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 この世界は二振りの永遠神剣から作られた。
 何時、何処で生まれたのか・・・それを知るものはいない。
 地位と天位の二振りの永遠神剣が存在したという事だけしか・・・
 世界はこの二振りから生み出された上位永遠神剣、それによって形作られる。
 初めは第一位の神剣達・・・しかし時が過ぎると第一位の神剣は殆どその姿を消し去り、第二位、第三位の神剣が多く生まれ始めた。
 二位と三位の神剣も、親と同意である第一位の神剣と同様に世界をつくり・・・そしてそれは少しずつ・・・少しずつと広がっていく。
 数え切れないほどの数の永遠神剣とその生み出した世界。
 そしてその神剣を所持する者達をエターナルと呼んだ。
 彼らは歳を取ることは無く不死に最も近い存在。
 エターナル・・・永遠者として世界の行く末を見つめている者達。
 だが、そのエターナルの誰かが思う。
(このまま広がり続けるだけでは世界は駄目になるのでは?)・・・と
 広がる世界、そして新たに生まれる世界ほどその世界に満ちるマナ・・・生命力が薄れていく。それは当然だろう。生み出したものが一つならその世界にあるマナの総量に限りがあるのも道理。
 それはある意味正しかった。
 世界が広がるほどに上位永遠神剣の力は目に映らぬ程度に落ちている。
 新たに生まれた世界、そこには生命力のある生き物が生まれない事もあった。
 それを危惧したエターナルはある時を境に二派に分かれる。
 このまま世界を創造していく―――『カオスエターナル』
 世界を減らし、初めの様に少ない世界へと戻し安定を図る―――『ロウエターナル』
 互いの考え方は真逆、相成れることは不可能。
 そしてエターナルという永遠者達は世界の裏で・・・別の次元で・・・またはすぐ隣で争い続けている。
 カオス陣営、そしてロウ陣営の二派に分かれて・・・
 そして、当初の目的を忘れて・・・

 1つの世界を他の次元から切り離し、持ち主とその部下、そして眷属の為に作られた空間。持ち主の趣味なのか、派手な装飾に飾られた宮殿が多く建てられている。その中でも一際目立って大きな建物の中、そこからカツン・・・カツン・・・と言う足音が薄暗い回廊に響く。
 中も外と同様に派手であり・・・また独特と言わざるを得ない置物や絵画が飾られている。しかし趣味は悪くない。
 そんな中を歩くその人影・・・それはユートだった。
 人工的に作られた太陽の光は建物の中にはあまり届かず、今のユートの服装・・・黒ずくめに顔を半分隠すというのは正直薄気味悪い。
 今の神剣を所持していない為か身軽に見える・・・しかし武芸の達人が見るとわかるだろう、足捌き・・・そして体重移動などに隙はまるで見つからない。
 ユートにそんな意識はなかった。だが自然体でこうなるほどに彼は武を磨いている。
 一周期前にはまだあった、甘さも影へと潜めて・・・
 コツ・・・コツ・・・
 大理石のような物質で出来た床を踏みしめる音、それが止まる。
 彼はある一室の前へと立って・・・その扉をゆっくりと開ける。
 中には横たわる生気の無い少女と、看護の為にいる少女が二人いた。
 別に医務室やら集中治療室などのような雰囲気は無い。
 そこは風通しのいい、壁には緑を基調としたモチーフの描かれた、そんな一室だった。
 窓からはこの世界を一望できる。ここは宮殿内でも高い位置に作られている部屋で、こういう部屋にしてくれるように頼んだのはユート自身だから。
 横たわる少女は目を閉じて深い眠りの中にいるようだ。
 部屋へと入室したユートに対して声を書けたのは他の二人。
 輝くような明るい金色の髪をして、それに合う金色の瞳をした看護服をきた少女、彼女が声をかけてくる。
「ユートさん。おはようございます」
 もう一人の・・・何処か猫っぽい雰囲気を漂わせた黒髪の少女のほうも。
「ミルティー、もうお昼だってば。ユート、こんにちはー」
 と気軽に声をかけてくる。
 ユートはそれに答えるかのように「ああ、こんにちは。ミルティア、シャロン」と言う。ただし顔には微笑みは浮かんでいなかった。
 ユートが微笑みを浮かべる事は非常に少ない。むかしはヘタレと言われてからかわれていた彼だったがその面影はもう無い。
 その眼差しをベッドに横たわる少女へ向けて。
「目はまだ覚まさないか?」
「変化はありません。ユートさんも、そんなに気を張り詰めていない方がいいですよ」
 ミルティアと言う名前の金髪の少女はそういってユートの体を心配する。
 心配気なその様子からして、ユートは無理をしているのだろうか・・・?
 猫っぽい雰囲気のシャロンはというと、横たわる少女に甘えるかのようにしてぴったりとくっつき、ユートには特に気にした様子は無いようだ。
 ユートは首を軽く横に振る。
 平気さ・・・と言う合図である。そしてユートは右腕を軽く振る。するとその手には無かったはずの彼の神剣、『聖賢』が生まれ、それをがっちりと掴む。
「悪いが・・・暫く席を外しててもらえるか?」
 看病をしている二人へとそう声を掛ける。
 ミルティアの方はすんなりと・・・シャロンは暫く離れなかったがミルティアが引きずっていった。
 後ろでパタンッとドアが閉まる音がする。
 二人が出て行ったのを確認してユートは永遠神剣をかざした・・・

 ギィ・・・
 少しだけ軋んだ音を立てて扉を開ける。
 軋むのは木の扉だからだ。材質はこの建物に使われているのとは異なり、ラキオスの時と同様の物で、わざわざ作ってもらった。変なところで律儀なテムオリンである。・・・もっとも気が休まる為、ありがたいといえばありがたいのだが。
 内部も昔住んでいた部屋と同じ作りで、質素で堅実な部屋である。
 彼は疲れた体を休める為にベッドへと横たわる。
 深いため息を吐く・・・暫くするとその吐息は穏やかなものへと変わっていた。
「すぅ・・・すぅ・・・」
 いつしかユートは眠りについていた。
 先程の”力”の消費で疲弊した体、それを休ませる為に・・・
『・・・・・・・・・』
 いつの間にか、この部屋の角へと立て掛けられている永遠神剣『聖賢』、彼もその様子を見て・・・ホッとする。
 目があるとすれば、それはとても穏やかな目でユートを見つめていただろう。4周期の長きにわたり共に在り続けた戦友の姿を。
 部屋の開け放ったままの窓からは暖かな風が流れてくる。
 この空間には四季はない。
 永遠に春の時間が流れる・・・穏やかな世界。
 暫くユートは深い・・・深い眠りについていた。

