Side A
俺達5人・・・俺、ヘリオン、時深、キール、ローズの5人は初任務の地へと着いていた。
海の色が真っ白という以外は特徴という特徴はない、町並みも平和で皆のんきに暮らしていそうな世界だった。
とはいえカオスエターナルが派遣されるということは隠れた場所で世界の危機が起きているのだろう。
俺たちはこの世界の中心に向っていた。
そこへ行けといわれていたからだ。
前もって派遣されていたベテランのエターナル『震雷』の持ち主である男が言うには「とにかく雑魚が多いからそれの対応を頼む」とのことだった。
ロウエターナルの眷属であるミ二オン達を敵のエターナルは数十体作っていて、それに気をとられているとやられる可能性があるという、だから呼ばれたのである。
―――見えた、この世界の中心、何もない氷原地帯で向かい合うように戦っている男と集団が見える。
「ヘリオン、そろそろ敵と接触する。気をつけろよ」
「はい!」
俺は自分と時深を支えて飛んでいる少女へリオンへとそう告げた。
「あたしらも頑張らないとねぇ」
「ですね」
といいつつ隣を飛行しているローズがキールを支えつつそう言った。
ローズはハイロゥが無いただの人間なのだが、オーラフォトンで擬似の翼を作成しそれで飛行している。もっともヘリオンと違いかなり不安定な飛行ではある、それは元々空を飛べない人間だからだろう。
と、それに気がついた『震雷』の持ち主である筋肉質の大男が声を掛けてくる。目線は逸らしていない。
「お、やっときたか。お前らは雑魚を片付けててくれ!俺が敵の親玉をぶっつぶす」
そういって・・・鎚の形をした神剣を振り上げると敵に向っていく。
「了解しました。さぁ悠人さん・・・それに皆さんいきますよ―――『時詠』よ、敵の行動読み、皆さんへと伝えてください『ビジョンズ』」
といいつつ時深は空中から飛び降りつつ俺たちへとサポートスキルを掛ける・・・。
みるとキールとローズもそれぞれ戦い始めている。
負けちゃいられないと俺とヘリオンも戦いの中へと向っていった。
正直あっさりしすぎるほど簡単にミ二オンとの戦闘は終わる。
理由は・・・俺とヘリオンが1体仕留める間に次々とキールと時深が倒していったからである。
ローズは支援専門なのだろうか・・・自分に向ってくる敵を払いのけるだけで自分からは積極的に倒さず戦況全体を見守っている。
そして俺が3体倒し終えた頃には敵ミニオンは全滅していた。
だが時深はいう。
ここからが悠人をここに連れてきた本当の理由だと。
前方であの大男と敵のエターナルの戦いが続いている。
それをよく見ていてください・・・ということらしい。
大男はその巨大な鎚―――それを振りかぶると敵へと振り下ろす。
敵の男・・・両手持ちの大剣と小振りの小剣をもつ3本腕の男は、それを大剣の向きを縦にして受け流しつつ小剣で切りかかる。
二本で1つの姉妹剣なのだろう、隙がない。
それの繰り返しが暫く繰り返された後・・・突然大男は後方へ引き、詠唱を開始する。
「我は呼ぶ―――」
それを察知したのだろうか、その敵対する男は直前の虚空へとマナを転換させたオーラフォトンをいくつも放つ。
それは1つ1つがオーラフォトンバリア―――しかも高密度な。
「―――大地を震撼させよ、《ライトニングボルト》」
大男が神剣魔法の詠唱を完成させたと同時に巨大な1本の光の柱が生まれて敵へと進む。俺のオーラフォトンノヴァよりも威力がはるかに高い・・・正直戦慄する。
なにしろこれで第三位神剣、その中でも力なき剣だというのだから。
―――ギュォォォォォォォ!
