第十一話 永遠神剣【摂理】
カナギ達は連日南へと歩いていた。
途中ではカナギのサバイバルの能力のおかげで、食料には困らずに進むことが出来た。
何日過ぎたのか全く考えもつかない中、三人は旅を続けている。
「距離的にはもう少しなんだろうけどまだ山は終わらないね」
「歩いてきましたからね。あと山岳では移動速度は極端に落ちているのでしょう」
「ん〜私としてはもっと大変なことに気がついたんだけどね」
ルリニアの言葉にカナギとフィーリアは反応して振り向く。
「どういうこと?」
「多分なんだけど私達・・・ソーン・リーム領にいるわよ」
「まあソーン・リーム領については途中通らなければいけないんだけどね」
「そういうことじゃなくて・・・昨日見下ろしたら明かりが見えたのよね」
つまりすでにソーン・リームの町の近くまで来ている、とルリニアは言いたかったのである。
二人はやっとそれに気がついた。
「はっきり言ってしまうと・・・」
「明かりが見えたのであれば・・・」
「私達は焚き火を消し忘れていたわよね」
二人はお互いの目を見合わせた。
その瞬間である。
三人のいる方向に矢が放たれてきた。
「ルリニア・・・」
「はいはーい」
「気がついていたんなら今度からはすぐに報告するように」
「了解でっす」
三人は矢が飛んできた方向とは逆に走り出した。
「他国からの侵入者だ。追えー!!」
三人の追って大勢の兵が追いかけてくる。
普通の兵士であり、スピリットではないため三人の実力であれば敵ではない。
だが余計な手間を取るため三人は一気に走ることにした。
神剣の力を使えば普通の兵士では追いつけるはずが無い。
そのためすぐに引き離すことができた。
「ふぅ〜危ない危ない」
「あのー・・・カナギ様・・・・・」
「なんだいフィーリア?」
「場所を考えて休まれたほうがよろしいかと・・・」
三人が休んでいた場所は町へと続く街道であった。
どう見ても怪しい三人組が見通しの良い場所で休んでいるのである。
いつ通報されてもおかしくなかった。
「ここから行くのが一番早いんだよね」
「それもそうですけど・・・」
休んでいたら遠くから何か影が見えた。
「やばいね・・・」
今度は先ほどのようにはいかないだろう。
遠くに見えた影はスピリットだった。
「とりあえず逃げるとしようか」
「はい」
「はーい」
また三人は走り出した。
しかし今回は相手もスピリットであるため、なかなか引き離すことが出来ない。
凄まじい移動速度での鬼ごっこが続いていた。
だがその時に一つ問題が起こった。
「どちらがマロリガンなんだ・・・?」
道が途中で二手に分かれているのが見えた。
しかし考えている余裕はないので、カナギ達は真っ直ぐ走っていく。
一日中逃げ続けて、夜になったところでカナギは気がついた。
「あのさフィーリア」
「なんでしょうか?」
「国境って関係ないのかな?」
フィーリアははっとした。
途中の分かれ道を思い返したのである。
普通に考えればすでにマロリガンの国境に入っているため、ソーン・リームのスピリットが入ることはできない。
ということは道を間違えたとしか言いようが無かった。
「あの分かれ道で私達は道を選び間違えたのかもしれません・・・」
「まあフィーリアが気にすることはない。僕が決めて間違えたんだし」
「もうカナギ様ったら方向音痴」
随分走っているはずなのに、三人は余裕があるような会話をしていた。
そしてしばらく走り、森についたところでようやく追いかけてきたスピリット達の姿が見えなくなった。
すでに夜中になっていたが、やっと休息を取ることが出来たのである。
「いやぁ・・・散々な目にあったね」
「捕まらなかったから良いものの・・・危ないところでしたね」
「できれば今度から道を選ぶ時にはフィアに任せたいわね」
今回の一件で、完全にカナギは道を選ぶことの信頼はなくなってしまったようだ。
