漆黒の闇の底。

 

そこに響く声は、2種類。

 

「・・・・・・ほう、そのような事が。」

 

 青年の落ち着きに満ちた声。

 

《予想外でしたわ。まさか、これ程早く体勢を立て直してくるとは・・・》

 

 幼女とも、老婆とも取れる声。

 

「せめて、もう少し時間を稼げなかったのですか? 現段階では作戦実行には程遠い状況ですよ。」

《仕方がないでしょう。トキミさん1人でも充分厄介だというのに、あちらにはあの男まで加わっているのですから。》

「確かに、彼が相手では、さしもの音に聞こえたあなたでも荷が重いでしょうね。」

《皮肉なら、後で聞きますわ。それよりも、》

「分かっています。足を止めればいいのでしょう?」

《お願いしますわ。こちらはまだ、タキオス以外の手駒が揃っていませんので、トキミさんの牽制が精一杯ですから。》

「良いでしょう。追加料金の交渉は後ほどゆっくりさせて頂きますよ。」

 

 そう言うと、青年は通話を打ち切る。

 

「さてと、どうしますかねえ。」

 

 言いながら、杖を片手に立ち上がる。

 

「とりあえずセツナ君には、餌になってもらいましょうか。彼を誘き出す、ね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大地が謳う詩

 

 

 

第15話「天使の想い」

 

 

 

 

 

 

 マロリガン共和国首都、大統領官邸執務室。

 

 ここで今、コウインは1人の男と対峙していた。

 

 浅黒く焼けた肌と、鋭い目付き、心の内を読み解くことが出来ないほどの奥深い雰囲気を湛えた男である。

 

 彼こそがマロリガン共和国現大統領クェド・ギンである。

 

「よくやってくれた。さすがは、我が国のエトランジェだ。」

「さすが、ねえ。」

 

 大統領の言葉に、コウインは肩を竦めた。

 

「そりゃ大将の方だろ。一応原理は聞いていたけど、マナ障壁発生装置ってのか? 安全圏にいても背筋が寒くなったぜ。あんなもんまともに食らったら、俺達だって危ない。あんたが敵じゃなくて、本当に良かったよ。」

 

 絹を着せぬ言葉使いだ。コウインは、例え相手が大統領であろうと、媚を売るつもりはない。そんなコウインを、クェド・ギンも気に入っている。その為、この2人の間では水面下での同盟が成立していた。

 

 コウインは自身の力をクェド・ギンに貸す。その替わりクェド・ギンは永遠神剣《空虚》に飲まれたキョウコの精神を元に戻す方法を探る。それが、同盟の条件であった。

 

「ところで、ランサはいつ落ちる?」

「結構かかるだろうな。北方を制しただけあって、ラキオスのスピリット達は手強いぞ。それに、エトランジェの存在も大きい。」

「強いのか?」

「《求め》のユウトの方は大した事は無い。どれだけ強くても、今の奴の心には迷いがある。迷いがある奴の剣は必ず鈍る。多分今頃、俺達が敵に回った事で、葛藤しているだろうぜ。」

 

 そう言ってから、コウインはフッと笑みを浮かべた。

 

「ま、そこがあいつの良い所なんだけどな。」

「そうか、では、」

「ああ、問題はもう1人の方。《麒麟》のセツナだ。」

 

 そう言うと、コウインは肩に手をやる。そこは、先の戦いでセツナに傷付けられた場所である。もちろん、永遠神剣での攻撃でなかったから大した傷ではなかったし、既に回復魔法で傷口も塞いである。

 

 しかし、問題は傷その物よりも、その攻撃を行う際にセツナが惜しげもなく迸らせていた殺気の方だった。

 

「奴には、俺達に対する遠慮って物がまったく無かった。少しくらいは、手加減してくれるかと思ったんだけどな。」

「奴と、お前達は向こうの世界で友人同士ではなかったのか?」

「いや、顔見知りってレベルだな。それほど仲が良かった訳じゃない。」

 

 だが、

 

 と、コウインは思う。

 

『朝倉の奴、俺達を斬るのに、少しも躊躇おうとしなかった。これからの戦い、ユウトよりも奴の方を警戒すべきだろうな。』

 

「《麒麟》のセツナには、俺もいささか苦い思いがある。」

「は? 大将が、何でだ?」

「開戦前の事だが・・・」

 

 クェド・ギンはラキオスによる北方制圧とレスティーナの即位を知った時には既に、近い将来、マロリガンとラキオスの間で戦端を開く事を、自身の政策の内に織り込んでいた。そこで、少しでも時間を稼ぎ、ラキオス軍の宣戦布告を遅らせる策として、ラキオス内部における内乱を画策していた。そこで彼は、前ラキオス王時代からの旧臣達を炊きつけ、軍事クーデターを起こさせようと画策したのだ。

 

 しかしその謀略は、1人のエトランジェの策略によって水泡に帰してしまった。

 

 そのエトランジェこそ《麒麟》のセツナである。

 

「クーデターその物が成功する必要は無かった。要は、こちらの体勢が整うまでの時間が稼げればよかったのだが・・・」

「結果的に、朝倉の奴がクーデターの発生から鎮圧までをコントロールしちまったから、全てパーになったって訳か。」

「ああ。こちらの介入でクーデターを引き起こすのと、鎮圧側が発生から鎮圧まで掌握していたのでは、稼げる時間が雲泥の差だからな。」

 

 そう言ってから、クェド・ギンは立ち上がった。

 

「とにかく、予定外の事はいくつかあったが、これでこちらの体勢は整った。まずはラキオスを叩き、帝国を戦いの場に引きずり出す。全ては、それからだ。」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 クェド・ギンの言葉を黙って聴いているコウイン。だが、その言葉の端端に、妙な引っ掛かりを覚えるような気がしてならなかった。

 

 

 

 

 

 

 彼方の視界で2軍に分かれたスピリット達が、戦闘を行っている。

 

 それを眺めながらセツナは、手にした書類に手早く状況を書き記していた。

 

「どうだ、イオ?」

 

 書く手を止めてセツナは、傍らの女性に声を掛ける。

 

 彼女の名はイオ・ホワイトスピリット。ヨーティアの助手であり、自身も建築士、訓練士として高い能力を持つスピリットである。

 

 ホワイトスピリットは大陸でも見掛ける事の少ない貴重な存在であるという。と言う事は、ここで彼女と接する機会を得た事は幸運だったのかもしれない。

 

「そうですね。」

 

 自身も戦況を見守りながら、イオは言った。

 

「ファーレーン様の隊はよく状況を見て臨機応変に対応しておられます。この分なら、問題は無いでしょう。セリア様の隊は、もう少し地形の変化を良く見て、柔軟に対応するよう、指導する必要があります。」

「あいつの癖だな、正攻法に頼りすぎるのは。基本は大事だが、砂漠ではこれまで培ってきた基本は役に立たない。むしろ1つの事に固執せず、状況の変化に柔軟に対応する頭が求められるな。」

 

 セツナはその事を、書類に書き留める。

 

 現在ラキオス軍は、ランサの手前で部隊間における演習を行っていた。

 

