リエラの想い(後編)

 

 

 

 

 

 

 

 

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「やはり来たか・・・。待っていたよ。」

光陰との決着に無事勝利し、今日子も無事助け出した悠人は、エーテル変換施設へと先を急いでいた。

 

そんな悠人達の前に、立ちはだかったのは他ならぬ駿二だ。

 

「どいてくれ!今は、一刻を争うんだ!」

 

「・・・そうか、俺の素顔をおまえらはまだ知らなかったか・・・。」

悠人のその焦ってる表情から、そう読み取った駿二はぼそぼそと呟く。

 

「駿二!」

思いがけない人物の登場に、サレアが思わず叫ぶ。

 

「どうして、あなたがここに・・・!?」

エルフィーも驚きを隠せないようだ。

 

「良かった!無事だったのね!」

サレアが駿二に駆け寄ろうとする。

エルフィーも続く。

 

「何故、おまえらがラキオスどもと一緒にいる?」

そんな二人を冷たい眼で一瞥する。

 

「え?」

サレアが思わず立ち止まる。

 

「イースペリアを裏切るのか?」

 

「ま、待ってよ!そんなつもりじゃないわ!私は、レスティーナ様を信じたから・・・。」

 

「そうです、駿二さん。お願いですから、そこを通してください。早くしないと皆、吹っ飛んでしまいます。」

気が急いている今、のんびりと再会を楽しんでいる余裕はない。

 

「通りたければ、俺を踏み倒して行け。」

 

「正気なの!このままだと、イースペリアの二の舞になるのよ!」

 

「誰だか知らないが、そこをどいてくれ!どかないのなら力づくでも通る!」

このまま、ここでグズグズしてるわけにはいかないと悠人が声を荒げる。

 

「くくく、どんな状況だろうとおまえらをみすみす見逃すわけにはいかないな。」

駿二が千夜を腰から抜いて構える。

 

「くっ!やるしかない・・・か!」

悠人も求めを構える。

 

「ここは俺が抑える!皆は先を急いでくれ!時間がない!早く!」

今は一刻を争う。

今の状況を理解している皆は、一斉に頷く。

 

「待って!」

それを止める声がある。

 

「リエラ!」

駿二が真っ先に反応する。

 

普段なら思いがけない再会に驚くのだろうが、状況が状況だ。

 

リエラはただ静かに、駿二に近づいていく。

 

「リエラ!」

悠人に続いて、他のラキオスのスピリット達も神剣を構える。

 

だが悠人達など、まるで眼中になしとでも言わんばかりに、見事に無視して駿二へと歩み寄る。

思わず皆、道を空けてしまう。

 

そのままリエラは、真っ直ぐ駿二と対峙する。

 

「駿二、今は時間がないわ。このままだとあなたも死ぬのよ?」

 

「こいつらを道連れに死ねるのなら本望だ。」

レイの呪縛?の力は恐ろしいものがある。

レイの思惑から逃れることなどできない。

 

何せ、彼女達と戦うように運命付けられているのだから、戦わずに済む方法などない。

 

(何を言っても無駄か・・・。)

 

「こんな形で会うなんてね・・・。」

リエラは、その手に剣を出現させる。

 

サレア達と対峙した時と違い、駿二と戦うことには胸が苦しくなる。

 

(何で・・・この男と対峙するだけで・・・こんなに辛いのよ!)

 

「おまえも・・・俺に刃を向けるのか?」

 

「私はせっかく拾った命をここで終わらせる気はないわ。だから、あなたを全力で倒す。」

 

「そうか、仕方ない。」

駿二も戦闘態勢に入る。

 

「行って!」

リエラがラキオス勢を促す。

 

「リエラ・・・。」

 

「勘違いしないで、サレア。私はまだラキオスを認めたわけじゃない。こんなところで、死にたくないだけ。

手を組むわけじゃないわ。あくまで手を貸すだけよ。」

 

「・・・・・・。」

悠人が、リエラを睨む。

このままリエラを見逃して行く事に、若干の抵抗を感じている者も、オルファを始め数人いる。

何せ、エスペリアとヒミカの2人を殺した張本人だ。

 

悠人も、同じ気持ちだ。

 

だが、皆の命を預かる隊長として、それでいいのだろうか?

