大地が謳う詩

 

 

 

第13話「翼と牙の饗宴」

 

 

 

 

 

 

 永遠戦争と呼ばれる大陸全土を巻き込んだ大戦。その第2幕「マロリガン戦争」は、ラキオス王国軍によるダスカトロン大砂漠南下から幕を上げる。

 

 旧イースペリア領ランサに集結したラキオス王国軍スピリット隊は、マロリガン領スレギトを目指す。

 

 対するマロリガン軍の行動は、一言で言えば「奇妙」に尽きた。

 

 ラキオス軍がランサに展開する中、いち早く集結を完了したマロリガン軍は、デオドガン商業組合首都。並びに、北方、ソーン・リーム中立自治区ニーハスへ侵攻、これを占領下に置いている。

 

 マナ量が少なく、戦略的にはさして高いとはいえないこの2箇所の占領が何を意味するのか、それを理解しえた者は、ラキオスの中には、誰1人として存在しなかった。

 

 

 

 へばっているな。

 

 スピリット達の様子を眺めながら、セツナは呟いた。

 

 死の道とも称されるほど、生命の息吹を感じさせない砂漠の街道。それがここ、ヘリヤの道だった。

 

 ラキオスとマロリガンを結ぶ、最短にして唯一の街道が、このヘリヤの道である。

 

 多少無理をすれば、イノヤソキマから砂漠を突っ切って侵攻する事も不可能ではないが、その場合、道なき道を行く事となる上、長距離の砂漠移動となる為、進軍には困難を極める事は明白だった。加えてこれまで北方で戦ってきたラキオス軍に砂漠での戦いの経験者は皆無で、負担が大きくなる事が予想された。その為、作戦立案の立場にあるセツナとしても、敵の思惑に乗らざるを得ない事を承知の上で、ヘリヤの道進軍を決定したのだった。

 

「ユウト、ここらで一度、休憩にした方がいいだろう。」

「ん、ああ、そうだな。」

 

 頷くユウトの顔にも、疲労の色がある。

 

 とにかく、この暑さは尋常ではない。目を開けているだけで体力を奪われていきそうである。

 

 そんな中で、異様極まりないのは、セツナの格好だった。

 

 ユウトと同じ学校指定のブレザーの上から黒いロングコートを羽織ると言う、これまでと何ら変わらない出で立ちで居る。

 

 はっきり言って、見ているだけで暑苦しい事この上ない。だと言うのに、本人は汗1つ掻いていないのだから不思議だ。

 

「ね〜、セツナ〜」

 

 そんなセツナに、ネリーが四つんばいになって這うように近付いてくる。水の妖精である彼女にとって、灼熱の砂漠は地獄以外の何物でもないだろう。普段の奔放さは完全に鳴りを潜めている。

 

「暑くないの?」

「いや、それ程でもない。」

 

 そう言って、自分の掌を見詰める。

 

 若干汗は掻いているが、気にするほど暑いと言うわけじゃない。

 

『少し、不感症気味かもな。』

 

 初めは、エトランジェだから大丈夫なのかとも思ったが、ユウトが苦しんでいるところを見ると、それも違うようだ。

 

 痛みなどは感じるのだから、それほど深刻な物でもないだろうが、それでも気には留めておいたほうが良いだろう。

 

「セリア。」

 

 歩哨に立っているセリアに歩み寄った。

 

「今はどの辺りだ?」

「そうですね、道程のおよそ半分と言ったところです。」

「半分か・・・」

 

 セツナは顎に手を置き、考え込んだ。

 

「どうしたの?」

「いや、静か過ぎるのが、少し気になる。」

「そう言えば・・・・・・」

 

 ここに来るまで、マロリガン軍は一度も攻撃してくる気配が無かった。

 

 このまま何の妨害も無く、スレギトまで行けそうな勢いである。

 

『あるいは、それこそが狙いか?』

 

 セツナはザッと、頭の中に地図を描いてみる。

 

『スレギトまでこちらを引き込み、強行軍で疲れ切った所を大部隊で持って殲滅する。理には叶っているが・・・・・・』

 

 だが、こちらが砂漠戦に慣れていない以上、進撃中に襲撃した方がマロリガンとしては勝率が上がるはずだ。逆にスレギトまで進軍してしまえば、攻城戦になるから、そうなれば、戦い慣れしているこちらの方が有利だ。

