初めに
*注* またまた個性的なキャラクターを思いついてしまいました。
思いつくのは自由です。
ですが、それを実行に移してしまうのがこの作者の悪い所なんですよ。(笑)
今回のお話をお読みになって「こいつウゼー」と思われた方、
「シリアスな雰囲気を壊すようなキャラ作ってんじゃねぇよ」と思われた方、
ご意見を掲示板にてお願いします。
大幅に加筆修正を加えて、今回の新キャラクターは綺麗さっぱり消し去りますから。
(ああ、見捨てないで。強く当らないで。ゴフッ!)
・・・では、本編をお楽しみ頂ければ幸いです。
偽者登場!?
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「朝か・・・。」
悠人が、ベッドから身を起こす。
明後日からは、またマロリガンへと遠征しなければならない。
今はマロリガンとの戦争中。
休息の時間などあるはずがない。
戦争というものは隙を突かれたら終わりだ。
レスティーナにとっても、苦渋の選択だったろう。
心身共にボロボロに傷ついた悠人達を、少しでも休ませてやりたかったに違いない。
しかし、現状でマロリガンと和平を結ぶということは、イコール降伏するということである。
そんな選択肢を、レスティーナは当然として悠人自身も許さなかった。
このまま、あの2人の仇を討たずして佳織に合わせる顔をなどあるものか。
何より、敗残兵として惨めな姿を佳織に曝したくない。
瞬にもさぞかし冷やかされるだろう。
そんなことは、悠人自身のプライドが許さなかった。
「格好つけたのは、いいけどな・・・。」
悠人は力なく苦笑する。
「こうなったのも・・・隊長である俺の責任・・・か・・・。くそ!」
そう・・・そうなのだ・・・。
これは、隊長である自分の責任だ。
隊長は、仲間の命を守り通さなければならない義務がある。
今回の敗北は機密事項として、内密にされている。
城内の者には、“戦略的な一時的撤退である”と苦しい言い訳をレスティーナは押し通している。
誰の為でもない、悠人の為だ。
敗北を認めれば、軍を率いていた隊長の責任追及は免れられない。
そうなったら、悠人を隊長職から追放しなければならなくなる。
最悪の場合、悠人はラキオス中から嘲笑を受けラキオスにいられなくなるだろう。
それだけは、何としてでも避けたかった。
それに、他のスピリット達もそれを望んでいない。
その気持ちはありがたいのだが、悠人には返って辛かった。
優しさは時に暴力よりも人を傷つけるというが、まさにその通りである。
レスティーナもそれは分かっているのだが、追放よりは遥かにマシというものである。
「明後日・・・明後日までに・・・何とか立ち直らないとな・・・。これ以上は・・・もうたくさんだ・・・。」
悠人は空元気を出すことにした。
やはり、エスペリアやヒミカを失ったのはデカかった。
皆、どこか元気がない。
アセリアやセリアは、訓練場に行ったきりもう2日も戻っていない。
他のスピリットも、ほとんど訓練場に篭りっぱなしだった。
何かしていないと、失ったものを思い出してしまうのである。
「俺も・・・こうしちゃいられないか・・・。変わらないと・・・また繰り返すことになる。」
悠人が重い腰を上げた。
訓練場を覗き込んだ悠人は、愕然としてしまった。
「このままじゃ・・・駄目だ・・・。」
思わず、口に出てしまう。
全員、訓練場で汗だくになりながらも訓練を続けていた。
皆、鬼気迫るものがある。
だが・・・全員、技にキレが全くといっていいほどない。
全員、乗り越えられていないのだ。
2人を失ったショックから・・・。
こんな状態で再びマロリガンへと遠征して、リエラと相対して・・・まともに戦えるだろうか?
リエラに対する、恐怖か憎悪。
どちらかが疼くのは、火を見るよりも明らか。
結果も見えている。
自分が、まだ隊長を名乗る資格があるのかは分からない。
だが、まだ隊長職から降ろされていない以上、今のこの状態を脱しなければならない義務が自分にある。
「訓練は・・・止めだ・・・。」
静かに・・・しかし有無を言わせない口調で言う。
だが、聞いている者は一人もいない。
「皆!訓練は止めだ!」
“聞こえなかったのか!?”と凄むことはできなかった。
そんな権利が自分にあるはずない。
ここが悠人のヘタレな所でもあり、長所でもあるのだろうか?
