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Side A

 俺は、空を見ている。

 空高くに広がる青空。

 昼なのだろう、丁度頂点にある太陽。

 ゆっくりと流れる雲。

 平和そうに囀る小鳥達。

 その鳥達は俺の頭上を回っている。

「ああ・・・なんて青く清々しい空なのだろう」
 俺はそう思いつつ空をじっと眺めていた。
 現実逃避していた。
「「わ〜」」
「「きゃ〜」」
「「いぇーい」」
「・・・・・」
 ・・・うるさい。
俺は今ベンチで横になっていた。
今にも死にそうにぐったりとしている。
周りで騒ぐカップルやら家族客やらの騒ぎ声がとてもきつい。
 と、向こうからタッタッと黒髪の少女が駆けてくる・・・ヘリオンだ。そして俺の額に水で湿らせたハンカチを乗せてくれる。
「あぅ・・・大丈夫ですか?ユート様」
 とっても心配そうに声を掛けられる・・・なさけない。
「ああ、にしてもごめんな。楽しいはずのデートで俺がこんなで」
「い、いえ!私が振り回したのが悪いんです!」
 必至になって首をぶるぶるとさせ、俺のことを悪くないといってくれる・・・。

 こうなる4時間前。
 俺自身今日子や光陰、それに佳織とならこういう場所へと遊びに行くことは多かったのだがデートとしてははじめてである。妹のようなヘリオンとはいえ少し緊張をしつつ出かける準備をする。
「そうだ、『聖賢』今日は置いていくからな」
 そういって自室の机の上に神剣を置く。
『ユート・・・いくらなんでも気を緩めすぎではないのか?』
「つっても、遊園地へ剣ぶら下げてたら捕まるって。今日だけ我慢しててくれ。
 そういわれて不承不承引き下がった『聖賢』
 そして部屋をでて館前へと歩いていく。
 そこには先に準備して待っていたのだろうヘリオンの姿があった。
「あ、ユート様〜」
 今日はラキオスでの戦闘服とはことなり普通の服を着ている。白のワンピースと白のバック。装飾品の類は頭部のリボン以外はまったく付けていなかったがその方が似合ってると思った。
「待たせたな。さぁ行こうか・・・と服似合っているよ」
 そういわれたヘリオンは顔を赤らめる。
「えへへ・・・実は時深さんにお古をお借りしたんです」
「え?時深のお古?」
「はい、時深さんの部屋は色々面白い物があります私服も沢山ありましたよ」
(てっきり巫女服だけとおもってた)
「色々ってなにがあった?」
「うるとらまんとかかめんらいだーとか変な名前を書いた紙が付いた物がありましたけど。四角い黒い物です」
(何を持っているんだあいつは・・・?)
 その後俺たちはその遊園地があるという世界へと渡る。訓練のおかげでいまは時深に頼らずとも自力で門を開けるようになっている。神剣は所持していないがこの世界では特に必要ないらしい。帰りは時間を決めて時深が開いてくれる手筈となっている。
 そして門を潜った。

 その世界で最初に感じたのは・・・まず騒々しさ。
 今まで余りこういう場所には来たことのない俺も、初めて人が沢山遊ぶ場所へときたヘリオンも少し呑まれた。
 相当でかい場所だ。天高く・・・比喩でなく雲を突き破る高さまである乗り物やら・・・観覧車もか、山より高い。
 まずは入り口へ行き、フリーパス券を渡し入場しようとする。「中のいい兄妹ですね」と言われて少しふてくされてたりしたが。
 入場してまず驚いたこと、それは人間以外の者が多かったこと・・・というより人間が殆どいない。
ヘリオンは「うわ〜」といって辺りをキョロキョロと見ている。こういう所は歳相当だなぁと思った。
「ユート様!あれ乗りましょう、あれ!」
 俺の服の袖を引っ張って指差す先はフリーフォール。・・・チャレンジャーだな。
「いいのか?あれってかなり怖いとおもうけど」
「でも面白そうですよ」
 またぐいぐいと引っ張る。俺はそれに負けてその乗り物へと連れて行かれた。
 ただし、このとき1つ確認をするべきだったのだ。看板に書いてある注意書きを。
《世界初!大気圏内ギリギリから突入する超高度フリーフォール。最高速度は音速を超えます、是非お楽しみ下さい。注意・この乗り物は大変危険になっております。衝撃に弱いからだの人種は乗らないで下さい。圧力耐えきれず圧死する危険性があります。》
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
「ゆ、ユート様ぁぁぁぁ!死なないで下さい!」
 それがその乗り物から降りた俺が聞いた最初の言葉だった。

