第三章《決死の願い》
「ふあぁ・・・ 今日もいつもと変わらない朝だな・・・」
おもむろに窓の外を眺める。
「もうここに来て一ヶ月か、俺が一人いなくなってもあの世界はいつものように回り続けているか・・・
セロは俺がいなくなったことによって今はとても辛いめにあっているだろう・・・」
キースはここに来て一ヶ月間ずっとモニカ達と一緒に訓練をしてきた、それもありいまはだいぶなれたようだ。
「あら、キースもう起きてたのね」
「モニカさんか」
「どうしたの? 今日は雨が降っているわ。 外を見るようなことがある?」
「ちょっともとの世界のことを考えてたんだ・・・ 今頃どうなっているのかなって」
「そう・・・」
外はすごい量の雨が降り注いでいる、まるで一ヶ月前キースがこの家に来たときと同じように。
「それにしても参ったわね、これじゃ今日の訓練はできそうにないわ」
「さすがにこの量が降っているとなるとな」
そのようなことを話していると、突然叫びが聞こえる。
ギオオォォ!
「なんだこの声は!?」
「これは、カスターネの声ね。 危険が迫っているときはこんな声を出すようにお願いしているわ」
「危険が迫っている・・・? なぜなんだ?」
「・・・まあ、心当たりがないわけじゃないけどね」
「・・・・・?」
ヒュオン!
するとカスターネが扉の向こうに降り立つ。
「カスターネ、やっぱりまたきたのかしら?」
モニカは扉を開け外にいるカスターネに声を掛ける。
「はい、そのようです。 前方493m先に敵影が3人ほど・・・」
「敵影っていったい?」
モニカに続いてキースが話す。
「狙っている敵はいくらでもいるということだ・・・ いや正確に言えば
モニカ様が持っている永遠神剣が目当てだがな・・・」
「モニカさんが持っている神剣・・・?」
「二人とも、おしゃべりはそこまで。 きたわよ・・・!」
カスターネの言うとおり三人の者が来る。
「お前がモニカだな」
「そうよ、何か私に御用かしら?」
「ふん、わかっているくせにとぼけるでない。 さああの神剣を渡してもらおう…」
「イヤよ」
言葉を言い終える前に即答するモニカ。
「ならばマナとなり消えるだけだ、お前たちいくぞ!」
「了解」
後ろの二人に声をかけ戦闘態勢をとる。
「はぁ、全くめんどくさいわね。 またこういう輩がきだしたってことはそろそろここもだめかもね」
モニカは大きく肩でため息を漏らし、キースとカスターネに向き直る。
「カスターネ、いくわよ。 あの三馬鹿どもを片付けるわ」
「わかりました、わが背にお乗りください」
カスターネの背に乗りながらキースに声をかける。
「キース、あなたにも戦ってもらうわ。 私たちが二人相手にするからもう一人の…
そうね、あのリーダー格のやつと戦いなさい」
その言葉に相手のリーダーが反論する。
「なんだと!? そんな小僧に何ができる、上位神剣を持たずしてエターナルと戦うつもりか?」
「あんたの相手なんてこの子で十分よ、さあ行きなさい」
「俺があいつと戦うのか?」
「そう、いづれ一人で戦わなくちゃいけないときがきっとくる。 そのとき大切なものを守れる力が必要なのよ」
「…わかった、【砂塵】いけるか?」
『もう準備は万端だがよ、全くあの女はどうかしてるぜ。 上位神剣と戦わせようなんてさ』
「そういってる場合ではあるまい、いくぞ!」
「ッチ、舐めやがって! 目障りな小僧だ!」
「ダアアァァ!」
ヒュオン! ガキン!
「やはりこの程度、所詮俺の相手ではない! ずあっ!」
「うわ!」
剣で攻撃を受け止められ跳ね飛ばされる。
「キース、倒せとは言わない。 私たちがあの二人を倒す間の足止めさえできればいいわ、頼んだわよ」
そういってカスターネが翼を広げ、残りの二人へ向かっていく。
「ふ、あいつらがはあんれている間に俺がこの小僧を倒しあの剣をいただく」
「さっきから小僧小僧うるせえ!」
「言われたくなければさっさと死ぬがいい!」
ブォン! ガキィイイ…!