地面の氷原、それが一瞬にして蒸発する―――その威力に。
その光の柱は3本腕を目指し・・・途中で虚空に描かれたオーラフォトンバリアとぶつかり干渉を引き起こし、次第次第に威力を減じられる。
とはいってもその破壊力、バリアも次々と突破して3本腕へ突き刺さるかと見えたとき―――大剣が疾る。
威力を減じた稲妻はその剣から放つオーラフォトンの力で分散し、蹴散らされた。
それを見て俺は思う。
なんて凄い戦いなのだろうと。
俺はあの《ライトニングボルト》は回避不能、敵を追尾する力をもつと時深から前もって聞いていた。
それを敵は知らないのに、蹴散らす手段を即座に選択、実行した。
再び戦いは続く、二人の扱うオーラフォトンの力は俺の生み出すオーラフォトンとは質が違う・・・力任せに無駄に振るう俺と、そして彼らとでは。
俺と、隣でやはりその戦いを見つめているヘリオンと共に観戦した。
結局両者決着がつかずに3本腕は撤退した。
「いやぁ、助かったよ」
戦闘後そういって大男は話しかけてきた。
「いえ、任務でしたから。それに今回の任務の目的はこちらの新米エターナルにエターナル同士の戦いを見せることが第一でしたので」
そう時深が対応してくれるが悠人は思う。
(あんな戦いをこれから続けるのか・・・あんな戦いを)
自分とはまったく違う実力を秘めたエターナルたち。時深やキール達ですらだ。正直第二位の永遠神剣を所持していたという気持ちのある悠人は軽い衝撃の中にいた。
それからすぐ俺たちはこの世界を後にしてもとの世界へと帰還した。
そして館のロビーのような場所で、皆でくつろいでいた。
外の外装と同じように華麗な広間、そこには2つのソファーと幾つかの遊戯道具が並べられている。
そこでキールに声を掛けられた。
「ユート、なんか出かけたときと顔が違うけど・・・もしかしてエターナル同士の戦い見て驚いたとか?」
「・・・ああ、正直驚いたよ。でもそれよりファンタゴリズマの戦いでは俺はミリオンをあっさり片付けていたんだがイマイチ調子が出なかった。そっちの方が心配でな」
俺は言う。
正直にいってあの戦いで両者の使っていたオーラフォトンの構成、構築の凄さよりもこちらのが現実問題だ、弱くなったのかと。
「ああ、ユートが手間取っている間に僕たちが全部片付けちゃったことだね」
隣でヘリオンも話を聞いていた、だがその言葉を引き継いだのは時深。
「そのことですがユートさん。まだ言っていなかったのですが、神剣を所持した直後と違って今のユートさんの体はエターナルの力になれていません。所持した直後は過剰の力をひたすら振り絞って使っていたからこそ強く感じたのですよ」
まぁ、詳しくは判らないが、俺が弱っているのは注ぎ込まれていた力が抜けた為らしい。
暫くは訓練でエターナルとして、マナをオーラフォトンに転換した後の使い方等を習うのだそうだ。
「僕だって初めはユートたちみたくね、弱かったんだよ〜。でも訓練であのくらいの力は出せるようになったんだ」
「私もですよ、悠人さん。ティーレに連れられた直後の私も同様の経験がありますから今の悠人さんの気持ちはわかります」
(なるほどな・・・暫く訓練が必須ってことか)
「その訓練って言うのはどのくらい掛かるんだ?」
「人によりますが・・・最低5年くらいは勉強しないといけませんね。色々な世界での言語の習得、オーラフォトンの構築、基本的な剣技等の再習得―――やることは山済みですよ悠人さん」
ニコッっと笑うがその顔が悪魔の顔に見える。
エターナルになったのに5年以上も勉強なのかよ!っと。
