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第五話 声


朝、カナギはすっきりと目覚めた時光が差し込んでいた。

外からは鳥の鳴き声が聞こえてくる。

ベッドからおりて窓を開けて外を見ると外は快晴であった。

「お目覚めですか?」

奥のほうからフィーリアがシーツを持って歩いてくる。

「ああ、目覚めた瞬間どこだかわからなくなりそうだったけどね」

「そうですか。もう少ししたら朝食を用意しますね」

「ありゃ・・・みんなもう朝食を終わらせていたのか」

カナギはあきれるようにして頭をかいた。

自分がそこまで寝ていたとは全く気がつかなかったのである。

今まで旅暮らしになっていたため自分のペースで動いていたからであった。

それに初めての場所でいきなりそのペースに慣れろというのも無理な話である。

カナギは部屋を後にするとリビングルームへと向かった。

そこにはすでに誰もいない。

椅子に座ってぼーっとしていると、フィーリアがやってきた。

「まずはお茶を出しますので少しお待ちください」

すっと厨房のほうに行くと、お茶の注がれたティーカップを持ってくる。

「どうぞ」

「ありがとう」

カップの中のお茶からは、気が休まるようないい香りが放たれる。

フィーリアはそのカップをカナギの前に置くと、再び厨房へと向かった。

カナギはそのお茶を飲んでみると、丁度いい熱さで飲みやすく心身が休まるようだった。

少し時間が経過するとフィーリアが、スープと皿の上に乗せられたパンを持ってやってくる。

そしてカナギの前に置いた。

「朝だけにあっさりとなのかな?」

「はい、朝から沢山食べることは出来ませんからね」

それもそうだと納得したカナギは出された料理を食べ始める。

ゆったりとした気分の朝食も久しぶりのような気がした。

「ルリニアとユニルはどうしたのかな?」

「ルリニアさんは川で洗濯をしています。ユニル様は軍部と打ち合わせです」

「二人共忙しそうだね」

「そうですね。家の外のことにはできるだけルリニアさんとユニル様にしていただくことになりました。

 買い物以外では私は兵舎にいますので何かあればお気軽にお呼びください」

フィーリアはカナギの世話があるので、できるだけ家の外にはでないようにするため分担を変えたようだ。

カナギの脳裏には、ルリニアが文句を言っていそうな姿が目に浮かぶ。

それで少し笑ってしまったが、フィーリアはそれが気になった。

「どうしました?」

「いや、ルリニアがそれで相当文句を言っていたんじゃないかなって思ったよ」

「よくわかりましたね。カナギ様が寝ていらしている間にユニル様が決められたことですがルリニアさんは凄い文句ばかりでしたよ。

 納得するまで『カナギ様のお世話は私がするから変わって』って言い続けていました」

その風景が、安易に想像できてしまうことが面白かった。

「本当にユニルとルリニアって仲がいいんだね」

「生まれた時期では離れていますが二人のチームワークはこの国で最上位と言われていますからね。

 本当に気があっていなければできないことです」

「それで戦争以外では・・・ということなのか」

昨日のユニルの言葉にやっと納得できた。

ああ見えても、二人はいいコンビをしていることがよくわかった。

「ユニル様もルリニアさんには信頼を寄せているようです。ルリニアさんはスピリット隊随一の癒しの力の使い手、

 そしてユニル様はスピリット隊随一の剣の使い手ですからね」

「確かに昨日ユニルと手合わせをしたけど凄い強さだったよ。引き分けに終わったけど下手をしたら負けていたね」

そのカナギの一言にフィーリアは驚いた。

「ユニル様と・・・引き分けですか・・・・・」

「ああ、剣速では互角だったけど体捌きの速さでは確実にユニルのほうが上だったから普通なら負けてもおかしくなかった」

フィーリアにとっては、カナギの実力が未知数であることはわかっていた。

だがユニルと互角とまでなると話は変わる。

昨日の手合わせのことについての結果は全く聞いていなかったため驚きを隠せなかった。

「でもユニルは神剣があるんだし、僕にはないんだから戦争の条件でやったら僕は負けるよ」

その言葉を聞いたフィーリアははっとした。

実はそのほうが説明がつかないことがある。

神剣の力を解放すれば、実力は普通の人間では及ばないレベルになる。

神剣のないユニルと互角ということであれば、普通のスピリットとも戦えないという意味になりかねない。

だがフィーリアと初めて会った時には、スピリットを倒していた。

つまり神剣がないというのに、神剣の力を引き出すような形を無意識に戦いの時にとっているということだ。

「どうしたの?」

頭の中で情報を整理して考えていたため、フィーリアは無口になっていた。

「あっ・・・すみません・・・・」

「いや、急に無口になったから何かあったのかなってね」

