02


永遠のアセリア
―The Spirit of Elernily Sword−
 
 [-The World End-]   







序章U







――――夜の帳が降りる。



宵闇のカーテンが空を覆い、蒼穹は夜の世界へとその在りかたを変える。

だが、空の青さが深い闇に変わっても、人の営みは変わらない。

夜だと言うのに、否、夜だからこそ活発になる者達が数多く下界では蠢く。



星々の明かりと対を成すかのように人の人工物は灯火を内から生み出す。

そんな摩天楼の様に並び立つビルの一角に、彼女は居た。



―――――風が強い。



街の中、並み建つビルの中でも一際高いビルの屋上に一人の白い少女が居る。

今宵は風が強く、その風速もかなりのものである。

それを裏付けるように、舞う様な風が少女の白い衣を強く羽ばたくかせる。

だが、少女自身はまるで風の存在を感じてないかのように、徒、泰然と其処に在った。



童女。そう呼べるほどの年頃の娘に見える。

白い服は不思議な形状の異国の服で、強いて言うなら法衣のそれに近い。

白く、幅の広い帽子を頭に被り、その脇から純白の髪が零れ落ち、それを二つに束ねている。



そして、彼女が持つ純白の杖。

こんな少女が持つにはあまりに似つかわしくない大きな杖。

だが、これ以上とないほど彼女に馴染んでいる様にその小さな掌の中にすっぽりと納まっている。



白い杖は暗い闇の中で白く、そして何処と無く昏い輝きを薄っすらと発し、其処に存在している。







少女の整った、柔らかそうで神々しいまでに他者を魅了する愛らしい貌。

だが、その瞳に年相応の無邪気な光は無く、

その大きな瞳は何処までも冷たく、威圧的に、そして淫靡に輝く。



――――――黄金色の眼はまるで王の如く下界を俯瞰していた。









「――――テムオリン様」



闇の中、突然響いた男の声に、少女は微笑を貼り付けたまま振り向いた。



『法皇テムオリン』。

それが彼女の名であり、彼女の銘。彼女を彼女として現す言霊。

第二位の剣位の主であり、「秩序の永遠者(ロウ・エターナル)」と呼ばれる者達の一人。

そして、その中でも一際高い位階に位置する彼女の呼び名である。



「あら、タキオス。・・・・・とメダリオ。貴方も来たのですか?」



「はっ、タキオス。参りました」



「やれやれ・・・・随分な扱いですね。――――メダリオ。参上しました」



宵闇に浮ぶのは二つの影。何時の間にか少女の背後に彼等は存在していた。



「例の世界での準備は既に最終段階へと移行しております」



「後は、計画通り―――――『贄』と『候補者』を待つばかりです」



「そう、後は役者を待つばかり・・・ですか」



くす、と柔らかく微笑みを声の主に向ける。



其処に居るのは褐色の巨漢の男。

引き締まり、人体の限界まで鍛えたような鋼の肉体。

黒衣の衣を纏い、肘まである鉄色の鉄甲を両手に嵌めた姿は『黒騎士』を連想する。

紫色の髪は全て逆立ち、膝を付いて忠誠を誓う静かな瞳は、その実、何処までも獰猛な色を秘めている。



そして、その背には巨大な黒い剣があった。

―――――とても人間が振るう事を前提に鍛つたとは思えない程の大きさ。

だが、少女の杖と同じ様に、この男にそれは恐ろしく馴染んでいた。







其処に居るのは色白い肌の美丈夫。

まるで彫像から抜き出たかの様な、完璧な美貌と体躯。

細身ながら四肢は隙の無いほどに鍛えられており、

その痩躯には収まり切らないほどの凶悪な暴力の匂いがする。



彼が手にするのは二刀の長剣。

否、――――普通の長剣にしてはやや短い、

双剣と呼ばれる二刀で振るう事を前提に生まれた力。



それを青年は長年連添った相棒の様に、

まるで一体化している様な雰囲気を醸し出して、手にしていた。









巨漢の男の名は『黒き刃のタキオス』。

痩躯の男の名は『水月の双剣メダリオ』。

共に彼女の手駒の中でも強靭な力を持ち、ロウ・エターナルの中でも有数の実力者である。







「さて、今回の遊戯(ゲーム)は意外な展開になりましたわね」



クスクス、と笑う彼女の金色の瞳が視るのは二人と三人。

立ち並ぶ建造物の全ては透視によって突破され、その眼は確実に目標を捉えていた。



「『彼のもの』達の干渉は、早くて後二十周期は掛かる筈でしたのに意外に活発ですわね。

眠るのにも飽きたのでしょうけど、大人しく封じられていればこちらも手間が掛かりませんのに」



「『彼のもの』・・・・ですか?」



嬉々として聞こえる言葉の奥に潜む苛立ちを感じ、

不思議そうな顔をするタキオンと微笑を浮かべるメダリオ。



彼等もテムオリンの立てている計画の全貌は知らない。

と、言うより興味が無くて聞いていなかったというのもある。



タキオスが興味のあるのは強い者との死合。

メダリオが興味のあるのは死に逝く者の甘美な叫び。



ただ、それだけである。

計略やら策謀は彼等の得意とするところでも、興味のあるところでもない。



だが、テムオリンの気分を害させる程の要素にお互い少しだけ興味をそそられた。



「我々の『敵』ですわ」



「カオスの連中でしょうか?」



「もしくは――――ニュートラルかな?」



