「はい、あなた♪あーーーん♪」

 

「あーーーん♪」

和式の家で、一人の飛び切りの美少女が作ったおかゆを、デレデレとだらしのない男が口をアングリと開けて食べさせてもらっている。

 

 

そんな男を白い目?で見ている、者が・・・いや、馬鹿でかい剣が非難の視線をタップリと送りつけている。

 

『我は情けないぞ・・・。』

男の永遠神剣であろう、巨大な剣は大袈裟な溜息を心の中で漏らした。

 

「すごい食べっぷりね、あなた♪」

美少女が、ツンと男の頬を軽くついた。

 

「あは、あはははははははは・・・。」

ニタニタとしまらない笑いを浮かべる男。

 

そんなだらしのない男に殺意がヒシヒシと湧いてくるものが約一名。

 

『誰でも良い。誰でも良いから、あの愚か者に天の裁きを・・・。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幽霊に恋した男

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事の起こりは、つい昨夜にまで遡る。

 

 

 

 

「何かあったんですか?」

のどかな村を、青い顔をしながら走り回っているおばさんに、思わず声をかけてしまった所から、この物語は始まる。

 

「うちの娘が、いないんです!いつもは、この時間には必ず家にいるのに!」

 

「裏の墓地に行ったとか?」

その話を通りがかりに聞いた、大きな丸太を何本か軽々と担いだ男が、意地悪そうな笑みを浮かべながら言う。

 

それを聞いたおばさんは、更に青い顔をしながらヘナヘナっとその場に崩れ落ちてしまう。

 

「裏の墓地?」

でかい剣を背負った剣士のような男の方が、訝しげな表情を浮かべる。

 

「何だ、おまえさん。旅のものかい?この村の裏手にはね、大きな墓地があるんだよ。そこには、夜な夜な幽霊やお化け何かが出るっつー・・・。」

 

「墓地に怪談はつきものさ。ただの噂、心配はないんじゃないか?なんなら、俺が見てきても良い。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、二つ返事で引き受けた剣士?は、真っ直ぐに問題の墓地へと向かった。

 

『女子などに構っている暇などない。我らが悲願を忘れたか?人助けなどしてる暇があるのなら、修練に励め。』

男の剣が不服そうに語りかけてくる。

 

「息抜きと思えばいいんじゃないか?俺も・・・たまには格好良い所を演じて、男としての株を上げないとな。」

そんな事を呑気に呟く。

 

『まあ、今の所は・・・な。どんなに格好つけても、そのうち必ずボロを出す・・・。』

剣は、疲れたように言う。

 

「何、今日こそは格好良く決めてみせるさ。」

 

『経験上、格好良く決められた試しがないが?』

 

「あ、墓地が見えてきた!」

さり気なく話題を反らそうとする男。

 

剣もそれ以上の追求は止める。

深く突っ込んで来ないのが、この剣の良い所なのだ。

 

「さてと、女の子はどこにいるのかな?」

 

『まだ、墓地にいると決まったわけではない。』

墓地にいると決め付けている男に、釘を刺しておく。

 

「何言ってるんだよ。子供で墓地と来りゃー、肝試しじゃないか?」

 

『幼い女の子が、肝試しなどするものか。男の遊びだろう?』

 

「そういうのを、偏見というんだ。時代遅れだぞ?」

 

『分かったから、捜すのならさっさと捜せ。我としては、このような事はさっさと終わらせたいのだからな。』

 

「はいはい。」

と、男の視線が一点に釘付けになる。

 

「おい・・・案外、幽霊って本当にいるかもしれないぜ?」

冗談めかして、男が言う。

頭では幽霊の存在を否定している、そんな顔だ。

 

『・・・どちらでも構わん。見に行くのなら、早く見に行け。』

乗り気のしない事に、トロトロと時間をかけられると自然とストレスは溜まってくるものだ。

それは永遠神剣とて例外ではないだろう。

 