「重い… すごい力だ、だけど…!」
ヒュオン、
「む、高速で動くか。 こっちだな!」
敵は後ろに向きキースの攻撃を身構える。
「・・・残念、俺はこっちだ!」
「何!?」
ブン、ザシュ!
敵の右腕を軽く切りさくキース。
「こんな動きについてこられないのか? あんたはさっきから油断しすぎだ。
エターナルじゃないからって舐めるな!」
「そのようだな、ならばそろそろ本気で行くとしよう」
「それは無理ね」
態勢を立て直して集中をしているとモニカの声が聞こえる。
「!?」
「ごめんね、せっかくこれから本気出してくれようとしてたのに」
ドシュ・・・ ザン!
腹部に剣をつきたて中から切りさく。
「ぐお・・・ そんな・・・」
「カスターネ、後始末お願い」
「了解しました、消えろ雑魚共。 グオオオォォ!」
モニカはそういいながらキースのほうへ歩いてゆく、まるで相手なんてどうでもいいかのように。
「ありがとうキース、時間は十分稼いでくれたようね」
「あ、ああ・・・」
カスターネの炎に当てられて霧と化していく姿を見る。
「どうしたの? 死ぬ所初めてみた?」
「俺は死ぬなんて考えたこともない、ましてや自分が殺すなんて・・・」
「・・・そうね。 さ、早く戻ってお風呂に入りましょ、雨でもうびしょびしょ気持ち悪いわ」
雨でずぶぬれになった髪の毛をあげる。
「モニカ様、われは念のためこの当たり一帯を警戒しつつ調べてまいります」
「お願いするわ」
カスターネはそういって雨の中飛び立つ。
「今日はもう休みましょう、明日のためにもね」
「わかった」
・・・・・そうして夜になっていった。
ギオオォォ・・・!
「!!」
「また危機が迫ってきているってことみたいね」
「でもさっきより大きな声だぞ」
「みたいね、それほど大きい障害ってことなのでしょうね・・・」
そうしていると外からカスターネの早口に声が聞こえる。
「モニカ様!! 大変です、急いで準備をして出てきてください!」
「わかったわ、すぐ行く! キースも早くね」
「ああ・・・!」
ガチャン、と勢いよく空け外へ出ると夜になっていた。
「な、何もいないぞ・・・?」
てっきり敵が大勢いるのかと思っていたキースは肩透かしをくらった。
「何もいないとうれしいけどね・・・」
「え?」
「・・・来る!」
・・・・ヒィィン
カスターネが声を上げると一人のキースと同じくらいと思える年の少年が現れた。
「・・・ここか、例の場所は」
「! いきなり現れた?」
突然現れた少年は辺りを見回し、
「なんだ、あの剣があるからもっととんでもないやつがいるのかと思ったらこの程度のやつらか」
「いきなりきてずいぶんな言い草ね」
少年に対してモニカが反論する。
「ほう、あなたがあの剣を護っている方か。 なるほど、うわさの通りお美しい・・・」
ジロジロとモニカを見回す。
「そんなことをする前にまず自分の名を名乗ったらどうかしら?」
「そうだな、申し遅れた。 俺の名前は鏡花のミラージュ、永遠神剣 第二位【鏡花】の使い手だ」
「第二位の上位神剣ね・・・」
「そういうことだ」
(このままこいつただ一人・・・ いくら二位の剣だってカスターネと二人なら勝てるかも・・・)
モニカがそう考えているとミラージュは口を開く。
「ああ、そうそう。 俺一人だと思って油断していると痛い目を見るよ」
「・・・?」
ミラージュが合図を送ると大量のエターナルミニオンが現れる。
「!!」
「こ、こいつらいったいどこにいたんだ!?」
「俺が今ここで造り出した、だから誰も気づかなかったのさ」
「っく・・・! 私としたことが・・・」
(こんなに多くの敵に囲まれたらどうしようもないわね・・・)
「キース!!」
モニカは突然大きな声でキース呼ぶ。