 このランサまで後退して数日、既に何度かマロリガン軍の奇襲を受けている。

 

 その際セツナは、徹底的に野戦を避け、ランサ内に篭っての篭城戦に徹した。

 

 砂漠戦ではマロリガン軍に一日の長がある事は、既に緒戦でハッキリしている。それが分かっていて、不利な状況に身を投じる気はなかった。

 

 今回の演習に際し小隊長にそれぞれセリアとファーレーンを置き、ファーレーンの隊には襲撃役を、セリアの隊には防衛役を配して、襲撃戦と防衛戦、双方の演習を一度に行っている。午前中はこの布陣で演習を行い、休憩を挟んだ午後からはまた、攻守を入れ替えて同じ演習を行うのだ。こうする事によって、効率的な演習を行える事になる。

 

 この演習に際しセツナは、国内に残留していた旧デオドガン所属の商人達を招致し、意見を聞いていた。彼等は皆、マロリガン軍によるデオドガン侵攻の際、ラキオスに行商に来ていた為に難を逃れる事が出来たのだ。

 

 彼等の中には、実際にスピリットを指揮して砂漠戦を戦った事がある者もあり、その意見は大いに参考になった。また、彼等の処遇についてセツナは、レスティーナに進言し、国から助成金を出す事でラキオス国内で新たに商売を始める事にも成功していた。

 

 また、幸いな事に、訓練士兼建築士としてラキオス軍に籍を置く事となったイオが、砂漠戦の知識を持っており、直接スピリット達の指導に当たる事になった。

 

 天候、風向、風力、気温、あらゆる要素によって刻々と変化する砂漠の地形。1時間前の地形が1時間後に同じであるとは限らない。それらを予測し、いち早く自軍を優位なポジションに持って行けるかが、砂漠を制する鍵と言えた。

 

 演習もひと段落した頃であった。

 

「セツナ様。」

 

 正規軍の兵士が、セツナの傍らに来て片膝を突いた。

 

「どうした?」

「ハッ、本陣のユウト様より、至急お戻り頂きたいとの事です。」

「ユウトが? 分かった。すぐ行くと伝えろ。」

「ハッ」

 

 突然何事だ、と思案しつつ、手にした書類を手早く仕上げていく。

 

 やがて、彼方の砂丘からスピリット達が顔を見せ始める。

 

 それを確認してからセツナは、書類をイオに渡すと、後事の指導を託し、自分はランサ内に設置されたラキオス軍本陣へと足を向けた。

 

 

 

「ああセツナ、来たか。」

 

 司令部にやってきたセツナを認め、ユウトが振り返った。

 

「悪いな、忙しいところ。」

「いや、丁度ひと段落したところだ。それより、どうしたんだ急に?」

「ああ、それがね・・・」

 

 言葉を濁すユウト。そんなユウトに、セツナは怪訝な眼差しを向ける。

 

「どうした?」

「いや、まあ、口で言うより、実際に見てもらったほうが良いかもな。」

「?」

 

 意味が分からないまま、ユウトが続きの部屋へ向かうのを見詰める。

 

「来てくれ。」

 

 促されるまま、中に足を踏み入れる。

 

「ッ!?」

 

 そこで、息を呑んだ。

 

 簡易ベッドに寝かされた銀髪の少女。それは、

 

「ウルカ!?」

 

 それは間違い無く、2度に渡って死闘を繰り広げたサーギオス神聖帝国の《漆黒の翼》ウルカだった。

 

 だが、

 

『な、何だ、これは・・・』

 

 かつて、彼女から感じた圧倒的ともとれる存在感を感じる事は出来ない。それは、今にも消えそうな灯火のような光を見ているようだった。

 

「ユウト、これはどう言う事だ?」

「いや、それが、」

「あのね!」

 

 2人の会話に割り込むように、ウルカの傍らに座っていたオルファが口を開いた。

 

「オルファね、《理念》の声を聞いてね、ウルカお姉ちゃんがあっちで倒れてるって言われたの。」

「《理念》が?」

「うん。だから、お姉ちゃんがあっちで倒れてるってすぐに分かったんだ。」

「そうか、しかし・・・・・・」

 

 セツナはそっと、眠っているウルカに近付く。

 

『何だ、この衰弱の仕方は? まるで、死期の近い病人のようだ。』

 

 今のウルカからは、およそ生気という物を感じる事が出来なかった。

 

 その時、話し声に触発されたのか、ウルカが呻き声と共にゆっくりと目を開けた。

 

「・・・気が付いたか?」

「お姉ちゃん!!」

 

 オルファが跳ねるように跳び付いた。

 

「ここ、は・・・・・・」

「ランサにあるラキオスの本陣だ。覚えてないか?」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 暫く考えた後、合点が行ったのか、ウルカは、ああ、と頷いた。

 

「手前は、倒れて、ユウト殿達に・・・」

「ウルカ、一体何があったんだ?」

「・・・・・・」

「お前の衰弱振りは尋常じゃないぞ・・・・・・それに、なぜ、行き倒れなんかに・・・・・・」

「それは・・・・・・」

 

 ウルカは疲労を感じさせる口調ながら、断片的に自分の身に起きた事を話し始めた。

 

 セツナとの一騎打ちの後、《拘束》の声が、ほとんど聞き取れなくなって行った事。その事が元で、戦う力を失ってしまった事。そして、それを理由に、サーギオス軍から放逐されてしまったこと。

 

「・・・・・・なるほど、それで、あてどなく彷徨っていた所に、お前達に拾われたという訳か。」

 

 再び眠りに付いたウルカの顔を眺めながら、セツナは呟いた。

 

「どう思う、セツナ?」

「・・・そう、だな・・・《麒麟》?」

 

 手に持った《麒麟》に呼び掛けてみる。

 

《ん〜、この娘の場合、倒れたのは単に脱水症状と砂漠越えの疲労のせい。少し深刻だけど、休めば生活に支障が無い程度には回復すると思う。ただ、》

「ただ?」

《この娘の神剣。声がかなり弱いように思えるんだけど・・・・・・》

「声が、弱い?」

《いや、弱いのとは違うか。何って言うか、妙に聞き辛いんだよね。向こうは必死に叫んでいるみたいなんだけど、こちらまで届いていないみたいな? まるで、壁を隔てた向こう側から叫んでいるみたいな感じかな。》

「・・・・・・・・・・・・」

 

 状況は理解できるが、原因が分からないのでは思案しても仕方が無い。それよりもセツナは、差し迫った問題に焦点を移した。

 

「それでユウト、これからどうする?」

「ウルカの身柄か?」

「ああ。これだけの衰弱振りだ。ウルカの言った事が嘘だと言う可能性は低いが、それでも、今まで敵対してきたスピリットだ。処遇には慎重を期す必要がある。最悪の場合・・・・・・」

 

 その先はセツナも言わなかった。

 

 まだ幼いオルファには、なるべく聞かせたくない単語だったからだ。

 

 最悪の場合、処刑の必要があるかもしれない。などと、

 

「ねえ、パパ。」

 

 と、当のオルファが、ユウトの袖を引っ張った。

 