「分かった分かった。手早く済ませるから、そう怒るな。」

軽く謝って、例の青白い光がボンヤリと光っている所へと走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、ビンゴって奴かな。」

特にお墓が密集している辺りに、青白い光の源はあった。

 

その傍には青白い光の方を見て、怯えているような表情をした一人の幼い女の子が、ペタンと腰を抜かしたかのように座り込んでいた。

女の子は道に迷ったのか、今にも泣き出しそうだ。

 

「もう、大丈夫だよ。俺がお母さんの所へと案内してやるから。」

 

「お、お兄ちゃん・・・あれ・・・。」

女の子は、奮える手で青白い光の方を見るように促す。

しかし、女の子に意識が集中している男は、その様子に別段気にした様子もなく、すぐ傍に控える青白い光の正体に目を向けない。

 

「さ、おうちに帰ろう。」

 

『愚か者が。それより先にする事があるだろう!』

いつまで経っても青白い光の方を見ようとしないその男に、イライラしてきた調子で男の永遠神剣が口?を開く。

 

 

 

 

 

「あのーー・・・。」

見知らぬ女の声が、突然男の背後からそっと聞こえてきた。

 

「へ!?」

途端に男が硬直する。

ここには、自分と自分の永遠神剣と、今目の前にいる女の子しかいないはずだ!

 

『かーーー、今頃気付きおって・・・。』

永遠神剣の方が恥ずかしくなってくる。

 

「あの、君・・・今何か言った?」

男は、泣きじゃくりそうな女の子に声をかける。

 

背後にいる謎の存在を認めたくない男の、最後の現実逃避だ。

 

フルフルと女の子は、首を横に振る。

 

「首を縦に振るんだ!」

勢い余って、思わず怒鳴ってしまう。

 

「わーーーーん!!お兄ちゃんが泣かしたーーー!!!」

 

「あ、いやあのその・・・ご、ごめん。今のは俺が悪かった。悪かったから、さっさとここから離れよう。

それが、きっと一番良い。そうさ、幽霊なんかこの世にいるはずがないだろう?」

 

自分に言い聞かせるようにして、女の子を抱え上げる。

そのまま背後を見ないようにしながら、そーっとその場を立ち去ろうとする。

 

『だから言ったのだ、必ずボロを出すと・・・。』

 

ピシッ!

 

小枝を踏んづけた音にも、縮み上がる情けなさ全快の男。

 

そして、次の瞬間男は更に縮み上がった。

男の首筋にヒンヤリと冷たい感触が当る。

 

「お待ちになってください。」

恐る恐る背後を振り返る男。

既に、格好良い男を演じてはいなかった。

 

そして、声にならない悲鳴を上げかけて・・・止めた・・・。

 

目の前に佇んでいたのは、飛び切りの美少女だったのだ。

 

「凄い大きな剣をお持ちなんですね。」

ニコリと、綺麗な笑みを浮かべる美少女。

 

一瞬で目を奪われてしまう。

 

「お、お兄ちゃん?」

男の頬をツンツンしたりツネッたりしてみるが、まるで気付いていない。

 

「旅の人ですよね。何だか格好良いです。」

 

ボンッ!!

 

男の顔からそんな音が聞こえてきたような気がした。

 

男の頭がフラフラし始める。

 

『こやつ今何と?』

男の永遠神剣は今しがた、信じられないもの聞いたような気がした。

 

「あの・・・あなたは?」

ようやくそれだけ口にできた。

 

「小枝・・・と申します。春咲小枝。よろしくお願いしますね。」

また、綺麗な笑顔を浮かべる女性。

 

ますます見とれる男。

 

「あの、せめてお名前だけでも・・・。」

 

「ドン・・・。ドン・アルサイドだ・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・そして現在に至る・・・。

 

 

 

 

因みに、女の子は責任を持って母親の元へと送っておいた。

 

別れ際女の子は心配そうに、デレデレとだらしのない表情をしている男を見つめた。

 

それにしても、エターナルたる男が小さな女の子一人に心配されるとは・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待て待てーーー。」

 

「きゃー、きゃー。」

いつの間にか鬼ごっこが始まっていた。

 

男の永遠神剣第二位・闘鬼を放りだして・・・。

 

因みに、美少女の方は足が地面についていない。

空中に浮遊しているのだが、ドンはまるで気付いていない。

 

『呪われるが良い・・・。』

そんな物騒な事をボソリと呟く“闘鬼”。

 

ドタドタドタ!

