狼男登場!?

 

 

 

 

 

 

 

 

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「っ!?ここは!?」

 

「サレア!眼が覚めましたか?」

 

「ファーレーン!?ここは!?他の皆は!?」

 

「落ち着いて、サレア。今から順に説明していくから。」

あれからサレアとエルフィーは、ファーレーンによって助けられてラキオスへと運ばれたのだ。

もう、何日も昏々と眠り続けていたと言う。

 

隣には未だに眠り続けているエルフィーの姿がある。

 

「助かったのは・・・私達二人だけ・・・。」

 

「まだ決め付けるのは早いですよ。サレアが無事だったんですから、きっと他の人達だって・・・。」

その言葉はサレアにとって何の気休めにもならなかった。

 

「何故、あんなことが起こったの?いったい誰が・・・。」

 

「!!?・・・それは・・・。」

 

「心当たりがあるのね。説明して。」

 

「・・・。」

ファーレーンは答えようとしない。

 

「説明して!」

先程よりも大きな声で説明を強く要求する。

 

自分には知る権利がある。いや、知らなければならない。

いったい何者が、何のためにマナ消失などという大災厄を引き起こしたのか・・・。

 

ファーレーンも説明しないわけにはいかなかった。

自分達には責任がないなどとは言えない。

認めて、向き合わなければ・・・。

 

ファーレーンはサレアに自分が知っているだけのことを包み隠さず説明する。

 

「ラキオス王・・・自分のくだらない野望のために何の関係もない大勢の命を・・・許せない・・・。」

 

「サレア・・・謝って許されることじゃないけど・・・ごめんなさい。」

 

「・・・。」

サレアはただ黙って、エルフィーの寝顔を覗き込む。

 

「でも、サレアが無事で良かった。」

 

「それにしても、偶然よね。あの大混乱の中、あなたに再会するなんて・・・。」

 

「本当ですね。今でも信じられません。」

それはそうだろう。この二人が出会うよう仕向けたのは、他ならぬあのレイなのだから・・・。

サレアとエルフィーがラキオスに運ばれたのもただの偶然などではなく、レイによって仕組まれたことなのだ。

 

だが、この二人がそれを知るすべはなかった。

 

(リエラ副隊長・・・駿二・・・皆・・・お願い・・・無事でいて・・・。)

リエラと駿二の行く先も既にレイによって決められている。

彼女が仕掛けた運命に抗える者は誰一人として存在しない・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん、んん・・・ここは?」

ベッドに寝かされていたリエラは、身体を起こす。

 

「よう、眼が覚めたか?随分眠り続けていたぞー?」

 

「あなたは?」

 

「ああ、俺か?俺は光陰。因果の光陰だ。マロリガンのエトランジェをやっている。」

 

「何か・・・私に変なことしなかったでしょうね?」

目の前の軽い調子の男を睨みつける。

 

「おいおい、変な誤解はしないでくれよ。たまたま近くを通りかかったから、様子を見に来てやっただけだ。」

 

「どうして・・・私はここにいるの?」

 

「クォーリンが重傷を負って倒れていたあんたをたまたま見つけて、ここに連れて来たらしいぜ。俺も詳しい事情は分からないんだ。」

 

「たまたま?それで見ず知らずの私を助けたって言うの?」

 

「さあなー、放っとけなったんだろ。」

リエラがクォーリンによって、マロリガンに連れて来られたのも全てはレイによって仕組まれたことだ。

従って“たまたま”などでは決してない。

 

「私がもし敵だったらどうするつもりだったのかしら?」

 

「その時は、その時なんじゃないのか?それにもし敵だったんなら、いつまでもこんなとこにグズグズしてるのはおかしいだろ?」

 

「連れて来られたのは私だけ?他にはいないの?」

 

「ああ、あんた一人だけだ。」

 

「そう・・・。」

と言うことは、自分が率いていた部隊の皆はバリアで守ったかいもなく、命を落としていったということだ。

本当に遣る瀬無い。

 

「それじゃ、元気みたいだし、俺はもう行くぜ?」

光陰はそう言って、部屋を出て行く。

 

「ああ、そうそう。これだけは知っておいた方が良いかもな。

あんた、マロリガンの稲妻部隊に配属される可能性が高い。

嫌なら、さっさと逃げた方が良いぜ?それじゃあな。」

 