 

第一、   それではニーハスとデオドガンを落とした説明が付かない。

 

 スレギトからマロリガン首都までは道が3方に分岐しており、攻める側としてはどの道を選ぶか自由に決められるのに対し、守るマロリガンとしては、敵がどの方向から来るか、常に警戒しなければならなくなるのだ。

 

『あるいは・・・・・・』

 

 地平線を目で追いながら、呟く。

 

『こちらが考えもしない、とんでもない仕掛けを用意している、か?』

 

 だとすれば、不用意に進軍するのは、敵の罠に飛び込んでいく事になり兼ねないのだが、今のラキオス軍には、ひと当てして敵の出方を探る以外に作戦の立てようが無いのも事実だった。

 

「気に入らないな。」

 

 誰に聞かせるでもなく、呟く。

 

 明らかに罠と分かっている中に自ら飛び込んでいくのは、どう考えても気持ちの良い物ではなかった。

 

 

 

 そんなセツナ達を、少し離れた砂丘の影から見詰める瞳があった。

 

「へへ、ようやく来たか。」

 

 長身のその少年は、小休止を取るラキオス軍を眺めながら、不敵な笑みを浮かべた。

 

「おい、配置の方はどうなっている?」

 

 背後に立つスピリットに話し掛けた。

 

「ハッ、既に完了しております。仕掛けますか?」

 

 スピリットの質問に、少年は黙って首を振った。

 

「焦るなよ。もっと連中を引き込んでからだ。」

「はあ」

「今、不用意に仕掛けて、ラキオスに逃げられでもしたら、元も子も無いだろ?」

「ハッ、失礼いたしました。」

 

 かしこまって一礼するスピリットに、少年は笑って手を振る。

 

「まあ良いさ。引き続き監視を続けろ。それに、どうも妙な気配が近付いているみたいだしな。」

「妙な?」

「ああ。このまま行けば、そいつらの方が俺達よりも先にラキオスとぶつかる事になるだろう。それを見てからでも遅くは無いさ。」

 

 

 

『さて、どう動くか・・・・・・』

 

 自身も歩哨に立ちながら、セツナは考えを巡らせる。

 

 先手を打てないのなら、どうにかして後の先を考えねばならない。だがそれにしても、敵の出方がこうまで読めない以上、効率的な策を練る事はできない。

 

『ヒントは、デオドガンとニーハスか・・・』

 

 この2箇所を、マロリガンがラキオスとの開戦前に慌しく占領したのは何故か。それさえ分かれば、あるいはマロリガンの手の内も読めると言うものだ。

 

 だが、生憎この2箇所は、開戦前のセツナのチェックポイントから外れていた事から、情報部の密偵も送り込まれていなかった為、何の情報も手元に無いのだ。

 

『開戦前に慌てて占領したくらいなんだ。この2箇所に何かがあるのは間違いないんだ。あるいは、何かをやっているか・・・・・・』

 

 考えても考えても、思考は確信へ近づけないで居る。

 

 無理も無い。類推するデータがまったく無いのだから。

 

『駄目だ。』

 

 さすがのセツナも、今回ばかりは匙を投げざるを得ない。

 

『取り合えず、ユウトと俺が先頭に立ち、敵が現れた場合に即応できるようにしておこう。エトランジェなら、並みの攻撃で倒れる事は無いだろうし。』

 

 そう考えて思考を打ち切ろうとしたときだった。

 

「ん?」

 

 研ぎ澄まされた感覚が、周囲に異様な気配がある事を察知する。

 

『・・・数は・・・それ程多くは無い・・・だが。』

 

 味方でもない。

 

 判断を下すと同時に、セツナは《麒麟》に手を掛けた。

 

「セツナ様?」

 

 すぐ傍らに立っていたヒミカが、怪訝な顔で声を上げた。

 

 それを無視して、セツナは1歩前に出た。

 

「出て来い!」

 

 無人の砂丘に向けて、声を張り上げる。

 

 その声に、休息を取っていた他のスピリット達も顔を上げる。

 

「セツナ!」

 

 すぐに立ち上がったユウトが、《求め》を抜きながら傍らに立った。

 

「燻り出されるのが趣味なら、そうするが?」

 