「女王様に相談してみようよ。」

「レスティーナに?」

「うん。女王様なら、きっとお姉ちゃんの面倒見てくれると思うよ。」

 

 そう自信満々に言って、オルファは満面の笑みを浮かべる。

 

「名案かもな。」

 

 セツナは頷いた。

 

「旨く行けば、レスティーナの承認の下、ウルカをこちらの庇護下に置けるかも知れない。」

 

 そう言うとセツナは、早速、ウルカ護送の為の準備をする為に自分の執務室へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 数日後、王都に戻ったセツナ達は、ウルカの処遇についてレスティーナ以下重臣一同と協議する事となった。

 

 この際当然の反応として、重臣達からはウルカを庇護下へ置くと言う事への反対意見が多数上げられた。

 

 現在の重臣達は、大クリーンナップ後に新たにレスティーナ自らの人選の元、召集された新メンバーだったが、彼等にしても、かつて《漆黒の翼》として恐れられたウルカの存在は、脅威に映ったのだろう。

 

 それを覆したのは、スピリット隊隊長、参謀長両名による連名の助命嘆願書。そして、セツナから提示された、ウルカを手元に置く事によって生じるメリットを考慮した結果だった。

 

 ウルカは確かに、かつてはラキオスにとっては天敵とも言える存在だったが、今ではサーギオスから離れ、流浪の身。現在は不調に付き力を失っているが、もしこの先、力を取り戻した時に、ラキオス側のスピリットとして取り込めれば、大きな戦力となる事。

 

 いずれラキオスは、サーギオスと本格的に戦端を開く事となる。その際、帝国領内での地理に詳しい者がいれば、侵攻の際に大いに役に立つという事。

 

 また、放逐して、万が一マロリガン側にでも付かれれば、今後の脅威になる可能性がある事。

 

 それらを留意しレスティーナは、エトランジェによる監視を条件に、ウルカのラキオス入りを認めたのだった。

 

 

 

 それから数日経ったある日の事だった。

 

 セツナは、第1スピリット詰め所に1室を貰ったウルカを尋ねるべく、足を運んだ。

 

 彼女には色々と聞きたい事もある。

 

 サーギオス神聖帝国は、秩序の壁、法王の壁と言う2つの巨大な壁によって内界と外界が遮断されている。ウルカは、その内部を実際に見てきた唯一の者だ。

 

 この時点で彼女をラキオス陣営に入れる事が出来たのは僥倖であったと言える。

 

 まあ、両腕にぬいぐるみよろしくまとわり付いている2人は、おまけのような物だが。

 

「ねえねえ、ウルカって、前にセツナと戦ってた人でしょう?」

「でしょ〜?」

 

 傷が癒えたネリーと、交代で王都に戻っていたシアーが尋ねてきた。

 

 ここが自分達のポジションだと言わんばかりに、セツナの両腕を占領している。

 

「そうだな。」

 

 素っ気無く頷くセツナ。

 

 はっきり言って暑苦しいのだが、過去の例から言って、このスッポン娘2人が口で言った所で放れるほどやわではない事は分かっているので、とりあえず放っとくことにした。

 

 その時、丁度視界の中に、館の屋根が見えてきた。

 

 中に入ろうとすると、庭のほうから何やら風を切るような音が聞こえてくるのに気づいた。

 

「ん?」

「あれ?」

「?」

 

 三様に疑問符を浮かべ、視線を庭に向ける。

 

 視線を巡らした先で、黒衣の少女が刀を振るっている姿が見えた。

 

「ウルカ。」

 

 額から汗を飛び散らせながら、ウルカは一心に、自身の永遠神剣《拘束》を振るっている。

 

 その瞳は辛そうに歪められ、萎えそうになる腕の筋肉を必死で操ろうとしている。

 

「ハッ!!」

 

 気合と共に放たれる居合い。

 

 しかしそこには、かつてのような速さも、力強さも無く、ただ何かを切り裂こうとする意思だけが虚しく空回りしているだけだった。

 

『弱いな・・・』

 

 分かり切っていた事だが、今のウルカは他のどんなスピリットよりも弱い。

 

 かつて2度に渡って死闘を繰り広げ、1度は自分を死の一歩手前まで追い詰めた者。その好敵手のあまりに弱々しい姿に、セツナは落胆を禁じ得ぬ思いがあった。

 

 と、いつの間にか、右手が軽くなっている事に気付いた。

 

「こんにちは〜!!」

 

 いつの間に移動したのか、ウルカの脇に立ったネリーが、元気良く挨拶しているのが見えた。

 

「・・・あなたは?」

 

 居合いの手を止め、怪訝な顔でネリーを見るウルカ。

 

 そんなウルカに、ネリーは満面の笑みを浮かべている。

 

「ネリーはネリーだよ。ネリー・ブルースピリットって言うの。よろしくね!!」

「はあ・・・」

 

 妙にハイテンションなネリーの言動に付いていけないのか、ウルカは曖昧に返事をする。

 

 そこで、上げた視線がセツナとぶつかった。

 

「これは、セツナ殿。」

 

 居住まいを正し、セツナに対し礼をするウルカ。こんな所に、彼女の律儀な性格が現れている。

 

「元気そうで何よりだ。何か、不自由な思いはしていないか?」

「いえ、レスティーナ陛下始め、ここの方たちは皆、敵であった手前にもよくしてくれます。それに、ユウト殿やオルファ殿、アセリア殿、エスペリア殿も、気持ち良く手前を迎え入れてくださいました。これ以上を望むなど、恐れ多いことです。」

「そう、堅苦しく考えることもないだろう。」

 

 ウルカの物言いに、セツナは思わず苦笑してしまった。これでは、喋っているこちらの言動まで硬くなってしまいそうだ。

 

「ところで、」

 

 ウルカはふと思いついたように、話題を変えてきた。

 

「そちらの方は?」

「ん?」

 

 見ると、先程まで左腕にしがみついてたシアーが、背後に隠れるようにしてセツナのコートにしがみ付いている。やはり、興味があるのか、背から顔を半分だけ出してウルカの方を覗き込んでいる。

 

「シアー。」

 

 人見知りするシアーは、やはりウルカの事も警戒してしまっているようだ。

 

「だめだよシアー。そんな風に怖がってちゃ。ほら!!」

 

 そう言って、ネリーがセツナの背からシアーを引っ張り出した。

 

 その強気な態度を見ていれば、彼女がシアーの姉だと言う事も何となく実感できる。

 

「ほら、『こんにちは』。」

「こ、こんにち、は・・・」

 

 恐る恐ると言った感じに挨拶をするシアー。それに対してウルカも、笑顔で答える。

 

「セツナ殿、本日は、何か?」

「いや、お前の様子を見に来ようと思っただけなんだが、」

 

 改めて、ウルカの様子を見る。

 

 恐らく長時間に渡って先程の鍛錬を続けていたのだろう。話している今も息が上がり、まだ汗が引く様子もない。

 

「・・・・・・まだ、神剣の声は聞こえないのか?」

「はい・・・・・・」

 

 沈痛な面持ちで俯くウルカ。

 

