最強のエターナル

 

 

 

 

 

 

 

 

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――とある世界にて――

 

 

 

 

「ふははははははは!ついに見つけたぞ、レイ!」

大剣を背中に担いだ男が、レイと呼ばれた少女に不敵な笑みを投げつける。

 

「またか・・・。あなたも相当しつこいわね。」

レイは心底うんざりしたように眼を瞑る。

すると男は不満そうな顔を浮かべた。

 

「またとは何だ!そりゃー、ちょっとは・・・しつこいかもしれないが・・・。」

 

「あら、自分で自分のことが良く分かってるじゃない。それで、何の用?」

レイがクスクス笑う。

 

「言われずとも分かってるはずだ。」

男はキザに前髪を掃うと、大剣をゆっくりと構える。

 

「もういい加減諦めたら?あなたじゃ、どうがんばっても私には敵わないわよ?

いい加減うんざりしてきたんだけど?」

 

「そうはいかん!これは俺とこいつの長年の悲願なのだ!

最強のエターナルである貴様を倒せば、俺達が最強のエターナルとなれるのだからな。」

その言葉を聞いて少女は額に手を当てる。その動作も優雅で凄く可愛らしい。

 

「これだから、名が知れると面倒なのよ。こういう輩が出てくるから・・・。」

 

(いい加減、消そうかしら?)

レイのそんな心理など知る由もなく、気楽に剣を構えている男が目の前にいる。

 

『ドンよ・・・。』

男の大剣がいきなり口?を開いた。

 

(何だ?闘鬼?)

 

『何も言うまい。今日こそは、我らが宿敵レイを倒そうぞ!』

 

(そうこなくっちゃな!さすがは俺の相棒だぜ。)

 

「行くぞ、レイ!」

ドンと呼ばれた男が大地を蹴って、一瞬で間合いを詰める。

少女は何をするでもなく、自分に迫り来るドンの太刀筋をただ見つめる。

 

ザンッ!

 

が、剣が少女を捕らえることはなかった。そこには既に何もない。

 

しかしドンの一連の動きも、並のエターナルにはその眼に捉えることすら出来ないだろう。

だが、ドンの動きがまるで止まって見えるかと思えるほど、少女の動きはそれをはるかに圧倒した。

天と地、いや・・・赤子と上位のエターナル以上の開きがそこにあった。

たったこれだけのことでも、圧倒的な実力差を窺い知ることが出来る。

 

「くっ!」

悔しさに、ギリッ!と歯を鳴らす。と首筋に何かが触れているのが今頃分かった。

 

「駄目だって。私にただ突っ込んでくるだけじゃあ。いったい、私と何度剣を交えたのよ。」

首筋に手が宛がわれていた。

ドンと違い、レイは余裕そのものだ。

これでもまだ全然本気を出していない。

 

「くそぉっ!」

少女が攻撃してこないのを悟ると、後ろに跳んでいったん間合いをとる。

 

「うぉぉおおおおおおお!!影写分身!」

忍者で言う分身の術を発動させて、13体もの己の分身を造る。

「くくく、ただの分身だと思うなよ?1体1体が、俺と同等の力を有しているのだ。どうだ?凄いだろう?」

本体と合わせて14人のドンに囲まれても、表情一つ変えない。

 

「なるほどね。つまりあなたは、これで私を倒せると?」

 

「いいや、勝利への布石にするのだ!」

ジリジリと間合いを詰めていく。

 

「行ける!行けるぞ!今日こそ俺の勝利だ!俺が最強となるのだ。」

キザに前髪を掃ってポーズを決める。

 

「行くぞ!オーラフォトンスコールーーー!!

ドンが闘鬼に強大なオーラを溜め始める。

それに倣って分身もオーラを展開する。

第2位永遠神剣・闘鬼としての力が実質14倍。

いかに強大なオーラかが分かるだろう。それでもレイは表情一つ変えない。

「食らえーーー!!」

 

ズッガーーーーン    ズドドドドドド―――――ンン!!!!

