「・・・別に鋭くはない。お前らの仲がいいことは俺でも知っている、岬今日子」
龍一はハリセンから手を離しながらそのハリセンの持ち主、岬 今日子にそう言った。
「こいつ、出来る・・・じゃなくて、えっと・・・・食べる場所はそこだから」
今日子はそう言って教室の一角を指さした。
そこには弁当を広げた悠人とその妹である佳織、その友達の小鳥がいた。
「・・・二人ほど足りなかったか・・・」
龍一はそれだけ言うと弁当を持ってその場所へ向かった。
「え、あ、ちょっと」
今日子はそれを慌てて追っていき、光陰は肩をすくめながらそれに続いた。
昼食を食べ始めてから数分後
「ところで透とやらはなんであんな時間に弁当渡しに来たんだ?」
今までの話に一段落付いたところで悠人は尋ねた。
「・・・学校の退学手続きしたついでだ」
「退学手続きって・・・あいつ学校やめるのか?」
「・・・『やめた』の間違いだ」
「あのぉ、先輩たちはいったい何の話をしてるんですか」
先ほどの出来事を知らない小鳥は今の会話がなんなのかわかっていなかった。
「ああ、それはね、かくかくしかじかで、かくかくしかじかな事があったのよ」
今日子は先ほどの出来事を下級生二人に簡潔に説明にした。
「そんなことがあったんだ。でもすごいですねその人、授業中の教室に堂々と入るなんて、ね、小鳥」
しかし、小鳥は佳織の言葉に答えなかった。
「透・・・もしかして影山透って名前ですか」
「知ってるの?」
「佳織、あんたまさか知らないの!あの影山先輩を!!」
「あの影山先輩ってなに?」
「えぇっ、岬先輩も知らないんですか!!まさか悠人先輩や碧先輩もってことは・・・」
その問いに対して悠人と光陰は首を横に振った。
「俺も聞いたことないぞ、小鳥」
「少しは噂を聞いたことがあるが小鳥ちゃんが大騒ぎするような事は聞いたこと無いな」
「・・・さすがに・・・えっと、く・・草・・・薙でしたっけ・・・草薙先輩は知ってますよね?」
しかし小鳥の問いに対して龍一は首を横に振った。
「・・・俺は人聞きではなく自分で見て判断するタイプだ」
その答えを聞き小鳥は愕然とした表情をした。
「そんな、そんな・・・何でみんな知らないんですか!影山先輩と言ったらものすごく有名なんですよ」
「えっと・・・小鳥、どんな風に有名なんだ」
「えっとですね、まずこの学校の入試のときに全教科満点だったという噂があります」
「・・・全教科・・・満点?」(悠人)
「・・・あいつは入試の点数など聞きに行ってないから知らん」(龍一)
「他にも最初の運動能力測定のとき、いろんなやつで世界記録一歩手前の記録をたたき出したとか」
「世界・・・記録?」(今日子)
「・・・部活の勧誘がうるさそうだったな」(龍一)
「全国統一模試でも満点を取ったとか」
「・・・全国一位ってことだろ、それは」(光陰)
「・・・一年生の時はずっと満点とってたな」(龍一)
「家庭科の実習の時に先生を驚愕させるような出来の料理を作ったとか」
「料理上手なんですか」(佳織)
「・・・これはそいつの弁当だが食ってみるか?」(龍一)
「他にも龍一っていう先輩と同居しているとか、その先輩とのホモ疑惑とか」
「・・・前者は肯定するが後者は否定だ」(龍一)
「他にも・・・ってなんで草薙先輩が知ってるんですか」
この言葉を聞いて小鳥を除いた全員が呆れた。
「小鳥、ちゃんと草薙先輩の名前聞いてた?」
「えっと、草薙龍一でしょ・・・龍一!ってことは草薙先輩が影山先輩と同居していて、その彼氏という」
初めてとはいえ、一緒に食事を取る人の名前を覚えていなかったらしい。
というか、龍一と透に何らかの関係があることは話の始まりを考えればわかることである。
「・・・同居は肯定するが透とは親友であって恋人ではない」
「・・・そ、そうですか・・・それよりも先輩も結構有名だって知ってました?」
「・・・知らん」
特に興味もないので素っ気なく応じる龍一に変わり、今日子が尋ねた。
「どんな噂があるの?」(今日子)
「それが・・・ほとんど内容が影山先輩と一緒なんです」
「といってるが真実はどうなんだ?」(光陰)
「・・・ホモ疑惑以外だけは確実に間違っている。それ以外は知らん」
特に何の表情も浮かべずに答える。
「噂通りクールですね。かっこいい人コンテストで上位にはいるだけのことはありますね」
「なんだそれは」(悠人)
「女子の間で勝手にやってるコンテストです。この学校で誰がかっこいいか女子で投票するんです。男子の間で勝手にやってるミスコンみたいな物ですよ」
