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第五章《激突》






「愚かなる人間よ、か弱き妖精たちを連れてここに何しに来た?」

サードガラハムは洞窟へ訪れた悠人達と対峙をしていた。





(これが龍・・・!)

「何をしに来たかと、聞いている」

「私たちはラキオスの使者。偉大なる守り龍よ、私たちはあなたを滅ぼすために参りました」

「大地の妖精よ、何故我と戦う。それが義務だからか? それとも自らの意思か?」

「・・・私の意思です。私はラキオスのスピリット、ラキオスの意思が私の意思です」

エスペリアが続けて答える。

「全力で挑みます。私たちは負けません」

「我を滅ぼすというのか・・・」

そしてサードガラハムは悠人を見て、

(人間か、だとしたらこの者が・・・)

「・・・人間を送り込んできたか、今までは妖精だけであったのに」

前へ向き直り、

「よかろう、我を滅ぼしてみよ。愚かであることが人間の性なのだからな」

「我はサードガラハムの門番、ゆくぞ!!」

「ユート様はお下がりください、アセリア、オルファ!」

「ん・・・!」

「は〜い!」





・・・戦いが始まるのと同時にミディが何かを感じる。

「・・・! 戦いが始まったみたい・・・」

「サードガラハムさんと四人の敵か・・・」

「でも、あの龍さんは強い。本当にやられるんておもえないわ」

「・・・・・」






「ファイアボルトッ!」

ズドドドド!

オルファのファイアボルトが龍の体に直撃するが、

「グオオォォオオオ!」

ブォン、ザシン!

巨大な龍のうろこの前ではたいした効果は得られない。

「てやぁああ!」

ガキン!

強力なアセリアの一撃も難なく受け止めはじき返す。

「・・・っ!」

「グガオォオオ!」




ズゴオオオォ!




息吹を吐き出し、アセリアを襲う。

「んっく! まだいける・・・」

巨大な尾で薙ぎ払い、硬い防御を誇るエスペリアをも吹き飛ばされてしまう。

「きゃあ!」

(かかってくるのは妖精達だけ・・・なぜだ)

「人間よ、何故汝は戦わない。その腰の剣はただの棒きれにすぎないのか?」

「く・・・!」

「やはり、所詮は人間か」

(キースが言っていた我にとっての脅威がこの程度だったのか・・・?)

サードガラハムはどんな者かと思っていたが落胆した。

「・・・ならば我はこのまま妖精達を滅ぼす。無論、汝もマナの塵としよう。
 哀れな妖精達に命を下した愚かな者達も滅ぼすとしようか」

「なんだって・・・!?」




(あそこには佳織が・・・)



(あんな所が燃やされてもかまわない・・・だけど、関係のない佳織を巻き込むのは許せない!!)

「そんなこと、させるか!!」

「バカ剣、目を覚ませ! 俺が死んだらお前だって困るだろ!」

『ならば、代償を支払うのだ。より多くのマナを、汝の血と肉、そして・・・汝の、運命を捧げよ』

「力が手に入るならなんだって支払ってやる、だから! 俺に力をよこせっ!!」

『よかろう、汝の求めはしかと受け取った・・・!』

悠人は【求め】から力を受け取り破壊の欲求に逆らうことなく切りつける。

「うぉぉぉぉ!!」

ザン、ザシュ!

強烈な二撃がサードガラハムを襲う。

「!!」

(・・・! この力は・・・強すぎる。これが脅威、なのか・・・)













「な、何なの・・・この力・・・!?」



全員の戦いを感じていたミディが、苦痛を浮かべる。

「どうしたんだ?」

「すごい力・・・今まで微塵も感じなかったのに、いったいどうして・・・」

「もしかしたら、あの言っていた人間の力なのか・・?」

「わからない。でも、このままじゃの龍さんは消されちゃう・・・力の大きさがさっきとあまりにも違いすぎる!」

「・・・そうか」

セロは立ち上がり、封印の間の出口へ向かう。

「セロ! どこへいくの?」

「ミディはここにいてくれ。 僕はサードガラハムさんの所へ行く」

「なにいってるの、無茶よ!? 言ったでしょう、強すぎるのよ!」

「そうかもしれない、だけどもう何もしないまま隠れているだけなんていやなんだ」

もう今は亡きキースを思い出す。

「だから僕は行く。大丈夫、ただでやられるつもりはない」

そういってサードガラハムの元へ走り出す。

「セロ・・・!」




「だああぁぁ!」

またさらに、強力なフレンジーが振り下ろされようとしていた。

(我もここまでということか・・・)

「これで終わりだ!」



ブオン!



「させるかっ!!」

ガキイイィィン・・・!