だが予想外なのは隣に座るヘリオンだった。
彼女は勉強自体、特に言語の方の勉強を楽しみにしてる感じがする・・・そういえばスピリットは戦闘訓練が主で学校とかには通えなかったんだよなと思った。
「ユート様、がんばりましょうね」
時深と同じようににこりと笑う・・・うっ、うれしそうな顔を向けられると嫌といえない。
「・・・わかったよ。それじゃあ明日から頼む」
すると時深は「えっ?」と呟き。
「なにを甘っちょろいことを言っているんですか?悠人さん」
「へっ?」
「小学校から物覚えの悪い貴方には今から猛勉強がまっているのですよ?寝させると思っていたんですか?」
しごく当然の口調で言う・・・おい。
「と、時深様、悠人様はまだ任務で疲れてますし明日でも・・・」
ヘリオンが助け舟を出してくれる。俺はいい子だなぁと思っていたが、時深はなお言う。
「人ごとでなくて貴方もですよ?さぁ2人ともこちらへ」
それから1年間おれたちはみっちりとエターナルとしての知識・技等を学ぶこととなった。
ちなみに教官役の時深は鬼だった・・・はぁ。
Side B
暗い世界、天井が暗闇で閉ざされている世界。
この世界にとって夜とは天高くにある岩の天井。
そこから明かりが全て消えたときのことを言う。
そして今・・・その光は完全に消えていた―――つまり深夜。
そして、この暗闇の中、とある街の廃墟で走る少年がいた。
―――タッタッタッ・・・
「ハァ・・・ハァ・・・」
「こっちに逃げたぞ〜、追え〜!」
―――タッタッタッタッ・・・
「・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
「ガキ1人に何手こずっているんだこの馬鹿どもが!さっさと捕らえろ」
「はっ」
―――タッタッタッタッタッ・・・
「ハァ・・・っ・・・」
「奴に逃げられたらワシの首が飛ばされるのだぞ。くそぅ・・・実験体の分際で。兵士ども、無能でないのならさっさと見つけろ!」
少年は身を隠す、路地裏の物陰へと。
追いかけてきたものたちは気づかずに通り過ぎる。
追ってきた人間の姿は、この国の兵士の服装であった。
後方でえばっている太った男が指揮官なのだろう。こいつだけは鎧を着ていない。白衣を纏っている・・・研究者のような外見だ。
それに率いられるかのように10数人の兵士達。
それが通り過ぎても少年はまだ動かなかった。
まだ明かりが点いているから。
石のようにじっと・・・身を潜めている。
いくら時間がたったのだろう・・・少しずつ兵士の付けていた明かり(カンテラ)が消えていく。
(辺りの兵士の気配が消えていく・・・これで俺は・・・逃げれた・・・)
路地裏に身を隠した少年はそう思う。
これで実験台として、死ぬことも出来ないあの地獄で生きなくてはならない生活から抜けられる・・・彼はそう思っていた。
見た目は15歳くらいだろう。暗い瞳をした整った顔立ちの少年。金髪を肩までぼさぼさに伸ばしている。
暗くて見えづらいが少年の胸と腕と腹にはそれぞれ3種類の傷が出来ている・・・。
胸は凍りつき氷柱のようなものが貫通し背中から飛び出て、腕は焼き爛れ今にも千切れそう・・・、腹には・・・何だろうか?強烈な衝撃によって出来た穴が開いていた。
普通に考えたらどれも致命傷・・・気力だけで生きているのだろう。彼はそれでも立ち上がり・・・血の跡を残しながらも歩き出す。
既にその体に力は残ってないのだろう・・・だが彼は「自由」それを手に入れるために歩き出す。
路地裏から出てどれくらいの時間が経過しただろうか?