 それからも俺はいくつか軽めの物だけを選んで乗った。体に掛かる負担はさっきのものよりはマシだが正直つらい。
 たとえば・・・
《本物とまったくそっくりのゴーカート。子供から大人までお楽しみいただけます。注意・狙撃に気をつけてください》
《世界最高回転のジェットコースター、極限まで回転数を増やしております是非ご覧下さい。注意・ただし体の弱い人型種族はおやめ下さい、口から内臓が飛び出る危険性があります》
 ete・・・ete・・・
 まともな乗り物は2―3割しかないと思う。それでもヘリオンが楽しそうなので3時間は耐えた・・・だが倒れて今のこの様というわけだ。
「すみません・・・私だけ楽しんでしまって」
「い、いや・・・全て悪いのは・・・ここの乗り物だから・・・」
 というかよく俺生きてるな・・・エターナルだから?
「ま、なんとか回復してきたから・・・軽い物なら乗れるけれどどうする?」
俺は見得を張る・・・せめてヘリオンの前でだけはかっこよくいたい。するとヘリオンはお化け屋敷のコースターはどうです?という俺も「そのくらいなら・・・」といいかけ、体が凍る。
 それはお化け屋敷だ、一見普通の。中を移動する乗り物で怖い物を見せるタイプだろう。
 でも看板にはこう書いてある。
《恐怖のお化けコースター!!きっと貴方は恐怖に怯える。さぁここにある中から好きな武器を選んでお化け退治だ!闇の中で君を狙うお化けに血を見させろ!生きて戻られた方には景品有り。注意・生命保険にお入り下さい》
(・・・サバイバルゲーム?)
 ヘリオンが俺の袖を掴み連れて行こうとするが・・・流石に体が拒否反応を起こす。
「ユート様ぁ、ダメですか?」
 う・・・そんな目で見られても・・・。
「い、いや・・・そ、そうだあの観覧車にしよう。あれなら平気だし、いい景色が見れるぞ〜」
 俺はそういう。あんなお化け屋敷はごめんだ!・・・でも答えは分かっている。
「はい♪ユート様と一緒ならどれでもかまいません」
と腕にしがみつくヘリオン。周りがカップルだらけなので平気なのだろう。
答えが分かっていたというのは、彼女は決して俺の意見に反対をしないのだ・・・なぜかいつも俺と行動を共にするから。
・・・結局観覧車前で「兄妹?仲いいねぇ」といわれるまで機嫌が良かった、いったんは不機嫌になってたが観覧車が昇っていくと・・・「うわぁ〜」といいガラスの張り付いていた。しかし・・・この観覧車も凄いな。《地上10000Mの高さに貴方をお届け!!雲の上の景色を捧げます!》・・・やりすぎ。
俺たちがそうしてのんびりと乗っていると、突然頭に声が響いた。ヘリオンも同じなのだろう、同様に声を傾けようとしている・・・。
『あ〜・・・熱々のデート中すまないが、仕事だ。今回はお前達2人での任務で他の3人はバックアップに当たってもらう。資料は時深に渡しているので戻って確認したまえ、それでは』
 ローガス様の声だ。
「任務みたいですね・・・戻りましょうかユート様」
 少しだけ残念そうにいう。
「ああ、任務が終わったらまた来ような(ただし別のところにだけどな)」
 にっこりと微笑み。
「はい!」
 と言ったのであった。

