リエラの想い(前編)

 

 

 

 

 

 

 

 

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「これじゃ駄目ね・・・。」

ファンタズマゴリアに関わっている、テムオリン以下数人のロウエターナル達を集めたレーゼイは、ボソリと呟く。

 

「何が・・・ですか?」

ローゼアが怪訝そうに尋ねる。

 

「戦力。」

レーゼイは、簡単に答える。

 

「十分ですわ。」

今度はテムオリンが不服そうに口を開いた。

 

「時深は、リーダーが封印したのですわよね?まだ何か不安要素がおありで?」

テムオリンが、リーダーのその発言を心配性と受け取って、心の中で笑ってやる。

 

カッ!!

 

その瞬間、テムオリンの身体が宙を浮き、壁に叩きつけられた。

 

「がはっ!!」

 

「あなたの代わりなど、幾らでも用意できる。その餌(マナ)にでも代えてあげても良いのよ?」

 

「く・・・。」

ゴホゴホと咳き込みながら、テムオリンは“すみませんでした”と謝るのは癪に障ったので、とりあえず簡単に頭を下げておく。

 

「この戦い、絶対にカオスから勝利をもぎ取って、彼らに絶望を叩きつけてやらなければならない。

調子付いてるカオスどもを、谷底に突き落としてやりなさい。」

 

ここまで気合の入っているリーダーを、かつて見た事があっただろうか?

 

これは、本気だ。

 

この場にいる誰もが、そう悟った。

 

「ローゼア?」

 

「ここに。」

 

「この星からでもいい。使えそうな獲物は、エトランジェだろうがスピリットだろうが何でもいい。

とにかく、幾らでも掻っ攫ってきなさい。私が後で力を注ぎ込めば、戦力として十分に使える。残りは、己の精進に励みなさい。良いわね?」

 

「は、はい!」

戸惑いながらも、必死で頷くローゼア。

残りのエターナルもそれに習う。

 

「私も・・・もっと力を高めておく必要があるわね。過信や思い上がりが、敗北を招いてきた。あなた達もその自覚を持っておくのね。」

そうレーゼイは、言い放つ。

 

「リーダー。先程の件ですが、実はもう既に一人目を付けてあります。」

そんなリーダーに向けて口を開いたのは、ローゼアだ。

 

「あら、意外と行動が早いじゃない。それで?」

先を促す。

 

「リュトリアム・・・と呼ばれる小娘です。今は、ただの子供に過ぎませんが・・・。」

 

「時深が封印した、あの?」

 

「はい。」

 

「なるほど、あなたの能力を使えば、戦力に加える事ができるわね。早速、行動に移しなさい。彼らのマロリガン攻略が済んだら、すぐにでも・・・。」

 

「畏まりました。」

 

「私も、既に2人ほど目をつけてるから。」

 

「2人・・・ですか?」

ローゼアが、再び訝しげにレーゼイを見る。

 

「ええ・・・スピリットであってスピリット成らざる者。少し興味があるの。彼らをロウに引き入れたら、どれだけの戦力になるのか・・・。」

 

「エターナルでもない者を、戦力として使えるのでしょうか?」

 

「もちろん、そのままじゃ使い物にならないわ。だからこそ、彼らに力を与える必要があるのよ。ロウ陣営を洗い流す事によって・・・。」

 

「???」

何を言いたいのか、いまいち伝わって来ない。

 

その性格からは考えられないかもしれないが、こう見えてレーゼイは得体の知れない何か不気味な雰囲気を持ち合わせている。

 

「・・・私も、たまには外に出てみようかしら・・・。」

そうポツリと呟く。

 

「は?」

 

「いえ・・・何でもないわ・・・。」

意味ありげに、少しだけ不気味に唇の両端を吊り上げるレーゼイ。

意外と様になっている。

 

「リー・・・ダー・・・?」

ローゼアが、驚きと戸惑いを隠せない調子で呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ビンゴね。やっぱり悠人よ。」

岩陰に潜んで気配を隠して悠人達を待ち構えていたリエラが、早速彼らの姿を発見する。

 

「よし、いっちょやるか。」

光陰が腰を上げる。

 

一緒にいるのは、実は密かにリエラの動きを監視する為である。

 

「求めのユートに、サレア・・・エルフィーもいるわね。」

 

