Side A
「ふぅ、疲れたぁ」
そういって俺は大きく伸びをする。
あの最初の任務・・・先輩の戦い方を見ることから2ヶ月の月日が流れたている。
この部屋はカオスエターナルの館から少し離れた位置にある別館として建てられている建物だ。
5階建てのエターナルの訓練用の部屋とも言われている。
1階は闘技室。まだ若いエターナルや、エターナル同士の訓練として使われる部屋である。
そして今悠人のいる2階は資料室。ここでは様々なオーラフォトンの構築化、マナの変換法などを学ぶ為の資料が置かれている。
若い悠人とヘリオンはここで現在学んでいる最中なのだ。感じで言うと学校に近いかもしれない、ただここのが少々厳しいか?与えられるノルマなども半端ではないし何より神剣魔法など本来の世界ではまったくないことを覚えるのだから。また、それとは別に言語の勉強もある。会話は神剣を所持していれば可能だが、その世界の文字を読み取るのは神剣では無理だ。なので文字の勉強というよりもそれをすばやく解読できる為の勉強という物をさせられていた。
「あ、お疲れ様です悠人様〜」
階段から上がってきたヘリオンがそう言ってくる。彼女は全身汗まみれだ。1階での訓練だったのだろう。
ヘリオンはすでに2階での勉強は済んでいる。だから得意でない剣技のれんしゅうに励んでいたのであろう。
勉強とはそもそもやる気である。ラキオスで学校の勉強に強く興味を抱いていた彼女は覚えるのが早かった。
そして俺の横へと並ぶ。腕にしがみ付くのは時深がいるときだけにしたようだ、正直恥ずかしかったのだろう・・・俺もだが。
「そっちこそお疲れ様。ふぅ、教官が時深のせいで頭が痛い・・・」
「え、どうしてですか?」
「いや、あいつってば遊びながら―――いや、人をからかいながら教えるだろう?そのせいでたまに内容が頭でこんがらがる」
「あ、あははは」
乾いた笑い・・・ヘリオンお前もやられたんだな。
「さて、俺はこれからキールに呼ばれているんだけど・・・ヘリオンはどうする?」
「あう、私も実は庭園の世話があるので・・・」
「じゃあ途中までは一緒に行こうか」
「はい」
ヘリオンもローズの育てている庭園、その一部の世話を志願したらしい。この世界にはカオスエターナルとその眷属のミリオンしかいない為、喜ばれたようだ。そして小動物・・・小さな動物の飼育部屋などだがここも手伝っているらしい。一度覗いてみたが小動物っぽい子が小動物の世話をしている光景は微笑ましかった。
また、庭園全体の管理をしているローズや、館の何人かの女性エターナルに姉さんとつけて呼んでるらしい。それはファンタゴリズマで姉をなくしたせいなのかもしれない。
「それでは私はここで失礼いたしますね〜」
庭園まで来てヘリオンと別れる。
俺の用事があるのはここより少し先だからだ。
青々と茂る牧草。
宮殿を中心として別館の正反対の位置には色々な乗馬が飼われている。他にも大型の鳥や小型の恐竜のような生き物も飼われている。
別館と同様にここもエターナルの為に練習用として飼われているらしい、どの世界でどんな生き物に乗るのかは分からないのだから。
そして俺はここを抜けてさらに先へ・・・そこには工場のような建物がある。事実工場として機能を果たしているらしい。
乗馬のような乗り物だけの世界とは違い、文明の発達した世界は機械の乗り物が使われることが多いためである。そういう世界の為用に車、飛行機・・・何故あるのだかはしらないが潜水母艦・・・とにかく多種多様に置かれていた。
「あーユート〜!こっちだよ〜」
ぶんぶん手を振るのは成人男性の姿なのに子供っぽさの残る少年キール。騎士の鎧を着込み手にはスパナ体は油まみれである。
「よっ!・・・またお前機械いじりしてたのかよ」
「えへへー」
キールは何故かこういう分野が大好きなためちょくちょくと顔を出しては色々なものを乗り回したり作成したりとしている。
「で、今日呼び出したのって何の用事だ?まさかこんな場所でお茶会やらじゃないだろうし」
キールの別の趣味・・・お菓子作り。
「んーん。今日はね、ユートにもこの乗用車?っていうのに乗ってもらおうと思って」
指差す先にあるのは車が1つ。これは現代社会で言うところの車だろう。タイヤが無い低空飛行で飛ぶタイプのようだが。
「のってみるかい?」
「でも俺未成年だし・・・ってエターナルには関係ないな。よし、軽く乗らさせてもらうよ」
「うんっ!それじゃあ操縦の仕方はね、ここがキーで・・・ここが―――」
操作はひどく単純なものであり、そのまま運転を開始した。
その頃へリオンは時深と会っていた。
宮殿の一室、食堂兼憩いの場のようなところだろうか、窓からは庭園の姿みることもできる、日当たりもいい。
「時深さん。これをキールさんからもらったんですけど「ユウエンチ」の「ふりーぱす」ってものを2枚。これをユート様と行けっていわれたのですけどもユウエンチって何のことですか?」
よくからかわれるが時深は相談しやすい人であるからだろう、そんなことを聞いていた。
庭園の植物の世話が終わったあと、昨夜もらったこの券のことを聞いてみたくなったからである。
「えーとどれですか・・・ふむふむ。これはね恋人とか家族とかで遊ぶ娯楽施設のことですよ」
「娯楽施設・・・ですか〜」
イマイチぱっとこないのだろう・・・怪訝げな顔でそう呟く。
「ええ、だからへリオン、恋人の悠人さんをつれていくといいですよ」
「こ、恋人・・・」
他人から言われるのは気恥ずかしいのだろう。
そして、時深がこういうのは親切では・・・ない。
チケットの場所をみたからだ。キールさんのことだから前もって調べてなかったのでしょうね・・・と思っていた。
「しかもですね、こういうところで関係が一気に深まる物なんです。だからもしかしたら何か色々と起きるかもしれませんよ」
「い、色々・・・」
想像したのだろう、既に顔は真っ赤だ。
「まぁともかくそれを渡すといいですよ。渡す時はこういうんです。「ユート様、私をデートに連れてってください」って」
「あ、あう・・・は、恥ずかしいですね」
(年中べったりしてるのですからこれくらいで恥ずかしがらなくても)
そう時深は思う、時深の前ではいつも腕にしがみ付いているのだから。実際は時深の前以外では恥ずかしくてできないのだが。
