イースペリアのスピリット達

 

 

 

 

 

 

 

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「はっ!ここは!?」

 

「やっと起きたのね。おはよう、ここはイースペリアの城よ。」

駿二はベッドに寝かされていた。意識が戻って、だんだん記憶が鮮明になっていく。

 

(確か俺は・・・ここに来る前・・・。)

 

「リエラ!おまえよくも!!」

 

「仕方ないじゃない。あなたを他国に渡すわけにはいかなかったのよ。あなたにはそれだけの価値があるんだから。」

 

「価値?」

 

「っと、別に道具扱いしてるわけじゃないわよ。少なくとも私はね。」

 

「とにかく、俺をどう見ようがどうでもいいが、どうするかは俺に決める権利があるだろう?」

 

「そうかも知れないけど、あなたをここから出すかどうかは女王に委ねられることになるわよ?

あまり怒らせない方が得策だと思うけどね。」

 

駿二は目の前の女をきつく睨みつける。

 

「っと、アズマリアはあなたを拘束するような人じゃないかな。変に誤解しないであげてね。」

 

「予め言っておこう。俺は誰かの下につく気はない。あくまでも俺は自由だ。」

 

「別に構わないわよ?協力してくれさえすればいいんだし・・・。

それにあなたがもしここから出て行った場合、次に私と出会う時は敵同士ってことになる可能性が高いけど・・・。」

 

「ふん。」

 

「とにかく、女王に会うだけでいいから会ってきてくれる?そんな嫌な人じゃないと思うから。」

 

「ま、いずれはどっかにはつかなきゃならねーんだろ?せっかくの機会だしな。」

 

「女王は今、自室にいるはずだから。案内してあげる。」

 

「てめーにか?」

 

「私だって、見ず知らずのあなたを看病した挙句に、道案内なんてごめんなんだけど、

女王の命令なんだから仕方ないでしょ?」

 

「元はといえば、てめーのしでかした所為じゃねえーか!?」

「エトランジェを見つけたら、とりあえず確保するようにって言われてたんだから仕方ないでしょ?

素直について来ないのが悪いのよ?」

 

「いろいろ言いたいことはあるが、その前に千夜はどうした?」

 

「あなたの永遠神剣のこと?それなら女王に預けておいたけど?」

 

「嫌でも一度は会わなきゃならねーってわけか・・・。」

 

「私だってさっさと終わらせたいんだから、早くしなさい。」

 

「ちっ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

案内されたのは豪華な部屋だった。さすがは女王の私室ってとこか。

 

「あんたが、イースペリアの女王か?」

 

「ええ、そうです。アズマリアと申します。手荒な歓迎をどうかお許しください。」

不本意だったとか、リエラのせいだとかそう言った言い訳じみたことは一言も口にしない。

その態度にちょっと関心する。

 

「わざわざ連れてきたからには、何か用があるんだろ?」

 

「ええ。あなたには是非、我がイースペリアに協力を願いたくて。」

長い前置きはしない。ズバッと要件を切り出す。

「我がスピリット隊の隊長としてスピリット達を導き、この国に平和と安息をもたらして頂きたいのです。

既に聞き及んでいるかとは思いますが、この大陸は今・・・。」

 

「あー、それは知ってる。その前に俺の神剣を返してくれねーか?護身用に持っておかねーと不安なんだよ。」

 

「ここに。」

そう言って千夜を机の引き出しから取り出すと、駿二に手渡した。

 

「いいのか?受け取った瞬間にあんたを斬り殺すかもしんねーぜ?