その瞬間にセロが飛び出し、【孤独】で【求め】の攻撃を受け止める。

「!?」

「・・・人!? そんな!」

場にいる全員が驚きの表情をする。

ギィン!

セロは【求め】弾き、サードガラハムの元へ飛びのく。

「サードガラハムさん、参りました」

「何をしている!? 汝はもう一人の者を隠れていろといったはずだ・・・!」

「僕の力はあなたに比べたらちっぽけなものだけど、それでも僕は見殺しなんかにできない!」

(この者の目、似ている・・・)




「エスペリア、どういうことなんだ! ここは魔龍がすむ洞窟じゃなかったのか!?」

今のわからない状況を悠人は訴える。

「わかりません。ですが、どうやらあの方も人間。そして、神剣も持っているということしか・・・」

悠人はセロを見ていると【求め】が声をかけてくる。

『契約者よ、龍の前にあの者の剣を砕くのだ。なかなか強い力を感じる、さあマナを奪え・・・!!』

キン、ギィン!

「ぐ・・ぅ・・・砕く、あいつを、あの剣を!!」

強い頭痛が響き、悠人の意識を少しづつ呑む。

「またさらに強くなった・・・だけどやるしかないんだ・・・!」

「いくぞ!」

「たああぁ!」

ガキン!

乾いた音が響き、二人の剣がぶつかり合う。

(なんて重い・・・! だがこれなら!)

「はっ!」

キン、と【求め】を弾き返し態勢を立て直す。

「っく、うぉぉぉ!」

ビュン、ブオン、ブン!

悠人の攻撃はむなしく風を切るだけ、

(強い力だけど、スピードは鈍い。これなら・・・かわせる)

「てやあぁぁあ!」

「!?」

ガ、キン!!

突然アセリアの攻撃がきてセロは驚く。

「ユート、私も手伝う・・・!」

「私達もお手伝いいたします、オルファも行きましょう!」

「うんうん、オルファの力見せてあげる〜!」

「みんな・・・」

(四人になったのか・・・まずい、これじゃ・・・!)


ギン、ガキキン!!


「フレイムシャワーッ!」


ゴオオォォ!


「っ! ズアアァ!」

火の雨に剣を振りかざし消し去る。

「え〜! なんでぇ!?」

(オルファの神剣魔法を剣圧だけで消した・・・? いったい、この方は・・・)

エスペリアは、セロの力を分析する。

「アセリア、ユート様の援護をしましょう!」

「うん!」

アセリアとエスペリアが接近攻撃をする。

「魔法と違って早すぎる・・・!?」

ガキィン!

「なんて攻撃だ、とてもあんな細い腕からだすようなものとはおもえない・・・!」

「こっちもわすれるな!」

「・・・っ!」

後ろから悠人のヘビーアタックがセロへ向かう。

「はぁはぁ・・・さすがに四人相手は・・・」

飛ばされ起き上がろうとするが、

「だあぁあ!」

「てやぁああ!」

「いきます!」

「オルファ、負けないんだから!」

(・・・もうここまでなのか)

四人が攻撃を仕掛ける、そのとき・・・

ザシュウウゥゥ・・・!!

「!!」

サードガラハムがセロの盾になっていた。


「サードガラハムさん!?」

「初めからわかっていたであろう。汝の力ではこの者達には勝てない・・・」

「だけど・・・ぼくはみていられなかったんだ!」

「その考えキースに本当によく似ている。だから今は退け、この奥から外へ抜けられる小さい道があるだろう」

全員の攻撃をその身体で受け止め、セロにしか聞こえないくらい小さな声で話す。

「さあ、ゆけ・・・!」

大きく羽ばたき力なく風を起こし、セロを封印の間まで吹き飛ばす。

「うおおおぉ!」

悠人は豪快に剣をサードガラハムに突き刺す。

「グ、グオオオォ・・・・!」

(また戦いになるという・・・こと、か)

「はぁはぁ・・・ まだ死なないのか、くそっ!!」

「ユート様、もう大丈夫です! もう龍の力は失われています」

「異界の小さき者よ、汝は何を求めて戦うのだ・・・
 その剣のまま戦うつもりなのか、それとも別の意思なのか・・・?」

「・・・よい、どちらにせよ我を倒したのだ。門が開かれたということだな・・・」

サードガラハムは小さくエスペリア達を見る。

「妖精達よ、これから始まるであろう事はそなた達の未来も変えていくだろう」

アセリアとオルファも真剣に龍の言葉を聞いている。

「我は人は好かんが、妖精達は近くに感じている。そなた達に良き未来があることを願う・・・」

(そして、セロとミディ。汝らにも良き未来があることを・・・)