「いえ、違います。―――――そうですわね。

全エターナルにとっての『敵』と言う呼び方が正しいのでしょうね」



尤も、存在を知るエターナルなど一部でしょうけど、と付け加える。



意味の解らない答えに、タキオスは眉を寄せ、メダリオは眼を瞬かせる。



エターナルにとって脅威となるのはエターナルのみである。

どの様な存在であれ、世界に縛られている以上はエターナルにとって脅威に値しない。



「時深さんも大変ですわね。

あれの所為で時への干渉が殆ど意味の無いものに成り下がったのですから。

まあ、私もお陰で計画の変更する羽目になった上に―――――」



其処まで呟き、その桜色の唇を忌々しげに、微かに噛む。



「盟主の言葉とは言え、連中の介入を許す羽目になりましたわ。

十何周期振りかの上位エターナル、それも複数の誕生と『彼のもの』達の干渉。

忌々しい話ですわ。永い時を掛けて仕組んだ人の遊戯に土足で踏み込むとは・・・・・・・!」



少女の言葉と同時に、その身体が杖と同じ白く淡い光に包まれ始め、

同時に圧倒的なまでの存在感が闇を侵食し始める。

その無造作に放出される力は、何もせずとも全ての存在に影響する。



――――ピシィ、ピシピシピシィ



浮んだ下、足元にあるコンクリートが微かに罅割れ始める。

風の勢いとは関係なく、浮かび上がる白の髪。



だが、彼女の金色の魔眼が、ある影を捉えた瞬間に全てはピタリと止まった。







「――――テムオリン様」



「解っていますわ、タキオス。

この波動、あの貌・・・・・覚えがあります。確か・・・・『無刃のフェレイス』。

時深さんとは違いますが、カオス・エターナルですわね。

それも彼女を含め三人も。こんなマナの少ない世界にこれほど沢山のエターナルが集まるのも珍しい」



クスリ、と無邪気な笑みを浮かべる。

例えるならそれは、小さな子供が、蝶の羽を毟り取る時のような――――――



「あの方角。――――目的は知れていますわね。

舞台が始まる前に役者を下ろそうなど、無粋な輩ですわ。

時深さんとは別行動。カオスとは言え一枚岩ではない、ですか。

とは言え、あちらの盟主も部下の暴走くらいは止めて欲しいものですわね。

――――タキオス。メダリオ」



「はっ」



「―――ふっ」



テムオリンの言葉にタキオスはその静かな瞳に昏い興奮を、メダリオは切れ長い瞳に酷薄とした光を浮かべる。













「無粋な輩に御仕置きして差し上げなさい」



































住宅地。

深夜であり、人が寝静まった故の静夜。

その静謐を掻き乱す様に、路上の上で酔っ払って倒れていた男が微かに欠伸をした。



春先であり、まだ少々寒い季節である。

これが夏場なら丸一夜熟睡という事にも為りかねなかったが、

現在それをやると流石に命の危険さえ出てくる。



「ったく、眠ぃな、糞!」



ふぁと大きな欠伸をする。

男は数ヶ月単位で掛かっていた仕事を終え、仲間内で打ち上げをした帰り道だった。

久々に羽目を外し、下戸であるにも拘らず一升瓶全てを飲んでしまった為に今までに無いほど酔ってしまい、前後不覚な状態と化していた。



途中までは友人も付き添っていたが、吐くわ喚くわの男の行動に疲れ果ててしまい、

最後に家の近くまで載せてくれるバスまで乗せた後、見捨てられてしまった。



「あ〜、酒が足りねぇな」



千鳥歩きで何とか進みながら、男は虚ろな意識の中で、

家に前友人が残していった缶ビールがあったなと思い出し、這う様に前進していた。



幸い、この通りを走る車は少なく、

交通事故というものは男にも男を見捨てた友人の脳裏にも存在していなかった。



だが――――――



男の背後から光が押し寄せてくる。

自分の影がどんどん前に伸びるのに訝しげに首を傾げ、後ろを振り向く。



其処には大きなトラックが、急いでいるのか住宅地にも関わらず速度を上げ駆け抜けていた。



一気に男の目が覚める。

だが、酔いが回った身体は巧く動かず、悲鳴さえも舌が凍ったのか上手く出ない。



その時、男の脳裏に過ぎったのは見捨てた友人への恨み言や、自分の行為への叱咤ではなく、

最近付き合っていて、そろそろ結婚を考えている女性の事だった。

美人だが、それ以外はあまり取り柄というものがない女。

だが、見栄えばかりに気を取られる性質の男は多少性格が悪く不器用でも美人な方を優先して選んでしまうのだ。

友人も止めたが、男はそれを聞かなかった。

恐らくそれは、友人の方は美人である上に気立ての良い女房を貰っている事も関係しているのだろう。



"―――――あいつは泣くかな"



恐らく泣かないだろうと思う。

折角の婚期を逃して舌打ちする彼女の姿が横切り、若干の苦笑を浮かべる。





トラックの運転手が遅まきながら気付き、急ブレーキを踏むが間に合わない。

生存本能が悲鳴を上げ、反射的に眼を瞑る。

一瞬後、男は肉片と化す――――――筈だった。







「――――危ないところでした」



耳元で声が聞こえた鈴の様な音色と背中に伝わる柔らな感触に男は反射的に其方を見る。

眼に入ったのは長い灰色の髪。



"――――女?"