このまま復讐して、皆吹っ飛ぶ事になってそれで良いのか?

良いわけがない。

 

「・・・行くぞ!」

悠人が号令をかける。

 

今は、本当に一刻を争うのだ。

モタモタしている時間はない。

 

「パパ!?敵さんだよ!?エスペリアお姉ちゃんとヒミカお姉ちゃんの仇なんだよ!?殺っちゃおうよ!」

 

「今は、時間がない!一刻を争うんだ!戦ってる間に、“マナ消失”が来てしまう!」

悠人だって苦汁の決断だ。

 

本当は悠人とて、ここで敵討ちをしてやりたい。

 

だが、マナ消失が来るまでの短い間にリエラを倒して駿二をも倒して、それでエーテル変換施設へと突入する時間があるとは到底思えない。

 

「うぅーーー!パパは、2人の事なんかどうでもいいって言うの!?」

 

「そんな事言ってないだろ!俺だって苦汁の選択だ!」

悠人にとって、それは我慢ならない言葉だった。

だが、すっかり興奮してしまっているオルファは、もはや聞いていない。

 

「やっぱり、パパにとって2人はその程度だったんだ!!」

 

「そうじゃない!俺には隊長として、皆の命を預かる責任がある!」

これだけは、絶対に誤解は受けたくない。

 

「パパにとって、2人はその程度だったんでしょ!!」

 

「ぐーーーー!!」

怒りに耐えかねた悠人が、オルファに詰め寄ろうと考えたその瞬間だった。

 

「喧嘩してる場合じゃなーーい!!」

セリアが2人に喝を入れる。

 

「今がどういう時が分かってるの!!時間がないって、言ってるでしょ!」

 

「・・・ごめん・・・皆・・・。俺・・・つい・・・。オルファ・・・悪かった・・・ごめん。つい、怒鳴っちまった・・・。」

悠人が、項垂れる。

 

「お・・・オルファも・・・ごめんなさい。つい、イライラしちゃって・・・パパが悪いわけじゃないのに・・・。」

 

「お取り込み中悪いんだけど、結局どうしたいのか結論を出してくれる?私と戦うの?それとも、内部に突入するの?どっち?」

痺れを切らしたように、リエラがエーテル変換施設へ顎をしゃくった。

 

駿二も、リエラが全く隙を与えてくれないので、彼らが喧嘩してる隙を突けなかった。

 

「・・・結論は決まってる。内部に突入する!皆、いいな!?」

皆、悠人に向かって一斉に頷いた。

 

「行かせるか。」

駿二が千夜を構える。

 

「させないわ!」

 

キィィン

 

千夜と天理が激しくぶつかり合う。

 

ギリギリギリ・・・

 

凄まじい押し合いが始まる。

 

「くっ、逃がしたか・・・。」

エーテル変換施設へと消えた悠人達を横目で見送りながら、残念そうに呟く。

 

「余所見をしてていいの?武器は何も剣だけじゃないわよ。」

その隙をリエラが見逃すはずがない。

鳩尾に蹴りを入れる。

 

たまらず駿二の体勢が崩れる。

 

「終わりね・・・。」

駿二の喉下目掛けて、刃を放つ。

 

「くっ!」

体勢を崩されている駿二はどうすることもできない。

 

リエラの目はどこまでも冷たかった。

 

 

 

「・・・助けて・・・。」

 

 

 

「っ!!?」

リエラが、心の底から驚いた。

こんなに驚愕したのは、生まれて初めてかもしれない。

 

駿二が、今一瞬だけ・・・本当に一瞬だけ、目が正気を取り戻したのだ!

 

それが命乞いからか、それとも“誓い”の束縛に苦しんでの結果なのか、それは分からない。

 

 

その目は、死以外の何かの恐怖に怯えているように見えた。

 

“誓い”に侵されている事をリエラは知らないが、恐らく前者ではないとリエラは確信する。

ただの命乞いに、自分の心に隙が生まれるはずがない。

 

 

 

 

 

 

 

「いいかい、リエラ。周りは道具だ。戦場では、目に付くもの全てが利用価値のある道具と思え。」

 

「目に付く物?」

記憶が薄れて、輪郭がボヤけてきている、とある男とまだ幼い頃のリエラ。

周りは・・・訓練場だろうか?

