呼び出されて、召喚されて

 

 

 

 

 

 

 

 

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駿二は学校から家に帰って手洗いを済ますと、普段は封印してあるあの部屋へと向かう。

部屋の電気を点けて、一呼吸。

こぢんまりとした部屋の奥には仏壇があり、そこには駿二の家族の写真が飾られていた。

 

仏壇の前で、正座して静かに眼を閉じると黙祷を捧げた。

何を隠そう、今日は家族の命日なのだ。

普段は家族のことを忘れようとする駿二もこの日だけは、黙祷を捧げることにしている。

別に仏教を信仰しているわけではないが、例え死んでいるからといって家族を放っておくことはできなかった。

家族の為に自分ができることはもうないのかと考え始めたのが、今の儀式の始まりだった。

 

そのまま何事もなく部屋を出て、夕食を済ますはずだった。

が、黙祷を捧げている途中で何か身体中が、温かなものに包み込まれているような感覚に陥る。

 

(何だ?この感覚?ちょっと普通じゃない。何か起こってるのか?)

そう思いつつも、何故か怖くて眼を開けることができなかった。

 

「ぐっ!」

突然、頭の中が鋭い痛みに襲われる。その拍子に眼を開けてしまう。

 

「な、何だ?この光は!?」

そう、駿二を中心に部屋全体が電気とは明らかに違う光に包まれていたのだ。

 

「お、おい!何だよ!ぐあっ!ぐっ!ぐぁぁああああ!!」

 

(くそ・・・意識が・・・朦朧と・・・。)

光はどんどん輝きを増していき、駿二の身体を包み込んでいく。

光が消えたとき、駿二の姿もまた消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・い、・・・きろ・・・。起きろ!』

駿二は突然、女性の声が頭に響いてきたような気がして、はっ!と眼を覚ます。

 

「っ!!?ここは!?確か俺は・・・部屋で・・・。」

駿二が途惑うのも無理はない。

彼が次に眼を覚ましたのは、あの部屋ではなく森の中だったのだから・・・。

散々辺りを見回した結果、一つの結論に辿り着く。

 

「そうか、夢の中か。」

そう考えれば、納得がいく。

夢の世界なら何でもありだ。そういうことにしてしまえ!

 

『現実から眼を背けて何になる?認めろ、本当は分かってるはずだ。』

 

「声はすれども姿が見えず・・・。」

 

『足元だ・・・分かれ。』

ぶっきらぼうに受け答えする謎の声。

 

「足元?」

そう言って足元を見てみた途端、思考回路が一時停止する。

夢の世界か、否か。そんなことは忽ちどうでもよくなってしまう。

 

「お、俺をからかうのもいい加減にしやがれ!

今時、どこの世界にただの短剣が口を利くって言われて真に受ける奴がいるんだよ!?」

 

『真実だ。これだから現実主義者は・・・。』

 

「そんな答えが聞きたいんじゃねぇ!いい加減、俺をおちょくるのはやめて姿を見せやがれ!」

 

『姿なら見せている。第一、短剣は口を利かぬものと誰が決めた?』

 

「常識だ!バカたれが!」

 

『そもそも私は、短剣などというものではない。』

一気に場がしらけたような気がするのは気のせいだろうか?

 

「あの?短剣じゃなかったら何?」

とりあえず話の調子を合わせてやることにする。

 

『私は永遠神剣と呼ばれる存在だ。断じて短剣などと一緒にするな、人間。』

その口調に、いちいち人を突き放したような雰囲気が感じ取れるのは気のせいか?

 

「永遠神剣?」

 

『おまえの世界の言葉で説明すれば、永遠という字に神の剣と書く。文字通りの存在だ。』

 

「いや、分からんから・・・。」

その後、駿二に永遠神剣という存在を納得させるのにかなり時間がかかった。

 

『ハアハア、おまえの世界の人間は皆、ガチガチの現実主義者なのか?

永遠神剣の存在を説明するだけで、まさかこれほど時間がかかるとは・・・。頭が固すぎだ、バカが。』

 

「バカで結構。で、状況とかを説明して欲しいんだが?おまえなら、何か知ってるんだろう?

頬をつねってみても痛くない。認めたくはないが、ここは夢の世界の可能性はやや低そうだ。」

 

先程、頬を恐々つねってみて痛くないところを見ると夢ではないのだろうか?