 帝国のスピリットとして育ち、幼い頃から戦闘のプロフェッショナルとなるべく教育を受け、成長してきたウルカ。

 

 まさに、彼女のこれまでの人生は戦いと共にあり、人生その物が戦いであったのだろう。

 

 それが失われた今、ウルカの心もまた、文字通り折られてしまったかのようだ。

 

「まあ、何にせよ、あまり根詰め過ぎるのもどうかと思うぞ。」

「・・・・・・・・・・・・」

「それより、どうだ? 気晴らしに街にでも出てみないか?」

「・・・・・・は?」

 

 突然のお誘いに、ウルカは思わず目が丸くなるようだった。

 

 そんなウルカの様子があまりに可笑しかったのか、セツナは口元に微笑を浮かべながら続ける。

 

「いや、実はこれから、この2人を連れて町に行く予定だったんだが、少しお前の事が気になって寄ってみたんだ。どうだ?」

「いや、しかし、手前は虜囚の身。そのような軽々しい行動は・・・」

「レスティーナが出した条件は、『エトランジェによる監視』だけだ。それ以外の事を言われた覚えは無いな。」

「しかし、それでは屁理屈と言うものでは・・・・・・」

 

 連れ出そうとするセツナと、それを頑なに拒むウルカ。これでは立場が逆だと内心で苦笑しつつ、セツナは改めて条件を加えた。

 

「なら、《拘束》は置いて行けば良い。俺達3人は神剣を持ってるから、それなら万が一お前が抵抗したとしても、取り押さえる事は容易だ。」

「はあ・・・・・・」

 

 なおも渋るような口調のウルカに、ネリーとシアーがしがみ付いた。

 

「ねえねえ、行こうよ〜」

「よ〜」

 

 満面の笑顔で迫る2人の天使に、ウルカは困り顔になる。

 

「・・・分かりました。では、神剣を置いてきますゆえ、しばしお待ちを。」

 

 そう言い残すと、自室に戻る。

 

 暫くして手ぶらで出てきたウルカを加えて、3人は街の方へと繰り出した。

 

 

 

 

 

 

 視界の先にある小川で、ネリーとシアーが水の掛け合いをしている。

 

 その、少し離れた草地に腰を下ろしたウルカは、そんな2人の様子を、微笑ましそうに眺めている。

 

 そこへ、どこかに行っていたセツナが、歩いて来た。

 

「ほら、」

 

 差し出された紙の包みを、怪訝な目で眺めるウルカ。

 

「これは?」

「ヨフアルと言う、ラキオスの銘菓だ。なかなかいけるぞ。」

「はあ・・・」

 

 どうやらセツナは、これを買いに行っていたらしい。

 

 薦められるまま、ウルカは一口、手にしたヨフアルを齧る。

 

「どうだ?」

「おいしい・・・と、思います。」

 

 そうか、応じて、セツナもヨフアルを口に運んだ。

 

「これは、どうやって作るのでしょう?」

「さあな、俺達がいた世界にも似たような食べ物があったが、作り方についてはさっぱり分からん。今度、ハリオンにでも聞いてみたらどうだ?」

「そうしてみます。」

 

 そう言って、再びヨフアルを頬張る。

 

「あ〜〜〜!!」

 

 そこへ、耳を劈くような声が響いた。

 

「何2人で先に食べてるの!?」

「ずるい〜」

 

 バシャバシャと水音を立てながら、ネリーとシアーが小川から上がってきた。

 

「ネリー達の分は!?」

「慌てるな。ほら。」

 

 そう言うと、手に持った紙袋を放ってやる。

 

 すると、餌に集まる鯉のように、2人は我先にと袋の中に手を突っ込む。

 

「しかしセツナ殿。」

 

 自分の分を食べ終えたウルカが、話し掛けてきた。

 

「今回のこの外出には、いかなる意味があったのでしょう?」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 セツナはヨフアルを頬張る手を止め、ウルカの顔を凝視する。

 

 ようやくにして理解する。ウルカは他人行儀に、必要以上に鯱張っていたのではなく、この性格こそが、ウルカの地の性格なのだと。

 

 気付いた途端に、可笑しさが湧き出してきた。

 

「な、何か?」

 

 突然笑い出したセツナに、戸惑うウルカ。

 

「い、いや、」

 

 無理やり笑いを抑えて、セツナは言った。

 

「出る前に言っただろ。気晴らしだって。」

「しかし、手前には・・・・・・」

 

 このような事をしている暇はない。そう言い掛けたウルカの言葉を遮るように、セツナは言った。

 

「今のお前は、明らかに視野狭窄に陥っている。」

「え?」

「こうしなければいけない。こうでなくてはいけない。と言う言葉に縛られ、本来なら複数あるはずの答えに辿り着く道を、自分で削り取り、わざわざ細い道を行こうとしている。」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 ウルカは黙り込む。どうやら、心当たりがあるのだろう。

 

「もう少し前向きに考えろ。力を失った事はお前にとって確かにマイナスの要素だろうが、逆に言えば、お前は一時的にとは言え戦いから開放され、自由な時間ができたんだ。これまでとは違う、何か別の事をやってみるのも、悪くないんじゃないか?」

「前向きに・・・・・・」

 

 セツナは傍らで、ヨフアルを啄ばむネリーの頭に手を置いた。

 

「こいつを見ろ。こいつは一見、何も考えていないように見えるが、その内面では、本当に何も考えていない。だが、常に前向きに全力で走ろうとする。」

「そうそう、人間前向きが一番だよ!!」

「えっと・・・ネリー、馬鹿にされてる・・・・・・」

 

 癇癪を起こして暴れだしたネリーを片手で抑えながら、セツナは続ける。

 

「こいつほどでなくても良い。もう少し、心にゆとりを持つべきだと思うぞ。」

 

 そう言うと、最後に残ったヨフアルの欠片を口の中に放り込んだ。

 

「そう、ですね。」

 

 そう言って、ウルカは微笑んだ。

 

 と、その腕を、ヨフアルを食べ終えたネリーが引っ張る。

 

「ねね、ウルカも一緒に遊ぼうよ〜」

「遊ぼう〜」

 

 すぐにシアーも同調してくる。

 

 そんな2人の様子に苦笑するウルカ。しかしすぐに、立ち上がる。

 

「ほらほら、セツナも!!」

 

 1人座り込んでいるセツナを見て、ネリーが急き立てる。

 

「俺はさっき、1人でヨフアルを買いに行ったんだぞ。少しは休ませろ。」

「ぶ〜、セツナ年寄り臭い!!」

「年寄り〜」

 

 そう言いながらも、2人はさっさとウルカを引っ張っていく。

 

「それで、何をして遊ぶのでしょう?」

「んとね、『オニゴッコ』!!」

「オニゴッコ、とは、どう言う遊びですか?」

「え〜と、まずね・・・・・・」

 

 楽しそうに、ウルカに鬼ごっこのルールを説明しているネリー。

 

 そんな3人をセツナは、微笑ましく見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 4人が帰り始める頃には、既に日は城壁の下に落ちようとしていた。

 

 結局あの後、セツナも無理やり鬼ごっこに付き合わされる羽目になった。

 