 ビー・・・ビー・・・ビー・・・
 何かの物音が聞こえる。
 ユートはその物音に目を覚ます。
 目覚ましなどは元々無い。幾度の戦いの中で自然に体は目を覚まさせてくれるから。
 何その音は何かの電子音だった。
 ビービービー・・・と一定間隔で鳴り響き、止む気配が無い。
 仕方なく彼は起きて、その音の発信源を探す。
(・・・こんな電子音の流れる機械・・・置いてたか?)
 そう思いつつも音の鳴る場所を見つけた。 
 ユートがカオスエターナルの時に、任務中よく身に着けていた、小さなポシェットだ。
 ジー・・・っとファスナーを開けてみる。
 そして音の発信源を見つけて・・・苦虫を噛み潰したような顔をする。
 それを掴み・・・
(・・・まったく俺って奴は・・・こんな物を未だに未練たらしく持っていたとはな・・・)
 指先以下の大きさしかない小さな電気部品。
 それは彼がカオス陣営にいた時に・・・任務中、自分の部隊との連絡が取りやすいようにとわざわざ買った代物だ。
 仲間との交信は神剣同士でもする事は可能だ。
 だが察知されやすい・・・と言う事があるため、わざわざ買っておいたもの。
 これがかかってきたと言う事は・・・
(元仲間連中が俺を狩る為に連絡してきたってことだろう)
 嫌な気分だ。
 ユートはそれを握りつぶそうとし・・・ふと思い直す。
 暗い笑みをほんの少し・・・知り合いにしかわからない程度に浮かべた。
 そして通信機を繋いでみる。
 暫く無言・・・ややあって向こうからおずおずとした感じで、しかし口調ははっきりと。
「・・・お久しぶりですね、悠人さん」
 そんな女性の声がした。
 ユートはその声を聞き懐かしさを覚えた。
 その少女・・・
「私です。覚えていますか?時詠の時深です」
―――時深
 彼がエターナルとなったころから共に戦ってきた戦友であり親友でもあった少女。
 初めての相手でもあり、彼のことを親よりも深く知っていた存在、そしてエターナルとなってから暫くの間、彼の面倒を見ていた少女。
 同郷の人間であり、もっとも気軽に話せた存在だった・・・だが。
「―――ああ、覚えているさ。倉橋の巫女」
 っ・・・と向こうから息を飲む音が聞こえる。
 初めに間を空けたのはわざと。そして時深と呼ばずに倉橋の巫女と呼んだのは、決別してという事実を突きつけるため。
 ユートにとっても特に楽しいと言うわけではなかった。
 しかし、もう彼にはカオスエターナルとなれ合う気はこれっぽっちも無かった。
 そういって彼は自分の右目を押さえつける。
 酷く疼く目に残る傷痕を・・・
「悠人さん、もしも今時間があるのでしたら赤い月の昇る世界、生命の住まない終わった地へと来てもらえませんか?」
「用件くらい今言ったらどうだ?」
「・・・用件はそこでお話します。―――来てもらえませんか?」
 再度呼びかけてくる。
 誰にだって予測の付く用件。
 だが・・・ユートはあえて問わず、答える。
「わかった。十字の傷痕が大地に刻まれた場所、そこで待つ」
「ありがとうございます」
 プツンッと言う音と共に通信が途切れ・・・その瞬間、握りつぶす。
 大きな音も無く、機械は粉砕された。
 それと同時に彼は横たわった体を起こす。
 ドアを開けて回廊を抜け、最上階の部屋へと向う。
 建物の中心にある螺旋階段。その回る階段を昇っていき、最上階へとたどり着く。
 「テムオリンのお部屋」
 そんなプレートが掛かっている部屋こそは、彼らの主であるテムオリンの私室。
 ユートはノックする。
 コンコンッと言う音が鳴り、暫くして中から声が掛かる。
 テムオリンの声ではなく別の声。
「誰ですか?」
 男の声。ユートにはそれが誰なのかすぐにわかる。
「俺だメダリオ。入ってもいいか?」
「テムオリン様、ユートがきたもようですが、入れさせてもよろしいでしょうか?」
 うやうやしく、ご機嫌を伺うかのようにメダリオは誰かへと声を掛ける。
 直に返事は来る。
「ええ、ユートさんお入りなさいですわ」
 その声と同時に・・・扉は音も無く開かれた。
 部屋の中は異常な世界だった。
 大人っぽいものと子供っぽいものが五対五の割合で置かれている・・・そんな部屋。
 たとえばぬいぐるみの横には古い彫刻が置かれていたり・・・
 玩具の横には大人の玩具が置かれていたり・・・
 壁に有名な画家が描いた風景画が掛けられてるかとも思えば、逆の壁には少女の好むようなポスターが貼られている。
 そんな部屋の中央、ソファーに体を横たえている少女がいた。
 見た目的には年齢十歳前後の童女。白に近い銀色をした髪をバサッと翼のように広げるようにしている。髪を背中で2つの結わき、それを床に届く長さまで伸ばしている。そしてその先端には符のようなものが結わいてある。そして丸いふちのある帽子とだぼだぼの法衣を纏っている。
 顔つきは幼い。でもその目の奥に光る知性は年齢相当ではないと誰もが直に気づくだろう。
 そして彼女の真上に浮かぶ杖が彼女の永遠神剣『秩序』。主を守るかのごとく浮かんでいた。
 そしてその横に従者のように立つ青年がいた。
 細身の体には凄まじい筋肉が付いている。上がタンクトップで下は紺色のズボンを着ているのだがそれが余計に肉体へと目を惹きつける。黒い短めの髪と端正な顔立ち、普段は面倒そうな顔をしているがテムオリンの前だからだろう、笑みを浮かべている。
 腰には二本の長剣を帯びていた。『流転』という2本で一振りの永遠神剣である。
 その二人の前へとユートは歩いていき、テムオリンの前で片膝を立てて跪く。
「どうかしました?」
 寛いだ姿勢のままで問うテムオリン。
「今から少しの間、虫けらを蹴散らしに行くことをお許し下さい」
 そしてユートは説明する。
 時深に戦いを挑まれにいくということを。
 簡単に承諾の返事がもらえると彼は思っていた。しかし意外にも・・・
「おもしろそうですわね・・・ですけれどもただ真正面からぶつかり合うと言うのは酷くつまらないですわね。・・・そうですわ!メダリオ」
「はっ」
「貴方も隠れて付いていきなさい。おそらくは腹黒い時深さんのことでしょうから複数のエターナルをつれているとおもいます。それを貴方が・・・」
「・・・お待ち下さいテムオリン様。・・・雑魚はメダリオに任せてもいい、ですが時深は俺が相手をしたい・・・その点は平気ですか?」
「ええ、時深さんは貴方にお任せしますわ・・・長い付き合いでしたけどもいい加減片付けたいですしね」
 そしてテムオリンは自分も見物に行くとだけ伝える。
 彼女のコレクション・・・神剣を集めるという趣味があるのだが、その中で1本気配を完全に隠すという神剣があるらしい。それで隠れつつ様子を見るというのだ。
 メダリオの方は早速準備を進めている。
 テムオリンの荷物運びの準備を・・・
 剣の腕だけならタキオスを超えるメダリオ・・・こいつが付いてきてくれるのなら心強いとも思えた。―――悪い癖さえでなければ。
 そして約束した場所へと向かう事にした。
 生命の通わない、崩壊する世界へと・・・

 赤い月が天にあり、地を赤く染め上げる。
 地表にはゴツゴツとした岩肌だけ、生き物の住める環境ではないのは明らかだった。
 気温も・・・実は氷点下に近い。
 そんな中を時深は待っていた。
 体表に薄くオーラの壁を張り巡らせて外気を遮っている。それは自然に行なっているだけの事、珍しくは無い。
 見渡す限り岩、岩、岩・・・目の前にはそこの見えない深い十字の大穴。
 かつてこの世界で争った二人のエターナルの戦いの痕跡。
 それが自分と彼にとっても相応しいと思えた・・・
 その直傍で待つ時深・・・両手には何も持っていない。両手は巫女服の裾に隠れて見えない。
 彼女は再び辺りを見回した。
 隠れている五人の気配を感じられる・・・そして、それ以外の気配はまだない。
 時間の指定をしていなかった事を時深は後悔した。
 もう一度連絡しようとしたら既に壊された後のようで繋がらない・・・正直時深にとっては今日まで彼が持っていたというのが奇跡に感じられた。だから仕方ない・・・直にそう諦めた。
 冷たい風が地表を吹き抜けていく・・・
 それから二時間後・・・ようやく目当ての人影が見えてくる。
 ゆっくりとした足取り。
 徐々に大きくなってくるその人影・・・それを見て時深は絶句した。
(これが・・・これがあの悠人さんなの!?)
 まったく以前の・・・カオスエターナルの一員として動いていた彼の姿とは違っていた。服装だけならいい、だが違っていたのは雰囲気。どこか安心できる雰囲気があった彼、今は氷のように冷たい気が肌に突き刺さるのを感じる。
 体表の覆っているオーラで防げない・・・否、初めから冷気など無い。心に突き刺さっていただけのこと。
 やがてその人影は止まる。
 時深から三十歩ほど離れた位置で。
 そしてそれは時深にとって目論見どおり。周囲に張り巡らせている人員が包囲する形になっている。
 暫し無言。お互いに会話が起こらない。
 何故話さないかと思うだろう・・・だが時深は会話しようとする口が動かなかった。
 彼の・・・ユートの余りの変わり様に。
 先に喋りだすのはユート。
「・・・で、俺を呼んで何のようだ?・・・最もわかりきってるからこそこうして『聖賢』を持っているんだが、な」
 冷めた気分でユートは言う。
 周囲に張られている包囲、素人過ぎて笑えるほどだ。稚拙な隠行で姿を隠せるとでもおもったか?そう心の中でぼやく。
 時深の方は・・・ようやく喋りだした。
「・・・提案です」
 ピクリッとユートの体が微かに動く。
 想像とは違っていたから。
「彼女を・・・貴方の恋人の身を差し出せば、貴方の身の安全を保障して元の立場へ・・・と・・・くっ」
 ユートの氷のような表情は変わらない。
 しかし内面の怒りの気配だけは良くわかっただろう・・・
「それ・・・が・・・ロウリーダー・ローガス様のご意思です・・・」
 その気に押されつつも全てを話し終える。
 じり・・・っと後ずさりしてしまうほどの怒気。
 そして、ポツリと。
「そうか」
 ユートは呟き、その眼差しを周囲一体へと向けて、最後に時深の目を真正面から見つめる。
 怒気は消えないままに。
「つまり・・・なんだ、お前ら六人全員揃って死ににきたってわけで・・・いいんだな?」
 ギィンッと周囲にある岩が全て破砕される。
 その真裏に隠れていた時深の部下達・・・五人の第三位永遠神剣所持者達は時深の傍へと駆けつける。
 今の岩を割ったのはその五人ではない、ユートだ。
 裂帛の気合だけで粉砕したと誰が思えるだろう・・・
 時深を含めてカオスエターナルたち全員に緊張が見られた。
 表情には焦りが見える。
 しかしユートは。
「俺的にはお前ら全員死亡決定なんだが―――処刑役は別の奴がやるらしい」
「え?」
 疑問の声を上げる時深。
 しかし、その疑問は直解消される。周囲にいた味方全員が吹き飛ばされていたから。
 時深が感じたのは突風。切り裂くほどの猛風。それが前方から後方へと流れ、時深以外の人間全てを吹き飛ばしたのだという事を、数瞬後理解する。
 敵の目の前だと言うのに後ろへと目を向けてしまう。
 そこには・・・既に血の海に沈んでいる二人の味方、そして退治する三人の味方と一人の痩躯の青年がいた。
 その青年の姿を時深は四周期前に一度だけ見た事があった。
 名は確かメダリオ・・・水月の双剣と呼ばれるテムオリンの部下。
 三人の仲間は互いに上手く連携を取り、倒れている二人へと治癒魔法を掛ける。それによって倒れていた者達が復活すると即座にバラける。
 メダリオを包囲するように五人が囲む。
 時深も手助けをしようと思った・・・しかし。
 首筋に冷たい金属が押し付けられている・・・完全な油断、既にユートが時深の背後へと歩み寄り剣を向けていたのだ・・・
 殺される、そう覚悟した・・・しかし。
「お前は黙って見ていろ。・・・奴ら雑魚の始末はメダリオに任せているからな。向こうの決着が付いたらお前と戦ってやろう」
「・・・正気ですか?さっきの不意打ちで2人倒したとはいえ、彼も第三位の中位レベルの力の持ち主。それにあの程度のオーラしか扱えない彼一人で五人も倒せると?」
 時深としては好都合だ。
 昔ラキオスで彼とは戦ったが、それでも五対一で勝てるほどの強さは無かったはず。それに加えて今回時深が用意したカオスエターナルたちは、連携力が高く即座にいかなる場合でも対処できる者達を選んでいる。・・・現に。
 赤毛の青年がハルバードのような武器で突き―――そのまま真横に払う!
 それを避けるメダリオ。後方に一歩大きく跳躍し、ギリギリの位置で避ける。そこを追い討ちするかのように黒髪の女性が剣を振り下ろす。
 それをメダリオは二刀の神剣の一本を斜めにして受け止め・・・受け流し、今度は真横に飛ぶ。
 刹那、メダリオの居た位置に強烈な爆炎が起こり、地面を溶かす。
 それを放ったのは後方にいた二人の若く見える少年達。
 少年のように悔しそうな顔をしないで再度詠唱する。歳と外見年齢が違うと言う事だろう。
 もう一人の少年はこの世界に唯一ある元素、地を操り・・・メダリオの着地地点へと落とし穴を開ける。巨大な穴、それにメダリオは吸い込まれ・・・ない。地面にオーラフォトンを用いて足跡の足場を作り、その穴を避ける。
 しかしその頃にはもう最初の二人が追いついてさらに連撃を続けようとする。
 もう一人、青い髪をした青年は全員の動きを見つめつつ、メダリオが攻撃を仕掛けてきたらそれを受け止める『盾』を作ろうと、そして治癒魔法の為に身構えている。そしてそれと同時に仲間へと補助魔法を掛けていく。
 最初に攻撃を受けた少年達の服には、べっとりと赤い血糊がついているが無傷。
 傷は完全に癒され、動きにも支障はまったく出ていない。
 つまり全員無傷のままで攻撃を続けている・・・
 その様子を見て時深はほっとする。
 これなら問題なく倒せるだろう・・・と。
 だが背後に立つユートは・・・
「お前の仲間達・・・とっとと全力を出させたほうがいいぞ」
「え?」
「メダリオの事を甘く見すぎだ。・・・奴の力は俺や黒い刃のタキオスに匹敵する。俺との戦いに余力を残そうなどと馬鹿な考えは捨てないと・・・死ぬぞ?」
 愚か者を見る目で戦いを見つめるユート。
 そう言われて時深は戦況を再び見つめる。
 追う五人、避ける一人。
 変わらない戦況を見ていて気づく。
 五人が無傷なのは、メダリオからの攻撃がないからだ。なら何故メダリオはあれだけの攻撃を食らって無傷なの?・・・と。
 良く見ると五人は必至になって攻撃を当てようとしている。
 しかし全ての攻撃は寸前で避けられる。
 再びユートは。
「あいつの名は水月の双剣。水に映る月の様に、捉えようとしても捉えきれず、決して触れる事は出来ない・・・まぁ、あいつが全力を出したら、だけどな」
 すっ・・・すっ・・・と避けていたメダリオは大きく跳躍し、岩場へと立つと軽く息をつく。
 それを囲むように再び包囲する五人。
 その五人に向けて・・・彼は言う。
「そろそろ―――死んでもらいますね?」
 ・・・と。
 ヴォン・・・という音と共に姿を消す、そして赤毛の青年の真横に突如現れる。
「むぅ・・・!?」
 体が反応したのだろう。
 一流の戦士は思考よりも先に体が動くものだ。
 ハルバードを短く持ち、真横に振るおうとし・・・落とす。
 バラバラッと落ちる音がしてその後さらに大きな物が落ちる。
 それは赤毛の戦士の十指と彼の神剣であるハルバード。
 彼は苦痛の声をあげる・・・前に真後ろで絶叫がする。
「う、腕が!腕がぁ!」
「あ、あ、足。俺の脚が!」
 二人の少年の声。
 少年たちは地面に転がっている。・・・そう、転がっている。
 両手と両足を切断された状態で・・・
 そして、その少年たちを踏みおろす位置にメダリオは立っていた。
 両手を広げて二本の剣を持ち、薄い笑みを浮かべながら・・・
 五人の中で一番真後ろに立つ青い髪の青年は、戦闘中だというのに呆然としてしまう。
 青い髪の青年は対応できなかった。赤毛の戦士がやられたときも、少年達がやられたときも・・・自分の実力に自身を持っている彼のようなタイプ、だからこそパニックに陥りやすい。
 そんな青年の様子に舌打ちしつつ女性がメダリオへと向う。
 女の手で持つには大きすぎる両手剣。それを軽々と振りかぶり・・・飛んでいった。振りかぶった瞬間に腕を切断されて。
 最後にメダリオは呆然としたままの青い髪の青年の両手両足を切り落とし、先程の岩場へと戻るとそのままその場所に座る。
 そして一言。
「つまらないですねぇ・・・。拍子抜けですよ」
 そういって剣についた血をペロッと舐める。
 赤い月の光をその身に浴びている彼。
 まさしく死神のように見えた・・・

