「・・・」
メシフィアはベランダから、アレスティナの方角を見ていた。
白い羽が世界中に舞ってから一時間・・・。
戦争が終わった、とレスティーナが宣言し、世界中の人々が新たな平和の訪れに酔い痴れていた。
城内を除いて・・・だが。
アレスティナの城は光に包まれたと同時に、消滅してしまったのだ・・・。
ならば、そこで世界の消滅を防いだ・・・啓太は・・・。
「メシフィア」
「・・・メルフィー」
メルフィーが自分の部屋から出てきた。
すっとメシフィアの隣に立つ・・・。
「啓太を・・・待ってるの?」
「・・・ああ」
「そう・・・みんな・・・待ってるのにね。どうしてアイツは来ないのかしらね・・・」
メルフィーも遠い目をする。
なんだかんだ言って、全員が揃ってない事が悔しいのか、唇を強く噛んでいた。
「・・・」
「もうすぐ・・・祝勝会の準備も終わるっていうのに」
メルフィーもアレスティナの方角をむいた。
空は夕暮れで茜に染まっていた・・・。
「メシフィア様、メルフィー様、祝勝会の準備が整いました」
側近がそう告げる。
「・・・行きましょう、メシフィア」
「・・・そうだな」
メシフィアとメルフィーは体の向きを変えて、城のなかへ入っていく・・・。
「この度は、みなさんのおかげで戦争に勝利し、平和をつかむことができました。国王として、心から感謝いたします」
「よしてくれよレスティーナ」
悠人が照れたように鼻の頭を掻く。
「そうそう。せっかくの祝勝会なんだからさ」
「ふふ・・・でも、本当にありがとうございます。あなたたちのおかげで、この大きな戦争も無意味な物ではなくなりました。この気持ちを胸に、本当の平和・・・実現させていきたいと思います」
レスティーナがグラスを持った。
それを見て、みんなもそれぞれグラスを取る。
「・・・本当は、あの方が来てから・・・と思ったのですが・・・」
「・・・」
みんなも黙る。
ひとつだけ空いている席・・・。
そこに座るべき人物がいない。
それが心残りだった。
「では・・・勝利と、この世界の平和を祈って・・・」
レスティーナがグラスを掲げた。
「その乾杯・・・待ったぁぁぁぁ!!」
「・・・え?」
みんなの動きが止まった。
誰かの・・・声が聞こえる。
ドガァッ!!
そのまま食堂のドアが蹴破られるように開いた。
「ふぅ・・・はぁ・・・間に合った・・・か?」
ドアを蹴破って入ってきたのは・・・この場の全員が待ち焦がれた・・・啓太だった。
息を切らせて、膝に両手をついていた。
カノンは収めてある。
「ケイタッ!!」
メシフィアが席を立って、すぐに啓太に抱きついた。
倒れそうになったがなんとか踏張る。
「はぁ・・・はぁ・・・ちゃんと・・・間に合ったみたい・・・だな」
俺は料理に手をつけていないことを確認した。
「良かった・・・本当に良かった・・・!」
「メシフィア・・・俺が簡単にくたばるわけないだろう?」
「うん・・・うん・・・っ!」
俺はメシフィアの目から流れる涙を指で拭って・・・俺はメシフィアを見つめて、キスをした。
俺はみんなに向き直る。
「さぁ、パーティーを始めようかッ!!」
『オーーーーッ!!!』
オレ達はグラスを鳴らした。
その後、軍隊は大幅に縮小された。
それによって配置換えになった仲間もたくさんいる・・・。
レスティーナはその除隊させた人々を職につかせるのが大変だとか愚痴っている。
腹いせにたびたび街に例の変装をして出掛けているそうだ・・・。
まず、メルフィー。
俺は窓からある部屋を覗く。そこには、軽装のメルフィーがいた。
子供達が椅子に座って、机に向かっている。
そう・・・メルフィーは教師となった。
もともと頭が良かったので、教師として第二の人生をスタートさせた。
あとは、メルフィーの家が、教師ならうるさく言わないから・・・という理由もあったそうだ。
次はレイナ・・・俺は大きな広場に来た。
「せいっ!!」
「うあっ!!」
レイナが、除隊されなかった兵士と訓練をしている。
レイナの実直さと、気配りの効く性格が認められて、兵士たちの訓練の先生となった。
剣の腕も良くて、容姿端麗、さらには性格も良い・・・おかげで、兵士たちの間でファンクラブができたそうだ。
ファンクラブのモットーは、一生ついていきます、だとか。
「あ、啓太さん」
「よ、頑張ってるね」
「そうだ、久しぶりに、手合せしませんか?」
「・・・いいよ、やろうか」
兵士たちが期待の眼差しを向けてくる。
俺はどうやら、英雄としてヤケにヨイショされているようだ・・・。
期待に答えなければな。
「いくよ、レイナ」
「全力で行きます!!」
次は・・・え?どっちが勝ったかって?