「異界の者よ、自らが求めることに純粋であれ・・・」

「ちょっとまってくれ、お前は俺たちを滅ぼそうとしている龍じゃないのかよ!」

「それが心の剣となり、盾となる・・・」

「ここで我が滅びることも、またマナの導きなのだろう」

(そう、それがこの世の運命。キースのやつならきっとこう言うのだろう・・・)

言い終えると巨大な龍はマナの霧へと還る。

(っくそ・・・! なんで俺達はこんなことしなくてはいけない!? 何のためになるって言うんだ・・・)

「・・・・・」

「・・・ユート様、山を降りましょう。私達の使命は果たしました」

「ああ・・・そうだな」

「しかし、それにしてもあの方はいったい何者だったのでしょう・・・」

「・・・? あいつのことか?」

二人は先ほど乱入してきたセロを思い出す。

「はい、まだ慣れてないとはいえユート様の【求め】と互角の戦いを見せました。それが気がかりで・・・」

「たしかに・・・だけど今は帰ろう」

「・・・はい」






「うわぁ!」

ズシャア!

豪快な音を立てて、セロは地面へたたきつけられる。

「セロ、無事だったのね・・・!」

ミディは急いで駆け寄ってくる。

「はぁはぁ・・・うん、サードガラハムさんに助けてもらったんだ」

「! そっか・・・」

「サードガラハムさんは・・・?」

「今さっき大量のマナが解放されたわ・・・マナの異常な流れを感じた」

「そう、か・・・僕は結局何もできない役立たずだったんだな・・・」

俯こうとした瞬間に、最後に言われた言葉を思い出す。

「そうだ・・・! ミディ、ここは危険だ二人で逃げろといっていた」

「でもこの外には出られないわ、どうするの?」

「この封印の間の奥に小さい抜け穴があるみたいだ、そこを行けばいいらしい」

「・・・・・」

「どうしたんだ?」

「確かにここは危険かもしれないけど、逃げたって私達のいけるところなんてないわ・・・」

「!!」

「セロの話によれば、私達がこの世界で捕まったら道具にされるって」

「実際私もこの【純粋】がなければスピリットにつかまっているわ」

「・・・・・」

「あんなに強い相手が今度きたら次はどうなるか・・・」

「・・・っ、結局は手詰まりってことか」

「ねえ、王国の人たちは今回はマナの解放だったけど私達を捕らえるってこともあるわよね」

「サードガラハムさんや兄さんの話を考えるとそうなるな」

「だったらもしかして王国の人なら帰り方わかるかも」

「!? 何言ってるんだ、危険すぎる!」

「あの龍さんも言ってたでしょ、きっと悪いようにはされないわ。だから・・・」

「次にきたときは私も一緒に戦う、セロと一緒にね」



「次にきたときっていったい・・・?」


「なんとなく、そう・・・感じるのよ」

「きっと話せばわかる、そんな気がする」

「・・・わかった、そのときをまとう」







「よくあの魔龍を打ち倒した、エトランジェの名は伊達ではないようだな」

悠人達はラキオス城へ帰ってきて報告をしていた。

「これで我が国は龍が保持していたマナを大量得たわけだ」

王座に座っている王が愉快そうに笑う。

「守り龍などとは所詮は名ばかり、こんな事ならばもっと早くからスピリットどもをぶつけておくべきだったな」

(・・・・・)

「今回の働きを高く評価している。非力なスピリット共を率いあれだけ大量のマナを得たわけだからな。
 これまで何の役に立っていなかった分を取り戻せたわ」

(誰がこの街を守ってきたんだ、今回だって・・・)

「だがしかし・・・」

「・・・?」

突然、王の違う反応に悠人は疑問する。

「つい先の情報によればその魔龍の住む洞窟で人間と対峙したそうだな。その【求め】と対峙できる人間など・・」

「エトランジェ以外にはおらぬだろう・・・?」

王はにやけた表情で悠人の顔を見る。

(まさか・・・!)

「明朝またすぐに魔龍の洞窟へ向かいエトランジェを捕らえてくるのだ。もし不可能なときは始末をせよ」

「では下がってよいぞ、明日まで傷を癒しておけ」

(またあいつと戦う・・・それに不可能なときは始末しろだと? ふざけやがって・・・!)