「・・・・・・・・・」
 時深は声も出ない。
 ユートを倒す為に連れてきた仲間たちが全滅したことに。
 遠距離から見ていた時深にすら残像が見えるほどの高速移動、そして超速の剣技。
 ご丁寧にメダリオは味方の手から神剣を大きく離した位置へと転がしている。これでは神剣魔法も使う事が出来ない。
 赤毛の戦士だけは動けるが、彼は生粋の戦士。治癒の魔法は使えない。
 つまり勝敗は既に決したも同意。
 と、時深の首筋に当てられていたユートの神剣の刃が離れる。
 時深の体は自然と間合いをあける。
 中間達のいる方向にはメダリオがいる為、近寄れない・・・丁度メダリオ、ユートと正三角形に位置する場所へと避難していた。
「ユート、貴方の指示通りに全員生かしたままにしておきましたよ。・・・あとはお任せしますね」
 そういってメダリオは完全に観戦状態で、岩場から時深とユートの戦いを見つめようとする。
 ユートはそれに答え。
「ああ、助かる。・・・それにしても何時にもまして容赦が無かったが・・・」
「当然でしょう?あの人を殺すと言われたも同意ですから。いっそ苦しませて殺してやりたいくらいですよ」
「それは俺がする。・・・俺もかなり苛立っているから、な」
 ザッとユートが一歩右足を前に出す。
 それと同時に神剣『聖賢』を前に構えた。
 『聖賢』に纏う青白いオーラフォトン、それはゆっくりと・・・そうゆっくりと黒く染まっていく。
「こ、これは・・・」
 時深は何がおきているのかを察する。
 仲間のエターナル達の傷口から少しずつマナを吸い取っているのだ。
 それがユートの頭上で渦を巻くように周り、少しずつ『聖賢』へと吸い込まれている。
 仲間達は苦痛の声を上げる。
 少しは動けたはずの赤毛の戦士、彼も膝をつく。
 既に動けない・・・重症の青い髪の青年などは既に体が痙攣を起こし始めている。
 マナドレイン・・・
 一部のロウエターナルが使うと言われている技。
 傷付いた場所から漏れたマナを吸い取り自分の力にする技。
 そして、これの真の恐怖は・・・もし全て吸い尽くされた場合、復活できないということ。
 エターナルは致命傷を受けてその身を完全に破壊したとしても、神剣さえ無事なら別の場所で体を再構築して復活する事も出来る。そう、かつてのファンタズマゴリアでのテムオリンやタキオスのようにスペアの神剣を複製してそれで戦っていた彼らのように・・・
 しかし、もし今のようにマナを吸い取られた場合は再構築が上手く出来ず死亡もありうる。
 急がなければ・・・そう時深は思った。
 気は進まないが悠人さんを倒さなければ仲間の命が危ない・・・そう思っていた。
 そして彼女には、その手段がある。
「悠人さん止めて下さい!」
 だが力で静止する前に言葉で止めてみようとした。
 無駄だとはわかっているはずなのに・・・
 案の定ユートも時深にチラッと視線を向け、無視してまたマナを吸い取る。
 もう時深も喋りださなかった。
 無言のまま懐から呪符を抜きとり、放つ!
 『爆炎符』という符を九枚、そして『攪乱符』という特殊な物を一枚の計十枚を。
 『符』は意思を持つかのように、ふわりふわりと浮かびながらも高速で確実にユートへと向っている。
 そして『符』を放つと同時に時深は走る。
 硬い岩肌を蹴り走る彼女。足音すら無くまるで滑るかのように移動していく。
 先に飛ばした9枚の『爆炎符』は見事に命中。
 ユートを中心とした紅い華が咲く。
「・・・・・・・・・」
 時深の目・・・先の事象を見通す目ではなく現在の目で、ユートが直前に神剣を持たない方の手である左手を出して受け止めたのは見えた。
 しかし後に続く『符』はそれに紛れて効力を発する。
 ユートの感覚を狂わせる『符』がその効力を・・・
 同時に駆けていた時深は、右手に自らの愛刀『時詠』を懐に閉まっていた鞘から抜き出して握り締める。
 本来は片手剣であり、左手にはファン・・・鉄扇を構えるのだが、今は両手で握り締める。
(『時詠』・・・私の時間を加速させてくださいっ)
『わかりました時深』
 ギュンと時深は自分の体が重くなるのを感じた。それに合わせるかのように周囲の時間の流れが遅くなっていく・・・。
 スローモーションで動く辺りの景色、そして水中を動くかのように纏わり付く空気を払いつつ動く時深の体。
 時深も倉橋の戦巫女であり、エターナルの戦士。殺すと決めたらもう―――迷わない。
 先の事象を見通す目で相手の動きを先読みし、そして両手で握り締めた『時詠』を振るう。だが・・・
 ガッ・・・
 何かに阻まれたのを時深はその腕に感じた。
 目で見るとわかる。
「――――――っ」
 ユートは神剣を持たない左手。その手で時深の神剣の刀身を握り締めていた。
 強いオーラを左手に篭らせていたのだろう。強く素手で握り締めたのに血は一滴も零れない。
 神剣を大きく横に払い、掴んでいた手を振り解いてまた間合いをあける。
 頬に汗が流れる。
 冷たい汗が・・・
 時深が驚いたのは素手で受けとめられたからではない。 
 本来起こる動きを無理やり捻じ曲げたユートに・・・だ。
 あの位置には左手は届かない位置にあると、未来の映像は教えてくれた。
 だからこそその位置へと神剣を振るったというのに・・・そう時深は思う。
 最初にユートと対峙して時深はわかっていた。自分の生半可な剣舞や神剣魔法では勝てないと。
 時深が取れる手段は2つだった。
 時間を遅らせて自分の未来予知の力で戦う事。
 それが一つ。
 これが通用しないのであればもう1つの手にするしか手段はない。
 手には汗が滲む。
 戦士としての本能は使え!と心に囁く。
 一人ノ人間としては使うのを躊躇う迷いがある。
 その苦悩を知らずにユートは。
「・・・今のが時間を操る力・・・か。倉橋の巫女、本気を出したらどうだ?―――その懐の二刀は飾りか?」
「・・・ばれていましたか」
 暫くして時深は顔を上げ、そう呟く。 
 キッと強い意志を込めた目で見つめる。
 同時に自分の手中にある『時詠』を上空へと投げる。
 ユートは投げられた神剣に少し目を向けて、再び戻すとそこには両手に神剣を構えた時深の姿。
 右手に持つのは『時果』。
 左手に持つのは『時逆』。
 同時に、上空から落ちてきて時深の頭より少し高い位置へと浮かぶのが『時詠』。
(なるほどな・・・始めて見る)
 その三本の神剣こそが時深の永遠神剣。
 全てが似通った形状をしていて、それぞれ違う色のオーラフォトンの光が纏っている。薄い赤、金に近い黄、澄み通るような青・・・。時深はパッと両手から神剣手放す・・・と同時に両手に持っていた神剣も宙に浮かんだ。
 ほぅ・・・と観戦していたメダリオは感心の声を上げる。
 時深の力が少しずつ上がっているからだ。
 上がる・・・いや、元に戻っているといってもいいだろう。今まで使わなかった二刀の力が時深に注ぎ込まれる。
 ユートはというと・・・
「それが過去を遡る神剣と時の果てを覗く神剣・・・か。それで、その二本があれば勝てるとでも思ったか?」
 ここで初めてユートも神剣を構える。
 今までの自然体から、いつでも振るえる体勢へと。
 時深は言う。
「ユートさん。貴方をこの時間、この時代、この時空から―――放逐します」
 三本の神剣は共鳴しあっている。そして互いの力を上げていく・・・
 ユートはというと・・・
 神剣魔法の詠唱をして、最後の部分で止めたまま。
「カオス風情が舐めるなよ」
 時深は放つ。
 自身で禁呪とし、決して使うまいとしていた禁忌の神剣魔法《アストラルイレーサー》を。
 全ての時の中に歪を作る。
 全ての時間から作用されない閉ざされた空間、永遠に停止した世界、過去の無い時間の世界を作成。そこへと相手を放り込む技。
 完全なる抹消。
 相手を消すだけにあり、飛ばされた者はすべての者の記憶からも消される。
 ただし代償は大きい。
 閉じ込める相手の力に比例して、術者へと反動が帰ってくる。
 大抵は二度と戦えない。
 だからこそ禁忌。
 だからこそ自ら戒めていた・・・それを放つ!
「時と時の狭間へと貴方を封じます。《アストラルイレーサー』」
 手を頭上へと上げる。
「・・・なに?」
 辺りの空間が軋む音が聞こえ、ユートの体もそれに束縛される。
 空間が歪み、まともに立つ事すら出来なくなる・・・ユートは体を浮かせたが、動く事は出来ない。
 神剣同士の共鳴は高まり続け、彼女の巫女服や艶やかな長い髪は光によって何十にも色を変える。
 時深の声から数秒後、光の乱舞は三本の剣が描く正三角形、その形のままにユートへと向う。
 束縛されたユートの体へと。
 対するユートは煩わしげに体に力を込めて。
「・・・ふっ!」
 何も音はしなかった。
 だがユートが放った気合、それだけでユートの周囲だけ、空間のゆがみが止まる。
 正常に戻った空間にしっかり足場を固定する。
 それと同時に構えた神剣をその手に・・・詠唱途中の魔法を放つ。
「俺は・・・お前らから奪う。マナを奪いその力をオーラフォトンへと変え・・・砕く!《オーラフォトンブレイク》」 
 突如、暴風が起こる。
「くっ・・・!?」
 時深のいる場所へ暴風が走り、一瞬にしてマナを略奪する。
 倒れていた仲間たち。
 彼らからもマナが急激に吸い取られる。
 そして時深の放った《アストラルイレーサー》。
 その力の一部も吸い取られる。
 それは時深の神剣魔法がユートにぶつかる10秒の短時間。
 その瞬間に起きた出来事。 
 十二分に溜まったマナ達・・・それをユートは一転に収束し、解き放つ。
 それはマナを砕く力。
 ギィィィィィィギィィィ・・・
 閃光がユートと時深の中心で起き、それは膨れ上がりやがて炸裂する。
 時深は必至の形相で押す。
 ユートの表情はそれほど変えていないが、両手に握った剣を強く握り締めている。
 ギギギィィィィ・・・
 本来なら相殺など無理、神剣魔法ごと飲み込む時空放逐の魔法。しかしそれが相殺されているのはこれがマナを奪う魔法だからだろう。攻撃の力ではなく奪ったマナでマナを砕くだけ為の魔法。ぶつかりあう位置から何十にも光り輝くオーラの光、それが消えていく。
(そ・・・そんな・・・)
 消えていくオーラフォトン。
 ユートの魔法の力も衰えているが、既にここまで威力を減らされては空間放逐など出来よう筈も無い。
 以前の・・・一周期前までのユートなら楽に倒せたはずだ。
 だが今のユートの力、このマナそのものを砕く力は予想していなかった・・・いや、したくなかった。ここまで完全にロウの力である秩序の力、それを使いこなしているなんて、と。
 やがて、両者の神剣魔法は拮抗し、互いが互いを消滅させ、終わった。
 力全てを使い果たした時深は膝を地面につけた。
 カラーン・・・カラーーン・・・・・・
 3本の神剣も力なく地面に落ちる。
 禁忌であるあの神剣魔法、その制御には今の時深の力全てを遣わなくてはならなかったから・・・
 冷たい風が岩だけの大地へ吹き抜けていく・・・
 既に空間の歪みは消えていた。
 地面には踏みしめる大地もある。
 天には紅い月も・・・
 