 

「そうだ。草から太陽、果ては仲間まで、目に付く物全てだ。それら全てを利用できる者こそ、真に戦場を渡り合える覇者となれる。」

 

「難しいと思うけど?」

可愛げのない性格は、この頃から健在だったらしい。

片手を腰に当てて、やや挑発気味の視線が印象的だ。

 

「いいや、簡単だ。ようは、何物にも情を移さなければ、いずれ必ず我が物とできる。」

残酷そうな雰囲気を合わせ持ったその男が、自身たっぷりに言う。

 

「利用できる時は、仲間でも利用するんだ。生き残る為なら、何でも許されるのだからな。それを忘れなければ、おまえは必ず強くなれる・・・。」

 

「それだけで、強くなれるなら苦労しないわよ。」

 

「心の持ち方だ。それがおまえのこれからの戦い方に影響を与えてくる。

幼いうちから、敵に対して情を捨て切れずに訓練された者と、そうでない者。どちらがより強くなれると思う?」

 

「なるほど、一理あるわね。」

子供とは思えない、大人びた態度を取る幼い頃のリエラ。

 

「それを忘れず、訓練に励め。いいな。」

 

「そうね、分かったわ。」

 

「戦場では、迷いの生まれた者から死んでいく。迷いが生まれて剣の動きが鈍れば、その隙を突かれて、終わりだ。

ついでに、これも覚えておけ。分かったか?」

 

「分かったから、早く訓練を始めましょ?」

男がちょっと目を見開く。

そして、リエラの頭を撫でた。

 

「良い娘だ。飲み込みが早くて助かる。それでは、早速始めるぞ。」

 

 

 

 

 

 

 

「く・・・。」

そんな、過去の思い出が頭を過ぎる。

 

だがリエラは、後一歩というところで駿二を殺すことができなかった。

 

未だかつて、一度もなかった事だ。

リエラにとって、これはあり得ない事だった。

 

だが、攻撃の手を緩めるわけにはいかない。

剣をスティックに変化させて、そのまま駿二の喉を的確に突く!

 

ドボォ!!

 

「ぐぼぁっ!!」

これはたまらない!

視界が一瞬真っ暗になる。

 

リエラは容赦なく何太刀か入れていく。

 

駿二が一端、間合いを取って体勢を整える。

 

「・・・・・・。」

リエラはスティックを剣に戻す。

 

(殺せなかった・・・どうして・・・?)

 

 

 

――戦いでは、死神の如く冷酷に命を刈り取る鎌になれ。――

 

 

 

リエラの師が、自分に何度も何度も口癖のように、言い聞かせて来た言葉だ。

今まで、それを疑う事なく戦い続けてきた。

 

それが・・・どうして駿二の時だけに限って・・・。

 

恐らく、駿二が命乞いから自分に助けを求めて来ていたら、恐らくリエラは心を動かさなかっただろう。

 

 

“助けて・・・。”

 

 

あの言葉が頭にこびり付いて、どうしても離れなかった。

 

そんなリエラに対して、駿二が千夜を投擲する構えを取る。

 

(いけない!戦いに私情を挟んではいけない!冷徹にならないと・・・死ぬわよ!)

頭を振って、切り替える。

 

「お、リエラじゃないか?」

突然、軽い調子の男の声が聞こえてくる。

 

「光陰!?」

 

「そいつは、エトランジェなのか?」

光陰が顎で駿二を指す。

 

「神剣を持ってる男なんて、エトランジェ以外にいるわけないじゃない。そんなことより、今日子って人の傍にいなくていいの?」

リエラと今日子はあまり面識はない。

ただ、光陰の今日子への想いの強さは知っている。

 

「ああ、クォーリン達に任せて来たからな。あのじゃじゃ馬姫なら大丈夫だろ。」

 

「俺をそっちのけで会話とは、随分と余裕じゃないか?戦う気はあるのか?」

そう言われて、リエラは改めて駿二と向き合う。

 

「せっかちなのね・・・。そういうことだから、光陰。先に行ってくれる?どうせ、悠人を助けに来たんでしょ?」

 

「ま、そう解釈してくれて構わないぜ。」

 

「他にあるの?」

光陰はフッと笑うと、片手を軽く挙げてエーテル変換施設へと走り去って行く。

 

「死ぬなよ?」

去り際にそんな言葉を残しながら・・・。

 

「あなたもね。」

 

ヒュオッ!!

