不吉なる預言者の言葉が、耳に付く。

 

 眼下に広がる凄惨な光景に、思わず目を背けたくなった。

 

 まるであの日を境に世界が変わってしまったかのように、各地で反乱が相次いでいる。

 

 今は仲間達も反乱鎮圧に狩り出され、各地を転戦している。一騎当千の実力を誇る彼等を前にしては、俄か戦力しかない反乱軍など、恒星に挑む隕石のような物だろう。

 

 しかしどれだけがんばっても、自分達は7人しかいない。だが反乱の起きた地域は、数多に及んでいる。とても、自分達だけで対処しきる事はできない。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 帝国を打倒し帝王を討ち取り、平和を勝ち取ることが出来た。

 

 だと言うのに、彼等はこれ以上何を望んでいるのだろう?

 

「・・・・・・いや」

 

 彼等が何を望んでいるか。それはもう、判りきっている事だ。

 

 だがそれは果たして、自分達の平穏を捨てでも欲しい物なのか?

 

 少年には、理解する事ができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Wing Of Evil Deity

 

 

 

 

 

 

第14話「カウントダウン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 奇妙な事に、それからの3週間はお互いに睨み合ったまま推移する事となった。

 

 その最大の理由として、カオス側の主要戦力であるユウトが、アセリアの治療に専念し始めた事が大きかった。

 

 任務よりも私事を優先するのはどうかと思わなくも無いが、治療に当ったフェルゼンの話に寄れば、後数日気付くのが遅かったら母子供に消滅していてもおかしくは無かったとの事である為、この判断は良好であったと言える。

 

 また、胎内にいる子供のオーラフォトンを抑えるに際し安全性を考慮すれば、より波長の近い者のオーラフォトンが好ましい為、ユウトは出撃を控えてそちらに専念せざるを得なかった。

 

 残るレンとナーリスだけでは、どうしても不安が残る。

 

 レイチェルはと言うと、裏切ったもののかつての味方と敵対する気は無いらしく、フェルゼンを招致したその翌日には、何処へとも無く姿を消していた。

 

 そんな訳で、一時的に戦力の低下を来たしたカオス陣営は、積極的な攻勢を控えて護りに徹する戦略に切り替えていた。

 

 一方でロウ陣営も、最大戦力の一角である《寂寥》のレイチェルが抜け、戦力的に後退した為、慎重を期して出戦を控えていた。

 

 もっとも護るロウ側にとって、時間は味方であるわけだから、カオス陣営が攻めて来ないのなら無理に攻める必要も無く、その間にマナを集めれば良い訳で、この膠着状態は願ったりの状態であった。

 

 そんな訳で3週間。

 

 両陣営は奇妙な静寂の中で、ただ緊張の度合いを刻々と増して行っていた。

 

 

 

 

 

 唸るような振動が、地下全体を満たして行く。

 

 眩い光を発するクリスタルを前にしながら、カイネルとタウラスは進捗状況を確認する。

 

「あと数日、だな」

 

 数日の内に所定の魔力量が満たされる。

 

 そうすれば、念願の邪神復活に必要なマナが揃い、同時にこの大陸の民は永劫の苦しみから解き放たれるのだ。

 

「結界の準備は?」

「それも完了している。この大陸だけは崩壊の影響から逃れる事ができるはずだ」

 

 世界の全てを破壊し尽くし、自分達だけが生き残る。

 

 身勝手としか言いようの無い解放のシナリオ。

 

 カイネル自身、身勝手だと言う事は充分に理解している。しかしもう、これしか方法が無いのだ。

 

 だからこそ選んだ。

 

 全てを破壊し尽くし、自分が悪となる事を。

 

 周辺世界からも集めたマナの量は膨大で、その爆発は、この世界のみならず周辺世界すら飲み込む事だろう。

 

 そちらはロウ・エターナル側の目論見となる。

 

 邪神復活と周辺世界の崩壊。その2つが成って、初めて全ての計画が完了するのだ。

 

 勿論、最終的に世界全てを破壊する事を願っているロウ・エターナルにとって、カイネルの計画は邪魔でしかないのだが、それはそれ、その計画のお陰で辺境世界の大半を崩壊させる事ができるのなら安い物である。また、この大陸の崩壊を後の世に回す事も、初めに交わした密約の内に含まれていた。

 