「・・・ふぅ。思っていたよりはマシな攻撃だったか」
 そういって少しずつ時深の傍へと歩いてくるユート。
 対照的に立ち上がれない時深。
 硬い岩場を踏みしめる音が静かに響く。
 時深は仲間のいる場所には視線を向けない。
 想像道理なら、もう既に全員力尽きてるはずだから・・・
 実際は五人のうち三人はまだ生きていた。赤毛の戦士と二人の少年だけ。しかし救いにはなない。遅いか早いかの違いだけだろう。動けない彼らを助ける事は今の彼女には出来ないから。
 ようやく傍まで近寄ったユート。
 彼は冷たい視線を時深へと向け、神剣を時深の右足へ深々と突き刺す。
 低く苦痛の悲鳴を上げる時深。
 それには気にせずユートは、今度は左足へと突き刺す。
 そして右腕、左腕・・・と計四回突き刺し、腹部に蹴りつけて、飛ばす。
「がっ・・ぅ・・・・っ」
 蹴った先には大きな岩があり、そこにぶつかって、止まる。
 ぶつかった地点はその大きな岩の上のほう。ずるりっと滑り落ち、力なく地面へと崩れ落ちる。
 彼女の四肢からは大量の出血と共に、残り少ないマナも漏れ出していた。
 ぐふっ・・・と吐血する。内臓をやられたのかもしれない。
 再び近寄ろうとするユート。
「く、おぉぉ!」
 そのユート目掛けて紅い閃光が!
 力尽きたと思われた赤毛の戦士は、指を切断されて神剣を所持できない為、自身の二の腕に剣を突き刺して神剣魔法を唱えたのだ。使った魔法は赤属性、指向性の巨大な焔の槍を作り出してユートへと放ったのだった。
 だが・・・
 ユートはその魔法をつまらなそうに見つめ、『聖賢』でその方向を斬りさいて呟く。
「―――《アストラル》」
 ギィン・・・と空間が軋む音がする。
 それはユートの振るった軌道、其処へと焔の槍は物凄い勢いで突き刺さろうとした。
 しかしその空間の亀裂に焔の槍が触れると、その魔法が持つ力が全てその空間へと流れていき、槍の形は崩れていく。
 驚愕の表情を浮かべる赤毛の戦士。
 崩れきったオーラフォトンの力は別次元へと流れていく・・・守りではなく、避けでもないユートの防御魔法によって・・・
 完全に焔の槍が消えたのを確認したユート。
 そしてユートは先ほど時深を蹴った場所から時深へ背を向けて、生き残っていた彼女の仲間の場所へと歩いていく。
「ぐっ・・・」
 赤毛の戦士は槍斧を構える。生き残っている動けない少年達を庇うかのように前へでて。
 だが・・・
 瞬歩。瞬きの間に相手の背へと回り込んだユートは、背中から胸部に向けて神剣を突き刺し、そこからマナを吸い取る・・・
 戦士は断末魔の声をあげ、この世界から消えた。
「や・・・やめ・・・」
 時深はその光景を見つめるしかできなく、動かせない体では目を逸らす事も出来ない。
 ユートは冷たい表情のまま次々に少年を突き刺し、彼らもマナへと還す。
 ・・・・・・・・・・
 やがてこの場に残るのは時深とユートとメダリオ、そしてマナを吸い取られたせいかひび割れた五人のカオスエターナルの神剣だけだった。
 全員始末を終えたユートは、時深に背を向け歩き出す。
 一言こう呟いて。
「ローガスに伝えろ・・・次にこうなるのは貴様だと、な」
「ユート、止めは刺さないのですか?」
 眺めていたメダリオが疑問の声を上げる。
 よっと体を跳ねるようして身を起こし、ユートの横に並ぶように立つ。
 ユートは時深に聞こえるような声で。
「そうしてもいいんだが・・・こいつと仲がいい奴がいてな、そいつが俺をあの時救ってくれたお陰で俺は今生きている・・・。あいつにだけは恨まれたくないから今回だけは・・・な。時深、感謝するんだなグリフォンに。ただし次はない」
 そういって立ち去る。
 硬い岩場を歩く二人の足音、それは暫くして消えていった。
 時深は二人が消えた後・・・だれもいないこの世界で涙した。
 小さい嗚咽の声が響く・・・
 そして・・・
 その全てを岩場の影から見つめていた人影は、満足のいった感じで見つめ、そして立ち去った。