確実に死んだと思われる直後に聞こえる女の声に死神か何かかという思いが浮ぶ。

その脳裏に浮んだのは生前の余り誉められた行いではない数々と、

そして骨だらけの灰色の髪が剥き出しの頭蓋骨から流れる死神の姿。



「怪我はありませんか?」



トン、と微かな音と共に、身体に思い出したように重力が掛かる。

その動作と共に長い髪が揺れ、隠れた顔が現れる。



「――――天使、だ」



透き通るような微笑を浮かべた、今まで見た事も無い綺麗な少女が其処に居た。

内から滲み出る優しさの波動と花の様な心地よい香り。



化粧で凝り固められた生まれ付きの顔の良さのみだけ今の彼女とはまるで違う"美"。

様々な経験、様々な感情を経て、磨かれた美貌は見せ掛けだけの美人とは比べられるモノではなかった。



「天使なんて大層な者ではないですよ。

ですが、その誉め言葉は嬉しく思います。――――ありがとう」



なんと形容すればよいのか、まさに天使の様な笑みとは彼女の為にあるのだろうと感じる。

夢を見ているのではないのだろうか、そう思える程に美しい微笑みに、男は眼を奪われる。



「おい、フェレイス。さっさと行くぞ!」



背後から聞こえる声に振り向くと、男はこれは夢だと確信した。

トラックが、その体積全てが、余すところ無くの時間が止まった様に空中に静止していた。



眼を瞬かせる。

次の瞬間、鈍い音と共にトラックはゆっくりと大地へと落ちた。



「御免なさい。急いでいるもので・・・・それでは、次は注意して歩いてください」



タン、と軽く地面から飛び上がる音と共に、少女は電柱の上まで飛び上がっていた。

そして二つの影と共に少女は高速で、屋根から屋根を飛び移り、去っていった。



「完璧、夢だな・・・・これ」



夢見心地でそう呟き、そして思った。

本物の美と偽者の美の違いと、それしか誇るもののない憐れさを。



「結婚相手・・・・もうちょっと真面目に探そうか」



内面から出てくる美しさ、それに心を惹かれ、今までにはない心境で男はそう呟いた。

































「―――たく、態々あんな男を助ける等、フェレイスは人が良すぎる」



「ですが、クスィス。助けなければ死んでいました」



「ならば、それがあの男の運命だったのだろう。

どちらにせよ、我らが介入するべき事ではない瑣末ごとだ」



先導して走る赤毛の少年の言葉に、後続のフェレイスが反論し、

それに対して一歩遅れたように続く青髪の男が呟く。



「フィルベルグ!」



「事実だ。我らの力は常に大局的に在らねばならない。

全てを救えぬ以上。一個人だけ救うのは意味の無い事だ」



叱咤の声にも動じずに流す言葉に、フェレイスは思わず民家の屋根の上に立ち止まる。

月の明かりが、彼女の姿を浮き彫りにする。



灰色の腰まである長い髪と藍色の瞳のやや幼さを残す顔。

だが、瞳は強い意思を秘め、その顔をやや大人びさせている。



服装は赤いコルセットの様なドレスの上に間接等の各部だけ覆う簡易な鎧。

それは彼女の為だけに存在するといって過言で無いほど彼女によく似合い、

まるで、現代のジャンヌダルクを連想するほど強さと美しさが同居する少女だった。



彼女の名は『無刃のフェレイス』。

その銘が現すように一切の刃を身につけずに其処に在った。





「訂正してください、フィルベルグ。

弱き者を救い、世界を維持する。それが我々の勤めである筈です!」



「後半は賛成するが、前半はどうかな?