何故小鳥が、男子しか知らないはずのミスコンについて知っているのかは不明だが、この際そんなことどうでもいい。
「えっとですね、詳しく言いますと・・・」
この後昼休みの間、他愛のない雑談が続いた。
PM 5:30自宅道場
龍一は学校が終わるとすぐに家に帰りそのまま道場の方にやってきた。
薄暗い道場の中で何かを振り回す音がする。
音がするたびに銀色の線がはしる。
道場の中には透がいた。
透の両手には2メートル以上の大鎌が握られており、それが一閃されるたびに銀色の線がはしっている。
龍一は無言で道場に入り鞄を隅に置いて上着を脱いだ。
透は龍一が入ってくると大鎌を振るのをやめて龍一の方を向いた。
龍一は無言に床においてあった二本の棒のようなものを構えた。
棒のようなもの、それは鍔のない剣だった。
柄は日本刀のような感じだが、刃は反っていはいるが両刃で、刀身は片方は黒で片方は少し青みがかった白だった。
龍一が武器を構えたのを確認すると透は百円玉を一枚上に投げ、自分も武器を構えた。
百円玉は道場の天井付近まで上昇すると下降を始め、そして床に落ちた。
刹那、二人は同時に相手に向かって踏み込み互いの武器を振るった。
透の鎌が龍一の左から迫って来ると龍一は鎌の内側に入り左手に持った剣の柄を鎌の柄にたたきつけて鎌を止めた後、右の剣を突き出した。
透は弾かれた反動で鎌を戻し柄を使って龍一の剣を流し、そのまま龍一に向かっていった。
龍一は弾かれた剣を戻しながら左の剣を透に向かって振るった。
透は剣が当たる直前に身を低くしてかわし、鎌を持ったまま走った。
龍一はその場で上に跳び、さらに右の剣を足下に向かって振るった。
龍一の振るった剣は龍一の膝を狙っていた鎌に当たり反動で龍一は前に出た。
そして二人同時に振り返りまた互いに武器を振るい始めた。
一時間後
あれからしばらく打ち合った後、二人は黙って武器を収めた。
これが透と龍一の日課だった。
二人は下手をすれば死んでしまうような手合わせを平然とこなす。
二人は毎日欠かさずこれを繰り返してきた。
二人は道場を後にした。
PM7:30自宅外〜神社
二人は夕食をすませると着替えもせずに道場へ向かった。
そして道場で、ある物をとってくるとそれを付けて外に出た。
「じゃ、いつものところで」
「・・・ああ」
二人の格好は異常だった。
透は学生服の上に鋼鉄製の重そうな黒い篭手とすね当てをつけ、龍一は学生服を着て手合わせの時に使った双剣を背負っていた。
これを何に使うかと言うと体力作り(ランニング)のための重りである。
“買いに行くのがめんどい”とか、“金の無駄”とか言う理由で普通の重りを買わずに一歩間違えば通報されそうな物を重り代わりに使用しているのである。
ちなみにこんな物がどこにあったかというと、透・龍一宅の倉庫に普通においてあったのである。
二人は毎日、稽古の締めくくりとして最後にランニングをしている。
家から5キロ(距離)ほど離れた神社まで別々のルートを通って競争している。
「よーい、・・・スタート」
透のかけ声で二人は同時に逆方向に走り出した。
そして10分後、二人はほぼ全力に近い速度で走ってきて二人同時に神社に到着した。
「ふう、ちょっと疲れたかな」
「・・・嘘をつくな」
龍一の言葉通り二人は全く疲れた気配がなかった。
二人とも全く息を乱さず汗一つかいていなかった。
しかし二人は特に急ぐ理由もないのでしばらく休息をとることにした。
数分後
異変は突然起きた。
『見つけた』
「・・・だれだ?」
突然、透に謎の声が聞こえた。
「・・・どうした?」
「いや、今なんか声が聞こえたから」
「・・・俺には聞こえなかったが」
『時は来た』
「・・・なんだ?」
今度は龍一に謎の声が聞こえた。
「どうした?」
「・・・声が聞こえた」
「今度は俺には聞こえなかったが・・・」
二人は辺りを見回した。
異変はすぐ近くで起きた。
突如、透と龍一の間から光が爆発した。
「くっ、なんだ」
「・・・間に合わないな」
二人は逃げるまもなく光に飲み込まれた。
光が収まった後に二人の姿はなかった。
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透は一人暗闇の中にいた。
周りには何もなく、ただ透一人がそこに浮かんでいた。
“どうなったんだ俺は?たしか神社で光に飲み込まれてそれから・・・もしかして死んだのか?”