パタン

 

「そうは言われても・・・イースペリアはもう・・・ない。逃げても私に行く当てなんてあるわけないじゃない・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お断りします。」

 

「私もよ!」

エルフィーとサレアは即効で断った。

 

ラキオス王に

「おまえ達は今後、ラキオス隊としてわしのために働くのだ。せいぜい、わしの期待を裏切らぬようにな。ふはははははははは。」

などとぬけぬけと言われて、

 

「はい分かりました。」

なんて大人しく従えるわけがない。

 

何せ、今目の前にいるのはイースペリアを事実上滅ぼした張本人なのだ。

逆にその憎たらしい首を落としてやりたいくらいだ。

 

「あなたは私の国を滅ぼした張本人。皆の敵!覚悟!!」

サレアが武器を構える。

 

「分からん奴だな。スピリットふぜいが、わしには大人しく従うしかないと言うのに・・・。エトランジェよ、この者を取り押さえろ。」

 

「なっ!」

この命令に悠人は驚く。

 

この二人の気持ちは痛いほど分かる。

故郷を奪われたのだ。故郷を奪った奴に大人しく従える方がおかしい。

 

自分も佳織の命を奪われたら、まずラキオス王を生かしてはおかないだろう。

 

「分かっておるのか?お主はわしに従うしかないということを?」

憎たらしく笑うラキオス王。

 

「くっ!」

悠人は歯軋りする。

 

「頼む、二人とも・・・。とにかく落ち着いてくれ。佳織の・・・妹の命がかかってるんだ・・・。勝手だって分かってる。でも・・・!」

 

「冗談じゃないわ!あなたの妹なんて、私には何の関係も・・・。」

サレアは、凄んで悠人の顔を見た瞬間何も言えなくなる。

そこには、苦渋の顔があった。

 

「サレア・・・ここはひとまず冷静になりましょう。今ここで暴れるのは得策ではありません。」

そう言われて、辺りを見回す。

なるほど、大勢のラキオスのスピリットに囲まれる形になっている。

多勢に無勢。悔しいがここで暴れても犬死だ。

 

けど、ラキオス王に従うくらいなら死んだ方がマシである。

 

「サレア、お願いですから落ち着いてください。今は大人しく従っておきましょう。」

サレアの気持ちを読み取ったエルフィーが何とか宥めようとする。

誰にも聞こえないよう小声で囁く。

 

どうせ死ぬなら、敵を確実にとってからにしないと・・・?」

 

「・・・分かったわ!悔しいけど・・・。」

ラキオス王だけは、確実にこの手で殺す。

それまで自分は死んではならない。絶対に・・・。

 

死んで行った人達も、せっかく生き残った仲間が犬死しても喜ばないだろう。

 

「でも、私はあなたの野望のために戦場に出る気はないわ!」

 

「スピリットふぜいが!」

大臣らしき人物から罵声が飛ぶ。

 

「ならば出たくなるようにしてやろう、エトランジェよ!」

ラキオス王は、すぐ悠人の名前を持ち出してくる。

 

「・・・はっ。」

敬語を使うのも腹立たしいが、佳織が人質に取られている以上耐えるしかない。

 

「言いたいことは分かるな。おまえの手でこの小生意気なスピリットを従わせるのだ。ふははははははは。」

 

「くっ。」

 

「サレア・・・形だけでも良いから・・・。でないと、酷い目に遭わされれますよ。」

 

「でも!」

 

「ここは耐えましょう。」

 

「くっ!」

悠人を始め、周りも必死にサレアを宥める。

 

 

説得にはかなりの時間を有した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう、リエラ。結局マロリガンにつくことにしたのか?」

 

「ええ、帰る場所も行く当てもないし・・・。とりあえずすることが見つかるまで、ここに落ち着くつもりよ。」

 

「そうか・・・。」

光陰は適当に相槌を打つ。

リエラの決定に光陰が口出しすることは何もない。

 

「ねぇ、光陰は何でマロリガンに?」

 

「少しでも今日子の傍についててやりたいからな。」

 

「その人はそんなに大事な人なんだ。」

 

「ああ、俺にとって今日子以上に大切な者はどこの世界にも存在しない。」

 