 そして俺たちがこの遊園地を出る時にふと、この遊園地の看板を見てみた。《獣人、猛獣、怪物、妖怪、誰のいついかなる来訪でも受け付ける!!スリル抜群、いかなる方でも楽しくします!!》・・・おい・・・人間以外用の遊園地なのかよ。
 後日、キールにきくとチケットを渡し間違えたらしい。道理で変なのばかりだ・・・(観覧車もいきなり落下した時は焦ったな・・・看板に続きが有り、ついでにスリルも味わえますとか書かれていたそうな・・・)

 時深が俺たちに仕事内容を説明してくれる。
そこは俺とヘリオンの部屋、5人全員集まっている。
前回と違い今回は本格的な任務らしい。
とはいっても新米な俺たちである、それほどのものではないだろう。
「・・・そして任務の内容はこうなります」
その任務はある世界でのロウエターナルの調査、発見後即時に連絡をすること、可能であれば排除に移ること、となっていた。
「つまり、僕たちの任務はもしロウエターナルが出た時の援軍、ってことだよね?」
「ふむ、なら私たちはのんびりさせててもらおうか」
そう2人はいい、さらに
(にしても・・・ユートたち災難だね〜。この任務受けるなんて)
(まぁ、若いしいい経験だ)
と、2人で何かをひそひそ話している。
時深はその2人にかまわず話を続ける。
「私の未来視によると敵は確実に潜んでるのは分かります。ただこれまで数度の調査でも発見できない為、何も無い確立が高いでしょう」
 未来においてこの世界の破壊を行なうというのは既に分かっていたが俺たちでは見つけるのは無理だろうということらしい。
 何しろこの任務は新米が永い時を過すことができるかというものでもあるという。一度任務に就けば50年は戻れないそうなのだから。
そして時深は最後に・・・
「私がいないからって任務中に変なことしてたらいけませんよ」
と言って去っていった。ヘリオンは変なことを想像してあうあう言い出し、キールとローズにさらにからかわれる俺たちだった。

「・・・では行きましょうユート様。2人でこの世界へ」
「ああ、『聖賢』よニームキレハムへの『門』を開け!!」
そして俺は任務の地、閉ざされし世界ニームキレハムの大地へと向った・・・。
 
Side B


 俺は再び夢を見ているようだ・・・。

 今日は悪夢ではないらしい・・・。

 あの平和な一ヶ月間の暮らしを俺は見ていた・・・。

 何故かそれが今のこの暮らしと重なっていく・・・。

 不思議なもんだな・・・。

 でもそろそろ頃合だろう・・・目的を果たす時。

 それはまた俺が血塗られた生活へと戻るということ・・・。

──ちゅんちゅん・・・
 小鳥の囀りと共に俺はゆっくりと目を覚ました。
「ふぁ〜ぁ・・・珍しく悪夢じゃなかったな・・・」
 俺はそう呟き一階の水洗い場で顔を洗うために部屋を出て階段を降りた。
 ここ半年の生活で人間性を少しずつ取り戻してきていた俺、でもいまだに恐怖などの感情は蘇らない・・・まぁ当然だが。
 一端のキラーズとなっていた俺は毎日の様に魔族を倒していた。そして合間をみつつ研究所を調べていた・・・そう目的の為に。
 顔を洗ったあと朝食を取り自室へと戻る。
 そして机の上に置かれているメモ、そしてここでの生活で使用した武器、道具をカバンに詰めたりしていく。
 改めて部屋を見渡す・・・半年も居たんだからやはり愛着は残った、でももうもどることのない部屋を最後に眺め、一階へと降りた。
一回にはまだ食事中の3人がいる。
 俺は皆に怪しまれない様に玄関口へと向う。
「それじゃ・・・俺、ちょっと散歩に出かけるな」
 何気ない朝の挨拶を装うようにしてそういう。
「いってらっしゃいディン」
 いつもどうりに返事を返すリフィ。
「坊主、何処に行くのか知らんが気〜つけろよ」
 相変わらずのだらしない雰囲気をかもし出しているおっさん。
「・・・・・・・・(もぐもぐぱくぱく)」
 普段道理になにを考えているのかが分からないミーア。
 俺は最後に3人を見た。
 そしてもう振り返らずに「行ってくる」とだけ言って事務所を後にした。もう振り返りはしなかった。
 