這いずる様に前へと進む少年の後ろで気配がした。
「俺は・・・兄弟の様に細切れにされて・・・たまるかよぅ・・・」
力の無い声・・・でも強い意志を感じる声。
逃げる為に何とか歩こうとする・・・だが足音は近づいている・・コツコツ・・コツコツと・・・彼は何故足音が近づくのかと疑問に思うが答えは出ない。他の者がみたのならすぐに分かる・・・彼はもう歩いていない・・・いや歩けないのだ。
(くっ・・・そぅ・・・)
既に呟く力もなくなり彼は倒れ・・・彼の意識はそこで途切れた。
そして彼に近づく影・・・それは彼の額に手を置き・・・。
そして・・・。
この世界の名前はニームキレハムと言う。
ただし、この世界以外の人々はこの星を見て・・・こう言うだろう。
『閉ざされし大地ニームキレハム』と。
天井に岩の壁があり、その為太陽と星そして月などが見ることが出来ない。
もっともこの星に月は無いのだが。
いつからこの世界が閉ざされているのかは誰にもわからない。
数周期前に突然世界はこの形、大陸の四方を岩の壁で覆う世界となったというが、今この世界に生きるものにとってはこれが当たり前ではある。
岩で閉ざされていても、何故か太陽の代わりのごとく発光するその岩があるので生活には問題ないのだから。
この世界は5つの国家に分かれている。
中央には法治国家オームがある。穏やかな王のもと、平民達も平和な暮らしをしていた。
北の国家はラジャオン。機械文明の発祥の地。そして貴族の為の国。
南にあるはアルタール。大気に漂うマナを利用する術を見つけた国家。マナを神の力と信じるドルイドと普通の民と二分化されている。
この上記2つの国は平民の暮らしは一定水準ギリギリである。
西にあるのはグラム。
東にあるのはポート。
この2つの国家は軍事国家であり、軍部の力が強い。
そして平民の暮らしは一定水準を下回る。
それどころか人を人としてから見てないのかもしれない。
ポートでは子供狩りと称して国中の子供を施設に連れ込み、人体実験を行なうように非道な国であるのだから。
およそ100年前くらいからだろう、この大地は閉ざされているとはいえ豊かな大地で争いごとは殆ど無かった。
だが100年前ほどからマナの力が衰え・・・そしてそれは争いへと発展したのである。
だからポートのように人体実験までする国があるのは自然の摂理ではあるのかもしれない。
でも20年前から世界は変わった。いい方向ではない、より悪い方向へと。
『魔族』
そう呼ばれるものが生まれたのである。
生まれた原因はポートでの人体実験の最中だったらしい。
強制的に体内に過剰なマナを流し込まれた子供達が凶暴化。実験をしていた研究者達を次々と食い殺した。
そしてこの事件以後、何故か通常の生活をしている人間でも突然凶暴化することが起きるようになった。
理由はわからない。
だがそれは世界を恐怖へと落とし込むほどの災厄であるだろう・・・通常の攻撃では死なないのだから。
そしてそれとほぼ同時期に、不思議な少女が現れる。少女・・・いや違う、この世界の人間には太刀打ちできないような力を持ち、不思議な力を使う化け物。彼女達は表情1つ変えずに人間を殺すことから『ドール』と呼ばれた。
しかし1つの光明が存在した。
同時期にアルタールとクリムの国が共同で開発していた『魔銃』の力、外気のマナを使用し普通の人間が使うことのできる魔法の力。
これによってマナの力で作った攻撃しか効かない魔族達は駆逐されていく。しかし、その代わりにこの世界での戦争の道具がこの『魔道』の力を持つ武具に変わったのは皮肉であった・・・。
結果、魔族を倒した武器は新たな戦いの火種となってしまったのである。そして魔族は今も生まれる・・・それを退治するはずの軍人は国家同士の争いに夢中になり・・・役に立たなかった。
それを打開する為に生まれたのが『ワーズ・キラー(魔族殺し)』。全ての国にそれぞれ最低5つ以上の事務所が設置され、民の身を守る力となった・・・。
そしてそれから20年後。まだ国家同士の争いは続く。温和な王であったオームの王も老衰で倒れ、好戦的な息子が王になり・・・その新しい王はポートの国家と手を組む―――もうすでに戦争は止まらなかった。
同様の軍事国家であるグラムは王が変わった後善政を敷いているらしいが・・・その王がいま行方不明である。
他の国はそれを傍観・・・世界は乱れていた。
そして舞台は軍事国家ポートのスラム街にある一軒の廃ビル。
今にも崩れそうなビルで始まろうとしている。
そこは研究施設・・・俺達に与えられた場所。ただひたすらに暗い地下、そこに俺たちの姿があった。