「ま、私には関係ないか・・・。光陰、稲妻部隊の面々を紹介してくれる?これから仲間になる上で、顔を覚えておきたいし・・・。」

 

「そうだな、こっちだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『これでリエラ達は、敵対していくことになるね。全てレイの仕掛けた運命の通り!』

 

「後は放っておいても、なるようになってくれるわ。」

 

『後、この後の駿二なんだけど、これもレイが仕掛けたの?』

 

「さあ、どうでしょうね?」

レイがクスクスと笑う。

 

『だって、あの任務を実行に移しちゃったら、もう後戻りはできないよ?それが狙いなんじゃないの?』

 

「あくまで、偶然かもよ?」

 

『どっちなのよ?』

 

「さあ、どっちかな?」

 

『レイの意地悪!』

時空が子供っぽくすねる。

 

『ところで、レイ。ローゼア達はどうするのですか?』

今まで黙っていた流星が突然口?を開く。

 

「消しておいた方がいいかな?」

 

『どっちでも良いと思いますよ。レイの邪魔さえしなければ・・・。』

 

「まあ、今のところ放置しておくつもりだけど・・・。利用できるだけ、利用したいし・・・。」

 

『珍しいですね。あなたが自分の力を知った相手を生かしておくなんて・・・。』

 

「まあ、精々利用させてもらうつもりよ。

用なしになったら、その時に消せば良いんだし。

見たところ口が軽そうにも見えないし、すぐに消す必要もないかな・・・って思ってね。」

 

『そうですか・・・。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―数日後―

 

 

 

 

カーン、カーン、カーン

ラキオス城から、警報が鳴らされる。

悠人達は、永遠神剣を手に取ると城へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ・・・ああ・・・あわわ・・・。」

ラキオス王は恐怖を露にして、酷く狼狽する。

 

ラキオス王妃も王に寄り添うようにして、震えている。

 

「父様、母様!」

レスティーナがそこへ駆け込んでくるも、すぐに恐怖を顔に貼り付けて立ち尽くしてしまう。

レスティーナが恐怖のあまり立ち尽くしてしまうなど、滅多にないことだ。

 

王と王妃に対峙している、マスクで人相を隠している男からは強烈な殺意がこれでもかというくらい放たれている。

 

「・・・。」

男は一言も発することなく、手にしている短剣を構える。

 

「衛兵は!?スピリットどもは何をしているのだ!!?」

王が見苦しく叫び立てるも、誰も助けに来る者はいない。

 

王妃は何かを言おうと口を開くが、あまりの恐怖に声が出なかった。

 

「償えよ。」

ここに来て初めて男が口を開く。

憎悪に囚われたかのような、低い声である。

 

「何だと?」

 

「償えよ。死んで償え。」

 

「くっ、こ、この無礼者めが!!わしを・・・わしを誰だと思うておるのだ!!」

震える声で凄まれても、お笑い種にしかならない。

 

だが、男は二コリともせずに恐ろしいほどの殺意を放ち続けている。

 

「イースペリアでのマナ消失・・・。何人の命が犠牲になったか知ってるのか?

知らない奴の命がどうなろうが俺の知ったことじゃないが、あそこは俺の第二の故郷。

そこを滅ぼしたおまえは死んで償うべきなんだよ。違うか?」

 

ラキオス王は、いつもの相手を見下したような発言を取ることができなかった。

そんなことをした瞬間、自分の命が終わるだろうということぐらい目の前の男を見れば分かる。

 

・・・助けは・・・期待できそうになかった・・・。

 

こうなると、ラキオス王はだらしがなかった。

 

「分かった、悪かった。わしが悪かった。そうだ!償いと言っては何だが、おまえを大臣に取り立ててやろう。どうだ?」

 

「・・・。」

男は無言のまま、一歩前に出る。

 

「ま、待て!早まるな!早まると損するぞ!

金もいくらでもやる!そうだ!レスティーナを嫁にやろう!わしの死後は王になれるぞ!?