 ディンのいなくなった事務所内。
「・・・坊主はあれで隠してるつもりか?」
「みたいですねぇ、局長」
 2人ともどうやら何か知っているような会話を交わしている。
 そしてミーアも。
「もぐ・・・・・・・・」
―――たったった・・・パタン。
 食事を終えたとたんに玄関の片隅に前もって置いていたのだろう小さいリュックを背負いディンの後を追うかのように事務所を出た。
「あの子もか・・・。さてさてどうなるのやら」
 そういう彼の顔には笑みが浮かんでいる。
 いよいよ動くのか、という表情だ。
「あ、局長・・・我々もそろそろ」
「ん、わかった。なら後始末はしといてくれよ。俺は先に向ってるな」
「はい」

「さて・・・と」
 俺は朝早い時間から出かけた。
 今いるのは東部の俺が5年囚われていた研究施設の建物。
 俺は建物を一度見上げ、そのあとリュックから小さいメモを取り出し・・・それを広げる。
 それは建物内部の図面だ。
 ここ半年で調べた研究所の重要施設に繋がる道、破壊するべき場所、そして囚われてる兄弟達のいる部屋・・・様々なことが書かれているそんな図面。
 この研究施設は2重の外壁に囲まれ、本来ならば多数の兵が守っている・・・だが今日だけはチャンスである。
 俺の目的の1つは研究所の所長の殺害。
 俺をカリスと殺し合わせたあいつを殺すんだ・・・。これは復讐・・・絶対やらないといけないんだ。
 そしてもう1つの目的は・・・兄弟の救出。
 図面をしまう。
「よし・・・いくぞ―――」
「・・・・・・・・(くいっ)」
「―――ぐはっ!」
 突然引っ張られた俺はそんな情けない声を出す・・・誰だ引っ張ったのは?
「(じぃ〜〜〜〜)」
 振り返るといつものままの無表情のミーアがいる・・・。
「ミーア・・・、何でこんなところに・・・」
 するとミーアは自分の魔銃を出し、そして研究所を指差す・・・ってまさか。
「お前もついてくる・・・ってのか?」
「(こくっ)」
 俺はふぅっと軽いため息をしてから・・・「これは遊びじゃない、生きて帰れないかもしれないんだ、子供は帰れ」そういったのだが。
「・・・・15歳・・・」
「・・・・・・・・・は?」
 一瞬なにを聞いたのだろと思ってしまう。
 俺と・・・同い年?見た目10歳くらいの少女にしか見えないミーアが俺と・・・。
「嘘言うな、とにかく帰れ。もしついてくるんなら俺はお前を殺す。邪魔だから」
「(じ〜〜〜)」
 聞いちゃいない・・・。
 まったく・・・多少世話になった事務所だから面倒を掛けたくなかったのに・・・。
「ふんっ」
 俺はミーアの存在を無視して研究所内に入っていった。
 後ろから、タッタッと言う足音がするが・・・無視した。
 いくつかの通路を通る。軍部の割には警戒が薄い・・・反抗したら殺される、その為に民衆は反抗できないため警備が手薄なのかもな・・・。
 特にこの国は反抗した者がいた場合家族親族だけでない、区域ごとの全員を処刑にする・・・そこまでやるんだ、逆らえないんだろう。
だが俺は家族も無く親族も無く・・・戸籍はないから何かを恐れることも無い。
 最初の時のドール戦以降他の事務所の仕事を手伝う時も顔を隠していたから平気だろう。
「さて・・・」
 研究所の内部、内壁というべきか?そんな高い壁の前に俺は立つ。
 ここまでは誰でも侵入できるほど難易度は低い、正直ここからが本番だ。
 俺は改めて自分の装備を確認する。愛用の魔剣と柄、ワーズキラーズ用につくられた対衝撃用の服、腕のバンドに仕込んだ手投剣が各5本、ワイヤー、火薬球・・・などなど・・・よし、平気だな。今の状態だと魔法の行使回数が7、力の持続時間が10分強・・・よし。