 

その途端、遂に痺れを切らした駿二が千夜を放つ。

 

「暗闇じゃなくても操れるの?」

 

「ああ、今の俺は激しい憎悪に囚われているからな。負の感情が強ければ強いほど、この神剣は力が増すんだ。この程度のこと、簡単にできる。」

 

「なるほど・・・。」

駿二は遠距離タイプ。

相手と間合いを取りさえすれば、絶大な力を誇る。

 

逆に言えば、間合いを詰めて戦われると本領を発揮できない。

 

グズグズしてると殺られる。

ならば、多少の怪我は覚悟してでも間合いを詰めるべき!

 

そうと決めたら、行動は早い方が良い。

自分にしつこく付き纏う千夜を弾きながら、一気に間合いを詰めにかかる。

 

「なあ、リエラ・・・。」

 

「ん?」

 

「俺は確かに接近戦はあまり得意じゃない。それは認めるよ。なら、簡単に間合いを詰められると思うかい?」

そう、遠距離を得意とする場合、最も怖いのが接近戦に持ち込まれることだ。

 

当然、簡単に間合いを詰めらせない方法くらい、熟知していてもおかしくない。

 

「確かにそうかもね。でも、どうせこのままじゃ殺られそうだし・・・。」

 

「恐怖を知らない・・・か。スピリットの鏡だな。」

 

「そんなことないわよ。私だって死ぬのは怖いわよ。だからこそ、さっさと間合いを詰めないとね。」

 

「常に先を見る・・・か。賢い戦い方だ。だが!」

駿二がカッと眼を見開く。

 

オーラシャドウ!

 

グゥオアーーーーーーーーー!!

 

地面から凄い勢いで黒い霧状の塊のようなものが、火柱のように突き出てリエラを攻撃する。

 

「ぐぅっ!ああぁぁぁあああーーー!!」

まるで身体の中まで炎に焼かれるような、闇に侵食されるような不思議な感覚。

 

「まだまだ、行くぜ。」

千夜をリエラの真上に持っていくと、脳天に切っ先を向けてそのまま落下させる。

 

「くっ!」

身体を強引に突き動かして、前へ無理やり跳ぶ。

オーラシャドウから逃れた時には、衣服も身体もボロボロだった。

 

今度は、背後に回った千夜がリエラの心臓目掛けて襲ってくる。

身をよじってかわす。

 

駿二は千夜を正面から突っ込ませる。

手で千夜を掴む!

 

何てバカな真似はしない。

 

磁石が反発し合うのと同じように、弾かれてしまうからである。

 

(それなら・・・。)

剣を光に変化させると、それを太い棒状に具現化させる。

 

(何をする気だ?)

 

グアーーーーーッ!!

 

光の棒が千夜に向かって伸びる。

 

そして、先端が虫取り網のように広がったかと思うと、そのまま千夜を覆って捕まえようとする。

 

「させるか!」

今度は千夜が追われる番だった。

どこまでも追撃してくる、光の棒から逃げ惑う。

 

光線弾!

 

ズドズドズドドォォーーーーン!!

 

光線弾が辺り一帯にばら撒かれる。

 

「くっ!」

リエラは、それをかわした拍子に光の棒への集中力を少し解いてしまう。

 

その為、光の棒が少し怯む。

その隙を突いて、千夜をリエラのわき腹の辺りへと一瞬で移動させる。

 

「しまっ!!」

 

「捕らえた!」

 

ズバアアァァアアーーーン!!!