普段からマイペース過ぎて慌てることがないので、その分だけ状況を理解しているのか不明である。
「とりあえず走りすぎて疲れたから今は寝ておこうか」
「はい」
「はーい」
三人は走り疲れたことでぐっすりと眠った。
そして朝、フィーリアが一番最初に目を覚ました。
「えっ・・・?」
周囲を確認すると数多くの『ガサガサ』と、木や葉を掻き分ける音が聞こえる。
動物が歩くような音ではなく、規則性があるため人かスピリットが周囲を見回っている音である。
「カナギ様、ルリニアさん起きてください」
二人の体をゆすって小声で二人を起こす。
「なんだい・・・?」
「もうちょっと寝たかったのに・・・」
「追手が近づいています・・・」
それを聞いた瞬間、起きぬけの二人は一気に目が覚めた。
それから数秒経過して
「いたぞー!!」
という声が近くで聞こえた。
「また追いかけっこか」
「もう飽きたわよ」
三人はまた走り出そうとしたが、今回は状況が違っていた。
少し広い道を見つけたと思ったとき、三人は大勢のスピリットに囲まれていた。
「多いな・・・」
「あ・・・あはは。謝ったら逃がしてくれるっていう状況じゃないみたいね」
「突破するしかありませんね」
三人は道を一つに決めると、その方向に向かって一気に突撃する。
「セイッ!!」
カナギは一気に進行方向にいたブルースピリットに上段から剣を振り下ろす。
ブルースピリットの神剣にカナギの剣が衝突し、カナギの剣は折れて刃が吹き飛んだ。
だがカナギは動揺することなく、ブルースピリットの腹に蹴りを放つ。
そして折れた剣を捨てると、もう一本の剣を鞘から抜いてブルースピリットの腕を下段から切り払った。
剣は手ごたえがあり、ブルースピリットの右腕を傷つけた。
フィーリアのほうはレッドスピリットに神剣を振りかざす。
レッドスピリットは一撃目は受け止められたが、二撃三撃と左右に移動しながら振りかざされる斬撃が受け続けられず、神剣を飛ばされた。
そして真ん中が抜けた瞬間に一気に三人は走り出す。
しばらく走ったところで三人は洞窟を見つけた。
左右は森、逃げ切ることが出来る保障はない。
追い詰められてしまったのである。
「仕方がない・・・」
カナギは洞窟を背にし、前に歩く。
「使えるとは思っていたけど一度も試したことがなかった力を使う」
「力・・・ですか?」
「上手くいけば奴等を追っ払える。失敗したらその時かな」
数分警戒していると追手が追いついた。
カナギは意識を集中と剣に向かってオーラフォトンを集める。
そして追手のスピリット達を見る。
「死にたくないなら近づかないほうがいい。こいつは手加減はできないんだ」
カナギがそう言ってもスピリット達は逃げる気配がない。
力を爆発させるが如くカナギは一気に飛び出して、一番近くにいたグリーンスピリットにオーラフォトンのこめられた一撃を振りかざす。
グリーンスピリットはブロックをするがそのブロックは砕け、グリーンスピリットは切り裂かれてマナの塵となった。
「さて、次は・・・ってあら!?」
神剣の守りの力も破壊するほどの一撃は、カナギの剣も砕け散らせた。
刀身は塵のようになり、柄はひび割れてその場に落ちていく。
今までできるとは思っていたが、試したことが無かったことが悔やまれる。
「カナギ様、私達が死守します!」
「凄いのを見せてもらったけどやっぱりこうなるみたいね」
「洞窟に入ろう。二人共来るんだ」
三人とも洞窟に駆け込んでいく。
だがルリニアとフィーリアは入り口で追いかけてくるスピリットを防いだ。
「入り口が狭いので一度に来るスピリットは一人ずつが良いところですね」
「それが救いね」
だが状況は全く良くなっていないのは現実である。
カナギに至っては武器がもうないので戦うことが難しい。
素手でも戦うことは出来るものの危険である。
「カナギ・・・」
「ん?」
カナギの頭の中でまた声が響いた。