「なあ、リエラ。」

 

「ユートとサシで勝負したい・・・って言い出すんでしょう?」

光陰が少しだけ驚いた顔をする。

 

「大体分かるわよ。そもそも殺し合いの場において、拘りみたいなものは持ち合わせてないし、ご自由に。

悠人に個人的な恨みはないし、無理に対峙する必要もないしね。ま、戦いを無理に避ける必要もないけど。」

 

冷たく言う。

 

「その性格、本当に直した方がいいぞ?。」

 

「余計なお世話って、前に言わなかったっけ?」

肩を竦める光陰。

 

「リエラは、スピリットの方を頼めるか?拘りはないんだろ?無理に悠人と戦う理由がないなら、良いよな?」

 

「意地になってない?」

 

「かもな。」

否定できなかった。

 

「ま、いんじゃない?」

 

「それでは、リエラ。行きましょう。光陰様・・・ご無事で・・・。」

 

「ああ、クォーリンもな。」

片手を軽く上げる光陰。

それを見て、やや頬を赤らめて微笑むクォーリン。

 

それの意味する事を知ってか知らないでか、光陰も一瞬だけ笑みを返してすぐに悠人のいる方へと顔を向けた。

 

リエラはクォーリン達を引き連れて、ユートが率いるスピリット達の元へと向かう。

 

 

 

 

 

 

「私もサレア達と戦ってみようかな・・・。」

ポツリとリエラが呟く。

 

「それでは、私が残りを引き受けましょうか?」

 

「え?別に何の気なしに言ってみただけだから、気にしなくて良いのよ?」

 

「私は誰とでも構わないんだけど、かつての仲間と戦うのはやはり辛いものが・・・。」

 

ドオン!!

 

途端に、リエラとクォーリンの間に衝撃派が駆け抜けた!

お陰で、クォーリンとリエラはバラバラに分かれてしまった。

 

「リエラ!?」

クォーリンが、砂煙が舞って視界の悪い所から安否の声を投げかけてくる。

 

「生きてる。」

簡単に返すリエラ。

 

「ここは、私が引き受けるから。」

 

「分かったわ。リエラ、任せたわね。」

 

「了解。」

そう言って、リエラは衝撃派の飛んできた先を一瞥した。

 

そこには・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『契約者よ・・・。』

 

「何だよ、バカ剣!」

 

『神剣の気配だ・・・。気をつけろ。』

 

「敵か!」

悠人はすぐさま求めを抜く。

 

キィィィーーーーン

 

「何か来る!皆、俺の後ろに回れ!レジスト!!」

 

ズッドォォオオオーーーーン!!

 

フレイムシャワーが悠人達を襲うが、今更こんなもので悠人達は倒れない。

 

向こうもそんなことは分かってるはずだ。

これは会戦の合図のようなものである。

 

「悠人様、稲妻部隊です。」

 

「分かった。皆、気を引き締めて行くぞ!」

クォーリンの率いる稲妻部隊と、ラキオス軍との戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

「リエラ・・・。」

 

「また会ったわね。」

サレアとエルフィーはリエラと対峙していた。

 

サレアとエルフィーは辛そうな表情をしているが、リエラはいつも通りだ。

 

「良く平気な顔でいられるわね、リエラ。」

 

「かつては仲間だった。でも、マナ消失によって私達はお互い別々の道を歩んだ。

あなた達はラキオスに・・・私はマロリガンへ・・・。そして、勝利を賭けて今ここで対峙している。それだけのことでしょ?」

 

リエラがサラッと言う。

 

「本当に・・・戦う以外に道はないんですか?」

 

「そもそも、私達ってそんなに親しい間柄だったかしら?何でそんな顔をするのか、私こそ良く分からないわね。」

リエラはその手に剣を出現させて、構える。

サレアとエルフィーも攻撃態勢を整える。

 

「サレア・・・。」

エルフィーが少し心配そうに、小声で語りかける。

 

「分かってる。私達じゃ、リエラには役不足だって。でも・・・だからって逃げるわけにはいかないじゃない。皆戦ってるのに。」

 

「分かってるつもりですけど・・・。」

2人が戦う決意をするまで待つほど、リエラはお人よしではない。

 

「来ないなら、こっちから行かせてもらうけど。」

 

「エルフィー!覚悟を決めなさい!」

 

「分かりました。」

 

キィーン

 

リエラの居合い斬りを何とか、防ぐ。

 

だが、ブラックスピリットのサレアにとっては、重すぎる一撃だった。

そのまま突き飛ばされて、体制を崩してしまう。

 

「サレア!」

エルフィーが攻撃を加えて、サレアが体勢を整えるまでの時間を稼ぐ。

 

それをヒラリとかわすと、一瞬の隙をついて胴体を切断しようと剣を走らせる!