その悠人の声に、ようやく彼がいることに気付く。
「悠人・・・様?」
「皆・・・訓練はもう止めてくれ。」
「何故です?」
セリアが不服そうに言う。
「このままじゃ・・・駄目なんだ・・・。」
「何が?それも命令ですか?」
「それは・・・言われなくても、分かってるんじゃないのか?本当は。」
悠人が、全員を見回す。
「明後日だ。明後日、あいつとまた戦うんだぞ?先日の戦いのことなんか、引きずってて・・・勝てるはずない!」
言い切る悠人。
「ではどうするというのです?」
痛いところを突かれる。
「それは・・・。でも、訓練なんかじゃ駄目だ。見てるほうが・・・辛い・・・。」
「でも・・・他にすることがないですよ・・・。」
ヘリオンが落ち込んだ様子で、歩み寄って来る。
「大切な人の死なんか、一夜やそこらで乗り越えられるものじゃない。それは分かる。」
「大切な人を失ったことがあるとでも?」
セリアは、なおも刺々しいセリフを容赦なく放つ。
「あるさ・・・。俺は・・・両親を早くに亡くした。佳織の両親も・・・。佳織だって失いかけたことがある。
エスペリアや・・・ヒミカもな・・・。簡単に乗り越えられるはずがないさ。正直・・・今でも引きずってるからな。」
「私達に結局何をしろと言うんですか?」
「とにかく・・・訓練じゃ・・・駄目だ・・・。生き延びることを考えるんだ。明後日から、また始まる戦いで・・・。ああ、くそ!上手く言えない!」
悠人が頭をワシワシとかく。
「あいつらの分も生きてやる・・・とか?・・・これじゃ駄目だな。何て言ったら良いんだ?」
こういう肝心な時に、上手い事を言えない自分に腹が立ってくる。
「自分が生きることを考える?うーーーん・・・。」
オロオロしている悠人を見ているうちに、どこからともなく笑顔が零れてくる。
「良いんじゃないですかー、単純でー。」
ハリオンの言葉を一瞬計りかねる皆。
「ゆ、悠人様が単純だなんて・・・酷いです・・・。」
ヘリオンが抗議する。
ズレた反応に苦笑する者が若干名。
「違いますよー。単純に考えるってことですよー。生き延びることを考える・・・これで行きましょうー。
これ以上何も失わない為にもー、全員でー生き延びることを考えましょうー。」
そう、悠人が言いたかったのはこれだ。
もちろん、こんな安っぽい言葉で皆が乗り越えられるなどとは思わないが、少しくらい元気が出てくるはずだった。
ようは、無理やりにでも前向きに行こうとういうことだ。
上手くいけばリエラと再び相対しても、負の感情が働くことなく戦えるのではないか?