そんなの俺に決まってるじゃないか。主人公の特権だよ。
俺は湖の墓に来た。新しい花を添える。
「姉さん・・・エクステルの人達がね、ちょっとずつ、カオストロに来るようになったんだ」
墓に語りかける。
そう・・・エクステルと人間の溝は、もうほとんどなくなっていた。
エクステルと人間のカップルもよくみかけている。
「人間の方も、仲良くしてて・・・姉さんの願った世界、実現したんだ。だから、報告しにきた」
俺はそのまま手をあわせた。
「じゃぁ・・・また来るよ」
俺はそう言い残して、次へ向かった・・・。
次はエスペリア。俺はある建物に入った。
そこには、たくさんのスピリットがいた。
そこで、教鞭を持っている女性・・・エスペリアだ。
医療関係を一手に引き受ける、医者を育成する場所だ。
そこで、エスペリアは医者の卵たちを育てている。
同時に良きレスティーナさんのアシスタントでもある・・・。
多忙だが、本人はとっても充実しているという。
次は、オルファ。
なぜだか急に身長がのびて、体も年齢相応になっていた。
大きくなったら美人になるというのはあながちウソではなかったようだ。
そのおかげで城下町に一度出ると、数百人の男に声をかけられるらしい。
変な男に捕まらなければいいけど・・・。
お菓子あげるよ〜、とか言われたら、喜んでついていきそうだしな・・・。
次は、エトランジェバカップル、岬と光陰だが・・・。
「何ナンパしてんのよこの節操無しーーーっ!!」
ピカッ!!
ドゴォォォオッ!!!
『ぎゃぁぁぁぁ!!!!』
まぁ、いつもどおりだ。光陰がナンパして、岬がそれを雷で止める。
その繰り返しだが、見ていて不思議とあきない。
二人の夫婦漫才はセンスがある・・・ということなのだろうか?
次はウルカ。
彼女はいま、自分探しをしているらしい。
悠人の言葉を聞いて、剣以外の生きる道を探そうと思ったそうだ。
最近は料理にハマっているようだ。
味見をする光陰は、毎回倒れては岬に雷で気付けをしてもらっている。
もしかしたら、ウルカはコックになるかもしれない・・・どうだろう?
他のスピリット達も、最近町へ出掛ける事が多い。
城下町に住んでいる人々も、スピリットに対する偏見や差別がなくなってきた・・・。
俺はシルビアの墓の前に来た。
「シルビア・・・」
俺は墓に白い花束を添える。
「現実になったんだ・・・君の描いていた世界が・・・いま、ここにあるんだ。君のおかげだよ・・・シルビア」
俺は両手をあわせて、目を閉じる。
「・・・またくるよ。そのときは、俺の武勇伝でも聞かせてあげる」
俺はそう言って、シルビアの墓に背を向けた・・・。
そういえば、ジパングはあまり変わっていない。
俺が遊びに行ったときは、いきなりエルーナに例の技をかけられたが。
バルパスは相変わらず豪快に笑っていたし、あそこはいつもエネルギッシュだった・・・。
(さて、と)
俺は高台へ行く。考え事をするには、あそこが一番だ・・・。
「・・・」
俺はベンチに腰掛けて、そこから見える風景を眺めていた・・・。
俺は、決断しなくちゃいけない。
カノンに聞かされた・・・
『エターナル』
カノンの言っていた事が戯言ではないことは、叶さんと倉橋に確認済みだ。
人間でありながら、人間を越える人間・・・とでも言えばいいのだろうか?