 

「させないわ!」

サレアが強引に割り込んで、それをギリギリのところで防ぐ。

リエラは後ろに跳んで、間合いを取る。

 

「今!」

エルフィーは、剣を掲げるとそこから津波を発生させてリエラを攻撃する。

 

防御も兼ねた強力な技だ。

隙も少なく、非常に使い勝手の良い技である。

 

「甘いわね。」

天理に一瞬でオーラを溜めると、それを全て破壊の力に回して一気に放つ。

 

オーラフォトンバスター!!!

 

カアッッッッ!!!

 

エルフィーの津波と激しくぶつかり合う。

 

ズゴァァアアーーーン!!!

 

「くぅ!何て攻撃・・・。」

エルフィーの津波が粉砕されてしまい、リエラの放ったオーラフォトンバスターが自分達に迫ってくる。

 

何とかかわそうと、横に大きく跳ぶ。

 

 

 

 

 

 

「くそっ!俺も!!」

悠人は戦場を右往左往していた。

 

あっちの仲間がピンチだったら助けに行ったり、こっちの仲間が手を焼いているようなら加勢に行ったりと、

相手をしてくれるスピリットがいないので、とにかく手持ち無沙汰なのである。

 

クォーリンがわざとそうなるよう、上手く計算して戦いを進めているのだ。

なかなか上手い。

 

 

 

 

 

「ん!」

アセリアが、敵ブルースピリットの剣を“存在”で受け止める。

 

「っ!!?」

そして、次の瞬間アセリアの顔が死の危険を感知して固まる。

 

背後には、その隙だらけの背中をついてきた、一人の敵ブラックスピリット。

 

実質、ブルースピリットの剣によって神剣を封じられている為、どうしようもなかった。

敵ブルースピリットは、相変わらず剣でギリギリと押さえつけてくる。

 

 

 

 

 

10メートル後方では、神剣魔法をアイスバニッシャーで封じられて、

アセリアと同じく無防備のオルファリルを狙って攻撃を仕掛けてきた、別の敵ブルースピリットの姿が・・・。

 

こちらは、“理念”によって防げる時間は無くはないが、それでもギリギリと言った所だろう。

 

他の敵スピリット達もオルファに集中しつつある。

 

どちらも、あまり状況は好ましくない。

 

 

 

 

 

「くっ!」

その危機を悟った悠人が、大地を蹴って救援に駆けつける。

 

 

 

さて・・・悠人が助けに向かったのは、果たしてどちらだろうか・・・。

 

 

 

 

 

 

「パパ!」

 

 

「ん、悠人・・・。」

 

オルファとアセリアが、救援に駆けつけてくる悠人の姿に同時に気付いて、助けを求めるように声をかける。

 

 

 

 

 

 

「お、2人のお嬢さんが危ないな。悠人はどっちを助ける?」

その光景を興味深そうに眺める光陰。

 

「いや、どちらのお嬢さんの危機に気付いてるのか・・・と言った方がいいな。」

この混戦で、2人の危機を同時に感知できるとは考えにくい。

 

そこまで、余裕のある戦いではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リーダー。スピリットであってスピリットでない者とは一体?」

ロウエターナル達が、レーゼイに従って渋々自主練に励みだした頃、ローゼア一人がその場に残って、リーダー疑問をぶつけた。

 

「まあ・・・特別なスピリット・・・って言った所かな。ま、最終的な判断は、彼女達の戦いをこの眼で直に見てから決めるつもりだけど。」

まだ釈然としないものがあるが、経験上これ以上問いただしても無駄だろう。

 

そして、もう1つ。

ローゼアにとって、こっちの方が重要だ。

 

「先程、ロウ陣営を洗い流すと言いましたが、それってどういう意味ですの?」

 

