抜け出ると同時に吹く風が、頬を撫でる。

 

 懐かしい風だ。もう、何年も忘れたままだったような気がする。

 

 暫し目を閉じ、その感触に身を委ねる。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 頬を撫でる風が、今は心地良い。

 

 供にある存在から、抗議の声が上がるのを無視し、瞳を閉じる。

 

 ここは、最南端。かつての決戦の地。

 

 戦いの息吹はより北、王都の周辺から発せられているのが判った。

 

 目を開く。

 

 急がねばならない。

 

 大分、追い詰められているようだ。

 

 間に合わなかったら、元も子もない。

 

「・・・・・・間に合ってくれ。」

 

 呟くと同時に、足を早める。

 

 漆黒の風が、幻想の大地を駆けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大地が謳う詩

 

 

 

第33話「死闘、そして・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 敵来襲の報を聞き、既にラキオス王都は臨戦体勢を整えていた。

 

 今回の敵は、数にして約6倍。かつて無いほどの戦力比である。しかも、その大軍は3方に分かれ、街道沿いにラキオスに向けて進軍してきている。

 

 対するラキオス王国軍も、総司令官《因果》のコウイン直接指揮の下、こちらも3隊に分かれて迎撃戦を展開、ラース、ラセリオ、エルスサーオの3都市を最終防衛ラインとし、眦を決して迎え撃つ。そして全ての戦力を有機的に運用する為に、王都には総司令部を設置、その陣頭指揮を執るのは、女王レスティーナ本人であった。

 

「難民の王都内への収容は完了していますか?」

「ハッ、既に。」

 

 傍らに控えたエリオスが報告する。

 

 今度の敵は、スピリットをも上回る力を持つエターナルミニオン。スピリットにすら敵わない人間の兵士は、まったくと言って良いほど役に立たない。

 

 だがもし、スピリット隊の防衛線が崩れたら、正規軍兵士は王都を守る最後の盾となるのだ。もっとも、そのような自体となれば、最早打つ手は、滅びの瞬間を僅か瞬きの一瞬でも遅らせる事くらいだろう。しかし、今ここに居る人間の兵士達は、誰一人として希望を捨ててはいなかった。

 

 彼等は皆、信じている。

 

 ラキオス軍のスピリット隊は、今まで困難な戦局を常に覆し、祖国に勝利をもたらして来た。だからこそ、信じる事ができる。彼女達が居れば、負けることは無いと。

 

「陛下。城門を閉めます。これ以上開けておくのは、無意味かと。」

「判りました。」

 

 頷くレスティーナを見て、エリオスは配下の兵士に城門を閉めるよう指示を出す。

 

 敵が防衛網をすり抜けて、この王都に直接攻めかかってくる可能性も否定できない以上、王都の防衛力を少しでも上げておく必要がある。

 

「侵略された各都市との連絡はどうなっていますか?」

「うんにゃ、駄目だ。」

 

 レスティーナの言葉に答えるように、手を振りながら現れたのはヨーティアだった。先程まで研究室に詰めていたのだろう。よれよれの白衣に、眠そうな目をしている。彼女自身、決して諦める事無く、これまでエターナル侵攻に備え、打てる限りの手を打って来ていた。その為、今まで休む間はほとんど無かったであろう事は、その憔悴しきった顔を見れば一目瞭然であった。

 

「どのエーテル通信も、うんともすんとも言わん。こりゃ、軍施設は真っ先にやられたと見るべきだね。住民が無事である事を祈るしかないよ。」

「・・・そうですか。」

 

 かつてマロリガン戦の折、多大な労力を払って構築、領土内に張り巡らされた早期警戒監視システムは、今や各所において寸断され、その意義を失っている。その事が、人の身のレスティーナをして、相手の恐ろしさを伝えてきている。

 

最早レスティーナには、信じて祈る以外にする事が無かった。

 

「スピリット隊の配置状況は?」

「既に、完了していると3都市に散った連中から連絡が来た。」

 

 そう言いながら、ヨーティアはレスティーナの横に腰を下ろした。

 

「さてと、正念場だね。」

「ええ。」

 

 想いは飛ぶ。

 

 最前線へ。

 

 

 

 

 

 

「抜刀隊、斬り込み準備だ!!」

 

 コウインの声が響く。

 

 手にした《因果》が、戦いの息吹を感じ、歓喜を上げるのが判った。

 

 その背後には、永遠神剣を構えたスピリット達が見える。

 

 ラースの街に布陣したコウイン以下ラキオス軍本隊は、神剣魔法を使えるスピリットを中央に配置、その側面にコウインが指揮する抜刀隊を配置した。

 

 作戦としては、魔法で相手の陣形を崩し、抜刀隊が崩れた敵陣内に切り込みを掛けると言う物だった。

 

 既にラース外周部付近にある家々は軍に接収され、屋根の上、2階の窓、陰などに身を潜めたスピリット達が魔法を発射態勢に入っていた。

 

 既に大地を揺るがさんばかりの足音は、コウイン達の耳にも聞こえてきている。決戦の狼煙は近かった。

 

「さて、」

 

 《因果》を肩に担ぎ、コウインは呟く。

 

 兵力差はざっと5倍。キョウコが少数戦力での出撃を承諾してくれたお陰で、コウインの本隊、及び、エルスサーオに向かったエスペリア隊はある程度戦力を整える事が出来、彼我の戦力差は僅かばかり埋まった。

 

 だが、そんな物が気休め程度にしかならない事は語るまでも無い。

 

 相手はスピリットと同じ姿とは言え、その実力はエトランジェ並みに匹敵するエターナルミニオンである。つまり、戦力比の数字はその字面通りとはいかないだろう。実質の戦力比は7〜8倍。下手をすると、二桁の大台に乗る可能性がある。

 

 にもかかわらず、風を受けて立つコウインの瞳には、不敵な笑みがある。それは決して、迫る死を感じ悲観している顔では無い。明らかに、これから戦いに赴く武人の顔だ。

 

 その視界の果て、蜃気楼が浮かぶ。

 

 前線に立つレッドスピリット達が神剣を構えた。

 

 揺らぐ蜃気楼は急速にその幅を広げ、視界を埋めていく。

 

 それを見て、コウインは前に出た。

 

「さてと、始めるか。特に面白くも無いが、死にたくもないしな。」

 

 

 

 一方、エルスサーオの防衛に就いたエスペリア隊は、最強戦力であるトキミを中心に陣形を組んでいた。

 

 場所は、エルスサーオ手前の平原。かつての、ラキオス、バーンライト古戦場跡である。トキミは自身の実力を見極め、あえて篭城ではなく野戦を選択したのだ。

 

「良いですか、敵のミニオンは全て、私が引き受けます。皆さんはサポートをお願いします。」

 

 永遠の存在である巫女は、そう言って前方を注視する。

 

 100人と言えば普通であるなら尻込みもしたくなる。だが、エターナルであるトキミからすれば、決して多い数ではない。軽く蹴散らす事も、決して不可能ではない。

 

 だが、問題はそこではない。

 

 問題なのは、トキミは1人しかいないと言う事だ。

 