どうだ!?どうだ!?ここまでおいしい話はないぞ!?」

 

聞く耳も持たず、男は短剣を振りかざす。

 

「お願いです!やめてください!」

レスティーナが叫ぶ。

 

仲が悪いとはいえ、親子。

父親の危機に黙っていられるはずがない。

 

男は、ゆっくりとレスティーナを見る。

 

レスティーナがビクッと肩を震わせる。

 

「何故だ?俺にはおまえらを殺す権利くらいあるだろう?故郷を滅ぼされたんだぞ?」

 

「それは!?・・・。」

人殺しは許されることじゃない。

 

だが、男の言い分に対して言い返すことができない。

自分達はそれだけのことをしだのだ。

例え、命を狙われても文句は言えない。

 

「なら文句はないな?」

 

「お願いですからやめてください!!」

男は耳を貸さずに、短剣を振るった。

 

「うっ!ああっ!」

 

「母様!!」

男の短剣がラキオス王妃の脳天を一突き!

間違いなく即死だろう。

 

「あ・・・あわわわわわ・・・。」

 

「脆いな。所詮、地位に溺れているだけの存在。一人では何もできない。」

 

「くっ!」

その言葉はレスティーナの胸に深く突き刺さる。

自分が一番気にしていることだ。

 

「ラキオス王?」

 

「あ・・・かか・・・。」

もはや声にならないほどに怯えている。

 

レスティーナはショックが重なって放心状態。

 

「どうだ?愛する妻の死は見取ったな?」

 

「が・・・あわわ・・・。」

 

「なら次はおまえの番だ。」

 

ザンッ!!

 

ラキオス王も妻の後を追わせる。

 

「父様!!」

「このくらい、どうした?何を動揺する?

マナ消失で、何人の子供が親を失っただろうな?何人の女が愛する恋人を失っただろうな?

何人の人間が大切な人を失った?

それを覚悟の上であれを引き起こしたのだろう?自分が失う覚悟も持っていなかったか?」

 

「くぅ・・・。」

レスティーナは、肩を戦慄かせる。

何も言い返せない自分が、悔しかった。腹立たしかった。

 

「さてと・・・次はおまえの番だな・・・。両親の後を追わせてやるよ。怖がる必要はない。すぐに両親に会えるわけだからな。」

相変わらず、感情のまるで篭らない声が逆に恐怖を誘う。

 

男は短剣を振りかざすと、レスティーナの脳天目掛けて一気に振り下ろした!

レスティーナは眼を瞑って死を覚悟する。

体が硬直しているのが、おぼろげに分かる。

 

「レスティーナ様!!」

 

バンッ!

 

殺されるまさにその瞬間、ドアが勢い良く開け放たれる音がしてエスペリアの声が聞こえてきたかと思うと、悠人達が雪崩れ込んできた。

 

男はつい気を逸らしてしまった。

 

「ちっ!」

男が舌打ちする。

 

「パパ、あそこに敵さんがいるよ!」

オルファがマスクの男を指差して叫ぶ。

 

「おまえ!レスティーナから離れろ!!」

悠人が“求め”を構える。

アセリアもエスペリアもオルファのそれに倣う。

 

男が辺りを見回す。

 

「レスティーナ様!」

エスペリアがすかさず、レスティーナを保護しようとする。

 

「一足遅かったな。」

だが男は、エスペリアはおろか悠人達も眼中にないようで、レスティーナに向かって再び短剣を振りかざす。

 

「させないよ!」

オルファが炎の火球を男に向かって放った。

男が、一歩後ろに跳んでそれをかわす。

その隙にエスペリアがレスティーナを無事保護する。

 

「小賢しい・・・くっ!」

 

ギィィン・・・

 

アセリアの斬撃を、何とか短剣で受け止める。

男が背後にある窓に一瞬だけ目をやる。

 

戦況は不利と悟ったのか、次の瞬間男はあっと驚く行動に出た。

 

ガッシャーーーーン

 

男は窓ガラスを突き破って、外へと飛び出した!