それを懸念して俺から取り上げたんじゃねーのか?」

 

「あなたの目を見れば分かります。あなたはそのようなことをする人間ではありません。」

 

「けっ、女はすぐに綺麗事じみたことを吐きやがる。」

思わず乱暴な言葉を吐き捨てて、神剣を受け取る。

 

「それで、早速で悪いのですが答えを聞かせてもらえないでしょうか?」

 

「分かってて言ってんのか?すぐに出せるかよ。」

 

「それもそうですね。では明日の朝、改めてここへお越しください。

城の一室をご用意いたしますので、今夜一晩自由にお使いください。」

 

「ま、構わないか・・・。危険は特になさそうだしな。」

 

「それでは、先程のお部屋をお使いください。」

 

「へいへい。」

 

「リエラ、彼のことをお願いできますか?あなたが人見知りをするのは知ってますが・・・。」

 

「ま、構わないけど・・・。」

しぶしぶといった感じで了承する。

 

「まず、飯を食わせてもらえるとありがたいんだが?」

 

「分かりました。リエラ、食堂へ案内してあげてください。」

 

「分かったわ、こっちよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それにしても一国の女王に対して、凄い言葉使いだったな?』

 

(気が立ってたんだよ。それにガラじゃねー。公の場じゃねーんだから、特に意識しなくていいんだよ。

女王も特に気にしてなかったじゃねーか。それにあいつだって、敬語を使ってなかったじゃねーか?)

 

『あの2人は、何か親しげな雰囲気だったな。』

 

「にしても、戦か・・・。戦場に立つなんて、俺にできるのか?」

 

「無理する必要はないんじゃない?って言いたいところだけど、エトランジェである以上、いずれは戦場に立たされるわよ?

他の国だったら強引に従わせられるけど、ここは任意で決められるから、どうせなら気持ちの良い環境で働きたいじゃない?」

 

「何だ?俺を心配してんのか?」

 

「バ・・・何言ってるのよ!そんなつもりで言ってるんじゃないわよ!」

 

「照れるな照れるな。」

 

「照れてないわよ!」

 

「何、パニックを起こしてんだ?」

駿二がからかってくる。

 

「起こしてない!」

 

「・・・ま、冗談はさておき、強引に連れて来られたのは事実だからな。それを忘れるなよ?」

 

「・・・・・・。」

リエラは何も言い返せなくなる。会話はそこで途絶えた。

 

駿二を食堂まで案内すると、しばらくそのまま呆ける。

否定できなかった自分が悔しかった。

そのことを忘れようとするかのように、頭を振ってその場を静かに立ち去った。

 

 

 

 

 

食事を済ませた後、駿二はブラブラと散歩をしながらこの国につくべきか否か考えていた。

(どうすっかなー。いずれは巻き込まれる・・・どうせつくなら良い所に・・・か。

確かにその通りなんだけどよー。今1つ決心がつかねー。)

 

「ん、ここは?」

 

『スピリット達の訓練場のようだな。覗いてみろ。』

 

「訓練場・・・か。」

中では何人かのスピリット達が、剣を交えていた。どのスピリットもなかなかに強い。

 

「何かきっかけでもありゃー、決心がつきそうなんだけどなー。」

しばらく訓練の様子をボーッと眺める。

 

・・・と、そのうち一人のスピリットが駿二に気付いてこちらにやってきた。

 

「あなたは?見ない顔ですけど・・・。」

 

「ああ、あんた達の訓練を見てるんだよ。」

 

「せっかくですけど、これは見せ物ではないので見学目的でしたらお引取りください。」

 

「放っといてくれると助かるな。別に変な目的で見物してるわけじゃねーよ。」

 

「しかし・・・。」

と、そこにもう一人のスピリットが声をかけてくる。

 

「おーい、エルフィー?何してんのー?」

 

「サレアさん。それが・・・。」

エルフィーと呼ばれた少女が、事情を説明する。

 

「ま、いいじゃないの。見学くらい。ところであなたは誰なの?」

 

「ん、俺は駿二だ。この国に招待されてな。」

 

「招待?・・・!?まさか・・・あなたが今夜来たエトランジェ?」

 

「そういうことかな?エトランジェなら別にいいだろう?見学しても。」

 

「え、ええ。」

 

「待ってください。駿二さんもまだこの国につくって、決めたわけではないのでしょう?