 

「ゼイゼイハアハア、ど、どうだ?」

この技は、かなりの体力を要する。

激しい消耗を伴うが、それに見合う威力が期待できる。

凄まじい爆発がレイを包む。

煙でレイがどうなったのかは分からない。

だが例え、第1位の神剣だろうが、気は抜けない・・・はずだった。

 

「な・・・にぃ?」

さすがに動揺を隠しきれない。

それもそのはず、レイは余裕の表情で立っていたからだ。

しかも無傷で。バリアすら張っていない。

 

(何もせずに・・・これだけの破壊力を有した技を・・・無傷で・・・だと?)

 

「くっ!」

いつの間にか、分身が姿を消している。そしてすぐ目の前に、レイが微笑を浮かべながら立っていた。

 

「俺の分身が・・・。」

 

「私が消したよ?どうする?まだ続ける?」

 

ドサ!

 

ドンが手と膝を大地につく。言われずともドンが勝負を放棄したのは明らか。

 

「そう、それじゃ私はやることがあるから。またね。」

 

「待てよ・・・。」

 

「何?勝負はついたように思うけど?」

 

「何故、神剣の力を使わなかった?俺を・・・バカにしているのか?」

 

「気にしすぎよ。使おうが使うまいが、結果は同じでしょ?」

そうなのだ、レイは一度も神剣の力を使わなかった。使わずとも、その力は圧倒的なのだ。

 

 

「俺が納得いかねぇんだよ?今度は神剣の力を使ってやりやがれ!」

 

「使わなくても勝てないのに、使っちゃったら尚更敵わないんじゃないの?」

 

「使って戦えよ!俺への最低限の礼儀だと思え!」

カットなって思わず怒鳴る。

 

「何であなたに礼儀を払わなければならないのかしら?」

 

「いやでも使いたくなるようにしてくれる!もう一勝負だ!」

レイは深く溜息をつく。

この男を生かし続けてる自分が、バカらしく思えてきたのは気のせいだろうか?

まあ、別に怒るようなことでもないし、この程度でキレるほどレイの心は狭くない。

しかし、うざったいのは確かだ。

 

「ぐっ!」

突然、何の前触れもなしにドンの身体が動かなくなる。

 

「レイ、貴様・・・何をした!?」

 

「ちょっと邪魔になったから、いったん消えてもらうだけ。」

あくまで明るく答えるレイ。

 

「!!?・・・殺すのか!?」

 

「大丈夫、保険かけてあるんでしょ?」

 

「気休めにも・・・ならんな。貴様の前では・・・どんな不死の力も意味をなさないではないか?

貴様に対して、不死の力は無力であること・・・俺が知らないとでも?」

 

「その点は心配しないで。今回も見逃してあげるから。この世から永久にお別れ・・・なんてことにはならないわよ。」

我ながら、自分の心の広さに恐れ入る。とっくの昔に消し去ってもおかしくなさそうなのに・・・。

 

「くっ、おのれ!おい、闘鬼、何とかしろ!」

 

『不可能だ・・・我も何もできぬようだ。すまない。』

 

「く、くそぉっ!」

 

「それじゃあ、さようならー。」

手を振っているレイが一瞬だけ眼に映る。ドンは一瞬でマナへと還って逝った。

あまりにもあっけなさ過ぎた。

 

「ふぅーー、さてと。それじゃあ行きますか。」

 

『いよいよですね、レイ。』

大人しい雰囲気の感じられる、女性の声がレイの頭の中に響いてきた。

 

「そうね、もう十分時は来た。後、後もう少し・・・後もう少しで・・・。」

レイは眼を閉じて感慨に耽る。次に眼を開いたときには、確固たる決意を秘めた眼差しがそこにあった。

 

『絶対に成功させて、レイの夢を叶えようね!』

今度は明るい少女の声が響いてくる。

時はもう十分だろう。舞台となる世界ももう選定してある。

 