「な、なんだ?」
周りの状況に呆然としていたのでハッとなる。
「これをあなたに渡しておくわ・・・」
そういって服の間から腕輪(?)のようなものを取り出す。
「これってなんだ・・・?」
「さっきの昼のやつと今こいつらが狙っているものよ」
「俺に渡していったいどうするんだ?」
「おそらくここにいる敵の人数は半端な数じゃないわ、私とカスターネで活路を見出すから
あなたはそこから逃げるのよ」
「なんだって、俺は逃げない! 最後まで戦いたい!」
「わがまま言わないの、それに今のあなたじゃ太刀打ちできないわ。 とにかくそれをもってどこか遠くへ、
ずっともってろとはいわないわ、隠せそうなところがあればそこに隠せばいい」
「だけど!」
「いい? キース、あなたとはずっと一緒にいられないわ。 ここの敵たちを片付けたら私たちは
また別の世界へ行く。 ここで私たちもお別れよ」
「・・・・・」
「だけどねキース、これだけは覚えておいて」
そういってキースの頭をなでながら言う。
「あなたには今護りたいものがない、でももしそれができたときは全力で護るのよ。 大丈夫、
案ずることはないわ、護りたいものがある者は無敵なのよ、知らなかった?」
冗談のように笑ってみせる。
「カスターネいくわよ、活路を見出すわ!」
「了解いたしました・・・!」
カスターネは灼熱の業火を吐き出し敵たちを退ける。
「さあ、いきなさいキース!」
「わかった、今までありがとうモニカさん・・・!」
キースは走り出し、モニカはそれをやさしく見守る。
「カスターネ、キースに近づく敵たちに対して援護をしてあげて」
「し、しかしお一人では・・・」
「大丈夫、私一人で平気よ」
「・・・わかりました」
名残惜しみつつキースと同じ方向へ飛び立っていく。
「大事な弟子と神剣を逃がせて満足かい? いやいや、愛あふれる師弟だったね。 俺は涙が出たぜ」
ミラージュは馬鹿にするように不敵に笑う。
「・・・以外ね、知っててわざわざ見逃すなんて」
「俺の本当の目的はあなたの弟子でもなければ剣でもない」
「・・・!」
モニカは何かに気づいたように瞬きする。
「そういうことだ」
ミラージュは不気味に笑いモニカを見る。
・・・キースは走り続け、その後ろからはカスターネが一緒に来る。
「はぁはぁ・・・ いったい何人いるんだ・・・?」
「文句を抜かしている暇はない、もう少しで敵を振り切れるいそげ!」
「わかっている!」
そういって灼熱を吐き敵をなぎ倒すと、敵影が見えなくなる。
「よし、振り切った!」
「もう我の仕事はここまででいいな、モニカ様が気にかかる戻らせてもらう」
「まってくれ、カスターネ。 お前と一緒に訓練できたりして楽しかったぜ、また会うことがあったらいいな」
「・・・そうだな、だが今の我とお前が会うのは最後だろう。 ではな」
意味深な言葉を残して飛び立つカスターネ。
「今の・・・? いや、今はそんなことを考えてるときじゃない。 いそがないと!」
そして、しばらく走り続けていると突然【砂塵】の声がする。
『まて、キース』
「?」
『どうも様子がおかしい、敵たちは先ほど振り切ったはずなのにまた同じ神剣を感じるぞ』
「なんだって!?」
【砂塵】と話しているとまたエターナルミニオン達が姿を現す。
「三人か、だけどきている数はこんなものじゃないはずだ。 【砂塵】わかるか?」
『・・・敵の数は未知数だ、だが襲ってくる気配はない。 足止めのつもりなのだろう』
「そうかい、だったら突破するだけだ!」
『全くお前の無茶に付き合わされる此方のみにもなれ』
「そういわずに力を貸してくれ、だああぁぁ!」
剣を振りかぶり一閃、長い戦いが始まる・・・
ザシュ、ドシュ!