「幸いというかなんというべきか・・・あそこに悠人さんが飛んでいますから」
「え?」
窓のほうを向くと・・・ユートが舞っていた。
「う、うわぁ〜」
「あはは〜ごめーん失敗したよー」
「どんな失敗だ、おい――!」
そんなことを言いつつユートと共に空中を舞うのはキール。
運転中突如暴走した車。キールの改造が原因らしい、がコントロール不可になり牧草のある場所をつっきり庭園まで来たところで自爆した。
ようやく地面に落ちたユート、体は半分地面に埋まった。
「ぷ、ぷはぁ」
地面から上半身を起こすと・・・目の前には怒り沸騰のローズ他庭園の世話をするエターナル、ミリオンさんたち・・・」
「い、いや・・・不可抗力だ。これを起こしたのは向こうの―――」
「ぷはぁ」
ようやくキールも体を起こしたらしい。
「いやぁ失敗失敗・・・ユートと一緒に庭園破壊しちゃったねーあはは」
一緒にというな、お前のせいだろう!・・・といおうとしたのだがその前にボコボコにされていた。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
「いいかい、今後あたしの庭で騒ぎおこすんじゃないよ!」
「そうですよ、ローズの言うとおり!」
ようやく気が治まったのだろう、彼らは引き上げていく。
俺は・・・キールの方へ向き。
「お前・・・なんで車が自爆するんだよ」
「えへへー・・・ごめんユート、間違って自爆装置を・・・」
「つけるな!」
その後俺は傷を癒す為自室へと戻ろうとする。
そんな俺にヘリオンが駆けつける。
「ゆ、ユート様ぁ、ご無事ですか!?」
「あ、ああ・・・何とか生きている」
そしてヘリオンが神剣の力で傷を塞いでくれる。
神剣から温かい闇の光が溢れ、傷を塞いでくれる。
「これで・・・大丈夫だとは思います」
「ありがと・・・ヘリオンが天使に見えるよ」
「え、そ、そんな」
(あんな怖い光景見た後じゃな)
ローズならともかく普段優しげな女エターナルやミリオンが凄い形相で襲って来るんだもんなぁ・・・)
その時の風景を思い出しブルッと体が震えた。
と、いつの間にか俺の前に二枚の券が差し出されている、出しているのはヘリオン・・・文字が読めないが描いているイラストからしてどっかのテーマパークぽいと思った。
「えええと・・・その、なんと言うか・・・ええと・・・ゆ、ユート様!私と明日1日デートしてください!」
精一杯恥ずかしいのを堪えてヘリオンはそういう。
そういう態度をされると俺も恥ずかしいな・・・と思う。考えたら俺も今までヘリオンを妹のように見てて恋人としての行動などとったことがなかった。ならデート・・・こういうのもいいかもなと思う。
「わかったよ。でも明日は無理だから5日後の2人とも空いた時間でいいかな?」
俺は彼女の頭を撫でつつそういう。
ヘリオンはあ、あう・・・と恥ずかしがりつつも「はい」としっかりうなづいた。
そして、チケットを俺が受け取った瞬間ダッシュで逃げるように走り去る。赤い顔で。
「変わらないなぁ・・・」
そんな光景を宮殿のさきほどの部屋にいる時深はなぜか笑いを堪えるような顔をしていたのだった。
次の日
「ユート〜今度はこれに乗らない〜?」
「断る!」
当たり前である。
Side B
暗い闇の中・・・。
ここは夢の中・・・。
俺は・・・夢を見ていた。
俺は再びあの光景を見させられていた。
俺のとって大切だった・・・兄弟達が死ぬ所を。
視界が変わる、今度は明るい照明の中丸い半円上のドーム。
そこは5年前の研究所の中、目の前には親友とも呼べるほどの者がいた。
そしてその後ろのガラスに仕切られた向こう側の部屋、そこに30人近い子供の姿があった。
俺達は失格者。素質の無いと思われた者達。その中に俺とそして・・・親友カリス=ローレンスがいた。
・・・この日の1月前、俺は親に売られた。そしてこの研究所の中のある大きな空間で30人近い子供と一緒に生活しろ!そういわれた。
何故か遊び道具はある。食べ物は不味く不満はあったが俺は今までの生活の中では得られない「友達」そんな大事な物を手に入れた。
その中で特に仲の良かったカリスはよく俺に、ここを出れたら「双子の妹と共に生活するんだ」そう言っていた。
カリスは妹を逃がす為、自分から捕まったのである。そして俺も「ここを出たら俺も一緒に暮らしたいな」そういって笑いあっていたあの日・・・。
それから一ヶ月後、俺は実験と称しカリスと殺し合いをさせられることになった。背後には大きな岩の真下に子供が30人・・・俺の兄弟達・・・。あの生活は俺達に絆を埋め込ませ、その精神状態の中で戦わせようとしていた。
俺たちにはお互い好きな武器を選べといって幾つかの武器から好きな物を選ばされた、そしてそれを渋った俺たちに対して・・・罰として1人の子供が殺される。確か最年少5歳の子だった。
武器を取った俺たちはドームの中央に立たせられた。俺達は共に動けない・・・すると子供のうちの1人の顔が消えた。後ろにいた男の持つ鉄鎚で頭を潰されたのである。「戦わないなら全員殺す」そういわれ俺達は泣く泣く刃を混じ合わせる。そして俺の持つ剣がカリスの腕を斬り飛ばし、カリスの持つ剣が俺の腹部に突き刺さる・・・もうこれでいいだろ・・・そういう瞳を向けた俺達、だか奴等は・・・「殺せ」そういって止めさせてはくれない・・・また1人殺される・・・。
必死な俺たちの様子でもまだ不満だったのだろうか、研究者の1人が「次の実験を行なう」そう呟いた・・・すると、子供達の上にある岩が落ちてきた。その岩は丁度あの部屋の空間と同じ大きさで逃げる隙間も無く・・・子供達は全員押しつぶされ木っ端微塵となった。
俺とカリスは声にならない叫びを上げた。・・・だがこれがこの悪夢の、最後の悪夢の始まりだった。俺はその瞬間『力』に目覚め・・・研究員達を全員皆殺しにした。それでも暴走が止まらずにいた俺は・・・親友であるカリスをこの手で殺した・・・。
―――チュンチュン・・・
「っ・・・・・・朝か・・・」
俺は目を覚ました。最初に浮かぶ光景は明るい景色。
ここはあのおっさんのギルドの一室、そこへ住ませてもらっていた。
「まだ当分悪夢からは逃げられない・・・のかよ」
俺は夢のことを考えた。