 まあ、今回の外出の目的は、ウルカの気晴らしだった訳だし、仕方ないと言えば仕方がない。

 

その結果は、ウルカの表情を見れば窺い知る事が出来る。

 

 まだ焦燥感は抜け切っていないが、それでも出発前に比べて、幾分晴れやかな顔をしている。どうやら、試みは成功だったようだ。

 

「どうだ、ウルカ?」

 

 念の為、尋ねてみる。

 

「少し、楽になった気はしないか?」

「そうですね・・・何と申しますか、こう、今まで感じていた息苦しさが抜けていくような、そんな気がします。」

「それは結構。」

 

 答えながらセツナは、内心で微笑を浮かべる。

 

 建前も大事だが、今回の件はセツナには別の思惑があった。

 

 それは、ウルカの懐柔。

 

 今は力を失っているが、その秘めたる実力は、剣を交えたセツナが一番良く分かっている。

 

 そのウルカをラキオス軍に引き込むことが出来れば、大きな戦力となる事は間違いない。

 

 ウルカの心は、残して来た部下の手前まだ帝国にある。しかしこうして徐々にその心をこちらに向けていけば、いずれは取り込む事も難しくはない。と、セツナは踏んでいる。

 

「さて、今日はエスペリア達がいないから、合同での食事になる。当番はハリオンとセリアだから、期待できるだろう。」

 

 やったぁ、と喝采を上げるブルースピリット2人。

 

 その様子に、ウルカも微笑を浮かべた。

 

 その瞬間、

 

 

 

 

 

 

「私も、ご相伴にあずかりたいですね。ぜひ・・・」

 

 

 

 

 

 

 まるで湧き上がるように鼓膜に纏わり付く声が響いた。

 

 内在する、明確な殺意。

 

 ほぼ同時に、4人は振り返る。

 

 そこには、

 

「・・・・・・ハーレイブ。」

 

 サーギオス神聖帝国宰相ハーレイブが、杖を片手に佇んでいる。

 

「消える時もそうだが、現れる時もまた、随分唐突だな、貴様は。」

「性分ですから。」

 

 口元に笑みを浮かべながら、視線をウルカへと向ける。

 

「久しぶりですね、ウルカ。」

「宰相殿・・・・・・」

「放逐したと言う報告はソーマから聞いていましたが、まさかラキオスに降っていたとは。」

「いえ、手前は!!」

 

 弁明しようとするウルカ。

 

 しかしその口を遮って、ハーレイブは手にした杖を掲げる。

 

「言い訳は聞きません。裏切ったと言うなら、今ここであなたを始末するまで。」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 苦渋の表情を浮かべるウルカ。

 

 そんなウルカを遮るように、セツナが前に出る。同時に、《麒麟》の柄に掌を掛ける。

 

「行け。」

「セツナ殿・・・・・・」

「あいつは俺が抑えておく。ネリー、シアー、ウルカを連れて館に戻れ。」

「で、でもセツナ・・・」

「早くしろ。あいつが相手じゃ、俺でもいつまで持つか分からない。」

「うん。」

 

 シアーは頷くと、《孤独》を掲げながらウルカを背にかばい、徐々に後退していく。

 

 一方でネリーは、未練の残る瞳でセツナの背を見ている。

 

「セツナ・・・・・・」

 

 なまじ、一度交戦した事があるだけに、ネリーにもハーレイブの恐ろしさが充分に分かっている。だからこそ、セツナ1人を残して戻る事が不安なのだ。

 

 そんなネリーに、セツナは視線だけ振り返る。

 

「大丈夫だ。お前は早く戻って、セリア達を連れて来てくれ。」

「・・・・・・分かった。」

 

 不安を残す瞳を向けながら、それでも先に行ったシアーとウルカを追う。

 

 それを見届けてから、セツナはハーレイブに向き直る。

 

「お優しい事で。」

「それは、どうも。」

 

 短く告げると同時に、セツナは動く。

 

「白虎、起動!!」

 

 10倍に引き伸ばされた時間の中で、セツナは駆けた。

 

 

 

 前方を走るウルカとシアー。

 

 ハイロゥを使えないウルカを守らねばならない為、飛んで逃げることは出来ない。

 

 抱えて飛んでいけば良いかも知れないが、正直、2人の力で城まで持つかどうか分からなかったので、こうして走って逃げている。

 

 2人の背中を追いながらも、ネリーは心の中に湧き上がる不安を押し隠せずにいる。

 

 あの時、サルドバルトの城でセツナと共に対峙したハーレイブ。

 

 あの時は、セツナとネリー、2人掛かりだったにも関わらず、怯ませる事すら出来なかった。セツナは、ハーレイブを撃退したと言っていたが、後から考えれば、あれは嘘だったのではないかとさえ思う。

 

『セツナ・・・』

 

 背後に残して来た、エトランジェに想いを走らせる。

 

 いつも素っ気無い態度でいる男。

 

 難しい事ばかり考えていて、遊びに誘ってもなかなか応じてくれない。

 

 無理やり引っ張り出せば、嫌々ながら付き合ってくれる。

 

『セツナ・・・・・・』

 

 最初の頃は、単なる興味本位だった。

 

 異世界から来た来訪者。

 

 仲良くなれば、良い暇つぶしになる。

 

 その程度の感情しか持っていなかった。

 

『セツナ・・・・・・・・・・・・』

 

 だがいつの頃だったか、気付いた。

 

 彼の内面。

 

 彼の感情。

 

 素っ気無い態度の裏返し。

 

『セツナ・・・・・・セツナ・・・・・・』

 

 いつも、仏頂面の癖に、

 

 いつも、素っ気無い態度を取る癖に、

 

 いつも、他人から進んで遠ざかろうとする癖に、

 

『セツナ・・・セツナ・・・セツナ・・・』

 

 本当は、誰よりも寂しがりやだという事を。

 

 だから、一緒にいてあげようと思った。

 

 邪険にされても、

 

 素っ気無くされても、

 

 自分と言う存在が、彼の心を埋め合わせることが出来れば、

 

 それは、自分にとっても、楽しい事になるんじゃないか。

 

 そんな風に思った。

 

『セツナ!!』

 

 気付いた時、ネリーは駆ける足を止めた。

 

「ネリー殿!?」

 

 気付いたウルカも足を止め、次いでシアーも立ち止まって振り返る。

 

「ネリー、どうしたの?」

 

 愛しい妹の呼びかけにも振り返らず、ネリーは腰に納めた《静寂》に指を掛ける。

 

「ごめんシアー。ウルカ連れて、先戻って。」

「待たれよネリー殿。あなたはまさか、」

 

 ウルカの言葉を遮って、ネリーはウィング・ハイロゥを広げる。

 

「ネリー!!」

「ネリー殿、宰相殿の力は尋常ではない。言い難いが、あなたの力では太刀打ちできませぬ!!」

 

 必死に止めようとする2人。

 

 しかし、ネリーは振り返らない。

 

「そんな事、ネリーにだって分かってるよ。だけど・・・だけど・・・」

 

 常に奔放なネリーとは思えぬほど、緊迫と苦悩に満ちた響き。

 