「言葉通りじゃない。今のロウエターナルは、基本的に役立ずばっかなのよ。

神剣を振り回す事しか脳のないクズばっかだからこそ、神剣と波長を合わせてチームプレイで攻めて来るカオスに勝てなかった。違う?」

 

「それは・・・。」

 

「これを打開するには、神剣と波長を合わせて戦える、言わば使える人材が必要不可欠なのよ。」

 

「その為に・・・。」

レーゼイがニヤリと邪悪に笑う。

 

「そう、この星から私の欲しい戦力を発掘するのよ。つまり、使えない戦力から使える戦力に交換したいの。」

 

「・・・・・・。」

リーダーが何を言いたいのか・・・少しずつ掴めて来た。

 

前リーダー、ミューギィの時代にはあり得なかった事だ・・・。

 

「さて、そこで問題。」

レーゼイは、楽しそうに話を続ける。

 

「エターナルでない者を、一番効率良く強化する方法は?」

ローゼアは黙って首を横に振る。

 

「答え・・・マナを注ぎ込む事。そこで二問目。極上のマナは、どこにあると思う?」

再び、ローゼアは黙って首を横に振る。

 

「あるじゃない、すぐ傍に。例えば、こことか?」

そう言ってレーゼイは、己の錫杖型の永遠神剣の切っ先で、ローゼアの胸をトントンと叩く。

 

瞬間、ローゼアの顔の表情が固まる。

 

確かに、エターナルはマナの塊でできている。

神剣だって似たようなものだ。

 

「つまりはそう言う事。欲しい戦力を手に入れたら、今の戦力と交換しちゃえばいいの。

前の戦力には、新しい戦力達の強化の為の餌になってもらう。これが一番無駄がない。」

 

「あ・・・ああ・・・。」

リーダーの恐ろしい企みを知って、酷く取り乱すローゼア。

 

「ま、そう怯える事はないって。今の戦力だって、搾り取れるだけ搾り取りたいから。

徹底的にこき使って、少しずつロウ陣営を洗い流していけば、ロウも化けるわよ?」

 

ローゼアは、少し落ち着きを取り戻す。

 

「ま、全ては私の気分次第・・・ってとこね。私の嫌いなテムオリンとメダリオは、たぶん真っ先に消える事になると思うけど。

タキオスは個人的に欲しい人材だから、彼は生かしておくつもり。私が、テムオリンから独り立ちさせてあげる。」

 

やや誤解を招きかねない発言内容。

 

「リーダー?」

ローゼアも、そこが気になってしまう。

 

「あら、そういう意味じゃないわよ。私が彼を好いてるように見える?」

 

「・・・いいえ。」

 

「後は・・・。」

 

「まだ何か?」

 

「忘れたの?イースペリアが滅ぶ直前、私達の前に現れたあのエターナルを?」

 

「っ!!?」

 

「牽制くらいしておきたいんだけどね。残念ながら、今のままじゃ無理。」

 

「係わり合いにならないよう祈るしかないと思いますが?」

 

「災いになりそうな芽は早めに摘み取っておかないと。ね?」

レーゼイは、再び唇の両端を吊り上げる。

 

「でも、その方法がないからこそ、接触しないようにする以外手がないのでは?」

 

1つだけあるんだなー、これが。」

こんなに楽しそうなリーダーを、未だかつて見た事があっただろうか?

 

「彼女の強さを逆に利用できる方法があるのよ。」

そう、これだ。

 

この得体の知れなさ。

これこそが、ロウ達から恐れられる最たる理由。

 

だからこそ、リーダーの座を射止めたのだ。

 

「ただそれには、とある永遠神剣との契約に成功しないといけないのよ。」

 

「とある永遠神剣・・・まさか、あの!?」

レーゼイが頷く。

 

「前に一度契約に失敗した、あの神剣。でも、今度は大丈夫。あれから私も情報を掻き集めたから。」

 

「確かに・・・あの神剣なら・・・不可能ではないですが・・・。でも、成功するでしょうか?」

 

「あの神剣が、意外と単純な事が分かったの。餌を用意すれば、食いつくわ。

あの神剣を使えば、牽制する事ができる。幾らあのエターナルでも、下手に剣を交えるような事はできないはず。」

 

未だかつて、上位の永遠神剣すらも手玉に取ろうとするようなエターナルがいただろうか?