 

「なっ!?」

悠人が慌てて駆け寄るが、男はヒョイヒョイと窓ガラスを使って身軽に城壁を飛び降りてしまった。

 

後を追おうとする悠人をエスペリアが止める。

 

「悠人様、深追いは止めましょう。」

 

「・・・あ・・・ああ・・・そうだな・・・。」

悠人は男が去った方向を一瞥した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ねぇ、レイ?』

 

「何?」

 

『これで本当に良かったの?』

 

「・・・うん・・・。」

肯定するもその声に力はない。

 

『レスティーナだけ殺させなかったのは、やっぱりあれでしょ?』

 

「ええ・・・。ラキオスの指導者が誰もいなくなったら、せっかく彼女達をあそこに配置した意味がなくなるじゃない。」

そう、レスティーナの命だけ助かったのも全てはレイが仕組んだことだ。

 

サレアとエルフィーをラキオスに配置したのに、指導者がいなくなったら意味がなくなる。

レスティーナだけが生き残ったのは、そのためだ。

 

「さてと・・・後はなるようになってくれるでしょう。」

 

『彼らは嫌でも戦場で顔を合わせることになりますからね。あなたの思惑通りに。これ以上、私達が手を出す必要もないでしょう。』

レイが仕掛けた運命はここで終了。

 

後は放っておいても問題ない。

 

彼らの動きを見守って、道からそれるようなことになればその時に手を加えれば良い。

 

(駿二、ごめん・・・。)

自分が仕掛けた運命の操り人形状態である駿二に対して、心の中で謝罪する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ショックのあまり立ち直れないか?」

マスクで人相を隠した謎の男が木の影からスゥッと姿を現す。

 

手にはラキオス王と王妃の息の根を止めた短剣が握られている。

 

「おまえは・・・誰だ・・・?」

たった今暴走して、大切な佳織をこの手で殺す寸前だった挙句、目の前で攫われていった悠人は力なく尋ねる。

 

「答える必要はない。」

 

「俺に・・・用か?」

他のスピリット達は、マスクの男に対して警戒を解こうしない。

男はそれに構わず続ける。

 

「・・・そうだな・・・強いて挙げるなら・・・おまえらに対する宣戦布告・・・と言っておこうか?」

 

「宣戦布告・・・だと?おまえもまさか・・・サーギオスの奴か!!」

悠人が一気に殺気立つ。

他のスピリット達も同様に神剣を手に臨戦態勢に入る。

 

因みに、サレアとエルフィーだがラキオス自体の危機に素直に駆けつけることはできなかった。よって留守番である。

 

「群れなければ、力を発揮できない弱小軍団に俺が負けるとでも?」

 

「この人数相手に勝てると、本気で思っているのか!?」

 

「人数は問題ではない。ようは、弱者の寄せ集めか否かだ。求めのユート?」

 

「何だ!?」

吐き捨てるように言う悠人。

 

「おまえの神剣、瞬に献上させてもらうぞ。」

 

「何だと!?おまえ、瞬の何だ!?」

 

「知ってどうする?もうじき消える男が?」

 

「俺は消えない!それより、佳織はどうした!?言え!!」

 

「答える必要もない質問だな。まあ、これだけは確かだな。」

悠人は黙って、男の次の言葉を待つ。

 

「返す気は欠片もない・・・言えることはこれだけか・・・。」

 

「ならば、おまえを捕らえるまでだ!!」

悠人の殺気がどんどん高ぶっていく。

 

「捕らえてどうする?人質にでもする気か?そんなことで瞬が、佳織を返すとでも?」

 

「うるさい!!」

 

「話すことはもうないだろう。おまえのような猪突猛進形タイプは、こうなると手が付けられないからな。

その生意気な口も、もうすぐ開けなくしてやるよ。その後で、じっくりとあのすました王女を始末してやる。」

 

「悠人様もレスティーナ様も殺らせません!」

エスペリアが一歩前に出る。

 

「ん!」

アセリアもそれに倣う。

 

「行っくよーー!」

オルファも神剣を構える。

 

「友情ごっこに熱い連中だ。時には冷めた感情も必要だぞ?」

 

「言いたいことはそれだけか!!」

悠人が怒りの感情を、遂にマスクの男に向けて爆発させる。

 

「全員纏めて、地獄に突き落としてやる。」

男が短剣を構える。

その短剣から、赤い光が微かに漏れ出している。

 

『誓いの気配!?』

その途端に、求めが反応する。

 

『いや・・・誓いは、あのような形をしてはいない。・・・一体どういうことだ?』

 

「どうしたバカ剣!」

 

『・・・・・・。』

“求め”はそれには答えない。

 

「ぐ・・・おお!」

悠人に、憎悪と共に支配しようとする意思が流れ込んでくる!