 

ドンが煩く走り回る音。

実質初モテで、すっかり浮かれ騒いでいる。

 

『我は突っ込み役ではない。・・・そう、断じて突っ込み役ではないのだ。』

そう己に暗示をかけながら、思い切り突っ込んでやりたい気持ちを抑える。

 

突っ込んだとて、今のドンには聞こえまい。

 

『それより、あの男は気付かんのか?あやつが幽霊である事に・・・。』

イライラしてくる闘鬼。

 

気にしてないというよりは、気付いていない。

 

時々壁をすり抜けたりしているのだが、ドンは驚く様子を欠片も見せない。

すっかり浮かれて、正常な判断を失っていた。

 

『打倒レイを放り出さねば良いが・・・。』

すっかり、不安になってくる闘鬼。

 

悪いが、そうなったらドンを乗っ取ってでも悲願を成就する覚悟だ。

更なる高みを目指す事こそが、闘鬼のたった一つの目的にして、一番大切な事なのだから・・・。

 

それを放り出すと言う事は、即ち闘鬼の存在そのものを否定するも同じ事だ。

 

闘鬼にとって、それぐらい大事な事なのである。

 

『ドンよ・・・我にそのような事をさせるなよ・・・。』

ドンが、ロウにもカオスにも属さないのは、そんな闘鬼の影響もある。

 

闘鬼もかつては、ロウに属していたらしい。

 

だが高みを目指す事と、神剣を1つにする事は必ずしも同じではないと勘付いた闘鬼はロウを捨てた。

そしてドンに出会い、彼の筋金入りとも言える根性を見込んで契約を交わす。

 

もし、闘鬼がその時もロウ側の永遠神剣だったら、ドンは闘鬼と契約しなかっただろう。

組織に縛られて生きる事は、彼の良しとする事ではないからだ。

 

ドンは、あくまでも自由を好む。

そして、世界を股にかけて放浪の旅を続けるうちにレイと出会い、大敗北を喫する事で2人に共通の目的ができたのだ。

 

これだけ語れば、ドンは格好良く聞こえるかもしれないが今の彼が、実質彼がどういう人間かを如実に物語っている。

 

女の子一人・・・いや、幽霊に現を抜かしている情けなさ全快の男・・・。

 

『クールになれとまでは言わん。ただ、そのしまりのない顔だけはどうにかして欲しいものだ・・・。』

闘鬼はクールな人間を好むが、契約において絶対条件とまではしていない。

高みを目指すのなら、絶対に諦める事を知らない根性が一番大事だ。

 

そう考える闘鬼にとって、彼と初めて契約を交わしてからのたった30分間だけ彼は光って見えたのだが・・・。

 

「ちょっとだけですよ♪」

 

「ヒューヒュー・・・。」

ドンが、口笛を吹いている。

 

『何だ何だ?』

何だか良く分からんが、果てしなく嫌な予感がする。

 

小枝が、そっと自分の服の裾に手をかける。

 

「あなたって・・・エッチ♪」

 

「いやいやいや・・・君が見せたいって言うもんだから仕方なくだな・・・。」

先程とは、更に輪をかけてだらしのない顔をしているドン。

 

「あらあら、そんな事言っちゃって・・・。」

 

「いや、僕はそれほど愚かな男では・・・。」

 

「では、カウントダウン♪いーち・・・。」

そう言って、小枝は服を脱ぎ始めた!