我々はカオス・エターナルの全員が誓うのはロウの連中の目論見の妨害。

真なる永遠神剣の誕生から全ての世界の守護だけだ。

個人単位での運命への介入という行動など与えられた覚えが無い」



吐き捨てるように呟くのは壮年の男の銘は『裁定者フィルベルグ』。



青い髪を後ろで無造作に縛り、その身は中華風の鎧を着込んでいる。

中国史に出てきそうな武人的な姿の男はそれに激しく似合わない杖。

それも物語の魔術師等が使うようなものと良く似た黒白の杖を持っていた。











「ですが、今其処に在る力無き者を救う。それが我々の第一歩だったはずです」



「介入が必ずしも正しいとは限らん。

不用意な介入は容易に世界の暴走を招く、―――――それを知らんわけでもないだろう?」



「テメエら阿呆か。ここで言い争うなんて酷い時間の無駄だろうが。

フェレイスも好い加減にしろ。フィルベルグの言う通りだ。俺達は全能じゃない。

時には必要な犠牲と切り捨てる必要だって出てくるさ。

あの男の事はもう良いが、この先の任務で馬鹿な事を言い出すなよ?」



逆立った赤い髪。

年の頃は十三から五歳程度に見える少年。

真紅の外套の下に黒い拘束具の様な服を着込んだ姿は異様だが、

少年自身は恐ろしく馴染んでいることから、彼はこれが標準着なのだろう。



赤い槍を肩に掲げて叱咤する少年の銘は「赤風のクスィス」。

この三人の中では一番幼く見えながらも一番の上位者である。



「――――」



「その面じゃ納得できて無いみたいだな。

まあ良いさ。中立の立場を取っているが、お前の思想は盟主側に近いんだ。その事は仕方ない。

だが、お前は既に参加した。

だからこれからの任務の邪魔だけはするなよ。――――『無刃のフェレイス』」



任務。その言葉がフェレイスの脳裏に浮ぶ。

任務といっても、今回の任務は彼等カオス側の盟主であるローガスの下したものではない。

カオス側といっても、それは思想により分類されているのであり、

彼等は―――ロウ側もそうだろうが、それほど明確な組織形成がされている訳ではない。



無論、盟主に忠誠を誓う者も多々居るが、

利害の一致による事で協力関係を結んでいる者も多い。



それ故に指揮系統も完全に統一されているわけでもない。

カオス内でさえも、主義の違いが存在する為に、それも致し方ないことなのだろう。

強靭な自我を持つが故に永遠存在(エターナル)へと昇格した者は多い。

故に柔軟な組織運営が出来ないのも無理も無い話である。



彼らに今回与えられた任務は、ある意味今までに類を見ないほど容易な話だった。



「ロウ側を気にしたんだろうが、――――エターナル候補者の排除。

既に神剣を得てある程度目覚めているならば兎も角、実質は徒の人だ。

正直、三人ものエターナルを投入する意味など皆無な任務だからな。

今更反対するのなら邪魔なだけだから付いて来るな」



フィルベルグの言葉が、任務の内容がフェレイスに突き刺さる。

フェレイスは今回の任務に納得していない。

否、それを言うなら、眼前の二人とて完全には納得していないだろう。



だが、―――――仕方が無い。



第三位へと昇格する可能性程度ならば危惧する必要等無い。

しかし第二位の、それも「偉大なる十三本」に連なる程の素質を持つ者が二人。

そして、あのロウ側で絶大な力を持った『再生』の後継者になり得る者。

第三位とはいえ未だ様々な謎を持つ『永遠』の担い手となり得る者を含め、エターナルへと化す可能性のある者が四人。



久しくエターナルが生まれる事の無い長い時の中、現在はロウとカオスで戦力はややロウが優勢ながらそこにニュートラルが介入する事で微妙なバランスで情勢は保たれている。



しかし、此処でこれ程までに強力なエターナルが生まれて、

その全てがロウ側の力となってはカオス側にとってはかなりの損失が生まれる。



今回の件には、『法皇テムオリン』すら関わっているという。

昇格し、十分力を貯えきれていなく、担い手も未熟な状態で全てをテムオリンに砕かれれば、

最悪、テムオリンが第一位へと昇格する恐れがある。



互いを警戒してか動かない両陣営の盟主とが異なり、あのテムオリンだ。

第一位に昇格した後、今の様に神出鬼没に動かれては堪らない。



そうなれば、現状のフェレイスの知る限りの戦力がカオス側の全戦力なら敗北は必至。



故の強行。

ローガスはこの決断を知らないし、未来を視て、全てを見通すと言われ、

この運命に干渉している『時詠みの時深』からすら同士が持つ同種の力の後押しで隠蔽した行軍。



元より後には引けない、ローガスや時深の怒りを買う事を前提とした行軍である。

事が終われば、三人ともただで済まないのは覚悟している。

幾らある程度自由な行動を認められていても、限度というものがある。



証拠隠蔽など時深の前には意味が無い。

だが幸いにも事を起こした三人は第三位の下位エターナルであり、代わりは居る。

故に、これは消滅すらも覚悟した行為である。





"―――――殺すしか、ない"