あの研究所で暮らした5年間の中で最悪のあの光景をこうして悪夢として見るのは初めてではない。
「さて・・・飯食って勉強にいくか」
俺は階段を下りて一階へと向った。
既に全員食卓へと座っていた。
「よう坊主。ねぼすけだなぁお前は。もう朝食の時間すぎてるぞ」
その台詞を聞く前にそれは分かっている。
既に食卓には俺の物以外全部片付けられいたから。
「ディンは局長と違って勉強をしっかりしてたからです。局長みたいにご飯以外は遅れてサボる人にはふさわしくない台詞ですよ・・・はいディン、今日はパンとスープよ」
庇うようにリフィがいう、まぁ庇うというよりもおっさんを非難してるだけのようだけど。
パンとスープ・・・多分この世界では普通に作られるものなのだろうがいまだに慣れない、あまりに美味しく感じすぎて。
「・・・・・・・・」
1人我関せずと食卓で何かを弄っているのはリーア。おそらくは魔銃の整備だろう。
皆、隙だらけ・・・俺を家族の一員のように扱ってくれる、それが一番違和感のあることだった。
食事の終わった俺にリフィが。
「さて、ディンこの間もいいましたが、まず覚えるべきことは文字、それの読み書き。それと私達の戦う相手『ワーズ』。彼らことを覚えてもらいます。これが追加のノルマです」
どさっと本を渡される。
「多いな・・・」
「覚えるべきことは沢山ありますからね。早く一人前になってもらわないと」
俺はここに住まわせてもらってから『ワーズキラー』という職についての勉強をされられていた。
俺も自分の目的の為に最低限の知識・技能はいると思い、その言葉に素直に従った。
この世界では文字はそこそこ一般的であり勉強を学ぶ学園などの歩くにもあるので望めば誰にでも覚える機会はある・・・でも俺は生まれて10年を犯罪の為だけに生き、そしてそれからの5年間は実験材料・・・無駄なことを覚えている暇は無かったのである。
俺はその本の束を持って自室に篭り、勉強をした。
そしてその3日後にリフィから外出の許可をもらった。「理由は中央広場を覗くとわかるから」そういっていた。
今までは追っ手の心配のせいで外を歩くことができなかった俺は初めて外を歩くことができた。
事務所のあるここのスラム街はポート国の恥部でもある場所、だから研究施設も置けるのだろう、俺が逃げたその場所も遠くからだが見ることも出来た。スラムは失業者、浮浪者以外余りいない、けれども商業区に近い為事務所の存在は不可欠であの事務所は建てられたそうだ。
ポート国は軍事国家、中央に大きな城を、その正面である南と北に居住区、東が商業区となっている。西は軍の施設のみ、あの研究所だけが実験しやすい為だろうか?ここに建てられている。
東の商業区のさらに東のスラム街から俺は商業区の中心にある中央広場へと向う。そして俺は立ち寄って見てみると人だかりがありそれを押しのけて覗いてみる。するとそこにはあの太った白衣の男の首が飾られていた。
顔には見覚えがある・・・あの研究所で偉い立場にいたはずの男だろうか、追っ手の中心で騒いでたあの男は今、生首になって晒されていた。
・・・俺の脱走の責任を取らされたんだな、いいザマだ。そう思いつつ帰宅した。
「あ、ディン。読み書きの練習しながら所長と留守番お願いね。私とミーアは仕事で出かけてきます」
そういってリフィとミーアが出て行く・・・。この商業区の担当をしているこの事務所の仕事は勿論ワーズ狩り。発見したとの連絡がくるとすぐさま急行、そして処理する。
『ワーズキラーズ』は本来1つの事務所に10人ほどの抹殺者を配備、そして大抵が3人くらいの編成で向い処理を行なう。その理由は簡単、手ごわいから。ここのように俺を入れてすら4人しかいないというのは普通はないらしい。・・・まぁ理由がありそうだが。
二人が出て行ったあとおっさんが一階の自室からでてふぁ〜とあくびしつつ顔を出す。
「お、坊主勉強中か〜、えらいなぁ」
そういいつつパイプタバコを咥えて食卓で何かの書類を見つつ和んでいる。
「・・・おっさん、あんたは行かないのか?2人だけに任せて平気なのかよ」
「んー、俺の力が必要になったら向こうから連絡来るだろうさ。さ〜てもう一眠り・・・っと」
そういって再び自室へと帰っていくおっさん。
読んでいた手紙は如何わしい本であり、「あのおっさんいつ仕事をしてるんだ?」と思った。
この事務所の中で局長と言われてるがいまだ仕事をしてるのを見たことが無い。事務仕事の殆どはリフィがこなし抹殺者としての仕事はミーアを連れて2人で行っているんだから。
「・・・・・・・駄目な大人の見本って感じだな・・・あれは」
俺はそのまま2階の自室へと戻り勉強に励む。抹殺者としての仕事をするには最低限文字の読み書きがいる、その為に俺は必死で習得していた。
昼ごろになって2人は戻ってきた。どうやらもう一件仕事があったらしく他の事務所に協力要請をして戦ってきたらしい。共に傷は無いが返り血で服が真っ赤に染まっていた。
2人はシャワーを浴び、風呂から上がったリフィがそのまま昼食の準備をしつつ声を掛けてくる。
「ディン、そろそろ自分の名前を書けるようになりました?それと返事のイエス・ノーなどの基本なども」
「ああ・・・とりあえずあんたの出した課題は全部終わってる。これで俺も仕事をさせてくれるんだろう?」
実際ここにきて既に1週間が経っている。文字もある程度は理解できていた・・・もっとも長文などはまだ分からないが。
「そうね。ではここらの事務所で一番でかい『シャドウゴースト』という事務所に向いますか。あそこで貴方のことを登録して、そして貴方にあった魔剣を貰いましょう」
「剣ならこれでいいんじゃないか?」
そういい俺は壁に立てかけてある俺の使っていた剣を指差す。
それはあの研究所での最後の実験で使用した剣、低性能だが普通に使う分には問題ないだろう。
するとリフィが困った顔をして。
「じゃあ貴方、あれで戦って自分はモルモットでした〜・・・っていうつもり?あの粗悪品は軍部の研究施設や実験場で使われるものだもの・・・下手をすればまた研究所送りよ?」
知らなかった・・・。
実際外の世界のことは知らなかったんだ・・・その意見に従っててみよう。
「・・・わかった、なら頼む。ちなみに俺の属性は赤。出来たら近〜中距離用武器にしててくれ、しかもなるたけ軽量なのがいい」