 問い掛けるようなセツナの言葉に、視界の先にある砂丘が僅かに揺らいだ。

 

「ッ!?」

 

 途端に、スピリット達の間にも緊張が走る。

 

 すぐ傍ら、目と鼻の先で、気配が弾ける様に膨れ上がったのだ。

 

 陽光に照らし出されて、立ち居出る陽炎のように現れた人影を見て、セツナはフッと笑みを浮かべる。

 

「やはり、お前か。」

 

 そこに佇むのは、

 

銀髪をなびかせ、闇色の翼を従えし少女。

 

「ウルカ。」

 

 サーギオス遊撃軍《漆黒の翼》ウルカが、行く手を遮るように立ちはだかる。

 

「ウルカ!!」

 

 その姿を見た瞬間、ユウトは自身の血液が沸騰するのが分かった。

 

 あの、忌まわしい夜。

 

 佳織を抱えて飛び去るウルカ。

 

 それを見送る事しかできなかった自分。

 

 怒りは、激情の炎となって、心の内より迸る。

 

「佳織を・・・佳織をどこにやった!?」

 

 激高するユウトに、あくまで冷静な瞳を向けるウルカ。

 

「・・・・・・帝都へ、我が、主の元へ。」

 

 簡潔な言葉。しかし、そこに内包された意味はつまり、瞬の手元に佳織がある事を如実に言い表す。

 

「何だと・・・」

 

 なおも前に出ようとするユウト。

 

 しかし、

 

 それを遮るように、セツナが前に出た。

 

「・・・無事、なんだろうな?」

「はい。」

 

 頷くウルカに、セツナはスッと目を細める。

 

 ウルカの性格から言って、嘘を吐くとは思えない。であるならば、今後どうなるかはともかく、現状、佳織の身柄は取り合えず無事と言う事だろう。

 

 セツナは、ユウトに向き直った。

 

「ユウト、済まないが、奴の相手は俺にやらせてくれ。」

「セツナ・・・・・・」

 

 なおも言い募ろうとするユウトの肩を叩き、セツナはフッと笑みを浮かべた。

 

「心配無い。カオリは無事だ。だから、安心しろ。」

 

 そう言い置いて、セツナはウルカに向って歩き出す。

 

 それに合わせるように、ウルカもセツナに向って歩き出した。

 

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 呼吸する毎に、両者の距離は縮まっていく。

 

 見守るユウト達も、一言も喋らない。

 

 セツナとウルカ、2人の鼓動が発する音のみが支配する静寂の世界で、緊張のみが加速度的に高まる。

 

 2人は同時に神剣を抜く。

 

 それはまるで儀式のように、あるいは舞踏のように、

 

一定の型を持つかのように、互いに距離を詰めていく。

 

 やがて、間合いに入った瞬間、どちらとも無く己の刀を掲げる。

 

キン

 

 《麒麟》と《拘束》、2本の永遠神剣が、その刃をこすれ合う。

 

 次の瞬間、両者は動いた。

 

 静から動へ、

 

 激しく流れが転ずる。

 

「ハッ!!」

 

 漆黒のウィング・ハイロゥを広げたウルカが、宙返りを打ちながらセツナの背後に着地、勢いを利用して斬り掛かる。

 

 対してセツナは、微動だにせずに《麒麟》を背に回し、その攻撃を受け止める。

 

「白虎、起動!!」

 

 身の内に眠りし獣が咆哮し、全ての事象がスロー認識される。

 

 セツナは振り返る反動を利用してウルカの体を押し返す。

 

「クッ!!」

 

 飛び退くと同時に納刀。着地しつつ前傾姿勢を取るウルカ。

 

『来る!!』

 

 10倍の運動速度差をまったく感じさせない動きで、ウルカが迫る。

 

「居合いの太刀!!」

「フッ!!」

 

 短く息を吐くと同時に、《麒麟》を立ててその斬撃を防ぎ止める。

 

「クッ!!」

 

 攻撃失敗とみるや、直ちに後退を掛けるウルカ。

 

 対してセツナも、間髪入れずに蹴りを放つが、後退したウルカを捉える事は出来ず、虚しく空を蹴る。

 

 砂埃を上げながら後退するウルカ。

 

 しかし次の瞬間、その真紅の瞳が見開かれる。

 