まだ、連れて来られただけのはずです。こちらに報告が来ていないですから。

まだ味方になると決まったわけじゃないのに・・・。」

 

「それも一理あるわね。そういうことだから、ごめんね。」

 

「別に協力を拒む理由は特にないんだよ。

まあ、強引に連れて来られたってのは気に食わねーけど、

それは水に流してもいい。ここ以外の場所だと、俺に対する扱いが酷そうだしな。」

駿二は、軽く息を吐く。

 

「ただ協力する理由も特にない。だからきっかけみたいなものが欲しいんだよ。

そうじゃねーと決心がつかねー。」

 

「なるほどね、いきなり軍隊を率いて戦場に立ってくれなんて言われても困っちゃうよね。それは何となく分かるわ。」

 

「深く考える必要はないと思いますよ。

拘束するのは女王様の望むことではないので。

出て行こう思えばいつでも出て行けるのですから、とりあえず引き受けてはどうですか?

私達なら歓迎しますよ?戦力は多いに越したことはないのですから。」

 

「なるほど、それもそうだな。」

駿二は頭を掻き毟る。

 

(さーて、どうすっかなー。)

考えることはいっぱいある。

 

戦場に立つ勇気、人を殺す覚悟、殺される覚悟、果ては仲間の足を引っ張るようなことになりはしないか等、山ほどある。

 

戦いが当たり前の世界で生きてきた連中なら、深く考える必要もないことなのかもしれないが、

駿二は平和の象徴のような世界でゆったりと暮らしてきたのだ。

急に決めろと言われても無理である。

 

「駿二さんはどうしたいんですか?それが一番大事なんじゃないかと思います。」

 

「あー、駿二さんっての止めてくれるか?呼び捨てで構わない。」

 

「ですが・・・。」

 

「駿二さんって、何か変な感じがするんだよ。」

 

「分かりました。」

 

「悩んでばかりいるから、返って結論に辿り着かないのでは?私と一閃交えない?」

 

「待ってください。私もエトランジェと戦ってみたいです。」

 

「私が先よ。私の力がエトランジェに対してどこまで通用するのか、試してみたいの。どう?」

 

「言っとくけど、俺はまだ一回しかやりあったことはねーぞ?あんたらの方ができると思うが?」

 

「それでも構わないわ。」

 

『いい機会だ。駿二よ、実力をつけるためにも戦うのだ。』

 

「ちっ、殺さねー程度に頼むぜ?」

 

「訓練で殺しはしないわよ。それじゃあ、あそこに立ってくれる?」

 

「へいへい。」

指定された位置へと移動する。

 

「それではサレア・ブラックスピリット。行くわよ!」

そう名乗ると、刀を抜く。

 

「来い!」

 

『駿二よ、この暗闇の中なら力を出せるぞ。そろそろ私の能力を使っても良い頃だ。』

 

(能力?)

 

『私が空中に浮く姿をイメージしながら、そっと手を放すのだ。』

もしやと思い、言われた通り恐る恐る手を放してみる。

 

「うおっ!浮いた!」

思わず声に出る。サレアはきょとんとしている。

 

「あの、そろそろ行くけど・・・準備はいいのね?」

 

「ああ、構わないぜ。」

 

『私は、駿二が思い描いた通りに動く。やってみろ。』

 

サレアは居合いの構えを取ると、一気に間合いを詰めてきた。

ブラックスピリットの基本の剣技だ。

 

「速い!」

駿二は千夜を正面から突っ込ませる。

 

「あなたの攻撃も速いじゃない。」

サレアは身を反らしてかわす。スピードも僅かに落ちるが、そのまま間合いを詰めてきた。

 

「一回かわして終わりとは思わない方が良いんじゃないのか?」

千夜をサレアのすぐに背後につけている。回転ジャンプをして何とか、かわすことに成功。

 

「空中では身動きが取れないだろう?」

着地地点を予測して、そこに千夜を移動させる。

 

「終わりだ!」

そのままサレアに向かって放つ。

 

『ほう、やるではないか。私をここまで使いこなすとは・・・。』

 

「くっ、針乱障壁!