だが今回は全く違う。
まるでどこか近くから見られているかのような気分であった。
「もう少しです・・・もう少しで貴方の許へ・・・」
カナギは何かに導かれるようにして、洞窟の奥へと歩いていく。
自分の意思ではないように自動的に進んでいく。
するとしばらく歩いたところで光が見えた。
「やっと会えましたね・・・」
目の前には光り輝く一本の剣が置かれていた。
地面に無造作に横たわっているが、美しく神秘的な輝きを放っている。
「まさか・・・お前が摂理なのか?」
「はい、私の主は貴方・・・私は貴方のために存在しています」
「今は細かい話は置いとかせてもらうよ。仲間を助けたいんだ。協力してくれるかい?」
「貴方がそれを望むのであれば・・・私を認めるのであれば力になりましょう」
「どっちみちお前を探していたんだ。認めるさ」
はっきりと言い切った摂理は、カナギの言葉に対して清々しさを覚えた。
「私を手に取ってください」
「ああ」
カナギは目の前にある剣を手にする。
すると自分の中から何かが溢れてくるような感覚があった。
まるで眠っていた自分の中の存在が出てくるような感覚である。
「今行くよ・・・フィーリア、ルリニア」
カナギは神剣摂理を手に走り出す。
着いてみると二人はすでに疲れきっていた。
「カナギ様・・・」
「あれ?カナギ様の剣ってさっき・・・」
「話は後!邪魔だ!」
カナギは一気に敵対するスピリット達に向かって走っていく。
「摂理!その力を一気に解放しろ!」
今はもう永遠神剣を手にしたことで使えるとカナギは思った。
先ほどと同じように、オーラフォトンを集中した一撃を振り下ろす。
受け止めようとしたブルースピリットは切り裂かれ、マナの塵となった。
神剣摂理は全く傷つく様子もない。
それを見てスピリット達は、洞窟から出てカナギを待ち構える。
そしてカナギは洞窟から出ると神剣を構えた。
「永遠神剣摂理よ・・・その力を解放し敵をなぎ払え。オーラフォトンブラスト!!」
神剣から一気に光が放たれる。
その光はスピリット達を飲み込んで爆裂した。
その一撃だけでスピリット達は大半が消滅した。
「マナの力よ。優しきの光となり守護の盾となれ・・・ナチュラル!」
レッドスピリットから放たれる炎は、守護の光によって消滅した。
それを見て、スピリット達は怖気づき始めていた。
だがカナギはいきなり神剣の力を解放したことで、かなりの疲労がある。
先ほどのオーラフォトンブラストは特に消耗が激しく、もう一撃を放つことはできない。
それを知られないためにも、カナギは息切れも堪えてスピリット達を向き合っている。
数秒が数分にも思えたその時であった。
何か笛のような音が聞こえてきたと思ったら、スピリット達はその場から立ち去った。
カナギは安心してその場に座り込む。
「なれないことはするもんじゃないな・・・」
「これだけ力が引き出せるのであれば上出来と言えましょう」
「はいはい。聞きたいことは山ほどあるんだけど、今は疲れたから明日にしてほしいね」
摂理と会話をしていると、フィーリアとルリニアが来た。
二人共カナギの力を唖然として見ていたらしい。
「カナギ様・・・あの力は何でしょうか・・・?」
「この神剣の力だよ。名前は摂理」
「あはは!その力があれば絶対にマロリガンからきてくれって頼まれるよ」
確かにこの力は交渉材料にはなると思った。
だが今はソーン・リームから遠ざからなければいけない。
「悪いけど・・・二人共ここからすぐに離れるよ。マロリガンには捕まってもいいけどソーン・リームには捕まりたくないからね」
「はい」
「りょーかい」
三人は森を抜けて南へと歩き出した。
カナギはこの摂理という神剣について、違和感がある。
この神剣を手にしたといっても記憶が戻ったということはない。
だが今はこの二人の安全を確保することが先であった。
ユニルとの約束を守るために。