 

辺りにリエラの鮮血が飛び散ってマナに返って逝く。

 

「かっ!」

とっさに、身を反らして致命傷だけは避けたものの、かなり深い傷だ。

 

「しぶとい奴だな。大人しく殺されてれば、楽に死ねたものを・・・。」

 

「駿二・・・。やったわね・・・。」

肩で荒い息をしながら、ボソッと呟く。

そう言いつつも、殺気はない。

 

「そのまま切り刻んで殺してやるよ。」

千夜の切っ先をリエラの心臓へと真っ直ぐに向けて、そのまま一直線に放つ。

 

パァァァーーーン!

 

突如、リエラの身体から光が弾け飛んで、千夜を弾き飛ばす。

 

「何だ!?」

駿二が千夜を手元に戻す。

 

フォォォオオオーーーン

 

リエラが眩い光に包まれる。

 

「ぐぅ・・・。」

たまらず駿二は眼を手で覆う。

 

コォォォオオオオーーーーーー・・・

 

リエラが、光に包み込まれていく・・・。

 

「これは・・・一体・・・?」

何が起こっているのか分からない。

 

 

 

リエラは、かつてない程の眩い光に包まれている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その光は・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まるで・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて少しずつ、“虹色の輝き”が治まっていく。

 

「何だってんだよ・・・。」

駿二が眼をゆっくり開けた時・・・

 

「この姿は晒すなって、言われてたんだけどね・・・。ま、もういっか。」

晒したくもないし、晒す気もなかったが、もはややむを得ないだろう。

 

 

リエラが目の前に立っていた。

 

「おまえ・・・。」

先程の傷が見当たらなかった。

 

あの光が癒しだのだろうか?

 

「おまえ・・・ブラックスピリット・・・だよな・・・?」

 

「さあて、どうでしょう?」

リエラが一歩前に出る。

駿二は、思わず一歩引いてしまう。

 

「くっ!」

 

「この姿に戻った今、私の力はさっきの比ではないわよ?」

先程とは比べ物にならないほどの力を感じる。

今のリエラは、そこらのエトランジェすらも圧倒するのではないかと思われた。

「あんた・・・一体・・・?」

 

「駿二、悪いけどこの戦い・・・勝たせてもらうわよ。」

リエラがフッと微笑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あの、リエラってスピリット・・・なかなかの実力ね。』

 

「でも、あんなスピリットがいたなんてね。」

 

『その力もかなりのものがありますね。あっという間に、あの駿二を追い込んで行きますよ?』

 

『でも、レイ。このままだと駿二、殺されるか良いとこ捕虜にされるんじゃない?』

 

「それはそれで困るのよね。あの瞬って誓いの担い手に、一肌脱いでもらいましょうか。」

 

『どうやって?面倒臭いなら、手っ取り早くマロリガンに召喚しちゃえば?』

 

「うーん、それよりはエーテルジャンプを利用して、無断でマロリガンに出向いた部下に一喝入れに、

迎えに来たって言うシチュエーションを考えてるんだけど?

それに、何だかんだ言ったって、エトランジェを下手に他国に渡すのも不味いはずだしね。」

 

『なーるほど!さーすが、レイ。頭良いわー。』

 

「さて、そうと決まったら瞬の意識に働きかけましょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マロリガン攻略も、丁度終わったみたいね。」

 

「レーゼイ様ー、早速リュトリアムを回収しに行かなーい?」

ボソッと呟くレーゼイの傍らに立っていたのは、偽時深だ。

 

「そうね、ちょっとお昼寝でもしたら行きますか・・・フワ・・・。」

レーゼイがダルそうに欠伸をしながら言う。

 

「今のリュトリアムも合わせると、丁度三ガキトリオ!」

 

「意味が分からないから。それに、私も含めてるでしょ?」

 

「うぅ、ごめんしゃい・・・。」

 

「ま、それくらいで怒るほど短気な性格じゃないから。」

 

「うんうん、いつものんびりまったりがレーゼイ様だもんねー。」

 

「それじゃ、寝るから。勝手に誰か起こしに来ないよう、見張りでもしててくれる?」

そう言うと、もう一秒でも立っていたくないとでも言わんばかりの調子で、

錫杖型の永遠神剣を放り出してバタンと布団の上に倒れると、そのまま寝てしまう。

 

先程とのギャップが物凄い。

 

「あららん?寝ちゃいましたよ?」

ツンツンと、レーゼイの頬を突付いてみる。

しかし、反応はない。

 

「っ!!?これは!!?ひょっとして、悪戯せよという神のお告げ!!」

 

「そうそう。悪戯の程度によって、プレゼントが待ってるから。」

 

「ひっ!な、何でもありましぇーーん・・・。」

偽時深は、思わず震え上がる。

 

『レーゼイよ。』

放り出された錫上型の永遠神剣が、突如口を開く。

レーゼイは反応を示さない。

 

レーゼイの眠りにつくスピードはドラ○もんの、のび○にも匹敵する早さなのである。

 

『ロウのリーダーとして、真面目に勤めを果たすのではなかったのか?