 

ここが闘鬼の限界だった。

 

『止めさせろ!!!』

いつになく迫力を帯びた声。

 

思わずゾクッとしたドンは、慌てて小枝を制止した。

 

「えーーー、私は構いませんのに・・・。あなただけなら♪」

 

「い、いやーーー、あっはははははははは。」

頭をカキカキ笑うドン。

 

「あなたって、照れ屋さんなんですね。」

 

「あは、あはははははは・・・。」

だらしない笑い。

 

ここまで来ると冷めてくる。

 

『今日のドンは・・・見なかった事にしておこう。』

 

 

 

 

 

そんなこんなで、イチャイチャし続ける2人を一人蚊帳の外で見させ続けられる闘鬼の心境は、ご想像にお任せしましょう。

 

 

 

ドンは終始だらしのない笑みを絶やさない。

笑顔を絶やさないのと、だらしのない笑顔を絶やさないのとでは意味が全然違う。

 

『・・・・・・。』

しかし、何だろうこの違和感は・・・。

 

『おかしい・・・いつもこれほどまでにだらしなかったか?』

小枝を見るドンの目。

その目は・・・小枝に酔っていた。

 

『ドンよ、今日のおまえ・・・少しおかしいぞ?』

そんな闘鬼の不安を余所に、ドンは小枝とイチャイチャを続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

実の新婚夫婦のように仲の良い二人だったが、ふと小枝が突然その顔から表情を消して、じっとドンを見つめてきた。

 

「ねぇ、ドン?」

 

「ん、何だい?」

バカなドンは、場の空気の変化を掴んでいない。

 

「ドンに・・・悩みってありますか?」

 

「いや、ないよ。悩みってのは自分で作るもんさ。自分でどうにかしようと思えば、意外とどうにかなるもんだよ。」

 

「簡単なんですね。」

クスリと笑う小枝。

 

「そうかなー、あっははははははは。」

照れたように笑うドン。

 

「そういう小枝には、何かあるのかい。」

 

「あります・・・この姿のままでは・・・絶対に叶えられない悩み・・・いえ、願い・・・とでも言うべきでしょうか?」

 

「え?」

何の気なしに聞き返すドン。

 

「何かに・・・触れて見たい・・・。」

ボソボソと呟く小枝。

良く聞き取れなかった。

 

「ごめん、良く聞こえなかった。何だって?」

鈍いドンは、触れてはいけない領域である事にてんで気付かない。

 

小枝は、そっと眼を反らした。

その様子を見て、ようやく自分が触れてはいけない領域に触れた事に気付いた。

 

「あ、ご、ごめん。俺バカで。聞いちゃいけなかったかな。いいよ、無理に答えなくて。」

 

「いえ、気にしないでください。私もバカな事を聞きました。」

そこでスッと意味ありげに目を細める小枝。

 

「ただ1つだけあなたに共感です。悩みと言うのは、自分自身で解決するものですね。」

 

「あ、ああ・・・。」

そこでドンは、クラッと来る。

 

「あ、何かはしゃぎ回ったら眠くなったな。」

 

「あ、それなら今晩は泊まって行きますか?私は構いませんよ?」

 

「そ、そうか。悪いな。」

ドンも別に断る理由はない。

 

それに小枝ともっと一緒にいられるのなら・・・。

 

『おい、待て!女子と1つ屋根の下など、我が断じて許さんぞ!?』

思わず叫ぶ闘鬼の声も、ドンには聞こえていない。

すっかり忘れ去られた闘鬼は、その場にポツンと取り残されてしまう。

 

 

 

 

 

「布団はそこに・・・。」

小枝の指示で、ドンは布団を敷くとすぐに横になって、寝てしまった。

 

「小枝・・・小枝・・・。」

そんな事を、早速寝言で呟いている。

 

その辺にほったらかしにされた闘鬼は、湧き上がる殺意を抑えるのに苦労したという。

 

スッと、寝入ったドンの傍に正座する小枝。

 

「ようやく寝つきましたか・・・。」

その表情には、先程までの綺麗な笑顔はどこにもなかった。

 