 セツナの体が、既に目の前まで迫っていたのだ。

 

「クッ!?」

 

 振り翳された斬撃を、紙一重で回避、しかし、

 

「この距離を待っていた。」

 

 薄く笑うセツナ。

 

「ッ!?」

 

 認識した瞬間、ウルカの顔面のすぐ脇を、刃が奔る。

 

「クッ!!」

「逃がすか!!」

 

 逃れようとするウルカ。しかし、セツナは更に1歩、踏み込んでくる。

 

「喰らえ!!」

「クッ!!」

 

 放たれる斬撃を、辛うじて防ぎ、あるいはかわしていく。

 

『クッ、これでは!?』

 

 ウルカは、若干の焦りを感じていた。

 

 ウルカの得意とする戦法は、居合い技である。しかし、居合いと言うのは、一旦刀を鞘に収めねばならない関係から、敵との距離をある程度取る必要がある。

 

 しかしセツナは、刀の間合いにウルカを捉えると、そのまま張り付いて放れようとしない。

 

 ウルカの苦悩を見て取り、セツナは笑みを浮かべる。

 

「クッ!?」

 

 その笑みを見て、ウルカは完全に自分がセツナの策に嵌った事を悟る。

 

 セツナは素早い連撃を繰り出し、ウルカに刀を仕舞う隙を与えない。

 

 白虎を使い、身体能力を10倍まで引き上げたセツナのスピードは、今やウルカと互角。ならばこそ、このような戦法も可能となる。

 

『考えましたな。』

 

 自身の首を狙った一撃を払いながら、ウルカは心の中で呟く。

 

『だが、』

 

 ウルカはスッと目を細める。

 

 まだ、手が無いわけではない。

 

「ハァ!!」

 

 気合と共に横薙ぎに振られる《麒麟》。しかし、その刃はウルカを捉える事、叶わない。

 

 その前にウルカは、ウイング・ハイロゥを広げて上空に舞い上がったのだ。

 

「チッ!!」

 

 軽く舌打ちするセツナ。接近して居合いを封じると言う手段は、これで使えなくなった。

 

「居合いの太刀!!」

 

 ウィング・ハイロゥを羽ばたかせると同時に、一気に距離を詰めるウルカ。

 

 迸る剣光が、頭上からセツナに迫る。

 

 しかし、

 

「クッ!!」

 

 その刃は、空間に現出した盾によって防ぎ切られた。

 

 ウルカの攻撃がかわし切れないと、とっさに判断したセツナは、先んじて白虎を解除、代わって玄武を起動し防ぎきったのだ。

 

 そしてウルカは、不用意にセツナの間合いに近付きすぎていた。

 

「奥義・・・」

 

 手元に集中するオーラフォトン。

 

 振り翳すと同時に、炸裂する。

 

「雷竜閃!!」

 

 爆発的な威力を誇る一撃が、ウルカを襲う。

 

「クッ!?」

 

 表情を歪めるウルカ。

 

『防御は、無理か!?』

 

 とっさに体を捻る事で斬撃の軌跡から逃れるウルカ。

 

 放たれた一撃は、回避に全力を注いだウルカを捉えることは出来ず、爆発的な威力を持って地面を穿ち、砂柱を突き立てた。

 

「・・・さすが。」

 

 短く、相手を賞賛するセツナ。

 

 対してウルカも、口元に笑みを浮かべて相手を称える。

 

「セツナ殿も。以前と比べて腕を上げられた。」

 

 《拘束》を掌で回転させ、鞘に収める。

 

 ウィング・ハイロゥは目一杯広げられ、疾走の瞬間を待ちわびる。

 

「・・・・・・」

 

 対してセツナは、《麒麟》を地摺り八双に構え、再び白虎を起動、ウルカを見据える。

 

 見守る一同の間にも、緊張が高まるのが分かる。

 

 引き絞られる弓、

 

 それが放たれる瞬間、

 

 両者は駆ける。

 

「「ハァ!!」」

 

 互いの体が一瞬霞むほど加速された動きは、気付いた瞬間には互いを間合いに捉える。

 

「蒼竜閃!!」

「月輪の太刀!!」

 

 空気中の分子すら切り裂く最速の剣と、円月を模し、速度を威力に変換した一撃が互いにぶつかり合った。

 