悠人は心の中で怒りを抑える。

「わかりました、それでは失礼します・・・」

悠人達は謁見の間を後にする。






「父様」

「何だ?」

「まさか情報部のあんな確証の低い情報を鵜呑みにするおつもりですか?」

「それだけでも十分なのだよ」

「・・・?」

「先の青の週、非常に強大な力のぶつかり合いがあったのはお前でも知っていることだろう」

キースとカスターネの戦いの力はラキオス城まで届いていたのだ。

「あれほどの力があるということは、無論そこに神剣の担い手がいてもおかしくはないだろう。ふっふっふ・・・」

(まだ犠牲を増やすおつもりですか、父様・・・)

レスティーナの悲痛な心の叫びは誰にも届くはずもなかった・・・




・・・夜が明け、悠人達はまたリクディウス山脈へと赴いた。







「・・・きたわっ!」

それを感じ取ったミディが話す。

「もうきたのか・・・」

「ええ、準備をしましょう」

「なあ、ミディ。この戦いどちらが有利と思う?」

「? どちらかというと私達のほうが不利だと思うわ、それでもやらなきゃいけない」

「そうか、ならこうしよう。よくきいてくれ・・・」

セロはミディへ自分の考えを伝える。

「・・・、、、 わかったわ、そうしましょう」




「もう一度この洞窟にくるなんてな・・・」

「確かこのあたりですね、あの方が飛び出してきた場所は」

悠人達が暗い洞窟の中を見回し、神剣の気配を探る。






「僕に御用か・・・?」






「!?」

すると、暗い洞窟の中からセロが姿を現す。

(神剣の気配はしなかった、どういうことだ・・・?)

「ほんとに・・・まあ、いきなりだな。とりあえず自己紹介はしとく、僕はセロ。セロ・ディオンだ」

「ではこちらも。この方がスピリット隊長を務めている【求め】のユート様です」

エスペリアは悠人を見ながら言う。

「高嶺悠人だ、よろしく頼む」

「アセリア、オルファ、あなたたちも紹介を」

「ん、アセリア・ブルースピリットだ・・・」

アセリアは無表情で答える。

「はーい、オルファだよ! オルファリル・レッドスピリット!」

「そして私がエスペリア・グリーンスピリットです」

「・・・俺達は国王の命令でお前を捕らえにきたんだ。捕獲し次第帰還、不可能な場合は始末と・・・」

「・・・・・」

(兄さんはこれもわかっていたことなのか・・・?)

「そう、か・・・」

「できれば無駄な争いは避けたい、そのためにも素直に降伏してほしいんだが・・・」

(この人、本当はこんなこと望んでやっているわけじゃないみたいだ。・・・だけど)

「・・・その返事には応じれない、僕だって護りたいものがあるんだ」

「・・・・・」

ジャキン!

突然、アセリアが悠人の前へ立ち、剣先をセロに向ける。

「アセリア!?」

「捕獲を不可能なら始末・・・する」

「そうだよ、パパ。連れて行けないならもう敵さんだよ!」

「・・・ユート様、仕方ないです。降伏するまで戦うしかありません。それがもし無理であれば・・・」

(俺達は戦わなくちゃいけないのか・・・?)

「そうだな、連れて行きたいなら力ずくってことになるな・・・」

セロは自分に合わないような大きな刀型神剣【孤独】を抜く。

(四人、前と変わらずだがやれるだけやってみるしかないな)

ミディと話した作戦内容を思い出す。



「・・・よし、みんないくぞ!!」

悠人が号令をかけると全員が行動を開始する。

「だああぁ!」

「てやあぁぁあ!」

悠人とアセリアの二人の攻撃がくるがセロは難なく回避する。

「・・・っふ!」

長い神剣を振り、アセリアの【存在】とぶつかる。

ガキィン!

「うぉぉぉ!」

続けざまに後ろから悠人の攻撃がくるがアセリアを弾きしゃがんでかわす。

「!」

悠人はあわてて動きを止めたところに、セロの攻撃が迫る!

「まずはこれで・・・!」

「させません!」

キン!

エスペリアのハイロゥで攻撃を受け止める。

「オルファ!」

「無理だよ、こんなに狭い場所じゃパパやお姉ちゃん達にあたっちゃう!」

「!!」




(そう、これが作戦の一。場所を考える。四対一じゃあまりに差がある、だけど決して不利ばかりじゃない)


「なら私達だけで!」

ガキィ!

力を込めてセロの身体を吹き飛ばし、体制が崩れる。

「ユート様、アセリア、いまです!」

「よし!」

「・・・ん!」

「・・・・・」


勝負が決まったと思ったそのとき・・・



ビュゴゥ!



