千夜の駿二

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ぐ・・・ぐぐぐ・・・。」

 

ビキビキビキ

 

謎のマスクの男の手や顔は太い血管が皮膚越しに浮き出ており、髪の毛も逆立っている。

マスクの男からは、不気味な赤い光がこれでもかというくらい放たれている。

 

「何だ、こいつ?」

悠人は思わず引いてしまう。

 

『契約者よ・・・。』

 

「何だ、バカ剣!」

 

『誓いを砕け!』

 

「う・・・おおお・・・。」

求めも悠人の身体を支配しようと、強烈な憎悪を流し込んでくる。

 

「ぐ、ががが・・・。」

それはとても悠人が抗えるようなものではなかった。

 

「パパ!」

オルファが心配して、悠人に駆け寄ろうとする。

 

「来るな!」

悠人がそれを制する。

 

「パパ・・・。」

涙眼を浮かべるオルファ。

 

「悠人様!大丈夫ですか!?」

エスペリアも心配してくる。

 

「が・・・ああ!」

悠人が悶え苦しむ。

 

ラキオス勢は、マスクの男の存在を一時忘れて一瞬、悠人の方を見てしまった。

 

「隙だらけだぞ、てめーら!!!」

男が大地を蹴って、宙に飛ぶ。

上空から、誓い?を勢い良く悠人に向かって突く!

 

ドォンッ!!

 

凄まじい重圧が辺りを支配したかと思うと、周囲が大爆発を起こす。

 

ズガガガガガガァァァアアアーーーーーン

 

土煙が上がる。

 

悠人は咄嗟にバリアを張るも、到底防ぎきれるものではなかった。

 

「うぇぇあ!!」

男は舌をデロリと出し、涎を垂らしながら正気を忘れた顔で、土煙の中心に向かって突っ込んでくる。

 

ガォ・・・ン・・・

 

剣と剣がぶつかり合い、衝撃波が発生してスピリット達を吹き飛ばす。

 

ギィン・・・ガォン・・・キィィン

 

赤い光と青い光が、何度も何度も激しくぶつかり合う。

言うまでもなく、求めと誓い?だ。

 

「・・・してやるーー、・・・ろしてやるーー、殺してやるーーー!!!」

マスクの男は、完全に正気を失った不気味な顔で、誓い?を突き出す!

 

それを避けて、斜め下から斬り上げる悠人。

それを素手で掴む男。

 

ブシュゥゥゥゥーーーー

 

男の手から血しぶきが上がる。

だが、男が痛みを感じた様子はない。

 

「殺されるのは・・・おまえだ!!」

悠人も、マスクの男ほどではないにしろ、求めに精神を支配されかけている。

 

「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ・・・。」

 

ギィィィーーーン

 

一段と激しくぶつかり合う求めと誓い。

 

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねーーーーーーーーー!!!!!100ペン死んで来いよ!!おまえ!!!」

 

男の体を包み込んでいる赤い光が輝きを増していく。

 

「食らえーーーーーー!!オーラフォトンレッド!!!

 

「させないよ!ふぁいあーぼると!!

オルファが炎を放って、それを防ごうとする。

 

「小賢しいわーー!!」

男は、それを拳で粉砕してしまう。

 

「そんな・・・。」

オルファが動揺を隠せない。

 

「貴様から死にたいのか!!そうなのか!!?そうなんだよな!!?どうなんだよ!!答えやがれぇぇぇーーーーー!!!」

男がオルファに向かって突進する。

それをエスペリアが庇おうとする。

 

「邪魔なんだよ、貴様!!遊んでんじゃねぇってんだよお!!!」

エスペリアが張るバリアを拳で粉砕して、そのまま彼女を殴り飛ばす。

 

ドシュッ!!

 

ついでに腹部を貫いてやる。

 

「エスペリア!」

オルファが叫ぶ。

 

ドンッ!

 

悠人がオルファを突き飛ばして、男から助ける。

 

「うぉぉぉぉおおおーーーーーー!!」

 

ガォッン!!