「わかったわ、それじゃあ行きましょう。ミーア留守番よろしくと局長に伝えててね」
「(こくり)」
無口な少女はこくり・・・と頷いた。
俺達は暫く歩く・・・そしてポートの城近く、南居住区の中でも城に近い位置へと建てられている建物があった。
「ここが・・・『シャドウゴースト』?」
俺たちの事務所とは違いそこは・・・綺麗な外装をした3階立てのビル。大きさ的にも通常の家4つ分以上の面積をとってる。
「ええ、さぁディン入りましょう。」
内部もうちとは違うように見えた。所々に精神感応が送られる装置が置かれ(これが電話のような物、これに通報されキラーズが現場に駆けつける)、すばやく対応できるように武器はきちんと立て掛け、もしくは置かれてある。働く人々から感じる雰囲気も一般人とは違う何かを感じさせた。
リフィは挨拶を交わしつつ先へと進む。俺はリフィの後に続いて奥の部屋に入っていった。
奥の部屋はここの局長の部屋なのだろう、色々な書類等が山積みになった机には偉そうな奴が仕事をしている。
「おお・・・リフィ君ではないか。ひさしぶりだね。」
「どうもお久しぶりですわ、局長もお変わりなく。」
社交的な挨拶をしたあと局長と話すリフィ
リフィはその局長に許可をもらって、その横の武器庫へと俺を連れて行った。
「それじゃあこれを渡しておくわね」
そういいリフィは俺に両刃だか短めの剣を渡す。銘が刻んである・・・疾風、そう書かれていた。軽く振ってみるが扱いやすそうだ・・・そう俺は思った。
「軽さ重視の赤の剣「疾風」それとこれもつかってみて」
そういって投げ渡されたのは20センチほどの長さの杖。よく見ると引き伸ばすことが可能な様だ、そして伸ばすと一番上に穴が開いていて疾風の柄が入れられる。そしていれると1メートル50〜60の槍ができた。
「軽めで丈夫な柄をつけるとそうやって槍にもなるわ。スペルワードも一緒、それももっていきなさい」
そういってリフィ自身も自分の銃の部品を探してるのだろう、色々な部品を集めていた。
「わかった」
ショートスピアーとブロードソード・・・か。
研究所で一通りの武器を持って戦わされた経験はあるから平気だろう。
その後俺は銃の適性検査を受け、無理なことが分かった。相性的に悪いらしい。銃と剣の違いは1つ、銃は遠距離へと放つため複雑なスペルが多い。それを覚えられなかっただけだ。銃の場合は小規模な術でも脳裏で呪言を唱えるのだから・・・。
その後リフィと共に再び局長室へと戻る。俺は最後に局長室へ行った
「・・・これはまた・・・君の事務所には変わった者が多いねぇ」
それが局長の言葉。俺みたいな少年をキラーズにするのが珍しいのかもしれない。
その後その局長は自分の事務所で働かないかと俺とそしてリフィに言うが・・・(俺は多分おまけだろう)
「ふふ・・・でも私は今の職場がきにいっていますし、これでいいんですよ。ところで彼をキラーズとしてを申し込みたいのですがよろしいですか?」
ふぅっと嘆息しつつ苦笑い。あっさり断られたのが少し堪えたのだろう。
「かまわんよ。軍部が何をしているのかはわからんが、この頃魔族になるものが増えている、そして能力者は生まれなくなっている・・・人手は多いいに越したことは無い」
「ありがとうございます」
そして俺はその局長からいくつか軽い質問をされた後メダルのような物を貰った。勉強したかいがあって読める・・・これは俺の名前と・・・E-10そう書かれていた。
「それは君の身分を記す物。実際たいした意味は無いのだが、それで混乱してる市民に身分を教え落ち着かせることなどに使うのだよ」
「なくさないでね、ディン」
「・・・ああ」
それから事務的な会話をする2人を見つつ考える。
(能力者が生まれない・・・か。たしかに人体実験にあれだけ使われてるんだ・・・当たり前だろうな)
彼らは知らない、軍部がなにをしているのかを。
子供狩りは実は建前で、能力者の素質のある者を狩っているという事を・・・。
能力者はこの世界では神の使いとまで言われている人種である。何故かはわからない、でも強い力を持ちながら恐怖の的となったものは殆どいないのである。
「それでは失礼いたします」
「うん、また来てくれよ」
そして俺たちはその事務所を後にした。
そして俺はテラーフォースに戻り自室にいってベットに腰掛け、深い思考の中に身を置いていた・・・。
(ここで働きながら奴らの居場所を探る・・・そしてあいつの代わりに彼女を守る・・・そして今も捕らえられている奴らを・・・)
考えに没頭していたせいか近くにいる気配に気が付かなかった・・・いや、たとえ油断して無くてもきずけなかったかもしれない。
それ程彼女には存在感が無いのだから・・・。
そう、俺の真横に座っているのはミーア。
「ミーア・・・なんかようか?」
「・・・・・・・・・・」
何もいわない・・・表情にも変化がない。
「またか・・・口があるんだから喋ってみたらどうだ?」
「・・・・・・・・・・」
「ふん・・・まぁいいさ」
俺は無視して思考を続ける・・・あの研究所にどうやって侵入す・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・危険・・・だよ」
「・・・なに?」
俺が声をかけようとしてる頃にはもう彼女は階下へと行くところだった・・・。
(思考を読まれた・・・?いや、まさかな)
俺は少し疑念を抱きつつもその後夕食までの時間を自室で過ごしていた。
そして夕食後、リフィがミーアを連れて今日も魔族狩りに行くことになった。準備をしている。
どうやら人の多い場所で「変異」したらしく、既に犠牲者が多数出ているらしい。
「ディン。出かけるから留守番よろし―――」
「俺もいっていいか?実際に見てみたい」
困った顔をするがこういうときの判断が早い女だ。すぐ決断する。
「・・・わかったわ。ただし見るだけ、戦うのは私達に任せて。まだ経験の無い貴方では足手まといのしかならないから・・・、急ぎましょう。」
そして俺達は出かけた・・・商業区の大通りに向うらしい。本来は別の事務所の範囲なのだが、スラムから近かった為こちらへとまわされる。
俺は今全力で走っていた。