 どんなにがんばっても、一度に守れる場所は一箇所。敵将テムオリンは、それを見越して大兵力での飽和攻撃を敢行してきたのだ。

 

 戦術的にはラキオス最強のトキミも、戦略的に見れば無力に近かった。

 

 急がねばならない。この方面の敵を殲滅し、なるべく速やかに多方面。特に、手薄なラセリオの防衛に赴かねばならなかった。

 

 その時、地平線上で軍気が上がるのを感じた。

 

「来ます!!」

 

 トキミの鋭い声と供に緊張が走る。

 

 手にした短剣を掲げ、トキミはオーラフォトンを展開した。

 

 

 

「来たわね。」

 

 キョウコは口に軽い笑みを浮かべて、呟く。

 

 彼女が率いる部隊の、これが初陣となる。

 

 震えが来る。

 

 これから始まる戦いは、絶望的と言う言葉すら遠い。

 

 質、両供に敵が圧倒している。サシの勝負で唯一、互角に戦えそうなのはキョウコ、少し無理をしてウルカくらいであろうか。

 

 キョウコの額にも、冷や汗が滲む。

 

 布陣した場所は、街中ではなく、その手前。キョウコもまた、トキミ達同様、篭城ではなく野戦を選択した。

 

 キョウコは周囲の顔ぶれを見回す。

 

 ウルカ、ネリー、シアー、ヘリオン、ルル、そしてキョウコを入れて6人。

 

 たったの6人。これだけが、ラセリオ防衛隊の全戦力だった。他にもグリーンスピリットが2名居るが、実力的には2線級で、回復役以外期待できそうに無い。実質この6人で、他の隊が加勢に来てくれるまで耐えなければいけなかった。

 

 誰かが言った。少数精鋭での利点は、少数ゆえの機動性と精鋭ゆえの攻撃力であると。逆に欠点は、精鋭であっても少数でしかない事から、一度守勢に回れば脆い一面があるという事。

 

 ならば、自分はどうすれば良いか、考えてみた。

 

 普通に守るのは却下。大兵力の前に押し潰されるのは目に見えている。

 

 答えは出た。

 

 それは、機動性を十全に活かし、敵の戦線をかき乱す。これを持って時間を稼ぎ、敵の進軍を遅らせる。これが、キョウコの出した結論だった。

 

 キョウコは知らないが、これを防御攻勢と言う。防御を主目的に限定的に攻勢に出る。戦力の劣る側が、時間稼ぎの為に執る戦法である。

 

 キョウコは、腰から《空虚》を抜く。

 

 この神剣、正直、今でも好きになれない。これがあったせいで、自分は地獄の如き苦しみを味わった。これさえなければ、自分はもっと、別の人生を歩めたはずだ。

 

 そんな思いが、脳裏を駆け巡る。

 

だが忌まわしいはずのこれが、今は最高に頼もしく思える。

 

「さってと、始めようか!!」

 

 刃を掲げ、高らかに宣言する。

 

 刀身には紫電が纏われ、精神が昂ぶる。

 

「あたしの攻撃と同時に突撃、頼むわよ、皆。」

 

 一同が頷く。

 

 次の瞬間、視界の彼方で気配が弾けた。

 

「イッケェェェェェェ!!」

 

 放たれる電撃。

 

 視界の彼方で、敵の前線が崩れる。

 

「続け!!」

 

 一声掛けると同時に、ウルカを先頭にヴァルキリーズが突撃した。

 

 キョウコは後方に留まり、更にチャージを行う。

 

 直接的な攻撃力ならキョウコが一番だが、スピードでは大幅に劣らざるを得ない。だからこうして、後方からの支援砲撃に徹するつもりだ。

 

 先頭を進むウルカが、敵前線に取り付いた。

 

「ハァ!!」

 

 鞘走る《冥加》。

 

 先頭にいた赤ミニオンが、その一撃で胴を切り裂かれる。

 

 そこへ、ネリー、ルル、ヘリオン、シアーの順で続く。

 

 次々と突入し、剣戟が舞う。

 

 ラキオスの中でもトップクラスを誇るスピリット5人の攻撃に、僅かにエターナルミニオン側の足並みが乱れる。

 

 しかし、それも一瞬の事、すぐに押し包むように迫るミニオン達を前に、乱れは修復されていく。

 

 対するヴァルキリーズは、一丸となって、お互い離れずに突撃する。考案しておいた戦闘時の陣形の1つである。

 

 小さな楔が、巨木に打ち込まれるような感じであろうか。ただ1つ、この楔は自らの意思で自在に動き回り、巨木を食い散らす事が出来るのだ。

 

 その状態のまま、まるで1つの砲弾のようになって突撃した。

 

 

 

「まだだ、引き付けろ。」

 

 ともすれば激発しそうになる味方を、コウインの冷静な声が引き止める。

 

 マロリガン軍を指揮し、長く侵攻して来たラキオス軍を苦しめた名将は、迫る敵軍を見据える。

 

 怒涛の勢いで迫るエターナルミニオン達。

 

 コウインは微動だにしない。

 

「引き付けろ、もっとだ。」

 

 既に、スピリット達は周囲のマナに呼びかけ、魔法を撃てる体勢を整えている。

 

 どの顔にも、緊張の色がある。

 

 前方から来るアレは、死の波だ。触れただけで、命を奪われるかもしれない。

 

「まだまだ、引き付けろ。」

 

 その錯覚を切り裂くかのようなコウインの声が、鼓膜に飛び込む。

 

 その声は低いにも拘らず彼女達の耳に浸透し、昂ぶった精神を落ち着けて行く。

 

 危機的状況に際して冷静でいられる指揮官と言う物は、それだけで貴重と言えた。それが圧倒的不利な状況下であるならば、なおさらだ。

 

「引き付けろ、まだまだ・・・・・・」

 

 緊張がせめぎ合う。

 

 次の瞬間、コウインは動く。

 

 ゆっくりと振り上げた腕を、その数倍するスピードで振り下ろした。

 

「撃てェ!!」

 

 大気が一気に活性化する。

 

 迸る熱気が形を成し、高らかに迸る。

 

 炎に変換されたマナは、間近まで迫った敵の前衛に叩き付けられた。

 

 ギリギリまで引き付けられた事で、モロに喰らったエターナルミニオン達の戦線が、中盤辺りまで一気に切り裂かれる。

 

「手を緩めるな。撃ち続けろ!!」

 

 続けざまにチャージが行われ、魔法が放たれる。

 

 迸る炎が再び辺りを薙ぎ払う。

 

 それでも、襲い来るミニオン達を相手は、一向にその数を減らす事無く迫ってくる。

 

「よし。」

 

 コウインは《因果》を掲げる。

 

 充分とは言えないが、それでも敵の前線はそれなりに崩れた。後は、このチャンスを逃す事無く、一気に敵を切り崩す。

 

「全員、俺に続け!!」

 

 コウインの声と供に、待機していた抜刀隊が切り込みを掛けた。

 

 先頭を進むコウインが、崩れた敵前衛に襲い掛かる。

 

「ウオォォォォォォ!!」

 

 振り翳される、大振りな神剣。

 

 迎え撃とうとした青ミニオンが、神剣ごと胴を真っ二つにされる。

 