「ドン・・・。あなたに1つだけ共感です。悩みと言うものは・・・自分自身で解決するものだと・・・。」

小枝は、スッと手を伸ばしてドンの布団に触れようとして・・・すり抜ける。

 

「そう・・・幽霊の私は、一切の物に触る事すら叶いません。」

そう言って、寂しそうに笑う。

 

「何かに触りたい・・・もう一度触れてみたい!それが・・・今の私の悩みなんですよ、ドン。」

そっと己の胸の前に手を持って行く。

 

「もう・・・こんな身体は嫌なんです。」

少し前までは、小枝もこの世の人間だった。

 

だが、彼氏との初デートの直前流行病に倒れ、この世の人ではなくなった。

デートの本当に、直前の出来事だった。

 

小枝の彼氏は、彼女と天国で出会える事を信じて、入水してしまった。

 

彼と恋人になって、してみたい事は山ほどあった。

だからこそこの世に未練が残って、成仏できなかったのだ。

 

その“してみたい”という想いだけが、形となって小枝は幽霊をやっている。

ドンとイチャイチャしているのはその表れだ。

 

小枝の彼氏がこの光景を見たら、顔を真っ赤にして怒り出しそうだが、今の小枝は生前の記憶を持っていない。

 

胸の前に持ってきた拳をグッと握る。

 

「私は、生きている体がもう一度欲しい。手に入れたい!もう一度、本当の意味で生きたい!このまま成仏なんて、絶対嫌!!」

 

『この女・・・まさか・・・。』

闘鬼は、嫌な予感がヒシヒシとしてくる。

 

「ドン、ごめんなさい。あなたの体・・・頂きます!」

それからはあっという間の出来事だった。

小枝が、身を投げるようにしてドンの体の中へと溶け込んでいく。

 

『くっ!悪い予感というものは、当るものだな!』

小枝が、ドンに憑依しようとしているのだ。

 

最初からこれを狙っていたのだ。

ドンが小枝にデレデレ状態だったのも、幽霊の力によるものだったのだ。

そうしてドンを洗脳していき、眠りへと誘う。

 

眠っていようが、意識のない状態でなら憑依も容易い。

 

「ごめんなさい・・・裏切ってしまって・・・。でも・・・もう一度・・・この肌で感じてみたいの・・・。」

キィィィィーーーーン・・・

 

ドンの脳内に激痛を放って、何とか起こそうと試みる闘鬼。

 

だが、その力も弱まっていく。

 

ドンの意識が、小枝に乗っ取られていくうちに、ドンの存在が遠くなっていくかのような感覚。

 

闘鬼は思わずゾッとした。

 

契約が解除されかけている・・・。

ドンがドンでなくなっていくのだ。

 

『く・・・何だかんだ言いつつも・・・我もドンを身近に感じていたと言う事か・・・。』

ドンの情けなさに呆れつつも、一緒にいるうちに心を許してしまったという事だろうか。

 

『世話を焼かせる・・・。』

小枝に乗っ取られる前に、自分が乗っ取ってしまえば憑依できなくなり、小枝をドンから追い出す事ができる。

その後で、ドンを解放すれば良い。

 

 

 

 

 

「うっ!何!?」

小枝が驚く。

 

「誰かが・・・邪魔してる!?」

 

『ドンから出て行くが良い・・・。』

謎の声が脳内に響く。

 

「だ、誰!?」

 

『そなたに語る必要はない。』

闘鬼は冷たく突き放す。

 

「う!ああ!・・・嫌!せっかく、新しい体が手に入ったのに!!」

 

『しぶとい女だ。』

ドンの体の中で、凄まじい体の乗っ取りあいが始まった。

 

傍から見れば、ドンがドタドタドタっと、狂ったように回転しながら暴走しているように見える。

・・・寝ながら・・・。

かなり変な光景だ。

 

だが、さすがは永遠神剣第二位だけある。

だんだん、小枝の方が劣勢になっていく。

 

「嫌です!身体が・・・生きている体が・・・欲しい!!」

ドンの体の中で、小枝の感情が暴走していく。

 