「! アセリア危ない!」

「・・・!」

ギリギリのところで気づいた悠人がアセリア押し、飛んできたものを避ける。

「なんだ、いったいどこから!?」

「これは・・・マナの塊!?」






「いつつ・・・ミディ、助かった。ありがとう」

起き上がったセロはお礼を言う。

「別にかまわないわ、私も戦うっていったしね」

「この声・・・? もう一人いるのか!?」

「・・・二人もいるなんて、思いもよりませんでした」

悠人とエスペリアは、ミディの存在に困惑する。

「さらに、もう一人の方も戦える力を持つなんて・・・いえ、それよりなぜ私達がいるのがわかるのですか!?」

「私には身体にあるマナの流れがよく見える。だから、こんなに暗くても手に取るようにわかるわ」

「だったらそのもう一人を先にたたけば・・・!」

悠人が奥へ向かおうとすると、

「ここからは通さない!」

セロが立ちはだかり阻む。

「っく、だぁあ!」

悠人が切りかかるとセロはすこし目を瞑りゆっくりと横へ避ける。

それと同時に三本の矢が迫ってくる。

「何!?」

「ユート様!」

キン、キキン、バキン!

エスペリアが悠人の前に立ち攻撃を防ぐ。

「これは少々つらいですね・・・」

「エスペリア、大丈夫か!?」

「・・・はい、ユート様。でも、おかげで突破口を見出したかもしれません」

「どういうことだ?」

エスペリアは自身が考えた案を全員に伝える。

「まずはオルファあなたが・・・」




「・・・うんうん、わかったよ!」

「みんなわかりましたね、いきます!」

「おう!」

「わかった・・・!」

何やら、悠人たちは作戦を立てている。


「何かするみたいだ。ミディ、気をつけて・・・」

「・・・ええ」

説明が終わったのか、全員が配置に着く。


「それじゃあ、いっくよ〜!」

「その姿を業火と変え敵に降り注げ!」

「ふれいむしゃわ〜!」

大量の炎の雨がセロに向かってくる。

「っ! こんなもの!」

剣を振り、フレイムシャワーを半分だけかき消す。

「かかった!」

「え!?」

「きゃぁ!!」



「! しまった、狙いはミディのほうか!?」


ゴオオオォォ!