 すたすた・・・と『門』を開くのに適した位置まで移動する2人。
 特に会話はなく歩んでいる。
 その二人の前に、テムオリンが転移してきた。
 同じ世界内を空間転移する・・・その程度はテムオリンにしてみては初歩的な技な為、二人は特に驚いた様子も見せずに跪く。
 テムオリンは言う。
「ユートさん。中々楽しめましたわ。最後なんて時深さんガキみたいに泣いていましたの・・・可笑しかったですわ、うふふ」
 そういってころころと笑うテムオリン。
 手を口元に当てて笑っていた。
「・・・しかし申し訳ありません。ついカオスのときにあった恩義を忘れられずに見逃してしまいました。・・・次回からは確実に始末しますので」
 敬語でそういうユート。
「ふふ・・・実はいうとですね、古い知り合いに会って情けを掛けるのでないかと心配したんですのよ。だからこそ保険にメダリオをつけていたのですけども・・・余計だったみたいですわね。・・・あと時深さんの事はいつでも殺れますから気にしないでいいですわ」
 メダリオはふっと笑い、「確かに私が手を出さないほうがユートも楽しめたかもしれませんね」と言う。
 ユートは二人に対して首を振り。
「いえ、心遣い感謝します。・・・あと彼らに対して一片の情けもありません。それだけは確かですから」 
 気づいているだろうか。
 ユートは自身の瞳に黒い炎が見え隠れしている事を。
 テムオリンは勿論気づいている・・・それどころかその状態の彼を満足げに見つめている。
 ユートとメダリオ二人は立ち上がり、従者としてテムオリンの両側に配置する。
 そしてテムオリンの歩み―――いや、浮遊しているから正確には歩んでいないが―――に伴って進みだす。
 そして三人の姿はこの世界から消えていく。
 この紅い月が天に在るこの死の世界から・・・

 高野。
 暖かい陽光が差す場所。
 瑞々しい草花が咲き乱れる草原。
 広く・・・先の見通せないほどの広大さを誇る、この世界の『姫』である少女が心を癒すために来る場所。
 何色にもわたる花が綺麗に整地され、訪れる者の心を癒してくれる場所。
 そこで彼女は、うぅん・・・と言う声を上げ大きく息を吸い込む。
 花の香りが体に染み渡る・・・とても心地よい感覚を味わいながら彼女はその庭園に寝転んでいた。
 その青く美しい髪の少女は真っ白なひらひらの服を着ていた。
 顔立ちは整い、目鼻もきっちりとしていて普通に見たら美女と言えるかもしれない容貌。だが醸し出す雰囲気のせいか可愛いという印象のが強いかもしれない。表情豊かに彼女は1人この庭園で遊んでいた。
「・・・ん」
 寝っ転がっていたら鼻先に蝶が止まる。
 それに触れようとしたら飛んでいってしまった。
 青い髪の少女はそれを追いかけていく。
 それはとてもほほえましい光景だった。
 その庭園の見える位置にある建物・・・そこに一人の姫巫女と騎士がいた。
 巫女のような外見の少女はその部屋、彼女の私室で横たわり、穏やかな顔で青い髪の少女を見つめていた。小さな体とは正反対に強い意志を秘め、逆にその体どうりに生気が薄い少女。
 彼女の名前はリーア。
 この小さな世界を創造し、新たなる世界を作ろうとしている『姫』。
 そしてその横手・・・彼女に使える従者の如き騎士がいた。
 金色の髪を長く伸ばした優しげで穏やかな青年。鎧は着ていないが、その下に着る綿の入った服をきている。優しげだが何処か人のうえに立つ人間特有の力を秘めているように見える。
 彼を見て、「騎士だな」・・・と思う人は多いだろう。リーア姫を守る為、無心で使える彼の姿を見たものは。
 彼は背中に大きな盾を背負っていた。特殊な形状をした盾であり、彼にとって無二の相棒・・・『聖盾』。
 その二人のいる部屋は風通しのいい質素な部屋だった。
 この世界の主のしては相応しくない、といえるだろ。だが彼女は贅沢は望まなかった・・・貧しい人々、苦しみの中に生きる者達を救うためそういった贅沢を自ら禁じていた。巫女としてではない、己の信念に基づいた考えである。
 その質素なこの部屋だがみすぼらしい・・・といった感じは受けず、聖堂をも思わせる神聖な空気が流れている。
 それは横たわる少女から、放たれている空気であった。
 彼女はその存在そのものが、彼女の所有する神剣と同様に中心としての意味をもっている。彼女はこの世界の主にして、この世界の要石。
 少女は穏やかな笑みを浮かべているが生気の薄さは誰でもわかるだろう。彼女は自身の生命力を削って新しい世界の創造の為の力を貯めている―――その身に。
 ぽつり、と少女は呟く。
「ねぇレイ、彼女をこの部屋に連れてきてもらえませんか?」
「姫・・・」
 咎める声を上げる青年。
 とはいってもその目は優しげなままだったが。
「誰もいないのです。今だけは貴方を騎士レイナスではなくレイと呼んでもよいでしょう?」
「・・・承知」
 毎度の事なのだろうか、子供の我侭に困った親のような感じで彼は承認する。
 だが、チラッと上へと目を向けて。
「と、言うわけだ。フィリス・・・覗いてないで降りてきたらどうだ?」
「え?」
「・・・別に覗いてたわけでもないのですけれど。では降りますね」
 シュタッという音と共に、レイナスの横へ水色を基調とした衣服を身に纏った美女が降り立つ。
 白銀の髪をした美女で、瞳は金色。服は特殊な形をしている。長いスコートが目に付く・・・衣装も翼をイメージした様子で天の使いにも見えるだろう。
 彼女は降り立つとジッ・・・と繋いでいる手を見つめる。
 看護の時のクセか、2人はいつの間にか手を繋いでたらしい。
 リーアはそれに気づき。
「きゃ・・・」
 恥ずかしげな顔をしてリーアは手で引っ込める。
 そんな彼女の様子を微笑ましげに見つめつつ、その美女は。
「平気ですよリーア姫。そのことは黙ってて上げますからね。ふふっ」
「あぅ・・・」
 ますます縮こまるリーア。
 赤くなった顔を両手で覆う。
 レイナスもその二人の様子を止められず、困った顔をしている。
 彼女が騎士レイナスに対してレイと恋人を呼ぶかのように呼ぶ事を知る者は少ない。
 彼女にとってレイナスは最も古くから友にいた親友であり愛しい人でもあった。 
 リーアが目指す理想の世界。
 ロウでもカオスでもなく、差別も争いもない世界を作るのは彼女の夢だった。そしてその願いを聞き届けるかのようにその手へと現れたのは第二位永遠神剣『創世』という特殊な杖。
 彼女はそれを手にしたときから、永遠を生きる身として歩み始めた。
 しかし個人の力では如何に強大な力を所持していようと限界はある。
 だから彼女は仲間を探した。
 自分と共通の理念を持つ人を・・・
 そんな中で始めてその騎士レイナスに会ったとき、彼女の心の中に何か響く物があった。
 彼女は自分でも愚かだと分かるような説明で彼を仲間に誘う・・・おそらく動揺してたのかもしれない。
 そして、そんな彼女を主としてレイナスは認めた。
 それからレイナスは、その今までに騎士として生きてきた知恵を生かし、新しい仲間を次々と加えていった。 
 とはいっても加わった人たちの全員がその理想に共感したというわけでもない。
 殆どの人はリーアという姫巫女のカリスマに引かれたのだろう。彼女には何故か人を引き付ける力があったから。
 ある時などは任務で傷つき倒れていたエターナルの青年、彼の身を助ける為に文字通り命を賭けようとまでしていた。
 それは彼女の使命を果たすことが出来ない愚かな行為。
 それをレイナスは止めようとした。
 でも彼女はこう言った。
「ここでこの人の命一つも助けられなくて、私の使命は果たせないのです。レイ・・・お願いします、続けさせてください」
 弱い体とは逆のその強い意志を秘めた瞳。
 元の世界で英雄とまで言われた騎士レイナス・・・彼ですらそれに押された。
 彼女は自分の果たすべき事は最後まで遣り遂げるという強い信念があった。
 どうしてそのような信念を持っているのかはレイナスですら知らないのだが・・・
 彼女が助けたそのエターナルも彼女の仲間となった。
 それ以後も加わった仲間は多く、百人近いエターナルとそれの眷族にあたるミリオンが彼女と共に力を合わせて一つの世界を作ろうと動き出したのだ。
 だがレイナスは彼女を主として誓ったあの時からその胸に秘めた思いを封じていた。
 自分は騎士だ!・・・だからこそ主君にいとしいなどという感情を抱いてはいけない、と。
 だから彼はこう言った。
「フィリス・・・いい加減、姫をからかうのはよさないか。私と姫がそんな関係なわけないだろう?」
「そうですフィリス。私たちはそんな関係では・・・」
 フィリスは意地悪げに。
「ふふっ、私は一言も言ってないのですけどね?」
 にやっと笑う。
「うっ・・・」
「あっ・・・」
 二人とも気づいた。
 最初からからかわれていたのだと。
 そんな二人の様子を見て満足いったのか、その美人は。
「それではあの子を連れてきますね」
 そういって窓に手を掛け・・・飛び降りる。
 その彼女の背中から白く美しい羽が生える。
 その翼を羽ばたかせて彼女は庭園へと降りていった。
 先ほど頭上にいたのもこの手だった。
 彼女は元の世界では翼人だった。その為にその飛行には迷いもない、見てて清々しいほどだ。
 レイナスが窓から青い髪の少女の事を見つける。
 直にその少女の真上にフィリスが辿り着き、用件を手短に伝えたようだ。
 少女は頷くと背中に白い羽を生やしてこちらへと向ってくる。
 彼女も翼を生やしているが、翼人ではない。
 羽ばたきの音と共にこちらへと向ってくる少女。
 そしてこの部屋―――ビルでいうと地上五階の高さはあるのだが―――まで辿り着き床を踏みしめるて翼をたたむ・・・すると彼女の頭上に光輪の形へと姿を変え、陽炎のようにその姿を消す。
 それはハイロゥと呼ばれるものだった。
 彼女はこの部屋に着き、ミーアへと目を向けて。
「ミーア。今日も可愛い花を沢山見つけたぞ。後でもってくる」
「ありがとう・・・アセリア」
「ん・・・」
 礼を言われてアセリアが少し恥ずかしげな顔をする。
 そのアセリアという少女は、ミーアという巫女姫とはまた違った意味で不思議な印象を与える少女だった。感情表現は豊かだが、たまにぎこちなさが伺える。それでもミーアと会話している時のその少女は楽しげに会話に花を咲かせている。
 その様子を見てレイナスは思う。
 本来の目的とは違った意味で、彼女・・・アセリアはとても便利な娘だと・・・・・・いや便利とは失礼だ、彼女はいまは私たちの仲間なのだから。そして彼女がいるお陰で姫の心が挫けずにいるのだから・・・と。
 そんな考えを抱いていたとき、背後にスッ・・・と空気が動く気配が。そして同時に声が聞こえる。特殊な術式で編まれた連絡用の術で《木霊法》と呼ばれる。これは特定の相手へと遠距離への会話を可能にする便利な術であり、その声が伝えてくる。
『レイナス様・・・ギュネイ老及び配下の四人が謁見の間へと参っておられます。・・・以下がいたしましょうか?』
 落ち着いた女性の声が言霊となってレイナスへと伝わる。
 それに対してレイナスはチラッとミーア達をみる。
 ミーアとアセリアの二人は特に気づいた様子はない。そしてフィリスは顔を見ればわかる。その視線は『さっさと済ませてきなさい』・・・そう囁いていた。
 レイナスは無言でフィリスへと頷きミーアへ向けて。
「姫様、暫く護衛の任務をファズと交替致します。少々私用が出来ましたので・・・失礼いたします。アセリアは私が戻るまでは姫の傍にいてください」
「わかりました・・・レイナス気おつけて行ってくださいね」
「うん・・・わかった」
 二人の返事を背中に受けてレイナスは部屋を出る。
 部屋を出た先は明るい照明が照らす廊下だった。そしてそこに一人の男が立っていた。ミーアの私室を背にしてそこで待っていたのだろう中肉中背の何処かしら神経質そうな顔をした男。彼の名はファズ。永遠神剣『英霊』を所持したミーア姫の為の陣営では最強の男。
 レイナスはファズに対して無言で会釈する。
 ファズもそれに会釈で返し、今までレイナスが抑えていたマナの高まりを抑える役目、それを行なう。
 そしてそのまま私室へと入っていくのを目にしてレイナスは謁見の間へと歩いていった。 
 
