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 そこは・・・神聖な空気の流れる場所であった。
 空は青く澄んでいる。
 流れる川、その水も透き通るような青。
 この星の位置は恒星が2つあり、2種の太陽が昇っている。
 そんな世界の中で街がある。
 中央に大きな宮殿、それは古の国の王が使っていたかのように煌びやかな細工、壁絵などの施された巨大な建物。
 一番雰囲気で会うとしたら古代のローマの宮殿に近いかもしれない。
 その建物を中心として、数十の住居である建物が周りに立ち並ぶ。
 いずれも古代の住居に近い雰囲気を醸しだしていた。
大きな宮殿、その内部が神聖なる気が一番濃い場所。
 理由は・・・簡単である。
 ここには姫がいる。
 多くの人々から・・・いや、多くのエターナルから姫という名で崇められる・・・1人の少女が。

 その少女は今、騎士からの報告を受けていた。
 ニームキレハムという大地でのマナの回収に失敗したという、些細な報告を。
「それで・・・グランダル達は全員生きて戻ったのですね?―――」
 美しい・・・可憐な声でそういう少女。
 小柄で外見は16歳前後だろう。
 長い長髪。整った顔立ち・・・なによりも特徴的なのは彼女がいるだけであたりの空気が清浄となることだろうか。
 姿は・・・何と言ったら言いのだろうか、豪華なドレスではない、むしろ質素な服。
 儀式用の巫女服のような感じだが、色は白と朱ではない。
 白と黒・・・それが混じった独特の儀式服、それを纏っていた。
 頭には何も飾りもつけていない。
 そして・・・彼女は瞳を硬く閉じている。
 あるいはそれが一番の外見的特長かもしれない。
 彼女は目を開かない・・・いや、開けない。
 そして・・・彼女が話しかけているのは騎士。
 方膝をつき、騎士の礼に乗っ取り跪き頭を下げている。
 鳥を象った紋章をつけた鎧と盾を身につけている。
 ただし紋章は削れている・・・彼が自分で削ったのである。
 長身であり、筋肉などは必要な部分にはしっかりとつけている。
 金色の髪を肩まで生やしていた。
 頭には本来、ヘルムをつけているのだが今は姫と向き合っている為、腕に抱えていた。
 優しげな眼差し、そして優しげだが弱そうではない、敵を威圧するのではなく飲み込む・・・そんな空気を放つ騎士。
「―――レイナスよ」
 少女はそういった。
 騎士も答える。
「はっ!全員無事に救出を完了いたしました。・・・リーア姫」
 
 騎士レイナスとリーア姫
 彼らも『刹那』の運命・・・そしてさらに過酷なもう1つの力に巻き込まれる者達。
 
「それでリーア姫、今の体調はいかがですか?」
 無事に救出をし終わったという報告を受けて「そうですか、よかったです」と微笑んだ彼女へと質問する。
 彼女はロウエターナルである、第二位の永遠神剣『創世』の主。
 だがこの剣は持ち主の体を蝕む。
『創世』・・・それは世界の創造を司る永遠神剣。
 自身が吸い取ったマナをその杖状の神剣の上部に設置された宝玉、これに貯める。
 そして創造に必要な量が溜まった時・・・この神剣は世界を作り出す。
 だがその代償がある。
 この剣は一種の要石、持ち主も含めて1個のマナを貯める貯蔵庫とする。
 だが、エターナルであったとしても、世界を作り出すほどのマナ・・・それを収めることは出来ない。
 リーア姫は無理をして貯めている為、よく体調を壊す。
 リーア姫の目が開かないのもこのせいである。
 内部のマナが逃げないように・・・自ら視覚を絶った、後天的な盲目である。
 本来の永遠神剣なら、持ち主を助ける為に力を譲り渡すのだろう、だがこの神剣は逆、持ち主の願いをかなえるために体を蝕む。
 そして・・・体調の心配をされたリーア姫は。
「ええ、今日は思いのほか・・・調子が良いです」
 レイナスは安堵の表情を浮かべる。
「そうですが・・・。まさか私が貴方の傍を一時でも離れる時が来るとは思いませんでしたので。―――不安だったのです」
「ふふっ、レイナスは心配性ですね。・・・そうだ、もしまだ時間があるのでしたらほんの少し街へと出てみませんか?」
 リーア姫の唯一の娯楽・・・それが街を歩くという、ただそれだけの行為。
 普段の体調なら「ダメです!」といったかもしれない、でも今日くらいは・・・。
「判りました。それでは私と一緒に行きましょう」
 そういってレイナスは姫の手を取る。
「ありがとうございます・・・レイ」
 リーア姫が笑顔で、そして頬を薄く赤らめて・・・その手を掴み、外へと・・・自分の国へと出ることにした。