頭の古い人間である。

 

『現実だ!何度も言わせるな!それに私のことをおまえなどと呼ぶな。私は永遠神剣第5位・千夜。千夜と呼べ。』

 

「変な名前。」

率直な感想である。

 

『神剣の名前など、皆似たり寄ったりだ。』

名前を貶されても、千夜は特に怒らない。

 

「分かったよ。千夜、まず俺にも分かりやすいように状況を説明してくれ。」

 

『信じられないような話かもしれんが、皆、真実だ。真面目に聞け。』

そう前置きして、千夜は語り始めた。

ファンタズマゴリアのこと、マナのこと、スピリットのこと、この世界の主な国々と今の情勢など。

必要な情報を全て渡すと、最後に自分の能力について説明して締め括る。

因みに、この世界の言葉は説明の一番最初に、知識として駿二に流し込んでおいた。

既にこの世界の言葉はしゃべれるはずだ。

 

「なるほどな。その話を事実と仮定して話を進めさせてもらうと、ここはいったいどこら辺なんだ?どこの国の領土にいる?」

 

『イースペリアという国の森の中だ。』

 

「そうか。んじゃまず、一番近い町にでも行ってこの世界に慣れよう。」

そう言って駿二は立ち上がった。

 

『待て。』

 

「ん?」

 

『おまえに用があるからこそ、ここまで親身になって説明してやったのだ?それぐらい分からんか?』

 

「それもそうか・・・。んで、俺に何か用でもあんの?」

 

『先程説明した契約というものを私として欲しいのだ。』

 

「断る。利点って言ったら、強大な力が手に入るってだけだろ?そんなもの俺はいらねぇ。悪いな。」

あっさりと断って、そのまま千夜を放って立ち去ろうとする。

 

『いいのか?』

 

「何が?」

 

『この世界は今、戦乱の真っ只中にある。いやでも自分の身を守る力くらいは必要だろう。

それが私と契約を結ぶだけで、手に入るのだ。それに加えて私は特に代償を求めない。

孤独感が拭えれば・・・それでいいのだからな・・・。」

 

最後の方は小さくて聞き取れなかった。

 

「それは・・・。戦争に巻き込まれない地域はないのか?」

 

『ない。大陸中が争乱の渦に巻き込まれる。』

 

「くっ・・・。」

それからしばらく悩んだ結果、駿二は思い切って契約を結ぶことにしてしまった。

不利益になるようなことはないと、千夜に言いくるめられたのだ。

 

因みに永遠神剣と契約さえ結ばなければ、戦場に立たされるという危険だけはなくなるという事実に、

駿二が最後まで気付かなかったことに安堵していた千夜であった。

せっかく召喚した契約者だ。みすみす逃がしたくはなかった。

 

「さーてと、俺はこれからどうすればいいんだ?特に当てがあるわけじゃないんだよな。」

 

『おまえは先程、近くの町に行くと言っていたではないか?それくらい覚えていろ。』

 

「うるせぇ!大体てめぇも俺のことをおまえとか呼ぶな!俺は秋坂駿二だ!いいな!」

 

『では、駿二よ。私が近くの町まで案内しよう・・・と言いたいところだが、どうやらお客だ。』

 

「そいつは素敵な響きだな。荒っぽいことにならなきゃいいんだが・・・。」

 

『それは分からん。どうするのだ?』

 

「こんなところで、下手に接触したくねぇな。

ここの世界は、俺のいた国とは根本的に常識が違うみたいだからな。

用心に越したことはないだろ?」

 

『そうか。では、接触は避けるのだな?だが、既に見つかっているようだ。真っ直ぐこちらに向かっている。』

 

「ああ、分かるぜ。どうだ?逃げ切れるか?」

 

『厳しそうだ。相手は一人だが、かなり動きが素早い。ブラックスピリットか?』

 

「ならば、隠れる!」

 

『正気か?闇ならば、私の気配は隠せるが相手は、同じく夜の妖精の可能性が高い。恐らく見つかるぞ。』

 

「くそっ!」

そうこうしているうちに、膝まで伸びた黒髪の少女が姿を現した。

 

(やべっ、バカやってねぇで逃げてりゃ良かった。)

 

「あ、いたいた。やっと見つけたわよ。服装を見たところやっぱり、私の想像通りエトランジェみたいね。」

 

「こ、こんにちは・・・。」

早速この世界の言葉を恐る恐る使ってみる。

 

「早速で悪いんだけど、私についてきてくれない?」

 

「ま、待てよ。君は誰だ?俺をどうするつもりだ?それも分からずに、ひょこひょこついて行けるわけないだろ?」

 

「それもそうね、私はイースペリア所属のブラックスピリット、リエラよ。あ、ブラックスピリットって分かる?」

 

「ああ、この世界のことはあらかたこいつに聞いた。」

駿二は短剣を見せ・・・かけて止めた。まだ、味方かどうか分からないのだ。

下手に情報をやるのは不味い。

 

「ふふふ、そんなに警戒しなくても大丈夫よ。今の所、どうこうするつもりはないから。」

 