敵を切り裂く音が響く、だがまだまだ減る様子はない。
「っく、いったい何人いるんだ・・・!」
『すこし長く無茶な戦いが続きすぎたようだな・・・』
「・・・?」
『・・・む、キース! 危険だすぐに回避をしろ!!』
「何・・・?」
ヒュン、バキイイィィン・・・
無意識で腕が動き【砂塵】が盾となり折れてしまう・・・
「え・・・ どうして、今俺何もしてないのに・・・?」
『全く・・・はじめに言っただろうが、無茶に付き合わされるほうにもなれと』
腕は【砂塵】の意識で動いた、その結果無残にも折れてしまう。
「何でだよ、どうして俺なんか・・・」
『自分はただの踏み台に過ぎない、これからお前はもっと強くなる。 気に留めることでもない』
「・・・・・」
【砂塵】が消えていくのと同時にエターナルミニオン達も姿を消す。
・・・一連の過去の話を終えるとセロが聞いてくる。
「そうやって剣が変わったんだね」
「ああ、いまでも【砂塵】のことはわすれてない」
「でも、兄さんはその剣を手に入れたから今まで生きてこられたの?」
「だろうな、だが最近は自分を保っているのがつらい。 剣に呑まれているわけではないがな・・・」
「・・・そういえば、兄さんはモニカさんのことが好きだったの?」
「いや、単なる憧れと尊敬だろうな。 好きと言う風に見たことはない」
「そうか・・・」
「それがどうかしたのか?」
「い、いや特になんでもない」
キースは不思議そうにセロを見ると話を変える。
「・・・セロ、あのファリィというスピリットには気をつけるんだ」
「ファリィを? どうして?」
「あいつはモニカさんに似ている、姿とか性格とかも何かを感じる」
「モニカさんに似ているんなら心配事はないんじゃないのか?」
「そう、だよな・・・ まあ今のは独り言だと思って気にしないでくれ」
・・・そうして、二人は歩き続けラキオスの領内へ入っていった。
「・・・はぁはぁ、に、兄さん・・・ まだつかないのか・・・?」
もうすでに、日が沈みかけている。 当然だ、ラシード山脈からずっと歩き続けているのだ。
「なんだ、もう息が上がったのか? まだまだ軟弱だな」
かなり疲れているセロに対し、キースは息ひとつ切らさず歩いている。
「まあ、安心しろもうラキオス王国の領内だ。 もうすぐつくだろう」
「ラキオス・・・?」
「そうだ、この世界の国のひとつだ。
朝俺達が出発したところはダーツィ大公国、とまああげればたくさんの国がある」
「そうなんだ、で僕に見せたいものっていったい何?」
「あせるな、もってこれるようなものじゃないよ」
「?」
そして、リクディウス山脈に入ろうとした瞬間に空を裂く音が聞こえる。
「!?」
「・・・この音は?」
(何かが空から聞こえる・・・? なんだ!?)
キースは何か感じ取ったように叫ぶ。
「セロ、危険だ! 逃げろ!」
「え!?」
ゴオオォォ、ズドォン!
「に、兄さんありがとう・・・」
高速で炎の球がセロに向かってくるが間一髪でキースが救出する。
「・・・お前は、カスターネ!?」
二人は空を見上げる、すると龍の姿をした者が見える。
「・・・キース、久しぶりだな」
「カスターネ久しぶりじゃないか、お前はまだこの世界にとどまっていたんだな
だけど何故いきなり攻撃を仕掛けてくる!」
「我がここに来た理由はただひとつ、モニカ様の神剣が返してもらうためだ!」
「俺がモニカさんに託された神剣か。 ならなおさらだ、どうしてこんなことをするんだ」
「貴様のせいでモニカ様が亡くなったからだ! 絶対に貴様は許さん・・・!」
「それはいったいどういうことだ? モニカさんが消えた・・・?」
・・・カスターネはキースを送り届けた後、モニカの所へもどる。
「モニカ様が気がかりだ・・・ 大丈夫とは言っていたが」
「!?」
元の場所に戻ってみると信じられないような光景が映った。
「はぁはぁ・・・」
「なかなかいい強さだ、今まで相手にしてきた雑魚とは違うね。 うんうん」
「ふ、ふん。 無傷でよく言うわね・・・」
体力が限界に近づいているモニカに対しミラージュは傷はおろか汗すらかいていない。
「あなたから受けた傷は数十箇所あるさ、だけど俺の治癒は非常に早くてね、長期戦だと有利なのさ」
「モニカ様!!」
カスターネが助けに向かおうとすると、
「動かないでもらおうか」
「シャドウシール!」
突然カスターネは体が動かなくなる。
「これはいったい・・・!?」
「まあまあ、お前はおとなしくこの美しい女性が俺に倒される所を拝んでいな」
「さあ、そろそろフィニッシュと行こうか。 たあぁ!」
(またあの見えない攻撃!?)