リフィもミーアもかなり足が速い・・・俺は離されない様に急いだ。
俺達がたどり着いた時、大通りのスラムの向きの建物の影に、赤黒い物体が落ちていた。血の匂いがとても濃い・・・よく見ると落ちていたものは人間の部品だった。頭・・・手・・・腕・・・上半身・・・千切りにされた足・・・。
「どうやらちょっと遅れたみたいね・・・、この分だと10人以上の死者がでちゃってる・・・か。ディン貴方気分は平気?」
「この程度なら研究所で見慣れてる。逆に可愛いぐらいさ・・・外見を留めているんだし」
「そう・・・実のところ、一番新米で困るのはこの惨状を見て混乱をきたすことだけど・・・貴方は平気みたいね。」
俺にとってはこいつらの方が異常だ。これだけの惨事なら多少は気持ち悪くなるだろうし・・・俺と同じく恐怖感がないのかもしれない。
俺達が会話している間にミーアが敵の感知をしている・・・そして感知が終わり言う。
「・・・北北東15Mに1体・・・強さ・・・C-・・・大通り・・・この先の上空に一体・・・強さ・・・B+・・・」
ぼそぼそと呟くように言うミーアの話を聞きリフィは。
「2体もいるなんて・・・!わかったわ、大通りの先にいるのは飛行型・・・ミーア貴方1人で処理、私達は北北東の敵に向います。ミーア、倒したら援護に着てね」
「・・・・・・・・(こくり)」
―――たったったっ・・・
走り去るリフィ。
俺は言う。
「おい、強い敵のほうにあいつ1人で、しかも倒し終わったら助けに来いって・・・?」
「さぁ、行きましょうディン」
質問には答えない。相当急いでいるようだ。
俺は舌打ちしつつもリフィのあとを追いかけた。
北北東の方角に進みスラム地区へと戻る・・・そこはスラムの中でも2階建ての建物の多いところ。そこで再び血生臭い匂いがする。なぜだろうか、ここに来るまでに陥没した地面、壁が多数あった。そしてところどころにある死体も肉も骨も全て砕かれた・・・まるで人間の体を神話にいる巨人がハンマーで叩きつけて押しつぶしたような、そんな死体だった。
俺はそこで悲鳴を耳にする・・・近い。
だが俺より反応が早いリフィは既に腰から魔銃を抜き放ち構えている・・・早い!
「下がって、スペルキャスト・・・チャージ!《ウォーターシールド》」
そうリフィの声があたりに響き、彼女は銃口を足元に向ける。水色の光が地面にぶつかると同時に俺達の前方に水で出来た壁が出来上がる。厚さは1メートルくらいだろうか?大量の水が出現した。
「これが・・・魔銃か・・・」
俺が感想を漏らすと同時に前方から何かが飛んでくる。丸い物体・・・大きさは人間の頭くらいか?そう思って目を凝らすと・・・「生首」だった。死んだばかりなのか血が止まっていなく、その顔は恐怖にゆがんでいる。俺はそれを一瞥し、リフィの動きを見た。
「グォォォォォォォォォォォ!!」
野獣の叫び、そんな言葉がこれほど似合うものもない・・・そんな声が響き・・・人間大の大きさの破片が俺達に向う、それが《ウォーターシールド》にぶつかると勢いを無くし地面に落ちた。
「ふう・・・ディンよく見てなさい。・・・あれが『ワーズ』私達の敵よ」
建物から何かが出てくる・・・それは・・・。
「・・・あれが」
それは怪物だった。
人間と姿形は似ている、しかしあるはずの頭、それがなく、腕が人間の・・・限界を超えて膨らんでいる。そして体は170cmほどなのに男性の胴体と同程度の太さのとてもアンバランスな両腕、あれでさっき地面を削り取り投げつけたのだろう。よく見ると頭は見つかった。腹に顔が浮かび上がっていた、先ほどの奇声はそこからか・・・。
冷静に見つめるリフィは懐から『清純石』を取り出しかざす。石は薄く輝いた。
「なるほどね・・・。見た目で判断しては駄目よディン。相手は下級のワーズ、能力は『怪力』のみで動きも鈍い・・・これならいけるわ」
怪力―――ワーズの力の1つ。筋力を無尽蔵に増大させあらゆるものを粉砕する・・・そのレベルCクラス。
そしてリフィは走る・・・彼女はその手に持つ銃からスペルを開放し、ウォーターシールドを破棄するそして・・・。
「悪いんだけど、大人しく眠っていなさい・・・スペルキャスト・・・チャージ!」
それに反応して動く異形!奴は再び地面を削りそれを投げつける。
「っ・・・危ない!」
「《アイシクル・ランス》」
俺は危険だと叫ぶ、だがそれより一動作遅れてリフィが銃からスペルを放つ・・・銃口から煌く光がしたかと思うと極低温の何かが突き進み・・・異形の投げた物も砕き・・・そして異形の体に突き刺さった。―――それは氷の槍だった。
刺さった部分から次第に凍っていく異形・・・やがて全身が凍りつき動きを止めた。
後に残るのは氷の彫像。
「これで、おわったの・・・か?」
すでにリフィは銃をしまっていた。
「ええ、このスペルは氷の槍。貫いた部分から体内組織を潰しつつ凍らせていく呪文。たとえ溶かしてもこのレベルの敵なら再生もないからおわりなのよ」
俺は・・・正直動けなかった。恐怖や怯えの為ではない。異形は似た感じのものを研究所で見たことがある。驚いたのは・・・『魔銃』の強さだった。
(俺が研究所で苦労したあの怪物を一撃で・・・)
と
―――たったったっ・・・
風のように現れたミーア彼女は言う。
「・・・・・・殺した」
B+の力のワーズ・・・それをもう倒したというのだ。
リフィが心配しない理由が分かる、彼女が恐ろしいほどに強いから・・・なのだろう。
「ご苦労様ミーア。さぁ帰りましょう」
「・・・・・・・・・(こくり)」
「ちょっとまてリフィ、こいつはどうするんだ?それにこの死体の山は・・・」
すると少し困った顔をしつつ。
「残念だけど・・・このままここにおいて置くしかないわね。城の軍部が全て研究材料として持ち去り現場の洗浄をするから」
後から聞くところによるとワーズに殺された遺体、それも全て研究材料にさせられるという。
「・・・・・・・・・・・・・・」
ミーアは相変わらず何もいわない。
(結局・・・軍の研究のとばっちりで生まれた魔族。それを処理しても軍の為かよ)
「さあ、帰りましょう。次からは貴方にも戦ってもらうわ」
「わかった、帰ろう」
そして俺達は帰路につく・・・激しい戦闘があったと思われないほど辺りは静かだった・・・。
───!!?