 俺は3メートル以上ある壁を見上げ、その一番高い部分にワイヤーを巻いた手投剣を投げ放つ・・・よし、ささった。それを支えに昇り、ふと後ろを見てみる・・・と。
「・・・・・・・・・・・」
―――たったったったったっ・・・
 垂直の壁を走って登る人間が1人。
(おい・・・・)
「ミーア・・・お前人間?」
「(こくり)」
 ただの人間が垂直の壁を走って昇るのかよ、おい・・・そう思いつつ俺は先に進んだ。
 ・・・あらかじめ調べていた通りに人が少ない、この国が戦争の為に兵を国外へ送り出している為、自国の兵が少ないってのは本当らしいな・・・。
 数日前事務所で聞いた会話・・・研究所で新兵器が完成、それによってオーム国と共同で北のラジャオン、南のアミタールへ攻め込むと耳にした。何の兵器かは不明だが俺には関係ない・・・。
 そんなことを考えながら俺は内部の調査に進む。
「ここでもないっと・・・」
「・・・・・・・・・・」
 部屋を周るが所長室は見当たらない。
 代わりに幾つかの実験場を見たが・・・血臭が凄まじい・・・変わってないな・・・奴は。
 相変わらずミーアは無反応・・・何しに来たんだろうか・・・。
 そして1つの大きな扉の前へ来る。
 それに手を掛けて開けようとすると軋んだ音を放ちつつ徐々に開いていく。
―――ギギィ・・・
「!!・・・ここはあの脱出した時に戦わされた部屋・・・か?」
 闘技場のような広い空間。天井の部分をくりぬいた作りの為、空が見える。
 ここは実験場の1つ・・・。
 上の方に透明な物質でできた観戦室のようなものが有り、その中で奴らが観戦してたんだ・・・そう思い出した。
 あの日、俺は既に研究され尽くしていた為に不用品として捨てられるとこだった。
 だがそれなら・・・とある男の前で研究の産物と闘わされることになっていたのである。
 その当日、俺は少女(いまだとドールだと分かるが)と戦い、そいつの攻撃で出来た包囲の穴、それを潜り脱出、なんとか助かったのである。
「見覚えがあると思ったらあの日逃亡した部屋か・・・。まぁ用は無い行くか」
「いいえ、モルモット君・・・君はここに残るのですよ」
「!!」
 俺が独り言を呟くと同時に何処からか声が聞こえてくる・・・っとこの部屋の天井が閉まり・・・ガラスの箱の中から1人の白衣の老人が姿を現す・・・あいつは!
「やぁ・・・半年振りですねNo.1035番・・・あの晩に君がここを脱走した以来ですね、ふぉっほっほっ」
 あの日、カリスを殺した時にいた男の1人だ!
「・・・俺は」
「うん?」
「あんたを殺す・・・それだけの為に生きてきた。絶対に殺すんだ!」
先ほど壁を登ったときのように手投剣を投げつけようとする・・・いや、しようとした・・・だが。
「ふぉっほっほっ、お客人をもてなす為の用意はしっかりとさせてもらっているのだよ?・・・ん?」
 老人・・・いや正確にはここの所長、或いは狂人科学者ハーヴァンは俺から視線をずらしミーアに瞳をむけ・・・硬直した。
 俺もそれが気になり投擲を止めてしまう・・・なんだ?
「ふぉ・・・ふぉふぉ・・・・・ま、まさかここから逃げ出したたった2人の能力所有者・・・同時に現れるとは・・・ああワシはなんてついているんだろうか」
「・・・?何を言っているんだ、狂人め!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 何故かミーアは奴の視線から逃れようと俺の影へと移動する。
