出会い

 

 

 

 

 

 

 

 

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ベッドの中で、美しい青黒い髪を持った少女が静かに横たわって寝ている。

 

その傍には1人の少年が、ベッドの中で眠っている少女の顔をそっと覗き込んでいる。

 

「・・・姉さん・・・。」

少年が呟く。

 

大好きな姉と2人っきりになれたのは確かに喜ばしいことだが、肝心の姉がこの調子では・・・。

 

何とかして、姉を目覚めさせる方法はないのだろうか?

 

姉が“宿命”の力を受け入れさえすれば、長い眠りから覚めてくれそうだがその方法が分からない。

 

それに、宿命を受け入れるということは、宿命と精神を同調させるということだ。

それは、更なる力を引き出すということに他ならない。

姉がそれを望むとは、とても思えなかった。

 

姉を眠りから覚ましてあげたい。

その思いは、同じく長い眠りについている宿命にも届く。

それは、宿命の望みでもあるのだ。

 

キィィィィーーーーーーーン

 

長い間、何の反応も示さなかった宿命が、微かに輝き始める!

 

「宿命?」

少年が驚いた調子で言葉を口にする。

 

『ミュー・・・ギィ・・・。』

宿命がまるで寝言のように呟く。

 

ミューギィの身体が宿命の放つ光に包まれていく。

 

「姉さん!?」

少年・・・いや、トークォは心配そうに身を乗り出す。

 

キィィーーンキキィィーーン

 

宿命がなおも光を放ち続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女はその日、夢を見た・・・。

 

 

 

とてもはっきりしていて、妙に現実感のある不思議な夢を・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チュンチュン・・・チチチチチチ・・・

 

小鳥のさえずりが辺りに響き渡る。

 

深い森の中で、微かに太陽の木漏れ日が地面に落ち込んでいる。

 

「う・・・んん・・・。」

その森林の中の、やや開けた場所にミューギィは倒れていた。

時折苦しそうに声を漏らすが、起きる気配はない。

 

 

 

ザッザッ

 

 

 

草を踏みしめる音が聞こえてきた。

誰かが近づいてくる。

 

だが、ミューギィが目を覚ます様子はない。

 

 

 

やがて、足音の持ち主がミューギィのすぐ傍までやって来た。

 

「ん、女か・・・。」

こんな森の中で、少女が1人ポツンと倒れていることにも特に驚いた様子はない。

男は、ミューギィの顔をマジマジと見つめる。

 

(姉さん・・・。)

思わず、今は亡き姉の姿を思い浮かべてしまう。

髪の色こそ違えど、その他は姉に瓜二つだ。

 

「ちっ。」

男が頭をワシワシとかく。

 

普通なら放って帰るところだが、ミューギィに姉の姿を重ねてしまった彼は、見捨てていくことができなかった。

昔っから、姉に弱いのは自覚していた。

それは、今も変わらないのか?

 

男は、躊躇せずガバッとミューギィをお姫様抱っこする。

 

「ん・・・。」

ミューギィが無意識のうちに声を漏らす。

 

物凄くバカなことをしているのでは?と考えずにはいられなかった。

思わずミューギィを放り投げてしまいそうになる。

その瞬間

 

『待ちなさいよ、ミューギィに乱暴は許さないわよ!?』

 

「永遠神剣か?」

男は特に驚いた様子もなく、彼女が指にはめている指輪を一瞥する。

 

『ええ、そうよ。一度助けると決めた以上、最後まで成し遂げなさいよ。

それどころか、か弱い女の子を放り投げるなんて、一体どういう神経してるのよ!?それでも男なの!?』

 

言いたい放題言ってくる神剣である。

実に気に食わない。

 

「俺が男か否か、関係あるのか?つまりおまえは、何だかんだ言いがかりをつけて俺に助けさせようとしているわけだ。違うか?」

 

『うっ!』

 

「この女、姉さんの面を借りやがって。気に入らねぇな。殺してやろうか?」

 

『できるのー、あなたの大好きな姉の顔をしているんでしょ?』

 

「貴様、俺の心をどうやって覗いた?」

 