 

いや、恐らくいまい。

 

ローゼアは断言できる。

 

それでこそ、ロウのリーダー!

 

ローゼアは、心の中で踊り上がる。

 

「さすがは、リーダーです。そんな事ができるのは、あなただけです。」

ロウ側の永遠神剣は、エターナルを利用する為に契約を交わす。

 

だが、レーゼイの場合は違う。

レーゼイも己の神剣を利用する為に、契約が成り立ったのだ。

 

お互いがお互いを利用しようとしているのである。

 

通常ロウ側の永遠神剣は己の野望の為、程度の違いこそあれど、契約者の精神を破壊してしまう。

 

だが、レーゼイは破壊されていない。

 

自分から進んでロウの思想に賛同して、レーゼイは自分の神剣の思うとおりに動いているのだ。

彼女の神剣も、その為に精神をわざわざ破壊する手間が省けてしまう。

 

それこそがレーゼイの狙いだと分かっていつつも、乗っ取ってしまうよりもこのままの方が、契約者が勝手に動いてくれるので楽なのだ。

無駄な力を使う必要がなく、マナの消費も防げる。

 

そして、レーゼイはそれを全て読んでいる。

 

レーゼイが第1位の神剣と契約できたのは、ただの偶然ではなく、器があるからこそ成るべくして成ったのだと、ローゼアは確信できる。

 

お互いがお互いを利用しようと、常に壮絶な駆け引きを繰り広げて来た為、

お互いの深い所まで良く知っている彼らは、意外にもかなり波長率が高く、それだけ力を引き出せる。

 

複雑な関係である。

 

そして今、もう1本の上位永遠神剣すらも利用しようとしている。

これは、凄い事だ。

 

「リーダー・・・いえ・・・“―――さん”・・・。」

その言葉を口にした途端、レーゼイの目が冷たく凍りつく。

 

「その呼び方は禁じておいたはずよね?」

ローゼアが項垂れる。

 

「ローゼア、もう私とあなたは従える者と従う者の関係。それを・・・忘れない事ね。」

 

シャラーーーーン・・・

 

何度聞いても綺麗な音色を奏でつつ、レーゼイの姿が消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アセリア!」

 

ザシュッ!!

 

悠人の一声と同時に、鮮血が辺りに飛ぶ。

悠人が、アセリアの背中を斬り裂こうとしていた敵ブラックスピリットを斬り裂いたのだ。

 

「悠人・・・。ん・・・ありがとう・・・。」

 

 

 

 

 

「悠人が選んだお嬢さんは、あっちの姉ちゃんか・・・。なかなか隅に置けないな。」

戦場である事を忘れたかのように、ついニヤニヤしてしまい、慌てて表情を引き締める光陰。

 

ちょっと情けない。

 

 

 

 

 

一瞬だけとはいえ、戦場であるにも関わらず、2人だけの空間を作り出している悠人とアセリアに怒りが湧いてくる者が、約一名。

 

「むぅぅぅぅぅーーー。オルファだって危ないのにーーー!!パパのバカーーー!!!」

そんなオルファの危機を救ったのは、セリアだった。

オルファに群がりつつあった、敵スピリットを一人残らずマナへと変えていった。

そして・・・。

 

パシーン!!

 

「痛い!痛いよ・・・。」

頭をセリアに思い切り叩かれたオルファは、涙目になって抗議する。

 

「戦場で、何嫉妬なんかしてるのよ。死にたいの?」

 

「うう・・・ごめんなさい。」

 

「謝るのは、後でいいから。今は勝つ事に集中しなさい!」

 

「う、うん・・・パパのバカ・・・。」

セリアに聞こえないように、できるだけ小声でそして早口で言ってやる。

 

パシーン!!

