絶体絶命!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

謎のマスクの男との激戦から一夜が明けた次の日の夕方。

 

悠人は、第一詰め所で夕食を食べながらふと思う。

 

「なあ、オルファ。何か、悩み事でもあるのか?」

遂、口にしてしまう。

 

「え、ど、どうして?」

 

「え、いや・・・最近、何か元気がないように見えたから。」

 

「な、何でもないよパパ。き、気にしないで。」

オルファは、いつものようにエヘヘと笑うが、いつもより元気がなかった。

 

「悩みでもあるなら無理しないで言えよ?」

 

「あ、ありがとう・・・パパ。本当に何でもないから・・・。」

その日、オルファは夕食も程々に第一詰め所を抜け出す。

 

 

どうしても、オルファが気になって仕方がない悠人は、こっそりと後をつける。

 

 

 

オルファが向かった先は訓練場だった。

 

 

もう、夜も遅くなる時刻だというのに1人必死になって訓練に励んでいる。

 

 

自分も訓練に付き合ってやるか、それともオルファが訓練を終えるまでずっと待っててやるべきか、考えあぐねてしまう悠人。

 

「あっ!」

オルファがドォッと倒れる。

 

悠人は思わず身を乗り出した拍子に、柱から転げ出てしまう。

 

「パパ!?」

悠人の突然の出現に驚くオルファ。

 

「ご、ごめんなオルファ。出るに出られなくて・・・。こっそり覗く形になっちまった。」

悠人は素直に白状する。

 

「それにしても、どうしたんだ?こんなに夜遅くに?皆心配するぞ?」

 

「パパは先に帰ってて。オルファは、もっともっと強くなりたいんだから!」

 

「どうしたんだ、突然?」

優しく声をかけてやる。

それが、オルファの溜め込んだ感情を激しく突いたようだ。

 

ドット悠人に泣きついてくる。

 

「佳織が・・・敵さんに攫われた時のあの戦い、オルファは皆の足を引っ張るしかできなかった・・・。」

 

「オルファ・・・。」

マスクの男との戦いを振り返ってみる。

オルファには悪いが、確かにオルファは皆の足を引っ張る形になっていた。

 

気休め程度の慰めなど、返って傷付けるだけだろう。

 

悠人は黙ってオルファの背中をさすってやる。

 

「俺だって、同じ思いは何度もしてきた。初陣の時だってそうさ。あの時の俺は、足手纏い以外の何者でもなかったさ。」

 

「パパ。パパもあの時・・・こんなに辛かったんだね・・・。」

 

「ああ、辛いさ。ただ仲間の足を引っ張るだけってのは・・・。」

 

「それでも、泣かなかったパパは強いね。」

 

「強くなんかない。強くなんかないさ。俺だって何度も何度も苦しんだ。

バカ剣にだって、何度も精神を奪われそうになった。俺は・・・決して強くなんかない。」

 

「でも、オルファよりは・・・強いよ。オルファみたいに、皆の前で泣いたりしなかった。」

 

「肝心なことを忘れているぞ、オルファ。あのマスクを付けた変な男との戦いの最後を思い出すんだ。

あの時、オルファは俺に力を与えてくれた。あれがなきゃ、勝敗はどうなっていたか分からない。違うか?」

 

「でも・・・。」

 

「それぞれ得手不得手ってのは、誰にでもある。それを庇いあうのが、仲間じゃないのか?」

 

「・・・・・・。」

 

「オルファには、強力な神剣魔法が・・・。」

そこで、とんでもない失言をしてしまったことに気付く。

悠人は、自分の迂闊さを呪いたくなった。

バカなことを口走った。

 

オルファの神剣魔法は、マスクの男にはてんで役に立たなかったのだ。

強力だ!と言われて、簡単に納得できる者などいるものか。

 

悠人は、オルファの感情が暴走するだろうと覚悟した。

だが、以外にもオルファは落ち着いている。

 

「ありがとう、パパ・・・。」

セリフとは正反対に、涙声である。

悠人は、そんなオルファに耐えられなかった。

 

「あまり自分を追い詰めないでくれ、オルファ。もっともっと強くなれば良いだけの話じゃないか!