『永遠神剣だから♪』

男は、ミューギィの顔を見る。

見れば見るほど、姉の姿を思い浮かべてしまう。

 

『本当に、姉が好きだったのねー。』

 

「貴様、次に俺の心を覗いたら粉々に破壊してやる。」

 

『できるかしら?』

・・・無理だろう・・・。

 

太陽の光がほとんど届かないこの森の中では、男の永遠神剣は本来の力を発揮できない。

 

「ちっ、覚えてろ・・・。」

 

 

 

家に帰る道中、何度もミューギィを捨てていこうとしたが、遂にできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!!?ここは!!?」

ミューギィは、ガバッと身体を起こす。

 

 

わらで作られた貧乏感丸出しのベッドに寝かされていたのだ。

 

「ようやく起きたか、女。」

いかにもオンボロな部屋の、いかにもオンボロな戸から紫色の髪を持った少年が入ってきた。

 

「あなたは!?」

 

「ガイ・シルド。まあ、覚えなくても問題ない、女。」

 

「その呼び方はやめて。私はミューギィ・・・。」

その途端、ミューギィは頭を抱える。

 

「・・・思い出せない・・・名前以外、何も思い出せない!私・・・私は!?」

 

「記憶喪失か。まあ、起きたんなら家から出ていきな。後のことは俺には関係ない。」

それに黙っていられなかったのがいた。

 

『ちょっと待ちなさいよ!ミューギィに行く当てなんてあるわけないでしょ!?』

 

「この声は!?」

ミューギィが突然の声に驚く。

 

『ああ、ミューギィ・・・“宿命”って聞いて・・・何か思い出さない?』

 

「宿命・・・何だろう・・・知ってるような気がする・・・。」

 

『私は、それの分身みたいなもんだから。ちょっと違うけど、そう覚えておいて。』

 

「でも・・・この声・・・どこから?」

 

「話をするのは構わないが、外に出てからやれ。」

ガイが冷たく言い放つ。

 

『記憶喪失の少女を1人、外に放り出そうっての?酷い男ねー。助けてあげようって気にはならないの?』

 

「もう、助けてやった。」

 

「助けたって・・・私を?」

 

「森の中で倒れていたおまえをここまで運んだのは俺だ。」

 

「そう、そのことについてはとりあえずありがとう。でも、何だかあなたって・・・ううん、何でもないわ。」

冷たいのね、という言葉を何とか喉元で抑える。

 

「とにかく、おまえの顔を見ると落ち着かない。早く出て行け。」

ミューギィは一瞬目を丸くするが、すぐにクスクスと笑い出す。

 

「落ち着かない?それって、ひょっとして私に気があるってことかしら?」

 

「戯言を・・・。そう言う意味ではない。」

 

「ま、どちらにせよ、私の好みのタイプじゃないから。って、あ、ごめんね。本当に私のこと好きだったんなら・・・。」

 

「好きに解釈しろ。俺にとっては、どうでもいいことだ。」

 

「そうねー、私の好みのタイプは・・・優しくて、思いやりがあって、それでいて頼りになる人。」

 

「いや、聞いてないから・・・。」

 

『ガイとは正反対のタイプねー。』

 

「何だ?その程度で俺を挑発しているつもりか?」

 

「あら、怒らないんだ?」

 

「おまえらが、俺をどう思おうがどうでもいいと言っている。」

相手にするのに疲れたガイは、振り向きもせずにさっさと部屋を去ろうとする。

 

「ねぇ、待って。」

それをミューギィが呼び止める。

ガイは、黙って立ち止まる。

 

「私さ、何だか記憶がないみたいだから、ここの世界のこと・・・全然分からないのよ。

それで・・・頼れる人もいないし・・・知ってる人って言ったら、あなたしかいないのよ。だから・・・いろいろと教えてくれないかな?」

 

「断る、面倒だ。」

 

「どうしても・・・駄目?」

 

「駄目だな。」

 

ミューギィガイにはあなたの顔が一番の武器になるわよ。』

小声でヒソヒソ話をする。

 

「え?それってやっぱり、私に気があるってこと?」

 