 地球と言う惑星に住んでいれば、世界は丸いと言う常識に囚われがちだが、決してそう言うわけではない。むしろそうでない場合が多い。ある世界などは、雲海の中に無数の浮島が浮いているという形状の場所もある。

 

 つまり、この大陸以外の全てを吹き飛ばしても、生活圏の存続は可能なのである。

 

「カオス・エターナル達の動きは?」

「例の酒場はジュリアに見張らせているが、例のレンとか言うエターナルが時折こちらを探っている以外は特に目立った動きは無いようだ」

 

 《千里》のジュリアの本来の役割は偵察にある。名前の通り千里先まで伸びる糸は、それぞれが探知システムになっており、あらゆる物を見通す事ができる。

 

 ただ、さすがに酒場内部には結界が張られているらしく、探る事ができないでいた。

 

「いずれにせよ、奴らも既に時間が無い事は見抜いているはずだ。必ず数日中には仕掛けてくるだろう」

「正念場だな。我々にとっても、彼等にとっても」

 

 その脳裏に映るのは、自分の誘いを振り切った幼馴染の姿。

 

 しかしそれもすぐに、未来へと馳せる想いに押し流される。

 

 彼女は、自分の誘いを断った。

 

 ならば最早、この手と声が彼女に届く事は無いのだ。

 

 決意は、既に固まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鋭い閃撃を回避しながら、反撃のチャンスを掴もうと雪を踏んで走る。

 

 しかし攻撃は巧みに逃げ道を塞ぎ、ナーリスの移動経路を塞いでいく。

 

「クッ!?」

 

 向かってきた一撃を辛うじて払い除けながら、そこがチャンスとばかりに振り返る。

 

 迸る炎が刀身を包み、空間を薙ぎ払う。

 

 しかし、

 

「温いよ」

 

 短く告げられる言葉と供に、視界一杯に蜘蛛の巣状に組まれた鎖が広がる。

 

 その蜘蛛の巣に絡め取られて、掻き消える炎。

 

 攻撃失敗を悟り、相手の攻撃に備えるナーリス。

 

 しかし、

 

「ほら、後ろ」

 

 言葉に引かれ振り返る背後から、回転しながら飛んでくるブーメランが見えた。先程の炎を掻き消した際に、既に次の手を打っていたのだ。

 

 ブーメランはナーリスの眼前で炸裂、内蔵したマナが炸裂する。

 

「キャァッ!?」

 

 思わず、その場に倒れて尻餅を突いてしまう。

 

 その首筋へ突き付けられる刀。

 

「はい、終わり」

 

 レンはやや呆れ気味な調子で告げた。

 

 

 

 

 

 ナーリスの方から、訓練の監督をしてくれと言われた時には些か面食らった物だったが、当面静観すると決めた以上、暇を持て余すと感じたレンは、それを引き受ける事にした。

 

 以来2週間。

 

 ナーリスは店の手伝いの合間、レンは敵情偵察の合間に実践的な訓練を繰り返していた。

 

 もっとも、永遠神剣を持っているだけの一般人に過ぎないナーリスの実力ではレンの足元にすら及ばず、ナーリスがこれまで勝てた事は一度も無かった。

 

「やっぱり、無謀だと思うんだけどな」

 

 溜息混じりに、レンが口を開いた。

 

「通常、訓練って言うのは、実力が近い者同士がするものだよ。でもナーリスと僕とじゃ」

「判ってるわよ」

 

 散々に打ちのめされ、項垂れたまま答えるナーリス。

 

「でも、これからの戦い、これくらいできないと、ユウトさんやレン君に着いて行けないでしょ」

「だからって・・・・・・」

 

 そもそも人間はエターナルに敵わない。これは、どう逆立ちしても変わる事は無い。仮にあらゆる次元、あらゆる世界を超越して最強の人間が居たとしよう。しかしそれが人間と言う枠に嵌まった存在である限り、最弱のエターナルにすら敵わない。

 

「レン君とユウトさんは、敵のエターナルを相手にするんでしょ。だったら、カイネル、エレン、ゼノンの3人くらいはあたしが相手にしないと。その為の訓練なのよ」

「成る程・・・・・・」

 

 理には適っている。確かにその為の訓練だと言うなら、この過剰なメニューにも納得がいく。

 

 とは言え、仮にあの3人が束になってかかってきてもレンにはあしらえる自信があるが。

 

「それにしてもさ」

 

 ナーリスは話題を変えると同時に、唇を尖らせた。

 

「レン君ってずるいよね」

「え、ずるいって何が?」

 

 突然の事に意味が判らず尋ね返すレン。一体、何がずるいと言うのか?