 

再び求めと誓いが激しくぶつかり合う。

 

「パパ!」

アセリアが男の背後から接近して、斬りつける。

 

ザシュウッ!!

 

男の背中を斬るも、浅かったようだ。

 

「く・・・。」

アセリアが顔を歪める。

だが、男は痛みをまるで感じていないようだ。

 

「何だよ、貴様!?背後から不意打ちだとぉ!!?教育のし直しが必要かーーー!!!」

 

「あくっ!!」

今度はアセリアが腹部を派手に斬りつけられる。

 

「アセリア!!くそぉっ!!」

 

ザバァ!!

 

悠人が、再び男の背中を斬りつける!
今度は深い!

だが、男は一瞬も怯まない。

 

「何なんだよ、揃いも揃って背後から攻撃しやがって・・・。貴様らーーーー!!!」

 

ドォッン!!

 

男から赤いオーラが発せられる。

 

「ぐあっ!!」

 

「あっ!」

悠人とアセリアが真っ黒に焦がされて、吹っ飛ばされる。

 

「さよならだーーー!!!求めーーーー!!!エトランジェーーーー!!!」

男が悠人に止めを刺そうと突進する。

 

エスペリアは当分動けそうにない。

 

他のスピリット達も、サーギオスのスピリットと激しい攻防を繰り広げている。

 

「パパ!くっ!」

唯一間に合いそうなのは、オルファしかいない。

 

だが、自分の神剣魔法はさっき弾かれてしまった。

悠人を助けるには、さっきよりも強力な神剣魔法を今使うしかない。

しかし今は、訓練中の神剣魔法で必ず成功する保障はない。

 

だがやるしかなかった。

理念から一瞬でマナを引き出していく。

 

「間に合って!らいとにんぐふぁいあ!!

理念が振動する。

 

それに気付いた男が、炎にはお構いなしにオルファに突っ込んできた!

 

「まずは貴様から死にやがれーーー!!!うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」

誓いからは、赤い光が放たれている。

それがオルファの神剣魔法の威力を激減してしまう。

 

「そんな・・・これでも・・・。」

さすがのオルファもショックを受ける。

 

「斬り刻んでやるよ、おまえ!目で捉えられないほどバラバラにな!!素晴らしい死体を作り上げてやるよ!!!」

オルファが一刀両断にされる直前、アセリアが割り込んで誓い?を食い止める。

 

ギィィィィィィィーーーーーーーーン・・・

 

ビリ・・・ビリビリビリ・・・

 

力での押し合いになる。

 

「く・・・。」

アセリアは先程斬られた傷口が開いたのか、片膝をつく。

 

「纏めて真っ二つに裂いてやる!!」

 

「させるかぁ!!うぉぉぉぉぉおおおおーーーーー!!」

悠人が突進してくる。

 

だが、その前にアセリアの剣を弾くともう一度派手に斬り刻んで、吹っ飛ばしてやる。

そのままオルファをも斬り殺そうと、誓いを構える。

そこに突進する悠人。

 

「だからよぉ、背後からの攻撃は・・・小賢しいってんだよーーー!!!」

 

ザシュ!!

 

悠人の体が後ろによろける。

鮮血が辺りに飛び散る。

 

「パパ!!」

 

「そりゃあーーーー!!!」

男が悠人の身体を斬り上げる!

 

ズバァァァァアアアーーーーーー!!!

 

「があっ!」

悠人の体が後ろに倒れていく・・・。

 

「頭でも吹っ飛んでおけ!!!」

男は、誓い?を悠人の脳天目掛けて突き出す!

オルファに調度、背後をとられた形になっていることに、男はまだ気付いていない。

 

「んくっ、パパ!」

 

ドスッ!!