うーーんちょっと違うかなガイは姉さん好き好き人間だから今は亡き姉にそっくりのあなたを放っておけずに助けたのよ。』

 

「聞こえているぞ?」

だが、2人とも軽く無視。

 

「へぇー、そうなんだ。これは良い事聞いちゃった♪」

 

『さあさ、その顔で迫ってみなさい♪』

ガイが思わず、逃走を試みようとしたその時。

 

「おーい、ガイ。総大将殿がお呼びだ。すぐに例の場所へ!」

外から声がかかる。

 

「分かった、すぐ行く!」

ガイにとっては思わぬ助け舟だ。

ミューギィを放って、外へと飛び出した。

 

「あ、しまった。余計なところで邪魔が・・・。」

 

『追いかけなさい、ミューギィ。たぶん当分の間戻ってこないと思うから。そうなったら、困るでしょ?』

 

「え・・・ええ。」

慌ててミューギィも、ガイの後を追う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会議室のような部屋に、数人が椅子に腰掛けていた。

 

 

 

腰に立派な剣を挿した女性が、ガイを出迎える。

一際威厳のある服を着ていることから、この人が総大将だろう。

 

だがその女性は、威厳とはおよそかけ離れた優しそうな顔立ちをしていた。

かなりの美人に入るだろう。

 

「ガイ、来ましたね。早速ですが、任務です。第2支部へこの書類を届けて欲しいのです。」

 

「第2支部といえば、帝国の領内じゃないですか?いよいよ、会戦ですか?」

ガイの顔が狂気を帯びる。

その顔には憎しみが込められている。

 

「もう十分に準備は整いました。各国に潜ませている同志にも、連絡を走らせています。いよいよ、打倒帝国の旗を掲げる時です!」

 

「くくく、帝国に恨みを晴らすときが遂に来たと言うわけか・・・。」

ガイの住む町は、その昔帝国の支配を蹴って戦争になり、激戦の末敗れ去った。

その時に大勢の死者が出たため、この国には帝国を憎むものが大半を占める。

 

帝国の支配を断ったがために、この町と同じ末路を辿った国や村落も多い。

帝国は、支配欲旺盛な国だった。

 

そんな国や地域の人々が集まり、一つの大きな組織を作り上げたのである。

帝国に見つからないよう、コッソリと力を蓄え続けてきたひたむきな努力が、遂に実を結んだのである。

 

「ガイ、1人で無茶はしないように・・・。これは、総大将としての命令です。

あなたの任務は、これをあくまでも第2支部へと届けることです。危険な任務になりますが、あなたなら大丈夫でしょう。できますか?」

 

「もちろんですとも。その任、承りました。」

礼儀正しく跪いて、その書類を受け取る。

 

 

 

「ガイが礼儀を知っていたなんて・・・。」

ここに来て初めて、皆がミューギィの存在を認識した。

 

「貴様!後をつけていやがったのか!!」

 

「だって・・・。」

その時、ズイと1人の大男が2人に迫る。

 

「おいおい、ガイちゃんよ?そのお荷物はあんたの彼女かい?」

いかにも感じの悪そうな奴だ。

 

「違・・・。」

 

「違うわよ!何、勝手なこと言ってるのよ!?」

ガイの言葉を遮って、ミューギィが力強く否定する。

 

「そういうことだ。勘違いされては困るな。こんなヒョロヒョロな女なんかと・・・。」

その言葉にカチンと来るミューギィ。

 

「そう言うあなたこそ、ヒョロヒョロじゃない!?」

ガイは黙って、袖を捲り上げる。

 

「え?」

それを見て驚くミューギィ。

かなりの筋肉がついていた。

 

「ヒョロヒョロか?」

ミューギィは口をパクパクさせるだけで、言葉にならない。

意外だった・・・。

 

「おまえの腕こそどうなんだ?」

ガイは思わぬ行動に出た。

ミューギィの腕を掴むと、カーディガンの袖を捲り上げたのである。

 

「ふん、やはり女らしい腕ではないか?笑わせる。」

小バカにしたような笑みを浮かべるガイ。

 

だが、ミューギィは顔が真っ赤だ。

 

