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第2話 日常の終焉

 

 

 

 

 

―西暦2008年 12月 14日 AM0:05

とあるバー

 

ここは駅からそう遠くない所にある一軒のバー。

名前は「Cross Road」

マンション一階、その一部に店を構え昼は喫茶店として営業していた。

そのため、白を基調としたクラシカルな内装をしている。

そしてここは秋也のバイト先でもある。

秋也は4歳の時に母を、15で父をそれぞれ亡くしていた。

他に家族や親戚がいないわけではなかったが、秋也自身が独りでいることを選び、まわりもそれを認めてくれたおかげで現在は父の親友だった男の店で働きながら生活している。

 

「それじゃマスター。俺上がるんで。お先に失礼します」

「ああ、お疲れ」

マスターと呼ばれた50程の温和そうな男は丁度後片付けを終え、帰りの支度をしようとしていた。

ふと何かを思い出し、扉に手をかけようとしていた秋也を呼び止める。

「何ですか?」

秋也はその場で振り返った。

「いや、お前もうすぐ冬休みだろ。何か予定はあるのか?」

「特にありませんけど…」

「そうか」

「ま、休みが一週間あるならもう少し考えますけどね」

そう言って、秋也は皮肉っぽい笑いを浮かべた。

と同時に、マスターがプライベートについての話を始めたので‘マスター’ではなく‘おじさん’に対しての口調に変わる。

「悪い。年末は忙しいし、お前目当ての客も少なくないからな。正直、抜けられるときついんだ」

マスターはカウンターに両手を着いた。

「冗談ですよ。それぐらいは俺も十分に承知してます。そもそも、こうやって俺の都合で働かせてもらってるのに、文句なんて言えませんよ」

「そう言ってもらえると助かる。一応31日から3日までは休みだから。気を付けて帰れよ」

「ウス。それじゃ、おやすみなさい」

カランカラン、とドアに着いたベルを鳴らして秋也は外に出た。

12月も半ば、ただでさえ寒いのに日が落ちた後はさらに一段と寒さが増す。

秋也は手を軽く握り、その中に息を吹き込みながら夜空を見上げた。

雲ひとつない空にはぼんやりと半月が浮かんでいた。

それから親指と人差し指で輪を作り、顔の前にかざすように月を見ながらぼーっとしていたが、ふと我に返り家路を急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―西暦2008年 12月 18日 AM8:25

教室

 

「おはよう、瞬」

秋也が挨拶をするが、瞬は一瞥する。

いや‘ガンをくれた’という方が正確だった。

今日は朝から機嫌が悪い。原因は…一つしかないな、こいつの場合。

秋也の想像通り、瞬は朝から悠人とあと少しで殴り合いという状況だったが、光陰達がいたおかげで事なきを得ていた。

秋也は席に着くと頬杖をつき、じっと何かを考えていた。

しばらく経つと唐突に瞬の方を向いた。

「瞬、今日の放課後付き合ってくれ。頼みたい事がある」

瞬は少し驚いた様子を見せたが、すぐにいつもの調子に戻る。

「いやだね。どうして僕が? 頼みごとならあいつにすればいいだろう」

秋也が瞬の視線をたどると、そこには遥がいた。

誰かと話しているので丁度2人に背を向けており、その視線には気付いていなかった。

秋也は再び瞬の方を向く。

「あいつじゃダメだ」

そして顔の前で両手を合わせた。

「頼むよ、瞬じゃないとダメなんだ」

「……」

「決まりな」

秋也はニヤっと笑いかけた。

瞬は舌打ちをして立ち上がり、ドアへと向かって行った。

その後姿を黙って見送ると、秋也は再び思考を巡らし始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―同日 放課後 PM3:30

書庫

 

秋也は帰ろうとした瞬を薄暗い書庫へと連れてきた。

結局秋也のしつこさに瞬が折れるという形でここに足を踏み入れた。

「一体ここで僕に何をさせたいんだ?」

瞬はすでに少し苛立っていた。

「今度ここの本を派手に処分するから、その中なら好きなだけ貰っていいって聞いたんだ。その代わり整理をしておけってさ」

「僕にもそれを手伝わせるつもりでここに連れてきたのか?」

その声に苛立ちを隠そうとする様子はすでに無かった。

「いや、瞬に何かをさせるつもりは無い。むしろ手伝いなんてしないで欲しいね。分担すると訳が分からなくなる」

瞬の怒りをかわすようにさらりと答える。

「お前がどうしてもと言うからわざわざ来てみれば、用は無いだと? ふざけるな! 僕は帰るぞ」

吐き捨てると瞬は秋也に背を向けて歩き出そうとしたが、

「高嶺悠人」

秋也の口から出た、自分が最も嫌う人間の名を聞き瞬は立ち止まった。

瞬が振り返ると、いつものニット帽とマフラーの秋也が本棚から一冊の本を取り出していた。

「これは…貰ってこ」

そして、何事もなかったように独り言。

「お前まで悠人か! あいつが一体何なんだ!?」

ただでさえイライラしていた上に悠人の名を聞いたために、いつもよりも激しい感情をぶつける。

秋也は本を閉じ、真っ直ぐに瞬の目を見た。

「今まで、お前と高嶺兄妹の事を聞こうとはしなかった。もちろんこの先も踏み入ったことを聞く気はないし、瞬がしてる事をやめさせる気も無い。けどもう少し考えたらどうだ? 毎回ケンカじゃ疲れるだろ」

諭すように穏やかな口調。

「僕に説教をするつもりか!? 僕は悪くない! 大体、あいつらは本当の兄妹じゃないんだ。どうしてそんな奴が僕の邪魔をする!」

だが、それが余計に瞬を怒らせてしまった。

「落ち着けよ。別にお前が悪いなんて言うつもりはない。それより本当の兄妹じゃないって、高嶺がか?」

「…そうだ」

自分の怒りなどまるで気にしないマイペースな秋也を見て、瞬は毒気を抜かれてしまった。

「俺が知ってるのは、その義兄(あにき)とお前は仲が悪いって事だけだよ。それもかなり、な」

そう言って、秋也は少しの間黙り込んだ。

それから瞬の顔を見て、穏やかに笑いかけた。

「とりあえず落ち着けよ。それでも何か言いたかったら、いくらでも聞かせてくれ」

今度は瞬もおとなしく壁に寄りかかって座った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―PM5:25

 

秋也が黙々と作業を続ける間、徐々に落ち着きを取り戻した瞬がポツリ、ポツリと話し始めた。

その大半が悠人の悪口だったが、それでもその一つ一つにちゃんと耳を傾けていた。

瞬は余程高嶺が嫌いなんだな。あいつも嫌なヤツではなさそうだけど、瞬と義妹が絡むと別人のようになるからなぁ。ま、その辺は瞬も一緒か。

秋也は手を止め、口許に手をやる。

そしてポケットから懐中時計を引っ張り出した。

「そろそろ帰りますか」

4、5冊の本を鞄に入れた時に瞬が何か叫ぶのが聞こえた。

秋也が顔を上げると、目の前が真っ白な光に包まれる。

「何だ? 瞬? 瞬!?」

答える声はなく、徐々に意識が遠のいていくのを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日常(あたりまえ)の終わり。

―それはいつも突然に、何の前触れもなく訪れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

to be continued…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

序章、完です。

どうも瞬の性格が難しい。

こうして書いてみても、自分のイメージ像とも少し違う。

何はともあれ、無事(?)に秋也も日常に別れを告げることとなりました。

時間があれば、彼の様子も見てあげてください。

 

 

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