ミラージュの姿が消え、モニカの体に剣の傷が次々入ってくる。
「っあ、は、くぅ・・・」
ひざを折り地面にしゃがんでしまう。
「・・・クク、実に美しい。 いつ聞いても興奮するよ、あなたのような女性の悲鳴を聞くのは」
姿を現し、モニカに近づきあごを摘み顔を自分のほうに向けさせる。
「どうだい? 何もできずに自分体を切り刻まれて、怖くて何もできないだろう?」
「さあ、どうかしらね・・・ 私のこの命はもう捨てた身よ、いまさら怖いことなんてないわ・・・」
「ふぅん・・・ そういえばさっき言ってたな。 護りたいものがある者は無敵って、全く笑わせる言葉だな」
「・・・もう護りたいものは護りきった。 後は好きにすればいいわ・・・」
「負け惜しみを、なら言うとおり好きにさせてもらおうかな」
ズゴオオォォ!
「! なんだ?」
ミラージュに炎が迫ってくる所を紙一重でかわす。
「モニカ様! 逃げてください、こいつは我がひきつけておきます!」
「へえ、シャドウシールで封じられているにもかかわらず攻撃してくるとはな」
「カス・・ターネ・・・?」
「そうです、我が何とかしますから早く!!」
「ごめん、ね・・・ 私はもう動けそうにないわ・・・ 体全体が言うことを利かない・・」
「そ、そんな・・・!」
「あっははは、どうやら無駄なようだったな。 さて、そろそろ終わりにするか」
シャキン! と剣を構える。
「・・・・・」
「モ、モニカ様!!」
「なあに、怖がることはないよ。 あなたはずっと行き続けます、俺の中でね・・・!」
(キース、私は・・・)
・・・そして、また一人マナへと還っていく。
「あ、ああ・・・」
「クク、実によい人だったな。 もう帰るとするか」
「まて・・・!」
「ん? ああ、まだお前がいたんだったな」
動けず空で固まっているカスターネへ近づく。
「使えていた主人が死んで怒りで満ちているのか? だったら筋違いというものだな」
「何・・・?」
「確かに実際手をくだしたのは俺だが、ならなぜ俺と戦うことになったんだ?」
「何をわけのわからないことを・・!」
「まだわかんないのか、はじめから俺と戦わず逃げていれば大丈夫だったてことを話しているのさ」
「・・・!」
「最初は戦うのもいいがあの女性は俺の強さを見極めていた。 敵わないとね
ならなぜ逃げなかったのか、ここまで言えばお前でもわかるだろう?」
「もしや、キースを逃がすため・・・」
「そうだ、自分がこの場から離れればあいつが狙われると考えたんだろう。
本当にやさしい人だ」
「・・・・・」
「これでわかっただろう。 さあ、今お前が殺したくてうずうずしている相手は誰だ?」
「・・・グガアオオォォ!」
カスターネの封がとけ飛び立っていく。
「ふふふ、あーっははっは・・・」
・・・その話を聞き二人とも唖然とする。
「カスターネ、お前はだまされている! 正気を取り戻すんだ!」
「だまされているものか、死んでしまった原因がお前であることは間違いないだろう!」
「・・・そうだ、だけど!」
「もうお前と話すことなど何もない、あの方の剣を渡せ!」
「・・・もし断ったら?」
「その時はすこしだけ死ぬのが早くなるだけだ」
「そいつは無理だな、奪うなら力ずくでやってみろ!」
「セロ、お前は下がっていろ。 こいつとは俺が戦わなくちゃいけないんだ」
キースはそう言い放ち、神剣を構える。
「わかった、兄さん。 負けないでね・・・」
「負けるわけねーよ、いいから下がってろ」
セロはキースから離れ見守る。
「さてと、待たせて悪かったな。 やろうぜ」
「ふ、すぐ殺してしてやる・・・」
「どうかな」
カスターネは超スピードでキースに襲い掛かる。
ゴオオオオォ! ガキイイィン!