「それじゃ、隊長さん。ここで皆に何か・・・。」
セリアがそんなことを冗談っぽく言ってくる。
「俺のことを・・・隊長って言ってくれるのか!?」
驚きだった。
2人も仲間を奪われたヘタレな自分を、しかもセリアが隊長などと言ってくれるとは・・・。
「今更何を言い出すんですか?それとも、私達の隊長は嫌ですか?」
相変わらず、ツンツンした奴だ。
だが、さっきの一言は凄く嬉しかった。
「・・・ありがとう・・・セリア・・・。」
「ば・・・何を・・・改まって・・・。」
一気に、照れて顔が赤くなっていくセリア。
「そうですよー。一人で背負い込まないでくださいー。あの時、何もできなかったのは皆同じですからー。」
ハリオンが、涙を一滴だけ零した。
自分のせいでヒミカを失ったことに、実は夜もまともに寝ていない・・・というのは皆には内緒である。
そして、その言葉に頷く皆。
皆、責任を感じていたのだ。
たった、それだけの事だが悠人はジーンと来てしまう。
思わず泣きそうになったのを必死で隠す。
何て言ったら良いのか、こう・・・辛い時や悲しい時、それを共有できるのが仲間というものだと、それを強く実感する。
自分一人で背負い込もうとしていたのが、バカらしく思えてくる。
これ以上皆に心配かけたくないと、空元気を出すことにした。
「ははは、じゃあお言葉に甘えて一言。」
そう言って、咳払いを1つ。
皆、悠人の方に注目している。
「皆、次の戦い・・・必ず全員で帰って来よう!」
相変わらず、気の利いたことは言えなかったが、茶化す者は一人もいなかった。
「おーーーーー!!!」
全員で、神剣を掲げてリズムを合わせた。
「上手く乗り越えてくれたようですね。」
その様子を遥か遠くから見ていた時深が、そっと安堵の息を吐いた。
「でも・・・くれぐれも気は抜かないでくださいね。ここからが・・・本番です。」
「そうね・・・本番は・・・これからね・・・。」
突如、背後から少女の声が届く。
「っ!!?」
いきなりのことに驚きを隠せない時深。
自分が、背後を取られるとは・・・。
「あなたは!?」
そして、相手を見て更に驚く。
そこには、錫杖型の永遠神剣を手にした巫女服の少女。
ローゼアが、リーダーと呼んでいたあの少女である。
「お久しぶり・・・。」
相変わらず掠れた声で言う。
「レーゼイ!」
時深は、その名を叫ぶ。
「何しに来たんですか!?」
「未来視で見てないの?」
「う、く・・・。」
「あなたの介入1つで、私達ロウが敗北を重ねているので・・・今回は私が直々に・・・。」
レーゼイが錫杖型の永遠神剣を掲げた。
「うっ!あっ!」
時深の身体が、重力を無視して浮き上がる。
十字架に張り付けられたかのような格好をさせられる時深。
「く・・・時果・・・。」
「無駄・・・。」
コトン・・・
時果が、時深の懐から地面へと転がり落ちる。
「エターナルも・・・神剣が使えなければ・・・大したことない・・・。」
「驚きましたね・・・ハア・・・ハア・・・あなたが・・・自ら動くなんて・・・。」
時深は息も絶え絶えといった調子である。
「今回は・・・私も本気だから・・・。このままでは・・・ロウの統率が乱れるから。
いい加減、私も真面目にやらないと・・・。後気になるのは・・・ローガス・・・そして・・・。」
レイの存在である。
何を企んでるのか分からない分、一番不気味な存在である。
牽制しておく必要があるのだが・・・。
「あなたが・・・介入するとなると・・・。」
悠人達では、まず間違いなくレーゼイには勝てない。
ロウの新リーダーの名は伊達じゃない。
そう、未だに眠っているミューギィにとって変わって、レーゼイがリーダーの座についた。
カオスのリーダーは健在なのに、ロウのリーダーが不在となると、カオスとの均衡が保てなくなる。
ロウの士気も低下して、統率も乱れる。
それを懸念して、新たにリーダーを立てた・・・いや、レーゼイが乗っ取ったのだ。
当然の動きと言えよう。
「何とか・・・しないと・・・。」
「でも、あなたには何もできない。」
「く・・・。」
時深が顔を歪める。
「そこで大人しく見ているのね。悠人とかいうエトランジェが、ファンタズマゴリアと共に滅び去るのを・・・。」
保険がかけてあるので、ここで例え時深を殺してもすぐにまた復活してしまう。
元来怠け者のレーゼイは、無駄を極力嫌う所がある。
「つまり・・・ここで封印でもされててくれる?」
「く・・・あっ!」
時深が苦しそうにもがくも、指1本動かせない。
「悠人・・・さん・・・。く・・・。」
自分が何となしなければ、自分が!