 カツ・・・カツ・・・
 固い床に靴が鳴らす音が謁見の間へと届く。
 豪華な装飾で飾られた玉座、天井に吊られているシャンデリア、辺りの窓のガラスは全てステンドガラスで何重もの色が日の光を受けて謁見の間を色鮮やかに染めている。これらはミーア姫が望んだわけではない。ミーア姫を信望する人々が勝手に仕立て上げた物である。質素堅実を主とするミーア姫ではあるが、人々の好意を無に出来ず今もこうして使っていた。
 カツ・・・カツ・・・
 足音が近づいてくる。
 今謁見の間には人影が五つあった。
 軍団長という肩書きをもつギュネイ老とその配下のエターナルが四人。全員が床に跪いて来るべき人がこの場へと来るのを待っている。
 全員の顔には緊張の色が走っている・・・特に深い皺の老人は険しい顔をしていた。
 カツ・・・・・・ 
 足音が止まる。
 五人の目の前にある玉座の真横には人影が立っていた。その騎士こそが先ほどからの足音を出していた人・・・レイナスである。
「・・・・・・・・・」
 レイナスは無言でジッ・・・と全員の顔を見渡した。
 そのレイナスの顔は普段の優しげな雰囲気を押し殺した感である。それも当然ではあるだろう・・・これから起きることを思えばこそ。
 暫くの沈黙、その後突然話を切り出す。
「ギュネイ老とその一派達・・・なぜここへと呼ばれたかわかりますね?」
 優しげな声色だったが咎める響きが篭っている。
 それに苛立つかのように老人が。
「ふん、知らんのぅ。儂らはミーア姫様の恩為にただ動いていただけのこと、咎められるいわれはないぞ」
 そうレイナスへと叩きつけるかのように言い放つ。
 ただし・・・他の四人は口論へと参加はしなかった。それは自分たちがギュネイ老と同じ意思ではない、ともとれる。軍団長の下へとつけられた配下は、その軍団長の指示を受けなくてはいけない。だからこそ自分たちの意思ではない!・・・ということか。
 だがレイナスの目から見ると恨みの篭った視線が二つほど・・・それを感じて『やはり・・・恨まれてますね』と心の中で思った。
 レイナスはふぅ・・・とため息をつく。
「覚えが無いといわれましても・・・散々の忠告にもかかわらず、密かにマナの回収を行っていたことは既に四騎士の間では周知の事実なのですよ?」
「はっ、それの何が悪いというのじゃ。姫様の為を思えばこそ、そうして急いで集めて・・・」
「その行いこそが姫の心を痛ませると何故きづかないのですか!」
 老人は悔しげな顔をする。
 レイナスの主張は正しい。だが何故そんな命令違反をしてまでマナの回収を行なう自分を咎めるのか・・・その苛立ちは高まるばかり。
「・・・騎士レイナス。儂はな・・・知っているのだぞ?」
 突然口調を変えて呟く老人。
 低く・・・それでいて今までのような苛立ちを込めたものとは違う口調。
「・・・・・・・・・」
 レイナス・・・そして他の四人も黙ってその次の言葉を待つ。
「姫様の・・・今のままでは姫様の命が危ないという事を儂は知っているのだぞ!!」
 そう呟いた後、老人はジッとレイナスの顔を見つめて。
『顔色一つ変えんか・・・主等は既に知っていたようじゃな。なら何故・・・、何故姫の身を守る四騎士の一人が・・・しかも姫様に最も古くから仕えていたお主が守ろうとしないのじゃ!」
 すくっと老人は立ち上がる。
 それと共に老人が持っていた杖が光を放ち、老人が感じていた苛立ちが殺気となって辺りに威圧感を与える。
 顔を歪めるは四人のは以下のエターナル。
「小僧、答えぬか!」
「始めに会ったときに言ったはずです。それが姫の望みだと」
 一片の迷いもなく言い放つ。
 レイナスは老人の激しい殺気がまるで届いていないかのような様子。他のエターナルとは格が違う、とでも言う雰囲気である。
「ギュネイ老・・・神剣を収めてください。今ならまだ不問に―――」
 言葉を遮るかのように老人は杖を振るう。
 そして言い放つ。
「儂が姫様の命を守るのじゃ!」
 聞く耳持たないとはこの事だろう。レイナスはほんの少し悲しげな顔をして。
「なら・・・仕方ありませんね」
 背中に背負っていた大盾を左手で構える。
 銀色の高貴な光を放つ盾・・・その盾こそが彼の神剣『聖盾』であり、その大盾は鞘でもあり芯でもあった。
 老人は我武者羅な勢いでレイナスへと突っ込んでいく。その両手に巨大なオーラフォトンで出来た光を灯しつつ。
 そしてレイナスは盾を前に出して念じる・・・収まれ、と。
 キィーンという音と共に光がレイナスを中心に楕円状に広がる。それに老人が触れた瞬間、両手のオーラの氣玉と杖に込めていたオーラが軽く散らされる。
「な・・・・・・!?」
 驚きの声を上げる老人。
―――戦闘にすらならないほどの圧倒的な守護の光、邪な物を分解消去して散らす浄化能力・・・これが彼の『聖盾』の持つ力。神剣でありながら攻撃力を持たず、ただ受けて捌くのみ。
 レイナスの放つ光に押されて老人は後ろへと押し戻され・・・そうになりながら、杖を投げつける。
 それは唯の愚行だった。オーラの込めていないただの杖状の神剣、それをぶつけられただけで相手を倒せるわけがないではないか・・・だれもがそう思う愚挙。
 だがレイナスは好都合とばかりに盾の力を解除、盾に仕込まれていた本当の神剣『聖盾』を引き抜く。短い刀身の片刃の剣で、背には奇怪なギザギザの突起がついている。それはソードブレイカーといわれる武器だった。
 彼は飛んでくる杖に息を合わせ、一刀の元に・・・
「はっ!」 
 掛け声と同時に一条の光が走る。それはただの剣戟。しかし初めの構えや振るった後の残心などが常人をはるかの超えた力の持ち主だと理解させる。
 キィンと軋んだ音が謁見の間に響き渡る。
 レイナスはソードブレイカーを真横へと払った体勢で止まる。乾いた音を立てて地面へと突き刺さった杖を前に。そして・・・
「ギュネイ老・・・貴方の力を奪います」
「な・・・なにぃ?」
 宣告と共に地面に突き刺さった杖が罅割れる。
 パキィ・・・パキィ・・・・・・ギィィン!
 杖は粉々に砕けていき、それと共に老人の体外を覆うオーラフォトンの光は消えていく。
 神剣を砕くソードブレイカー・・・その名の通りの武器であった。盾の神剣ある彼の神剣は強い攻撃力は一切ない。しかしその代わりに相手の武器を受け止め、そして折る事が可能であった。
 神剣が砕かれたとはいえエターナルの力そのものは消え去ったわけではない。この杖は老人が予備として作り出した義杖であり、本来の杖がある限りは老人が死す事は無い・・・だが。
 悔しそうな顔で地面に尻餅を付いている老人。
 その目は自分の行いを信じているという強い意志がある。だからこそ完膚なきまでに歯が立たないとしても心は折れない。睨む。
 その老人をレイナスは見つめ・・・話す。
「ギュネイ老・・・貴方は姫の命と命のどちらを守るつもりなのですか?」
 盾へとソードブレイカーを収容して、さらに続ける。
「姫の命を守る為に邪魔な私たちを排除する為なのですか?それとも姫の命を護る為に戦っているのですか?」
「・・・姫様の命(いのち)に決まっているじゃろうが!」
 老人は即答する。
 レイナスは暫し黙り・・・
 無言で老人の力を奪い取っていった。
「が・・・がはっ・・・」
 残された力を吸い尽くされる老人。元々皺だらけの顔がさらに萎んでいくのは気のせいでは・・・ない。それはユートが使った力と同じの一部の上位の『ロウエターナル』のみが行使できる吸収。レイナスも元はロウエターナル、だからこそ使えるのだ。
 この場にはない老人の神剣。
 それが壊れる音を脳裏に浮かべて老人は意識を失う。
 最後に悲しげな瞳の騎士を見ながら・・・
 そして敬愛する姫の姿を・・・ 
 バタッ・・・
 倒れる老人。
 誰も助け起こそうとはしなかった。
 立ったままのレイナスは、老人の粛清の最初から最後まで平静のままで、表情には薄い笑みを浮かべている。
 残った老人の配下へと向けてレイナスは言う。
「・・・逆臣はギュネイ老のエターナルの力は奪いました。彼を何処か平和な世界へと連れて行ってください。そして次の指令が出るまでは貴方達は待機でいてください」
 そういって残っていた人達を散らす。
 レイナスとしてもつらい決断だった。
 彼としてもギュネイ老の考えは正しいとも思う。そしてそこまで尽くす彼らに対して感謝の気持ちで胸が熱くなる気分だ。だが・・・今は不味いのだ。善意が悪行に移り変わる事もあるのだから・・・
 隠してはいたが恨みの篭った視線を向けられていたのに気づく。
 だがそれを敢えて彼は無視する。
 パタンッ・・・という音と共に老人を連れた彼らの姿が消える。それと同時に気配が現れる。
 その気配は成人男性・・・いや、大柄な体躯の成年で歳は30代前半の感じである。・・・まぁ外見と実際年齢が比例しないのがエターナルではあるが・・・。背中に巨剣を背負って上半身は裸身に毛皮のベストとコートを身に纏っている。ベストは胸の部分だけであり、全身筋肉が隆起しているということが直にわかる、そんな男。
「ご苦労さん・・・いつもながら憎まれ役は大変だな」
 男はそういう。
 そう、レイナスは敢えて憎まれ役をしている。 
 先ほどレイナスが尋ねた命という言葉。それは『いのち』と『めい』である。レイナスはミーア姫の使命を助ける為に戦っている。それは他の四騎士や大多数のエターナルが同意見だ。だがそれは彼女の命を削る事に他ならない。
 知らぬが仏とはよくいったものだ。
 偶然に今の倒れたミーアを目にした人々は、彼女の使命を助けるよりも彼女の生命を救おうと考えてしまう。先程のギュネイ老の様に・・・
 今のミーアの体はかなり弱っている。だからこそそうした一部の者達の愚考―――いや愚考とはいえまいか、彼らもただ純粋に救いたいだけだから―――を姫の耳に伝えない為、レイナスはその身に彼らの非難の言葉を浴びていた。
「慣れてますから、ね・・・さてと」
「ん?どうかしたか?」
 周囲を・・・いや、ある一点を凝視したレイナスへと声を掛ける男。
「私たちの話は終わりですがそろそろ出てきてはどうですか?密偵さん」
 ギョッとする男。彼は慌てて辺りに気配を配るが何も感知できない。
「グラン、その人は完璧な隠行の法で隠れている様子です。無理して貴方が見つけなくてもいいですよ。その人はそこに最初から立っています」
 指差す場所は先ほどあの五人のエターナルが立っていた場所。
 やがて観念したのか、ほぇ〜という感心した感の声を上げつつ若い男が姿を浮かび上がらせる。
 その見た目だけなら二枚目風でありながら、全身をだらけた感じにしてニヤニヤとした笑いを浮かべる男が声を掛けてくる。
「まーったく大したもんだぜ・・・、良く俺が隠れてるのを見つけられたな?」
 手には黒い長めの槍を手にした彼は、心底感心した感じでそういう。
「ほ、ほんとに居やがった・・・!」
「いえ、見つける事は出来ませんでしたよ。大した隠行ですね」
「はっ?」
 平静のままそういう彼に、間の抜けた感じで声を上げてしまう。
「運が悪かったんですよ。先ほど私の行なった技・・・『退忌の結界』という邪を払う技なのですが・・・それを行なった時に唯一、干渉できない空間がありましたね。だからこそ逆にいるとわかったわけですが・・・」
「・・・あちゃ〜、参ったねこいつぁ。俺的には完璧無比な隠れ蓑を作った気だったんだが、逆に仇になるとは、ね」
 頬を掻いている男。
 だが彼の余裕の雰囲気はそのままだった。
「んなこたぁどうでもいい。んで、てめぇは何の目的でここまで忍び込みやがった?半端じゃない数の結界と防壁を張ってたはずだぜ」
「あー・・・面倒だから全部すり抜けちゃったよ。無駄な努力ご苦労さんっと♪」
 相手を苛立たせる気満々の様子でそういう。
「て・・・てめぇ」
 実際はそんなに単純な話では・・・ない。
 ここに張られた結界の強度、及び緻密度は並のエターナル所かレイナスやグラン達ですら通り抜ける事は不可能。説明が遅れた・・・グランもレイナスやフィリス達と同様に四人の守護騎士と呼ばれるこの国最強の騎士の一人である。力だけでは四騎士最強のグランでも力任せに突破する事はできない。それを軽く『すり抜けた』と言うのだ、その力は推して知るべしだろう。・・・もっとも頭に血の上っているグランにはそれを理解できなかったが。
「・・・話を戻しましょう。何をしにきたのですか?」
「んー・・・秘密〜じゃダメか?」
「ダメです」
 即答。
「ありゃ、つれないねぇ・・・」
 肩を竦める男。
「まぁ取りあえず・・・俺の名前はティーレって名前だ。今回の目的は・・・アンタを探ってただけだが・・・真の目的は秘密♪ってことにしててくれや。んじゃ、俺は逃げるな」
「むぅ・・・逃がすと思うか薄汚い鼠めが」
「逃げるさ」
 ニッと笑うと彼は右手に持つ槍を背後にもっていき、何も持っていない左手で何かを描く。・・・そう、何かを。そして描いた手を地面に叩きつけ叫ぶ。
「幻結界1式、基本幻術の1つ『鏡爛幻視牢』・・・食らえよっ!」
 叩きつけた地面を中心として、グランやレイナスの目から見てティーレの姿が何十・・・何百へと増えていく。
 全方位からティーレの声が響く。それの意味する所は視覚だけでなく全ての五感を狂わされているからだろう。
「最後に一撃入れてから逃げるんで―――うまく受けろよな、いくぜぇ」
 威勢のいい掛け声。
「ふんっ、鼠如き返り討ちにしてくれるわっ!」
 馬鹿正直に答えて吼えるグラン。
 攻撃が来るのを待つグラン。
 ・・・待つ・・・ひたすら待つ。
 暫くすると結界が独りでに晴れて消え去っていく。
 そしてその場には勿論ティーレの姿は無い。
「なっ・・・俺を騙しやがったな!」
 憤慨するグランの耳に追い討ちを掛けるかのごとく。
『けけっ、てめーなんぞ相手するわけねーだろうが、バーカ バーカ』
 と、音だけが届く。
 木霊法といわれるほう術の伝達術なのだが、無論グランは知るよしも無い。
「あ、あ、あのクソ餓鬼がぁ!」
「くっ・・・くくっ、一本取られましたね」
「笑うなレイナス!・・・って言うかてめぇはなんで何もしなかった?」
 笑いを堪えきれないでいるレイナスへと怒りの矛先を向ける。
 そう、レイナスはまったく動いてなかった。
「すみません。ここ二週間毎日術を起動させていたので疲れていまして・・・。それと、きっとまだ幾つかの手を隠していたと思ったんですよね・・・隠行を見破られても顔色1つ変えませんでしたし」
「ちっ・・・なら仕方ねぇか」
 そんな二人の耳へと再びティーレの声が届く。
『あーあとな、余計なおせっかいかもしれないが、あんたらの守護する姫さんを大切に思うなら普段は神剣を離しとけ。出ないと体の負担が増えるだけだからな。そしてレイナスあんたの術は弱ってるから休んだ方がいいぜ・・・まぁ久々に俺を緊張させてくれた礼ってことで』
 そして声は消える。
 完全にティーレが消えたのかは定かではないが気配もない。
「・・・敵にそんな事を教えてどうする気だ?奴は」
 ふっ・・・と吐息を吐きレイナスは。
「さぁ?・・・良くわからない人なのは確かですね」
 そして二人も謁見の間を出る。
 ・・・その後、レイナスは気を失い倒れた。今まで隠していた疲労が一気に襲い掛かったからだ。そんなレイナスを看病したのはアセリア。ミーア姫に余計な心配はさせないようにと、前々から倒れたら密かに看病をするように、といってあったから。そしてレイナスを彼の部屋へと運び、横に付き添う。
 目を覚まさないレイナスは聞く事はできなかった。
 看病しているアセリアが、ふと何処か虚空を見つめて呟いた言葉を・・・
「懐かしい力・・・感じた・・・」
 ぼんやりとした目で言った言葉。
 それはレイナスの期待していた言葉だった・・・
 