よくわからないが・・・カノンを持っている俺が、必要だと言われた。
実際、カノンと同じ位の・・・つまり、永遠神剣第一位は、ラグナロクとブラスト以外にも数本存在しているらしい。
だが、とりわけ強いのがカノンらしく、第○位(○には数が入る)という永遠神剣の中では最強らしい。
といっても、もうカノンは進化してしまったが。
アペリウスの剣を取り込んだ時に、カノンが変わったのを感じた。
名前は・・・
永遠神剣最上位『天使』。
愛称はカノンのままだが、感じる力は桁違いだった。
おそらく、そのおかげでブラックホールから助かったのだろう。
カノン・・・最強だっていうのは、ウソじゃなかったんだな・・・。
と言ったら怒られてしまった。
カノンは本当に、永遠神剣で最強の部類なのだ。
だからこそ、それを使える俺は、エターナルになってほしいのだそうだ。
大抵なら、エターナルになってから上位神剣(第三位〜第一位)と契約するらしいが・・・俺や悠人は仮契約みたいなものだそうだ。
だから力も本来の半分程度だった。
まぁ・・・仕方ない。
だが・・・問題なのはそこじゃない。
エターナルになると・・・俺の存在が、エターナル以外のみんなの中から消えてしまうらしいのだ。
更に、エターナルは永遠の時を生き続ける・・・倉橋なんか・・・言うと殺されるから言えないが、物凄い年齢らしい。
だが、それだけ生きてもあの容姿・・・。
そのうちの前者の条件が、俺を悩ませていた。
つまり・・・俺の存在がみんなから消えてしまうということ。
そういえば・・・俺だけでなく、悠人もエターナルに誘われていたな。
「はぁ・・・」
俺はついため息をついた。
確か、あいつはアセリアも一緒に行くとか言い張って、二人でエターナルになるんだっけ・・・。
(俺は・・・どうしようかな・・・)
エターナルになれば、メシフィアも俺の事を忘れる。
だったら・・・それが一番いいのかもしれない。
メシフィアには、この世界に残ってもらいたい気持ちが強かった。
これ以上、彼女を何かに巻き込むのはゴメンだったから・・・。
俺の気持ちで、彼女の存在までみんなから忘れ去られてしまうのは、すごく嫌だったから・・・。
でも、俺は逆に、エターナルになって、この世界だけでなく、他の世界も同じような平和を築いてほしかった・・・。
エターナルは二つあって、叶さんたちカオスエターナルと、アペリウスのいたロウエターナル・・・と、いってもアペリウス達はロウエターナルの中の異端者だったとか。
ロウエターナルは、世界をもとの姿に戻そうと、世界を破壊してしまうらしい。
だから、それを止めるのがカオスエターナル、というわけだ。
本当ならもっと込み入った事情があるそうだが、それはエターナルになれば教えてくれるそうだ。
だから・・・俺は、カオスエターナルになって、ロウエターナルを止めたい、という気持ちが強かった。
どこかの世界を壊されると知って、放っておきたくなかった。
俺の力が必要なら・・・力を貸したかった。
でも、俺はメシフィアに忘れ去られるのが嫌で、でも、メシフィアを巻き込みたくなくて・・・その堂々巡り。
いくら考えても、結論は出そうになかった。
でも・・・一つだけ、譲れない事があった。
それは、俺はエターナルになりたいという気持ち。
それだけは確かな物だった。
「・・・はぁ」
俺はまたため息をついた。気付くともう真っ暗だった。
相当の時間、俺は悩んでいたようだ。
「悩み事か?」
「うん・・・」
「・・・話してみろ」
「・・・メシフィア、なんでいる?」
俺は隣で、俺のことを見ていたメシフィアに疑問を投げ掛けた。
いつのまに・・・
「夕食の時間をすぎても、来ないからな。なんとなくここに来たら、いた」
「・・・そっか」
俺は夜空を見上げた。
星が輝いている・・・。
「で、何を悩んでいた?」
「・・・それは、言えない・・・」
「なぜだ?」
「・・・」
だって、言えばきっと君はこう言うだろう。
『私もついていく』・・・と。
そしたら、俺はきっとその言葉に甘えてしまう。
そして、その後君はきっと後悔する。
