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第三章《謎の永遠神剣》




「・・・・・」

セロは何もかも失った顔をし、脱力している。

『セロ、元気を出して。 確かにキースが消えたのは悲しいけど今君にできることをしないと』

「・・・もうほおっておいてくれ。 あきらめていた最後の肉親がみつかったのに、それをも失ってしまった」

『・・・・・』

「僕はもうどうなったってかまわない、この世界だって知ったことじゃない・・・」

『・・・・・』

セロは絶望の叫びを【孤独】にぶつける。

「【孤独】、お前だって・・・」

『バカ!!』

「!?」

『セロのバカバカバカ! どうしてそんなこと言うの!?』

「孤独・・・?」

『キースさんの言ったことをわすれたの!? お前だけには俺のようになってほしくないって、
 お前は真の幸せを掴み取れって! その決死の願いを踏みにじる気なの?』

「だが僕になにができる! 兄の死を目の前にして何もできなかった無力な僕に!」

『何かができる!! やりもしないで偉そうに落ち込んでいる君にそんなこといわせない!』

「・・・!」

『・・・どこか違う所がある?』

孤独はセロに向かって言葉を説く。

『セロ、キースさんの言っていた洞窟へ行こう』

「兄さんが言っていた、あの洞窟か・・・」

『僕もできる限り手伝いするから、お願い元気をだして・・・』

「孤独、ありがとう。 お前のおかげで吹っ切れた、今僕にできることをやる」

「・・・そうだ、兄さんのこのペンダントも持っていこう」

キースが最後に残した遺品を拾い上げポケットへ入れる。

「よし行こう」

・・・そして、セロは孤独を自分の背に掛けると山脈の奥へ歩き出した。

「この奥にいったいどんな神剣があるって言うんだ・・・?」

『わからない、でも僕なんかと比べ物にならないくらい強力なマナを感じるよ』

「そうみたいだな、ただならぬ雰囲気だ」

そう言っていると洞窟の入り口に到着する。

「着いた・・・ この洞窟の中なのか・・・?」

『セロ、気をつけて。 この中からとても強い力を感じる、とても大きな・・・』

「わかった・・・」

そう言い、セロは洞窟の中へ足を踏み入れる。

しばらく歩いていると中から低い声が聞こえる。

「・・・そろそろ来るころだと思っていた。 予感のキースの弟よ」

「な、何!? どこにいる?」

突然の声に身構える。

「ここだ、汝のすぐ目の前だ」

「え・・・?」

暗い洞窟の中に目を凝らしてみると、巨大な龍の姿が見えた。

「わぁ!?」

「ようやく気づいたか、弟よ」

「あなたは誰なんだ?」

「わが名はサードガラハム、キースに言われてここに来たのであろう?」

「じゃあ、あなたが兄さんの言っていた洞窟の主?」

「その通りだ、・・・それでキースはどこにいる?」

「兄さんは・・・」

サードガラハムが言うとセロは口を閉ざしてしまった。

「・・・そうか、やはりあ奴のいっていた事は事実だったのだな」

「事実・・・? いいたいどういうこと?」

「キースは数年前に、ここを訪れこの洞窟の更に奥にある間にある神剣を封印しにきた。
 だが、最初は我のマナの獲得の者かと思い抵抗した」

「・・・・・」

真剣にセロは龍の話に耳を傾けている。

「だが、我の攻撃をかわしながら必死で我と話をしようと努力をした。 そのことに気づいて
 我はこの洞窟に封印を許可した、そして封印の終わったキースは我にあることを告げたのだ」

「そのあることって・・・?」

『今から約四年後、俺の弟がこの洞窟を訪れるだろう。 そのときにはすでに俺はこの世界にはいない
 だから、あんたに話しておきたいんだ。 このことを俺の弟に伝える伝達役を頼みたい』