「・・・それで、時深以外は全員殺られたというのかい?」
 幼い少年の声が部屋に響く。
 それを受けるべき者は床に平伏していた。
 少年は・・・外見だけは少年といえるだろう。だがその瞳の奥の知性、そして言動から来る重圧感は並みの老人をも遥かに超えるほどの力を感じさせていた。少年の名前はローガス、『運命』のローガスと言われる第一位の永遠神剣の所持者にして、カオスエターナルの最高指導者。外見と実際年齢が伴わない良い例とも言えた。
 この場所はローガスとその直属の配下である四神と呼ばれる者達がいる部屋。今平伏しているようなエターナルが気軽に足を踏み入れられる所ではない。部屋の中央にある豪華な宝飾の椅子の肘掛に肘を乗せて寛いだ様子のローガスと、その背後に四人のフードを深く被った人影が立っていた。平伏している伝令のエターナルはその五人に気圧されている。
 その伝令役のエターナルは顔を上げて再度報告しようとするが。
「いや、そういうことを聞きたいんじゃない。僕が聞きたいのはね、時深が生き残っているのかってことだよ」
「は、はい。確かに生きています。ただ時深さんは重度のマナ喪失状態で倒れていますが・・・いずれは復帰できます。もしも話を聞きたいとしても今は呼べませんが・・・」
「わかったよ。下がって良い、ご苦労だったね」
「はいっ」
 逃げるような、でもちゃんとした儀礼にのっとった動きをして伝令は扉を出てこの部屋から消える。
 その伝令の足音が消えたころに・・・ようやくローガスは話す。
「・・・意外だったよ。まさかここ最近我が陣営のエターナルを惨殺している隻眼の黒い剣士・・・それがあの甘っちょろいユートだったとは、ね」
 苦々しげに呟くローガス。
 報告された内容は以下の内容だった・・・
 反逆者ユートと接触した時深とその仲間は、討伐しようとするも返り討ちにあい時深を残し全滅。
 神剣の気配が完全にロウの力へと染まっている。どうやったのかは不明だがそのせいでこちらから感知はできない。そして服装や人相から最近現れた凶悪な戦士、隻眼の黒い剣士と同一人物と判明する。
 密偵として潜り込むグリフォン。一次帰還後、直に出立。首尾はそこそこうまくいってらぁ・・・らしい。
 それ以外にも沢山の報告がされたが・・・それは今すぐにローガスに影響を与える物ではない。それよりも今現在の問題はユートをどうするか、だ。
 背後の白いフードを被った女性が言う。
「星の巡りが告げる・・・吉兆と凶兆の狭間で揺れ動く、かの黒い剣士・・・放置すれば更なる災厄を運ばん・・・」
 無機質な感情の篭らない声でそう呟く。
「地位が神剣・・・三振りの神剣が集いて・・・災いをもたらす破軍の星へとなる・・・。今のうちに止めなければ・・・ならない」
「わかっているさ。でもね・・・時深を瞬殺できるほどに力を増しているユートを倒すにはそれ相当の力の持ち主がいなくちゃならない。しかも現在の任務中でないものの中で、だ。僕が直接いければいいんだけどね・・・。ユートからはなんか挑戦状を叩きつけられたらしいし。調子に乗ってるのをへこましてやりたいんだけどなー」
 子供っぽい口調で喋っているローガスだが、その目は笑っていない。
 虚ろな目をしたその女性はそれきり黙る。
 変わって発言したのは青いフードの青年。
「ではローガス様・・・私が直接行きましょうか?私とその親衛隊である三人、計四名で反逆者ユートの神剣を砕いて参りましょう」
「ふんっ・・・。なら頼んだよ、『水姫』のジェイド。四神のお前なら容易いはずだ」
「承知しました」
 ふっとジェイドはその場から消え去る。
 続くように残りの三人も、一人ずつ姿を消してその場にはローガスだけが残る。
 誰も居なくなったのを確認して、ローガスは吐息を吐く。
(まったく・・・ようやく見つかったと思えばこれか。僕もツイてないな・・・余計な面倒ごとはごめんなのにね。・・・そしてグリフォンは相変わらずの様子だが・・・そろそろ急かすべきだろうね。まったく指導者も楽じゃない)
 指導者は全ての問題の最終的な責任を負わされる存在。
 ユートという新たな火種で生じる面倒ごとにローガスは頭を痛めるのだった・・・