人に憑依した霊が感情を暴走させれば、憑依された人間も無事ではすまない。

 

『止めろ!ドンが壊れる!!』

 

「体・・・生きている・・・体!!」

小枝は聞いていない。

 

巫女などの霊に詳しい者が見たら、小枝が悪霊になりかけているのが分かるだろう。

だが、闘鬼に霊に関する知識はなかった。

 

だが、このままでは不味いと肌で感じる。

 

「少しでも・・・少しでも・・・空気を・・・大地を・・・もう一度感じてみたい!!」

 

『さっさとドンから出るが良い!』

かなり緊迫した事態なのだろうが、傍から見たらドンが気違いのように寝ながら暴走しているように見えるので、笑い話にしかならない。

 

「嫌です!!」

小枝は完全に拒絶。

 

後一歩で、小枝の願いが叶うのだ。

それを目前にしてみすみす諦めるなど、誰が受け入れるだろう?

 

ギシッ!!

 

ドンの体から不気味な音が聞こえてくる。

 

『不味い、ドンが壊れる。』

 

「私の邪魔をしないで!!!」

遂に小枝の感情が爆発。

 

ギシ・・・ギシギシ・・・

 

闘鬼に、最悪の可能性が過ぎったその瞬間!

 

「悪霊退散!!!」

そんな元気いっぱいの女の子の声が聞こえてきたかと思うと、白い粉がバサッとドンに降りかかってきた。

 

「誰!?」

 

『お主は・・・。』

ドンが墓地で見つけたあの女の子がそこにいた。

 

しかしどうして・・・。

 

「ハア・・・ハア・・・お兄ちゃん・・・幽霊に取り付かれてたみたいだから・・・。これで・・・恩返しできたね・・・。」

ペタンとその場に座り込む女の子。

 

「ま、間に合った。白い粉を探すのに時間がかかって・・・。」

確かに人の周囲に幽霊が漂っていれば、誰もが取り付かれてると思うだろう。

しかも子供なら、なおさら純粋に信じるだろう。

 

「墓地で・・・迷子になっちゃった私を・・・助けてくれたから・・・。そのお返し・・・。」

 

「あ・・・。」

 

ドックン!

 

小枝の様子がおかしい。

微かに麻の日差しが零れ落ちる中、小枝が悶え苦しみ始めた!

 

「あ!・・・あ!・・・あ!・・・」

 

パッキィィィィーーーーーーーン・・・

 

小枝とドンが分離する。

 

バタン

 

ドンの身体が後ろ向きに倒れる。

まるで、居眠りの続きを再開しようとでも言わんばかりに・・・。

 

その寝顔は・・・まるで何事もなかったかのように、小憎たらしいほど呑気に寝ているように見えたという・・・。

 

『この男は・・・。』

闘鬼は、フツフツと殺意が湧いてくる。

 

「あ・・・あ・・・あ・・・。」

小枝はなおも悶え苦しみ続けている。

 

「体が・・・私の・・・体が崩れていく・・・。」

小枝の半透明の体が、崩壊を始めていく。

 

『せいぜい、安らかに眠るが良い・・・。』

別にこれと言った感情は湧かない。

そもそも永遠神剣だけあって、人の死など何度も見てきている。

 

「い・・・やだ!消えたくない!私は・・・私はまだ消えたくない!!」

目を血走らせて、感情を暴走させ続ける小枝。

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・

 

小枝の霊としての力が暴走を始め、周囲が震動を始める。

 

「く!」

小枝がカッと目を見開いて、呑気に寝ているドンを見る。

 

「せめて・・・彼の体を・・・。」

小枝がブツブツと、正気を失いかけてる調子で呟いて、ドンに手を伸ばそうとする。

 

『しぶとい女だ。』

 

カッ!!