 セツナを失うかもしれない。

 

 その恐怖観念が、ネリーの全身を捉えて離さない。

 

「セツナだけ置いて行くなんて、ネリーにはできない!!」

 

 言い置くと同時に、ネリーはウィング・ハイロゥを羽ばたかせ、上空に舞い上がった。

 

「待っててセツナ、今行く!!」

 

 ネリーはただ一心に、戦場へと続く空を駆けた。

 

 

 

 こぼれる汗が、頬の古傷を伝って大地に落ちる。

 

 眼は強烈な殺気を湛えて相手を見やる。

 

 だが、それが虚勢以外の何物でもない事は、自分が一番良く分かっている。

 

 攻撃が当たらない。

 

 全力を振り絞ったあらゆる攻撃が、悉く空を切る。

 

『・・・まさか、ここまでとは。』

 

 視線の先にあるハーレイブは、余裕の笑みを浮かべてセツナを見ている。

 

 その事が、セツナの神経をモロに逆撫でした。

 

 気に入らない。

 

 相手に負けている自分が気に入らない。

 

 自分より強い相手が気に入らない。

 

「舐めるな!!」

 

 言い放つと同時に、刀を鞘に納め、疾走する。

 

 白虎により引き伸ばされた時間は、セツナの視界の中でスローモーションのように流れていく。

 

 10メートルからの距離が、一瞬でゼロになり、同時に刃が閃く。

 

「蒼竜閃!!」

 

 白虎プラス最速の剣。事実上、現在のセツナに出来る最高速度の攻撃。

 

 しかし、

 

「遅い。」

 

 静かな声と共に、ハーレイブは飛んでくる小石のように、セツナの攻撃を払いのけた。

 

「クッ!!」

 

 敵わない、などと言う次元の話ではない。まるで相手にされていないのだ。

 

 セツナは刃を返すと同時に、今度は反対側から切り込む。

 

 ハーレイブは左手には何も持っていないので、防御が半瞬遅れるはず。セツナは、その半瞬に賭けた。

 

 しかし、

 

「フッ」

 

 短く笑うと同時に、ハーレイブは《麒麟》の刃を素手で鷲掴みにする。

 

「何ッ!?」

「オーラフォトンは、使い方によっては肉体の強化にも使えます。こんな風にね。」

 

 言うと同時に、セツナの体を投げ飛ばした。

 

「クッ!?」

 

 どうにか空中で体勢を立て直し、着地に成功するセツナ。

 

 対して、ハーレイブは1歩前に出る。

 

「言い忘れましたが私、《賢者》などと名乗ってはいますが、格闘技もそこそこ嗜んでいます。」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 そこそこ嗜む、などと言ってはいるが、人一人を軽々と空中に投げ出すほどの技量の持ち主だ。恐らく並ではあるまい。

 

 しかし、思考する時間はセツナには無い。

 

 オーラフォトンで出来た弾丸を投げつけてくるハーレイブ。そのスピード、量たるや、まるでマシンガンの一斉射撃のようだ。

 

「クッ!?」

 

 対してセツナは、かわし、あるいは《麒麟》で切り払う。

 

 その一発一発の破壊力もまた、並ではない。まともに喰らえばただでは済まないだろう。

 

「ッ!?」

 

 どうにか距離を取るセツナ。

 

 そこで、ハーレイブも攻撃を止めた。

 

「なかなか良い反応ですねセツナ君。君は徐々に腕を上げているようだ。良い事です。」

「・・・・・・皮肉にしか聞こえないな。」

「いえいえ、純粋な賛辞ですよ。」

 

 そう言いながら、翳した手にオーラフォトンを込める。

 

 攻撃に備えて身構えるセツナ。

 

 しかし、いつまで経っても、ハーレイブからの攻撃は来ない。

 

「ひとつ、良い事を教えてあげましょう。」

「・・・何だ?」

「私は魔法も格闘技もそこそこ得意ではありますが、それらは本職ではありません。」

 

 言っているうちに、足元の地面が闇色に広がっていく。

 

「そう、私の本職は、」

 

 足元にポッカリと開く闇の空間。

 

 そこより出でる、禍き存在。

 

「召還術士です。」

 

 そこに現われしは、漆黒の体と血のように赤い瞳を滾らせ、手には歪な盾と剣を持った地獄の騎士だった。

 

 顕現と同時に斬りかかって来る騎士。

 

「チッ!!」

 

 舌打ちすると同時に騎士の剣を弾くセツナ。同時に一挙動で刃を返し、反対に斬りかかる。

 

 しかし、

 

「クッ!?」

 

 掲げた盾に、斬撃は虚しく防がれる。

 

 動きが止まったセツナの脳天目指して、騎士は刃を振り下ろす。

 

「クッ!!」

 

 回避が間に合わないと踏んだセツナは、とっさに白虎を解除、玄武を起動し、空間に障壁を作り出して防ぐ。

 

 障壁に弾かれた事によって、体勢が崩れる騎士。

 

 そこへセツナは、フルスイングの要領で、騎士の胴目掛けて《麒麟》を繰り出す。

 

騎士はそれを後退してかわす。

 

「逃がすか!!」

 

 対してセツナは、踏み込んで斬りかかる。

 

 セツナの斬撃を盾で防ぐと、騎士は突き出すように剣を繰り出す。

 

「クッ!?」

 

 その突きはセツナの頬をかすめ、鮮血を一瞬撒き散らす。

 

 しかし瞳は、獣の如き眼光と共に瞬きせずに騎士を睨む。

 

「ハッ!!」

 

 切り下げられた刃。

 

 その白刃を、紙一重でかわす騎士。

 

 しかし、切り下げたままの状態で膝をたわめ、運動エネルギーを下半身に蓄積する。

 

「喰らえ!!」

 

 刀身に乗せたオーラフォトンが、鋭く煌く。

 

「雷竜閃!!」

 

 下から切り上げる斬撃に、騎士はとっさに盾を掲げようとする。

 

 しかし、セツナの刃は掲げた盾を真っ二つにする。

 

 斬撃のショックで、2、3歩よろめくように後退する騎士。

 

 対してセツナは、運動エネルギーを全開にして斬り上げた為、セツナの体は勢い余って、空中に飛び上がっている。

 

 刃は再び返され、今度は切り下げる体勢にある。

 

「これで、止めだ!!」

 

 騎士は剣を掲げてセツナの攻撃を防ごうとする。

 

 しかし、遅い。

 

「蒼竜閃!!」

 

 振り下ろされた最速の剣は、自由落下のエネルギーも加わって、防御をすり抜け、騎士を脳天から真っ二つにした。

 

 着地すると同時に、騎士はこの世の物とは思えぬ絶叫を上げる。

 

 視線を上げると、天に吼えるように絶叫した騎士は、そのまま砂が崩れるように空間に溶け、やがて霧散して行った。

 

 騎士の消滅を確認したセツナは、振り返ってハーレイブを見る。

 

「いや、やりますねえ。」

 

 ハーレイブは相変わらず、余裕に満ちた顔でセツナを見ている。

 