だから・・・言えない。
言えないんだ・・・。
「私にも言えない事なのか?」
「・・・ゴメン」
俺はただ謝った。
それしかできなかった・・・。
「・・・私はケイタの何なの?」
「・・・」
「一生のパートナーだって、誓い合ったじゃない」
「やめてくれ・・・」
それ以上言ったら・・・
「ケイタ・・・私は・・・」
「ダメだ!!それ以上・・・言わないでくれ・・・っ!言わないでくれよ・・・っ!!」
きっと俺は、崩れてしまう・・・。
甘えてしまう。
君のその笑顔に・・・言葉に・・・全てに、甘えてしまうだろう。
「頼むから・・・言わないでくれッ!」
そんな俺の、泣きながら出した声も無視して、メシフィアは言った。
「嫌よ。止めない。私は、ケイタの妻なのよ?一生愛するって、言ってくれたじゃない。私も、ケイタだけを愛していく。だから・・・全て、話して」
「・・・」
俺は観念して、全てを話した。
エターナルの事・・・全て。
なるべく感情を込めないように。
期待などしないように・・・。
「そう・・・」
「・・・」
俺はずっとうつむいて、地面を見ていた。
「・・・ケイタ」
「・・・なに?」
「・・・覚えてる?私に言った言葉」
「・・・いっぱいありすぎて、わからないよ」
「・・・そんなに不安なら、四六時中傍にいればいい・・・って」
「・・・!」
「あれは、ウソだったの?」
「・・・ウソじゃない。でも・・・今度は状況が違う」
今度メシフィアが俺の傍にいれば、メシフィアは全ての物を失う事になる・・・。
「・・・じゃぁ、私の言った言葉、覚えてる?」
「・・・それもありすぎてわからない」
「・・・私にはケイタしかいないの」
「・・・!!」
それは、回想の言葉を口にしたのではなく・・・改めて、俺に言った言葉だった。
「たしかに、エターナルになることで、私はたくさんの物を失うかもしれない。でも・・・それ以上に得るものがあるじゃない」
「・・・なに?」
俺はわからなくて聞いてしまった。
みんなに忘れられてしまう以上に、得るものとは何か知りたかった。
「あなた」
「・・・え?」
「ケイタよ。あなたと永遠に、一緒にいられるんでしょ?」
「・・・そんなの、ダメだよ・・・」
「私には、ケイタ以上に大切な物なんてない。言い換えれば、ケイタがいなくなれば私はダメになるだろうし・・・ケイタさえいれば、私は生きていける」
「・・・」
あまりにも大げさな表現だ・・・本当に・・・。
「それとも、ケイタは私だけじゃ満足できないの?」
「・・・だって、君から全てを奪うことになるんだぞ!?そんなの・・・俺は・・・っ!!」
耐えられる訳がないじゃないか!!!
大切な人の全て・・・俺の一言で奪ってしまって、俺はメシフィアにどんな顔をすればいいんだ!?
「・・・全てじゃないわ」
「え・・・?」
「あなたがいるじゃない。一番大切なあなたは・・・ずっと私の傍にいるじゃない」
「・・・」
「それとも、約束・・・破るつもり?」
「・・・え?」
「子供。平和な家庭・・・作ってくれるんでしょ?」
「あ・・・」
「男の子と女の子・・・一人ずつ、欲しいんじゃなかったっけ?」
「・・・」
俺は黙ってしまう。
そんなささやかな願いのために・・・彼女は・・・俺と来てくれるというのか・・・。
「もし、あなたがダメだって言っても、私は意地でもついていくから。あなたが、私を神剣から救い出してくれた時のように・・・絶対に、諦めないから」
「・・・もぅ・・・負け、か・・・」
俺は、メシフィアの瞳を見て悟った。
俺が心配してることなど気にもしない程・・・メシフィアの目は迷いがなかった。
真っすぐに、俺のことを見ていた。
「・・・後悔、しないか?」
「もちろん。私は、あなたの傍にいれば十分。だって・・・あなたといる時が、一番幸せなんだから」
そう言って、彼女は俺に微笑んだ。
いつみても綺麗な笑顔・・・だけど、今だけは特別に見えた。
「・・・メシフィア」
俺はメシフィアに向き合った。
彼女がこれだけ押してくれたんだ・・・。
ここで踏み切らないで・・・どうする!