 

闘鬼は青白い光を放って、小枝をその場に縛り付ける。

 

「これは!?」

小枝は青白い光に包まれて、動きを拘束されている。

 

「私の・・・邪魔を・・・しないで・・・。」

小枝は泣きそうになりながら、ますます崩壊していく己の体を見る。

どこからどう見ても、幽霊の体を・・・。

 

「スー・・・グガーーー・・・ゴーーー・・・フシュルルルルーーー・・・(ドンの寝息)」

ドンが頭をボリボリとかいて、ゴロンと寝返りを打つ。

 

緊迫した事態に水を差す。

 

『この男、この場に捨ててくれようか?』

闘鬼の頭?に、危ない考えが過ぎる。

 

「あ、悪霊が消える!」

女の子が思わず叫ぶ。

 

「あ・・・ああ・・・。」

ドンが寝ぼけた声で、適当すぎる相槌を打ちながら、モソリと起き上がった。

 

「何が消えるって?・・・ムニャムニャ・・・。」

 

カアッ!!!

 

そう・・・小枝の身体が光へと溶けて、ゆっくりと消えていく・・・。

 

「・・・バカ・・・。」

消え入るような声で己の野望を阻止した者達への恨み言が、小枝の最期の遺言となった・・・。

 

『終わったようだな・・・。丁度、愚か者が起きた所で茶番の幕切れだな。』

“愚か者”を強調する闘鬼。

相当、ストレスが限界に来たのだろう。

 

「ああ・・・そうだな・・・。」

寝ぼけているドンは、それを肯定。

ますます面白くない。

 

「お兄ちゃん・・・それ・・・否定する所・・・。」

女の子が突っ込む。

ドンが後頭部をカキカキして、何とか頭を覚醒させる。

 

「あ・・・あれ?俺は何してたんだっけ?」

 

「あ、そうそう!お兄ちゃんってばもう少しで、悪霊に乗っ取られる所だったんだからね!

それを、私が助けたのよ!どう?偉いでしょ!」

 

エッヘンと胸を張る女の子。

 

「悪霊?・・・乗っ取られる?」

話が分からない。

 

「ほら、私がお兄ちゃんに取り付いてたあの幽霊を、『悪霊退散!!』って。お兄ちゃん覚えてないの?」

そう言いながら女の子は先程、小枝に振りかけたあの白い粉を見せる。

 

「悪霊って言ったら・・・こういうもので、退治するんでしょ?」

 

『その白い粉・・・どこで見つけた?』

闘鬼が、珍しく疑問を口にする。

 

『・・・と、今のは失言だった。聞かなかった事にしてくれ。』

 

「その白い粉・・・どこで見つけた?」

ドンがキリッとクールな表情をしながら、闘鬼の言葉を口調から何から何までそっくりそのまま真似てみせる。

 

『しばかれたいか?ドンよ。』

闘鬼が静かに・・・しかし、迫力を帯びた声で言う。

 

「失敬・・・。」

あまりの迫力に、ドンはそれだけしか言えなかった。

そして、誤魔化すように女の子が持ってきていた白い粉を手ですくってみる。

 

「これは・・・何だ?」

 

『・・・誤魔化すな。』

一言・・・それだけは突っ込んでやりたかった闘鬼であった。

 

 

「えっと・・・台所で見つけたの♪」

女の子が明るい口調で、ドンの問いに答える。

 

「そうか、台所か・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「『台所!?』」

ドンと闘鬼の声が、見事にハモッた。

 

「う・・・うん・・・。」

ドンのその迫力に、女の子が少しビビる。

 

「あ、わ・・・悪い。」

咄嗟に謝るドン。

 

「いや・・・しかし・・・でも・・・。」

台所で白い粉と来れば、これはひょっとして・・・。

そう思いながら、ドンは白い粉を口にした。

 

 

 

 

 

 

 

「これは・・・塩・・・だな・・・。」

 

『塩・・・だと?』

先程のシーンを思い浮かべる闘鬼。

 

白い粉を振り掛けたら、その途端に小枝が苦しみ出して、最期には消滅したのだ。

 

白い粉・・・つまり塩を振りかけたら・・・。

 

「え・・・ちょっと待てよ・・・。君・・・これで・・・幽霊・・・じゃなかった・・・君の言う悪霊を撃退したのかい?」

ドンが恐る恐ると言った調子で尋ねる。

 

「うん・・・そうだよ♪」

そのにこやかな表情を見る限りは、とても嘘を言っているようには思えなかった。

 

「塩を・・・振りかけたら・・・悪霊が・・・。」

ちょっと待て・・・。

丁度、そんな感じのヌルヌルー・・・な生き物がいなかったか?