サレアの身体の周りから、無数の針が出現して物凄い勢いで放たれる。

 

防御と攻撃を同時にこなす使いかっての良い便利な技で、彼女が良く多用している。

360度全てを攻撃できるのが強みだが、下手すると味方を巻き込んでしまいかねないのが難点だ。

 

現に見物しているスピリット達も慌てている。

危険な戦い方をする奴である。

 

「げっ、危ねー技だな。」

とっさにバリアを張って防ぐも、一部はバリアを貫通して身体に突き刺さる。

 

「ぐぅっ!」

思わず集中力を解いてしまう。

ガランカラン・・・

千夜が地べたに落ちる。

 

「もらった!」

いつの間にかサレアが、駿二の目の前へと間合いを詰めてきている。

 

「くぅ。」

バリアを再び張り直して何とか耐え凌ぐ。

 

「今度はこっちの番だ。」

千夜を手元にワープさせると、反撃に転じる。

サレアも再び間合いを取るようなことはしない。そんなことをしたら、駿二の独壇場だ。

よって自然に激しい攻防戦が繰り広げられることになる。

 

(このままじゃ不味いな・・・。)

 

『そうだな・・・。』

そうなのだ、刀と短剣。間合いが違いすぎる。元々、千夜は接近戦タイプの神剣ではない。

その証拠に、駿二が徐々に押されていく。

 

いったん間合いを取ろうとしても、すぐに詰められてしまう。

千夜を空中で操って翻弄しようと思っても、それをした瞬間に刀を突きつけられて決着がつくだろう。

サレアも駿二がそう出ると読んでいるため、全く隙を与えてくれない。

 

「くっ、ナイトロックバリア!

 

「あまいわ!インベリッド!

 

「なっ!」

バリアが一瞬で無効化されてしまったのだ。

サレアは勢いに乗って一気に壁際に追い詰めた。

 

「強ーな、さすがベテランは違うぜ。」

 

「どうも。」

サレアは千夜を刀で弾いて、駿二の首元に突きつけた。

 

「そこまで!」

さっきから黙ってみていたエルフィーが、試合終了の指示を出す。

 

「ちぃっ、リエラに続いて二度目か。俺はブラックスピリットとは愛称が悪いのかな。」

 

「ブラックスピリットは、基本的に変わった能力を持つものが多いから。それにリエラは私よりも強いわよ?」

 

「駿二、次は私と手合わせ願えないでしょうか?」

 

「連戦かよ?」

 

「駄目ですか?」

エルフィーの愁いの表情。

 

『受けてやれば良いだろう。負けっ放しで悔しくはないのか?』

 

「仕方ねー。手加減しろよ。」

 

「いえ、やるからには本気でいかせてください。」

エルフィーがにっこり微笑む。

駿二も最初の位置まで戻ってエルフィーと向き合う。

 

「改めて自己紹介をさせてください。私は、エルフィー・ブルースピリット。よろしくお願いします。」

 

「ん、秋坂駿二だ。悪いが、今度こそ勝たせてもらうぜ?」

 

「では、両者準備はいい?」

サレアが二人に確認を取る。

二人は黙って頷いて、肯定する。

 

「それでは始め!」

エルフィーが早速間合いを詰めてくる。ブラックスピリットにも引けを取らないスピードである。

 

『駿二、おまえはだいぶ私を使いこなし始めている。

私の主な能力の使い方などの知識を送ろう。見事私を使いこなし、この勝負・・・勝ってみせろ。』

 

その途端、駿二の頭の中に何かが流れ込んできたのが分かる。

 

『まずは神剣魔法の基本、光線弾を使ってみろ。』

 

「ラジャー。」

こちらに向かって、突っ込んでくるエルフィーに向かって千夜の切っ先を向ける。

 

光線弾!