『行けるか!?』

 

 旋回しつつ、振るわれる《因果》。

 

 対してミニオン達も、コウインが主力と読んだのだろう、一斉に攻撃を仕掛けてくる。

 

「チッ!?」

 

 さすがに複数が同時に相手となると、きついだろう。

 

 後退を掛けて、体勢を戻そうとするコウイン。

 

 しかしミニオン達はそれを許さず、間合いを詰めてくる。

 

「コウインさん!!」

 

 振り返ると、背後にいたセリアが援護する体勢を整えている。

 

 放たれる複数の魔法が、コウインを取り囲もうとしていたミニオン達を包み込む。

 

 だが、

 

「何ッ!?」

 

 その攻撃は、ミニオン達が張る障壁の前にけんもほろろに弾かれてしまった。

 

「クッ!!」

 

 牽制失敗と見ると、セリアは《熱病》を振るって切り込み、コウインの背後を守るようにして立つ。

 

「各部隊、連携を崩すな。絶対に1人で戦わないようにしろ。相手は手強いぞ。」

「了解よ。」

 

 2人は頷き合うと、各部隊を掌握すべく再び散った。

 

 

 

 ほぼ同時刻、エルスサーオでも戦闘が開始されていた。

 

 迎え撃つのは混沌の永遠者、カオス・エターナル。時の神に愛され、その権能を受け継ぎし巫女。

 

「行きます!!」

 

 その身にオーラフォトンを纏わせ、トキミは敵陣に切り込む。

 

 手にした《時詠》が、鋭く輝く。

 

 複数のミニオン達がトキミに向けて刃を繰り出す。

 

 しかし、

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 トキミは薄く笑う。

 

 時を統べる力を持つトキミには、既にその先の未来が読めている。それは、セツナの持つ青龍の未来予測など及びもつかない程正確な物である。

 

 視界に閃光が迸る。

 

「え?」

 

 見ていたエスペリアは、一瞬呆けた様に口を開いた。

 

 次の瞬間、トキミを取り囲んでいたエターナルミニオン達は、一斉にその身から金色の塵を迸らせる。

 

 その中に佇む、天上の国より遣わされし巫女。

 

 その様は、まるで金色の野にて舞うが如く、幻想の中にある。

 

 トキミは素早く身を翻らせる。

 

 緋色の袴と同色のリボンが、風を孕んで翻る。

 

 その手には、人型にくり貫いた紙が握られている。

 

「ハッ!!」

 

 トキミは、それを敵陣に向かって投げつけた。

 

 次の瞬間、紙はトキミと全く同じ姿に変わる。同時にトキミ自身も、敵陣に切り込みを掛ける。

 

 オーラフォトンを込めた紙型を、自在に動かして使役する。これを日本古来の呪術で「式神」と言う。

 

 2人のトキミは、まるで鏡に映したかのように、まったく同じ動きをして敵を翻弄する。しかも、紙から生み出された式神もまた、トキミと同じ能力を有している。

 

 一定のオーラフォトンで動く式神は、暫くすればその動きを止める。

 

 だが、トキミ本人はその動きを止めない。

 

 更に《時詠》を掲げ、切り込んでいく。

 

 その後を、エスペリア以下の部隊が続く。

 

「突撃隊形、トキミ様に遅れないように続くのです!!」

 

 エスペリア自身も、《献身》を手に駆ける。

 

 それにしても驚くべきは、エターナルの戦闘能力である。まるで自分達の戦いが児戯に等しいかのような戦いぶりである。これでは確かに、スピリット達の出番は無きに等しい。

 

 だがそれでも、トキミの戦線を突破したミニオン達がそれぞれの神剣を手に、迫ってくる。

 

「クッ!!」

 

 《献身》を持つ手に力を込める。

 

 自分達の背後にはエルスサーオの街がある。そこを越えれば王都だ。

 

 何としても、それを許すわけには行かなかった。

 

 エスペリアは《献身》の穂先を向け、突撃した。

 

 

 

 

 

 

 幾何学的な文様が、壁一面を覆っている。

 

 その一角に佇む男は、静かに目を閉じて、五感を研ぎ澄ます。

 

 伝わってくる戦いの息吹。マナの狂乱が、開戦の狼煙となる。

 

「始まりましたか。」

 

 《冥界の賢者》ハーレイブは、静かに呟く。

 

 目の前に浮かんだ《冥府》が、マナの揺れに共鳴し、静かに揺れている。

 

 ここまでは、ひとまず順調と言えた。

 

 今、ファンタズマゴリアにある抵抗戦力は微少でしかない。それは、強大な自分達の力からすれば、ほんの僅かに過ぎない。

 

「しかし・・・・・・」

 

 その脳裏に映るのは、ある少年の存在。

 

 強き意思を胸に秘めた、不屈の戦鬼の如き少年。

 

 あの少年は、今この世界に居ない。少し前に出て行った事までは把握しているが、それ以降の足取りをトレースする事は出来なかった。

 

 恐らく、何らかの形で自分達に対抗する手段を模索しに行ったのだろう。

 

 更に後2人、《求め》のユウトと、スピリットの少女が1人、こちらはカオス・エターナルの手引きでこの世界を出ている。こちらの行き先は恐らく、カオス・エターナルの拠点の1つ『時の迷宮』。あそこに保管されている永遠神剣と契約するつもりなのだろう。

 

 虚空に手を伸ばす。

 

 そこに現れる、数枚のカード。

 

 自身のオーラフォトンに共鳴したカードは、ばらけてハーレイブの周りを旋回し始める。

 

 その内の1枚を無造作に抜き取り、目の前に翳す。

 

 その絵柄には、鎌を掲げる死神の絵柄がある。

 

 ジョーカーである。

 

「・・・・・・・・・・・・」

「良くない気のようですね。」

 

 背後から、緋色の髪を靡かせた女が現れる。

 

 腰に下げた剣が、静かにその存在感を誇示する。

 

「良くない、と言う程の物でもないです。」

 

 現れたアーネリアに、ハーレイブは笑いかける。

 

「ただ、先が読めないと言うのは確かです。」

 

 そう言うと、手にしたカードをアーネリアに投げる。

 

 飛んできたジョーカーのカードを受け取ると、アーネリアはその図柄を見る。

 

 黒い死神が鎌を掲げ、迫ってくる図。ただのカードとしてみれば、大した事は無い、数ある絵柄の内の1つに過ぎない。

 

 だが、ハーレイブが行う占いに掛かれば、それはおぞましい結果へと直結する。

 

「知っての通り、切り札は切り所を間違えれば、不利を招き入れます。」

 

 ハーレイブはスッと手を伸ばし、バラけたカードを全て回収する。

 

「故に、使う時は慎重を期さねばならない。」

「だから、テムオリン殿は、今回の作戦に最大の戦力を割いたのでは? 敵が弱体化している今こそが、叩き潰すチャンスのはずです。」

「そうなのですが・・・・・・」

 

 言い淀みながら、カードをもう1枚抜き取った。

 

 今度は、スペードのエース。

 

 ハーレイブは、かすかに眉を顰めた。

 

 ジョーカーの次のスペードのエース。過去に何度占っても、このパターンから抜ける事ができない。

 