「そんなに悠人って人が大事?・・・初恋だから?」
「あ、あなたには・・・関係・・・ないでしょ!?」
キッとレーゼイを睨みつける。
そんな時深をしばらくボオーッと見ていたが、やがて錫杖型の永遠神剣を軽く上に振り上げて、時深を放る。
それに伴って、錫杖型の永遠神剣がシャラーンと綺麗な音を立てた。
ドサッ
時深が地面に投げ出される。
「げほっ!げほげほっ!く!」
時深が激しく咳き込む。
「レーゼイ・・・あなた・・・何を考えて・・・。」
「面白い事・・・考えたから・・・。」
「面白い事?」
どうも、このレーゼイだけは読めない。
未来視が通用しないのだ。
第1位の神剣を所持しているからだろうか。
「悠人が・・・あなたのことをどう思っているのか・・・実験・・・するの。」
「???」
意味が分からない。
「あなたそっくりの女の子を一人知ってるから・・・その娘を悠人に合わせてみたら・・・面白いと思わない?」
邪悪な笑みを浮かべるレーゼイ。
時深は、今レーゼイが企んでいることを1つ1つ丁寧に整理していく。
頭がそれを理解することを否定している。
否定しているのだが・・・。
「そ、そんなこと許しませんよ!悠人さんを・・・じ、実験台なんて!?そ、それに・・・私のことを間違うはずがありません!」
時深が興奮する。
「そう言わずに・・・まずは、例の娘に会わせてあげる。」
シャラーーン・・・
何度聴いても、綺麗な音が辺りに鳴り響く。
淡い光の発生と共に、一人の女の子が降り立つ。
全ては、あっという間の出来事だった。
時深はポカンとした様子で、その女の子を眺める。
自分と同じ巫女服に身を包んでいる。
・・・確かにその娘は、自分と同じ巫女服を着ていた。
服装は・・・同じだが・・・。
「ぜ、全然私に似てないじゃないですか!?」
「あら、そっくりだと思うけど?」
わざとらしい笑みを浮かべるレーゼイ。
そのレーゼイにピッタリと寄り添っている女の子は、肩の辺りで髪を切りそろえている。
その娘が緑色の髪を持っている時点で、全く似ていない。
それ所か、かなり小柄で見た目は10歳前後だろうか?
典型的な童顔。
気の強そうな瞳。
どこからどこまで全くといっていいほど似ていない。
そして、止めとも言うべきは頭に被ったあまりにも似合わないシルクハットだろう。
巫女服に、紳士が被るべきシルクハットを着込んだ少女。
だが、無理もない。
それこそが、彼女の永遠神剣だったのだから。
「どう?ご感想は?」
なおも邪悪な笑みを浮かべて尋ねるレーゼイ。
時深はわなわなと震えている。
「なかなかいけるでしょ?」
そう言って、レーゼイはその変な格好の女の子に向き直る。
「ねぇ、時深?このおばさんの変わりに、ファンタズマゴリアに行ってくれる?タイミングは・・・分かるよね?」
コクンと頷く少女。
「お・・・お・・・おば・・・おば・・・おばさんですってーーーーー!!!」
大音量で叫び立てる。
そんな時深には取り合わずに、レーゼイは少女と会話を続ける。
「じゃ、頼んだわね。」
女の子が、コクンと頷いた。
そして、ビッと目の前に指を突きつけたかと思うと・・・
「あーっはっはー。あーーたいに、まーかせておけーーー!!」
いやいやいやいやいや・・・性格が思いっ切り違うんですがねぇ・・・気のせいなんでしょうか?
