イースペリアの執務室。
そこでアズマリアとティリアが話していた。

「それで、ヒロキは大丈夫なのですか?」
「命には別状ありません。今は極度の疲労で眠っておりますが時期に眼を覚ますでしょう。……ただ」
「…あのときのこと…ですわね?」
「…はい」

あのときというのは、勿論ランサの戦いのことだ。
あのときイースペリアのスピリット隊は、思いもよらないダーツィの猛攻に、全滅の憂き目を見ていた。
それを救ったのが弘樹だった。
リリスを斬られたことに逆上した彼は、圧倒的と言える力でダーツィのスピリットを薙ぎ払ったのだ。

「神剣に飲まれた……というわけではないのでしょう?」
「はい、シーネの話しによると、あの時のヒロキ様は怒りで我を忘れ、ただ自分の力を全力で振るっただけだったと。……シーネはマナも求める欲求がなく、使い手を飲み込む気はまったくないとも言っていました」
「ということは、あの力は紛れもなく彼の力ということになりますね」
「はい」

アズマリアは口に手を当て、しばし黙考する。
恐らくは、ヒロキの危険性を考えているのだろう。
そこには私情はなく、ただイースペリアのためにどうなるか考えている。
―― たとえ彼女自身の想いがどうだろうとも……

「あの、陛下…」
「ん?」

たまらずティリアはアズマリアへ話しかける。

「ヒロキ様のことですが……その……」

物事をはっきり言うティリアには珍しく口ごもる。
そのことをアズマリアは疑問に思ったが、今自分が考えていたことを思い出す。
そして、口の端を上げ笑う。
その笑いはどこか、小悪魔めいていた。

「大丈夫よ、ヒロキを放り出すような真似はしないわ」
「そ、そうですか……」

ほっと息をつくティリアに、こんなときにと思いながらも笑いを抑えることは出来なかった。

「それにしても……なるほど、ティリアはそうだったのですか」
「な、なにがです?」
「いえいえ、ヒロキのことがよーーーーっほど気になっているようですから」
「なっ、なななななな――――っ!!」

一瞬にしてティリアの顔が、瞬間湯沸かし器よろしく真っ赤に染まる。
そのことに、アズマリアは笑みを深めた。
やはり彼女たちは私たちと何も変わらない、そう思いながら――――

「とにかく、ヒロキの件は一旦保留にしましょう。ダーツィも今回の件でしばらくは大人しくしているでしょうし」
「……わかりました。それでは、失礼します」

拗ねた顔のまま、ティリアは執務室を後にした。
ティリアの出て行った扉を見つめながら、アズマリアは紅茶へと手を伸ばした。

―――― さて、一体どうなるのか…









希望を刃に乗せて
-奪うためではなく、守るために-










俺は、ぼーっとしながら天井を見つめていた。
自分がいつ眼を覚ましたのかもわからず、ただ天井をじっと見つめ続ける。

「…俺、どうしたんだっけか……」

朦朧とする意識が思考する力を奪っていく。
俺は呟くことで意識を無理やりに覚醒させていく。

「確か…出動命令でランサに向かって……それで戦うことになって………そう、敵の数が多かったんだ……それで………っ!!?」

ばっと布団を跳ね上げ起き上がり、駆け出そうとする。

「ぐぁっ!?」

だがそこで、ぎしりと体が悲鳴を上げ、なすすべなく床に倒れこんでしまう。
まるで全身が筋肉痛にでもなったかのような痛みが全身を襲う。

「マスター!?」

倒れる音を聞きつけたのか、シーネが血相を変えて飛び込んでくる。

「大丈夫ですか、マスター!?」
「そんなことより、リリスは!?無事なのか!!?」

支えるシーネの腕を掴む。
力が強かったのか、シーネは少しだけ顔を歪めた。

「マスター……痛いです…」
「あ、悪い」

慌てて手を離す。
そのことで少し冷静なることなることができた。

「ちゃんとお話ししますから、ひとまず横になってください」
「あ、ああ」

シーネに支えられながら、俺はベッドに横になった。
今更気づいたが、俺は支えられなければ立てないほど消耗していた。

「結論から言いますと、リリスさんは無事です。すぐ近くにメイミーさんがいたことから処置が早く、今はまだベッドで寝ていますが、もう少しで出歩くことも可能になるでしょう」
「そ、っか」

その言葉を聞いて、俺は自分の体から力が抜けるのを感じた。
「それで…俺はどうしたんだ?」
「マスターは怒りで、その……何といいますか…リミッターが外れた状態になってしまったのです」
「リミッター?」
「はい。人の体というのは本来100%の力で動くことは出来ません。そんなことをすると体組織がぼろぼろになってしまうからです。しかし、あのときのマスターは怒りで我を忘れて、そのリミッターがはずれてしまったのです」
「じゃあ、この痛みは……」
「全力で動いたことによる反動です。……さぁ、まだお疲れでしょう。今は体を休めてください」