「女らしい・・・腕・・・って・・・な・・・何言って・・・。」

その言葉にハッとなる。

100%誤解を招く発言内容だということに、今更ながら気付いた。

 

「あ!いや、違う!誤解するな!女のようなヒョロヒョロな腕という意味だ!何をバカな妄想を!」

ガイが珍しく興奮する。

 

『ガイもやるな!こんなに早く、1人の美少女を落とすとは!』

元気そうな声が頭の中に響いてきた。

ガイの永遠神剣だ。

 

「黙ってろ、“陽光”!バカな発言は慎め!」

ミューギィの永遠神剣、“希望”も乗ってきた。

 

『ミューギィ?顔が赤いわよ?』

 

「こ、これは・・・いきなり変なこと言われたから、動揺してるだけだってば!」

その様子を、周りはニヤニヤしながら見ていた。

 

ヒューヒューと囃し立てる奴も出る始末。

ただし、総大将を除いて・・・。

 

「ガイ?話は終わったのですから、早速任務についてもらいたいのですが?」

・・・あれ?何だか機嫌が悪そうですが・・・?

 

「どうかしましたか?総大将?」

 

「どうもしません!早く任務につきなさい!」

突き放したように、言い放つ。

 

「は、はいー。」

弾かれたように会議室を飛び出していく。

 

「あ、待ってよ!」

ミューギィも何となく後を追う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何で付き纏ってくるんだ、貴様は?お陰でいらぬ誤解を受けただろうが?」

 

「それは、私とて同じ。それにあれはいきなりで動揺したからで、他に意味はないわよ?勘違いしないでよね!」

 

2人は、人気のない開けた広場で押し問答を繰り返していた。

 

「それは、俺のセリフだ。俺がおまえを口説き落とそうとしたなどと、夢にも思うな?」

 

(くそ、情けない・・・。いくら姉さんそっくりだからとはいえ・・・。これが俺の弱点・・・か?)

 

「分かってるわよ!」

 

「じゃあ、俺は早速任務につく。もう、会うこともないだろう。じゃあな。」

冷たい視線をミューギィにタップリと送ってから、さっさとその場を立ち去ろうとする。

 

「そんな・・・こんなところに放り出していくつもりなの?私、ここのこと全然知らないし、頼れる人も知り合いもいないのに・・・。」

「だから、どうして俺にそれをねだる?一晩寝床を与えてやっただけだ。それがそんなに感動したのか・・・。」

 

「私・・・これからどうしたらいいのか分からないよ・・・。」

 

「だから、俺に頼るな。」

 

「そんな・・・。」

ミューギィが諦めかけた時、希望が声をかける。

 

『ミューギィ、ガイをよーく見てみて。面白いことが分かるから。』

 

「面白いこと?面白いことって・・・あっ!?ひょっとして!!」

途端にミューギィの顔に、笑顔が張り付く。

 

そこには、ミューギィの顔を見まいとしているガイの姿がある。

それでピンと来た。

確かガイは・・・。

 

『ご明察♪あなたの顔を見ると、あなたに反論できなくなるからよ♪意外と可愛らしい所があるじゃない、あの子♪』

 

「そんなに似てるのね、ガイのお姉さんと私って。」

そう言いつつ、ガイの真正面へと移動する。

ガイがギョッとなる。

 

「ねぇ、私・・・どうしたらいいか分からないの。だからさ、助けてくれない?」

 

「俺に・・・どうしろってんだ?」

 

「っ!!?それは・・・。」

『途中まで一緒について行けば?そのうちガイの他に、もっと頼れそうな人と知り合いになれるかもしれないし、

何か進展するかもしれないし。あ、進展ってあの進展ってわけじゃないわよ!?』

 

「わ、分かってるわよ!ガイと進展なんかするわけないじゃない!?」

 

『ミューギィ、ガイが逃げる。』

 

「あ、待ってよ。逃げないでって。」

急いでガイの後を追って、捕まえる。

 

「途中まで一緒に行ってもいいかな?その代わり、道中の間あなたの任務に協力してあげるから。どう?」

 