きっと気のせいなのだろう、そうなのだろう・・・
・・・断じて似てないと断言できる。
「ど、どこが私に似て・・・!!?」
時深は、怒りのあまり上手く舌が回らない。
「似てるよね?・・・ねぇ、ちょっとあのおばさんの真似・・・してみてくれる?」
少女は、コクンと頷く。
そして、スウーーーーと息を吸い込んだ。
「あーたいが時深よーーん。うっふーーーん。」
時深がその場に凍りついた。
そんな時深を尻目に、レーゼイがケタケタと笑っている。
だから、この娘は面白いのだ。
自分のお気に入りなのである。
「ゆ、悠人さんがそんなのにコロリと騙されるはずが・・・。」
「騙されるはずが?」
レーゼイが、笑いを必死で堪えながら聞き返す。
「騙されるはずが・・・ない・・・。」
消え入るような声・・・。
・・・案外簡単に言いくるめられそうな気がする。
「さあ、時深ちゃん。がんばって、悠人を騙しちゃってくるのよ?」
「はーーーーい♪」
元気良く片手を上げて返事をする。
「悠人・・・さん・・・。もし・・・コロリと騙されたら・・・許しませんよ!!」
レーゼイによって、光状のドームへと封印を施されてしまった後で、大声をあげる時深。
「せっかくだから、あなたが整えておいたシチュエーションに合わせて、ファンタズマゴリアへ行くようあの娘に指示しておいたから。」
「レーゼイ・・・あなたって人は・・・。」
「屈辱?・・・あなたもたまには味わった方がいい。屈辱がどんな味なのか・・・。」
レーゼイは楽しそうである。
完全に遊んでいる・・・いや、遊ばれている。
「どうせ滅びるのなら楽しく行こうって、言ってあげてるの。」
「わ、私は楽しくなんかありません!」
「そう・・・でも、私は楽しいから。それだけで十分じゃない?」
「十分じゃありません!」
一段と強調して言う時深。
そんな時深にクルリと背を向けるレーゼイ。
「さあ・・・久々に面白くなってきたわよ。やる気も出てきた。」
時深は怒りに震えながら、きつく睨みつけてやる。
「そこで、悠人があなたをどの程度覚えているのか・・・静かにその時を待っているのね。」
シャラアーーーン・・・
そんな音を奏でて、レーゼイが消えた。
もし・・・もし、簡単に騙されたら・・・絶対殺してやる!
この世の理不尽に・・・。
千年・・・千年も思い続けていたのに!
こんな理不尽が果たして許されるのか!?
許されるはずがない!
最悪の展開が頭を過ぎる。
簡単に偽時深に騙される悠人の姿が・・・。
もし、そうなったら・・・レーゼイもあの偽時深も悠人も、絶対ただじゃおかないと心に誓う。
時深が、大きく息を吸い込んだ。
この後、彼女の口から出た言葉はあまりにも汚すぎるので表現できません。
決定的ともいえる敗北に、ラキオスはもう降伏してくるだろうというマロリガンの楽観的予測は当てが外れ、
ラキオス軍が再び進撃を開始してきたという報告にマロリガンの議会は衝撃を隠せない。
だが、クェド・ギンや光陰にとっては予測の範囲内であり、既に部隊を編成して各地に派兵済みだった。
リエラに、悠人とぶつかって欲しくない光陰は、一番遠方のニーハスへと彼女を配置した。
「マロリガンへのルートは、3つある。デオドガン、ミエーユ、そしてニーハス方面だ。
あいつらは、恐らく3つの部隊に別れてそれぞれのルートで進軍してくるだろう。問題は、悠人がどのルートを通ってくるかだな・・・。」
光陰が顎を撫でる。
「こればっかりは、あいつの性格を読むしかないか・・・。」
ということで、悠人なら真っ直ぐ進軍してくるだろう(ミエーユルート)と予測を立てて、
一番確立の低い遠方の地(ニーハス)へと飛ばされてしまったのだが・・・。
ここが、本当に何にもない所で恐ろしく暇なのだ。
リエラは、自分に宛がわれた古ぼけた小屋の一室で暇を持て余していた。
「フワーーア・・・。」
ニーハスを守衛すべき兵が、ベッドにゴロンと寝転がって思い切り体を伸ばしながら、あくびをする。
人間の兵隊が、戸をドンドンと乱暴に叩きながら外へ出て防衛をしろと怒鳴りたててくるが相手にしない。
どうせ、外へ出ても何も起こらない。
そんな呑気なことを考えているから、防衛拠点へと出る気にならない。
「マロリガンへ帰ろうかしら・・・。」
「おい、リエラ!大事な報告だ!さっさとここを開けろ!!」
さっきから、喧しく戸の向こうで安眠妨害してくる。
「おい!開けるぞ!」
バンッ!