向かってくるカスターネの牙をキースは神剣で受け止める。
「なかなかいい速度だが、そんな牙でこの俺はたおせん!」
牙をはじき、左翼に斬りつけようと神剣を振り下ろす。
「もらった!」
そう確信したキースだが、
ギイイィイン!
「・・・そんな攻撃では我に傷をつけることなどできぬ!」
左翼で神剣を受け止めると、残っている右翼で反撃する。
ブオォン!
「っ・・・!」
間一髪で避けるキース、まだ両者本気をを出していない。
「まさか、お前の永遠神剣はそんな形をしているとはな。 してやられたよ」
そう言うとオーラで輝く翼と牙を見る。
「我は他の者と違い特異だからな、そろそろ本気でいかせてもらう!」
「俺だって、負けはしないぜ」
ゴオ!
と、大きな羽音を立てながらカスターネは空へ上昇していく。
「人間のような姿をしているお前ではこの我までに攻撃は届かないだろう」
「空から攻撃か? だが魔法ならこれだけ距離があれば避けることなど容易だぞ」
「ククク、魔法ならな・・・!」
「!?」
「食らうがいい! グオオオォオ・・・!」
「ファイアーブレッシング!」
炎の渦を吐き出すカスターネ、そしてキースは防御体制に入る。
「マナよ、我を包み込むオーラを作り出せ!」
「エレメンタルボックス!」
すると、キースの周りに虹色の四角い防除壁ができる。
「いくらお前のブレスが強力といえどこれなら効かない!」
「そうだなぁ、確かにお前は効かないよな・・・!」
「何をわけのわからないことを!」
「まぁだ気づかないのか!? 我の狙いは初めからお前ではない!」
「!? まさか!?」
キースはセロのほうへ目をやる。
「げほげほ、っくなんなんだこの炎は息ができないし、熱い・・・」
すると、苦しんでいるセロがいた。
「やはり、セロか!?」
「気づくのが遅すぎたようだな。 死ぬがいい!」
炎に包まれているセロに向かって突進するカスターネ。
「覇王の牙!!」
牙をむきセロ噛み砕こうとしている。
「・・・っ! やらせるか!」
防御へ気から出て、セロに向かう。
ガブゥ、ギギギリ!
鈍い音が聞こえ、セロが目を見開くと左の肩を噛み付かれているキースが目に入った。
「に、兄さん!」
「ほう? とんだ良い誤算だったな。 まさか庇い自分から負傷してくれるとわな」
「・・・まだだ!」
「何っ!?」
ブン!