「おまえがか?神剣は持ってるだけじゃ、意味がない。それを分かって言ってるのか?」

 

「私、こう見えても結構強い・・・よね?」

 

「俺に聞くな。」

 

『本来のあなただったら、絶対とも言えるほどの強大な力を持ってたんだけどね。

でも、今のあなたでも十分戦えるはずよ。実際、私はガイの持ってる神剣よりも力が上だし。

まあ、ガイは己自身の実力でその差を埋められそうだけど・・・。』

 

「だったら、やってみるか?俺に勝てたら、同行を許可してやる。負けたら、二度と俺の前に現れるな。どうだ?」

ミューギィがゴクリと唾を飲み込む。

 

ガイに恋をしてるというわけではない。

 

それでも頼れそうな何かがガイにはある。

一緒にいるだけで、心強いような・・・。

生まれつき、一緒にいるだけで気持ちが暖かくなったり、自然と人が周りに集まってくる者がいるのと同じだろう。

 

「どうするんだ?自信がないならやめておけ。」

 

「やるわ!その代わり、約束して!私が勝ったら、最後まで私の面倒を見てくれるって!」

 

「最後まで?」

 

「記憶を取り戻すまでって意味よ!」

 

「いや、俺が言いたいのはそこではない。」

 

「え?」

 

「途中までだろ?言い方がおかしくないか?」

 

「あっ!!?」

迂闊だった。

思わず、変なことを口走ってしまった。

 

勢いに乗って、何を言っているのだろうか?

 

頭の中がグルグルと回り始める。

 

「ち・・・違う・・・そうじゃなくて・・・。」

 

「どっちでも構わん。俺が女に負けるなど、あり得ん話だからな。」

ガイが“陽光”を構える。

 

『あんなこと言ってるわよ、ミューギィ。あなたが勝って、見返してやりなさい!』

 

「言われなくたって!」

2人のオーラが急激に高まっていく。

 

「先手必勝、私から行くわよ!」

その途端、指輪から猛吹雪と共に、氷の刃が辺りに飛び交いガイに襲い掛かる。

 

「ふっ、ぬるいな。」

それを巧みにかわしながら、ミューギィに急接近する。

 

「この程度か?」

ガイが“陽光”を一閃させる。

 

「うっ!」

ミューギィが一歩後ろに飛びのいて、それを何とか避ける。

 

『大丈夫?ミューギィ?』

 

「ええ!」

 

『次、来るわよ!』

 

「分かってる!」

今度は、熱風を巻き起こして冷えていた空気を一気に沸点まで高める。

ミューギィ本人にだけ影響を受けない、恐ろしい技だ。

 

「ぐぬっ!ば・・・バリアを!」

身体が焼かれていく・・・。

急いでバリアを張るも、バリア自体段々と溶けていく・・・。

 

「さあ、降参しなさい!」

 

「くっ!」

ガイが空を見上げる。

焼けるような暑さの中だけある。

太陽はギンギンに輝いていた。

 

「陽光!」

 

『分かってるって!勝ちに行くぜ!』

陽光はガイとは逆に元気満々だ。

太陽の下でなら、力を発揮するだけある。

 

「おぉぉぉおおおーーーー!!」

剣に凄まじいまでに太陽の光が集まっていく。

ガイの張ったバリアも、もう長くは持たない。

時間はない。

 

「食らえーーー!!」

 

「くっ!」

 

『ミューギィ、かわしなさい!あれは、防げないわ!』

 

「分かってる!」

横に大きく跳んでかわすも、衝撃波によって吹き飛ばされてしまう。

焼けるような暑さが解除されて、元の気温に戻っていく。

 

「今だ!」

ガイは再び、剣に日の光を集めながらミューギィに突進していく。

 

「これで終わりだ!!」

 

『ミューギィ!』

ミューギィは吹っ飛ばされながら、希望の能力を使って再び氷点下まで温度を下げた。

 

「ぐっ!」

途端に、陽光の力が激減する。

空を見ると、太陽は分厚い雲に遮られて全く見えなかった。

 

「ガイの神剣の弱点、私分かっちゃった。太陽の下でしか、力を発揮できないなんてね。」

 