相当、戸の向こうで待たされた挙句、結局相手にされなかったその男は顔に血管が浮き出るほど、ブチキレていた。
その男をリエラは一瞥する。
「反抗的なスピリットだな?俺は人間だぞ?分かっているのか!?」
「分かってるわよ、それくらい。人間だから、何なの?」
男が、顔を真っ赤にして怒り狂うのには十分すぎる発言内容。
「スピリット如きが、人間様を無視して挙句の果てにゃーバカにするたー、良い根性してんじゃねぇか!!」
我を忘れんばかりに怒鳴り散らす。
「煩いわね、さっきから。ここへ怒鳴りに来たの?」
「貴様!?」
キィン!
男が振り回してきた剣を“天理”で軽く受け止めるリエラ。
「用件があるんでしょ?さっさと済ませてくれない?」
「ぐ・・・ぬぬ・・・。」
しばらく、力比べが始まるも人間がスピリットに敵うはずがなかった。
「くそっ!!」
男が、ガツンと剣を床に降ろす。
「マナ障壁が突破された。もうじき、ここも戦場になる。さっさと表へ出ろ。その為のスピリットだろうが!」
「マナ障壁が?」
なるほど、だからこんなに急いているのだ。
リエラは一言呟くように言うと、もう男は眼中になしと言わんばかりの様子で、さっさと外へと出て行ってしまう。
「待て、どこへ行く!?スピリットの分際で、人間の俺を無視するな!」
男が慌てて後を追う。
「おい、どこへ行くと言っている!?そっちは、反対だ!拠点は、向こうだ!」
男が、あっちだあっちだと指差してぎゃーぎゃーと喚き立てる。
「どこって、マロリガン首都に。ここ暇だから・・・。」
「・・・は?」
「それじゃ。もう私に付き纏わないで。」
心底うんざりした口調で言う。
「そんな勝手は許さんぞ!!あんまり、人間様に逆らうと処刑モンだぞ!?分かってんのか!!?」
さっきから、本当に煩い。
その手に“天理”を出現させると、男の首筋に剣の切っ先を突きつけてやる。
ヒヤリと冷たい感触が、首筋に当る・・・。
「な!!?」
ちょっとリエラが剣に力を籠めれば、男の首は簡単に落ちるだろう。
「私が、どこで何しようと私の勝手。そもそも、あなた達に従わなければならない理由なんてないし、ここはもう飽きたから帰る。それだけよ。悪い?」
「は・・・はは・・・。バカが!スピリットが人間を殺せるものか!こんな脅し、まるで意味ないぞ!!
スピリットは決して人間には逆らえないからこそ、俺達に支配されているのだからな!それを分かっているのか!?」
「こんな噂をイースペリアから聞いたことない?帰らずのお城って・・・。」
「帰らずの城・・・だと?確か・・・イースペリアに送り込まれたスパイは、それきり行方不明になるっつー・・・。」
「ま、事実上死んだんでしょうねー・・・。でも何で?」
楽しそうに言うリエラ。
「知るか!誰かに見つかって、殺され・・・っ!!?まさか!!いや・・・でも・・・そんな・・・。」
男が恐怖に縮み上がる。
目の前にいるスピリットは、確かイースペリアから流れ着いたと聞いている。
でも、まさかそんな・・・。
「ま、ご想像にお任せするわ。でも、あなたの考えはたぶん当ってると思うわよ。」
「バカな!そんなはずがない!スピリットは、絶対に人間を殺せないはずだ!でなければ・・・。でなければ・・・。」
「でなければ?」
男が言わんとしていることは大体分かる。
「でなければ・・・人が・・・スピリットを支配できるわけがない・・・。」
「ま、何事にも例外はあるのよ。それがたまたま私ってだけ。
残念だけど、私は簡単に人の首を刎ねることができるスピリットだから。それを覚えておくのね。」
「ど・・・どうし・・・。」
さっきまでの威勢はどこへやら・・・死の恐怖に差し迫った途端、態度が一変する男。
「それはたぶん、あの日から・・・でしょうね。」
「あの日から・・・だと?」
「ま、あなたに語ろうとは思わないわ。聞かせてあげてもいいけど、あなた・・・ますます私のことが怖くなるわよ?」
リエラとしては、別にどちらでも構わない。
この威張り腐った人間が、ますます恐怖する様を眺めるのも悪くはない。
別に見たくもないが・・・。
「く、くく・・・。」
男は汗ぐっしょりだ。
「それじゃ、もう私に関わらないことね。」
リエラは“天理”を男の首から離す。
そうして、踵を返してさっさと行ってしまおうとする。
こんな男、殺す価値もないとばかりに・・・。
だが、愚か者はどこの世界にも存在するものだ。
そして、それが男の生死を別けた。
「は・・・ははは・・・。何だ、何だよ・・・脅かしやがって!結局・・・結局俺を殺せな・・・。」
ズバァァアアアアーーーーーーーン!!!