 

そして、二度目のセリアのビンタを受ける事になった。

 

 

 

 

 

(不味い・・・。皆、必死で戦ってるのに隊長の俺が一人、戦場をウロウロ彷徨うなんて・・・。)

オルファの嫉妬という名の怒りの炎を、ついさっきまで浴びていた事にてんで気付かず、戦わなければと焦る悠人にそっと近づく者があった。

 

「っ!!?」

悠人はすぐさま反応して身構える。

 

背後に忍び寄ったのは、クォーリンだった。

クォーリンは攻撃の意思はないことを、その穏やかな表情で伝えるが隙は与えない。

 

「あちらで、光陰様がお待ちです。一対一での戦いを望まれています。どうかお受けください。」

敬語を使って静かに話しかける。

 

「光陰が!?」

 

「はい。このままでは隊長として、部下に示しがつかないでしょう?光陰様とお二人だけで、決着をつけてくる良い機会です。早くお行きください。」

 

「・・・・・・。」

訝しげにクォーリンを見る。

 

「信じられませんか?それではあちらの岩場をご覧ください。」

クォーリンが、指差した先を眼で追う。

 

「あれは!?光陰!!?」

岩場の上であぐらをかいて、ずっと戦いの様子を見ているのは紛れもなく光陰だ。

 

「それまでは、誰にも邪魔はさせませんから、どうか光陰様とお二人で・・・。」

 

「くっ、分かった!」

悠人は光陰の元へと走り出す。

 

「光陰!!」

走りながら大声で呼びかける。

 

「おっ、悠人。やーっと来たな。」

光陰が立ち上がる。

 

 

 

 

 

ズッドォォオオオーーーーン

 

リエラが間髪入れずに、ウイングハイロウを展開して上空から突っ込んできた。

 

「うぅ・・・ぐぅ!」

 

「ああっ!」

オーラフォトンバスターは何とか、かわしたもののこれは避け切れなかった。

 

ダメージ大である。

 

「サレア、エルフィー。さよならね。」

リエラが大地を蹴って、2人まとめて斬り捨てようと剣を走らせる。

 

2人はまともに動くこともできない。

サレアとエルフィーが眼を瞑って、死を覚悟した。

 

「サレア!エルフィー!」

セリアが助けに駆けつけてくる。

丁度、敵スピリットをマナに返したところだったのだ。

 

ギィン!!

 

(くっ!ブラックスピリットなのに、何て重い攻撃なの!)

そのまま吹っ飛ばされそうになるのを何とか堪える。

 

稲妻部隊はだいぶ数が減っていた。

ラキオス勢が押している。

 

手の空いたスピリット達が、強敵リエラとの戦いに手を貸そうと続々と駆けつけてくる。

 

「やっぱり、間に合わせのスピリットじゃ無理か・・・。」

神剣に魂を奪われたスピリットではラキオスに勝てないと踏んだ光陰は、必死で彼女達を鍛え上げたものの、

悲しいかな、とてもじゃないが時間が足りなかったのだ。

 

オーラフォトンバスター!

再び強烈な攻撃を放って足止めをすると、その隙を突いて一旦クォーリンの元へと戻る。

 

「リエラ。そっちの方は、片は付いたの?」

 

「ううん、後一歩というところでね。さすがにあれだけの人数を相手にするのは骨が折れるから。」

顎で傷ついた仲間を癒すラキオス勢を指す。

 

ズッドーーーーーーン!!!

 

背後で強大なオーラがぶつかり合ったのが分かった。

光陰と悠人が戦っているのだ。

 

 

 

 

 

「今のは何?」

セリアが驚いた様子で尋ねる。

 

「分かりません、悠人様は!?」

 

「そう言えば〜、さっきから見当たりませんね〜。」

こののんびりとしたしゃべり方のスピリットは、ラキオスではハリオンしかいない。

 

「まさか、やられたんですか!?」

ファーレーンが最悪の結末を予想してしまう。

 

「ん、あっちの方で・・・神剣の気配・・・。たぶん、“求め”。」

アセリアのその言葉に、皆一斉に神剣の気配を探り出す。

 

「パパがあそこにいるの?」

オルファも、ついさっき嫉妬していた事を一旦忘れて、悠人の身を案じる。

 

「でも・・・どうしてあんなところに?」

 

「とにかく行きましょう!」

セリアに続いて皆、“求め”らしき気配のする方へと走り出す。

 

 

 

 

 

「どうやら感づかれたようね。」

 

「そのようね・・・。」

クォーリンには、もう彼らを止めることはできなかった。

後は、決着が付いててくれることを祈るしかない。

 

「あなたも追わないの?」

 

「光陰様なら、大丈夫です。あの方なら・・・。」

 

「無理しないで、様子でも見に行けばいいのに。」

クォーリンは生き残った稲妻部隊をチラリと見やる。

重傷を負った者はいなかった。

 

「大丈夫そうね・・・。それじゃあ、私もこっそりと様子を見て来るわ。」

そう言って、弾かれたように駆け出す。

何だかんだ行って心配なのだ。

 

「ふぅーー。意外と単純なとこがあるのね。」

 

 

 

 

 

そうして、若干の休息を取っていた時だ!