大きさ10.メートル四方の空間か?家畜部屋のように狭く、臭い。そんな中に30人もの人間が生活・・・いや、飼われてのだから。
痩せ細り満足に何も食べていない様な子供達・・・事実食べていないのだ。何日後かに処理されるのだから・・・。
この部屋は大きさで言うと縦横5メートル程度の空間。そこに・・・30人もの子供の姿がある。
・・・ぎゃあぁぁぁ・・・ママァァァ・・・・・・・・・う、腕が・・・ぎ・・・・・
あの声の具合からして実験体と戦わされて食い殺されたのか・・・俺はその部屋で冷静に兄弟達の断末魔の声を聞き思っていた。
別に珍しいことではない、毎日のようにここで飼われる俺には聞きなれた声だ。むしろ俺より幸運だろう・・・特殊な力に目覚めないですんだのだから・・・俺のように生きながらえずにすんだのだから・・・。
ふと視界が変わる。ここは。
・・・痛い・・・苦しい・・・だれか・・・だれか助・・・・
・・・軍部の狂った大人が実験と称して生きたまま解剖していくところ・・・、だがそれを見ても俺の心は冷めていた。
(羨ましい・・・)
俺はそうさえ思っていた。
ポートの国首都の近郊にある研究所、そこでは次世代に使う武器の開発をされていた。町、村から子供を強制的に連れて行き、実験と称し殺す・・・その繰り返し。この狂った研究は既に20年程続いていた。
そして俺は・・・売られた。連れて行かれたのではない・・・売られたのである、親に。・・・俺の親は俺を道具と見ていた、5歳からその外見を利用して盗み、殺しをさせられ10歳で軍に売られた。この頃はまだ感情が残っていた・・・だがこの日・・・。
また視界が変わる・・・!!・・・こ、これは・・・。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
俺は自分の悲鳴で目を覚ました。
(?・・・ここは一体・・・)
それが俺が起きて最初に思ったこと。自分の状態を見る。死ぬ寸前だったほどのあの傷が全て無くなっていた・・・。
(それに・・・どうして俺はベットで横になってるんだ?)
この世に無償で人を救う人間などいない。そう思う俺だからこそ疑問に思う。
くたびれた実験服・・・それ以外何も着ていなかった。それが今は粗末ながらも普通の服を着ている・・・。俺がなぜ・・・助けられた?
「おはよう少年。目は覚めました?」
ふと顔を上げると女がいた、服装からして研究所の者ではなさそうに見えたが俺は油断しない・・・、いつ実験と称し攻撃をされるか分からない、そんな日々にいたのだから。感覚を鋭くさせ『力』を即発動できる状態にする。
「何か言うことがあるのでなくて?」
そう声を掛ける女は・・・20代後半だろうか?美人なのだろうが俺にはわからない、大人の女を見るのは5年ぶりなのだから・・・。
そして、掛けられた言葉の意味も・・・分からなかった。
「・・・・?」
不思議に思いつつも俺は軽くこの部屋を見る。今まで住んだことも無い綺麗な部屋、窓のある部屋・・・光の見える部屋・・・。
(ここは外か)
「少年・・・助けてもらったのにお礼の1つもないのですか?」
「・・・別に頼んだわけじゃないさ。それより教えろ、あんたの目的はなんだ?」
首を傾げるしぐさをする女・・・もし敵ならこの瞬間3度は殺せる・・・素人か?
「目的?わたしはただ疲労で倒れている貴方を介抱しているだけだけど」
「!!・・・(この女が治癒したんじゃないのか?)」
疲労で倒れてた・・・ってことは傷は別の奴が直したのか。
「突然真夜中に行き倒れの貴方をミーアが運んでくれたのでここに寝かせてあげたの」
・・・このしぐさ、今までの会話から思うにこのスラムの住人で親切さで俺を助けた世間知らずって所か。スラムの女にしては服に良い物をきてるが・・・。
「さっきは悪かったな、礼を言わせてもらう。ありがとう、それじゃ」
「って、ちょ、ちょっと!」
俺は立ち上がる・・・長居は禁物だ、あれからまだ時間がたっていない今だとここの領主が探しているはずだ。体が痛むのを無視し立ち上がろうとする・・・とそこにドアの開く音とともに中年の男が入ってきた。
見た目はさえない中年親父・・・この女の旦那って所か。
「やぁ坊主、体は平気か?」
「局長!その少年を止めてください!」
「ん?」
俺はおっさんを無視してそのままドアをでようとする・・・っと体が浮き上がった。
「まぁ待てよ坊主、せめて飯でも食ってから出て行け」
・・・・・このおっさんに片手で持ち上げられてたのか。なんて怪力だ。・・・にしてもあの女とは違う荒々しい気配が感じられる、いや多少はあの女にもあった不思議な気配こいつら一体・・・?