「・・・!」

「当初はあ奴が何を言っているのかさっぱりわからなかった、どうしてそんなことがわかると聞くと
 いつもあいつは、俺の予感だよ、と言っていた・・・」

「そして、弟がここへ訪れたとき我がお前に神剣の場所まで案内してくれと」

「そう、か・・・ 兄さんは全部わかってたんだ、僕がこの世界にくることも
 自分がいつ死ぬことさえも・・・ っ・・・」

セロの目は微かに涙で潤んでいる。

「・・・キースの弟よ、ついてくるが良い」

サードガラハムはそういい、大きな体を洞窟の奥へ進めていく。

『行こう、セロ』

「・・・うん」

セロも後を追う。

そうすると、洞窟のかなり奥へ進んでいくとものすごく広い部屋へ出た。

「ここが永遠神剣が封印されている封印の間だ」

「すごい、ここがほんとに洞窟の中のなのか・・・?」

「こっちだ」

その間でサードガラハムはさらに奥へ行く。

「これがキースの持っていた永遠真剣である」

「これ、が・・・ 兄さんが命を掛けて護り通した神剣・・・」

セロは堅く閉ざされた壁を見る。

「曇りがかかっていて見えないが我が見たときには腕輪のような形をしていた」

「じゃあやっぱりこれが・・・」

「さらにもうひとつ言うと、その神剣には初めから何か特別なほどこしが掛けてあったようだ」

「どうしてそんなことがわかるの?」

「うむ・・・ 我もはっきりとはいえぬが強力な力を無理やり押さえつけていて
 そこから力がもれていたと言う感じがこの神剣からしたのだ・・・」

「じゃあ、兄さんの前に誰かがこの神剣を封印していたってことになるのかな」

「断定はできぬがおそらくそうであろう」

サードガラハムとセロは封印が施してある壁を見ている。

「さて、話の続きであるがお前はやがて大きな戦争が訪れると言うことをキースから聞いたか?」

「詳しいことは何も。 とにかくここへくれば何かがわかるってそういっていた」

「そうか・・・ 我はキースに教えられたことしか答えられぬ、それでも良いか?」

セロは無言で頷く。

「よかろう、ではまずこれから先起こることから話すとしよう」

「今から言えば数ヵ月後、ここに我のマナを解放に王国の者達が来るであろう」

「それって、あなたを消しに来るって事か?」

「そういうことになるな」

『まさか・・・ あなたほどの力を持つ方が負けるなんていったいどんな者なんだ・・・?』

【孤独】が素直な疑問を言う。

「だがしかし、来るもの達は四人。 その中の一人は人間といっていた」

「人間・・・? 僕と同じなのか?」

「それは少し違う。 人間という点では同じかも知れぬがどうやらお前とは別の世界のものらしい」

「別の世界か、サードガラハムさんあなたの運命は変えられないのか?」

「わからぬ、ただ・・・」

「ただ?」

「その人間はとてつもなく強靭なる力をもっているらしい、人間のもつ永遠神剣、おそらくその神剣は・・・」

「おそらくその神剣は、なんだ?」

「いや、なんでもない・・・ ともかくお前はしばらくここで訓練をするといい。
 たいした効果は得られないだろうがすこしは戦闘になれたほうがいい」

「戦闘か・・・ やっぱりその人たちと僕は戦うことになるのかな?」

「それはない、その者達は王国の者だ。 もし捕らえられたりでもすれば戦争に使われる。
 キースもそれは望んでいないだろう」

「じゃあ僕はどうすれば・・・」

「王国の者達が来るのはしばらく先だ、案ずることはない運命が蠢いているならそのようになるだろう」

「運命・・・ 兄さんにはそれが見えていた、やっぱり抗うことはできないのかな」

「・・・・・」

そうして完全に日が沈み、夜が空けようとしていた。


・・・それからしばらく日が過ぎていき、

「・・・・・」

「どうした、セロよ。 今日も何もしないのか・・・?」

「僕は戦いなんてしたくない、訓練だって傷つけるためだ。 そんなこと・・・」

「・・・だがしかしな、すこしでも慣れておかなければ、汝の否応無しに巻き込まれることもある」

「それでも・・・」

そうするとサードガラハムは、何かが来るのを察知したように

「セロよ、何者かがこちらへくる」

「! まさか王国の人たち!?」

「そうではないようだ、大きさが小さい・・・」

洞窟の外で影が見える。

「・・・あ、ここなら少し休めそうね」

「え、この声って・・・?」

セロは聞き覚えのある声が聞こえ驚く。

「やっぱりご令嬢か!?」

「・・・え、もしかしてセロなのですか!?」

その声の主はミディだった、セロは近づき、

「ご令嬢もこの世界に来ておられたんですね・・・」

「この世界って、一体どういうことなのですか?」

「そうか、まだご令嬢は知らないのですね。 あれ、でもその背中にかけてあるのって・・・?」

「ああ、これですか。 これは私の永遠神剣 第五位【純粋】です」

「もう永遠神剣のことはご存知だったのですか」

「ええ、最初は何かと思ったけど大体はこの子から教えてもらいましたわ」

「じゃあ兄さんが言っていた残り三人の内の一人はご令嬢だったのか・・・」

「・・・え、今兄さんといったわね? キースさんはいるのですか!?」

「いや、その・・・ 兄さんは・・・ ・・・」

セロはキースの最後をミディへ話した。

「そうだったのですね・・・ とても残念です、もっと早く会いたかった・・・」