「で、俺をどうしたいんだ?」

 

「イースペリアに連れて行って、女王に会わせたいのよ。

エトランジェを他国にやるわけにはいかないから、できるだけ確保・・・ああ、言葉が悪いわね。

要は味方に引き入れておきたいのよ。分かる?」

 

「ふーん。」

適当に相槌を打つも心の中では、全く別のことを考えていた。

 

『戦うのか?駿二。相手はおまえよりも強いぞ?』

 

(ちょっと戦っておこうかなってね。いや、怖いけどさ。どうせ巻き込まれんなら、

実戦経験はできるだけ積んでおいた方が、後々の為になるだろ。

それにいざとなったら、ギブアップ宣言を出せば、まさか殺されることはないだろ。)

 

『なるほど、それもそうだな。私の扱いにも慣れておいた方がいいだろう。』

 

「悪いな、俺はイースペリアに下るつもりはないぜ。」

これは本音だ。俺はあくまでも自由だ。

誰かに従ったり、挙句の果ては戦争に巻き込まれていくのは嫌だ。

無様に逃げ続けた方がはるかにマシである。

 

「どうしても?」

リエラがスッと目を細める。辺りの気温が一気に下がる。

 

「ああ、戦場に立つ気はないんでね。」

ここまで来て、駿二は急に怖くなった。

あれだけ格好つけても、やはり下手したら殺されるわけだし、それ以前に痛い思いはしたくない。

 

(俺ってバカかもしんねぇ。何、格好つけてんだ?)

 

『あれだけ格好付けておいて、情けない。一回くらいは戦っておいた方が良いだろう?

いざという時、戦いに慣れていなかったら命を落とすぞ?』

 

「だってよー・・・。」

言葉が続かない・・・。

 

「最後にもう一度だけ確認しておくけど、素直に私についてくる気はないのね?」

リエラが最後通告を突き付ける。

 

「うるせぇ、さっきから!少しは黙ってろ!・・・・・・っあ!・・・いや・・・これは・・・えっとぉ・・・。」

駿二は慌てふためくが頭がパニくっていて、何て訂正したらいいのかとっさに思いつかない。

 

「悪いんだけど、イースペリアの為にどうしてもあなたを他国に、みすみす渡すことはできないのよ。

断るのなら、力づくでも連れて行かせてもらうわ。」

 

リエラは腕をスッと伸ばすと、その手に剣を出現させる。

駿二は口をパクパク動かしてるだけで、何もできない。

 

「峰打ちだから。」

リエラはその素早さを生かした、瞬速の居合い切りを放ってくる。

だが、駿二もエトランジェ。とっさに、何とか身を反らしてかわす。

リエラは何も言わずに、そのまま斬り下ろしてくる。

この体制ではかわせない。

駿二は千夜で何とか受け止める。

 

キィン

 

「とっさの判断でここまでやるなんてね。これは鍛えれば化けるかもね。」

しゃべってる隙を突いて間合いを取る。

あの場で攻撃に転じても、軽く弾かれてしまうと思ったからだ。

だが、すぐに間合いを詰められる。

 

「ま、待て!落ち着け!」

 

「?」

リエラは頭に疑問符を浮かべるも攻撃の手を緩めない。

一度戦闘に入ったら気を抜くわけにはいかない。

 

『戦ってみたかったんじゃないのか?』

 

(るせ!それどころじゃねぇだろ!)

 

『いいから倒してみろ。力をつけねば何のために契約したのか分からんぞ?』

 

(くっ!)

リエラの一閃をギリギリのところでかわす。

 

『逃げてばかりでは戦いにならんぞ?これでは先が思いやられるな。』

駿二も決して、臆病者というわけではない。

いい加減腹を括ることにする。

あの少女を倒す以外に道はなさそうだ。

 

(しゃーねー、やってやるよ!サポートしてくれ、千夜!)

 

『心得た。まずは逃げるのを止めるのだ。』

 

(ったりめーーだ。攻撃に転じるからサポートしろって、言ってんじゃねーか。)

 

『そうだな、まずはあの妖精の攻撃を薙いで隙を作ってみろ。』

 

(まあ、基本戦術だな。)

だが、このリエラという少女。相当戦い慣れしているようだ。

隙を作らないよう、流れるような動きで剣を操っている。

加えて、こちらの攻撃の軌道を上手く誘導しているようにみられる。

千夜のサポートがなかったら、とっくの昔にやられていただろう。

 

「多少はできるようね。そう来なきゃ、招待する意味がないわ。」

 

「良く言うぜ。強引に連れてこうとしてる奴が。」

 

「でも、まだまだ動きがぎこちないわよ?」

 

「うるせーよ、これが俺の初戦闘なんだよ。普通に戦える方がおかしいだろうが。」

 

「そうかもね。でもこれから嫌でも戦いの力が身についていくわよ?あなたも一応エトランジェなんでしょ?」

ついに駿二の方に隙ができてしまった。

 

「しまっ!?」

 

「もらった。」

リエラの剣が、唐突にスティックに変化して瞬速の勢いで伸びていく。

向かう先は、駿二の鳩尾。

 

『不味いぞ、気絶させるつもりだ。』

千夜も警告してくる。が、この体制ではとてもかわせないし、防ぐこともできない。

 

ズドーーーン!!