 

今度は男の血の塊が、辺りに飛び散った。

オルファの“理念”が、見事に男の体を貫いている。

 

「やった!」

オルファが思わず喜ぶ。

 

男は笑った顔のまま硬直する。

かなり不気味だ。

 

男はしばらく動かない。

 

「・・・どいつも・・・こいつも・・・背後を取りやがって・・・。」

しばしの沈黙の後、男はブツブツと呟き出す。

 

「っざっけっやがってぇぇぇええええーーーーー(ふざけやがって)!!!」

 

ドォォォオオオオーーーーーン!!!

 

男の体を取り巻く赤い光が、より一層輝きを増して天を貫く!

 

「きゃっ!」

オルファが吹っ飛ばされる。

 

「オル・・・ファ・・・。」

それを見た悠人が、薄れ行く意識を繋ぎとめてよろよろと立ち上がる。

 

「何だよ、貴様!?寝ておけよ!永遠にな!!!」

 

「誰も・・・誰も殺させない・・・おまえなんかに、殺させはしない・・・。」

悠人はいつの間にか、求めからの支配を脱していた。

 

「うぉぉぉぉおおおおおおーーーーー!!!」

悠人も求めの限界以上の力を引き出していく。

 

「誰一人として・・・殺させない!!」

 

「殺されるんだよ、この場で!それも今すぐ!!今すぐにだぁぁああああーーーー!!!」

 

「そんなことはさせない!オーラフォトンビーム!!うぉぉぉおおおおーーーー!!!」

 

オーラフォトンレッド!!!げひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」

求めと誓い?のオーラが極限まで高まり、激しくぶつかり合う!

 

「弾け飛べぇぇぇぇえええーーーー!!!」

男が気持ちの悪い笑みを作る。

 

「ぐ・・・く・・・おぉぉぉおおおおーーーー!!!」

傷が重い・・・。

気を失いそうだ。

力を思うように引き出せない。

 

悠人は徐々に押されていく。

 

「悠・・・人・・・。」

 

「悠人・・・様・・・。」

重傷を負っているアセリアとエスペリアが彼の名を呼ぶ。

 

唯一動けるオルファが、悠人の傍らに立って理念から力を引き出して、悠人に送る。

 

「パパ、負けないで!」

 

「オル・・・ファ・・・。」

悠人は力が湧いてくるような気がした。

悠人の放ったオーラフォトンビームが、力を増していく!

 

「友情ごっこか!!?恋愛ごっこか!!?どっちなんだよ!!それで勝った気になるのか!!どっちにしても、見苦しいんだよぉっ!!」

だが、マスクの男も負けていない。

オーラフォトンレッドにますます力を籠めていく!

 

「ぐ・・・くく・・・。」

 

「パパは、強いんだからね!あんたなんかに負けないんだから!」

オルファが男をキッと睨む。

 

「ならばそのパパとやらが惨めに散っていく様を、思う存分眺めるんだなぁぁあああーーー!!!」

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・

 

強大な力が激しくぶつかり合う!

 

悠人と男の力が並んだと思った次の瞬間、見事に2つの力は弾け飛んだ!

その衝撃に男は吹っ飛ばされる。

 

だが悠人は、オルファの前に立って彼女を庇いながらも、攻撃の手を緩めはしない。

悠人のオーラフォトンビームが、弾け飛んだオーラを突き破って男を打ち抜く!!

 

ズッガァァァアアアアーーーーン!!!

 

「お・・・ぉぉおっ!」

 

カァァァアアアーーーーーッ!!!

 

キュドドドドドドドドドォォォオオオーーーーーン!!!!

 

そして、男を中心に大爆発が起こる!

周囲の木々はなぎ倒され、クレーターと共に土煙が辺りに舞い散る。

 

「終わったか・・・。」

何となく戦いが終わったことを、悠人は悟った。

その途端、悠人から力が抜けてフッと倒れて意識を投げ出してしまう。

 

「パパ、しっかりして!ねぇってば!!」

オルファが激しくゆすってくる。

 

 

ザザザッ!