視界が真っ赤に染まっている。そこに俺の声が響いた。
「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!カリス・・・カリスぅぅぅぅぅぅぅ!!」
まるでその光景を別の場所から見させられているような・・・眠っていても分かる・・・これはいつもの・・・悪夢。
だけれども見たくない・・・それなのに俺はこの光景を見てしまう。
俺の腕が親友であるカリスの心の臓に突き刺さっている光景を。
「よ・・・よかった・・・ディン正気に・・・」
喋らないでくれ!俺はそう思っていた、初めて出来た「友達」。死んで欲しくない・・・ただそれだけを願っていた。
「も、もういいから!しゃべるなよカリス!お前の妹と3人で暮らすんだろう!?約束しただろ!!」
カリスの柔和な顔には既に死相が浮かんでいる・・・。
「そ、そう・・・だな、妹と3人で・・・慎ましく・・・く・・・ら・・・・・・・・・・・・・・」
カリスの体が突然重くなる・・・ま、まさか嘘だろ・・・誰か嘘といってくれ!!
俺は泣いた・・・『力』の放出も同時に収まってきていた・・・俺はそのまま暫くカリスを抱きしめ・・・そして泣いた。
そこに、偉そうな男の声が響いていた。・・・いや声だけでないパチパチという拍手もする・・・。
「すばらしいな所長・・・まさか人工的に能力者を作り出すとは。それもこれだけの力を持ち意思を残すとは素晴らしい・・・素晴らしい兵器だよ!」
(兵器・・・だと)
「ふぉほほっ、このような素質の無いゴミを人間の持つ「怒り」、「悲しみ」その2つでどれだけ潜在能力を引き出すか・・・ただそれだけだったんじゃがのぅ」
(・・・ゴミ・・・だと)
「ふふふっ、所長よ、このまま能力者を量産したまえ・・・そして私は国王にその成果を差し出し・・・わが国が・・・」
―――パリーン・・・
・・・俺の腕があのドームの壁の1つを破壊した。
「黙れ・・・黙れよ。貴様ら・・・・・・・・・・・・」
「なっ!?サンプルが実験場から飛びでただと?こ、殺すな捕らえるんだ!」
俺の腕を掴みに入ってくる兵士達。
それを薙ぎ払い前へと進む俺、だが多勢に無勢やがて・・・捕らえられる。
「離せ・・・離せよぉぉぉぉぉぉ!!」
それは・・・あの日の出来事。
俺に3つの目的を与えた日のこと・・・。
目を覚ます―――頬には涙の痕があった。
俺がいつものようにあの悪夢を見てしまったから。
「カリス・・・」
呼んでも返事はないのは分かっている・・・俺が殺したんだから。
俺は窓の外を見た。まだ薄暗い、早く起きすぎたようだ。
だが眠りに再びつけるわけは無く俺は町を歩くことにした。
事務所のある場所はスラム街。廃墟の中に不法侵入者が住まうところ。実際スラム街はそれ以外にも最下級の生活者の寝床として利用されていた。
誰もいないように見えても気配はある。油断すると子供なら売り飛ばされ大人なら殺され身ぐるみを剥がされるかもしれない場所、そこを俺は歩いていた。
「・・・・・ん?」
ふと・・・何かの気配がした。
俺はそこに身を隠しながら近づいてみる、するとそこには1匹の黒猫がいた。
にゃあぁぁ・・・と欠伸をしている。
(なんだ・・・猫か)
俺は動物には興味も無い。そのまま立ち去ることにした。
だから俺は気がつかなかった。
「・・・・・・・・マナノウドリョウコウ・・・第1530段階に移る・・・・・」
そんな声が流れていたのを・・・。
「朝食後、貴方は私と一緒に住宅区に行きます。今日は向こうの人手が足りないのでお手伝いですね。局長、ミーアこの地区のことはお任せします。・・・ちなみにミーア、今日は私がいないのですからもし局長が眠ったりしてたら対応お願いします」
「・・・・・・・・(こくり)」
何故か大型のナイフを持っている。
額に汗を浮かべるおっさん・・・なにされるんだ?
「こ、怖ぇぇなぁ。俺だってたまには真面目にやるんだぜ?」
「信用できません。それでは行きましょうかディン」
こうして俺は朝から別の事務所に行くことになった。
この間の一件以来俺にも仕事をさせてもらえるようになった。
とはいえ俺の役目はサポートのみ、敵の注意を引き付ける、もしくは敵に軽い攻撃をして隙を作る・・・それだけだったが。
それにしても俺がある程度警戒して距離をとっているのに、リフィとおっさんは普通に接しようとするのでこの事務所にいるのも多少は居心地やすくなったと思う不思議な感覚だ。・・・ミーアだけはいまだによく分からない、でも何故か興味を惹かれていた。
「さて、ここです。ギルド『ウイードデット』ここで仕事をします」
考え事をしている間についてしまったらしい、俺たちの事務所とは違い人通りの多い場所に立てられた小さな建物。ちなみにギルドの名前は局長の持つ武器によって決まるらしい、ウイードデットは古くに存在した黒蝙蝠の一種・・・黒の使い手か。
「ああ、入ろうぜ・・・」
そして建物の内部に入り人の集まっている部屋に移動するとそこには8人ほどの人の姿があった。
「やあテレーアさん、お久しぶりです。・・・ん?この子は?」
そういうのは何処となくキザな雰囲気の男、服装も髪型もきっちりしているが何故か軽い感じがする。
「あ、私達のギルドの新しい人員ですサイン。魔剣使いのディン。よろしくおねがいしますね」
「・・・よろしくな」
俺はぶっきらぼうに言う。今俺に話しかけた若い男は魔銃剣『ヴァイス』のサイン、銃と剣を両方扱えるこの事務所のエースらしい。ランクはB-3とかなりの腕らしい。
その後俺達は軽く挨拶をして、現場に散った。どうも敵の反応が5つも同時に出た為に人手が足りなかったらしい。会話の最中1人・・・2人と出かけて行き、いまはここの局長とサイン、そして俺達だけが残っている。
「―――というわけでだ、この反応2つの纏まっているところへサイン、君がディンって子と共に行ってもらう。テレーア君はここに残り待機しててくれ」
「えっと・・・まだこの子は新米なのでお役に立てるかどうか・・・」
「俺はかまわないですよ2人とも。1人で2体くらい余裕ですから。」
その言葉にちょっとむっ・・・ときた。初めから俺は戦力外か。