「俺と一緒に来てほしい。そして・・・一緒に、エターナルになろう。二人で・・・ずっと生きていこう」
「はい・・・っ!!!」
メシフィアは返事をした。
朝日がオレ達を照らし始める・・・。
俺はメシフィアにキスをして、抱き締めた・・・。
「いいんですね?」
「ああ。な、アセリア?」
「ん・・・ユートと二人で決めた」
二人は一緒にうなずく。
「そっちも・・・いいんだね?」
叶さんに聞かれ、俺は一瞬メシフィアを見てしまう。
バシッ!!
ケツを叩かれた。
「は、はい!もちろんです!」
「私もです」
「ふふ・・・相変わらずのバカップルっぷりで」
「バじゃないです。失礼な」・・・
「今日子・・・光陰・・・すまないな。一緒に帰れなくなって」
オレ達四人はエターナル・・・だが、岬と光陰は、元の世界に帰ることとなった。
「悠人・・・」
「今日子・・・光陰の事、頼んだ」
「・・・光陰」
今日子は光陰を見上げた。
「いいぞ、いってこい」
何をするか悟った光陰は、パシッと今日子の背中を押した。
「・・・うん」
今日子は悠人に抱きついた。
「ぅ・・・悠・・・っ!」
「今日子・・・」
すぐに、涙が流れはじめ、それを押し殺した声が、その場に響く・・・。
悠人は、優しく今日子を抱き締めて、頭を撫でていた。
最後の別れ・・・なんだ、と俺は実感した・・・。
ここで別れれば・・・もうみんなは俺たちの事を覚えていない・・・。
「光陰・・・今日子の事、頼んだぜ・・・?」
「バカ野郎・・・当たり前だ・・・っ!!」
光陰がふっと悠人に背中を向ける。
「ぐ・・・っ!・・・くそっ・・・!止まんねぇ・・・っ!!」
光陰は肩を震わせて、腕で顔のあたりをこすっていた。
悠人もそれを見た途端、涙が流れだした・・・。
「く・・・っ!うぁ・・・っ・・・!」
・・・
今日子がすっと離れる。
「あたしは・・・もう大丈夫!だから・・・」
今日子の言いたいことはわかった。
悠人は妹に歩み寄っていく・・・。
「佳織・・・」
「お兄ちゃん・・・」
「ゴメンな・・・勝手に・・・決めちゃって」
「うぅん、いいの。だって、お兄ちゃんの一番やりたいことなんでしょ?」
「・・・ああ」
「だったら、わたしのことは気にしないで。私は・・・だいじょ・・・うぶ・・・だから・・・っ!」
佳織は途中から泣き始めてしまい、言葉が繋がらなかった。
「佳織・・・本当にゴメン・・・っ!」
悠人は佳織を抱き締める。今この時を噛み締めるかのように・・・
・・・つよく、優しく。
「佳織・・・っ!」
「お兄ちゃ・・・ん・・・!」
悠人の生きる意味の半分以上を占めていた妹との別れ・・・。
俺が悠人の立場になったら、踏み切れただろうか?
・・・無理だったと思う。だから・・・悠人は強いんだと思った。
「光陰と今日子の言うこと聞くんだぞ・・・?」
「うん・・・!」
「俺は・・・絶対に佳織の事を忘れないから・・・っ!!」
「うん・・・っ!」・・・
「アセリア・・・」
エスペリアは、真っ赤にした目でアセリアを見つめた。
「なんだ・・・これは・・・?これが・・・泣く、ということなのか・・・?」
アセリアの目から、涙が流れだした。
「そうです・・・っ!アセリア・・・っ!」
「アセリアお姉ちゃん・・・っ!パパの事・・・絶対に離しちゃダメだからねっ!?」
オルファがぐしゃぐしゃになった顔で言った。
「ん・・・約束、する・・・っ!」
「頑張ってください・・・アセリア殿・・・っ!」
ウルカは涙を溜めながらそう言った。
肩が震えて、涙がこぼれた・・・。
「ウルカも・・・元気で・・・」・・・
「メシフィア・・・」
「メルフィー・・・」
「啓太の事・・・しっかりね?」
「ああ。もちろん」
「メシフィア・・・っ!」
メルフィーはどばっと涙を流し始め、メシフィアに抱きついた。
「メルフィー・・・楽しかった」
「私も・・・私もに・・・決まってるじゃない・・・っ!」
固い絆で結ばれた二人・・・。
その別れは・・・いったいどれだけの決心が必要だったのだろうか?