 

数人の黒い影が、男が吹っ飛ばされた辺りに落ちる。

 

オルファがハッとなって、理念を構える。

今、戦えそうなのは自分1人しかいない。

 

土煙が治まってくると、精神を神剣に呑まれたスピリット達がマスクの男に肩を貸して、立ち上がらせている。

 

マスクの男は、ダランと力が抜けたように首を垂れている。

その眼こそ赤い光はもう宿していないものの、顔からは生気の欠片も感じられなかった。

口から血が滴り落ちるその様は、まるで死んでいるかのようだ。

 

暗い上に、顔の半分以上をマスクで覆っているため、人相は分からない。

男の持つ誓い?も、今は短剣に戻って力を失っている。

 

スピリットが男を連れ去っていく・・・。

 

 

さすがのオルファも後を追う気にはなれなかった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――サーギオス帝国――

 

 

 

 

佳織は“、すぐ来るから”ということで、サーギオス城の城壁の前で案内役を務めてくれるという男を待たされることになった。

 

 

そこから先は、ウルカ達に代わってその男が城内へと佳織を案内していった。

その男は何だか疲労が激しいらしく、道中一言も口を聞かず、疲れきった表情で佳織を案内していく。

 

 

 

 

 

「佳織!よく来てくれた!」

マスクの男が、秋月瞬の元へ佳織を連れて行くと案の定、瞬の歓迎を受けた。

 

「秋月・・・先輩・・・。」

 

「僕の方から迎えに行こうかとも思ったんだが、やることが多くてね。」

戸惑う佳織を横目でチラリと一瞥すると、マスクの男は謁見の間を去って行く。

 

「おまえは、邪魔にならないところで待て。後で佳織を部屋へ案内するんだ。」

瞬がマスクの男を呼び止める。

 

マスクの男は謁見の前を一瞥すると、一言も返さずに謁見の間から姿を消す。

スピリット達の集中治療を受け、傷だけは回復したものの、疲労はもう限界の様子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここがおまえの部屋だ。」

マスクの男が佳織を部屋へと促す。

 

佳織はさっきから、気になる疑問をぶつけてみた。

 

「あなたも・・・エトランジェですか?」

 

「鋭いな・・・その通りだ。」

 

「あなたが・・・サーギオスにつく理由を・・・聞いても良いですか?」

 

「何故そんなことを聞く?」

 

「いえあの・・・何となく・・・好きでこの国に従ってるようには・・・見えなかったので・・・。」

 

「そうだな・・・俺にとってはこの国がどうなろうがどうでも良い。

まあ、瞬と目的が一致したから・・・と言うのが理由か・・・。

復讐を確実に遂げるには、仲間は多い方が良い・・・ということだ。まあ、精々利用させてもらう。」

 

「そうですか・・・。」

佳織はそれ以外、何も答えることができなかった。

 

「あの・・・あなたの目的って・・・?」

その途端、男の目が氷のように冷たくなる。

 

「っ!!?」

佳織は固まったまま動けなくなる。

 

「知りたいか?」

佳織は口をパクパクさせるだけで、何もしゃべることができなかった。

 

「知りたいんだろう?」

男がもう一度確認する。

 

「あ・・・あの・・・。」

やはり、言葉にならない。

 

「教えてやろう。俺は元イースペリアのエトランジェ・・・と言ったら納得できるか?」

 

「え!?」

 

「俺は、元イースペリアのエトランジェ、千夜の駿二だ。分かったか?」

 

「っ!!?」

佳織は驚きを隠せない。

一生懸命、頭の中で今の言葉を噛み締めていく。

 

「あの・・・あなたは・・・ラキオスを・・・怨んでいるのですか?」

 

「俺はある日突然、何も知らないこの世界に放り込まれた。そこは森の中だ。

その何も知らない世界で、一番最初に見た国・・・町がイースペリアというわけだ。仲間もできた。」

 

一瞬だけ過去を懐かしむような顔をする。

だが、それもほんの一瞬だ。

 

「そこから一歩として外に出る前に、あそこが滅ぼされたと言うわけだ。この世界で故郷はどこだ?