 

見事にヒット!

 

「があっ!」

駿二が後方に吹っ飛ばされて、木の幹に叩きつけられる。

 

「やるじゃない、とっさに後方に跳んでダメージを少しでも軽減しようなんて。」

ギリギリのところで意識を繋ぎとめることに成功。

だが、あまりの激痛に身体が痺れて動けない。

 

「終わりね。」

リエラがすぐ目の前でスティックを構える。

 

『どうする駿二?このまま負けて終わるか?』

 

(そう言われっと、意地でも負けたくねーな。)

 

『動けない状態でも一つだけ手があるぞ?バリアを張って、直撃を防ぐというものだ。』

 

(バリア?)

 

『そうだ。今から私の言う通りにイメージしてみろ。』

 

(分かった、頼む。)

リエラがスティックを突き出してくる。

 

ナイトロックバリア!!」

 

ピキィィィーーーーン・・・・・・

 

バリアが駿二の全身を包み込んで、リエラの攻撃を見事に防ぐ。

 

「なっ!?」

さすがに驚いたようだ。その隙を突いて、千夜を一閃する。

 

シュキィィィーーーーン

 

リエラはウィングハイロウを展開して、空へ逃げる。

 

「飛べるのかよ!?何だありゃー!」

 

『あれが、さっき説明したウィングハイロウと呼ばれるものだ。』

 

「へぇー、あれが・・・。」

リエラはスティックを剣へ戻すと、そのまま急降下してきた。

それだけではない、剣自体が鋭い光を放っている。

 

『かわせ!』

千夜がとっさに指示を出す。

この攻撃の前にバリアは無力であることを悟ったのだ。

直撃を受ければ即死だろう。

恐らくバリアを張ると見越して攻撃に転じたのだろうが・・・。

 

「くっ」

 

キュドドドーーーン!!

 

物凄い音がして、大爆発と共に大きなクレーターができる。

それを思い切り大地を蹴って、何とかかわす。

だが、読まれていた。そのまま横に一閃。

 

「グホォッ!」

またもや吹っ飛ばされる。

リエラが吹っ飛ばされていく駿二に、容赦のない追撃を仕掛けてくる。

 

「がぁっ!」

何太刀か入れられて、地面に叩きつけられる。

再びスティックに変化させると、そのまま間髪いれずに鳩尾にクリーンヒットさせる。

 

「ぐぼぁっ!」

血の塊を大量に吐くとそのまま気絶してしまう。

勝敗は決した。

リエラはそっと屈みこんで、静かに駿二を見る。

 

やがて駿二を抱えあげると、そのままイースペリアに向かって帰還した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その様子をはるか遠いところから、そっと見ていた者がいた。

 

「この世界に召喚されて、無事神剣と契約できたみたいね。」

 

『ここまではシナリオ通りだね、レイ。』

 

『戦いというものに縁のない生活を物心つく前から送ってきたのに、なかなかやると思いませんか?』

 

「まあ、潜在能力はそこそこありそうだけど、私から見ればまだまだね。」

 

『厳しいんですね。』

 

『これからどうするの?』

 

「もう少し様子を見ようかと思うのよ。いずれは接触してみるつもりだけど。」

 

『彼はこの後どうすると思う?イースペリアにつくのかな?』

 

「まあ、見てれば分かるでしょ。」

 

『そうね。テムオリン達も駿二の存在に気付いたかな?』

 

「まあ、どっちにしろ捨て置いて構わないわ。邪魔になったら消しても問題ないし。」

 

『まあ、あなたほどの力の持ち主なら一人でも十分実現できますしね。』

 

『このままシナリオ通りに行くといいね。』

 

「ええ。」

 

 

 

 

 

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あとがき

 

 

 

 

いやあ、小説書くのって意外と大変です。設定と実際の性格に多少ずれが合ったりなかったり・・・。

感想なんかあったら、遠慮せずにどんどん掲示板に書き込んでくれると嬉しいです。

今後の参考にもなりますので・・・。って言っても来るのかなぁ・・・。

まあ何はともあれ、今後ともよろしくお願いします。