俺にはどうでも良い事だが、見ていてイライラする。俺の契約者なら、それなりの自覚を持て。』

 

「フワ・・・。」

レーゼイが、再びダルそうに欠伸をする。

 

そして、眼を擦りながら体を起こした。

 

「何?」

 

『おまえは、俺に支配される者としての自覚が足りぬと言っているのだ。精神を乗っ取ってやっても良いのだぞ?』

 

「やってみなさいよ。あなたにできるかしら?」

 

『過信は慢心だ。破滅を招くぞ?』

そのセリフをそっくりそのまま返してやっても良かったが、もはやダルい以外の何物でもなかったので、聞き流す事にする。

 

寝たい時に、くだらないと思う話を聞かされると、無視してさっさと寝たくなるというもの。

 

「言いたい事はそれだけ?」

 

『何だと!?』

 

「そう・・・それだけなら、寝かせてもらうから。・・・お休み。」

 

『待たんか!』

レーゼイが、冷たい目で己の永遠神剣をじっと見る。

 

『何だ、その目は?』

 

『・・・・・・。』

 

「レーゼイ様?どうかしたのー?」

先程から成り行きを見守っていた偽時深だったが、遂に痺れを切らしてそう尋ねる。

 

『レーゼイよ、“強制力”でもかけてやろうか?』

 

「本気で言ってるの?私が生まれながらに持ってる特殊能力を忘れた?」

強制力の言葉に、一切のおびえを見せる事なく言い放つ。

 

神剣は何も言い返さない。

 

「ま、私としては早いとこ強制力をかけて欲しかったりするんだけどね・・・。」

そして、傍から見ればとんでもない事を呟く。

 

更には、その発言に対して神剣は何も言ってこない。

 

『おのれ・・・。』

そう、簡単に強制力をかけられない理由が存在するのだ。

 

「私にとって、あなたの意思は邪魔だから。神剣なんて、ただ能力が備わった武器に意思がくっ付いただけの存在でしょ?

武器に意思なんていらない。武器は道具らしく、大人しく人に従ってればいいのよ。いずれ私がそれを教えてあげる。

永遠神剣なんて、所詮ただの破壊兵器にしか過ぎないんだし、これほど愚かしい代物もないわよ。」

 

レーゼイには相変わらず、偽時深が寄り添っている。

 

『言わせておけば。そなたと俺の立場上の条件は100歩譲って、対等だ。図に乗るなよ?』

 

「あなた達永遠神剣は、ただ黙って人に振るわれてればそれで良い。それだけの存在。

それ以外にあなた達の存在価値を証明するものがあるのかしら?ただの破壊兵器に。」

 

(レーゼイ様と神剣が、口喧嘩を始めちったみたい・・・。こうなると、長引くからなー・・・。

・・・早く、偽時深を演じてみたい・・・。)

 

そして、想像に胸を膨らませる。

 

(やっぱり、投げキッスくらいはするべきっしょ。時深が悠人の兄さんに作り上げた、大人しい女性としてのイメージをパアにしてあげないと!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リエラは、倒れたっきり意識を失って動かない駿二の傍に移動して、その場に正座する。

 

既に、元のブラックスピリットの姿に戻っている。

 

「駿二・・・。」

憎悪に囚われて、すっかり変わり果ててしまった駿二を見下ろす。

 

リエラは、この時初めて駿二に対して素直に・・・穏やかな気持ちになれた。

 

「私に、ラキオスに対する憎しみがあるのかどうかは分からないわ。

でも何故、あなたがイースペリアを・・・そこまで?少しの間だけだったはず・・・。

多少の憎しみを懐くだけなら分かるけど、そこまで変わるほどのことなのかな・・・。」

 