「切り札の登場。そして始まりへ、ですか・・・・・・」

 

 順調だった自分達の作戦を、根底から覆しかねない存在が近付いてきている。

 

 どうやら、それは間違いないようだ。

 

「アーネリア。」

「ハッ」

 

 名を呼ばれ、アーネリアは膝を突く。

 

 この忠臣に対し、ハーレイブは笑みを向けて言った。

 

「どうやら今回の戦いはある意味、何らかの序章となるかもしれませんよ。」

「は?」

 

 さすがに意味が判らず、尋ね返す。

 

 しかしハーレイブはそれ以上語らない。ただ笑みを浮かべて、虚空を眺めているだけだった。

 

 

 

 時という物は、4次元に属している。それはすなわち、2次元や3次元をも制する事が出来る事を意味している。

 

 オーラフォトンを身の内に高めたトキミは、一気にそれを開放する。

 

 瞬きの間、すらなかったかもしれない。

 

 気が付くとエスペリア達は、戦いで受けた傷や疲労が一切無くなり、戦闘開始前の状態へと戻っていた。

 

「これは・・・・・・」

「時間を戻しました。」

 

 戸惑う一同に、トキミはニッコリ微笑む。

 

 手にした《時詠》が、鋭く光る。

 

「さあ、一気に殲滅しましょう。」

 

 ここに来るまでに、既にトキミ1人で半数以上のエターナルミニオンを倒している。

 

 だと言うのに、トキミは今だに息を切らしていなかった。まさに、1人で一軍に匹敵する程の戦力である。

 

 対峙するエターナルミニオン達には、そんなトキミに対して怯んだ様子は無い。ロウ・エターナル達に忠実になるよう誕生段階からプログラミングされたミニオン達に、死への恐れは無い。ただ、命令どおりに行動するのみである。

 

 虚ろな瞳で神剣を掲げ、ゆっくりと進軍してくる。

 

 だがそれでも戦力の大半が失われ、指揮系統に齟齬が生じている。半数以上のミニオンが倒れた事で、戦線が崩壊しつつあるようだ。

 

「さて、もうひとふんばりですね。」

 

 トキミは再び地を蹴り、先頭を切って切り込んだ。

 

 

 

 マナの援護を受けて、ウィング・ハイロゥが羽ばたく。

 

 足を止めれば、その瞬間にやられる。スピードこそが命だ。

 

 ネリーに迫り来る敵は4体。

 

「ん!?」

 

 身を屈める。

 

 そのすぐ頭上を、4本の刃が駆け抜ける。

 

 それをやり過ごすと同時に翼を羽ばたかせ、上空に逃れる。

 

 そこへ今度は、対空砲火のように炎の弾丸が放たれる。

 

「クッ!!」

 

 それらの炎に対しネリーは、払いのけ、あるいはシールドで防ぎながら逃げ回る。

 

「ネリー、下がって!!」

 

 その声に従い、錐揉みするように体を急速落下させ、その場を離れる。

 

 一拍置いて、紫電が空中を駆け抜け、そこに居た青ミニオンや黒ミニオンを薙ぎ払う。

 

 着地したネリーは、すぐに後退、味方の傍まで戻る。

 

「前に出すぎよ。連携崩さないで!!」

「ごめん。」

 

 前線を上げ、前に出たキョウコが陣の中心に立つ。

 

 その脇を固めるように、ウルカとヘリオンの、2人のブラックスピリットが立つ。

 

「ウルカ、ヘリオン、先頭切って。他は2人に続いて突撃!!」

「承知。」

「判りました!!」

 

 頼もしい返事が返ってくる。

 

 キョウコ自身、《空虚》に紫電を纏わせて切り込みの準備を始める。

 

 その傍らで、ネリーも《静寂》を握る手に力を込めた。

 

 不意にその脳裏に、あの影が過ぎる。

 

 黒いロングコートをはためかせ、周囲に殺気を振り撒く男。

 

 手にした曲刀が煌く様は、まさに死神。

 

 だが、そんな後姿を思い浮かべるだけで、なぜこんなにも安心できるのだろう?

 

 顔も知らない。名前さえ知らない。そもそも、存在するかどうかすら怪しい人物だと言うのに。

 

「どしたの、ネリー?」

 

 傍らに立ったルルが、怪訝な顔で尋ねて来た。

 

「ん、あ、いや、何でもないよ、うん。」

 

 1人で納得して頷いてみる。

 

 ルルは「そう。」と頷いて、前方に視線を戻した。

 

 ネリーやハリオン、ウルカ等の尽力もあって、この元帝国軍の少女も、既にラキオスの一員として溶け込んでいた。

 

 思えば『ヴァルキリーズ』は随分奇妙な部隊と言えた。隊を構成するメンバーの内、半分が元々は敵国からの帰属スピリットで、その内の2人が隊長と副隊長なのである。

 

 それだけオープンな人事ができるようになったのも、レスティーナの政策ゆえだった。

 

 だからこそ今、その戦いをここで終わらせる訳にはいかないのだ。

 

「参ります!!」

 

 ウルカの鋭い叫びが響く。

 

 それを合図に、ブラックスピリット2人が突撃する。

 

 目の前には、壁のように迫る大軍。

 

 最前列に位置する赤ミニオン達が一斉に炎を放ってくる。

 

 対してウルカとヘリオンは、低空を這うようにして飛びながら飛んでくる炎を回避、自身の間合いに飛び込む。

 

「いっけェェェェェェ!!」

 

 それを援護すべくルルが、手にしたマナを解放する。

 

「カオス・インパクト!!」

 

 広がるマナが黒く変色する。

 

 マナの波が一気に前線を飲み込んで、道を作る。

 

 そこへ、今度は紫電を纏ったキョウコが突撃する。

 

「おりゃァァァァァァ!!」

 

 およそ少女とは思えぬ程の雄叫びと供に、キョウコは突撃する。

 

 短距離での突撃力ならば、キョウコはラキオス随一である。まともに喰らったエターナルミニオン達が、片っ端から吹き飛ばされていく。

 

 しかし突撃を止めた瞬間、それを囲むように数人のエターナルミニオンが迫る。

 

 キョウコは突撃を終えたばかりで、すぐには動けない。

 

 迫る、複数の刃。

 

 しかし、

 

「「アイス・バニッシャー!!」」

 

 割り込むように立ったネリーとシアーが、アイス・バニッシャーを放つ。

 

 しかし、直接的な攻撃力の低いアイス・バニッシャーでは、エターナルミニオン相手にダメージを負わせる事も難しい。もちろん2人とも、そんな事は承知している。

 

 放たれた吹雪によって、キョウコを囲もうとしていたエターナルミニオン達の動きが一瞬、遮られる。

 

「今だ!!」

「うん!!」

 

 2人は同時に切り込み、一瞬無防備になったエターナルミニオン達を斬り捨てる。

 

 キョウコ、ウルカ、ヘリオン、ネリー、シアー、ルルは敵陣の真ん中に立ち、それぞれの神剣を構えて円陣を組む。

 

 対決戦用として組織されたヴァルキリーズ。選りすぐられた精鋭中の精鋭達は、少数ながらも善戦し、必死の思いで大軍を食い止めていた。

 