透が状況を確認していると突然目の前に大きな光の玉が現れた。
『やっほー、気がついてる?気が付いてなかったら叩き起こしてあげるよ(笑)』
「・・・・・・・・・・・・・・」
透は無言で両手を組んで思い切り光の玉に振り下ろしていた。
殴り飛ばされた光の玉は下?に向かって飛んでいった後なぜか上?から戻ってきた。
『痛いじゃないか、何するんだよ全く』
「いや、思わずって言うかつい」
『まったくも、思わずですんだら警察はいらないよ、ていうか下に飛んでって上から戻ってきた事へのつっこみは無し?』
このとき透は“何で怒られてんだろ”とか“蛍もどきのくせして警察知ってるのか”“こんな不思議空間にいてそんなつっこみあるか”とか思ったりしたが口には出さなかった。
「で、おまえは何がしたいんだ」
『おっと、僕としたことがつい無駄話しちゃった。失敗、失敗』
そんなことを言ってから光の玉は再び目の前に来てしゃべり出した。
『えっとまずは自己紹介から、僕は永遠神剣・第四位【型無】だよ』
「剣の形してないじゃん」
『そう言う突っ込みは受け付けておりません』
「さいですか・・・」
『じゃあ次はいろいろな説明行くよ。永遠神剣ってのは僕みたいに意志を持って特殊な力を持った武器のことで・・・』
「ちょっと待った、その前にここはどこで俺はどうなったのか説明しろよ」
永遠神剣についても聞きたかったが今は現状把握が先である。
『うーん、確かにその方が良さ気だね。じゃあ神社からのことでいい?』
「ああ、俺はあそこで龍一と光に飲まれてどうなったのかを説明してくれ」
『わかった、えっと君ともう一人の彼を飲み込んだ光はゲートが開いたときの光で、君と彼は異世界に来ちゃったの』
【型無】はさらりととんでもないこと言った。
普通の人ならこんな話を聞かされたら、まず混乱するか現実逃避するか頬をつねるだろう。
しかし透はそんじょそこらのやつとは神経が違った。
「へぇ、異世界ってあったんだ・・・そういや龍一はどこだ?」
異世界の存在をその程度で受け入れた。
それどころか今頃龍一がいないことに気が付いた。
さすがにこれには【型無】も驚いた。
しかし【型無】はすぐに気を取り直し、質問に答えた。
『彼は先に異世界に付いてるよ』
「じゃあ俺はどこにいるんだ?」
『次元の狭間に作った特殊な空間だよ。君と話すことがあったから勝手に連れてこさせてもらったよ』
「そっか、じゃあとっとと用件を言え」
『ずいぶん落ち着いてるね・・・じゃあ用件を言うよ、ってその前に永遠神剣の説明をしなきゃ』
「だったらさっさと言え」
『・・・じゃあ説明するよ、あのね、永遠神剣ってのは・・・』
それからしばらく永遠神剣に関する説明が続いた。
永遠神剣は第九位から第一位まであって数字が小さいほど強く、第三位以上を上位、第四位以下を下位永遠神剣と呼ぶこと。
神剣の力の源はマナと呼ばれていて、神剣の契約者は体の構成をマナに造り替えられること。
マナはオーラフォトン、炎、水などいろいろな物に変換できること。
神剣は元は二つだったこと。
神剣はそれぞれ自分で主を選び、上位永遠神剣の主はエターナルと呼ばれる永遠に生きる存在となること。
エターナルには神剣を一つに戻そうとするロウエターナルと、エターナルの世界への干渉を防ぐカオスエターナルがいること。
そして説明が終わると【型無】は用件を言った。
『えっと、君に僕の主になってほしいんだけど・・・』
説明を聞いているときに予想はしていたので透は即座に答えた。
「いいよ」
『えっと、別に断るのも保留するのも君の自由だか・・・いいの!!』
「ああ、二つほど質問があるけどな」
『いいよ、何でも聞いて、主になってくれるなら何だって答えてあげる』
「そうか、じゃあお前のことを教えろ。何も知らずに主になるわけにもいかないだろ」