―――キィ・・・
と、再びドアが開く
「所長・リフィ・・・ご飯できた・・・・・」
(・・・子供?)
自分より年下の少女、それだけなら驚かない。でもなんだろうかあの瞳・・・まるでなにも映していないような・・・。
そして、なぜだろうか―――懐かしいと感じるのは。
「ではミーアこの子の分もお願い、今連れて行きますので」
「・・・・・・(こくっ)」
―――キィ・・・パタン
「あの子は・・・なんだ?あんたらの子供か?」
「あの子は所長とともにこの事務所のメンバーです。・・・ああ、まだ起きたばかりでつたえてなかったわね、ここは『ワーズキラーギルド』の1つポート支部スラム担当、『テラーフォース』よ」
ワーズ・キラーズ・・・確か魔族を倒す為に民衆が作り出した組織
「そしてここは貴方のような実験体の子でもかくまうことが出来るわ。軍部の一部門ですから。・・・彼らも身内で匿うとは思わないでしょう。」
「!・・・あんた、最初っから知ってたな・・・。俺が研究所の「モルモット」だったことを!」
俺は内心焦る・・・こついらが軍部の奴らなら今の発言など何の信用も無い。それにさっきの朝食も俺を足止めするためか?俺の発言に女は「ふふっ」っと笑い。
「そりゃあ・・・貴方、あんなに穴だらけの服着てたし。・・・知らなかった?あの服はこの国では実験体専用だってことを」
「し、知ってたさ、でも捨てる時間も代えの服をかっぱらう時間も残っていなかった!」
俺は言動から焦りの色を取り払うことが出来なかった・・・敵地のような感覚ではなかったから油断していた・・・くそっ。
「にしても少年・・・良くあの実験場から抜け出せたわね。確かあそこは一度連れて行かれたらもう二度と日を見ることが無い場所・・・そういわれているのに」
「・・・他の兄弟と違って運が良かった、それだけだ」
いままで黙っていたおっさんが俺に
「とりあえず飯だ坊主。下に来い」
そういい俺を引っ張っていった・・・。
というよりさっきからずっと襟首をつかまれたまま中にぶら下っていて、そのまま連れられたといった方が正しいが。
俺はとりあえず食事をすることにした。動く力が足りない、そう感じたからだ。俺にとっての食事はこの15年間ずっとそういうものだった。だが・・・。
「───!!!!な、なんだこれは!」
ガタッと椅子から飛び立つかのように立ち上がる。
周りから見たらどんな表情をしてたのかはしらないが。
「ど、どうかしたかしら少年?」
「どうした坊主!そんな驚いて!」
「もぐもぐもぐ・・・・(無反応)」
俺のとった行動を見ておっさんと女は驚いた。少女は無表情でそのまま食べていたが。
「だ、だってこのパン・・・味があるぞ!それにこの飲み物も!」
・・・・・
「・・・・・・・・ちょっと少年、貴方今まで何を食べてきたの?」
「あ?石の様に硬い黒いパンと水、それだけ。それが人間の食うものなんだろ?」
「「・・・・・・・・・・・・・」」
唖然とする2人・・・何か違ったか?にしても・・・美味い。食べ物がこんなに美味しいものだったなんて知らなかった。
「坊主、お前最近連れてかれて脱走したんじゃないのか?」
おっさんがそう聞いてくる。
「俺は・・・あそこで5年過ごした」
「5年も!?」
「一番の古株だったから・・・」
俺以外はもって1月・・・それ以上は(生きて)戻ってこなかった。
暫く黙って続く食事、先に食べ終えたおっさんが俺に質問をしてきた。