俺だって、そうして克服していったんだ。オルファだってきっとできる!俺が協力してやる!だから、1人で寂しく訓練なんて止めてくれ!」

我ながら、綺麗事だと思う。

だが悠人としては、これ以上気の利いたセリフを言えなかった。

 

「パパ・・・。」

 

「俺がついててやるから、思いつめる必要なんかない。いいか、今度1人でここへ来たら怒るぞ?」

 

「うん♪」

オルファは、少しだけ元気を取り戻すことができたようだ。

 

「ありがとう、パパ・・・。」

誰か1人でもついててくれるものがいれば、随分と心強くなるものだ。

オルファも例外ではない。

 

1人でここへ来た自分がバカらしく思えてきた。

 

最初は頼りなげだった悠人が、今は随分強く、そして大きく思えた。

そんな悠人に答えるためにも強くなりたいと願った。

 

「さあ、訓練再開だ!俺からは止めないぞ?」

オルファの背中を叩いてやる。

 

「パパ、ありがとう・・・。」

その日の夜遅くまでオルファは訓練を続け、悠人は片時も離れずにそれを見守った。

 

 

 

 

 

深夜に、第一詰め所に戻ったオルファと悠人の2人は、当然の如くエスペリアの説教を食らった。

 

 

 

 

 

――とある世界にて――

 

 

 

 

「あのレッドスピリットの少女が、かつてあなた以上の力を有していたリュトリアムと呼ばれる純エターナルですか?」

ローゼアがテムオリンと2人で、テーブルを挟んで会話している。

この2人は、結構気が合うらしく良くこうして一緒にいる。

 

「ええ、そのようですわね。それがどうかしたんですの、ローゼア?」

 

「とてもじゃないけど信じられませんね。ただのか弱い小娘ではないですか。」

 

「気になるようですわね?」

 

ローゼアは軽く肩を竦める。

「さあ、どうでしょうね?」

 

「試してみればよろしいじゃありません?」

 

「え?」

 

「あなたの永遠神剣の能力なら、かつてのリュトリアムの姿を拝むこともそう難しくはないでしょう。

私としても、かつての彼女の力を得られるのならば悪い気はしませんわね。」

 

「でも、再生は?」

 

「片割れでも使いましょう。機会さえあれば、再生の方がリュトリアム(オルファ)に接触を計ってくるでしょう。」

 

「簡単に行くものではないですよ?」

 

「まだ時は十分にありますわ。そんなに焦らずとも、ゆっくりと駒を進めていけばよろしいんじゃありません?」

 

「そうですね・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

謎のマスクの男との激戦の後、マロリガンとの戦いが開幕し、悠人達はランサから砂漠へと向けて侵攻を開始した。

 

 

 

 

 

――マロリガンの大砂漠にて――

 

 

 

 

 

焼けるような暑さの砂漠で進軍を続けていた時、突然オーラの塊が衝撃波となって一行を襲ってきた。

 

「くっ!」

悠人はすかさず、バリアを張って皆を守る。

 

「ぐっ・・・凄い威力だ。」

悠人のバリアが耐え切れない・・・。

悠人が片膝をつく。

 

ビシ・・・ビシビシ・・・

 

「悠人様のバリアが!」

 

エスペリアが叫んだその瞬間・・・

 

パッキーーーン!

 

バリアが破られて、凄まじい衝撃波が一行を襲って吹き飛ばす。

 

「ぐぅぁぁぁあああああ!!!」

 

「きゃぁぁぁああああーーー!!」

 

ゴォォォオオオオオーーーーーー!!

 

疾風が吹き荒れる!