「ご令嬢、すいません・・・ 僕のせいで・・・」

「・・・別にかまいませんわ、キースさんが幸せだったのならばそれでいいのです。 それより」

ミディはセロの頭を小突きながらこう言う。

「もうご令嬢と敬語はやめてください、今この世界ではそんなやり取りをしている暇はありません」

「あ、はい。 わかりました、いや、わかったミディ。 これでいいのか?」

「そうそう、私も普通に喋るね。 そのほうがよそよそしくなくていいわ」

「そうだ、さっきから気になっていたけれど大きな龍ね〜」

ミディは真っ暗でもっと近づかないと見えないはずの洞窟の中を見て言う。

「ミディ? サードガラハムさんがこんなに真っ暗なのに見えるのか?」

「ええ、大きなマナの流れが見えるわ。 完全ってわけじゃないけど、普通に見えるわ」

「すごいな・・・僕なんかぜんぜん微塵もわからないよ」

「セロよ、そこで会話も危険である。 洞窟の奥まで来るといい」

低い声が聞こえてくる。

「わかった、ミディ行こう」

そういって手を差し伸べる。

「・・・・・」

「あ、ちょっとずうずうしかったな。 ごめん」

「え、あ、いいのよ別に! 私は全然いやじゃないよ」

ミディは慌てて手をとって歩き出す。

(セロの手、こんな感じだったんだ。 なんだかキースさんに似てるなって兄弟だから当然か・・・)



・・・さらに日が過ぎ、ついに運命の歯車が動き出そうとしている。


そのころ四神剣の担い手の一人、高嶺悠人にもまた卑劣な命が下されようとしていた。

「エトランジェよ時は満ちた。 さぁ、我々のために働いてもらう時が来たぞ」

王がゆっくりと語り出す。

「王都より北に向かったリクディウス山脈に龍が住む洞窟がある。 そこに赴き、マナを解放してくるのだ」

王の言葉に周囲が騒然とし、身分の高いと思われる初老の男は目を剥いて王に抗議している。

(それほど、龍というのは恐ろしい存在なのか・・・?)

悠人は漠然と思った。

「静粛に、皆のもの。 これは既に決定された事なのだ」

すると、周囲はしんと静まりかえる。

「確かに、いままでリクディウス山脈の龍は我が国の守り龍として代々祭られてきた。
 だが、既にそんな無意味なものを存在させておくことは出来ない時代となったのだ」

「龍を倒せば大量のマナが解放される。 あの山脈はもちろん我々のエーテル変換の領域である、それに・・・」

ニヤリと笑い、王は悠人に視線を投げかけ悠人を指さす。

「そのためのエトランジェなのだ」

王がそう言った瞬間、あれほど不安そうな表情をしていた周囲の人間は、安心した表情に変わっていく。

(自分がやらなくていいとわかった途端これか・・・)

「エトランジェよ。 無論、やってくれるな?」

(佳織を人質にしておいてよくいう・・・!)

悠人はこぶしを握り締める。

(この距離ならあの頭痛があっても!)

「!?」

不意に服の裾が引っ張られる。

(エスペリア・・・?)

先程あったエスペリアとの会話を思い出す。

(今は耐えるときです。 カオリ様のためにも・・・ そして、ユート様達のためにも)

そして王を睨むことなく、口を開いた。

「ラキオス王の命・・・ しかと承りました」


表情を変えることなく続ける。

「我々は全力を持ってリクディウスの魔龍を討ち倒し、ラキオスにマナを持ち帰ります」

胸に手を当てて、はっきりとした口調で宣言する。

「う、うむ」

一瞬、ラキオス王の目には悠人を恐れるような色が見えた。

「・・・よく言った。 それでこそ我が国が誇るエトランジェ」

王は悠人達を見回した。

「スピリットと共に、明朝出立せよ」

「ハッ!」

「解っていると思うが、失敗の報告など受け付けぬぞ」

「はい、わかっております」

「我が剣【求め】に誓い、龍討伐の命を果たします」

悠人の宣言に、周囲の人間がざわめく。

「うむ、では準備をしっかり行うように。 下がってよい」

「はい」

悠人達が立ち上がった。 その時、

「エトランジェよ」

レスティーナが声をかける。

「あ、はい」

悠人は素で、冷静に返事をする。

「あなたの身体はこの国全体のもの、必要とされている。 必ず無事に帰ってくるように」

「殿下、ありがとうございます、必ず帰還いたします」

頭を下げ、謁見の間を後にする。


・・・夜が明け、リクディウス山脈へむかっている悠人達。

「行きましょう、ユート様」

悠人の後ろにいたエスペリアが言った。

「聞いた話によれば、バーンライトの兵も同じく魔龍を狙っているとのことです。 急ぎましょう」

「・・・ん、ユート急ごう」

アセリアがいつもの調子で言う。

「パパ! がんばっていこ♪」

(死ぬための戦いじゃない。 生きるための戦いなんだ)

手を握りしめる。

「わかった、行こう!」


・・・その時、セロが何かに気づいたように周りを見回す。

「! 何だ? この感じは・・・」

「・・・どうやら運命の時が迫っているようだな。 汝たちはここにいるがいい、我は行ってまいる」

サードガラハムはセロとミディにそう言う。

「・・・・・」

歩いていく大きな龍の背中をセロは見つめていた・・・・・





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