『レイの見た未来の通り、もうじきテムオリンが動くはずです。』

テムオリン・・・会ったことはないが、一応名前だけは聞き及んでいる。

ロウの中でも、かなり高い地位にいる少女だ。

 

「またあそこに行くのか・・・。それにしても、あの娘も懲りないわねー。」

 

『まあ、仕方ないんじゃない?あの時の事は、事実から抹消しておいたはずだし。

そのお陰でまた振り出しに戻ったのよ。なかったことになってるんだから。』

 

「ま、それもそうね。」

レイははるか遠い遠い別世界・・・後にファンタズマゴリアと呼ばれる世界の様子をこっそり窺う。

ついでにテムオリン達の様子も確認しておく。

 

「別に今すぐどうこうなるわけじゃないみたいね。」

 

『あそこが舞台で良いのですか?』

その口調は、心配と言うよりはあくまで最終確認を取ってるかのようだ。

 

「ええ、大丈夫。それにいざとなったら、私が動けばいいんだし。」

 

『そうですね。あなたに不可能なことはありませんから。』

 

「あの時、見た未来。着実に現実になってるわ。あの時に、手を出しておいて正解だったわね。何でも行動してみるものね。」

長い銀髪を優雅に耳の後ろに引っ掛けて、空を仰ぎ見る。

 

「さ、行こ?流星、時空。」

 

『ええ、あなたの思うままに。』

 

『ありえないとは思うけど、途中で諦めたりしないでよ?』

 

「私を誰だと思ってるのよ?一度でも諦めたりしたことがあったかしら?

それに私に出来ないことなんてないでしょ?こんなささやかな願い、叶わないわけないじゃない。」

 

『そうね、失礼しましたー。』

 

「まったく・・・。」

腰に手を当てて眼を閉じたかと思うと、次の瞬間にはこの世界から姿が消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―時は今より10数年前

             ファンタズマゴリア―

 

 

 

 

「くくく、時は満ちた。全てをあるべき姿に戻すため、この世界にはマナに変わってもらおう。」

男は邪悪な笑みを浮かべると、永遠神剣らしき物体を掲げる。

他にも10人以上のロウエターナルが、どこからか集めてきた神剣を【永遠神剣第2位:再生】へと捧げている。

再生のマナがどんどん暴走していく。

 

ピィィーーン  ピィィーーン

 

辺りが激しく振動を始める。危険な兆候だ。

 

「さあ、早々に撤退せねば巻き込まれるぞ!」

 

「へい。」

後はもう逃げるだけと、撤退を開始しようとした瞬間、何者かが突如姿を現した。

 

「困るんだなー、今この世界が消えると・・・。」

 

「何者だ!?我らの邪魔をするのか!?」

ロウ達がすぐさま、神剣を構えて戦闘体制に入る。

 

「まあ、あなた達から見ればそういう事になるかな。」

 

「見ぬ顔だな?新人のエターナルか?ならば止めておけ。犬死だぞ?

我らは成りたてのエターナルに負けるほど弱くはない。」

 

「関係ないんじゃない?成り立てのエターナルだとか、無名だとか・・・。

いつまで経っても弱いままのエターナルもいれば、

成り立ててでもベテランと対等に渡り合えるエターナルもいるわよ?」

 

突如現れた少女は、あくまで余裕の表情を崩さない。その態度が男達に火を点ける。

 

「舐めやがって!身の程を弁えなかったことを後悔しながら、死んで逝きな!」

それがそのまま、男達の遺言となった。瞬きする暇もなかった。

因みに少女が動いた気配もない。

 

凡人には何が起こったのか、全く理解できないだろう。

一瞬で神剣ごと、マナへと還元されているのだ。

 

この少女が戦うのも面倒な時に、よく多用する。

エターナル達にとって恐るべき技である。

ついでに魂も完全消滅する。つまり相手が、不死者でも問答無用である。

しかし、所詮この技は少女にとっては自分の力のほんの一部に過ぎない。

不死者を破る手段など彼女にとってはいくらでもある。

いや、全ての技が不死者にも通ずると言うべきか・・・。

 