(対人恐怖症・・・いや、違う。あいつ自身を恐れているように思える)
 少しだけ思考してたのだろうか?
 その間にハーヴァンは我にかえる。
「おっと・・・君達をもてなすのはこれなのだよ。さぁ戦いたまえ・・・」 
 そういいこの闘技場の4方にある扉、そのうちの1つが開く。危険な気配を感じ手投剣を投げるのを止めてその扉を見つめる・・・扉が・・・開いた。
 最初感じたもの、それは驚愕だった。
 嘘・・・だろ?俺の目の前には半年前に戦ったドール、それが20体並んでいた。
 俺は半年前のあの夜を思い出す・・・、そうドールと正面から戦って倒したあの1戦を。
 力と魔法を駆使してようやく五分持ち込めたあの恐ろしい少女・・・。
「驚いたのかね?・・・我々軍部はついにドールを人工的に作り出し支配する術を得た!さぁ我が僕たちよ、そのもの等を捕らえよ!」
 一斉に動き始めるドール。
不味い・・・どうするどうするどうする・・・正面から挑んでも死、距離をとっても死、ミーアと協力しても数が追いつかないし第一魔力が足らない・・・くっ。
「・・・・・20秒・・・・稼いで・・・」
 突然ミーアはそういうと、後方に1歩大きく跳躍。呪文の詠唱に掛かる・・・何か手がある見たいだな、ならその手に―――乗る!
「わかった!!」
 俺は鞘から剣を抜く、敵は20・・・油断も隙も許されない・・・能力全開放!!
「はぁぁ!!スペルキャスト・・・チャージ!《フレイムウェポン》」
「黒き王、その下僕たる残忍で獰猛たる獣達、我は汝らに―――」
 てっきり諦めたとでも思っていたのだろう俺たちのとる行動をみて奴は命令を出す。
「・・・むぅ?人形ども裏の少女から捕らえよ」
 動くドール達・・・。
「させると・・・思うかぁぁ!」
 俺は剣に乗せた炎の力、それを解放させる。
 剣から魔力が消えるが、代わりに巨大な赤い真空波が敵を飲み込み逆側の壁へと貼り付ける。
 だがこの程度では決定打にはならない様で燃える体をそのままに動き出そうとするドール達。
(一時的な足止めにしかならない・・・なら!)
「スペルキャスト・・・チャージ《フレイムウェポン》」
もう一度掛けなおし敵に突撃、そして敵の注意を全て俺へとひきつける!
 案の定ほぼ全ての敵が俺をターゲットとして認識し攻撃にかかる・・・が脳内回路のリミッターを外してる今の俺にはその動きは止まっているようにしか見えない、冷静に捌き、払い、斬る。
「―――ラ・テトラ・ルハ・ア・シャトラ・メア―――」
(・・・この詠唱パターンは上位魔法!)
 俺は思う。
 彼女の唱えている魔法が危険極まりない無差別殺戮魔法であると。
 その間にも体は動く。
 できるだけ同士討ちをさせるかの如く、敵の間近で動きかわしていく。知能が低いのか相手は対応できていない・・・。
「テ・テトラ・我は願う―――」
!!・・・3匹ほどがミーアのところに「ちっ」俺は舌打ちしつつも咄嗟にさっき作ったワイヤーつきの手投剣を投げつける。
 その行動は2体を転ばせ、残りの1体にも4本の手投剣を投げつける。
 一時的に動きが止まったのを見計らい、近くの敵の注意を引きつつ引っ張りながらその3体へと歩む。
「―――祖は闇の王、暗闇に降臨せし魔王。・・・下がって・・・・。スペルキャスト・・・チャージ」
 俺は後方に飛び去りつつさっきのように剣の魔力を開放、敵を吹き飛ばす・・・そしてミーアの足元へと飛ぶ―――その瞬間。
 解き放たれるは深淵の魔王の力。