ただの人を殺すなど感情では納得できないが、それでも理性は冷徹な計算の元決断している。

第一位の位階に座する者の力はそれほど飛びぬけている。

第三位が何人寄せ集めても意味が無いほどに、その力の差は隔絶しているのだ。





「で、どうするんだ。付いて来ないなら未だ良い。

だが、フェレイス。――――感情に任せて、任務を放棄するか?」



クスィスが赤い槍を構えながらそう呟く。

槍の銘は「緋凪」。数ある第三位永遠神剣の中でも、直接攻撃の強力に目される神剣。

その真髄は一撃の速さ。その気になれば、相手が気付かない内に存在を破壊する事すら可能とする神速の太刀を得意する彼が態々構えているのが最後通告のつもりだろう。



背後でフィルベルグが杖を構えた事も知覚する。

杖の銘は「裁定」。第三位の中は中庸、下手をすると下位に属する力の神剣だが、

結界の形成を含めた防御、サポートに関してはかなりの力を発揮する存在である。



疾風迅雷の『赤風のクスィス』とそれをサポートする『裁定者フィルベルグ』。

そのコンビプレイは強力で、ロウ側のエターナルを幾人も屠って来た歴戦の戦士達である。



感情で納得できずに、手を貸さないなら未だ良い。どの道簡単すぎる任務である。

だが、フェレイスが自分の主義から此処で任務を放棄し、

更には候補者を救う為に行動するというなら彼らにとっては敵である。



元々親しくも無く、お互い名は知っていてもフェレイスは基本的に単独行動なので、

チームを組んでいる二人とはこの任務で数回目になる程度しか顔を会わせたことの無い相手だ。

殺す事に然程躊躇は無く、断れば即座に戦闘になるだろう。





「戦うつもりは無いです。

――――納得は行かなくとも小を切り捨てる事を既に私は選んでいるのですから」



「解ってるなら良いさ。

俺もまあ、好き好んで『無刃のフェレイス』と戦いたくは無い。例え二対一でも、な」



おどけた様に肩を竦め、クスィスはその穂先を下げる。

そして背後でフィルベルグも杖を下ろしたのを知覚した。



「それで、どちらかの候補者から殺す?

一応エトランジェとなり得る者は全て殺さねばならないが、尤も有力な二人から殺すべきだろう。

それとも分かれて行動するか?」



「いえ・・・・・連中が三人も寄越した意味を考えて、

やはり三人で行動するべきではないでしょうか?

時深にばれるのは兎も角、此処は既にテムオリンの手の内です。

最悪、ロウ側の強力なエターナルが居ないとも――――――」



限りません、と言おうとしたところでフェレイスの耳にぱちぱちと拍手が聞こえた。

一斉に戦闘態勢を取り、三人が振り向く。

何時の間にか僅か二十メートルほど先の闇には一人の見目麗しい青年が存在していた。















「賢いですね。流石は、と言いましょうか、『無刃のフェレイス』。

噂に違わぬ聡明さと美しさです。態々此処に出張った甲斐があると言うもの。

ああ、逢うのは初めてですか。僕の名は―――――」









「『水月の―――――メダリオ』」





















額に冷や汗を滲ませフィルベルグが喘ぐ様に口にする。



双剣。それを視れば多くのエターナルに連想させる、ロウ・エターナルでも一際凶悪な存在。

数多くのカオスのエターナルを剣の特殊能力を使用せずに剣技だけで屠った際者。



フィルベルグの恐れも当然だ。

下位エターナルの中でも下の上程度の力の持ち主である彼では、

上の中、もしくは上の上の力を有するメダリオは荷が重過ぎる。



「まさか、テメェが来てるとはな!

あの傍迷惑な餓鬼も今回は結構本腰入れた計画らしいな」



槍を構え、クスィスが加速する。

赤い外套に包まれた人型は風を越え、音の領域すらも匹敵する加速を生み出す。



それはさながら赤い魔弾の如き加速で一瞬の間に、―――――メダリオの背後を奪う。





「ああ、僕も結構有名になりましたね。紹介の手間が省けますよ。

君と――――」



右の剣の剣先をフィルベルグに、左の剣を―――――



「ハァ――――!!」



背後から首に目掛けて叩き込むクスィスの全身の極限まで引き絞って撃ち込む強烈な一撃。

首を刈るどころか、当たり所に拠れば上半身と下半身が断絶されるほどの斬撃。









ガキィィィィン











それをメダリオは振り向きもせず、左の剣を凪いで最小限の労力で攻撃を外させた。



「――――な、に」



その技量の違いに、クスィスも、フィルベルグも呆然とする。

それも当然だ。速さではカオスの下位エターナルでも上位に位置するクスィスの斬撃。

それをまるでも眼中にないかの様に会話しながら苦もなく止めたのだから。



恐らく、二人ともこれ程の実力差を感じる敵と戦ったのは久しくないだろう。



「――――君。そう、会話中に斬りかかって来る礼儀がなってない赤猿君。

君等には興味は無い。僕が興味を持つのはこの場では彼女だけだよ。

だから―――――」



首だけ動かし、嘲る様な眼でクスィスを見下ろすメダリオ。

そして、肩が微かに動いた瞬間、振り向き様に右の剣からの斬撃が奔る。



一瞬呆けていたクスィスは、直ぐに正気を取り戻し、槍の柄の部分で辛うじて防ぐ。

だが、その痩躯の何処にそんな力があるのか、

――――まるで重さを感じていないようにクスィスを吹き飛ばす。



「邪魔だから、空気を読んで消えていて貰えませんか。

ああ、追いかけて殺すなんて事はしませんよ。興味ありませんし、ね」



「・・・・・・・見逃す、と言うのか」



屈辱から憤怒に顔を染めたフィルベルグがそう呟く。

だが、手出しは出来ない。

当然だ。フィルベルグの持ち味は主にサポート。

クスィスの性能を存分に発揮できるように、そして性能以上の活躍をする様にすることである。

一人ではどうにもならない。





「逃げたいのならどうぞ、引止めなどしませんから。

僕は彼女さえ残ってくれれば、それで良いですし」



その酷薄とした瞳に、歪な愛を込めて彼は言葉を紡ぐ。



「嗚呼、その綺麗な顔がどんな風に歪むのか。僕は堪らなく知りたい・・・・!