「あの騎士は、魔界でもそれなりの高位にある魔族なのですが、それをこうもあっさりと還してしまうとは。」

 

 手にした杖を鳴らしながら、ハーレイブが言った。

 

 対してセツナは、《麒麟》を水平に掲げる。

 

「次は、貴様の番だ。」

 

 冷え冷えとした殺気が、戦場を満たす。

 

 だが、その殺気をもろに受けながら、ハーレイブはなおも余裕の表情を保つ。

 

 その時、

 

「セツナ!!」

 

 呼ばれて振り返る。

 

 そこにいたのは純白の翼を広げた天使。いや、ネリーだった。

 

「ネリー・・・」

「良かった。無事だった。」

 

 余程急いで来たのだろう。地に足を付けてもまだ、息を切らしている。

 

「馬鹿、どうして戻って来た!?」

 

 視線を動かさず、責めるような口調で問い質す。

 

 対してネリーは、《静寂》を抜きながら抗議する。

 

「だって、セツナが心配だったんだもん!!」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 セツナは一瞬迷った。

 

 このままネリーを戦いに参加させるか。あるいは、無理にでも戻らせるか。

 

 しかし、その答えが出る前にハーレイブが動く。

 

 掲げた掌に、オーラフォトンが収束していく。

 

「来るぞ、よけろ!!」

 

 セツナが警告を発すると同時に、嵐のようなオーラフォトンの弾丸が2人に襲い掛かる。

 

「クッ!!」

 

 セツナは自分に飛んでくる弾丸を切り払いながら、ネリーに視線を向ける。

 

 ウィング・ハイロゥを広げたネリーは、高速で上空に舞い上がる。

 

 弾丸はネリーを追って周囲の木々に着弾し薙ぎ払うが、翼を広げた少女を捉えるには至らない。

 

 ネリーの小さい体は、まるで木の葉のように舞い、あるいは宙返りを打ちながら飛んでくる弾丸をかわし、徐々にだがハーレイブとの距離を詰めていく。

 

「よし!!」

 

 ネリーの奮戦を横目に、セツナは白虎を起動し駆ける。

 

 距離を詰め、近接戦闘に持ち込むのだ。

 

 それを察したネリーも、滞空しながら詠唱を始める。

 

「マナよ、我に従え。氷となりて力を無にせしめよ。アイス・バニッシャー!!」

 

 放たれた凍気が、徐々にハーレイブを凍りつかせる。

 

「今だ。」

 

 ネリーが作り出した千載一遇の好機に、セツナは《麒麟》を振り下ろす。

 

 ハーレイブに迫る刃。

 

 セツナは、その光景に勝利を確信する。

 

 しかし、

 

「甘いです。」

 

 静かな声と共に氷の戒めを解くと、ハーレイブは一挙動でセツナの斬撃を払いのける。

 

「クッ!!」

 

 崩れる体勢。しかし、その状態を利用して蹴りを放つセツナ。

 

 しかしその苦し紛れの一撃も、ハーレイブの持つ杖に防がれる。

 

「セツナ!!」

 

 その状況を見ていたネリーが、ウィング・ハイロゥを羽ばたかせて斬り込んで来る。

 

「ハッ!!」

 

 急降下で得たスピードをそのまま威力に変換、ハーレイブに叩き付ける。

 

 しかし、ハーレイブはその斬撃を己の腕で受け止める。

 

「そ、そんな!?」

 

 信じられない物を見るように、目を見開くネリー。

 

 次の瞬間、ネリーの胸をハーレイブの拳が襲った。

 

「ああ!?」

 

 直撃を受け、吹き飛ばされるネリー。

 

「ネリー!!」

 

 だがネリーは、大ダメージを喰らいながらも、なおも闘志を失わない瞳でハーレイブを睨みつける。

 

「まだ!!」

 

 痛みを堪え、《静寂》を振り被る。

 

 その反対側からは、セツナも《麒麟》を振りかざしてハーレイブに迫る。

 

 その様子を、左右に目を走らせて確認したハーレイブは、ネリーの斬撃を杖で弾き、セツナの腕を取って思いっきり投げ飛ばした。

 

「クッ!!」

 

 投げられながらもどうにか受身に成功し、片膝を突くセツナ。

 

 そこへ、ネリーが駆け寄ってきた。

 

「大丈夫?」

「ああ、お前は?」

「うん。平気。」

 

 言葉を交わしながら、2人はハーレイブを睨む。

 

 一方でハーレイブは、2人を見据えながら、掌にオーラフォトンを集めていく。

 

「さあ、そろそろ、終わりにしましょうか。」

 

 その言葉に対するように剣を構えるセツナとネリー。

 

 ハーレイブの手に集まったオーラフォトンは、2人が見ている目の前で青白い炎へと変わる。

 

「冥界の賢者の名において命ずる、絶望よ、我に集いて全てを喰らい尽くせ。」

 

 詠唱完了と同時に、炎は牙を向く獣の口へと変化した。

 

「ソウル・デスイーター!!」

 

 牙持つ炎が解き放たれ、2人に向かって襲い掛かる。

 

「クッ、玄武、起動!!」

 

 セツナはとっさに、玄武を起動、迫り来る炎の牙に対し障壁を張り、自らとネリーの身を守りに入る。

 

 その障壁に、牙はモロに噛み付いた。

 

 凶暴な牙は、自らの獲物を阻む邪魔な壁に喰らい付き、外側から削るように齧り付いてくる。

 

「クッ!?」

 

 そのおぞましい姿に、セツナは息を呑む。

 

『まずい、このままじゃ・・・・・・』

 

 障壁は徐々にだが、確実に削られていく。このままでは長く持ちそうにない。

 

「セ、セツナ!!」

 

 衝撃は障壁の内側にまで浸透し、2人の体を容赦なく痛めつける。このまま生殺し状態が続けば、例え障壁が持ちこたえても中にいるセツナとネリーは持ちそうにない。

 

『何か・・・何か手は無いか!?』

 

 必死に障壁を保ちながら、セツナは思考をフル回転させて状況を打破しようとする。

 

 最悪、自分は無理でもネリー1人だけでも生かす手は無いだろうか・・・

 

 最悪の状況が、脳裏によぎる。

 

 唯一の希望は、城に戻ったウルカとシアーが援軍を連れてきてくれる事だが、それまで自分達は持ちそうに無い。

 

 このままではマナの塵と化すのも時間の問題かと思われた。

 

 その時、

 

《おい!!》

 

 時空の壁を越え、2人に救いの手を差し伸べる者が現われた。

 

《まだ、生きてるか!?》

「だ、誰だ!?」

《そんな事はどうでも良い。まだ生きてるんだったら、お前の後ろに門を開くから、そこへ飛び込め!!》

「門? 飛び込む? どういう事だ!?」

《説明してる暇は無ェ。良いからお前は言われた通りにしろ!!》

 

 要所を省いた男の説明に訝るセツナ。

 

 次の瞬間、出し抜けに2人の背後に、光が満ち溢れる。

 

「こ、これは!?」

《急げ、それが門だ。そこに入れば、取り合えず助かる!!》

「クッ!!」

 