 対するエターナルミニオン達も、包囲するように部隊を展開し、ヴァルキリーズの6人を包み込もうとする。

 

 だが、それができない。

 

 スピード重視で選抜されただけあり、6人は巧みに動き回り、包囲網の完成を阻害する。

 

 これが、キョウコの狙いだった。

 

 少数で多数を相手にする時に重要なのは、足を止めない事。包囲網の完成を許せば、その時点でアウトである。

 

 エターナルミニオン達も、この動き回る厄介な存在を疎ましく感じながらも、その圧倒的な攻撃速度の前に無視して進軍する事もできず、手を焼いていた。

 

 この分で行けば予定通り時間を稼ぎ、他の方面から援軍が来るまで時間を稼げるだろう。

 

 そう考え始めた時だった。

 

 突如、地平線の彼方で強大な力が弾ける。

 

 形成されたオーラフォトンは、大地を割りながら急速にヴァルキリーズに向かってくる。

 

「クッ、散れ!!」

 

 それにいち早く気付いたウルカが叫ぶ。同時に自身は、飛べないキョウコを抱えて上空に飛び上がる。

 

 ややあって、他の4人もウィング・ハイロゥを広げて上空に舞いあがった。

 

 そこへ、圧倒的な力を秘めた刃が大地を割りながら駆け抜ける。

 

 刃はそのまま戦場を駆け抜けランサの街を貫き、さらにリュケイレムの森にまで達する。

 

 まさに、圧倒的。このような大威力の攻撃、今まで見た事は無かった。

 

「こ・・・これって・・・・・・」

 

 呆然とした調子で、キョウコは呟く。

 

 一体何が起きたのか、とっさには把握できなかった。

 

 ゆっくりと、視線を刃が伸びてきた方向に向ける。

 

 地平線に、砂塵が舞っているのが見える。しかし、刃の発生源を見る事は出来ない。

 

「一体、どこから・・・・・・」

 

 やがて、砂塵がゆっくりと晴れていく。

 

 その中から、2つの影がゆっくりと現れた。

 

 1人は大柄な男。筋骨隆々とした体に、《因果》をも上回るほど巨大な剣を持っている。

 

 もう1人はこちらも男だが、こちらは比べ物にならないくらいの細身で、手には大小2本の剣を持っている。

 

「あれって・・・何?」

「あれは・・・まさか・・・・・・」

 

 尋ねるキョウコ、答えるウルカ、どちらも声が震えている。

 

 頭では判っている。だが、感情が必死に否定しようとしていた。

 

 「それ」の存在を、

 

「エター・・・ナル・・・・・・」

 

 誰かが、ポツリと言った。

 

 あれ程の遠距離から、ランサの街を両断するほどの一撃を叩き込むことの出来る存在など、それ以外に考えられなかった。

 

「まずい、わね。」

 

 キョウコは、額から冷や汗が落ちるのを感じた。

 

 まさか、この時点でエターナルが出てくるなど、予想すら出来なかった。

 

 確かにヴァルキリーズは対エターナル戦闘も考慮に入れて訓練を重ねてきたが、それでもそれは、他の部隊の援護があっての話だ。単独で戦える程の力があるわけでは無い。

 

 周囲にはまだ、多数のエターナルミニオン達が存在する。それらを無視してエターナルに戦力を集中する事はできない。

 

 一方で、斬撃を放った大男は残心を解いた後、手にした大剣を肩に担ぎ上げ、つまらなそうに鼻を鳴らした。

 

「この程度か。まさか、テムオリン様の予想が、こうも見事に当たるとはな。」

 

 《黒き刃》タキオス。ロウ・エターナル《法皇》テムオリンの腹心をしている剣士である。かつて、マロリガン戦の折、ユウトを罠に嵌め、アセリアが心を失う遠因を作った男である。

 

そしてその傍らに立つ男は、同じくロウ・エターナルで《水月の双剣》メダリオと言う。こちらは端正な美貌を持つ青年だが、整い過ぎた顔立ちは、逆にどこか、不気味さをかもし出している。

 

 今回のラキオス攻撃作戦において、2人は指揮官として参陣していた。

 

 テムオリンの見立てでは、ラキオスは地の利があり、比較的防御に容易なランサには少数の兵力しか配置していないだろうと予想し、タキオスとメダリオをここに配置したのだ。一気にラキオス軍の防衛線を突破、中枢を殲滅する作戦を命じたのだった。

 

 そして、その作戦は見事に的中した。いかにエトランジェを含むとは言え、ランサ守備隊は僅か6人。これでエターナルを含む部隊を防ぐなど、天地が砕けても不可能である。

 

「タキオス殿。」

 

 テムオリンが、スッと前に出た。

 

「でしたらここは、僕に任せてもらえませんかね?」

「貴様に?」

「はい。」

 

 尋ねるタキオスに、メダリオは頷く。既に両手に持った双剣、第三位永遠神剣《流転》を掲げ、目の前の敵を切り刻む瞬間を心待ちにしている。

 

 その様子に、タキオスは眉を顰める。

 

 ロウ・エターナルであり、命令とあれば、時には策を弄する事も厭わぬタキオスではあるが、その本質はより強いものと正々堂々と戦いたいと言う戦士のそれである。故に、弱い者をいたぶる事に快楽を見出すメダリオには、嫌悪感を覚えずにはいられない。

 

 とは言え、これも任務だ。

 

「良いだろう。」

 

 どのみちあの程度の戦力、メダリオ1人居れば充分な事だ。わざわざ自分が手を下す事も無いだろう。

 

 そう考えたタキオスは、自身の持つ第三位永遠神剣《無我》を地面に突き立て、腕を組んで観戦モードに入った。

 

 許可を取ったメダリオは、表情を動かさず、それでも内心では嬉々として歩き出す。美しい物を自らの剣で切り刻める興奮に、今から酔い痴れているのだ。

 

 その視界の先では6つの影が、神剣を構えるのが見えた。どうやらミニオン迎撃を諦め、対エターナル戦にシフトしたようだ。

 

「いい、あいつ等を速攻で倒したらリュケイレムの森に取って返すわよ。いくらあいつらでも、森を抜けるには暫く掛かるはず。その間に体勢を立て直す。質問は?」

 

 皆、言葉は無い。あまりに穴だらけの作戦だが、今はそれに賭けるしかないのは確かだ。

 

 そのキョウコ達の目に、ゆっくり歩を進めてくる細身の男の姿が見える。

 

 その瞬間、キョウコの心の中で喝采が上がった。

 

 どうも様子からして、先程の攻撃はあの大男の攻撃によるもののようだ。ならばもう一方の男には、あんな非常識一歩手前くらいの攻撃は無いはず。なら、勝機はある。

 

 そんな感じにキョウコは「楽観」してしまった。

 

「みんな、包囲陣形で一気に叩くわよ!!」

 

 キョウコの掛け声と供に、一斉に散る6人。

 

 対してメダリオは、手にした双剣を掲げ、

 

「ッ!?」

 

 次の瞬間、キョウコは目を見開いた。

 

 目にも止まらぬ速さで、無数の真空刃が繰り出される。

 