「俺もかまわないよリフィ。そろそろ1人でやってみたいと思ってたところだから」
「・・・では頼む」
「・・・気をつけてね」
2人とも苦々しい顔をしている・・・組ませなければよかったとでも思っているのかもしれない。
(まぁベテランって奴の腕を見るいい機会か)
そして俺達は現場へと歩いていった。
数刻後・・・今俺達は現場にいる、今日の敵は肉食のタイプなのか当たりに転がる死体は全て食い荒らされている。
「こいつは・・・結構強い部類だね」
残ってるマナの残留量を調べていたサインが清純石を手に持ちそういう。
「少なくとも片方はランクB以上、もう片方は不明だが・・・」
調べているサインとは別に俺はおかしな予感をして・・・辺りに注意を払う。
(なんだ・・・この皮膚にピリピリするこの感覚は・・・)
「なぁサイン・・・」
「?」
「ベテランなのに気づけないのかよ?・・・囲まれてるぜ」
驚くサイン、慌てて周囲を見渡す。
「なに?でもマナの気配が・・・っ!」
俺とサインは共に驚愕した。
いつの間にか死体が起きだしていた。それも全ての死体が、である。体が分かれているものはその一部分が起き上がる。
「片方の能力が分かったな・・・、これは虫・・・虫の卵を植えつけられたようなものだし・・・『繁殖』の能力かよ?」
「だ・・・・ねぇ。俺も実際会うのは初めてだったが・・・」
俺とサインは2人して警戒の態勢をとる。武器は・・・まだ勿体無い。
「たしか繁殖の力は体内に昆虫を生み出す器官を有すると同時に繁殖したいという本能が生まれ・・・死肉に繁殖の為の卵を埋め込む・・・埋め込まれた卵は繁殖するまでその体を使い操る・・・だろ?」
「ああ・・・危険度が高い魔族。こついらが繁殖した日には小さい町程度なら2日でこの世から消えるだろうな・・・っ・・・くる!下がれ!!」
どんどん現れる死者の群れ・・・辺りに凄い死臭が漂う・・・。ずずっ・・・ずずっ・・・そういって這ってくる足の千切れた死体・・・そして今さっき降ってきた首だけの死体。
俺は懐から出した柄に魔剣を差し込む。
武器を槍にして牽制するが死者にこんな行動をして意味があるのだろうか・・・そのときサインが声をかけてきた。
「なぁディン。君は何回魔法を撃てる?」
―――ここで1つ説明する。マナの力を使い色々な力を使う魔銃や魔剣、これは完全なる万能な武器ではない。確かに1発1発の力は強いが、込めれる体内のマナ量には個人差があり・・・平均してキラーズは5ー6回の魔力の行使で力尽きる。死ぬわけではないが1日程度の間身動きが取れなくなる・・・。
「・・・4回。しかも基本のスペルだけだ」
魔剣に備わっていた魔法は5つ。
補助が2つに攻撃が2つ上位補助が1つ。
「そうか・・・ならここは君に任す。繁殖の力は本体を倒せば収まるからそれまで注意を引き付けててくれ」
「分かった・・・。我が槍である疾風が・・・敵を切り裂く!スペル・ランスモード―――キャスト!」
そういい俺は死体の群れの真ん中に行って・・・。
「チャージ!《フレイムウェポン》」
そういった俺の槍の先端・・・そこにマグマに匹敵するほどの高熱が発生する。マナの力で生まれた熱、鋼の中にその力を留め触れた敵を燃やし尽くす補助魔法。
俺はそのまま魔槍を回転させるようにして振りぬく、周辺一体の死体達が燃え尽きて廃塵と化す。
「よし、俺は本体を殺る・・・まかせたぞ!」
そういって駈けるサイン。・・・なるたけ早くしてくれよ、今の慣れない俺じゃ維持できるのは持って・・・1分!
俺はそのまま魔槍で敵の注意引き付けつつ、敵を燃やしていく。
(焦る必要は無い・・・触れるだけで敵を燃やせるのだから)
死体の動きは遅い、だが死体ということは力の制限が一切ないということ、一撃には気をつけつつ処理していった。
幸い死体は燃やしやすい為、1分以内にこの地域の大半を倒し・・・残りは俺の槍から力が消えると同時に倒れだした。
(向こうも終わったか)
そう思いつつ安心する俺だったが・・・サインのいった方向で突然光が弾けた。
「──!・・・なんだ!」
駈ける俺、所々に死体がある。その大きな切り傷を考えるとサインが倒した物らしい・・・あいつの魔銃剣はでかいからな・・・そして暫く走った先に方膝をつくサインとそして―――「奴」がいた。
「!!・・・・この女は」
片膝をついているサインは苦しそうに言う。
「さ、下がれディン君。こいつは・・・『ドール』だ!」
──ドール・・・それはいつから現れたか分からない人間型の悪魔。常人には真似できない怪力、そして脚力、なによりも人間が魔法を使うのに銃や剣などが媒体となり使用回数が少ないという欠点があるが、彼女達は何も制限が無い。故に破壊の化身、ゆえに悪魔。
俺は別のことを考えていた・・・研究所で脱走の時に戦った奴だ・・・と。赤い真紅の髪、人間には決して出来ないその髪・・・赤い目、血で出来てるように赤い眼・・・赤い外套と胸当てをつけ手には少女が持つには大きすぎる剣を持っていた。
そのまま少女が無表情に剣を構える・・・狙う先にはサイン。
「くっ・・・我はマナを扱いし者、雷の王、雷獣の化身そして大気に舞う黄を司る者達よ・・・今我に力を!スペルキャスト──」
サインが膝をついたままで高速詠唱を掛ける。増幅の為の呪文をつけその銃口を少女に向ける。
「チャージ《アサルトライトニング》」
殺戮用の稲妻・・・荒れ狂いし雷の群れが少女に向う・・・だが少女がその剣を前にし何事かを呟くと稲妻の大半が霧散、残りが少女を傷つけたがまったく気にもしない・・・化け物だ。
「くっ・・・まさかドールと戦うなんて。残り1回分の力これで勝てるのか・・ぐは」
俺の目には霞むように見えるほどの高速移動、少女はサインのみぞうちへ蹴りを叩き込む。サインはまるで板切れのように飛んで行き・・・壁にぶつかり止った。・・・完全に気を失っているのか動きが止まる。そして少女はその瞳を俺に向けたのだった。
実のところそれを見ても俺には"恐怖"などは感じなかった。ただ強い敵・・・そう思う。その為体が普通に動く俺は、視線を向けられると同時に少女の間合いに近づく為、駈ける。
―――タッ・・・
「はっ!」