「・・・そう言えば僕自己紹介は途中だったね。じゃあ続きから・・・えっと僕は名前の通り型がないからどんな型にもなれるんだ。ちなみに型を創るときに君がどれだけ思い入れがあるかによって強さが少し上下するからいい加減な気持ちで型を創らないようにしてね。更にちなみに僕は使用しないときは君の中にしまうことが可能だけどその時は力が九位にすら劣るから気をつけてね」
「そうか・・・じゃあ次の質問だ・・・何故俺を主に選んだ?」
『それは君が〈一度も神剣と契約したことがない〉〈門が開きやすい時に門が開きやすい所にいる〉〈僕と波長が合う〉の三つの条件をクリアしてたからだよ』
透は“二番目の理由って運次第じゃん”とか思ったが口には出さなかった。
「・・・波長が合うってのは?」
『わかりやすく言えば気が合うとかそんな感じ』
「・・・そうか」
透はこれだけ聞けば十分だと判断しいよいよ契約することにした。
「よっし、じゃあとっとと契約しよう」
『やった、それじゃあまず名前を教えて』
その時になってようやく自分が名前を名乗っていないことに気が付いた。
「俺の名前は影山透だ、透って呼んでくれ」
透の名前を聞くと【型無】は頷くように上下に揺れた。
『ありがとう、じゃあ契約だ。我は永遠神剣第四位【型無】、我が名において彼の者を主と認めん、彼の者の名は〈トール〉・・・契約完了だよ、トール』
【型無】がそう言うと透の体に不思議な力がわいてきた。
「ふーん、これがマナか・・・ところで話は変わるが今の格好良さそうなセリフに意味はあったのか」
『特にないよ、ただ格好良くやりたかっただけだよ』
透はがくっと肩を落とした。
「さいですか・・・まあどうでもいいか、じゃあ気を取り直して、まずはどんな型にするか考えるか」
透がそう言い放つと【型無】は驚いたように反応した。
『え、いきなり、もっとじっくり考えてもいいけど』
「いや、実を言うともう考えてある。おまえの話を聞いた直後に閃いたのが五つほどある」
『そうなの?ま、いいや、じゃあ僕に手を当てて型をイメージして』
透は言われたとおりに【型無】に手を当てて型をイメージした。
すぐに【型無】の型が変わり始め、すぐに漆黒の槍になった。
『おおっ!すご〜い。いきなり結構強いのが出来たね』
透は槍の調子を確かめると満足そうにうなずく。
「ちゃんと実戦で使えるかどうかはわからんが、とりあえずよしとして、じゃあ次行くぞ」
そしてまた型が変わっていき、漆黒の剣になった。。
『わ〜お、これも結構強いよ』
透は二、三度剣を振って調子を確かめると次の型を作ることにした。
「じゃ、次いこう」
透が言うと、また型が変わり始めた。
少しすると【型無】は透の身長よりも大きい漆黒の大鎌になった。
『うわっ!すごいよこれ。今までの中で一番強力だよ』
一見、何の変哲もない大鎌だったがその力は四位の神剣のなかで最高クラスの力を秘めていた。
【型無】も透がまさかこれほどの逸材だとは思っていなかった。
「驚いてるところ悪いけど、次の行くぞ」
『え、あ、ちょっと待っ』
透は【型無】の返事も待たずにまた型を変化させた。
今度は【型無】はどんどん小さくなり、透が今付けているのとそっくりの篭手になった。
『もう、返事ぐらい待ってよ・・・で、これなんに使うの?』
今回創った篭手は四位の中でも最低クラスの力しか持っていなかった。
「ほかの三つは持ち運びが不便だろ。それに蛍もどきの状態じゃ九位以下の力しか出ないんだったら移動用に一つ作っとくと便利だろうと思ってな」
「ふ〜ん、でも今付けてる篭手はどうするの?」
「異世界とやらにいった後にどっかに飾っとくよ・・・よし、とりあえずこれで終わりだ」
そしてこの場所でやるべき事は終えたのでそろそろこの空間からでることにした。
『じゃ、向こうの世界にいった後に何か聞きたいことがあったら呼んでね』
【型無】がそう言うと透の視界は光に包まれた。