と聞かれたら、イースペリア以外の名が出てくると思うか?」

 

「それは・・・えーっとー・・・。」

 

「故郷はもうない。“ある”などとは言わせない。あそこはもう、国として復興することはおそらくないだろう。

ラキオスに実質、併合されてしまったわけだからな。俺がこの世界で唯一知っていた町も完膚なきまでに破壊された。

忘れるはずがない・・・。同じ町を見ることは、もうないだろうな。」

 

その冷たい眼に悲しさと寂しさをほんの少しだけ滲ませた。

だが、一瞬でそれは見えなくなる。

 

「駿二さん・・・。」

 

「同情などいらん。故郷をくだらん、私利私欲で汚しやがったラキオス勢・・・。

この手で皆殺しにしてやる・・・。イースペリアの敵は俺が討つ!必ずな。」

 

「・・・・・・。」

 

「求めのユート・・・と言ったか?」

 

「お兄ちゃん!」

 

「そう、おまえの義兄だ。ラキオスの軍隊を率いている男の名前。

おまえの為と言い訳をしつつ、あの男は取り返しのつかない過ちを犯した。

軍を率いてイースペリア崩壊の引き金を引いた。あの男も俺は憎い・・・。」

 

男の目が憎しみに燃え上がる!

 

「だが、それ以上に後ろで安全な場所から、ぬくぬくとマナ消失を指図しやがった王族どもはもっと憎い。

ユートの前に、あの女王だ。ラキオスも同じようにマナ消失で滅ぼされる様を、じっくりと眺めさせてからゆっくりと殺してやる。」

 

「あ・・・あの!お兄ちゃんは・・・あなたの故郷を・・・滅ぼすつもりでは・・・。それに・・・レスティーナ様も・・・きっと・・・。」

 

「それがどうした?はっきり言ってみろ。滅ぼすつもりでは・・・何だ?きっと・・・何だ?言え。」

 

「!?・・・その・・・。」

佳織はその言葉の続きを口にすることはできなかった。

 

確かに言い訳が許されるようなことではない。

 

滅ぼすつもりではなかった。

きっと不本意だった。・・・心の底では・・・

 

などと、とても言えない。

 

「おまえはどうだ?イースペリア崩壊をどう思う?」

 

「悲しい・・・ことだと思います。してはいけないことだと・・・思います。」

 

「ふん、綺麗事だな。」

 

「そんなつもりじゃ・・・ありません。」

 

「自分にも一端の責任があると思うか?」

 

「私の・・・こと?」

 

「他に誰がいる?・・・正直に言え。」

 

「私さえいなければ・・・お兄ちゃんが・・・こんなことしなくても済んだかと思うと・・・辛いです。私にも・・・責任はあります。」

 

「本当か?自分はただの人質だ。何もしていない・・・。だから罪などない・・・。

本当はそう思っているのではないか?自分の罪を素直に認めたくないと、心のどこかで思っているのではないのか?」

 

「っ!!?」

ずばり図星を指され、体が硬直する。

 

「その場凌ぎの言い訳など聞きたくはない。あんたも言った通り、おまえは存在自体が罪だ。

おまえさえいなければ、ユートがマナ消失に手を貸すことなどなかったんだろう?

好き好んで殺戮や破壊を繰り返すような奴ではないと聞いていた・・・。」

 

佳織を冷たい眼で見る。

 

「いや、その前にラキオスにつくこと自体ありえないか。

つまり、おまえさえいなければあの男(ラキオス王)が、くだらない野望を掲げるようなこともなかった。

おまえさえいなければ・・・な。これでも自分には責任はないと言い張ることができるか?」

 

「っ!!?」

佳織は唇を噛んで項垂れる。

 

駿二はそれでも容赦のない言葉を続ける。

 

「俺の復讐の矛先はおまえにも向いていることを忘れるな。

瞬を利用するだけ利用してから、おまえも殺してやるよ。瞬が邪魔をするのなら、あの男も一緒に消し去ってやる。」

 

その眼は復讐に濁ってはいるが、一切の迷いがなかった。

 

