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第六話 真面目な訓練時間


朝、カナギは日が上がってまもなく目覚めた。

昨日の昼寝が聞いたのかなと少し納得してしまった。

部屋から出てリビングルームへと向かうと、そこにはユニルがいた。

椅子に座りお茶を飲んでいる。

「おはよう」

「おはようございます」

お互いに挨拶をするとカナギも椅子に座る。

するとユニルは真面目な顔になる。

「先ほどですが急報が入りました。ラキオスからの使者がきたようです」

「ラキオスから?」

カナギは少し疑問に思った。

カナギの存在はラキオスでは極秘の存在であるため、公言はできず一兵士として言われている。

今更カナギに対して何か言える権限はないはずだ。

だがユニルがカナギに向かって言うことであれば、カナギに関係していることだろう。

「はい、カナギ様がイースペリアの客人のエトランジェであることは公言しないことを求めてきました。

 もしそれができないのであればラキオスは同盟を打ち切るとのことです」

カナギは公言できないように圧力をかけてきたことについて、少し考えてみた。

それは色々な思惑があることは当然ではあるものの、まずはユニルの話が終わるのを待つ。

「確かにラキオスはカナギ様に逃げられたと考えても仕方がなくそれは不名誉なことです。

 ですがそこまで神経質になるということは何か別の理由があるのでしょう」

「例えばイースペリアを滅ぼして僕を捕まえれば自分の国のエトランジェと宣言できるとか?」

「極端な考えですが可能性はあります。今ラキオスはバーンライトを攻め落とし日の出の勢いです。

 それは一人のエトランジェが関係していることは間違いないでしょう。

 そこにカナギ様も手に入れようと思えば否定できるものではありません」

ユニルのいいところは物事を柔軟に判断し、自分の意見として作り上げられることだとカナギは感心した。

この考えは説得力があることは確かである。

だがまだわからない部分が多すぎた。

「あと考えられることなんだけど僕が永遠神剣のないエトランジェということも関係しているんじゃないのかな?」

「おそらく可能性はあるでしょう。ですがそれは口実として使われるでしょうね」

「つまりイースペリアでは人間でもスピリットと戦える者がいるとかそういう宣伝にも使えるわけだからね」

それは戦う者全体で考えれば大きな意味をしめる。

イースペリアの兵士がスピリットと戦えるというような話が出来上がればスピリット隊はともかく、普通の兵士は逃げ腰になるだろう。

戦いの結果の全てをスピリットが決めるわけではないので、それは強い意味を持つ。

イースペリアにとっては良いことではあっても、他国には不利益でしかないのだ。

「今はラキオスと同盟を結ぶことが先決と王様は考えているでしょう。

 カナギ様の公言をなくすだけということですので簡単なことと考えているでしょうね」

「そんなにイースペリアって国力が弱かったっけ?」

「国力としては大きなほうですが問題はスピリットの数が特に少ない国であるということです。

 今の状態でサルドバルト、ダーツィの同時攻撃を受けるようなことになれば滅ぶような脆い立場にあります」

「だから今はラキオスの援護が必要というわけか」

「はい。実はイースペリアのスピリットは三十一名です。比べてダーツィは約五十名、サルドバルトは約百名です」
広い国というのはそれだけ攻撃を受ける面積が大きい。

それに対してイースペリアは戦力が整っていない。

単純数字だけで考えれば、ダーツィの攻撃を受けるだけで滅ぶような考えに達するだろう。

だがダーツィも自国の防衛をしなければいけないため、全軍を動かすことはできず動かすことが出来ても半数がいいところだろう。

それを考えれば、イースペリアに攻めるだけの戦力はないということになる。

だがサルドバルトについては別ではないだろうか、とカナギは思った。

前に地図を確認してわかっていることだが、サルドバルトはラキオスとイースペリアのみしか攻めることの出来ない国である。

その結果二国だけを牽制すれば良いだけでなく、半分のスピリットでもイースペリアの二倍近くはいるという計算になるのだ。

それに約ということなので、増員もしているとの可能性があるためはっきりとは言えない。

「凄い立場なんだね。この国って」

「はっきりとしたことが言えませんがそのようになります。そのためすみませんが、カナギ様については極秘にということになります」

「別に構わないよ。それで今の生活が変わるわけじゃないからね」