 

 

 

 

 

「ぐぅ、皆・・・大丈夫か!?」

悠人は、求めを地面に突き刺し、それに体重を預けることで何とか身体を支える。

 

何人かは重傷を負ってしまい、すぐに回復をかける必要があった。

 

「エスペリア!ハリオン!皆に急いで回復を!」

 

「パパ!危ない!!」

オルファが叫ぶ。

 

悠人の頭上にウイングハイロウを展開して、そのまま急降下してくる一人のスピリットの姿がある。

その剣は、真っ直ぐに悠人を狙っている。

 

「くっ!」

悠人はすぐさまバリアを張って防ごうとする。

 

『契約者よ・・・。』

 

「こんな時に、何だよバカ剣!」

 

『あの攻撃はバリアでは防げない。かわせ。』

 

「何っ!」

悠人はすぐさま動いた。

 

「皆、かわせ!」

 

ズッドオオオーーーーン!!

 

耳を劈くような爆音と共に、巨大なクレーターができる。

 

 

もうもうと立ち込める、煙と砂塵が辺りを支配して何も見えない。

 

「皆っ!」

傷ついて動けない仲間を庇おうとして逃げ遅れた者も中にはいた。

 

 

死人が出たかもしれない・・・。

 

 

最悪の展開を頭を振って必死に否定する。

 

「くっ!」

すぐ背後で、微かに剣の軌道が自分を襲うのが分かったが、求めで防いでいる暇はなかった。

 

ザシュウッ!!

 

身をよじって致命傷をギリギリのところで避けるも、赤い鮮血が大量に辺りに飛び散って、悠人は倒れたっきり動けなくなる。

そのスピリットは、剣を振りかざして悠人に止めを刺そうと構える。

 

悠人が殺されるまさにその瞬間、横から気配が動いたかと思うと敵スピリットが吹っ飛ばされた。

 

「悠人!」

アセリアが悠人を庇うように、敵スピリットの前に立ちふさがる。

おそらく剣の気配を辿って来たのだろう。

 

やがて煙と砂塵が収まり始めて、辺りの様子が鮮明になっていく。

 

死人こそ出ていなかったが、辺りの様子は酷かった。

 

今、動けるのはアセリアとサレア、エルフィーそしてエスペリアだけのようだ。

このままでは他の仲間が、力尽きてマナへと返って逝ってしまう!

 

悠人にとって、今まで戦って来た中で最悪の事態である。

 

「エスペリア!他の皆を頼む!」

 

「分かりました!」

 

「させないわよ。」

敵スピリットは、傷ついた仲間の下へと駆け出すエスペリアへと狙いを定める。

その背は隙だらけだった。

 

「させるか!ぐぅ!!」

無防備のエスペリアを守ろうとするも、身体が動かない。

血もドクドク流れている。

 

このままでは悠人もマナに返るのは、時間の問題だろう。

 

「リエラ・・・。」

サレアがその名を呟く。

 

「えっ!?」

リエラもかつての仲間の姿を見とめて、驚きを隠せない。

だが、それも一瞬だった。

 

ここは戦場。

気を抜けば、それは即座に己の死を意味する。

 

「知り合い・・・か?」

薄れ行く意識の中、悠人が喘ぐように言う。

 

「う・・・うん・・・でも・・・どうして・・・マロリガンに?」

 

「私にもいろいろあるのよ、ごめんなさいね。」

そこが悠人の限界だった。

ガクリと意識を失う。

 

斬りかかってくるアセリアを剣で応戦しながら、二人は会話する。

リエラの顔には余裕があった。

 

「待って!アセリア!お願い!」

 

「皆を・・・傷つけた!許さない。」

アセリアはもはや聞く耳を持たない。

 

「リエラ!私はあなたと戦いたくない!今からでも・・・こっちに!」

 

「あなたこそ、こっちに来なさいよ。ラキオスが私達にしたこと・・・忘れたの?マロリガンにつく方が正当な判断だと思うけど?」

 

「それは・・・」

そう言われると言い返せない。

 

 

だが、ラキオス王が殺されレスティーナが女王に即位することで、不思議と憎しみを乗り越えることができた。

 

 

最初はレスティーナにも反発したけど、彼女が掲げる理想(スピリットの解放)を知った時、この人の元でなら働けると信じて疑わなくなった。

スピリットの居場所を求めて、彷徨い歩いていた自分にとって是非とも実現して欲しいことだったのである。

 

エルフィーもその理想を信じると言ってくれた。

ラキオスのスピリット達とも、今はまだぎこちないけど、そのうち打ち解けていくことができるはずである。

 