謎の森 夜
深い森の中、光に飲まれた龍一はそこに倒れていた。
「・・・ん」
頭を振りながら龍一が身を起こした。
「・・・痛っ、ここはどこだ?」
辺りを見回してみるとそこは森の中だった。
「・・・確か俺は神社にいたはずだが何故・・・確か透と一緒に光に飲まれて・・・透はどこだ?」
透と一緒だったことを思い出し、あたりを探してみる。
近くに透は見あたらず、人の気配もまったくしない。
仕方がないので龍一は先に現状把握をすることにした。
服装は神社の時のままで、龍一は双剣を付けたままだ。
時間は、ここが日本であるなら8時30分ぐらいだと龍一の体内時計が伝えているが、月の位置を見る限り10時はすぎていると思われる。
場所はどこだかわからないが森の結構奥の方だと思われる。
そして、現状把握がすむと龍一はとりあえず背中の剣を外した。
そして、いつでも使えるように中の状態を確認しようと剣をさやから抜いた。
『担い手よ、我の声が聞こえるか』
龍一はいきなりの声に驚き剣を素早く両手に構えた。
「・・・だれだ」
龍一は油断無くあたりを警戒する。
しかし、近くには透以外の気配は感じない。
『【叢雲】さん、いきなり話しかけたらこの方がびっくりするじゃないですかぁ。あと、この方はまだご主人に決まってませんよぉ』
龍一は顔にこそ出さないものの内心はかなり焦っていた。
自分に気配を感じさせずに接近できる者が透以外にいるのが信じられなかった。
『むっ、そうだったな、では言い換えよう。担い手候補よ、我らはそなたの手の中にある剣だ』
言われてみると手に持った剣が淡く光っている。
『じゃあ自己紹介しますわぁ。私は永遠神剣第四位【草薙】ですのぉ。よろしくお願いしますわぁ』
『我は永遠神剣第四位【叢雲】だ』
剣が話しかけて来るという異常事態。
普通の人だったらここで現実逃避をするか、剣を捨てて逃げるかするだろう。
しかし龍一は、剣が話しかけてきたことにあわてるどころか、むしろ誰かが近づいたわけではないことに安堵していた。
「・・・草薙 龍一だ。で、なんのようだ?」
剣が話しかけてくるのは不思議だったが龍一にとってそんなことはどうでもよくて、むしろ話しかけてきた理由の方が知りたかった。
『あまり驚かれないのですねぇ』
『まあ、その方が助かる。我らの用件とは我らの担』
『あなたにご主人になってほしいんですけどぉ』
『こら、人(?)がしゃべってる最中に割り込むな』
『いいじゃないですかぁ、言うことは一緒なのですしぃ』
『よくない、だいたい貴様はいつも・・・』
なんだか訳のわからないことを言って二人、いや二本は言い争いを始めてしまった。
「・・・やかましい」
龍一はそう言い放つと二本の剣を思いっきり打ち合わせた。
『ぐはっ』
『はうっ』
どうやら効果があったらしく二本の剣は静かになった。
「・・・まずはおまえらがどういった物でここがどこなのか説明しろ」
いきなり主人になれと言われても普通の人は困るだろう。
『いたた、いきなりひどいですぅ。鬼ぃ、悪魔ぁ、デーモン○暮ぇ』
「・・・さて、もう一回」
『わっ、す、すいません。もういいませんからやめてください。えっと、説明でしたね?では【叢雲】さんお願いします』
『・・・こほん、ではまず永遠神剣について説明する』
※永遠神剣と龍一の身に起こったことの説明中(省略)
「・・・それで、俺は異世界に来ていると。そして【叢雲】と【草薙】は俺に使い手になってもらってどうする気だ」
神剣の説明を受けたときに、神剣にはそれぞれ目的があるみたいなことを言ったが、【叢雲】【草薙】の目的については何も言っていなかった。
『我らの目的、それは・・・』
『特にないですぅ』
「・・・それは俺の自由にして良いと言うことか?」
『まあ、ちょっと違いますけどだいたいその通りですぅ』