その桜色の唇がどんな旋律を奏でるのか。

その藍色の瞳がどんな絶望を映し出すのか。

その白い肌を鮮血に染めて死化粧し、その灰色の髪がどの様に乱れるのか。

想像するだけで射精するほどに興奮しますよ」



「・・・・・・変態」



吐き捨てる様に呟き、構えるフェレイス。しかし、その姿に剣はやはり見えない。



「クスィス。フィルベルグ。あれの相手は私に任せて、貴方たちは任務を優先してください」



「―――ちっ」



「了解した」



クスィスは凄まじく不機嫌な顔で吐き捨てる。

彼もエターナルとしての自分に自信を持っているが、それがあれほどコケにされて砕かれたのだ。

悪態の一つや二つは吐きたいだろうし、本心ではただの人間の殺害よりもメダリオとの戦いを選ぶだろう。



だが、現状ではそんな甘えは許されない事をチームリーダである彼が誰より理解している。



「任せるぞ、フェレイス。その変態を再起不能にしとけ!」



「悪いな、任務を果たすまで持ち応えていろ」



タンと跳ぶ、二件はなれた家の屋根に着地し、駆け出す二人。

それを眺めてから、フェレイスは呟いた。



「良いのですか。貴方の任務は―――――」



「そうですね。任務を考えれば阻止すべきなんでしょうね。

此処が通常空間のままで、私しかこの場にロウ・エターナルが居なければ・・・・・・」



「――――まさか」



その不吉な言葉を聞き辺りを見る。だが、不審なところはまるでない静かな夜。

そう、静かな、生命の息吹も、残滓さえも感じないほどに静かな夜―――――!



「結界を張ったんですか!?」



「御名答。テムオリン様のコレクションの一つらしいですね。

既に此処は似て非なる世界の中です。

突破したければ境界の外まで出なければなりません。

ああ、難しく考える必要はありませんよ。

時深さん・・・・でしたっけ?彼女に気付かれない様な弱い結界ですから。

この結界は、効力は兎も角、ある程度中核から離れれば自然と影響下から開放されます。

結界が張ってあるのは単純に戦闘の被害を出す事の防止らしいですね。

ですから、彼らがこのまま進めば逃げられますよ。進めれば、ね」



その言葉と同時に背後から強烈なマナが吹き荒れた。



「――――伏兵!」



「まあ、しかし僕より強い相手を僕が伏兵と称して良いものでしょうか・・・・・?

心配しないでください。僕らの逢瀬に邪魔が入る事はありませんよ。

タキオスがあの二人を片付けても此方へは来ないように話はつけて在りますから」



『黒き刃のタキオス』。その存在に深い絶望を感じた。

メダリオが上の上なら、タキオスは規格外。あれは、第三位である事が可笑しいほどの剛の者だ。

戦いになれば勝つ事どころか、逃げることさえ叶わない。





最悪、あの二人ではもう既に―――――





「疑問はもう無いでしょう? さあ、良い声で―――――――」



二対の神剣を構えて、歌う様に呟くメダリオ。

その姿は月の光を受け、まるで物語に出てくる存在のように幻想的な美さを秘めていた。



















「――――謡って下さい」















































――――その戦いは人の常識を越えていた。



闇の中、鋼の撃ち合う音が響き、夜を切り裂いて緋色の線が奔る。

緋色の線は人型。

あまりに高速に移動するその少年の敏捷性は常人には目視することさえ許さず、ただ赤い外套の残滓だけを残し、三次元的な人型である筈の姿を、二次元的な線でしか把握させない。