ユニルは本当に申し訳なさそうに言っているが、カナギにとってはどうでもいいことであった。

公言できないからといって、今の客としての生活に変化があるわけでもなければ、追い出されるわけでもない。

ただ他国に捕まったら、その国の兵士にならなければいけないというだけである。

生き残れれば命の保障があるが、個人としては生きられないだろう。

その点ではイースペリアでは、自由があるため気ままにいられるので気が楽だった。

「で、ユニルに少し聞きたいことがあるんだけど」

「どのようなことでしょうか?」

「摂理っていう言葉に聞き覚えがないかな?」

「摂理・・・ですか?」

ユニルは少し考えた。

カナギが言葉の意味を聞いているのではなく、摂理という言葉について何か特別なものがあればということに気がついたからだ。

「何故そのようなこと?」

「夢の中で聞いたんだよ。僕が摂理の主ってね」

それでユニルははっきりとわかった。

「多分カナギ様は永遠神剣摂理の主という意味でしょう。今は手元にはないようですが神剣が呼んでいるのではないでしょうか?」

「神剣ってそんなこともできるのかな?」

「神剣は生きています。持ち主の手元から離れているのであればきっと呼んでいるはずです」

カナギは夢の中の声が、神剣の声だったということに少し驚いている。

確実にそうとは言い切れないが、摂理という神剣が存在している可能性が高いということである。

それは記憶への希望とも言えるかもしれない。

「たださ・・・どこにそれがあるのかわからないっていうのがねぇ」

「王様に調査をお願いしましょう。私が一報を入れておきます」

「いいのかな?」

「カナギ様がイースペリアの味方である以上カナギ様が強くなることはイースペリアにとっては良いことです」

客であって完全に味方ではないとはカナギの中では思っていたが、ユニルはすでにカナギが味方と思っているらしい。

さすがに、そこまで期待されているとは思ってもいなかった。

「ユニル様、カナギ様、朝食の時間ですよ」

いつの間にやら食事の準備を終えていたフィーリアが食事を運んできた。

「はよ〜」

そして眠気眼のままルリニアも椅子に座る。

今日はカナギも含めた四人の食事となった。

食事が終わるとユニルは立ち上がる。

「私は今日は訓練の指導があって夕方まで戻れないから二人とも後はよろしくね」

「はい」

「はーい」

「ルリニア、たまには訓練所に出るようにしてね」

「うっ・・・私はグリーンスピリットだからそこまで頑張る必要はないわよ」

「グリーンスピリットでも頑張れば頑張った分だけ良いことはあるわよ。気が向いたら来なさい」

そう言うとユニルは兵舎を出て行った。

ルリニアはため息をついて机に突っ伏している。

フィーリアは皿の片付けを始めた。

「グリーンスピリットって訓練が必要ないのかな?」

カナギにとって素朴な疑問であった。

ルリニアはぐったりとしたままで返事をする。

「ん〜最初のうちは絶対に必要だけど実力がつくと前線にはあまり出ないし剣術より神剣の力が優先的ね」

「そういえばグリーンスピリットはブルースピリットに比べると前線では実力は低いみたいだね」

戦いには得意分野があるが、グリーンスピリットは守りが得意であり、前線としては大きく前に出たりはしない。

逆に前に出るグリーンスピリットもいるが、そのタイプは実力を発揮できない上に早死にしやすいようだ。

時々異端のように、通常のスピリットのタイプとは違う者もいる。

それこそがそれぞれの個性というものだ。

「隊長をするグリーンスピリットは多いけど私達のところは総隊長お付だから私の出番は大きくないわね」

「でもユニル様とは相性が良いと思います。それにルリニアさんの回復能力と防御能力は高く評価されていますからね」

横からフィーリアが話しに入ってきた。

「私のことをよくわかってくれるのはあなただけよフィア〜」

「あっ危ないですよ」

椅子に座ったまま抱きついてきたルリニアに、フィーリアは体勢を崩しかける。

と、それに気がつかないかのように、ルリニアはフィーリアに体重を預けた。

その瞬間、バランスを崩していたフィーリアは、ルリニアにのしかかられるような形で倒れた。

「うぅ・・・」

「いたたた・・・・」

「ルリニアさん・・・状況は考えてくださいね」

「ごめ〜ん」

「本当に仲がいいんだなぁ」

二人の倒れている姿を見て、カナギは笑ってしまった。

こうして時間が経過していく中で、カナギはユニルの訓練所という場所が気になった。

そこで庭で洗濯物を干しているフィーリアのところに行った。