神剣を振り、カスターネを吹き飛ばす。
「ぐっ・・・!」
相当手痛いダメージのようでキースはかなり体力をへらしたようだ。
吹き飛ばされたカスターネは上空で体制を取り戻す。
「まだこんな余力があるとはな、さすがあの人が認めただけの事はある」
「はぁはぁ・・・」
(やはり俺の予感通りだな、やっぱり自分じゃ運命を変えることはどんなにがんばってもできない・・・
もう俺に残された手段はこれしかない、すまないセロ・・・)
負傷した肩を抑えながらキースはセロに声をかける。
「聞け、セロ。 ここの山脈に洞窟がある、そこにはあいつが狙っている永遠神剣がある
お前にはそこへ行き洞窟の主へ自分の事をつたえろ! 」
「どういうこと? わからないよ!」
「・・・そして、この世界はやがて戦争がおとずれる。 お前は自分自身を護るんだ。
しつこい様だが何があっても戦争に手を貸してはいけない、これは俺個人の願いだがな。 運命はそう甘くない」
「運命・・・? 兄さん、あなたの目には今何が見えているんだ・・・?」
「・・・・・」
「お前は知らないだろうが、天変地異に巻き込まれこの世界に来たのはお前一人ではない
俺はそれが誰なのかわからないが三人、この世界に来ている。 セロなら知っているんじゃないのか?」
「三人・・・?」
「とにかく、くわしいことを説明してる暇はない、そこへ行ってくれわかったな!」
「う、うん。 でも、兄さんはどうするんだ?」
「俺はあいつを倒す、そしてお前を護る」
「だったら別にお願いなんかしなくて二人で行けば・・・」
しばらくの沈黙の後ゆっくりと話し始める。
「・・・最期に言わせてくれ、俺達兄弟でまともに話ができなかったからな。
長い間お前にはつらい思いをさせてきたと思う、許せとは言わない。」
「兄さん・・・?」
「でも、俺はお前と元の世界すごした時間もこの数日間もすごく幸せだった。
セロ、お前にだけは俺と同じような一生をおくらせたくなかった・・・
お前は生きろ、生きて真の幸せをつかみとれ。」
するとキースは魔法の詠唱をする。
「エレメンタルボックス!」
セロは四角いブロック状のものに包まれ周りが見えなくなる。
「何これ・・・? どういうこと、兄さん!!」
セロが叫ぶと、キースはやさしく微笑み・・・
「・・・・・・じゃあ元気でな、死ぬなよ! 【孤独】、セロをたのむ」
『・・・・・・』
キースは少しの間目を瞑り、覚悟を決めたように大きく見開く。
「・・・よし、行くか」
『キースよ、本当にこれでいいのか?』
「【予感】か、何がだ?」
『お主死ぬ気であろう?』
「まあ、な。 この傷じゃあ本気で殺りあわなきゃ勝たしてもらえなさそうだしな」
そういうと空を飛んでいるカスターネに目をやる。
「もう、兄弟の話は終わって死ぬ覚悟ができたのか?」
「ああ、覚悟はできたぜ」
「ならば最後にもう一度だけ聞こう、あの神剣を渡す気はないのか?」
カスターネが言うとふぅとキースがため息をつくと、
「だから何度も言ってるだろ、渡すわけにはいけない。 絶対にな!」
「・・・よかろう、ならばもう良い。 お前を始末し返してもらう!」
「そんなことはさせねえよ、それにお前なんかに始末もされねえ」
にらみ合う二人、そして最初に沈黙を破ったのはカスターネのほうだった。
ゴオオオォォォ!!!
キースに向かって急降下して来る。
「・・・あまい!」
噛みつかれる瞬間に神剣を突き出し攻撃を受け止める。
「なかなかやるではないか、だが初めより明らかに動きが悪いぞ。 傷が痛むか? クク」
ドロッと肩の血が流れ金色と化して消えてゆく。
「さあ、な!!」
神剣を振り下ろしカスターネを突き飛ばし、すかさず詠唱を始める。
「精霊よすべてを貫く衝撃となれ」
「エレメンタルブラスト!!」
バチバチ、ズシャアアァァ!
魔法がカスターネへ直撃する。
「グギァァァァ! お、おのれ・・・ まだこんな力を残していたとはな!」
カスターネはいきりたち空へ舞い上がる。
「もう容赦はせん、グオオォォ・・・!」
「ファイアーブレッシング!」
ゴオオォオオ・・・!!!