「でも!レスティーナ様は、スピリットの解放を私達に約束してくれた!私はそれを信じることができた!だから、あなたも!」

 

「それこそ、あなた達をラキオスに縛り付けておくための方便じゃないの?たったその一言で言い包められたんだ?」

 

「あなたも女王に会ってみれば分かるわ!きっと信じることができるはず。あの人の目は、一切の曇りも迷いもなく真っ直ぐだった!」

 

「とてもじゃないけど・・・信じられないわね。何と言ってもあの男の娘だし・・・。」

 

「リエラ・・・。」

 

「それじゃこうしましょう。その理想を信じるなら、戦い抜いてラキオスを勝利へと導いてみせなさい。

ラキオスが勝ったら、私もその女王にお会いしてみましょう。逆に、私達が勝ったらあなた達の方がマロリガンにつく。これでどう?」

 

再度斬りかかってきたアセリアの剣技を防ぐと、そのまま弾き飛ばす。

 

「くっ。」

アセリアが吹き飛ばされる。

 

だが、受身を取って綺麗に着地すると息を整えて、自分自身を落ち着かせる。

 

「でも、ここで決着がついちゃうかもしれないわね。」

そう言うと、リエラは手にしてる剣を頭上に高らかに掲げる。

強大な力がその剣に収束していくのが分かる。

 

「これは!!?」

 

「嘘!!」

サレアもエルフィーも驚きを隠せない。

 

今まで自分達が知っていたリエラよりも、圧倒的に強い力が剣から溢れ出ている。

 

「驚いた?マロリガンのあの人・・・スピリットの訓練が凄く上手いのよ?お陰で、この剣もパワーアップできたみたい。」

“あの人”とは光陰のことである。

光陰のお陰でリエラの天理も位が第4位に昇格したのである。

 

それにしたって、同位の求めよりも強大な力だ。

第3位への昇格も時間の問題かもしれない。

 

リエラはまだまだ強くなれそうである。

 

「くっ!させるか!」

エスペリアに治療魔法をかけてもらったハリオンに、傷を癒してもらって復活を果たした悠人がリエラに対峙する。

 

「先程の攻撃も防げなかったあなたに、これを防げるかしら?」

 

「くっ!」

 

(おい!バカ剣!もっと力は出ないのか!限界以上を出してみろ!誓いを砕くんだろ!)

 

『誓い・・・。』

その言葉に反応した求めから憎悪と共に、強大な力が流れ込んでくる。

悠人の目論見は成功した。

 

オーラフォトンバスター!!!

 

ズッゴォォォオオオオオーーーーーーン!!!

 

「うぉぉぉおおおおおお!!!」

悠人も求めの力を最大限に引き出して、必死に防ぐ。

 

「ぐ・・・くくく・・・。」

エスペリアやハリオン、ニムントールもそれぞれバリアを張って悠人を手助けする。

 

カッ!!!

 

光が弾ける。

 

「ふぅーん、やるじゃない。私の攻撃を防ぐなんて。」

間髪入れずに、隊長の息の根を止めようとリエラが悠人に居合い斬りを放ってくる。

その剣にオーラを乗せて・・・。

 

「くっ。」

求めでそれを防ごうとするが、オーラを纏った“天理”に“求め”が触れた途端、弾き飛ばされる。

 

「ぐあっ!」

 

「悠人様!」

リエラは容赦のない追撃を仕掛ける。

 

「させません!」

エスペリアが間に入って、バリアでその攻撃を防ごうとする。

リエラの背後にはアセリアやセリア、ファーレーンなどが一気に攻撃を仕掛けてくる。

リエラは一言も発さずに

 

ヒュンッ!