そして俺は槍状態の疾風、これを突く様に前に出す。狙いは・・・あの剣。俺たちの武器と同様にそれを媒体としてるのは同じらしい、なら叩き落せば・・・そう思うが甘かった。突然視界から掻き消え、走る俺の真横に出現、そして言う。
「《ファイアーボール》」
少女は無感情な声で言う・・・赤の魔法《ファイアーボール》と。
「なっ!?・・・くっ、チャージ《シールド》」
あらかじめ唱えていた魔法を放つ、本当ならこれで剣を弾くつもりだったのに・・・そんな考えをしてる俺に赤い光が・・・。
「・・・・な!ふ、防げない?くぅぅ!」
俺はさっきのサインのようにまるで板切れのように飛ぶ、だが低空なのが幸いした。地面に槍を突きたて加速を減らす・・・しかしボキッッという音と共に槍は真っ二つに折れた。
さっきの死者との戦いでヒビが入っていたのか・・・、そう思いつつも何とか体勢を立て直し、柄を捨て剣状態に戻す。
第一《シールド》自体体物理防御用・・・効くわけがなかった。そう考えつつも・・・次の策を練る。
このままだと確実に殺されるから。
(残りの魔法使用回数は2回・・・しかたないアレを使う)
俺は体に力を込めた。
俺だけの『力』の発動の為全身の力を引き出す。
そんな俺へと目の前から少女が接近してくる。
そのまま振りかぶった剣で俺を切り裂く・・・瞬間俺は回避した。
「????」
おそらく見えなかったのだろう・・・少女を超える加速で逃げた俺の姿を。
そしてそのまま俺は駈け続け少女の背後に迫る。
「炎の神、火の精霊、大気に散るマナよ・・・我が疾風に宿れ・・・スペルキャスト!チャージ《イグニス》」
残り二回分を込めた魔剣の力。・・・さっきのが600度ならこっちは鉄をも溶解させる1000度をも超える上位赤魔法・・・効いてくれよ。
「ひゅぅぅ・・・、はっ!」
「!?・・・!」
俺の剣が何とか少女に当たる。
それは敵の剣を持っていないほうの腕に当って片腕が燃え散る、痛みをまったく感じていないのか少女はそのまま俺に剣を振るうが・・・避ける。
力を発動してる俺には少女の動きが見え、しかもそれより早く動ける・・・これが俺の力『加速』
戦っていたのはそれから20秒ほどか?
突然現れた黒い閃光が少女の身を食らう。
その黒き閃光が去ったあとにはあの少女の姿は存在しなかった。
「はぁはぁ・・・・・・誰が・・・今の攻撃を?」
―――ふわり・・・
そんな音と共に建物の屋上から飛び降りた少女は・・・ミーアだった。その手には魔銃を持っている、少女には少々大きめの銃を・・・
「・・・・怪我・・・・ない?」
珍しく喋ったその言葉は・・・俺のみを案じる言葉。
そりに少し驚いた。
「あ、ああ平気だ。だが向こうのサインって奴が」
―――すたすたすた・・・・・
俺もミーアの後に続く、そしてサインの様子を見ると背中から何かが刺さり腹を突き破っていた。どうりで立ち上がらないと思ったらこういうことか・・・。傷を見て長く持たないと感じ俺はミーアに言う。
「これはもう治療しても駄目だな・・・どうするか。・・・・?」
ミーアは動かない・・・何故か両手を傷口に当てている・・・。
「何やってるんだ?―――!?」
サインの傷が塞がっていく・・・これは?
そういえば俺の運ばれた時も既に死ぬほどの怪我を負っていたのに直っていた・・・こいつが直した?
数分後・・・ミーアは立ち上がる。
見るともうサインの傷は塞がっていた。あれ程大きな傷が痕跡すら残っていない。
不思議に思う・・・確かミーアは銃を使わずに直した。しかもさっき撃った弾丸は『ロア』黒き闇で空間を削る弾丸・・・ということはミーアの属性は黒。なのになぜ緑に属する治癒を・・・?
「(くいっ)」
服を引くミーア・・・どうやら俺に運べって言ってるらしい。既にミーアは歩き出し去っていこうとしている。俺はサインに肩を貸し連れて行った・・・。
「ありがとうディン君。君のおかげで助かったよ」
そんな風に言われつつ俺はあの事務所を後にした。
後で聞くと事務所に連絡を取ってミーアに俺の護衛をさせたのはリフィだったらしい。しかもまだ残っていたもう一体のワーズもミーアが単独で処理したそうだ。
帰り道、俺はリフィに肩を貸してもらいつつ事務所へと戻る。
魔法使用限度まで使いきった影響で体の力が失われているから。
そして俺たちの事務所へと戻る最中。
「ディン、危ない時は逃げないと駄目よ?」
リフィが子供に注意を呼びかけるような感じで俺に言う。
「・・・ああ。ところで1つ質問なんだけど」
「なに?」
「ミーアのあの治癒能力・・・あれっていった・・・むぐっ?」
慌てて俺の口を塞ぐリフィ・・・何を慌てて周囲を警戒してるんだ?
辺りに誰もいないのを確認すると手を離し小声で。
「それは絶対外では話さないで。・・・にしても貴方ってミーアに気に入られてるのね」
「?・・・・・・1度も会話らしい会話してないけどな」
考えたらさっきのが会話らしい会話なのか・・・
「ああ・・・彼女って実のところ大の対人恐怖症なのよ・・・。だからあの力も人前では出さない。わたしも見たのは1度だけ・・・しかも事務所内でのみ」
「・・・・・・対人恐怖症?何かあったのか?」
するとリフィは寂しそうな顔をして・・・
「ここで働いてたらいつか教えるわ。」
そういって話を締めくくった・・・
それから俺は半年間ここで過ごした。
あれ以来ドールは見ていない、でもワーズは何度も狩り、ランクもCの3まで上がったらしい。(どうでもいいが)
いまだにミーアの対人恐怖症の理由は教えてもらってはいないが1つだけ分かったことがある。
それは何故この事務所には4人だけなのかということ・・・それはミーアが他の人間とは居たくないからのせいらしい・・・
おっさんも何かを隠しているような感じがする。
特に俺も理由を探ろうとはしなかった。
仕事を通していくつもの経験を積み、目的の1つを調べる時間も出来た。
それと同時に俺は顔をマフラーで隠して仕事をすることにした。理由はこの事務所のお人好しに迷惑をかけないために。
なぜなら研究所ですごしていたあの兄弟以外で始めて少し信じられる・・・そんな気分になってきた俺の心の変化のせいかも知れない。
でもこの日から俺のキラーズとしての生きかたが崩れていく。
そうそれは・・・初めからの目的の為に。