 街にでる2人。
 この街は彼女の為、いや彼女のことを慕う人が集まって出来た街。
 ロウエターナルの巫女姫であるリーアは特殊な考え、価値観を持っていた。
 それに賛同する人々が集まって出来た街。
 町にいるのは同じエターナルとそして眷属であるミリオン達。
 だが、ミニオンがここまで自由に暮らす世界が他の世界にあるだろうか?
 まるで平和な街の一風景を眺めているような感じがするだろう。
 商店などでミニオン同士が値切りあいをしていたり・・・エターナルの少年が年配のミニオンに叱られていたり。
 一番不思議な風景は、ロウエターナルと談笑しているカオスエターナルの姿があることだろう。
 リーア姫を慕う者の中にはカオスエターナルも混じっている。
 対比としてはロウのほうが多いいが、それでもローガスと別離してまでこの街へと来たカオスエターナルも多かった。
 そんな街を2人は歩く。
 視覚が無く歩くことの出来ない姫を支えながらレイナスは街のあちこちへと移動してみた。
 まぁあるはずはないだろうが・・・襲撃にも備えている。
 リーア姫はロウエターナルの中でも3番目に勢力の大きな集団のリーダーなのだから・・・。
 ロウとカオスの違いは、価値観の違いが一番大きなところではあるが、その価値観の違いは、ロウエターナルの有り方も変える。
 少しでも自分だけがマナを奪えるように・・・そんな考えの者は多い。
 そういう者達は、自分をリーダーとして複数の自分より下位の者を配下として率い、色々な世界を襲う。
 勿論根本的なリーダーはロウリーダーだ。
 でも、基本的にはロウリーダーが指示を出すことは少ない。
 おのおのが好き勝手をしているのが現状である。
 逆にカオスエターナルは、その好き勝手を止める為に、集団でそれを止める組織。
 警察のようなものに近いだろう。
 ただ基本的に、ロウの介入で滅びる世界を止めるのが目的であり・・・自然に滅びを向かえる世界へは介入しない。
 リーア姫の考えはその2つとは違うもう1つの考え方。
 その滅びを迎える世界、それを救済しよう・・・と。
 自然に滅びを迎えた世界、そしてロウに襲われた世界での漂うマナ、それを回収して『創世』へと集めていく。
 それ以外にも永遠神剣の破壊も目的としてはいる。
 ただし、主のない神剣に限る。
 偽善とも思われるかもしれないがリーア姫は人を殺したくないのだから。
 
 街を歩く2人へと道を歩く人々が声をかけてくる。
 その会話はとても自然、男も女も彼女の魅力に惹かれているのである。
 私もそうだったな・・・と、レイナスは思い数周期前のあの日の出来事を思い出す。

「貴方・・・私と一緒に戦ってもらえませんか?」
 レイナスがエターナルとなる前、あの世界・・・かつて周りからは英雄と呼ばれ続けていた彼に少女が声を掛けたのだ。
 周りからは英雄といわれていたが実際は生きる意味を見出せないただの「人」であった。
 逆に言われるたびに苦悩していた。
 私は英雄なんかじゃないと。
「私が・・・君と共に戦う?」
 何のことだ?意味がわからない。
 だが・・・彼女のその、閉じられる前の瞳の奥にあるもの、それが彼には余りにも・・・眩しかった。
 彼女は己の生きる道をしっかりと決めている。そして1人ではできないことも・・・。
 だから彼女は頼ろうとしたのだろう。
 ・・・それでも何故私を。
「これを・・・お持ち下さい。騎士さん」
 そういって差し出したのは1振りの剣。
 騎士の使う一般的なブロードソード。
 彼はそれを受け取り握りしめた・・・すると。
『我が名は聖楯。永遠神剣の1振り也』
 脳裏に声が響き渡る。
 彼は驚いて神剣を落としそうになったが・・・。
 少女が私の腕ごと支えて落ちるのを止めた。
「ごめんなさい・・・先に言うべきでした。その剣は―――」
 長い説明の後、彼は彼女の考え、そして―――その使命を理解した。
 たった一人でするにはあまりに大きな考えだ。
 しかし彼女は、もしも彼が拒否しても1人でもその道を進むだろう・・・そう思った。
 彼は・・・彼女に敬意を持った。
「・・・騎士さん?」
 押し黙った彼の姿を見て・・・不安げな顔をする少女。
「・・・1つ教えてもらいたい、君は本当にその道を・・・歩むのだね?」
 彼は聞く、もしかしたら彼女こそが自分の求めていた生きる道を与えてくれるのかと。
「はい。私は・・・理想の世界を創造します。たとえ1人であっても」
 その言葉を・・・今まで彼は待っていたのかもしれない。
 自分の事を顧みずに何かを成し遂げる勇気のある主を。
「・・・名前を教えていただきたい、貴方の名を」
 不思議そうな顔をする少女。
 何故名前を聞くのかと思ったのかもしれない。
 それでも素直に答えた。
「私は・・・リーア、「創造のリーア」です」
 彼はその名を聞くと同時に・・・『聖楯』と契約を終えていた。
 そして剣を差し出して・・・言う。
「騎士レイナスがここに誓う!私はリーア姫の為の只1振りの剣となり、共に戦うことを!」
 騎士の誓い・・・この世界で、騎士が己の忠誠を誓うただ1人を見つけた時に言う洗礼の言葉。
 その言葉を聞き・・・彼女はとても嬉しそうに微笑んだ。
 それは遠い過去の話・・・。

 今彼女の周りには沢山の人が集まっている。
 彼女に対して気軽に声を掛ける者、偉大に人に出会ったかのように拝む人。
 昔、あの日のように彼女は既に1人ではない。
 かわりに、今度は同じロウ、そしてカオスから狙われる可能性がでてきている。
 彼女の考えは危険だから・・・と。
彼は思う・・・もしもリーア姫に剣を向ける者なら容赦はしないと。
その腰に刺してある、一度は彼女へと差し出した神剣『聖楯』をもって敵意あるものを退け、道を阻む者を倒すと。
彼は・・・空を仰ぎ見た。
何が見えるわけでもない、ただそうしたかっただけ。
この空は青く・・・とても美しいから。
『聖楯』のレイナス・・・またの名を「刹那のレイナス」
 彼は彼女の使命が無事に終わることを願っていた。

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