 考えている暇は無い。このまま座して死を待つよりも、僅かでも生存の高い方を選び、死中に活を求めるべきだ。

 

 セツナはとっさに傍らのネリーを抱え上げると、その光に身を委ねる。

 

 次の瞬間、2人の体は吸い寄せられるように門の中に飛び込み、直後、意識は暗転していった。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 全てが終わり、ソウル・デスイーターが喰らい尽くした空間に1人佇むハーレイブ。

 

 無言のままの顔に、徐々に笑みが広がっていく。

 

「フフフ、ようやく、喰い付きましたか。セツナ君を見捨てたら、どうしようかと思いましたよ。」

 

 そう言いながら、2人が消えた空間を見つめる。

 

「さて、これから忙しくなりそうですね。楽しみです。」

 

 そう言うと、自身の体も金色の光に包み込み、徐々に薄れて行った。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・う・・・・・・ん・・・」

 

 身じろぎをしながら、セツナは自身の意識が徐々に覚醒していくのが分かった。

 

 体の節々が、悲鳴を上げたように痛む。

 

 それを感じながら、少し安心した。痛みがあると言う事は、取り合えずまだ、生きていると言う事だろう。

 

 それにしても、何だろう? 妙に、肌寒い気がする。

 

「・・・ハッ!?」

 

 思考が一気に覚醒した。

 

『肌寒い、まさか!?』

 

 目を見開く。

 

 次いで、周囲に目を走らせた。

 

 コンクリートの地面、ブロックの塀、無数に張られた電気の線とそれを支える支柱。

 

 ここは、間違いなく、

 

「ハイ・・・ペリア・・・・・・」

 

 信じられない面持ちで、セツナは視線を巡らせる。

 

 その時、

 

「ん・・・うぅん・・・・・・」

 

 自分の下で、何かが呻く様な声がした。

 

 見ると、目を閉じたネリーが、自分の体の下で眠っている。どうやら、門を飛び込んだ状態のまま投げ出された為、このように押し潰すような体勢になっていたのだろう。

 

「ネリー、おいネリー! 起きろ!!」

「ん〜・・・んにゃ・・・・・・あ。」

 

 ネリーは薄っすらと目を明けた。

 

「セツナ、おはよ〜」

「寝惚けてる場合じゃない。早く起きろ!!」

 

 肩を掴んで強引に揺する事で、ネリーはようやく覚醒し、周囲に目を走らせる。

 

「あれ、ここ、どこ?」

 

 見慣れぬ風景が続いているせいだろう。ネリーはキョトンとした顔で尋ねる。

 

「ここは、俺達がいた世界だ。」

「え?」

 

 その答えに、ネリーの目は丸くなった。

 

「じゃあ、ここがハイペリアなの?」

「ああ。」

「・・・・・・へえ。」

 

 そう言いながら、改めて周囲を眺め渡した。

 

 どうやら、門を通って、この世界に流れ着いたらしい。

 

「・・・ねえ、セツナ。」

「ん?」

 

 見るとネリーは、両腕を抱えて震えている。

 

「何か、寒くない?」

「・・・ああ。」

 

 常春のラキオスにいたせいで、ネリーは相当薄着をしている。どうやら来た時同様、日本は冬であるらしく、相当肌寒いようだ。いや、来た時同様と言うよりも、あれから時間がまったく経過していない気がする。

 

 セツナは自分のコートを脱ぐと、ネリーに渡した。

 

「取り合えず、これを着ていろ。」

 

 セツナ自身は、コートの下は学ランを着ている。保温効果は薄いが、それでも生地が厚手であるし、例によって不感症気味の体は、幸いな事に気温の変化もある程度シャットアウトしてくれていた。

 

「ハイペリアってさ、こんなに寒い所なの?」

 

 コートに袖を通しながら、ネリーが尋ねて来た。

 

「いや、そんな事は無い。地域によってそれぞれあるが、この国は12ある月で、ほぼ3ヶ月から4ヶ月毎に、暖かい季節、暑い季節、涼しい季節、寒い季節が巡ってくるんだ。」

「ふ〜ん。」

 

 セツナのコートをネリーが着ると、予想はしていたが相当ダボ付いている。袖は掌1つ分長いし、裾は下手をすれば地面に付きそうだが、それはこの際仕方ないだろう。

 

「あは、暖かい。」

 

 着終えたネリーは、そう言って笑顔を浮かべる。

 

 それを確認してから、セツナは言った。

 

「取り合えず、ここに居ても仕方無いから俺の家に行くとしよう。」

「うん!!」

 

 そう言うと、2人は並んで歩き出した。

 

 

 

 予想はしていた事だが、帰宅には大分時間が掛かってしまった。

 

 と言うのも、ネリーが何にでも興味を惹かれてしまうからだ。

 

 1歩歩く毎に、最低3つの物に興味を示すのだから堪った物ではない。

 

 さすがに辟易したセツナは、後で全部教えてやると言って、ネリーを引っ張って行った。

 

 そうしてようやく2人は、セツナのマンションの前に着いた。

 

 高級とは言えないが、それなりに家賃は高いマンションである。

 

 セツナの父は生前、小規模ながら会社の社長を務めていたし、母も、結婚後は止めていたが敏腕キャリアウーマンとして名が通っていた為、貯金には事欠かなかったのだ。

 

 暗証番号付きのロッカーに入れておいた部屋鍵を取ると、4階にある自分の部屋を目指した。

 

「ねね、セツナ。このおっきな家が、全部セツナの物なの!?」

 

 驚いたように、ネリーが尋ねて来た。

 

 無理も無い、規模だけ見ればこのマンション、ちょっとした城砦ほどもあるのだから。事情を知らないネリーから見れば、このマンションだけで、自分は王族か何かに見えるのだろう。

 

「まさか。」

 

 それに対してセツナは苦笑した。

 

「ここはな、多くの家族が1箇所に住めるように作られた建物なんだ。俺の家はその1室だ。」

「・・・ふ〜ん。」

 

 良く分かっていないのか、ネリーは黙って頷いた。

 

 そう言っているうちに、2人はセツナの部屋の前に着く。

 

 セツナは久方ぶりに鍵を差込み、

 

「・・・あれ?」

 

 怪訝な声を上げる。

 

「どしたの?」

「いや・・・鍵が開いてる。」

 

 家を出る前に閉め忘れただろうか?

 

 と、自問してみる。

 

 何分、感覚的には1年以上前の事なので、さすがにハッキリとしない。

 

 怪訝な面持ちで、ノブを回し、扉を開ける。

 

 そして、

 

「っ!?」

 

 思わず、息を呑んだ。

 

 目の前に、人影が立っていたのだ。

 

「・・・お帰りなさい、刹那。」

 

 それは、あまりにも良く見知った女性であった。

 

 本来の年は40なのだが、スリムな体と童顔な顔つきは、確実に5歳は若く見える。

 

 ありとあらゆる、複雑な感情を込めて、セツナはその人物を呼ぶ。

 

「・・・・・・かあ・・・さん。」

 

 女性の名は朝倉千波。

 

 セツナを産んだ母親、その人であった。

 

 

 

第15話「天使の想い」   おわり