 

 怪訝な顔をするレンに、ナーリスは続ける。

 

「だって、何なのよ、君の永遠神剣。一体どう言う形状な訳?」

 

 そこでレンは、合点が行った。

 

 確かにレンは、一度でも見た事がある武器なら大抵の物は複製する事ができる。その事はまあ、端から見るとずるいかもしれない。

 

 レンはフッと、柔らかく笑った。

 

「僕の永遠神剣は、僕の心臓なんだ」

「心臓?」

 

 意外な言葉に、ナーリスは目を丸くした。

 

 心臓。言うまでも無く内臓の中で中心に位置し、血液を全身に行き渡らせる高性能ポンプの役割をしている器官である。という事はレンは、自分の中に永遠神剣を持っていると言うことになるのか?

 

「そ。正確に言えば、融合してるの。元々形の無かった永遠神剣その物と僕の心臓が。まあ、能力自体は神剣が元々持ってた物なんだけどね」

 

 もっとも、制限が全く無いわけではないのだが。それでも相手の武器の特性に合わせて武器選択を行えば、相当有利な戦いを展開できるのも事実だ。

 

 事実、今の訓練でレンが使った武器は槍、鎖、ブーメラン、刀の4種類。他にも、普段から愛用する弓を含めて、レンが使える武器は数10種類にも及ぶ。それだけあれば、実力的に上な相手にも先手を打てる。

 

 レンはふと何かを思ったか、ナーリスが傍らに置いておいた《陽炎》を取って構える。

 

「どうしたの?」

「ちょっとね・・・」

 

 抜き出された緋色の刀身が、揺らめくような波紋を描いて炎を形成している。

 

 美しい刀身を見やりながら、レンは無言のまま何事かを考えている。

 

 その様子に何かを思い出したのか、ナーリスが尋ねた。

 

「そう言えばレン君、この間変な事言ってたよね。この剣を持つ人なら、どうとか・・・」

「あ、ああ、そう言えば・・・・・・」

 

 剣を片手にしながら、昨日そんな事を言っていたのを思い出す。

 

「もしかしてレン君、この剣の事知ってるの?」

「ん、ちょっと、昔居た国でね」

 

 国という言葉に興味を引かれたのか、ナーリスは身を乗り出してくる。

 

「そう言えば、レン君が居た国ってどんな所だったの?」

「え、僕が居た国?」

 

 そう言えば今まで何度か話題の端に上った事はあったが、詳しく話した事はなかった気がする。

 

 振り返ると、まるで尻尾を振る犬のような表情をしたナーリスの顔があった。興味津々なその顔は、今にもレンに飛び掛ってきそうな勢いだ。

 

「あ〜・・・・・・」

 

 できれば話したくないのだが、どうにも話さないと離してくれそうに無い雰囲気がある。

 

 仕方なく咳払いをすると、口を開いた。

 

「僕の居た国は『セフィロ』って言う名前だったんだ」

「セフィロ?」

 

 当然ながら、聞いた事は無い。

 

「統一魔導王国セフィロ。その名の通り、あらゆる世界を、魔法技術を使ったネットワークで繋ぎ、行き来を容易にする事で、1つに纏め上げて作った国だったんだ」

「へえ・・・・・・」

 

 宇宙には色々な世界が存在すると言う事は既にレンから聞いて知っていたが、そこまで突拍子の無い話を聞かされるとは思っても見なかった。

 

 スッと目を閉じるレン。

 

 その脳裏に浮かぶ、かつて自分の周りにあった安らぎ。

 

 長きに渡る戦いを制し、ようやく勝ち取った平穏。

 

 だが、

 

 その平穏を壊したのは他でもなく、

 

「さて」

 

 雪を払いながら、ナーリスは立ち上がった。

 

「それじゃあ、もう少しやろっか」

「え、まだやるの?」

 

 意外な面持ちで尋ねるレンに、当然とばかりに頷くナーリス。

 

 どうやらこの分だと、本当にカイネル達3人を同時に相手にしかねない。

 