すると剣の切っ先から光の球体が出現し、鉄砲のように打ち出された。

 

パズーーーン・・・

 

「くっ!」

何とか身を反らすも体制を崩してしまう。

光線弾は、音速を超えるスピードで後方の壁に激突して大きな爆発を起こす。

 

ズドドーーーーン

 

間髪入れずに駿二の手から千夜が放たれる。

前に大きく跳んで、少しでも間合いを詰めようとする。

 

「簡単に間合いは詰められないぜ。」

エルフィーのすぐ真後ろに千夜をつける。後方からの攻撃、剣で弾くのは難しい。

身を屈めることでかわす。

 

千夜の切っ先をエルフィーに向けると、そこから再び光線弾を放つ。

さすがに、この近距離でかわすことはできなかった。

 

ズドーーーーン!!

 

「ぐぅ・・・。」

エルフィーが後方に吹っ飛ばされる。

壁に叩きつけられたエルフィーの喉に、千夜をピッタリ突きつける。

 

「はい、そこまで!」

駿二は千夜を手元に戻す。

 

「駿二、強いですね。さすがはエトランジェです。私ももっともっと精進しないと。」

治癒魔法をかけて回復したエルフィーが立ち上がる。

 

「私との勝負でも今の光線弾を使ってれば、勝敗は分からなかったのに・・・。」

 

「今、覚えたんだよ。訓練を経てだいぶ強くなったような気がするよ。サンキューな。」

 

「サンキュー?」

 

「ああ、そうか。ここで言う、“ありがとう”って意味だ。」

 

「いえ、私達はそんな大したことは・・・。」

 

「ところで駿二、訓練はここまでにして私達の館に案内してあげよっか?」

 

「いいですね、私も何だかあなたが気に入りました。あ、勘違いしないでくださいね。

別に告白ってわけじゃないですから。ただ、あなたは信頼できる人のような気がします。」

 

「ま、いっか。せっかくだから見せてくれるか?」

 

「はい。」

3人は、訓練を終わりにすると駿二を館へと案内して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―女王の私室にて―

 

 

 

 

アズマリアは、豪華な椅子に腰掛けて何かの書類に眼を通していた。

 

「ラキオスにもエトランジェ・・・か。四神剣のことを考えると、後3人はこの世界にエトランジェが来ている可能性が高いですね。

こればかりは、各国に忍ばせてあるスパイの情報を待つしかないでしょうね。」

 

その時、窓がサーーッと音もなく開いて、カーテンが風になびく。

そして唐突に、窓辺に人影が立つ。

 

 

リエラだ。

 

その髪の色は、ブラックスピリット特有の黒ではなく、薄いピンク色をした美しい髪だ。

 

「リエラ、いつも言ってるでしょう。その姿(髪の色)を安易に曝け出してはいけませんと・・・。

あなたは特別なスピリットなのですから、外に下手にあなたのことを洩らしたくはないのです。あくまでもブラックスピリットを演じてください。」

 

パタン

 

窓が閉まって、カーテンが閉じる。

 

「相変わらず心配性ね。大丈夫だって、誰もいないんだから。」

女王はそっと溜息をついた。

 

「それで・・・リエラ、どうでした?駿二は?」

少女は、音もなく降り立つとアズマリアのすぐ傍まで近づく。

 

「訓練場でスピリット達と剣を交えていたわよ。」

 

「それは兵士の報告で知っています。彼の戦いは、あなたの眼から見てどうでしたか?」

訓練場に自分がいたのを知っているかのような口ぶりだ。

 

その兵士の報告に自分のことが入っていたのか?

それとも自分のことは何でもお見通しとでも言うつもりだろうか?

 

「本当、あなたの耳には何でも届くのね。」

 

女王はクスリと笑うとリエラを促す。

 

「そうね、私と戦った時に比べてだいぶ強くなったようよ。もう十分立派な戦力になるでしょうね。」

 

「そうですか、後は彼が協力を承諾してくれると良いのですが・・・。」

 

「断ったらどうするつもりなの?」

 

「その時は仕方がありません。敵として現れないよう祈るしかないでしょう。」

国のことを考えればその場で殺すのが一番なのだろうが、自分達が勝手に連れてきておいて、そんな野蛮な真似はしたくなかった。

 

「あまいわね、一国の女王は時に非情にならなきゃ。」

 