それに気づかなかったセロは、炎が降り注ぎミディの姿が見えるようになる。

「見えました、あの方はあそこです!」

「アセリア、行くぞ!」

「抵抗しても…無駄!」

ダン! と飛び、アセリアのインパルスブロウがミディにくる。

「・・・!」



「ミディ!」

何とか追いついたセロがミディの盾となり、素手で剣を受け止める。

「ぐぅ・・・・!」

大きく切り裂け、右腕は動かなくなる。

「よし、これで・・・」




「・・・っぐ、ミディ、いったん退こう。奥へ走れるか?」

「私は大丈夫よ。あなたの方こそ、それ・・・」

「平気、いこう・・・!」

洞窟の奥へ走り出し、封印の間のほうへ行く。

「あ、逃げた! まてまて〜!」

「逃がさない・・・!」

「ユート様、追いましょう」

「あ、ああ・・・」

全員で追いかけ始める。










・・・全速力で走り、封印の間につき二人は息をつく。

「はぁはぁ・・・みんな強い。こんなに簡単に攻略されるなんて・・・」

「みたい、ね。・・・それより、追手はすぐ来ちゃうわよ。どうするの?」

「それは平気だ。所々を崩して通れなくした、少しは大丈夫だと思う・・・」

「・・・そう、それで腕は大丈夫なの・・・?」

自分のせいでひどい目にあってしまったセロの腕を見る。

「大丈夫、とはいえないみたいだ。もう動かせないし、剣を持つにも力が入らない」

そういって神剣を左手にもつ。

「ごめんね、私のせいで・・・」

「いや、これは僕の作戦不十分だ。ミディが謝ることはない」

「それより、矢は後どれくらい作り出せそうなんだ?」

「・・・いつから気づいてたの?」

ミディは少々驚いた顔をする。


「最初から。あれだけ強力なものを作り出すには訓練がたらなすぎるから・・・」

「そうね・・・正直ちょっと辛いかも、思ったよりマナを集中して固形化するのって骨が折れるわ」

いくらマナ流れがよく見えるミディといえど、それを扱うのは簡単ではないようだ。


「さぁ、どうしたものか・・・このままじゃ二人ともやられちゃうな」

「ねえ、セロ。はじめてきたときから思ったんだけど、ここには何かがあるの?」

突然ミディは一見関係がなさそうな話題を振ってくる。

「・・・? ああ、ここには兄さんが封印した神剣があるんだ。
 それのせいで、ここのマナが乱れて変な雰囲気があるのかもしれない」

「やっぱり・・・ここのマナの流れが一定じゃなくて、異常な動きを見せてるのはそれだったわけね」

「そうみたいだ。だけどそれがいったいどうしたんだ?」

「これだけの乱れがあれば私も違う戦い方ができるわ、それはね・・・」

ミディの話を聞き、セロは決心する。


「・・・そうか、だったらもうそれに賭けるしかないみたいだな」

「ええ・・・! そろそろ来るわ、気をつけて!」

「ああ!」






ガシャアァン! ガラガラガラ・・・



「ふ〜、ようやく抜けられたよ! あ、敵さん発見〜♪」

「もう逃げられません」

「・・・ん、なんだかここ広い・・・?」

「本当だ、この洞窟にこんなとこがあるなんて。それになんだか不思議な感じだな・・・」




「よし、じゃあミディ頼んだ。僕が何とかして見せるから!」

「うん・・・!」

セロが再びミディの前へでて左手で剣を構える。

「そんな腕ではもう戦えません、おとなしく降伏してください!」

「ごめんね、僕は一度決めたら意固地になってしまうんで」

「だったらもう一度追い詰めてやる、アセリアいくぞ!」

アセリアはハイロゥの力で一気に差を詰める。

「・・・っ!」

ギィン!

先ほどと違いとめるのが精一杯の様子、さらに悠人の追撃が迫る。

ヒュヒュン!

「・・・おっと!」

ミディのマナの矢と避け、態勢を立て直し、

「ここなら、魔法がつかえる!」

「もっかい、いっくよ! オルファのひっさつわざぁ〜♪」

「ふれいむしゃわ〜!」



「・・・! 来た、ミディ! いまだ!」

「了解、これで・・・!」

するとミディは、オルファに向かって力強さを感じる矢を放つ。

「させません!」

ギィン!

だがエスペリアの守りによって矢は上へ弾かれる。

「まだよ!」

「!」

カキン、キン、ガキィン!

さっき弾いた矢を見るといろいろな方向へ跳弾している、そして行き着く先は


ズダンッ!

「・・・え、きゃぁぁっ! いたいいたい、い〜た〜い〜!!」

多段に弾かれた矢は無防備だったオルファに当たる。

「成功だ。ミディ、平気か?」

「・・・うん、まだ大丈夫」

先のミディの矢が跳弾したのは、封印の間一帯に強いマナが満ちていることで、
マナの塊であるマナアローと反発して起こったものらしい。



「オルファ、大丈夫ですか!?」

「大丈夫だよ、ちょっと油断しちゃった・・・」

エスペリアの癒しで治療を受けるオルファ。

「ユート様、あの女の方。かなり危険です、お気をつけください」

「わかった。アセリア、あの矢はかなり強力だ。俺のオーラで飛んでくる瞬間の矢を見切り、ガードする。
 その隙を狙うんだ!」

「ん・・・わかった」

二人はセロ達と距離をとって迎え撃つ。




「・・・こっちが攻撃するまで構えている気か。どうする?」

「そうね、あの男の人は自分の力を使って私の矢を見切るつもりみたいだしね」

「・・・っく、僕がこんな腕になっていなければまだ戦えるのに!」

また、無力な自分に怒る。

「まだ万策尽きたわけじゃないわ。それをやるからセロ、援護して」

「ああ、わかった・・・」




「そこの神剣を持つ男の方、あなたの力でもこれが見切れるかしら!」

「何!?」

「いくわよ、オーラの力を最大限に・・・・・!」

目を閉じて、矢を形成して神剣で一気に放つ。



ジュワアアァァン!


風を切る音が離れていても聞こえる。

「は、早すぎて俺でもおえない!?」

ガキィン、キン・・・

いろんなところから弾く音が聞こえる。

(落ち着いて考えろ、たとえ見えなくても跳弾させてるってことは狙いは・・・)

悠人は最大限に考えをめぐらせ、



キン・・・

「アセリア! 後ろだっ!」

「・・・!」

悠人の声で気づいたアセリアは【存在】を後ろに振りかざし、矢を切り裂く。


「見切、られた・・・そんな・・」

セロは唖然としミディのほうへ向くと、

「ミディどうした!?」

「は、はぁはぁ・・・」

苦しそうにひざをつき、肩で呼吸をしている。

「やっぱりもう限界を超えたのか。今度こそ終わりみたいだな・・・」

「・・・ま、まだ、あきらめちゃ・・・、だめ・・・」

「だけどこのままだと君の身体が!」

「この後どんなことが待ち受けていようとも、受けた勝負には全力でやるのよ。それが私・・・・」

「・・・わかった、そこまで言うならこの無力な僕に力を貸してくれないか?」

「当然、何でも言って。・・・といっても、もうあんまりできそうにないけど」

ミディは頬をつたう汗を拭うこともできないのに笑ってみせる。


「さっきの技。あと一度でもいいから使うことはできるか?」

「・・・難しい注文ね、でもやってみるわ」

「すまない、攻撃の目標はあのユートという人だ」

「僕が合図したら放ってくれ。・・・これが最後の勝負だ」

「了解したわ・・・」

ミディは笑顔でもつらそうに矢を作り出し始める。





「そろそろ勝負をするみたいだな」

「ユート様、私もお手伝いをいたします」

「エスペリア? オルファは平気なのか?」

「はい、いまは休んでいます」

「よし、じゃあこれがきっと最後だ。いくぞ!」

全員が戦闘態勢をとると、セロが叫ぶ。



「いまだ、射ってくれ!」

「・・・! ハアアァアァァ!」

ジュヒュオオオン!