 仕方なく、レンも腰を上げた。

 

 

 

 

 

 妊婦の腹が膨らみ始めるのは、大抵出産前1ヶ月前後と言われている。

 

 そのせいもあるのだろう。この3週間でアセリアの腹は、目に見えて膨らんでいた。加えてそれまでは、アセリア自身のオーラフォトンが胎児の成長を阻害していた節があるため、普通の人間よりも変化は劇的であった。

 

最早介添え無しでは、起き上がる事すら困難である。

 

 その腹を、優しく夫の手が撫でる。

 

「あ・・・」

「どうした?」

 

 急に声を上げたアセリアに、振り返るユウト。

 

 少女の顔はやや上気し、微かに笑みを浮かべているのが判る。

 

「動いた」

「ほ、ほんとか!?」

 

 勢い込んで身を乗り出すユウト。

 

 その手をそっと掴むと、アセリアは自分の腹に持っていく。

 

「ほら」

 

 だが、残念な事にその掌にはアセリアの体温以外の物は感じられない。

 

「何にも感じないぞ?」

「そんな事無い。さっき、ほんとに動いた」

 

 唇を尖らせて抗議するアセリアを、ユウトは判った判ったと言ってなだめる。

 

 しかし、

 

 ユウトは今しがた触れたアセリアの腹を見ながら、感慨深く笑みを浮かべる。

 

 3週間前、アセリアの妊娠を宣告された時は動転するばかりで、その事実を受け入れる事が全く出来なかった。

 

 だが今、こうして大きくなったアセリアの腹を見て、ようやく実感も湧いてくる。自分が父親になるのだという実感が。

 

「男の子と女の子、どっちだろう?」

「さあな。でも、どっちでも元気に産まれてくれれば俺は嬉しいよ」

「ん、そうだな」

 

 治療に当っているフェルゼンは知っているのだが、2人はあえて聞かない事にした。その方が、産まれた時の嬉しさが何倍にも膨らむと思ったからだ。

 

 その時、ドアが開いてメヴィーナが入ってきた。手には湯気の立つ食事が乗っている。

 

「おっと、お邪魔だったかい? 食事の時間なんだけど」

「いや、構わないさ」

 

 言われて、空腹気味であることに気付いた。

 

 苦笑する。

 

 どうやら時間を忘れるほど、アセリアと語らっていたらしい。

 

 アセリアが身篭った事を知って以来、放っておいても毎日が楽しく感じてしまう。あまりに舞いあがって、アセリア自身に窘められた事もあったくらいだ。

 

『ん、ユウト、落ち着け。産むのは私だ』

 

 その言葉に、その場に居た全員が爆笑したくらいである。

 

 だが、

 

 浮かれてばかりもいられない。

 

 レンに頼んで、逐一城の監視をしてもらっているし、その報告も聞いている。

 

 ロウ・エターナルの計画は着々と進行中で、間もなく完了の兆しがあるとの事だ。

 

 その時、開いた扉から当のレンが入ってくるのが見えた。

 

「ユウトさん、ちょっと良いですか?」

「ん、ああ」

 

 運ばれてきた食事に未練はあるが、レンがわざわざ呼びに来ると言う事は重要な用件なのだろう。

 

「すまないメヴィーナ、後は頼む」

「あいよ」

 

 アセリアの世話を引き継ぎ、ユウトは出て行く。

 

 その背を見送ってから、メヴィーナはアセリアに向き直った。

 

「起きれそうかい?」

「ん」

 

 ゆっくりと身を起こすアセリア。その背に手を入れ、メヴィーナが手伝う。

 

 腹が膨らんでいる為、座る事ができない。そこで、大きめのクッションを腰の裏に当てて支えにするようにしていた。

 

「もうすぐ産まれるね」

「判るのか?」

「そりゃあ、2人も産んでるからね」

 

 当たり前の事に目を丸くするアセリアを、メヴィーナは可笑しそうに笑う。

 

 見た感じあと2週間。早ければ1週間ちょっとで産まれるかもしれない。

 

 メヴィーナは微笑みながら、スッと目を細める。

 

 愛おしい娘を見るようなその視線は、どこか物悲しさを含んでいるかのようだ。

 

「元気な子に育てるんだよ。あんた達両親が、ちゃんと2人で面倒を見てね」

「ん、判ってる」

 