「あくまで私は私です。私は私のやり方で国を正しい方向へと導きます。間違ってると思うことはしません。」

キッパリと言い切る。その眼に迷いはない。

 

「そう、ならもう何も言わないけど。その書類は?」

 

「ラキオスにもエトランジェが正確に確認された、その報告書です。“求めのユート”というそうです。」

 

「これであの男の野望が本格的に動き出しそうね。どうするの?ラキオス王を信頼してるわけじゃないんでしょ?」

 

「今すぐ、私達を裏切るようなことはないでしょう。それでも警戒は怠らないつもりですが・・・。

今はまだ下手に動かない方がいいでしょう。各国の動きを良く見極めることが大事です。」

 

「慎重に出方を見守るってわけか。あなたらしいわね。」

 

「私は、侵略は行いません。あくまでもこの国を守れればそれで良いのです。」

 

「油断しないでね。ラキオス王は、いずれ必ずあなたを裏切るわよ。

あの男の目的はこの大陸の支配なんだから、やがてあなたは邪魔になるはず。」

 

いつになく真剣な表情だ。この二人の絆の深さを窺い知ることができる。

女王も真剣な顔で、深く頷く。

その時、ふと棚の上に飾ってある髪飾りに目が行く。

 

「これは?」

 

「ああ、それですか?私が幼い頃、お父様に買ってもらったものです。」

 

「へぇー、何だか綺麗ね。」

 

「ええ・・・今でも大事にしているんですよ?」

 

「何か気に入っちゃった。私に譲ってくれない?」

 

「それは私の大事なものですから、誰かに譲ることはできません。」

 

「・・・・・・。」

リエラは、その髪飾りを食い入るように見つめている。

その様子を見て、アズマリアがクスリと笑う。

 

「あなたも女の子らしいところがあるんですね?」

 

「なっ・・・別に・・・そんなんじゃ・・・。」

何か恥ずかしくなって、必死に否定する。

 

 

その後で、2人はひとしきり笑いあった。

 

「それじゃあ、私はもう行くわ。忙しそうだし。」

 

「ええ、わざわざお呼びしてすみません。」

 

「良いって良いって。幼馴染じゃないの。」

リエラが再び窓を開けた時には、髪の色は漆黒に戻っていた。

 

「それじゃあ、また来るわね。」

そう言ってリエラは姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから結局、駿二は館で一晩過ごしてしまった。

昨晩、館に通されてからは彼女らと雑談を繰り広げ、すっかり打ち解けてしまった。

 

そして今は、昨日の答えを出しに女王の部屋へと向かっている。

もう答えは決まっていた。

迷わず扉をノックする。

 

「はい?」

女王の声が聞こえる。

 

「駿二だ、入っていいか?」

 

「駿二ですか、お待ちしていました。どうぞ。」

返事を待ってから扉を開けて、中に入ると静かに閉める。

 

「では、駿二。早速ですが、答えは決まりましたか。」

 

「ああ、戦うならこの国で戦い。だからここにおいてくれ。」

それを聞いて女王の顔がパッと輝く。

 

「そうですか、ありがとうございます。」

そうなのだ、サレアやエルフィーと仲良くなってしまい、戦うならこいつらと一緒に戦いたいというのが彼の本音である。

たった一晩の付き合いとはいえ、彼女らを敵に回したくはなかった。

それが、この国で戦う理由である。

 

「では、今日からあなたをスピリット隊の隊長に任命します。彼女達を率いて、この国をどうか守ってください。」

 

「勘違いのないよう念のため言っておくが、あんたの配下につくわけじゃない。それと、不自由のない生活は約束してくれ。」

 

「もちろんです。それは私が保障しましょう。」

 

「後、住む場所なんだが、スピリットの館の方で構わないか?」

 

「ええ、分かりました。今度からはそこでお過ごしください。

後、生活に何かご入り用のものがありましたら、私に言ってくださればご用意いたします。」

 

「助かる。俺からは今のところこれだけだ。後は何かあるか?」

 

「特には・・・後で、必要な書類等を館の方に送らせますので。」

 