風など遠に越え、音速すらも手に掛けたその速さは人のものではない。

だが少年は人型であり、外見上はただの人にしか見えない。

故に人外。少年は人の領域を外れ、神域にすら足を踏み入れた魔人だ。



闇の中、緋色が煌く。――――五回。首、右足、左足、左手、右手。

煌く閃光は正確無比に木偶の様に立つ男の四肢を両断し、首を刎ねんと駆ける。



それは全て一瞬の出来事。

地球上の如何なる生物であろうと、少年の神技からは逃れる事は出来ない。



その技は知覚速度を越えている。運動速度を越えている。

だが、なによりも生物としての格で、少年と人類には絶対的な開きがある。



針の穴を通す様な精密な一閃。

その内に秘められた力は一撃で人体を消し去って余りある破壊力が秘められている。



それほどの技を以ってしても少年、クスィスの劣勢は変わらなかった。





「――――くっ、『黒き刃のタキオス』まで来ているなんてな。

やはり、あの餓鬼も今回の計画に随分と入れ込んでいるんだな?」





五つの緋色の閃光は全て強力なオーラフォトンの壁にて弾かれる。

ここまでエターナルとしてのレベルに差があれば、

それはもう単純な技術で埋められる問題ではない。



憎まれ口を叩きながらクスィスの視線は決してその男から外れない。

雄々しき威容を誇り、鋼の筋肉で全身を纏った巨漢の男。

大きな鉈型の大剣を担ぎ立つその姿は見る者を威圧し、無意識の内に畏怖を与える。



「ふむ。圧倒的なまでの格の差にも足掻くか。

それでこそ、エターナルだ。だがその程度の殺気では―――――」



にぃと唇を歪めて背に担いでいた剣を片手で取り出し、構える。









「まだまだ、――――足らぬな」









言葉が終わると共に、黒い靄がタキオスの身体に掛かり出す。

靄はオーラフォトン。

膨大なそれは大気を侵食し、世界の在り方を変化させる。

目の前に立つ人の形をした魔物。その気配は息をする事さえ困難な緊張感を強いる。



黒いオーラフォトンが剣の刃に集束しだし、

その膨大さか、或いは剣の特性か、――――大気が捻れ、空間が悲鳴を上げだした。



全身の毛が総毛立つ。

生存本能が悲鳴を上げ、全速でオーラを紡ぎ、防御へと回す。



「『緋凪』よ。力を貸せ!――――フィルベルグ!!」



「『裁定』よ。汝の主たる我が呼び掛けに応じ、導かれる者達に加護を―――――!!」



防御能力の低い『緋凪』を構えながら、クスィスは相棒に呼び掛ける。

それに即座に頷き、杖を構え、力を引き出すための詠唱を開始する。



フィルベルグの杖型の永遠神剣『裁定』が金属の隙間から漏れ出るように強い光を放ちだす。

光は青。蒼穹を連想する程澄んだ青き輝きが生まれる。



「空間ごと絶つ、我が一撃。――――永遠存在を名乗るならば耐えて見せろ!」



うねりを上げて黒いオーラフォトンの残滓を放ちながら、剣が振り下ろされる。

その一撃は正しく剛剣。振るわれた剣は夜の闇を切り裂き、闇より尚暗い"黒"が一閃と伸びてくる。







「『アイシクル・プロテクト』!」







高々と叫ぶ声と同時に大気中のマナが、水分が瞬時に凍結し、生まれる無数の氷の粒。

その一つ一つが周囲を旋回する様な形で青い円形状の膜と化し、二人を包む。



あらゆる外的攻撃を遮断・反射する氷の属性を持つ防壁。

フィルベルグが用いる守りの技の中でも最強の一つ。



――――それを津波の様な勢いで黒の一閃が突き抜けた。



強固な筈の青の膜は一瞬軋んだだけで耐え切れず、黒の一閃が突き抜ける。

それは『緋凪』が内側に張ったオーラフォトンの壁さえも容易に突き抜けフィルベルグの肩を貫く。



「ぐぅ・・・・!」



肩が胴体から千切れかけ、その激痛に声を漏らすフィルベルグ。

だが、集中力は失わずに反撃に転ずる。



アイシクル・プロテクトは強固な防御特性を誇る技だが、それだけではない。

貫かれ、その威力、精度、属性を記憶した防壁は一瞬微かに揺れ、―――――爆ぜた。



「己の攻撃で死に至れ―――――!」



青い膜の前面が変形し、高速で氷の刃が伸びる。

それは弾丸の如き勢いを付加され、幾多の氷の閃光がタキオス目掛けて奔る。



空間を断つほどのタキオスの一撃。

それは次元を操るタキオスの永遠神剣『無我』の特性もあるのだろうが、

それに頼ったものではなく基本は本人の力によるオーラフォトンの断撃である。



ならば、それを模倣し、次元の黒の特性を反射の氷の特性に変質させる。







『裁定』の能力の真髄は正確無比な解析能力。

神剣により威力、太刀筋ともにコンマ二桁の狂いも無いほどに完璧に模倣された氷の閃光。

その異能は様々なエターナルを貫き、その力を削いで来た。だが――――――





「一撃喰らっただけで俺の太刀筋を真似たか、大したものだ。

だが、所詮は模倣しただけの魂の通わぬ贋作。未熟だな。―――――カオス・エターナル!」





剣を振り被り、構える。

先程のオーラフォトンの倍に近い量が剣に集束されていき、文字通りに世界が歪む。

膨大な黒のオーラが光の屈折率を変化させ、景色が波打つ様に荒く染まりだした。





「真の必殺技とは見よう見まねで再現できるものではない。