口から吐き出される炎がキースを襲う。
「・・・!! まずい、このままでは・・・」
炎をガードしたがキースはもう戦える余力を残していない。
『キース! 大丈夫か!?』
「いや、やばい無理だ・・・ もう頭もクラクラして意識が飛びそうだ・・・」
よろめき今にも倒れそうだ。
「次で決めないとこっちがやられるな、確実に・・・」
『どうする、いけるのか?』
「何言っている、始める前に言っただろ。 セロを護るってな、やってやるさ!」
『そうか、おぬしがそういうならもう何も言わん。 我が命おぬしに託そうぞ!』
【予感】が最期のきらめきを発する。
「ありがとう【予感】、お前に礼を言うのはきっとこれが最後だな。 だけど俺はお前と共に戦えて楽しかったぜ・・・」
『・・・・・・・・』
そのときキースの血が【予感】に流れ涙のように見えた・・・
「さあ、これで終わりにしようぜカスターネ!」
「いわれなくても今すぐ終わりにしてやる! 食らえ覇王の牙!!」
いままでの何倍ものスピードで降下してくる!
「ハアアアァァァ!!」
キースもカスターネへむかって飛ぶ!
「! バカめ、空を飛ぶとはな。 ここは我が最も得意とするところぞ!」
するとキースは神剣を右手だけで持ち、負傷している左腕を突き出して飛んでくる。
「マナよ、集え。 そしてこの腕を強固させよ」
「エレメンタルコーティング!」
魔法を唱えると左腕は光を放ち強固な状態になった。
ガブゥ、グシャアアァァァ!!
「・・・・・」
「ククク、終わったのはキース! お前のほうだったな。 空中では何もできまい」
「これはお前を油断させるためにやった、と言えばすこしはあせるか?」
「何だと!?」
「自分の得意なところだと相手は最も油断しやすい、これって常識だと俺は思うがね」
ドスッッ! ズシャアアァァ!
そういうとキース持っている神剣をカスターネの首へ突き刺す。
「グ、ギ、ギヤアアアアァァァァ!!」
カスターネは耳を塞ぎたくなるくらいの悲鳴を上げる。
「油断して完全に食いちぎらなかったのがお前の汚点だったな・・・」
「ギ、ギギ、な、ぜだ・・・ 貴様、恐怖を感じないのか・・・?」
「恐怖? ないね。 知っているだろ? 護るものがある奴は、無敵ってことをさ!」
「そ、その言葉は・・・!」
ザシュウウウゥゥゥ!
カスターネの首を切り落とすキース。
「ウギ、ギオオオォォォ・・・・・」
断末魔の声と共に消えていく・・・
カスターネに支えられてたキースも地面へ向かってたたきつけられる。
「はぁはぁはぁ・・・ 終わったか・・・」
大の字になり寝転がる。
「お疲れさん、【予感】。 お前も疲れただろう無理させてすまなかったな。」
『私は良い、それよりおぬしは大丈夫なのか?』
「ん? 俺か、ああ全然平気さ、もう痛みも何も感じないよ」
フゥっと大きなため息をつく。
「・・・でも、さすがにつかれたよ。 少し休もうかな」
『それは良い、ゆっくりと休むがいいキースよ。 私も休もうと思ってたところだ』
「そっか、じゃあお休み【予感】・・・ ・・・」
『うむ、ゆるりと休むがいい。 ・・・さらばだ、我が主人よ。』
キースは満面の笑みで眠りにつくと【予感】共に静かに消滅していった・・・・・
一つのペンダントを残して・・・
・・・夜が明け、キースの魔法効果が切れて周囲の音やものが見えるようになったセロは目を覚ました。
「う・・・ん・・・ あれ、いつの間にか寝ちゃったのかな。 ・・・そうだ! 兄さんは!?」
辺りを見回すがまるで昨日の戦いがなかったように平原が続いている・・・
「誰もいない・・・ あのカスターネっていう竜も兄さんも、いったいどこへ・・・?」
するとセロはあるものを見つける。
「こ、これは兄さんがいつも大事に持っていたペンダント・・・? なんでこれが落ちているんだ!?」
しばらく考えた後、最悪の答えにたどり着いてしまった。
「まさか兄さん・・・ じゃあ、あの時の言葉は・・・」
最期に見せたあの笑顔が思い出される。
「・・・・ぅ、う、うわああああぁぁぁ!!!」
『セロ・・・・』
セロの泣き声が果かなく鳴り響く・・・・・