「分かった。それじゃ、邪魔したな。」

 

 

そう言って部屋を出ると、そこにはリエラがいた。

 

「何だよ?」

 

「私は、まだあなたを信用したわけじゃないから。それを言いたかっただけ。」

 

「だろうな。おまえは可愛げがなさそうだもんな。」

 

「失礼しちゃうわね。」

口喧嘩しながら歩いていく二人を見て、『意外に仲が良いのでは?』と思ったのはごく少数ではなかったそうな・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱりイースペリアにつくことにしたんだ。まあ、私にとっては彼がどこにつこうがどうでもいいんだけど・・・。」

 

『ねぇ、レイ。高みの見物ばっかしてないで、いい加減接触してみたら?』

 

『そうですよ。接触してみたからといって、別に不都合はないのでは?』

 

「そうね、そろそろ接触してみようかな。」

 

 

 

 

 

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あとがき

 

 

 

 

サレア・ブラックスピリット

 

イースペリアで一番、危険な戦い方をするということで有名なスピリット。

味方をも巻き込んでしまう攻撃を多数持っている。

彼女にとって、戦場で一番大事なのは任務よりも生き残ること。

勝てない戦いは決してしない、参加しない。

明るく朗らかで、誰とでもすぐに仲良くなれる性格。

スピリットを対等に扱ってくれるところを探して各地を転々としていたところ、イースペリアへ流れ着いた。

 

 

 

永遠神剣第6位・生存      契約者:サレア・ブラックスピリット

 

形状は刀。独特の技を数多く隠し持っている神剣。

彼女の戦い方には、この神剣が少なからず影響を与えている。

自我が非常に薄く、本能のみで動く神剣。

この神剣に魂を呑まれると、敵味方関係なく殺戮を繰り広げるようになってしまう。

 

 

 

エルフィー・ブルースピリット

 

ブルースピリットの中でも、攻撃の重さは随一。半端なバリアでは簡単に破られてしまう。

加えてスピードも、ブラックスピリットにも後れを取ることはないという強者。

駿二にあっさり負けたのは、光線弾によって少し焦ってしまったのが大きな原因。

本当は、今の駿二よりは強い。誰に対しても敬語を使うのは、それが素だからであって、

決して相手を持ち上げてるわけではない。料理の上手さは、イースペリアでも屈指の腕前。

知らない人には少し厳しいところがあるが、

いったん打ち解けてしまえば一転して、控え目な正確になる。が、決して気弱というわけではない。

 

 

 

永遠神剣第6位・海清      契約者:エルフィー・ブルースピリット

 

ブルースピリットが持つ神剣の中でも、かなり優れた部類に入る。

第5位にも匹敵する力がある。その場に水や海(津波)などを発生させることが可能。

癒しの力も持つ優れもの。他の第6位の神剣よりも自我がある。形状は剣。

 

 

 

リエラ???

 

ブラックスピリットというのは、仮の姿で本当は・・・・・・。その髪にはちょっとした秘密がある。

その神剣と合わせて本当に謎だらけのスピリットである。

因みにこの秘密を知っているのは、本人の他にはアズマリアただ一人。

 

 

 

 

 

 

ども、ホークネスです。オリジナルのサブキャラを2名ほど出しました。この2人のエターナル化は、今のところありません。

 

この作者が嫌いとするのは、ダラダラ・グダグダなストーリー。

やはり、パッパパッパお話は進んでいかないと・・・。

よってこのSSは、オリキャラ達があまり活躍しそうにない部分は、省略する予定です。

“設定”でも述べましたが、そこら辺はアセリアのゲーム本編で補ってください。

何か要望があれば遠慮せず、掲示板にてお願いします。この作品をより良いものにするためにも・・・。

 

第2話にて、駿二の日常を描こうかとも思ったんですが、

“孤独”をどうしても強調させたかったので、幼馴染などを出すわけにも行かず、

結果として書き手としても読み手としても退屈かなと思い、断念しました。

だから、あっという間にファンタズマゴリアへとお話を移すことに成功したわけです。