その様な紛いもの、我が一撃で一つ残らず破壊してくれる!!」



―――――空間断絶。



タキオスの言葉に呼応する様に『無我』が脈打ち、

先程のより高い密度、質量で空間を削る黒の一撃が発させる。



無数に伸びる氷の刃。

見る者に死を与える魔性の技。

だが、その全ては巨大な魔王の黒の刃に触れた瞬間、粉々に砕かれてマナへと還元していく。





「――――――!」





防ぐ事など出来ない。

第三位の中でも第二位に匹敵するほどの強力さを有する『無我』と、

それを余すことなく限界まで行使できる担い手『タキオス』。

その二つが融合した一撃は因果律さえも修正するエターナルすらも抵抗できずに、塵へと還元する。



その例に漏れず、フィルベルグも刃に胸を貫かれ、――――爆ぜて消える。





普段のタキオスならば中々面白い攻撃を行った敵に哀悼の意を捧げ何か一言二言語るだろう。

だが、今回タキオスはフィルベルグが消滅する結果を見ては居なかった。



何故なら未だ敵は残っているのだから。









「――――もらった!」



まともなやり方ではタキオスを倒す事は出来ない。

それを感じ取った二人は、一人が犠牲になって隙を作り、一人が留めを刺す事を選んだ。

長年の戦闘経験から来る予測と共振する様な意識。



フィルベルグの犠牲を覚悟の上。

クスィスは氷の刃が放たれる前に離れ、タキオスの隙を伺っていた。



焔が大気を焼き尽くさんと渦を巻いて迫る。それは炎の悪鬼の如き威容。

『緋凪』に宿った焔は担い手すらも焼き尽くさんと熱く燃え上がる。



「古の滅びの炎よ。我が命に従い、此処に来たれ」



未だ幼さを残す顔立ちは鬼気を放ち、赤い魔弾が駆け抜ける。

視認する事さえ困難な速度は、火属性の能力で神経細胞を活性化しているのだろう。

歪みごと穿つが如き勢いで、赤い影が凄まじい勢いで突き抜ける。

纏うのは巨大なオーラフォトンを変質させた焔の祝福。

その加護を受け赤い外套はそれ自体が燃えているかのように焔の残滓を宿して迫る。





「炎と風の裁きにその罪を委ねて死に至れ、―――――『炎霊剣窮式 塵の太刀』!」





赤き槍、『緋凪』が大気を穿ち、タキオスに迫る。

凄まじい速度と攻撃の後に開いた僅かな隙の為にタキオスは反撃も防御もできない。



―――――永遠神剣では。





「ぬぅううううう!!」



全速でオーラを掻き集め、黒のオーラフォトンを形成する。

それを『無我』を持たない左の手に集束し、その手で音を発てて燃え盛る『緋凪』を直接掴んだ。



「馬鹿が、――――俺の一撃を無手の左手で防げるか。

そのまま消滅しろ、『黒き刃のタキオス』・・・・・!!」



次元を操る黒いオーラフォトン。

それは次元を切り離す事で『緋凪』から放たれる凄まじい炎の緩和剤となる。

だが、それでも無謀。

担い手により『緋凪』の究極まで高められた一撃は僅かに次元を切り離したところで、

切り離した次元すらも蓋塵と化し、タキオスごと燃やし尽くさんと迫る。



精神力と精神力の激突。

燃やし尽くさんとするクスィスの精神と耐え切ろうとするタキオスの精神。

オーラを練る暇は殆ど無かった為に、劣勢は如何視てもタキオスの方。

掌は肉が焦げる匂いが発し始め、ガントレットが溶解し出す。



圧倒的な劣勢。だが、それでもタキオスの口から歓喜の笑みが閉じる事は無い。



「凄まじい炎だ。・・・・・侮りすぎたことは認めよう。

だが、カオスのエターナルよ。俺はこの程度ではマナには還らんぞ・・・・・!!」



肉が焼け爛れ、骨が溶け、鉄甲が蒸発しても、タキオスは自己の敗北を認めていない。

ひたすら己を高め、オーラフォトンを紡ぎ、少しでも死の焔の進行を遅らせる。



「往生際が・・・・悪いぞ!!」



全身のマナを活性化し、オーラフォトンに変換して炎を強化する。



熱く、熱く、熱く熱く熱く熱く熱く熱く―――――――



赤い槍が燃え上がり、褐色の巨腕が焼ける。

どれだけ続いたかも解らぬ根比べ。





























それは――――クスィスの負けで終わった。

























「馬鹿、な。あの状態で・・・・・俺の炎を防ぎきるなんて」



『塵の太刀』は斬り込んだ一瞬に焔を全て開放し、対象を消滅させる技。

だが、開放した焔は全て断絶された空間とタキオスのオーラフォトンにて防ぎきられた。



燃え尽きた『緋凪』に対してタキオスも無事ではない。

左手は肘まで完全に蒸発し、左半身は見事に焼け爛れている。

肌は溶け、凄まじい腐敗する肉の匂いが周囲を覆った。



「戦術よりも、技巧よりも、オーラの量よりも、

何よりもエターナルの戦いの優劣を決めるのは意志の強さだ。

貴様のそれは、俺に劣った。それだけの事だ」



黒い刃が大気を切り裂いて唸り、クスィスを両断せんと迫る。

咄嗟に『緋凪』を頭上に構えるが、

―――――それすらも両断し、クスィスの身体はマナの塵へと変わり消えた。














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