 

「ぐぅ・・・おおぉっ!」

 

「悠人様!」

 

「悠人!」

 

「パパ!」

皆一斉に叫ぶ。

 

「引っ込め!バカ剣!!」

悠人は何とか気合で、求めを退ける。

それほど強力な支配力ではなかったのか、求めはあっさりと退いていった。

 

だが、あの短剣型の永遠神剣への殺意にも似た感情だけは、激しく伝わってくる。

 

『契約者よ・・・。』

 

「何だ、バカ剣!」

 

『あの神剣を砕け!』

 

「言われなくとも!」

悠人が大地を蹴って、男へと間合いを詰めると一気に斬りかかる!

 

「単純な・・・。」

 

ギィィーーン

 

それを短剣で受け止めると、“求め”を打ち払って悠人の懐を狙う。

悠人は、一歩飛び退いてそれをかわす。

 

男は追い討ちをかける!

 

ザンッ キィンキキィン・・・

 

「くっ。」

悠人とマスクの男の激しい攻防戦だ。

 

周りのスピリット達も悠人に加勢しようと、それぞれの神剣を構える。

 

「パパ、避けて!ふぁいあーぼると!!

オルファが神剣魔法を唱える。

 

悠人が後ろに跳ぶ。

 

ドーーーンドドドーーーーン

 

「ぐあぁっ!」

男はそれをまともに食らってしまう。

 

「がはっ!」

男がよろける。

 

「今だ!!」

 

ザシュッ!!

 

悠人がその隙を突いて、すかさず男の身体を斬り裂く!

 

「ぐあっ!」

男は身をそらして、致命傷だけは避けたものの明らかに深手を負ってしまった。

 

「くっ、浅かったか!」

 

「後は、私が!」

エスペリアが男の背後について、真っ直ぐに心臓を狙って攻撃する。

 

「舐めるな!」

男は短剣を振り回して、周囲に衝撃波を発生させてエスペリアを吹き飛ばす。

 

「きゃあっ!」

 

「エスペリア!」

悠人が一瞬だけ気を取られる。

 

「隙あり!」

男がその一瞬の隙を突いて、悠人に迫る。

深手を負っているのに、どこにこんな力が残されているのだろうか?

 

「くっ!」

 

「パパ!」

オルファがとっさに叫んで詠唱を始めるも、到底間に合わない!

 

ギィィィーーーーーン

 

突如アセリアが、悠人の前に割り込んで短剣を受け流す!

そのまま男の肩を派手に斬り裂く!

 

ザシュッ!!

 

「あぐっ!!」

男の動きが鈍る。

 

「終わりだ!」

悠人が求めを構えた時だ。

 

 

 

「死ぬ・・・のか・・・こんなところで・・・惨めッたらしく死んでいくのか?」

 

 

 

ガシィッ!!

 

 

男は何と素手で求めを掴んだ!

 

ガタ・・・ガタガタ・・・

 

男の短剣がブルブルと不気味に振動を始める!

 

「俺は・・・死なない・・・死なない・・・死なないんだあっ!

 

男は勢いに乗って、悠人をアセリアごと激しく突き飛ばす!

 

 

男の短剣が赤い光を発し始めたかと思うと、見る見るうちに巨大化していく!

 

いや、1本の剣に変化していく・・・。

 

コォォォオオオオオーーーーー

 

男の目が不気味な赤い光を発し始める。

短剣から発せられる赤い光が、男の身体を浸食していく。

 

『捧げよ・・・。』

 

ドックン・・・

 

不気味な声と共に、男の心臓が大きく鼓動した。

『我に捧げよ・・・。』

 

ドックン・・・

 

『我が僕よ、今求めに砕かれて、奴の力を増大させられては困るな・・・。』

 

ドックン・・・ドックン・・・

 

男の目の赤い光がどんどん強くなっていく!

 

 

赤い光が男を容赦なく飲み込んでいく!

 

『我に全てを捧げよ、それが・・・おまえの存在価値なのだ。』

 

ドックンドックンドックン・・・

 

男の短剣が1本の剣に、形を変えた!

それに真っ先に反応したのが、他ならぬ“求め”だ。

 

『誓い!!』

求めが強烈な憎悪と殺意が悠人に流れ込んでくる!!