男が皆まで言うことは、永遠になかった。
男の首が胴体から離れ、吹っ飛ばされて地を転がる。
ブシュゥゥゥゥーーーーーッ!!!
男の首元からは、血が噴水のように物凄い音を立てて放出される。
「あーあ、だから言ったのに。バカね。」
澄ました声で、平然と言い放つリエラ。
リエラは、自分が殺した男の血を頭から大量に被って、グッショリだ。
このベットリした感触が気持ち悪い。
「あ、そうか。人間は殺してもマナに返らないんだった。」
男の身体がゆっくりと後方に倒れていく。
「ハアーー、私の服が汚い血で汚れちゃった。」
これは、心すらも失っていないスピリットが人を簡単に殺してのけた一大事件だ。
リエラは、人を躊躇なく殺せる。
だからこそアズマリアは、イースペリアの城内へと侵入したスパイの処理を彼女に任せたのだ。
リエラの存在を知らずに、イースペリアへと不法侵入したスパイは例外なく彼女に消され、一人として帰らなかった。
イースペリアへと派遣されたスパイは、誰一人として戻ってこないので、それに恐怖したスパイ達は、イースペリアに行く事だけは断固拒否した。
当然だろう。
たまに、イースペリアへとスパイ活動を行って無事に帰還することで、名を挙げようとするバカな輩も現れたが、当然帰って来れた者はいなかった。
スピリットが人を殺せるという噂が広まれば、国内が乱れかねないと踏んだアズマリアが、一連のことを内密にしたのは言うまでもない。
「どこかでお風呂でも借りないと、これじゃ帰れないわね。
あ、でも血を頭から被ったスピリットに、お風呂を提供してくれる人間がこの世にいるかしら?」
・・・恐らく居ない・・・。
今リエラにできることは、目撃者が出現しないうちにさっさとこの場を離れることだけだ。
そして、すぐそれを実行に移した。
その頃悠人達は、マロリガンの稲妻部隊との激戦を制しながら、少しずつ少しずつ進軍を続けていた。
「光陰、マナ障壁を突破されたみたい。」
昨夜マロリガンへと帰還したリエラは、特に慌てた様子もなくそう報告する。
マロリガンのとある一室でのんびりくつろいでいた光陰も、特に驚いた様子はない。
「そうか、あいつらなら突破してくるだろうと思ったよ。」
あれからは大変だった。
リエラはできるだけ人目を避けて、素早くマロリガンへと帰還。
首都へは深夜になるのを見計らって足を踏み入れたが、
恐らく何人かには超怪しい人物として、やがて“真夜中に街中を彷徨、謎の血だらけ少女”とか噂が立って、怪談にでもなったに違いない。
光陰には、血でベットリ汚れたリエラを一目見て、自分が人を殺せるスピリットであることを簡単に見破られてしまった。
ま、光陰でなくとも見破れるだろうが・・・。
そして、今朝になってようやくマナ障壁が突破されたことを彼に報告したのだ。
「ふーん、意外と落ち着いているのね?」
「リエラもな。」
「ラキオス勢は、順調に進軍を続けているわ。このままだと、ここに辿り着くのも時間の問題でしょうね。」
「だろうな。」
そう言って、光陰は立ち上がった。
「大将に報告はしたのか?」
「誰かが報告に行ったでしょ。」
至っていい加減な返事を返す。
光陰が、少し呆れた顔をする。
が、すぐに引っ込んだ。
リエラもそれに気付かないフリをする。
「行くの?」
「ああ。そろそろ悠人とは決着をつけないとな。」
「もう戦う気力を失ったかと思ってたけど、何が彼らを突き動かしるのかしら?」
「悠人は、あの程度じゃヘコタレないさ。あー見えて、結構苦労してるからな。」
リエラが肩を軽く竦めてみせる。
「じゃあ、私もそろそろ行くね。」