 

ゾクゥ!

 

「今のは?」

辺りを見回す。が、何もない。

 

(何か、とんでもないことが起ころうとしてるような気がする・・・。)

そう言えば、さっきからマナの流れが怪しい。

リエラはそれを肌で敏感に感じ取る。

 

「天理、お願い。」

天理を天に掲げて、眼を閉じる。

 

ピィィィーーン

 

とある場所を中心にマナの流れがおかしくなってるのが分かる。

 

(あの時と同じ・・・)

あの時と同じ災厄が起こるまでの時間と、逃走時間とを計算する。

そして、とても間に合わない事を知ると、最後の手段しかなかった。

 

つまり、“マナ消失”の阻止に向かって走り出した。

 

 

 

 

 

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あとがき

 

 

 

 

 

 

本当は1話に纏めたかったのですが、長くなりましたので前編・後編に分けました。

因みにホークネスが書きたかったのは、後編になります。

恐らく後編は、“虹色の輝き”の中でも特に重要な部分を占めるかと・・・。

 

次回も是非読んでやってくださいな、よろしくお願いします。

 

ホークネスがお話を書く上でのモットーのような物は・・・と言いますと、やはり挙げられるのは、悪役の影を薄くしない事・・・ですね。

 

RPGで良く見られる、ラスボスが最後の最後でようやく姿を現す、と言った展開が嫌いなこのホークネス。

クライマックスでチョコチョコッと出てくるような、もったいぶったキャラの使い方はする予定はありません。

 

ラスボスクラスのキャラだって、物語の最初から密かに暗躍し続けていたわけですから、

最初のうちにさっさと登場させて、できる限り活躍の舞台を与える。

 

それがホークネス流です。

 

“活躍の舞台を与える”のと“最初から物語の深い所を掘り起こしてしまう(いわゆるネタバレ)”のでは、意味は全然違います。

その存在自体が、ネタバレならともかく・・・。

 

それがホークネスの考え方です。

 

なので、できる限りレーゼイやローゼア等のロウエターナルも登場させて、暗躍させていければ・・・と思っています。

 

 

しかし・・・ここまで書いてみて、伏線やキャラを出しすぎたかな?と少し反省している所だったりします。

処女作の癖に、自分で自分の作品の難易度を上げているような・・・。

 

まあ、どのように回収するか、としっかり考えがあるからこそ出したわけですが・・・。

とりあえず、このまま書き続けてみたいと思います。

 

今後とも、応援をよろしくお願いいたします。

 

 

徐々に、レーゼイが本性?のようなものを表して来ました。

ですが、彼女の性格は?と聞かれれば、ホークネスとしては“怠け者”“不真面目”“やや自己中心的”

・・・つまりいい加減な性格・・・俗に言う駄目人間という設定です。

 

ですが、彼女の捉え方は人それぞれだと思いますので、判断は読者の方々にお任せしたいと思います。

 

彼女が、現在の神剣と契約を交わした時のエピソードは、今の所作中で出す予定はありません。

出しても、簡単に載せる程度に留める予定です。

なので、予めご了承ください。

 

そして、今回のお話において一番伝えておきたい事、

それはレーゼイが今の神剣と契約を交わした背景にどのような思惑があったのか、という件に関してです。

 

さぞかし大層な野望があるのだろう、と思われている方々。

 

 

・・・確実に返り討ちに遭います・・・。

 

 

一言で言えば、レーゼイらしい野望です。

これ以上は、ネタバレになるので言えませんが・・・。

こんな野望もあるんだ・・・程度に受け止める準備をしておかないと、拍子抜けする事必死です(笑)。

 

まあ、はた迷惑なキャラ・・・に仕上がればと思っています。

 

あくまで今の所の予定ですので、“驚きの野望を用意してくれ!!”

と切に願う方が、もしいましたら、彼女の野望?を見直したいと思っています。

なので、掲示板にてご意見をよろしくお願いいたします。

 

 

しかし・・・駿二の出番が・・・。

次回は登場しますが、彼の影は薄く・・・ないですよね?