それと共にセロも三人へ向かっていく。

「真正面!? 二人とも速やかに迎え撃つぞ!」

「ん!」

「はい!」

「たあああ!」

セロの攻撃を悠人は受け止める、

(この人さえ行動不能にできればきっと・・・!)

「てぃやああぁぁ!」

「ここで負けるわけには!」

ガキン!

左手ひとつで悠人を飛ばし、アセリアの攻撃を受け止める。

「無の衝撃、誰も通しはしない・・・!」

「オーラインパクト!!」


ズドオォン!


受け止めていた剣からとてつもない力が放出され、アセリアはたたきつけられる。

「アセリア! ・・・何、この感じは!?」

アセリアが吹き飛ばされたことに気を取られていた悠人はミディの攻撃にようやく気づく。

「さっきの攻撃、こんどは俺が・・・!?」

「っくそ、うぉぉぉぉ!」

気合を発し、バイオレントブロックを張り、矢を受け止める。

「くぅぅっ!」

矢を受け止め終えて防御をやめたそのとき、

「ミディがくれたチャンス、無駄にはしない!」

セロは無防備になった悠人に攻撃を仕掛けるが・・・・









「そこまでです!」









「!?」


エスペリアの声が聞こえ、悠人に向ける剣をとめる。

「あなた達の負けです。降伏を」

声が聞こえる方へ向くと疲れ果て、立つこともできないミディに神剣を突きつけているのが見える。

(そうか、さっきはいたのに見当たらないと思ったらミディを狙っていたのか・・・盲点だった)

「・・・わかった、僕達の負けだ。大人しくあなた達についていく」

「そうか、ようやくわかってくれたのか・・・」

悠人も立ち上がってやっと終われたという表情をする。



「・・・・・っ」


ドサッ・・・!

戦いが終わるとミディは地面へ倒れこむ。

「ミディ、大丈夫か!?」

「・・・大丈夫です。外傷はほとんどありません、神剣を長く開放しすぎたせいで気を失ったのでしょう」

「そうか、ならよかった・・・」

「エスペリア、二人を治療してあげてくれ。特にこいつの方は俺よりひどい状態だからな」

「ユート様・・・? わかりました」

「僕達を治癒なんかしていいのか?」

「どうしてだ、何か問題あるか?」

「回復した途端に、また牙を剥くってこともあるかもしれないといってるんだ」

「一度決めたら意固地になるんだろ? お前は俺たちについてきてくれるといった、だから信じる」

「・・・・・」

「だって俺たち、もう仲間だろ?」

悠人は笑って答える。

「・・・そんなこと言われたら何もできないな」

「そいつはよかった」





「では、少しの間そのままで」

「はい」

「大地の活力よ、傷つきし者の力となれ」

「アースプライヤー!」

一番ダメージの酷かった右腕が治癒されてゆく。

「すごい、さっきまでぴくりとも動かせなかったのに感覚が戻っていく・・・」

・・・そして、アセリア、ミディを治療し終え帰り支度をする。

「あ、ミディは僕が担いで行こう」

治療してもらったが、気を失ったままで目が覚めないミディを見て持ち上げようとする。


ズキッ・・・!!

「・・っぐ!」

治療してもらったといっても完全ではなく鈍い痛みが走る。

「まだ無理をなさらないでください。すみません、今はこれが限界で・・・」

「そうだ、俺達についてきてくれるだけでいいんだ。彼女は俺が連れて行こう」

そう言ってミディを軽々(?)と持ちあげる。

(やば、俺も傷が痛い。だけど我慢だ!)