 

「悪霊って・・・。どんなんだった?ひょっとして・・・。」

ナ・・・のつく生き物を連想するドン。

 

「ん・・・可愛らしい女の子だよ?見た目に騙されちゃ駄目だよ、お兄ちゃん。でも、それがどうかしたの?」

 

「可愛らしい女の子!?」

後の言葉は、耳に入ってこなかった。

 

てっきり女の子は、小枝の事を何か言い出すのかと思って次の言葉を待つ。

 

『あり得ん・・・。』

丁度、闘鬼もドンと全く同じことを考えていたと言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

「『それは、ナメクジだろーーーーー!!!!良いのか、そんな適当でーーーーーー!!!!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

完?

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

あとがき

 

 

 

 

 

 

はい・・・ラストに突っ込んでやりたい方・・・保留にしてやってくださいませ・・・。

思いついたら、どうしても書いてみたくなりまして・・・(笑)。

ああ・・・この作者の悪い癖・・・。

 

 

そしてもう1つ。

 

かなり中途半端な状態で終わってますが・・・。

 

結局の所、ドンは小枝の記憶を失ったのかという問題ですが・・・。

どちらにしようか決めあぐねた結果、結論を読者に託そうと言う、史上最悪?の選択をする事に・・・。

後は・・・小枝をこのまま消滅したままにしておこうか、何らかの形で復活させてみようか考えあぐねた結果・・・これも読者に丸投げ決定!

 

 

はい・・・嘘です・・・そんなに白い目で見ないでください・・・(汗)。

 

本編か、または今回のような番外編を設けて、この後どうなったのか、エピソードを入れる形を取りたいと思っていますので、気長に待って頂けると幸いです。

 

 

 

しかし・・・ようやく完成した・・・この番外編・・・。

ずっと前からのんびりと書き続け、ようやく出す事ができました。

 

 

実は、この番外編・・・一度大幅にストーリーを練り直しています。

 

それまで書き続けていたのが、とある漫画にネタをシチュエーション丸ごとそっくり、先を越されてしまいまして・・・。

ネタといいシチュエーションといい、あまりにも似すぎていたので、パクリと思われるのを嫌ったこの作者、大幅に修正して書き直す事に・・・。

 

 

 

 

全国の小説書きに一言言いたい!

 

どんな些細なネタでも、思いついたら即実行に移さないとこの作者のように、誰かに先を越されて悔しい思いをする事に・・・。

とにかくネタは、思いついたらできるだけ早めに書きましょう。

 

何か偉そうですんません・・・気分を害された方・・・この場で謝罪いたしますので、どうかお許しを・・・。

 

 

 

しかし・・・久々に小説を投稿できました・・・。

最近、とにかく忙しくて・・・。

 

次は、本編に戻りたいと思います。

それこそが、ホークネスがこの作品で最も描きたかった部分の1つです。

 

 

えーと・・・一応、次回予告みたいなものをしますとですね・・・謎が深まっていく・・・予定です。

 

 

そして、駿二とリエラが遂に・・・。

 

 

後、リュトリアムルートですが、決して忘れ去られているわけではありませんよ!?

大体は決まっています。

 

残るは、肝心の細かい部分の設定ですが・・・まあ、楽しみにしておいてくださると幸いです。

ホークネスの文才で、どこまでそれを描き出せるか分かりませんが、全力を尽くしたいと思います。

 

今後もどうか、応援をよろしくお願いいたします。

では、いつになく長いあとがきでしたが・・・久々・・・と言う事で勘弁を・・・。

 

 

以上です。