「そういえば自己紹介がまだだったな。俺の名はハンス=ニッカート。ここの所長をしている。んでこいつが(そういい女に視線を向け)テレーア=リフィティー。あとそこの子供がミーア・リュルル。この3人でやっている事務所だ。んでお前さんの名前はなんだ?」
誘導尋問のつもりかよ、と一瞬思ったが深い意味はなさそうだ。正直に答えることにした。
「・・・・ディン。ディン=ウィスパーだ。」
実験体とばれてたのなら隠しても仕方ないしな。
「よろしくね、ディン」
「もくもくもく・・・(無反応で食べ続ける)」
「そうか坊主はディンって名前か。よろしくな」
そういうおっさんを一瞥し、俺は言う
「よろしくは必要ないよ。ご飯はありがたかったけど俺はもうこの町を抜けたいんだ。追っ手が来るから」
実のところ俺は食事中も気は緩めていなかった。まだ敵の可能性がある、もし敵でなくても俺を売るかもしれない・・・俺の親と同じように・・・。
まぁ味には驚いて一瞬だけ気を緩めてはしまったが・・・。
「うーんと、そのことなんだけどディン、貴方は戦闘得意かな?もしくは魔銃扱えるとか」
「?・・・一応戦闘ならできる。魔銃は適正がなかったけど魔剣なら・・・!?」
(もってきてた魔剣がない!)
「ああ・・・あの赤の属性の剣のことね。貴方を着替えさせた時にちょっと置きっ放しにしたてからあとでもってくるわ。そのことは置いといて・・・ディン、もしよければこの事務所で働かない?」
女の誘い・・・善意なのかもしれないが、俺は即答した。
「・・・断る」
「あら、どうして?」
「まだ俺はあんたらを信用してない。いつ俺の身を軍部に売り払われるか注意して暮らしたくない!」
するとテレーアは「ふっ・・・」といい。
「なら、貴方はこのまま逃げ切れるの?今もすでに町のあらゆるところに兵士が出張って貴方を探してるわ。何しろこのまま貴方を見つけられないと領主の首が飛ぶんだもの。あ、比喩でなくほんとに首を掻っ切られるってことね」
「坊主、俺からも忠告だが逃げるにしろこのまま此処にいるにしろ、暫くはうちで働いてたほうがいいぞ?」
俺は考える・・・こいつらを利用するか、それともこのまま脱出するのか・・・。確かに利用したほうが安全だ。逃げられる確率が上がる・・・だが。
「第一・・・捕らえて売り払うのなら始めからそうしてるぞ?元最強のキラーズと呼ばれていたこの俺様の実力なら坊主なんて一捻りだしなぁ」
腕に力こぶしを作ってそういう。
見た感じ体格はともかく全身に筋肉が程よくついている・・・口だけではないのかもしれないな。
なにより、さえない風を装っているがあの視線・・・玄人だ。
「私はこの事務所で働いてくれる人を探していたのよ。ちょっとある事情があって・・・普通の人を雇えないのですもの」
ため息をつくテレーア・・・どんな事情なのかは知らないが好都合かもしれない・・・。確かにこいつらの言うとおり売られるならとっくに売られてただろう。
「わかったテレーア、おっさん。暫く働かせてもらう。・・・いっとくけど信用してるんじゃない、利用するだけだ」
「わかったわ。あと私のことはリフィとよんでちょうだい。もしくはお姉さんでも許可します。さてミーア後片付けするわよ」
「・・・・・・(こくっ)」
いつの間にか食べ終わっていたミーアが軽く頷き食器を運んでいく・・・早い、一瞬にしてテーブルに乗っかっていた物が掻き消えた。
(あの子供が一番強いんじゃないのか?このギルド)
そして俺の『ワーズ・キラーズ』・・・魔族を狩る抹殺者としての生活が始まる。自分の目的を果たす為に・・・。