「じゃあユートさん、よろしくお願いします」

「あ、ああ・・・まかせろ!」




暫く歩き、そのまま一行は洞窟から出る。

「もう日が沈みかけているな、そんなに長い間戦っていたのか」

「では、早く参りましょう。ここはバーンライト王国に近い場所、早急に離れることが望ましいです」

「そうだな、じゃあ俺たちについてきてくれ」

「わかりました」

セロはその言葉に了承し、歩き出す。

(あそこには兄さんの封印した剣がある、洞窟内に入らなければ誰も気づきはしないと思うがやはり心配だ)

あの謎の永遠神剣を気にしながらも、リクディウス山脈を後にする。










・・・日が沈み、ようやくラキオス城に到着したセロ達。

「ふぁっはっは! よくやったエトランジェよ、これでまたわが国はさらに国力を増強できたわけだ」

謁見の間にて報告をしていると、ラキオス王はさもうれしそうに笑っている。

(この人が王様ってやつなのか? なんだかパッとしないというかなんと言うか・・・)

セロは王を見てそんなことを考えている。

「では、エトランジェよ。今回の魔龍討伐、新生エトランジェの捕獲を完了させた暁に、
 そなたをスピリット隊の隊長に任命する。ある程度の自由は認めよう。スピリット達も好きにしろ」

「大切な道具だからな、使い物にならないようにはするな。それと・・・」

「・・・?」

王はおもむろに、セロ達を見る。

「その二人のエトランジェもお前の好きにしてかまわん、ちゃんと戦いに使えるようにしておけ」

(そういうことか、道具にしろって言っているようなものだな)

「・・・・・」

王はずっと自分のほうを見ているセロに気づく。

「なんだ、新生エトランジェよ。言いたいことがあるなら申してみよ」

自分に逆らえないとわかっていて王は強気な態度で言う。

「・・・・・」



スタスタスタ・・・

「? ふん、逆らう気か。ふっふっふ・・・」

近づいてくるセロに王は無謀だと思い嘲笑する。

スタスタスタ・・・

「・・・な、なに?」

そのままセロは王の目の前までやってくる。

「き、貴様何の真似だ、この無礼者が!」

不測の事態に王は明らかにあせっている。

「いったいどういうことだ・・・?」

身をもって強制力の力を知っている悠人は今の状況に疑問する。

「なぜこんなに近くに、離れるがいい!」

「エトランジェの制約ってのがでない・・・? どんなものなのか試そうと思っていたのだが」

「・・・?」

(このエトランジェ、強制力が利かない・・・?)

隣にいたレスティーナは苦しまないセロを見てそう思う。

「何をわけのわからないことを言っている、命令ひとつでお前は後ろのスピリット共に殺されるのだぞ!」

近くにいるセロに王は思い切り、恐怖をあらわにする。

「・・・そうか、なるほどたしか『逆らう』と激しい頭痛がするんだっけ。だったら・・・」

動揺している王を気にも留めず強制力について考えている。

「ラキオス王、命令を出す必要性はありません。僕はあなたに逆らいはしない」

「ふ、ふん。ならばいい・・・」

「でも、僕はあなたの命を聞くつもりはありません。隊長である悠人さんに一任されたのであれば」

そういい終えると悠人達の下へ歩いていく。

「ユートさん、勝手な行動を失礼した。今度からは慎む」

「あ、ああ」


その時、レスティーナが口を開いた。

「そなたの義妹のことは任せよ。働きには報いよう、悪いようにはしない」

「隊長の任については、エスペリアに聞くように。前任者の仕事を知っています」

「承知しました・・・」

「・・・うむ、下がってよいぞ。戦いはこれから始まるのだからな」





悠人達が謁見の間を後にしたのを見たのち、王は不機嫌そうにため息をつく。

「ええい、何なのだあのエトランジェは! このわしの目の前に立つなど!!」

「・・・・・」

(いくら強い力を手に入れても扱うことができなけば意味を成さない、それがわからないのですか・・・)


それに気づいている聡明な、レスティーナ王女は新生エトランジェのことを考えていた・・・・・







「ユートさん、僕達はこれからどうなるんだ?」

「・・・お前達の身柄は一任されているから、特に拘束するつもりもない。
 エスペリアと相談して明日にはどうするか決まると思う、今日はこの館で休んでくれ」

「わかった、それじゃあ今日はこれで休ませてもらう。戦いで疲れたから、お休み・・・」

「ああ・・・じゃあまた明日な」

そして、セロはミディが寝かされている部屋に向かう。








「・・・・・」

ミディが寝ている部屋に入り、ミディのベッドの隣にあるイスへ座る。

「今日は本当にありがとう。君がいなかったら僕はどうしていたことか・・・」

返事があるはずもない者に、礼を語りかける。

「どうなるかは明日か・・・本当に僕達は自分達とは別世界にきたんだな」

しばらく沈黙の後、言葉を告げる。



「じゃあ僕は行くよ。お休み、ミディ・・・」


そうして夜は耽っていった・・・・・













[あとがき]

五章終わりです〜
随分と長期間、書けなかった・・・この作品はだいぶ前からできてたんだけど用事が重なりまくって遅れてしまった。

時間が取れてきたので、これからはがんばって内容を書いていきたいと思っていますw


では、次章で〜・・・・・・・・





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