男の持つその剣は気配、形共に“誓い”そのものだった。

 

 

誓い?の邪悪な力も留まることなく増していく!

 

誓い?がマスクの男の身体を飲み込んでいく。

 

『求めを砕け!そしておまえの全てをこの“誓い”に捧げよ。おまえは求めへの餌に調度良い。

くくくくくくくくく・・・。』

 

ドックンドックンドックンドックン・・・

 

鼓動が早くなっていく。

 

『我の分身体を手に、求めを砕け!そしてその力を、おまえの神剣ごと我に捧げるのだ!』

そう、男が手にしているのは本物の“誓い”ではなく、あくまでも分身のようなもの。

従って、万が一この場で砕かれても、誓いは痛くも痒くもない。

 

 

“求め”も悠人に強力な強制力を働かせてくる!

 

「落ち着け、バカ剣!おまえに言われずともあの神剣は砕いてやる!!」

それでも、求めは強烈な憎悪を悠人に流し込んでくる。

 

「悠人。」

 

「悠人様!」

 

「パパ!」

周りのスピリット達も皆、悠人の身を心配する。

 

 

その間にも、マスクの男は誓いに全てを飲まれていく。

 

邪悪な赤い光が、男の頭を飲み込んだ時だ!

 

ぐああっ!!うぐぅっ!!

男が突然、頭を掻き毟って激しく苦しみ出した!

 

あぐぅっ!!ぐあっ!!

激しくのた打ち回って、暴れまわる。

 

ああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーー!!!!!

 

 

「な、何だ!?」

悠人達も異常な光景に目をみはる。

 

 

頭を掻き毟り、目をクワッと見開いて暴走を続ける。

 

邪悪な赤い光もどんどんと輝きを強めていく。

 

 

悠人もスピリット達もその様子を遠巻きに眺める。

“求め”も以上な光景に見入っているようだ。

 

ぐぅっ!!!あぐっ!!!ぐああっ!!!

男が空に向かって、絶叫をあげる!

 

コォォォォオオオオオオーーーーーー

 

誓い?からの不気味な赤い光が男の全身を包み込む。

 

マスクの男の目の赤い光が、空を突くかのような勢いで光を放つ!

男の形相はさながら、ぶちギレた狼のようなものだ。

 

悠人は思わず、狼男を連想してしまった。

まさに、そう思わずにはいられないほどの光景だったのだ。

 

 

男が天に向かって、凄まじい絶叫をあげた!

があああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

あとがき

 

 

 

 

謎のマスクの男

 

誓いに支配されている謎のエトランジェ。短剣型の永遠神剣を所有しているも、既にその神剣の意思はないようだ。

男の神剣は既に誓いに染め上げられており、“誓い”へと変貌を遂げることも可能。

誓いにとって、この男は影武者のような存在。

限界まで憎悪を引き出し、求めを砕かせてからゆっくりと料理するのである。

まさに豚は太らせてから食えと言う奴である。

イースペリアとは、何らかのつながりを持っているらしく、ラキオスを激しく憎んでいる。

時が経つほど、どんどん誓いに侵食されていく。

 

 

 

 

 

 

また1人、新たなオリキャラが登場しました♪

謎のマスクの男、名前は現段階では伏せておきます。

彼の正体が明かされる日は、そう遠くないと思います。

 

彼の意外な正体とは、一体・・・。

 

え?何?読者をバカにするな!?

正体はバレバレ?

はい、すんません・・・しかし・・・彼の正体がどうしても分からないという方は、次回か次々回のお話で驚いてもらえること必死かと・・・。

 

次回、“堕ちたエトランジェ”(仮名) お楽しみにお待ちください。

 

実は今回のシーンは、大幅に加筆修正しました。

なので、次回のお話がどうなるのか、作者自身にも細かいことは分かりません。

 

暴走を始めた謎のマスクの男と悠人達が、大激突する・・・予定です。

あくまで予定です・・・。

 

 

ホークネス、何やら忙しくなって参りました。

なので、更新のペースが少々落ちるかと思います。

 

今後とも“虹色の輝き”をよろしくお願いします。

何か要望等ありましたら、掲示板にてお願いします。