それだけ言って、シーネは毛布を被せてくる。
途端に猛烈な眠気が襲ってきて、俺は素直にその感覚に身を任せた。

「………マスター、すみません」

意識が落ちる直前、そんな声が聞こえた気がした。





















一週間後、俺はすっかりよくなり、リリスの部屋の前に来ていた。
しかし、いつもなら軽い木の扉も、今の俺には鉄どころか岩のように重く感じた。

(どんな顔して会えって言うんだよ……)

謝らなきゃという思いに駆られてここまできたが、あのときことを思い出すとどうしても後一歩が踏み出せない。
数十分ほどノックしようと手を伸ばし、引っ込めるという行動を繰り返していたが、意を決して戸を叩いた。

―――― コンコン

「はーい、どうぞー」

中から、元気そうなリリスの声が帰ってくる。
俺は躊躇いながらも、ドアを開けた。

「あ、お兄ちゃんだー!!」

リリスが嬉しそうに顔を綻ばせながら駆け寄ってくる。
前と何も変わらないリリスに、面を食らってしまった。

「よかったーお兄ちゃん、元気そうで。みんな酷いよねー、私はもう大丈夫なのに、お兄ちゃんのお見舞いに行っちゃだめって言うんだよ」

いつもと変わらないリリスの対応が、何より俺の胸を痛めた。

「……リリス」
「ん?なーに?」
「ごめん」
「え?」

俺はリリスの前で深く深く頭を下げた。
リリスは、そんな俺の行動が分からないのか、目をぱちくりと瞬かせていた。

「あのとき、俺が躊躇わなかったらリリスがそんな大怪我することなかったのに…」
「………」

それまで、いきなり頭を下げた俺に驚いていたリリスは、やっと得心がいったのか黙り込んだ。
二人の間に沈黙が続く。
リリスは今どんな顔をしているのか、怒っているのか、悲しんでいるのか、それとも呆れているのか。
頭を下げている状態では確認することもできず、ただただ立ち尽くすしかなかった。

「なーんだ、そんなこと」
「え?」

その沈黙を破ったのはやはりリリスで、しかも彼女はただ笑顔を浮かべていた。

「お兄ちゃんは初めて戦ったんだからしかたないよ。それに守るのは当たり前。だって私スピリットだもん」

ことさら、なんでもないかのように言うが、その答えは俺にはとても納得できるものではなかった。

「なんだよ、それ!!スピリットだとかは関係ないだろ!!」
「関係あるよ。私はスピリットだけど、お兄ちゃんは人間。スピリットは人間を守るためにあるんだから」

それが当たり前、と言い切るリリス。
それがこの世界の常識だということは、この世界にきてまもなくシーネに聞いた。
あのときは、そんなものなのかと思ってしまったが、今は状況が違う。
ここで、共に過ごしてきたから分かる。
彼女たちだって、俺たちと同じなのだ。
スピリットだとか人間とかは関係ない、みんなこの国に生きる仲間なのだ、と。

「だから、お兄ちゃんはリリスが守るの!!」
―――― なら」

たとえそれが世界の常識なのだとしても、俺がそれを壊そう。
俺にとっては、みんなは大切な仲間なのだから――

「それなら、俺はリリスたちを守る」
―― え?」
「リリスたちが俺を守って、俺がリリスたちを守る。そうすれば、みんなで生きていける」

戦う意味、俺はこのときようやく見つけられた気がする。
人よりも人らしい、彼女たちを守るため、俺は戦おう。

「俺たちは仲間なんだから」






感極まって、リリスがヒロキ様へ飛びつく音が聞こえる。
私は気づかれないように、静かにその場を後にした。

















こんにちわ、緋雷です。

希望を刃に乗せて、いかがだったでしょう。
展開が急過ぎる気もするのですが、以後精進しますのでご容赦ください。
……あぁ自分の文才のなさが恨めしい……

まぁというわけで、弘樹はようやく戦う意味を見つけることが出来ました。
悠人は佳織のために戦いますが、弘樹は仲間を守るために戦っていきます。
次回からはバリバリに強い弘樹様が!!

などといいつつしばらく戦闘はなかったりぃ〜
ああ、ごめんなさい!!お願いだから石投げないでぇ〜〜〜

…コホン、次回はいよいよ原作キャラが登場します。
誰かはまだ秘密ですが(大体予想は付くと思いますが)

それではまたお会いしましょう!!