「ああ。俺は大将に会って来る。」
「何か用事?」
「少し気になる事があってな。」
「ふーーん。」
疑問を感じるも、深く追求はしない。
「ご武運を・・・。」
「なあリエラ。頼むから、悠人とは俺に決着を付けさせてくれよ?」
リエラが前線基地となるであろうミエーユに行く、と悟ったことを言外に滲ませている。
「あら、私がもうニーハスに帰る気がないなんて一言でも言ったっけ?」
ニーハスに帰る気がないのなら、戦時中にスピリットである自分が行くべき場所はもうミエーユくらいしかない。
レイによって、かつての仲間同士と戦い合わせるという暗示が働いての結果であることは、誰も知りえない。
別にリエラがエルフィー達と戦おうが戦うまいがどうでもいいのだが、暗示を解いてやる必要もまたない、ということなのである。
ようは、本当にどうでもいいのだ。
「あんたが、マナ障壁が突破されたくらいで、わざわざここまで来るとは思えないからな。」
「ごもっとも。」
「ここが、マロリガンのエーテル変換施設か・・・。」
駿二はポツリと呟く。
「奴らは必ずここに来る・・・。必ず。」
懐に隠してある千夜を見る。
神剣の気配は隠してある。
自分がエトランジェだとバレることはないだろう。
「絶対に皆殺しにしてやる・・・。故郷を滅ぼした罪・・・償ってもらうぞ・・・。」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あとがき
偽時深
本名、リィ・アルサイド。同じくエターナルの兄が一人いる。
2人揃って、『変な兄妹』と良く言われて続けてきたという過去がある。
緑色の髪を肩の辺りで、綺麗に切り揃えている。
口調は女の子のものだが、仕草は男っぽい。つまり、ある種のオカマ。
戦闘には恐ろしく不向きで、危なくなるとすぐに逃げる。
ロウの新リーダーであるレーゼイを心酔しており、彼女の為になら命を捨てられる。
レーゼイのお気に入りで気が合わなそうで、実は物凄く仲が良い。
永遠神剣第2位・魔術 契約者:リィ・アルサイド
シルクハット型の永遠神剣で、常に頭に被っている。巫女服と相まって実に似合わない。人格は、老婆。
この神剣の能力は、マジックのようにシルクハットの中から物を取り出すことだけ。
何でも取り出せるが、意思のない物に限定される。つまり、永遠神剣を取り出すことはできない。
そんな役立たずの神剣にも拘らず、リィがロウに籍を置いていられるのは、当然レーゼイの後ろ盾があるからである。
仲間の死を乗り越える悠人達。
どうだったでしょうか?
この作者の能力では、これが限界です。
もちろん、これで完全に克服できたわけではありません。
ですが、元気を出すくらいはできるでしょう。
これでも上手く纏めたつもりなんですが・・・。
難しい・・・。
それにしても、ようやく駿二を再登場させることができました。
決して、忘れ去られていたわけではありませんよ?
にしても、悪役ですねー・・・リエラ。
そんなつもりで描いたつもりはなかったんですが・・・悪役に見える・・・。
これも作者の至らなさゆえ・・・。
にしても、長かった・・・。
まさか、ここまで長引くとは・・・。
次回、マロリガン編いよいよ佳境です。
この後の展開も大体決まってます。
これからも、“虹色の輝き”をよろしくお願いします。
最後に・・・実は、次回のお話はホークネスが特に描きたかった部分の1つです。
次回もお楽しみください。
なお今物凄く忙しい為、今後更新は大幅に遅くなりそうです。
できるだけ早めに、更新できるよう最善を尽くしますので、どうかよろしくお願いします。