カナギのことではあってもフィーリアは話すべきか迷った。

だが考えた結果、その謎を隠し続けるわけにはいかないと思った。

「カナギ様・・・神剣の力については知っていますね?」

「ああ、人にはない力を使うことが出来るっていうことだね」

「神剣はスピリットの身体能力も向上させます」

「へえー・・・そいつは凄いんだね。ん?何かおかしいような・・・」

カナギはフィーリアが何を言いたいかが少しずつわかってきた。

「で、神剣っていうのはどれくらい身体能力をあげるのかな?」

「言葉にするのは難しいほどです」

「僕はラキオスにいた時大勢スピリットと戦っていたけどね・・・なんか違和感がなかったような」

それこそが異常ということにカナギは気がついた。

昨日ユニルと戦った感覚と、普通のスピリットとの戦いの感覚はほぼ変わらない。

だが普通に考えれば、神剣を持っているスピリットのほうが遥かに強いはずだ。

「まさか・・・」

「そうです。カナギ様は無意識に神剣の力のような力を解放しているのです」

衝撃的な事実であった。

フィーリアに言われてから気がついたことではあったものの驚きは隠せなかった。

「何かに反応して・・・ということになると確実に相手が神剣の時だね」

「そうかもしれませんね」

難しく考えすぎると頭痛がしてきそうであったため、カナギは早めに結論を出した。

そしてフィーリアは思い出したように立ち上がる。

「それでは私は昼食の買出しに行きます」

「あっどうせなら町を少し案内してくれない?」

「はい、構いませんよ」

カナギはこの町についてほとんど知らなかったためフィーリアに頼めるなら丁度良かった。

二人は兵舎を出ると道なりに歩いていく。

王都ほどの賑わいはないが町は人の生活観を漂わせている。

子供たちが走りまわり、買い物をしている人が通り過ぎていく。

その風景は戦争があたりで起こっているなど全く考えさせないような光景だ。

「ほのぼのとしていいところだね」

「一応前線の町ではありますが今は平和が続いていますからね」

「短い間の平和っていうことか」

覚めたような言い方ではあるもののそれは間違ってはいない。

結果的に国境の町というものは特に危険な町だと言ってもいい。

それなのに何故人が住んでいるのかと考えれば、人は生活の出来る場を欲しがるからだ。

王都に住むことが出来れば理想的ではあるが、王都に人が集中すれば土地がなくなっていく。

土地がなくなれば人の住む場所がなくなる。

そのため区画整理などもしていると考えたほうがいいだろう。

生活だけを考えれば危険な場所でも、余裕を持った場所で暮らすことが一番安定できるともいえる。

それに戦争があるのであれば、いつどこが攻められるかわからないのでどこにいても危険は変わりない、と言ってもいい。

「このお店です。今材料を購入しますのでお待ちください」

そう言うとフィーリアは八百屋のような店の人と話を始めた。

そして紙に何かを書き込むとそれを手渡す。

その後に野菜の入った紙袋を受け取った。

「次はパン屋さんです」

「荷物、少し手伝おうか?」

「いえ、大丈夫ですよ」

フィーリアは慣れた手つきで、軽々と大きな袋を片手に抱えている。

そして次にパン屋に行くと先ほどと同じように、紙に何かを書き込むとパンの入った袋を受け取った。

「あの紙っていったい何?」

「私達スピリットは基本的に硬貨を持ちません。そのため国から支払っていただきます。そのための証明書です」

つまりは領収書のようなものである。

店にはスピリット用に設けられた証明書が置かれているのだろう。

そしてスピリットが買い物をした時に購入証明書に購入したものと、購入した者の名前を書くことで証明されるということだ。

「でもそれだと詐欺みたいなことをする人がいないのかな?」

「そのようなことができないようにしっかりと管理されています」

「なるほどね」

フィーリアはあいていた片手のほうでパンの入った袋を抱える。

軽々と持ち上げている姿に違和感があるものの、辛そうな顔は一切していない。

「一度戻ったほうがいいかな?」

「えっ?」

「いや、荷物がジャマになりそうだったから置いてからのほうがいいんじゃない?」

「そうですね」

町を案内するのに大きな荷物は確かにジャマに見える。

そのため二人は一度兵舎へと戻った。

そしてフィーリアは厨房に袋を置くとカナギと共にまた兵舎を出る。

「お勧めの場所とかもあるのかな?」

「そうですね・・・」

フィーリアは歩きながら考えていた。

お勧めというと進めるに値するほどの場所でなければいけないということが悩みであった。

真面目に考えすぎるのが悪い癖ではあるものの思いつく限りの場所を想像する。

「言い方を変えようか。フィーリアの一番好きな場所はどこかな?」

「・・・そのような場所で良いのですか?」

「僕の好みなんて考えたったわからないでしょうが。聞かれた覚えすらないんだからね。だったらフィーリアの好みってことでいいよ」