「バカな・・・。」

信じられないと言うように呟く。

太陽の光を防げるミューギィとの愛称は最悪だった。

 

「光を集めてるのを見て、太陽の力を借りることのできる神剣なのかと思って、

試しに太陽を覆い隠してみたら、予想以上の効果を発揮できたみたいね。」

 

「くそっ!」

屈辱に顔を歪める。

 

「意外と呆気なかったわね。太陽の出ない、夜なんかどうするの?そういう時、私の力が必要なんじゃない?」

ミューギィがガイに歩み寄る。

 

「この勝負、私の勝ちね。これ以上やっても意味がないわ。」

 

「舐めるな!」

ガイがいきなり大地を蹴って、一気に間合いを詰めてきた!

 

神剣の力が激減しているのに、やはりガイはそれなりに鍛えているらしい。

 

だが、神剣の力を使って風を起こしてミューギィは、自身の身体を持ち上げてそれをやり過ごす。

 

ヒュアッ!!

ザズン!!

 

ガイのすぐ目の前で、大地がザックリと避ける。

 

風の刃だ。

あまりの衝撃にこげている。

 

おそらく、ミューギィがわざと外したのだろう。

 

これが生死をかけた殺し合いだったら、自分は間違いなく殺されていた。

 

『ガイ・・・悪い。こんな神剣で・・・。俺・・・あんたの足を引っ張っちまった・・・。』

 

「そう思うのなら、この許しがたい弱点を何とかしろ!」

 

『そうは言っても・・・。』

ミューギィが地面に降りてくる。

 

「私の勝ちね。それじゃあ約束どおり・・・。」

 

「1ついいか?」

 

「え?」

 

「俺の弱点・・・誰にも言うな。」

 

「まさか・・・今までずっと隠し続けてきたの?」

 

「太陽の出ているときしか、神剣の力を行使できないなどと言えるわけがないだろう?」

 

「まあ、言われてみれば・・・あまり知られたくないことかもね。」

 

「俺に腕がないのではない、この神剣の情けない特性のお陰だ。」

 

『ひ、酷い言い草・・・。今まで何度、俺の力を使って戦いを切り抜けてきたと思ってるのさ?』

 

「ふん。」

 

『ふん!』

似ているようで、全然違う言葉を漏らす。

 

「じゃあ、早速行くんでしょ?帝国に?別に私は、持ち物なんてないし。すぐにでも出発できるけど?」

 

ザッ

 

ガイは、ミューギィを無視するかのように、身を翻して1人歩き始める。

 

「ちょっと待ってよ、無視しないでくれる?約束を忘れたの?」

 

「おまえの同行を認めるとは言ったが、相手にしてやるとは言っていない。」

 

「なっ!?何て、可愛げのない男なのかしら!」

 

「男が可愛いなどと言われたら、その時点でお終いだな。」

 

「何で、私を助けたのがあなただったのかしら?」

 

「いやだったら、ついてくる必要はないんだぞ?」

 

「ぐ・・・。」

途端にミューギィは黙り込んでしまう。

これじゃあ立場があべこべだ。

 

「嫌な人!」

 

「おまえに好かれたいとは思わない。」

 

「やっぱり嫌な人!」

 

「嫌な人で結構。」

早速、口喧嘩を始めながら帝国への道を急ぐ2人であった・・・。

 

 

 

 

 

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あとがき

 

 

 

 

 

 

ども、ホークネスです。

 

トークォの登場は、もう少し先です。

後で登場する予定なので、もう少し待ってください。

やはり、ミューギィが出てトークォは出ないなんてことはないですよ?

 

2人の口喧嘩は、考えてて楽しいですね。

今後も出していきたいと思っています。

 

ガイは、この後ミューギィに振り回されていくことになります。

クールな位置づけのはずの男が、1人の女に振り回されるのか!?

と突っ込みたい方、これも斬新さのうち♪と割り切ってください(笑)。

 

それでは、今後もよろしくお願いします。

「ここは、こうした方がいいんじゃないか!?」という所がありましたら、掲示板にてお願いします。

できうる限り、要望には応えていきたいと考えていますので。