 

と天理を一回転させると地面に突き刺した。

その途端、剣を中心にかまいたちにも似た衝撃波が周囲を襲う。

 

「ぐぁあっ!」

 

「きゃあっ!」

激しく身体を切り刻まれて、吹っ飛ばされる。

バリアもあっという間に破壊されてしまう。

 

バリアを破ることに長けた技である。

 

「ぐぅ、つ・・・強い。」

今の一撃でほぼ全員戦闘不能のようだ。

 

「弱いわね。こんなものなの?ラキオス勢って。ねぇ、光陰?」

チラリと遠くにある岩場を見る。

 

「えっ!?」

その言葉に悠人は反応するも、どういうことなのかいまいち良く分からない。

 

(へっ・・・。)

さっきから岩場に隠れていた男がその言葉に反応する。

突如、その岩場から急激にオーラが高まっていく!

 

「何だ!?くそっ!!新手か!」

最悪の状況に追い込まれていく。

非常にまずい事態だ。

 

「バカ剣!気合を出せ!レジスト!!

 

バリバリィ・・・ズッドーーーーン!!

 

稲妻にも似た、凄まじい電撃が悠人達を襲う。

バリアで何とかそれを防ぐ。

 

「殺ス!」

感情の一切感じられない女の声。

 

「よっ、久しぶりだな。悠人。」

それは悠人にとって、とても良く知っている声だった。

 

巧妙に気配を隠していたのだろう。

今の今まで気付かなかった。

 

「光陰!今日子!」

悠人は喜びのあまり、怪我も忘れて駆け寄ろうとする。

 

「殺ス!」

今日子が手にしている剣が稲妻を帯びる。

 

ズッドーーーーン!!

 

悠人は危うく消し炭にされるところだった。

 

「うわっ!な、何をするんだよ!?」

本気で殺そうとした一撃だった。

 

「やーめろって、今日子。今日のところは挨拶だって言われたじゃないか。大将には、まだ仕掛けるなと言われてるだろう。」

 

「・・・・・・。」

 

「どういうことなんだよ!?今のは何のつもり・・・!?」

 

「後ろが、がら空きなんだけど?」

突如、リエラが背後から不意打ちしてくる。

状況を悟る前に、背中に思い切り斬撃を浴びる!

 

ザァァァンッ!!

 

「がっはっ!!」

卑怯と言えば卑怯だが、戦場であることを忘れて敵に背を向けた悠人が悪い。

口から血を吐くと、意識が朦朧となってくる。

 

「戦場において油断しない。基本がなってないわね、隊長。ま、今更基本を学習した所で意味ないか・・・。」

リエラはそのまま悠人の首を跳ね飛ばそうと構える。

悠人は、もはや反応すらできなかった。

 

「悠人様!?」

エスペリアの顔が、絶望に染まる。

他のスピリットも同様だ。

 

「パパーーー!!」

そんなスピリット達にはお構いなしに、リエラは止めの一撃を容赦なく放つ!

 

「おいおい、待て待てリエラ。大将にはまだだって言われたじゃないか!」

そんな光陰の言葉を、リエラは軽く無視する。

 

リエラの斬撃が、そのまま悠人の首筋へと吸い込まれていく・・・。

 

味方のガードは到底間に合わない・・・。

 

「くっ・・・。」

 

パッキィィィィィーーーーーーン・・・

 

悠人の首が跳ね飛ばされるまさに直前、唐突にバリアが張られて悠人を守る。

リエラは自分の斬撃を防いだ者を睨みつける。

 

「どういうつもり、光陰?裏切るのかしら?」

 

「悪いな、リエラ。今悠人にはやられて欲しくない。俺が悠人と戦ってみたいんでな。」

 

「殺れる時に殺っておかないと、後で後悔するわよ?・・・っと。」

 

ギィィィィーーーーン・・・

 

アセリアが再び、リエラに斬りかかってくる。

それを剣で受けるリエラ。

 

再び治療を受けて、回復を果たした者も続々と駆けつける。

 

「先にグリーンスピリットを殺さないとキリがないわね。」

リエラが溜息をつきながら、アセリアの攻撃を流していく。

 

「リエラ、今はやる時じゃない。大将には従おうぜ?」

 

「次に出会った時は、今よりもっと力をつけてるでしょうね。ここで数を削っておかないと・・・。」

最もな意見に光陰は反論できなくなる。

 

「殺ス・・・。」

 

バチバチ・・・

 

「どうやら、今戦いたくないのはあなただけみたいね?