『もう、終わっちゃったわね。相変わらずあっけなさ過ぎる相手ばかりというか・・・。』

 

『本当ですね。この程度、力を出してるうちに入らないのですが・・・。』

 

「まあ、仕方ないわよ。弱い者は弱いんだし・・・。」

 

『これで、この世界もしばらくは安泰ですね。』

 

「そうね。まあ大した労働でもないし、手を出しておいて正解ね。」

 

『あはは、普段は能天気で面倒臭がりで、それで・・・。』

 

「うるさいわね!」

 

『レイ・・・あなたが夢見た未来・・・絶対に叶えましょうね!』

 

「そうね。ま、それでもここが近い将来大事な舞台になるようだから、とりあえず破滅は阻止しておいたけど・・・。」

荒れ狂う神剣(再生)は、いつの間にか落ち着いていた。レイのお陰だろう。

 

『ま、そんな面倒な作業でもなかったしね。これで正解だったと思うよ。さあ、もう帰ってのんびりしようよ。』

 

「その前にもう一仕事かな。」

 

『もう一仕事って?』

 

「私が永遠に安息の日々を得るための条件って、何だったっけ?時空?」

 

『あ・・・そうか・・・。このままじゃあ・・・。』

 

「そういうこと。テムオリン達も果てはカオスまで、ここで起こった事件の真相の究明を始めるでしょうね。

そうなったら、私のところまで辿り着くのは時間の問題ってわけ。

相手はエターナルなんだから。カオスはともかくとして、ロウは放っておかないわよ?

血の気の多い連中ばかりなんだし・・・。連日、バカな連中の相手をし続けるのだけはごめんだから。」

 

『ここでの出来事を全ての歴史から抹消しておきましょう。永遠の闇に葬るのです。私達だけがそれを知っている・・・ということになります。』

 

「それなら一安心かもね。それじゃあ・・・。」

 

 

 

 

 

「さてと、これで良し。これで今のところこの世界に用はないわね。」

 

『私達のエデンの園で、のんびりと時が来るのを待ちましょう!後、10数年。すぐですよ?』

 

「私達にしてみれば、10年なんてあっという間だもんね。でも、待ち遠しいな。こういう時に限って長く感じるものなのよ。」

レイは何かに待ち焦がれてるような、うっとりとした表情を作る。恐ろしいほど色っぽい。そして、そのままこの世界から消えていった。

 

 

 

 

 

この事実はレイの力により、エターナル達の間ですらなかったことになり、事実上、歴史上から抹消された。

そして時は流れる・・・・・・。

 

 

 

 

 

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あとがき

 

 

 

 

ジェイク

 

10数年前のファンタズマゴリアの世界を消滅させようとした張本人で、テムオリンの部下の一人。

タキオスとほぼ同等の力を持っている。完全な実力主義で、

世は力ある者が動かすものと堅く信じ込んでいる。

かつてテムオリンと戦い、その力の前に敗れて以来、

彼女の下につくという条件で殺されずにロウエターナルとなる。

上司のテムオリン以上に頭がキレ、迅速に任務をこなすということで彼女一番のお気に入りだった。

現にファンタズマゴリアも信じられないスピードで、一気に崩壊寸前まで追い込んだ。

レイの手にかかって殺され、歴史上からその存在自体が抹消させられてしまう悲劇の人。

 

 

 

永遠神剣第2位・還元      契約者:ジェイク

 

大量に集められた神剣からマナを吸い取り、再生に注ぎ込んだのはこの神剣の力によるもの。

第2位の中では下位に属するが、ジェイクはこの神剣を自由自在に使いこなし、

限界ギリギリまで力を引き出すことができる。ドスの利いた男?の声で話す。

形状は大き目の槍。レイによって、ジェイクと共にこの世から抹消させられてしまう。

 

 

 

 

 

 

ドンは脇役です。一応設定に乗せただけです。ジェイクは、物語の展開上再登場はしないと思います。

駿二達が登場するのは、次からです。次回も是非読んでみてください!お願いします。