ラキオスでマナ消失を引き起こして、イースペリアと同じように滅ぼした後で、レスティーナを殺す。

その後で、佳織と・・・邪魔になるなら瞬も一緒に片付けるつもりだろう。

 

この分だと、ユートやアセリア達も隙を見て殺しにかかるに違いない。

 

(止めないと・・・。)

駿二だけは・・・絶対に止めないといけない・・・。

 

そんなこと・・・させてはならない・・・。

 

駿二がこうなってしまったのは・・・自分のせいだ。

 

その罪を償う為にも・・・駿二だけは、絶対に止めないといけない。

 

そう、心の中で固く決意をする。

 

(でも・・・いったいどうすれば・・・。)

佳織は無力な自分が悔しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(駿二、私が後で必ず心を元に戻してあげるから・・・。)

完全に復習鬼と化してしまった駿二の様子を、この世界のどこかでひっそりと見守り続けるレイ。

 

今はこのままの方がレイにとっても都合が良い。

かつての仲間ともその分、戦いやすいだろう。

 

度を越えた嫉妬に自分自身、嫌気がさすがここまで来てしまったら今更引き返すわけにはいかない。

 

恋愛など経験したことがなく、思い通りに行かなかったことなど一度もなかった彼女にとって、失恋など夢にも考えていなかった。

 

今まで、駿二に言い寄ってくる女などいなかったのに、この世界に来た途端ライバルがいきなり出現したのだ。

焦らないわけがない。

 

『自分が全てある人物の思惑によって、思い通りに動かされていたって知ったら、彼どうするかしら?』

時空が何の気なしに呟いた言葉は、レイの心に激しく突き刺さる。

レイが拳を握り締めながら、項垂れる。

 

『時空!何てこと!』

流星が珍しく声を荒げる。

いつどんな時でも、レイを最優先に考える流星にとって、例えレイに非があろうとも彼女を傷つけるようなことを言う奴は誰であれ許せない。

 

『ご、ごめんなさい・・・。そんなつもりじゃ・・・。』

 

「良いのよ。その時は・・・その時・・・。」

 

『いよいよ、ラキオスとマロリガンとの戦が始まりますね。』

流星が話題を変えて、その場の雰囲気を一変させる。

 

「そうね。」

 

『駿二も介入させるんでしょ?』

 

「もちろん。戦いあってもらうために、運命を動かしたんだから。」

 

『でも、サーギオスは静観を決め込んでるよ?サーギオスごと操るの?』

 

「別に無理やりサーギオスを介入させる必要はないんじゃない?

あくまで駿二が彼女達と戦ってくれさえすれば良いわけだし。それ以外のことなんてどうでも良いのよ。」

 

『ま、多少不自然でも深く突っ込む物好きなんていないでしょ。』

駿二だけ戦いに介入させるとなると、どうしても不自然な形になるがそのことに、例え疑問を感じようとも結論には至らないだろう。

 

何より、駿二はラキオスを強く憎んでいる。

“憎しみゆえの暴走”で片付けられるだろう。

 

『ま、ここまでする必要もなかったんじゃないのって思うけどね。』

 

「それこそ今更ね。ここで完全に放置したら、ここまで運命を仕掛けた私がバカみたいじゃない。」

 

『それもそうね。』

 

 

 

 

 

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あとがき

 

 

 

 

 

 

ついに、謎のマスクの男の素顔が明らかになりました!

 

 

これから、マロリガン戦編へと突入します。

今回、出番がなかったリエラも登場してくれるはずです。

リエラと悠人達がついに出会います。

その時、彼らが取った行動とは・・・?

 

でもマロリガン戦に入る前に、悠人とオルファのちょっとしたやり取りを出したいと思っています。

まだ執筆していないので、どうなるかは分かりませんが・・・。

 

本当は、第7話にてマロリガン戦編へと入るはずだったのですが、長くなりましたので次回に回しました。

オルファとのやり取りも出したいですしね。

 

 

それでは、次回も楽しみに待っていてください。