お友達が私に殺される所を見たくないなら、マロリガンに帰ることをお勧めするけど?」

 

リエラが、光陰に冷たい笑みを向ける。

その笑みに光陰は苦笑いを浮かべるしかなくなる。

 

ズッドーーーーーーン!!!

 

今日子が稲妻を敵スピリット達に落雷させる!

 

「手を出すな、黒きスピリットよ。」

今日子が、リエラを一瞥する。

 

「早い者勝ちでどう?」

リエラは返事を待たずして、未だに傷ついたスピリットを治療しているハリオンに攻撃を仕掛ける。

 

「ハリオン!危ない!!」

 

「っ!!?」

いつもノホホンとした態度を崩さないハリオンも、この時ばかりは驚愕に歪む。

必死でバリアを展開するハリオン。

 

慌てて駆けつける仲間達。

神剣魔法で、リエラの攻撃を阻止しようとする者もいる。

 

「うーーーん、ちょっと遅かったかな。」

リエラは、ハリオンのバリアが完成する前に攻撃を放つ!

剣の刃が、ハリオンへと放たれる!

 

バリアが間に合わないと咄嗟に悟ったハリオンは、神剣で受け止めて直撃を避ける道を選ぶ。

 

ドシュッ!!

 

だが、攻撃を完全に防げはしなかった。

ハリオンの身体がゆっくり後方に倒れる!

 

「まずは、1人目。」

リエラは、剣を再び放つ!

その切っ先が向かう先には、ハリオンの脳天が!

 

「ハリオーーーーーン!!」

突如、誰かの声が聞こえてきたかと思うと、ハリオンとリエラの間に侵入してハリオンを庇った!

 

ザンッ!!!

 

その瞬間は、非常に長かったように思う・・・。

ハリオン自身もう意識は失っていたので、自分が庇われたことも知らずに地面に倒れていく。

ハリオンを庇ったスピリットは、リエラに見事に心臓を貫かれていた!

 

ビチャチャ・・・

 

辺りに血が飛び散って、マナへと消える。

 

リエラは、剣に突き刺さったそれをブンッと一振りして、剣から切り離す。

そのスピリットは、次第にマナへと返っていく。

 

「仲間の命より自分の命を大事にするのが、普通よ。

でも、折角自分の命を捨てて庇ってあげたこの娘も、私の足元に転がってるわけだし無駄死にかもね。」

 

冷酷に言い放って、リエラはハリオンへと容赦のない剣を向ける。

仲間達が、2人の元へと駆けつける!

 

「可哀想だけど、これが戦いというものだから。」

そう言うが早いが、リエラはウイングハイロウを展開して空へと飛ぶ。

その直後、炎が飛んできてリエラが今しがた立っていた位置に直撃する!

オルファが放った神剣魔法である。

 

見事にかわされてしまったが、ハリオンだけは救うことができた。

 

 

 

悠人は、マナへと返りだすそのスピリットを抱き起こして、必死で名前を呼んだ・・・。

「ヒミカーーーーー!!!」

ヒミカは、もはや虫の息だった。

 

「エスペリア!!早く回復を!?」

エスペリアが黙って首を横に振る。

誰がどう見ても致命傷だった。

 

「い・・・いいんで・・・す・・・悠人・・・様・・・。」

 

「ヒミカ!平気か!!しっかりしろ!!」

 

「す・・・みません・・・私は・・・もう・・・。」

 

「何情けないこと言ってるんだ!?早く!諦める前に回復の1つもかけてやれよ!!」

悠人はエスペリアに向かって思わず怒鳴る。

弾かれたかのように、エスペリアが治療魔法をかけるも効果はなかった。

 

 

 

ラキオスのスピリット達は、皆ヒミカを取り囲んでいる。

 

 

 

ここが戦場であると言うことを忘れているようだった。

 

 

 

 

 

光陰は仲間を必死で介抱している悠人達を見る。

 

「ふん、スピリット一体死んでいくくらいで大袈裟なことだ。」

今日子が、いや・・・空虚がバカにしたようにそれを眺める。

 

しんみりとした空気が降りるも、何かを忘れているような気がした。

 

 

 

光陰は、ふと天を仰いだ。

 

「っ!!?」

そして、光陰にしては珍しく驚愕したかのような顔を作る。

 

 

悠人達のはるか上空には、彼らに剣の切っ先を向けているリエラがそこにいた!