駿二が眼を覚ます気配はない。

 

「でも、不思議ね。サレア達とは普通に戦えたのに、駿二と戦うことには多少の躊躇いがあったのよ?」

意識を失ってる駿二に対して、独り言のように語り掛ける。

 

その表情からは、何を思っているのか窺い知ることはできなかった。

 

「・・・私は・・・ひょっとして・・・あなたのこと・・・。」

 

(らしくないかな・・・。)

心の中で苦笑する。

 

そこからは、自分の身体が自分のものでないみたいに、自然に動いた。

 

それを止めることができない自分に驚く。

いや、止める気もないのだろうか・・・?

 

駿二の身体をそっと起こす。

そのまま自分の顔を近づけていく。

 

リエラは、一切躊躇はしなかった。

身体はスンナリと動いてくれた。

 

 

 

 

 

唇と唇が重ね合うまで後、約1センチ!

 

ゾクゥ!

 

その瞬間、とんでもない怖気が背筋を駆け抜ける。

ここから先へ進むと、何かとんでもないことが起こりそうな気がした。

 

“口付けを交わすな!”

そんなことを訴えかけるもう一人の自分。

 

いや、自分じゃない何者かの声かも知れない・・・。

それは分からなかった。

 

神の所為だろうか?

 

ドクン

 

何か身体がおかしい・・・。

口付けを交わすなと、身体のあちこちで警告を発しているような気がする。

 

そのまま何をするでもなく固まっていると、不意に近くで何か強大な神剣の気配が発生した。

 

「何!?」

そこに降り立ったのは一人の男。

ゆっくりとこちらに向かってくる。

 

「そこのおまえ・・・。」

 

「あなたは!?」

 

「ふん、貴様と話すことなどない。さっさとそいつをこちらに渡してもらおうか?」

リエラは黙って首を横に振る。

 

「そうか・・・。」

男は・・・いや、瞬は“誓い”を一旦掲げるとリエラに切っ先を向ける。

 

「くっ!」

その途端、赤い光に包まれたかと思うと身体が動かなくなる。

 

「これは!?」

瞬は、クイッと少しだけ前に“誓い”を突き出す。

 

「あっ!」

リエラの身体が後方に吹っ飛ばされる。

 

「くっ・・・あぁっ!」

二転三転してやっと止まる。

 

瞬はリエラには眼もくれずに、駿二に近づく。

 

「僕の許可なく勝手に行動するとはな・・・。」

“誓い”を駿二に向けて掲げる。

 

その途端、意識を失ってるはずの駿二がスゥーッと音もなく立ち上がる。

 

まるで、操り人形が立ち上がるかのような感じで、とても人間の立ち上がり方ではなかった。

 

その時、リエラは見てはいけないものを見てしまったような気がした。

 

カタカタカタカタカタ・・・

 

腰に刺さった千夜が不気味な赤い光に包まれて、微かに振動している。

 

が、最たる問題はそこではなかった!

 

コォォォォォーーーーーー

 

駿二の眼が、千夜と同じような不気味すぎる赤い光を発しているのである!!!

 

良く見ると、“誓い”もボォーッと赤い光を放っている。

 

「っ!!?」

リエラは放心したままヘタリと座り込んでしまう。

 

ブッャァァァーーン

 

駿二の身体が一瞬ブレたような気がした。

 

リエラの眼には、それがまるで“誓い”に取り込まれたかのように映ったと言う!!!

 

更に良く見ると、瞬の眼も駿二と同じように赤い光を発していた。

 

これは・・・ただ事ではない!!