「ッ!?」

 

 とっさにシールドを張り、真空刃を防ぐキョウコ。

 

 しかし、

 

「きゃあ!?」

「あうっ!?」

 

 後背に回り込もうとしていたシアーとヘリオンが、真空刃の直撃を喰らって空中でバランスを崩し、墜落する。

 

「シアー、ヘリオン!!」

 

 とっさに駆け寄ろうとするネリー、

 

 だが、

 

「次はあなたです。」

 

 その前に立ちはだかるように、メダリオが立つ。

 

 手にした2本の神剣を、猛禽の翼を広げるようにして構えている。

 

「うっ!?」

 

 思わず息を飲むネリー。その瞬間、2本の刃は振り下ろされる。

 

 そこへ、

 

「ハッ!?」

 

 割り込むような黒い影、

 

 高速で切り込んだウルカが、メダリオの左の剣を弾く。

 

 しかし、右の剣までは止められず、刃はウルカの左肩を薙いだ。

 

「クッ!?」

 

 鮮血を流しつつ、ウルカは辛うじてメダリオの間合いから離れる。

 

「ウルカ!!」

 

 駆け寄るネリー。対するウルカは、油断無くメダリオに視線を向けている。

 

「何の、傷を負ったのは左腕。利き腕は無事です。」

 

 確かにウルカの利き腕は右だ。そして居合いは、動きが鈍くなる事を無視すれば、取り合えず利き腕が無事なら出来る。

 

 だが、問題なのはそこでは無い。

 

 ウルカはラキオスのスピリットでは、およそ戦闘能力においてトップの実力者である。だからこそ、ヴァルキリーズの副隊長に任命されたのだ。

 

 そのウルカの実力を持ってしても、メダリオの攻撃を防ぎ切れなかった事が、より顕著に戦慄を呼ぶ。

 

「ネリー殿。」

 

 《冥加》を鞘に収めながら、ウルカが言った。

 

「ここは手前達に任せて、ヘリオン殿とシアー殿を回収し、後退してください。」

「でもウルカ、怪我・・・」

「何のこれしき、」

 

 ウルカは笑みを浮かべて、肩を回してみせる。途中で少し顔を顰めたが、それでも無理をすれば普通に動いた。

 

「手前は大丈夫です。だから、2人を早く。」

「判った。」

 

 頷くネリー。そこへ、キョウコもやって来る。

 

「ルルにも手伝うように頼んでおいたから、その間、あいつは、」

 

 キッと、メダリオを睨む。

 

 ウルカは前傾姿勢を取り、《冥加》の柄に手を当て、キョウコは《空虚》の切っ先を、真っ直ぐメダリオに向ける。

 

「私達が抑えとくから!!」

 

 次の瞬間、《空虚》の切っ先から紫電が迸る。

 

 それと同時に、ウルカは地を蹴って駆けた。

 

 対するメダリオは迫る紫電に対し、一瞬体を揺らしたかと思うと、次の瞬間には射線上から消え去る。

 

 虚しく、何も無い空間を駆け抜けていく紫電。

 

 しかし、

 

「そこ!!」

 

 メダリオの移動先を的確に見切ったウルカが、ウィング・ハイロゥを広げて急追する。

 

 向かう先は一見、何も無い空間。しかしウルカの驚異的な動体視力は、メダリオの常人離れしたスピードに、辛うじて追い付き、必殺の間合いに双剣の永遠者を捉える。

 

「月輪の太刀!!」

 

 抜刀のスピードと遠心力を、そのまま威力に変換した居合いがメダリオに迫る。

 

 対してメダリオは無言。その端正な顔立ちを全く動かさず、迫るウルカの剣を受け止める。

 

 両者、鍔迫り合いで一瞬動きを止める。

 

 その一瞬の隙を突いて、メダリオはもう一方の剣を翳して、ウルカを斬り付けようとする。

 

 そこへ、

 

「貰ったァァァ!!」

 

 動きを止めたメダリオに、キョウコが切っ先を真っ直ぐ向けて突撃してくる。

 

 鋭い三段突きの後、更に両脇から挟み込むように、両側から横薙ぎに一撃ずつ。その間、僅か1秒。それだけの間に5発の斬撃を叩き込む。しかも、両側への回避は不可能。

 

 エトランジェの身体能力を最大限に上乗せした一撃。事実上、回避不可能な攻撃である。

 

 しかし、

 

「ぬるい・・・・・・」

 

 低い呟きと供にメダリオは右の剣を一閃、キョウコが放った5連の攻撃は、悉くメダリオの一撃で弾かれた。

 

「嘘・・・」

 

 必殺と思った攻撃をいともあっさり弾かれ、呆然とするキョウコ、そこへカウンターとしてメダリオの剣がキョウコを襲う。

 

「あァ!?」

 

 メダリオの攻撃は、下から逆袈裟にキョウコを襲う。

 

 とっさに体を仰け反らせて回避するが、刃はキョウコの胸を掠める。その一撃で、ブレストアーマーが斬り飛ばされる。

 

「キョウコ殿!!」

「まだまだ〜!!」

 

 痛みを堪え、キョウコは立ち上がる。傷は浅い、まだ、戦える!!

 

 右からキョウコが、左からはウルカがメダリオに迫る。

 

 対してメダリオは素早く両者に視線を投げる。

 

 両側から迫る2本の刃。対するメダリオは、なおも動かない。

 

『『とった!!』』

 

 2人は確信を込めて、刃を繰り出す。

 

 しかし次の瞬間メダリオの体は2人の前から掻き消えるように消失し、両者の刃は虚しくお互いにぶつかり合い、金属音が響き渡る。

 

「え!?」

「な!?」

 

 驚く2人。

 

 その一瞬の隙に、メダリオはキョウコの背後に回り込んだ。

 

「キョウコ殿!!」

 

 ウルカが叫ぶが、遅い。

 

「え?」

 

 振り返ろうとした瞬間、キョウコは背中に熱い衝撃を感じた。

 

 振り返った視線には、2本の刃を振り切ったメダリオの姿がある。

 

 一瞬の間を置いて、キョウコの背中から血が噴き出した。

 

「キョウコ殿!!」

 

 ウルカの声にも答えることができず、その場にくず折れるキョウコ。その手から《空虚》が滑り落ちて、地面に転がる。

 

 斬撃は背中から骨を断ち、内臓に達する重傷だった。

 

「おのれ・・・」

 

 倒れるキョウコの姿に、ウルカの怒りは静かに沸点を差す。

 

 《冥加》を鞘に収め、前傾姿勢になる。

 

 ウィング・ハイロゥを一杯に広げ、高速で間合いを詰める。

 

 対してメダリオは両手の《流転》を広く構え、ウルカを迎え撃つ。

 

「雲散霧消の太刀!!」

「フッ!!」

 

 すれ違う両者。

 

 鍔鳴りの音すら聞こえない程、高速の斬撃が繰り出された。

 

 一拍の間を置いて着地。

 

 次の瞬間、ウルカの体から血が噴き出す。

 

「なっ!?」

 

 驚愕の表情と供に、ウルカは己の体を見やる。

 