『我らに目的は無いが気に食わない事はあるからそう言うことには力を貸さん』
一人と一本は真面目に、残り一本はマイペースに話を進めていく。
「・・・わかった、何が起こるかわからないから戦う力があるに越したことはない」
『そうか、では契や』
『契約完了ですぅ』
【草薙】の言葉と同時に体に力があふれ、周りにも謎の力を感じた。
「・・・これが、マナ」
龍一はその力を確かめるように軽く【叢雲】を振るった。
静かな森に爆音が鳴り響く。
「・・・早急に使いこなせるようになる必要がありそうだな・・・」
【叢雲】から放たれた衝撃波の命中した場所は小さなクレーターが出来ていた。
『・・・いきなりかなりの力を引き出しましたねぇ・・・【草薙】はびっくりですぅ』
『・・・ふむ、筋はかなりいいようだ。この調子で使いこなしてもらわねばな』
龍一はとりあえず場所を移そうと思い神剣をさやに収めようとした。
その時、謎の光の柱が現れた。
「・・・なんだ?」
『誰かがこの世界にやってきたようですぅ』
『おそらく担い手と一緒にいた者だ』
【叢雲】の言うとおり、光の柱が消えるとその場所には透がいた。
「おっ、龍一発見」
「・・・いったい何をしていた?」
「おっと、説明は後回しで。今はとりあえずこの場を離れないと・・・この世界の奴らに見つかると面倒なことになりそうだ」
「・・・わかった」
そして二人はその場からかなり離れた場所まで移動した。
「さてと、異世界に来たはいいがどうしようかな・・・龍一は何か意見ある?」
「・・・この世界のこともわからないのに決められるわけがない」
二人は離れていた間の状況を話し合うと今後の方針を検討していた。
『トール、リュウイチ、この世界のことなら僕が少しぐらい知っているけど・・・聞く?』
【型無】が透と龍一(神剣を通して)に語りかけてきた。
【型無】は今は透の体内にしまってあり【叢雲】【草薙】は鞘に収められている。
何故そうしているかといえば、【型無】は体内にしまっている間はほとんど気配が無く、【叢雲】、【草薙】も鞘にしまうと何故か気配が小さくなるからである。
「じゃあ頼む」
『わかった、じゃあこの世界について説明するよ。えっと、この世界は・・・』
それからしばらく【型無】によるこの世界の説明が行われ、その内容をまとめるとこんな感じだ。
この世界に名前はなく、七つの国と一つの商業組合に分かれている。
スピリットと呼ばれる神剣の使い手たちと竜がいること。
スピリットは人間の代わりに戦争で戦う存在であること。
透たちより先にエトランジュと呼ばれる者達がこの世界にやってきてること。
この世界はエーテル技術と呼ばれるマナをエネルギーとしたものであること。
この世界の地理(【型無】から脳に直接映像を送信)。
各国の情報、スピリット・エトランジュの状況。
etc…………………
そしてあらかた説明が終わる頃には透の行動は決まっていた・・・が。
「とりあえずまずは修行をしよう。何をするにしても力がなければ話にならない」
「・・・そうだな」
『戦い方だけじゃなくて言葉と文字も覚えなきゃ。幸い僕たちはどんな言葉も文字も知ってるから教師役にはもってこいだしね』
『そうですよぉ、この世界でしばらくは暮らすんですからぁ』
『うむ、文武両道、厳しくいくぞ、担い手よ』
その言葉に二人は小さな笑みを浮かべて。
「お手柔らかに」
「・・・ん、頼む」
こうして二人のエトランジュと三本の神剣のこの世界での生活が始まった。
次元の狭間
「くくく・・・もうすぐ終わる。終わりが、終末が始まる。腐った世界など滅びろ、滅びろ、全て滅びるがいい。物語を終わりへ導く者、物語を加速させる者・・・駒は揃えてやった。あとは秩序が予定通りに動くだけ。さあ、全ては虚無へと還るがいい。くくくくく」
男以外何も存在しない空間で男は狂ったように笑い続ける。
やがて男はその場所から姿を消した。
続く