 

ブァァーーーン

 

“誓い”が赤い光を放ち続ける。

 

 

 

瞬が歩き去っていく。

その後を幽霊のように黙ってついていく駿二。

 

 

リエラは、とてもじゃないが後を追えなかった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今のところはこれで良いわ。」

 

『本当に・・・このままで良いのですか、レイ?』

 

「今はね・・・。」

その声に力はない。

レイ自身迷っているのだ。本当にこのままで良いのか・・・。

 

『あの変貌ブリ、普通じゃないですよ?』

流星が忠告する。

 

「いざとなったら、私が出れば良いじゃない。」

己の力を過信しているわけではないが、自分の力がどれ程のものか知っているレイは、あくまで楽観的である。

 

『そう・・・ですね。』

流星が口をつぐむ。

 

『流星は心配性だなー。レイが背後についてるんだから、大丈夫に決まってるじゃない。』

 

「でも、リエラが駿二に口付けしようとした時は、本当どうしようかと思ったわよ。」

 

『本当、本当。レイったら、今までにないほど強烈な殺意を放ってたもんね。』

 

『そうですね。嫉妬もほどほどにしておかないと、可愛くないですよ?』

流星が茶化す。

 

「何か言ったかしら?」

あくまで、いつもの調子の声音だが、それが返って不気味。

 

『何でもありません。』

流星も一瞬ヒヤッとしたが、何とか動揺を隠しながら答える。

 

「ま、あれだけ警告を送っても口付けを交わそうとするなら、殺してやるつもりだったけど。命拾いしたわね、あの娘。」

 

『本当にそうですね。』

この時レイは事態を楽観するあまり、“誓い”の力を甘く見過ぎているという失態に気が付いていなかった・・・。

 

 

 

 

 

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あとがき

 

 

 

 

 

 

ついに、ここまで来ました!

ホークネスの描きたいリエラ像が、ここに来て遂に実を結びました!

 

誰に対しても非情な性格で、平然と“殺し”をやってのける性格ですが、

たった一人の男、即ち駿二に対してだけは優しくそして一途に接し、自分の全てで愛情を注ぎ込み、守る。

冷酷な性格だからこそ・・・まあ、恥ずかしい言い方をすれば、そこに誰にも負けない強い“想い”がある!

 

そんなキャラクターを描きたかったのですが、いや・・・ここまで本当に長い道のりでした。

大抵の場合は主人公が恋愛対象になるのに、それ程時間はかからずお話を盛り上げる事ができますが、いや・・・リエラは本当に長かった。

長かったからこそ、より引き立つというものです。

 

リエラは、誰に対しても冷酷なのが良い!と思っている方々・・・すみません。

それは、ホークネスの思い描いているリエラ像とは外れてしまいます。

 

まあ、駿二以外の人には態度は変わりませんけどね。

そうでないと、意味ないですから。

 

駿二限定の優しさだからこそ、意味があるんです!

駿二だけに注がれるリエラの優しさ、そこを描いていければと思っていますので、是非そこを見てやってください・・・。

ホークネスの少ない文才で、出来る限りの力を尽くしますので・・・。

 

 

しかし・・・この作者は技(スキル)を考え出す才能がありませんねー。

読み返してみても変な技ばかり・・・。

そこから発生する問題、それは戦闘においてキャラを差別化する事ができない・・・という致命的な部分が欠けてしまうのです。

 

そこで、皆様の知恵をお借りしたいと思います。

「こんな技はどうだ?」というのがありましたら、遠慮なくどんどんお願いしたいと思います。

そのスキルを丸ごとそっくりパク・・・もとい参考にさせて頂きたいと思いますので・・・。

 

個人的に募集したい技は、“闇”と“光”関連するものです。

ですが、関係ないものでも全然構いません。

 

レーゼイやローゼア等の悪役の技も、募集したいのですが・・・。

 

個人的に一番難しいのが、“レイ”だったりします。

「こんな技考えてみたけど、さすがに世界観壊しかねないしなー。」

というスキル・・・レイなら大歓迎です。

 

どうかこの作者を助けてやるつもりで、お願いします。

 

 

最後に・・・今回のお話で、この小説の題名“虹色の輝き”の名前の由来が少し見えてきたかと思います。

決して、適当に考えたわけではないですよ?

“虹色の輝き”には、そんな由来が存在したのです。

 

次回予告ですが(あくまで予告で、変更になる可能性もあります)、

駿二への想いに気付いたリエラには、遂にレスティーナと対面して頂こうかと思っています。

ラキオス勢から、強い反感を買っているリエラは果たしてどうするのか?

 

次回も楽しみにしておいてやってくださいませ、よろしくお願いします。