 全身数十箇所から、血が吹き出ている。傷自体はそれ程深くないのだが、それでもこの傷は、致命傷と言って良かった。

 

「ば、馬鹿な・・・・・・」

 

 信じられなかった、自分がスピードで負けるなど。

 

「クッ・・・・・・」

 

 それでも渾身の力を振り絞り、メダリオに向き直る。

 

 諦めるわけにはいかない。自分が負けたらラセリオが抜かれ、王都がエターナルの脅威に晒される。何としてもここで食い止めねば。

 

 だが、その渾身の力を嘲笑うかのように、メダリオはウルカを蹴り倒した。

 

「グッ!?」

 

 背中から倒れるウルカ。その胸をメダリオは踏み付ける。

 

 その時、今までほとんど動かなかったメダリオの表情が初めて動いた。

 

 それは、愉悦。抵抗する力を失ったウルカを見て、明らかに楽しんでいる。

 

「クッ、こんな・・・・・・」

 

 悔しさが込み上げる。

 

 こんな下衆に抵抗も出来ない自分が、悔しくて仕方なかった。

 

 そんなウルカを嘲笑いながら、メダリオは《流転》を振りかぶる。

 

「良い顔です。それえでこそ、僕の剣で斬られるのに相応しい存在ですよ。」

 

 死刑宣告と供に振り下ろされる刃。

 

 しかし次の瞬間、

 

「タァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 天空から降り注ぐ声と供に、蒼い弾丸が急降下してくる。

 

「ッ!?」

 

 とっさに振り返ると同時に、ウルカを離して身を捩るメダリオ。

 

 煌く刃が、掠める。

 

「クッ、失敗!?」

 

 渾身の奇襲だったのだが、あっさりとかわされてしまった。

 

 大地に降り立ったネリーは、倒れているウルカとキョウコを庇うように、メダリオの前に立ちはだかる。

 

 シアーとヘリオンを護送してから、そちらをルルに任せ、全速で戻ってきたのだ。

 

 まさに間一髪。後数瞬悪遅ければ、ウルカの命は失われていた事だろう。

 

 対するメダリオは無表情のままネリーを見据え、この新たな乱入者相手に《流転》を構えようとして、

 

 その動きを止めた。

 

 頬から、金色の塵が流れていく。

 

 無言のまま、頬に手を当てる。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 その目を、ゆっくりとネリーに向ける。

 

 幼い、まだ力の弱い妖精だ。

 

 こんな相手に、自分が・・・・・・

 

 自分が・・・・・・

 

 膨れ上がった殺気に、一瞬ネリーは気圧される。

 

 次の瞬間、メダリオの体を光る球体が包み込み、そこから無数の衝撃波が撃ち出される。

 

「ッ!?」

 

 息を飲むネリー。

 

 とっさにかわそうと思い、膝を撓める。

 

 だが、すぐに思い止まった。

 

背後にウルカとキョウコが倒れている以上、ネリーはここから動く事が出来ない。ただ足を止めて、防御に専念するしかないのだ。

 

「ッ、シールド!!」

 

 とっさに水のシールドを張り、衝撃波を防ぎに掛かる。

 

 だがエターナルの攻撃の前に、ブルースピリットのチャチなシールドなど、薄紙以下の存在でしかない。

 

 一瞬の拮抗も許されずに切り裂かれたシールドは、主を守る事も敵わず消滅。衝撃波はネリーに襲い掛かった。

 

「キャァッ!?」

 

 直撃を受けた左足に激痛が走る。

 

 どうにか崩れそうになる膝を堪える。

 

 しかし次の瞬間には、右肘を斬られ、その手から《静寂》が弾け飛ぶ。

 

「クッ!?」

 

 とっさに空いた左腕で、右肘を押さえるネリー。

 

 そんなネリーの様子に、メダリオは冷笑を向ける。

 

「別に、逃げても良いんですよ。」

 

 《流転》を翳しながら言う。もちろん、ネリーが逃げられない事を知っていて、言っているのだ。

 

 もしネリーが逃げれば、メダリオは嬉々として後ろのキョウコとウルカを狙うだろう。だから何としても、ネリーはここに立ち続けなければいけないのだ。

 

 ネリーは唇を噛む。

 

 次の瞬間、再びメダリオの衝撃波が襲い掛かってくる。

 

 対してネリーは、ありったけのマナをシールドに注ぎ込み、迎え撃つ。

 

 連なるようにして襲い来る衝撃波。

 

 ぶつかり合う障壁と衝撃波。

 

 渾身の力で張ったネリーのシールドは、3撃目までは余裕で耐えた。

 

そして、さらに3撃は辛うじて耐えた。

 

 しかし合計で7撃目に入った瞬間、四分五裂に切り裂かれ消滅、衝撃波はネリーを襲った。

 

「うあァァァァァァ!?」

 

 全身を切り刻まれる感覚に、ネリーは悲鳴を上げる。

 

 先程ウルカが喰らったのとほぼ同等の攻撃に、ネリーの小さな体は吹き飛ばされる。

 

「ネリー殿!!」

 

 辛うじて意識を保っていたウルカが、顔を上げる。

 

 その目の前に、吹き飛ばされたネリーの体が転がる。

 

 衣服は切り裂かれ、全身に裂傷を負っている。流れ出る鮮血が、マナの塵へと変わっていく。

 

 通常ならば、立つ事すら叶わないような重傷だ。

 

 だが、それでもネリーは立ち上がった。

 

 全身から血を流し、どう考えても重傷の体だと言うのに、それでも両足に力を込め、ゆっくりと立ち上がる。

 

「ネリー殿、もう良い!!」

 

 逃げろ、ウルカがそう言っているのが聞こえる。

 

 だが、ネリーは逃げない。

 

 落ちていた《静寂》を拾うと、無事な左手で構える。

 

「負けない・・・・・・絶対に・・・負けない・・・・・・」

 

 うわ言のような言葉。

 

 だがそれでも瞳に強い光を宿し、ネリーは立つ。

 

 その姿にメダリオは、かすかに眉を顰める。そして再び、衝撃波を撃ちだす。

 

 最早ネリーには、シールドを張るだけの力は無い。

 

 無数の衝撃波がネリーの体を直接襲い、斬り刻む。

 

 だが、それでもネリーは倒れない。

 

 大地に根が生えたように、その場に立ち尽くす。

 

 まるで、ここに最後までたち続けることこそが自分の戦いだと主張するかのように、頑なに倒れる事を拒み続ける。

 

「しつこいですね!!」

 

 業を煮やしたように剣速を速めるメダリオ。

 

 次の瞬間、

 

「ウワァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 雄叫びのような声と供に、ネリーは急速に周囲のマナを取り込み、ダイレクトに《静寂》の刀身に送り込む。

 

 既に足は、その機能の大半を喪失し、立っているだけで精一杯の状況である。

 

 しかしあえて言う、彼女にとって足など飾りに過ぎないのだ。

 

 何故なら、彼女の背中には羽根があるのだから。

 

 雄雄しく広がるウィング・ハイロゥ。

 

 目一杯広げられたネリーの翼は、風を受けて羽ばたく。

 

 中天まで飛び上がり、そのまま急降下、一気にメダリオに向かう。

 

「ヤァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 振り翳される刃。

 

 しかし、

 

「残念ですが、」

 

 メダリオは落ち着き払ったまま、両手の《流転》を振るう。

 

「あなたではどう足掻いても、僕には勝てませんよ。」

 

 交差される一閃。

 

 次の瞬間、ネリーは右肩から袈裟懸けに斬られ、そのまま地面に叩き付けられた。

 

 2度、3度と、衝撃を殺しきれずに小さな体は地面にバウンドして止まる。

 

「終わりです。」

 

 地面に突っ伏したままのネリーを冷ややかに見据え、吐き捨てるように言った。

 

 随分手こずらせてくれたが、これで終わり。

 

 そう思って踵を返した時だった。

 

 背後からの音に振り返ってみる。

 

 そこには、ボロボロに傷付きながらも《静寂》を杖代わりにして立ち上がろうとしているネリーの姿がある。

 

「馬鹿な・・・・・・」

 

 信じられないと言った面持ちで、メダリオはネリーを見る。

 

 既に戦える状態では無い事は、一見して判る。全身に傷を負い、意識も恐らく平常を保ってはいないだろう。

 

 だがそれでもネリーは、何かに突き動かされるようにして、何度も立ち上がってくる。

 

「クッ!!」

 

 舌打ちしつつ、《流転》を構え直そうとするメダリオ。

 

 しかし次の瞬間、メダリオが剣を振り下ろすよりも先に、豪風のような一撃がネリーを直撃した。

 

 ネリーの小さな体は、錐揉みしながら舞い上がり、そのまま再び地面に叩き付けられた。

 

「・・・・・・・・・・・・まったく。」

 

 その様子を見ていたメダリオが、舌打ち混じりに呟いた。

 

「僕に任せてくれる約束だったでしょう。」

「時間を掛け過ぎだ。俺達には任務がある事を忘れるな。」

 

 メダリオの抗議に対し、ネリーにとどめの一撃を放ったタキオスは、自身の持つ大剣、第三位永遠神剣《無我》を肩に担ぎながら言った。

 

 その言葉にメダリオは軽く舌打ちしながらも、渋々ながら従う。確かに、これ以上この妖精に時間を掛けて、万が一にも作戦が遅延でもしたら、後でテムオリンから何を言われるか分かったものでは無い。

 

 だが、戦いはまだ終わっていなかった。

 

 全身に傷を負い、意識も朦朧とし、タキオスの攻撃を受けてなお、ネリーは立ち上がって見せた。

 

「ネリーは・・・絶対に・・・諦めない・・・・・・」

 

 うわ言のような言葉。

 

 だが、その脳裏には、なおもあの人の影が浮かぶ。

 

 あの人なら、こんな時、絶対に諦めない。だから、自分も、絶対に諦めない。

 

 もう、体に力が入らない。立ち上がろうとする足は言う事を聞かずくず折れ、どうにか《静寂》を杖にして、上体を起こすのがやっとだ。

 

 そこへ、メダリオが歩み寄る。

 

 右手の剣をスッと掲げ、ネリーの頬に当てた。

 

「いい加減諦めなさい。無駄な足掻きは見苦しいだけですよ。」

「クッ・・・・・・」

 

 悔しさから唇を噛む。その痛みが、飛びそうになる意識を辛うじて繋ぎ止める。

 

 だが、最早それは意味の無い行為だった。

 

「メダリオよ、とどめを刺してやれ。」

「ええ、判ってますよ。」

 

 タキオスの命令口調に少し苛立ちながらも、メダリオは剣を振り被る。

 

 ネリーは何も出来ない。立ち上がる事も、《静寂》を振り被る事も、

 

 最早、何をする力も、少女は持ち合わせていなかった。

 

 彼女に出来ることはただ1つ、差し迫った己の運命を受け入れる事のみ。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 そこには、絶望など無かった。

 

 この人生最後の瞬間になって浮かぶのはただ1つ、自分の心を埋め尽くすあの男の事だった。

 

 自分の心を奪い、切ない想いを押し付ける存在。

 

『結局誰なのか、判らなかったな・・・・・・最後まで・・・・・・』

 

 ゆっくりと、目を閉じる。

 

 その瞳から、一筋の涙が零れる。

 

 せめて一度だけ、会って話がしたかった。

 

 だがもう、それは叶わぬ願いだ。

 

 振り下ろされるメダリオの刃。

 

 ネリーの中で、全ての事象が意味を失う。

 

 次の瞬間だった。

 

 唐突に、

 

 全くの唐突に、

 

 後方でその様子を眺めていたタキオスは、

 

 背後の地平線上において、何かとてつもなく大きな力が膨れ上がるのを感じた。

 

『何だ?』

 

 振り返る。

 

 だが、視界には何も捉える事は出来ない。

 

 だが、その気配は確かにある。むしろ、先程よりも大きくなっているのを感じる。

 

『何か、強大な力を持つ物が、近付いて来ている・・・・・・』

 

 メダリオが振り下ろした刃が、座り込むネリーに迫る。オーラフォトンを込められた刀身は鈍く輝き、傷付いたネリーにとどめを刺すには充分な力を持っている。

 

 次の瞬間、立ち尽くすタキオスの脇をすり抜け、一陣の風が戦場に吹き込んだ。

 

 それは、一気に駆け抜る。

 

 振り下ろされた刃から迸るオーラフォトンの奔流が、多大な砂塵を巻き上げる。

 

 しかし、振り下ろされた刃に手応えは無く、切っ先は虚しく地面を抉った。

 

 吹き荒れる砂塵が、一瞬視界を遮る。

 

「な、何が!?」

 

 手応えが無い事に戸惑うメダリオ。

 

 すぐ近くに居たメダリオでさえ、何が起こったのか理解できなかった。

 

 やがて、砂塵が晴れる。

 

 視界が回復し、先を見通せるようになる。

 

 そこに立つ、漆黒の影。

 

 若い男、恐らくまだ、少年と呼んでも差し支えなさそうな年齢だ。漆黒のロングコートを羽織っている。背中には大振りな鞘が1本あり、その両端に1本ずつ剣が収められている。

 

 その腕には、ボロボロに傷付いたネリーが抱えられている。

 

「・・・・・・よく頑張ったな。もう、大丈夫だ。」

 

 優しい声が、消えそうになるネリーの意識に飛び込んでくる。

 

「貴様・・・何者だ?」

 

 タキオスが、殺気を込めた視線を持って尋ねる。

 

 振り下ろす直前だったメダリオの刃の下から、ネリーを救ったのだ。そのスピードは尋常では無い。

 

「俺か?」

 

 呼びかけに対し、少年はゆっくりと振り返る。

 

「・・・・・・俺は・・・中立の永遠者・・・ニュートラリティ・エターナル・・・・・・」

 

 低い声だ。にも拘らず、その声は広大な戦場にあってよく響く。

 

「・・・・・・永遠神剣第二位《絆》の主・・・・・・」

 

 漆黒に彩られた殺気と供に、少年は名乗った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・《黒衣の死神》・・・セツナ。」

 

 

 

第33話「死闘、そして・・・・・・」     おわり