「はい、わかりました」

フィーリアは目的地を決めたようでしっかりとした足取りで歩き出す。

すると着いた場所はお菓子屋であった。

迷うことなくフィーリアは店に入るのに続いてカナギも店に入る。

「おや、フィーリアちゃんか」

「こんにちは、シルさん」

店の人のおばさんとは知り合いのような口調で、フィーリアは話している。

するとシルおばさんはカナギのほうを見た。

「フィーちゃんのにもいい人ができたの?」

「違います!お客様のカナギ様です」

「はじめまして」

フィーリアが焦って否定するとカナギは挨拶をした。

「ほら、いつものを用意しておいたよ」

「ありがとうございます」

シルおばさんからフィーリアは笑顔で袋を受け取る。

「それっていったい何かな?」

「ふふっいつもは礼儀正しそうにしているフィーちゃんだけどこのクッキーが大好きなの」

「シルさん!・・・本当に・・・美味しいですから・・・・・」

俯きながらそういうフィーリアは恥ずかしそうに呟いていた。

いつもは我慢ばかりして苦労ばかり引き受けているがここでは違うらしい。

「この子は本当にいい子だから大事にしてあげなさい」

「シルさん!カナギ様はお客様です!」

このシルおばさんだけはフィーリアは苦手らしい。

まるで親子のような仲の良さを感じた。

そして少し話すと店を後にする。

「優しそうなおばさんだったね」

「シルさんは私のようなスピリットでも分け隔てなく接してくださる良い方です」

「そのクッキーもそういうことなのかな?」

大事そうに抱えている袋は、まるで宝物ような意味があるように見える。

それだけの思いがあるように見えた。

ところがそう思った瞬間であった。

「ようフィーちゃん」

「ラグさん」

いきなり店の窓から顔を出したおじさんによって呼び止められた。

看板を確認するとケーキ屋のようである。

「今試作品が出来上がったんで試食していくかい?」

「はい」

フィーリアが返事をして歩いていく方向へカナギもついていった。

しかし頭の中では少し引っかかるものを感じていた。

「ラグさんはケーキを作るのがとても上手ですよ」

「確かに美味しいね」

「おっ見所あるじゃないか若いの」

「層の中に少し苦味と香りをハーブで加えてみてはどうでしょう?もっと素晴らしいものになると思いますよ」

「さすがフィーちゃんはお目が高い。早速試させてもらうぜ」

そしてラグおじさんの店を出るとやはり頭に引っかかっていた。

しばらく歩くと川辺にたどり着いた。

「どうぞ」

「ありがとう」

フィーリアは袋を開くと、クッキーを出してカナギにも差し出す。

そしてクッキーを口に運ぶ。

「本当に美味しいんだけどね」

「何か・・・不満がありましたか?」

「さっきから気になっていたことなんだけど・・・フィーリアって甘いもの好き?」

カナギのその言葉でフィーリアの動きが止まった。

そして顔を赤らめる。

「ユニル様とルリニアさんには内緒ですよ・・・」

「ああ・・・」

内緒といわれてしまったが、多分ばれているだろうとカナギは思ってしまった。

少し話してから二人は兵舎に戻った。

帰ってみると、ルリニアがぐったりとした顔でリビングルームの椅子に座っている。

話に聞いてみると

「今日逃げたらユニが怒る顔が目に見えているから」

と、呟いていた。

そんな雰囲気の中、昼食も終わりカナギは部屋に戻ると、ベッドの上であおむけになりつつ本を読み始める。

読んでいるとしばらくして睡魔が襲い掛かる。

そしてそのまま眠りについてしまった。

「カナギ・・・貴方を待っています」

夢の中からカナギに向かっては何かが話しかけてくる。

声には何故か覚えがあるような気がした。

「摂理です・・・貴方は摂理の主・・・・・」

その瞬間目が覚めた。

少し頭痛がするような気がしたが夢の内容は覚えている。

「摂理・・・?いったいなんのことなんだ?」

考えても答えは出なかった。

外を見るとすでに日が暮れている。

起き上がりリビングルームへと向かうと、すでに夕食の準備が整えられていた。

「カナギ様、お目覚めになられましたか?」

「ああ、疲れていたみたいだね」

「フィアとデートで疲れるなんて大変ね〜」

「ルリニアさん・・・デートとは何ですか?」

説明をしようとした瞬間、ユニルがルリニアの口を塞ぐ。

「んーんー・・・」

「つまり男性と女性が一緒に出かけることですよ」

「なるほど・・・」

ユニルがすぐに仲裁に入ったかのように説明する。

だがルリニアに向かって小声で

「どうせ変な説明をするつもりだったんでしょう?」

と言った。

図星らしくルリニアは何も言えなかった。

不思議な体験をした以外は、カナギにとっては良い一日になったような気がした。

こうしてこのまままた一日が過ぎていく。




 

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