 ギィィィン

 

 金属同士が擦れ合う異音と共に、両者の体が弾かれる。

 

 その威力は、

 

「互角!?」

 

 思わずユウトが言葉に出したとおり、セツナとウルカの体は互いに後方に押し戻された。

 

「クッ!!」

 

 先に体勢を立て直したのはウルカだった。

 

 ウィング・ハイロゥを出している分、空気抵抗を捉える事が出来たのだろう。

 

 対してセツナは、片膝を突いた状態で蹲っている。まだ、ショックから立ち直れて居ないのだ。

 

「今だ!!」

 

 叫ぶと同時に疾走、一気に距離を詰めてセツナを間合いに捉える。

 

「もらった!!」

 

 振り下ろされる《拘束》の刃。向う先には、無防備に晒されるセツナの頭部がある。

 

「セツナ!!」

 

 誰かが、叫んだ気がした。

 

 次の瞬間、

 

「ハッ!!」

 

 セツナは手にした《麒麟》を頭上に高く投げ上げた。

 

「なっ!?」

 

 予期せぬ行動に、一瞬目を奪われるウルカ。

 

 次の瞬間、セツナは迫る刃を白羽取りにした。

 

「ッ!?」

 

 息を飲むウルカ。次の瞬間、セツナはその腹を蹴り飛ばして《拘束》を奪い取った。

 

「グッ!?」

 

 蹴り飛ばされながらもどうにか片膝を突いて堪えるウルカ。

 

 しかしその喉元に、自身の永遠神剣を突き付けられた。

 

「勝負、あったな。」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 ウルカは無言のまま、瞳を閉じる。

 

 死を、覚悟した顔だ。

 

 だが、セツナはその喉元から、スッと刃を引いた。

 

「・・・・・・手前を、殺さないのですか?」

 

 意外に思ったウルカが尋ねる。

 

「本来なら、そうする所だが、」

 

 セツナは《拘束》を下げた。

 

「お前には、伝言を頼む。」

 

 そう言いながら、《拘束》を地面に突き立てる。

 

「伝言?」

「ああ。戻って、秋月に伝えろ。『ガキのような独占欲なら、今のうちに満たしておけ。』」

 

 言いながら、地面に突き刺さっている《麒麟》を取って、鞘に収める。

 

「『俺達がマロリガンを滅ぼしたら、次はお前の首が飛ぶ番だ。』とな。」

「・・・・・・承知。」

 

 呟くように頷くと、地面に突き立った《拘束》を取り、鞘に収める。

 

 ウルカはそれ以上、何も言わず、ウィング・ハイロゥを広げると、上空に飛び去った。

 

 その様子を、黙って見守るセツナ。

 

 そこへ、ユウト達が駆け寄ってきた。

 

「良かったのか、ウルカを行かせて?」

「・・・ああ。」

 

 セツナは頷いた。

 

「殺した方が良かったか?」

「いや・・・」

 

 少しからかうようなセツナの口調に言葉を濁すユウト。

 

 そんなユウトを見ながら、セツナは言った。

 

「つまらないだろ。言われっ放しって言うのも。」

 

 そう言うと、口の端に微笑を浮かべた。

 

 つまりこれは、セツナなりの、瞬の宣戦布告に対する返礼だったのだ。

 

「さて、時間が無い。先を急ぐぞ。」

「ああ。」

 

 ユウトは頷くと、見守っていたスピリット達に集合と進撃再開の指示を送った。

 

 

 

「良い見世物だったな。」

 

 彼方の砂丘から、セツナとウルカの戦いの様子を見ていた少年は、笑みと共に呟いた。

 

「何はともあれ、ここで朝倉の実力を見れたのは大きかった。ユウト1人だけならともかく、あいつもいるとなると、少々厄介だからな。」

 

 そう言うと、手にした巨大な双剣を肩に担ぐ。

 

「んじゃあ、次は俺達の番だな。」

 

 そう言うと、少年はニッと口元に笑みを浮かべた。

 

 マロリガン共和国軍精鋭スピリット隊「天空の稲妻」隊長。

 

エトランジェ《因果》のコウイン。

 

 それが、少年の名前だった。

 

 

 

第13話「翼と牙の饗宴」   おわり