「フィーリア、ちょっと聞いてもいいかな?」

「はい、なんでしょう?」

「ユニルの行っている訓練所ってどういうところなのかな?」

「どう・・・と言われても難しいですね。直接御覧になられたほうがわかりやすいと思います」

するとフィーリアは洗濯物を干す速度を速める。

そして全部干し終わると、カナギのほうに向き直った。

「それではご案内しましょうか?」

「ああ、頼むよ」

二人は兵舎を出ると、訓練所に向かって歩き出す。

すると大きな建物があった。

ドアを開けて中に入ると、大勢のスピリット達が剣の訓練をしている風景が見える。

「この町のスピリット隊はは合計十人です。サルドバルトに対する前線基地でもありますので一番多くのスピリットが配置されています」

「なるほどね」

「あら、フィーリア。今日はカナギ様を訓練所に案内しにきたの?」

二人に気がついたユニルが、近寄って声をかけてきた。

「はい、訓練所に興味を持たれたようですので御案内をしています」

「本当はあなたにも来てもらいたいところだけどカナギ様のお世話のほうが重要よ」

「はい、心得ています」

すると一人のレッドスピリットが走ってくる。

「ユニル様、レッドスピリット隊の合同訓練の号令をお願いします」

「わかったわ。すぐに行く。カナギ様、忙しいようで申し訳ありません。では」

「お疲れ様」

そう言うとユニルは、レッドスピリットと一緒に走っていった。

周囲の風景を見ると、平和な町が嘘のように殺伐とした風景に見える。

「う〜ん・・・まあ丁度いいし、少し試しに訓練でもしてみようか」

「えっ・・・」

「フィーリア、手合わせ頼めるかい?」

「はい!」

二人は訓練所の奥のほうに行くと練習用の剣を手にする。

そしてお互いに三歩離れたところで向かえあった。

「よろしくお願いします」

「こっちこそよろしく」

礼儀正しく訓練の前にフィーリアは頭を下げる。

そして二人は剣を構えた。

その瞬間、フィーリアが飛び出してくる。

間合いを詰めてきた瞬間、鋭い横薙ぎの剣閃が放たれてきた。

だがカナギはその剣閃を後ろに下がって避けると、間髪要れずに返し刃の剣閃が放たれてくる。

「ユニルより少し速い・・・」

剣閃を剣で弾きつつ正直な感想であった。

剣閃の鋭さと速さだけであれば、フィーリアのほうが上であった。
野間 だが弾かれたはずのフィーリアの剣は、上段からの振り下ろされてくる。

横に動いて避けた瞬間、その剣は地面から跳ね上がるかのようにして振り上げられた。

後ろに下がって避けると、フィーリアは間合いをあけた。

「さすがですね・・・」

真面目な目つきでフィーリアは呟いた。

フィーリアはイースペリアでは神速とも言えるほどの早さである。

そのため体捌きと剣速であれば、ユニルを超えるほどであった。

だがそれを危なっかしくとはいえ、全て直撃には至っていないのである。

再びフィーリアは構えると、カナギのほうに向かってくる。

だがカナギはすでにフィーリアの剣を見切っていた。

横薙ぎとして振りかざされる剣の刃をギリギリのところで後ろに下がり、避けると後ろにまわりこまれていた。

後ろからの横薙ぎを、横に移動して避けると同時に体を回転させる。

するとフィーリアの首元で剣が止まった。

「えっ・・・」

「勝負有り・・・かな」

フィーリアは一瞬何が起こったのかわからなかった。

自分の剣のほうが速く、後ろに回りこむことが出来たはずなのに、横を取られて首には剣がつきつけられている。

「確かにフィーリアのほうが速いんだけどね。問題は一回目に外してもいいという雰囲気がありすぎなんだよ。

 フェイントのようになっていいんだけどユニルと違って威圧感がないんだ。一撃目でやられるっていう感じのね」

「あっ・・・」

フィーリアは言われてみて気がついた。

動作が速いだけに、一撃目に頼ることがないのである。

そしてユニルとの手合わせの時には、大抵一撃目で勝負が決まっていたのだ。

「御指導・・・ありがとうございます」

「そんなに堅くならなくてもいいんだけどね」

「いえ、おかげで私に足りないものがわかりました。もう少し訓練をお願いしてよろしいですか?」

「ああ、構わないよ」

カナギはもう少しのつもりであったが、それが一気に長引いてしまった。

気がつけば、昼食をはさんで一日中付き合うことになってしまった。

そして兵舎に戻ったカナギはくたくたに疲れていた。

食事を終えると、一気に眠りについてしまったという。




 

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