 そう言ってからアセリアはふと、ある事に気付いて尋ねてみた。

 

「そう言えば、メヴィーナ」

「何だい?」

「ロミナ達の父親はどうした?」

 

 言ってから、アセリアはふと、触れてはいけない話題であったかもしれないと思った。

 

 その言葉が出てから、メヴィーナの顔が見るからに曇ったのだ。

 

「死んだよ」

 

 案の定、予想した答が返ってきた。

 

「作業中の事故でね。似たような事が毎年何件か起こっているから、珍しくも無いさ」

 

 この地方では深い雪の下から天然資源を掘り出して生活の足しにしている。メヴィーナの夫は、その作業中に事故に遭い他界した。

 

「聞いた話だと、生き埋めになった仲間を助けようとして、自分まで巻き込まれてしまったって言うからね。間抜けな話さ」

「・・・・・・すまない」

 

 頭を下げるアセリアに、笑みを浮かべるメヴィーナ。

 

「良いんだよ。もう大分前、ロミナがまだ生まれたばっかりの頃の話さ」

 

 実際、アセリアの目から見てもメヴィーナは立派だと思う。女手1つで、こうして2人の子供を育てているのだから。

 

 いずれ子供が産まれる身として、このような母親になりたいと思った。

 

 

 

 

 

「ここ数日マナの流れは、確実に緩やかになってきています」

 

 テーブルを囲んで、レン、ユウト、ナーリスが向き合っている。

 

 そこへ厨房からロミナがお茶を運んでくる。

 

 最近ではナーリスが手を放せない時、こうして彼女が店の手伝いをしている。

 

 そのお茶を啜りながら、話は進めて行く。

 

「概算ですが、破断の宝珠に既定量のマナが集約されるのは恐らく一両日。もっと早ければ、今夜にでも完了するかもしれません」

「そんなにか」

 

 アセリアの看病に掛かりっきりであったとは言え予想よりも遥かに早い進行に、ユウトは思わず舌を打つ。

 

 カイネルの計画である世界の崩壊と邪神の復活は、既にすぐそこまで迫っていると言ってよかった。

 

 最早猶予は許されない。決戦の機運は、否が上でも高まる。

 

「敵のエターナルは2人、他に3人の神剣使い。障害はこの5人に限られると思います」

 

 最大の問題となる敵エターナルが1人減ってくれたのは嬉しい。これで数の上では拮抗した事になる。だが残る3人の神剣使いの存在は大きい。たとえ低位神剣の主とは言え、戦っている最中に横合いから手出しされたのでは、溜まった物ではない。

 

 それに、障害はまだある。

 

「城の兵士達が向かってきたらどうするの?」

 

 ナーリスの言葉に、2人のエターナルが頭を抱え込む。

 

 勿論、向かって来るなら容赦はしない。手加減や逡巡をしている余裕は最早無い。

 

 しかしそれでもやはり、自分より格下の者を圧倒的な力の差で蹂躙するのは気分の良い話ではない。

 

 ユウトはフッと苦笑を浮かべた。

 

 かつて供に剣を並べて戦った友ならば、たとえ相手がどんな相手だろうと容赦無く切り捨てて前へ進んだ事だろう。

 

 あれから数周期経った今でも、自分は戦場に立つと躊躇してしまう所がある。それだけは今だに変わっていなかったし、これから変えるつもりも無かった。

 

 しかし自分の矜持とこの世界とを天秤に掛ける事はできない。今の自分に求められているのは、彼と同じくらいの意思と力なのだ。

 

「そこは、僕がやります」

 

 レンが言った。

 

「何か、案があるのか?」

「はい。ようは、殺さずに戦闘不能にすれば良いのでしょう? なら、何とかなるかもしれません」

 

 自信たっぷりに言うレンに、ユウトは頷く。どのような手段があるのか判らないが、できると言うのなら任せようと思った。

 

「よし。なら残る問題は、タウラス、ジュリア、ゼノン、エレン、カイネルの5人だけだな」

 

 それでも不利である事に変わりは無い。だが、これ以上体勢を整える余裕も、手持ちの時間も無い。

 

 立ち上がる、レン、ユウト、ナーリス。

 

 互いの顔を見て、頷き合う。

 

 決戦の鐘の音は、すぐそこまで聞こえてきていた。

 

 

 

 

 

第14話「カウントダウン」