「《ロード オブ ブラッディナイト》(王が造りし血の惨劇の夜)」
 黒属性最上級の魔弾が発動、ミーアがそれを真上へと解き放つと上空に大きな闇の球体が現れた・・・そしてそこから黒き闇の弾丸が無数に降り注ぐ・・・雨のように。
「「「ぎぃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」
 それは無情に慈悲もなく、ただ無差別に降り注ぐ。
 魔法を行使したミーアを避けて全ての敵へと・・・
 断末魔の声を上げつつマナに還る少女達・・・1発1発が《ロア》のように空間をドール毎消していく、だがまだ後2体残っている。
 俺は安全地帯であったミーアの足元から立ち上がり魔剣を構える!
「下がれミーア、スペルキャスト・・・チャージ《ファイアーボール》」
 剣を媒体に作成した火球が10数個現れ敵に向い・・・燃やし尽くした。
 本来なら効かないだろう簡単な魔法。
 それでも弱っているドールに止めを刺すには十分だったらしい。
 そしてあたりには血の臭いと焼き爛れた肉の臭い・・・それ以外のものは残されなかった。
「はぁはぁ・・・はぁ・・・さぁ・・・あとはお前だけだ!」
「っ・・・・・はぁ・・・・・・・・はぁ・・・・・」
 息を切らせた俺達を見つつハーヴァンは・・・笑った!?
「ふぉほほほ・・・、いい見世物だったよ子供達・・・さて、次と行こうか?」
 ハーヴァンが手を上げる。
「なっ!」
 今まで閉じたままの残りの3つの扉がいっせいに・・・開く。そこにはそれぞれ20体のドールの姿があった。
「ふぉほほ・・・。技術としてほぼ完成してるのでな、いくらでも作れるのだよ」
(不味い・・・俺の魔力はあと4回だが力はもう引き出せない、ミーアもさっきので魔力を相当使ってて残り1ー2回のはず・・・くそっ!)
「さきほどの少女の魔法は興味深かったが少年、君は研究し尽くしている。死になさい・・・ああ少女も抵抗するのなら殺しなさい。死体は残してね」
「くそっ!スペルキャスト・・・ぐはっ!?」
 腹に突き刺さる剣・・・くっ力の切れてる今じゃもう見切れない・・・。
「・・・・・・・・・チャージ《ロア》」
 ミーアが咄嗟に放った黒の魔法、だが簡単に避けられる
「ふぉほほ・・・殺しなさい」
 残酷にもじわじわと死は迫る。
 剣が振り上げられる・・・でも対抗手段が無い、俺の体はその瞬間何故かミーアの体を庇うようにして押し倒した・・・そして俺の背中に刺さる剣、剣、剣・・・。
「ぐっ・・・ぐはぁ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
 それでも表情1つ変えないミーアは流石だな・・・そう思いつつ俺は心の中で既に諦めを感じていた。がせめてこいつを守って死ぬか・・・そうおもった。
 ・・・あ、れ?どうしてミーアの顔が歪んでいるんだ・・・?まるで泣き出しそうな子供のように・・・?
 それは死の間際の幻影なのか?
「ふふふっ、それにしても素晴らしい・・・。能力者2人と戦っても平気なドール部隊・・・あの方へのいい知らせになりますねぇ、ふぉふぉふぉ」

──その瞬間だった、奇跡が起きたのは

 この闘技場の中央に突然姿を現した門・・・そこから1組の男女が降りてくる・・・神話にいる天使のように羽を生やした黒い法衣の少女と全身が輝く光に包まれていた少年。

 これがこの2人との最初の邂逅。だが一緒に旅をするのはまだ先である。

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