その剣には、今までにないほどの膨大な量のマナが集束していくのが分かる!

 

間違いない!

リエラは、この一撃で全てを決めるつもりだ!!

 

オオォォォォオオオオオオオオーーーーーーー!!!

 

強大なマナの高まり。

だが、悠人達はすっかり動揺してしまっていて全く気付く様子はない。

 

(何やってるんだ、悠人!ここは戦場だぞ!?気を抜くな!)

思わずそう、叫びそうになる。

 

だが、リエラを止めることもできない。

何せ悠人達が敵で、リエラの方が仲間なのだ。

これ程絶好のチャンスもないだろう。

 

キィィィィィィーーーーーーーン・・・

 

リエラが攻撃準備を終えて、掛け声もかけずにそのまま突っ込んでくる!

 

 

光陰には、目の前で繰り広げられる光景が信じられなかった。

これ程凄まじい攻撃、普通誰か気付くだろう。

いや、仲間を失ったことがないのか皆、揃いも揃って戦場というものを理解していない。

 

リエラは攻撃を緩める気配を欠片も見せない。

ただの宣戦布告のようなものに、リエラを連れて来たこと事態失敗だったが、今更遅い。

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・

 

(気付け・・・気付け・・・誰か気付け・・・。)

光陰は心の中で願う。

 

いずれ、悠人は殺してしまわなければならないが、こんな形での決着を望んでいたわけではない。

 

リエラのあの大技がこのまま決まれば、一発で悠人達は皆殺しにされてしまう!

それ程の威力を、リエラはあの技に込めている!

 

 

リエラ、地上までの距離、50メートルを切った!

 

 

リエラが光陰を横目で見る。

「ごめんね、光陰。これで終わっちゃいそうだから、謝っとくね。」

 

悠人の“求め”と我慢できなくなった光陰が警告を発したのは同時だった。

 

「何やってるんだ、悠人!!上だ!!!」

 

次の瞬間!

 

悠人達を巻き込んだ、大爆発が発生する!!!

 

ズッガァァァァアアアアアーーーーーーーーーン!!!!!

 

キュドドドドドドドドォォォオオオオーーーーーーーーーン!!!!!

 

ゴォォォァァァァァアアアアアアアアーーーーーーー!!!!!

 

凄まじい轟音と共に、赤々と燃え上がる衝撃波が広範囲に発生!!!

 

 

 

 

 

この展開には、時深は愚かテムオリン達でさえ言葉を失ったと言う・・・。

 

 

 

 

 

光陰が、思わず声を張り上げた!

 

「悠人ーーーーーーーーーーーー!!!!」

 

 

 

 

 

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あとがき

 

 

 

 

 

 

虹色の輝きもいよいよ中盤戦に突入(の予定)です。

 

駿二の登場は、もう少し待ってください。

思ったよりも長引いてしまいまして・・・(汗)。

 

次回か、どんなに遅くとも次々回では、駿二も登場して複雑に絡み合った戦闘を繰り広げる予定です。

 

 

 

イースペリアという自分の故郷が滅ぼされた恨みは並大抵のことではないと、自分は思うんですよ。

そう簡単に克服できるような問題ではないと・・・。

それを描きたかったんですよ、駿二にしてもリエラにしてもサレアやエルフィーにしても・・・。

 

リエラは過去に拘る性質ではないですが、おいそれとラキオスに従うことはできないはずですよね。

それは、サレアやエルフィーにも通用するわけで・・・。

にも関わらず、ラキオス勢にのうのうと協力している彼女達は、リエラにとって故郷の裏切り者に見えても不思議ではありません。

憎しみを表に出すようなことはしてないですけどね。

 

まあ、駿二の場合は・・・。

と、ここまでにしておきましょう(笑)。

 

 

 

それでは、また次回のお話でお会いしましょう。