 ユートがテムオリンとメダリオの二人を連れて発ったのは数時間前。
 テムオリンの作り出したこの世界。その守護を任せられた『黒き刃のタキオス』は侵入者などがないように、他のエターナルと共に巡回の任についていた。
 タキオスは巨漢の戦士。剣士というよりも戦士という方が相応しい。彼を見たものはまず間違いなく獰猛な野獣をイメージに浮かべるだろう・・・そんな男。空間をも断絶するほどの剣技と強い意志を持ったロウエターナルの中でも有名な戦士。
 本来ならタキオスがテムオリンの護衛の任に付く事が多いいのだが・・・おそらくテムオリンが気を利かせたのだろう、わざとユートと共についていき宮殿内部の人員も普段よりは少ない。それは・・・安心して彼女へと会える配慮なのか。
 法皇テムオリン。彼女の性格は残虐無比だ―――ただしそれは敵対する者に対して。
 完全に仲間となった者へは口調は普段どおりだが・・・隠れた優しさがある。残虐なだけの指導者に仕えるものがこれほど多いわけは無い。この世界には十五人前後のエターナルが住んでいるのだから。
 タキオスはこの陣営ではNo2の力を持つ。それは最も古くから仕えていたからだ。
 この世界に残るエターナルへと指示を出して・・・空いた時間ができたのを確認して彼はある部屋へと向ったのだった。
「入るぞ」
 声を掛けてドアノブに手を置き、扉を開ける。
 中に入ったとたんに清々しい花の薫りが鼻につく。部屋の窓際を見ると白い花瓶が置かれてそこに花が生けられていた。窓からは少し風が流れてきていてそれに花の薫りが運ばれたのだろう。
 この世界は前もって言ったとおり四季のない世界。気温も人が住むに一番適している温度へと調整されている。だからこそ窓を開けっ放しにしていても風邪を引く、などということはない(まぁエターナルの身では風邪など引きはしないが)。
 タキオスは部屋へと入る。
 そして、白いベッドに横たわる少女の傍へ行き・・・
「わっ!」
「!」
 いきなり驚かされる。ベッドの下から出てきた少女に。
 もぞもぞと体を捻り引っ張り出すと「ぷはぁ」と可愛らしい声を上げる猫のような少女。
 少女―――シャロンは。
「うにゅ。タキオスさまー、お見舞いですかー?」
 そういってタキオスとはベッドをはさんで反対側に位置する場所の椅子に座り、見上げるような体勢で聞く。
「う、うむ・・・。悪いが暫く席を外しててもらえるか?」
「えー・・・・ぶーぶー」
 不貞腐れつつも素直に出て行こうとする。
 ふと窓際の花瓶の事を思い出し、尋ねる。
「そういえば、毎日花を生けてくれてるのはお前か?」
「うん?うん!姉さまの為だもん」
 二コリっと満開の笑みで答える少女。
「すまんな。ありがたい」
「うん、終わったら呼んでね〜」
 そういって今度こそ部屋を出て行く。 
 バタンッと扉が閉まったのを確認し、タキオスは眠る少女の頭へと手を置くと軽く撫でるかのような仕草をする。様な仕草・・・というのも余り手馴れた感じではなく不器用な撫で方だから。それでも大事な物に触る様な様子ではある。
「すまんな・・・、ユートがいるとどうも来るのが照れくさくて、な」
 少女は目を覚まさない。
 それでもタキオスは一方通行の会話を続ける。
「おまえがあいつと一緒で幸せだったのは・・・ずっと見ていたからわかる。俺がきっとあの幸せを取り戻す・・・それまでは休め、ヘリオン」
 ヘリオン・・・とそう言った。
 それからこの眠る少女へリオンを、巨漢の戦士タキオスはじっと撫で続けていた。
 それは兄としての想いだろう。
 彼女に幸せになってほしいと願うのは、前世で妹だった愛しい彼女への家族愛なのかもしれない。
 暫くしてタキオスは「また来る」そう呟いて立ち去った。
 少女は目を覚まさない。 
 まるで眠り姫のように・・・
 
 
  
 
   
 

 

 





☆ユート ロウエターナル版スキル
 
  全ての技は黒いオーラフォトンに変わっている。その為に全ての古い技は消え、新しい力を手にしている。
  カオスエターナル時に比べて全ての力は上がっている。

■ アタックスキル 『アクセルドライブ』
 
  体内のリミッターを解除。そして多段攻撃を行なうスキル。反射神経、反応速度などが数倍上がり、それと共に基本の技を繋げて連続で放つ隙の無い技。ユートにはタキオスに匹敵するほどの力はない、だからこそ手数でカバーする。

■ アタックスキル 『オーラフォトンデストロイア』
 
  処刑斧を意味する残忍かつ凶悪な攻撃方法。自身のマナをオーラへと変換し、物質としての効果を持つ処刑斧を創りだす。数と大きさは比例し、最大十個まで作成可能。作り出された斧はユートの意思どおりに空間を渡り、相手を切り裂く。物質としての特性と同時にオーラで作成した物であり、通常の武器防具及び地形を貫通する事も可能。本来はサポートスキルに位置するがアタックスキルとなっている。

■ ディフェンススキル 『アストラル』
 
  ディフェンススキルとしては亜種の1つ。この行動は守りでも回避でもない、『聖賢』の力で空間を切り裂き別の時空への扉を一時的に開かせ、そこへ攻撃を受け流す。赤・青・緑・・・どのスキルに対しても有効。ただし接近戦では無効であるという弱点がある。本来『聖賢』では使用できない空間切断。それを使用できるのは第一位へと近づいたからか・・・

■ サポートスキル 『オーラフォトンブレイク』
  
  究極の破壊を世界に対して与えるスキル。体外及び相手からマナを吸収、それを全て《マナ》を砕く為の力へと転換、ぶつけるスキル。最大の長所は自身のマナを消費しない点であり、行動回数は無限。短所は一度マナ破壊の為の力へと転換したマナを吸収できない所。その為、普段は使うことはない。

■ サポートスキル 『??????』

  賢神の門、『聖賢』が記録する最も危険な『門』を開き、そこから漏れ出す力を自身へと注ぐスキル。使うには『聖賢』という神剣を完全に理解、共鳴せねばならない。そうでないと自我が崩壊するだろう危険なスキル。使用すると体内のマナが数十倍へと膨れ上がり第一位神剣の力すら凌駕する。ただし使用時間は最大1分でそれを過ぎると一月は体を動かせないという諸刃の技。

        




 
  
  



 
 


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