メシフィアも辛いはずなのに・・・俺の背中を押してくれた。
だから・・・俺はそれに、一生をかけて応えたいと思う。
メシフィアは、メルフィーの震える背中を撫でた。
そうしているメシフィアの顔には、涙があふれていた・・・。
「啓太さん・・・今まで、ありがとうございました」
レイナは深々と俺に頭を下げた。
いつか言おうと思っていた事・・・。
今、言う。
今しか・・・言えないんだ。
もう・・・二度と次はやってこないのだから。
「レイナ・・・俺こそ、今まで付き合ってくれて、ありがとう。何度も助けられた」
「いえ・・・っ!私こそ・・・貴重な・・・経験を・・・っ!!」
俺は何も言わずに、レイナを抱き締めた。
そのまま俺の胸で泣き続けるレイナ・・・。
俺は、泣くことなんかないって思っていた。
だって、メシフィアとは一緒にいられるから・・・。
だけど・・・なぜか目が曇ってきた。
「あ、あれ・・・?くっ・・・!あは・・・っ!」
俺はそんな俺を笑いながら、いつのまにか泣いていた。
「ぐ・・・っ!うぁっ・・・う・・・ぁっ・・・!!」
俺は声をあげないように我慢するが、どうしても声が出てしまった・・・。
出ないはずがなかったのだ・・・。
今まで、生死をともにしてきた、大切な仲間との永遠の別れなのだから・・・!
「門が開きます」
落ち着いたオレ達は『門』とやらが開くのを待っていた。
とうとう・・・その時がきたようだ。
それは・・・みんなとの、永遠の別れ・・・。
光があらわれてきた・・・。
「・・・このあと開く門をくぐれば、光陰達は元の世界に帰れるんだな?」
「はい」
「悠人君達が心配しなくても、私がきちっと送ってあげるから」
叶さんはそう言った・・・。
オレ達はその光の前に立った。
アセリアと悠人が並んで門をくぐっていく・・・。
「悠人ッ!!」
「お兄ちゃん!」
「悠!!」
光陰達が悠人を呼ぶが、もう彼はふりかえらない。
もう、聞こえないのだ・・・。
「ぐっ・・・!悠人ぉぉぉぉっ!!」
悠人とアセリアの姿が光の中へ消えていく・・・。
「・・・メシフィア、行こう」
俺は手を差し出した。
「うん」
メシフィアはその手に自分の手を重ねた。
オレ達は同時に一歩踏み出す。
そう・・・エターナルへと。
オレ達の体が門の中へ入っていく・・・。
ふっと、後ろを振り向いた。
みんなが何かを叫んでいる。
でも・・・聞こえない。
それが寂しくて・・・
だから、俺は・・・人差し指と中指をくっつけて、デコに持っていってから、前に出した。
その瞬間、オレ達の視界は真っ白になった・・・。
俺はぎゅっとメシフィアの手を握り締めた。
もう、二度と離さないように・・・。
これから、終わりのない、永遠の旅が始まる。
もしかしたら・・・また、今回のような戦いが起こるかもしれない。
でも、きっとオレ達は勝つ。
絶対に・・・諦めない。
ロウエターナルは、元の世界の姿に戻すために、世界を破壊しているらしいけど・・・
元の姿に戻すことに、何の意味があるんだろう?
そんなことに、意味はない。
それが逆らえないようなヤツに命令されているのだったら・・・倒せるまで強くなればいいんだ。
諦めて、元に戻してしまおうなんてやり方、俺は絶対に認めない。
だって・・・そこに生きていた人達を、全て否定していることになるから。
その世界の可能性を消してしまう権利など、エターナルにありはしない・・・。
その世界の形は、その世界の人々の中から出てきた物であってほしい。
それこそが、本当の意味で、意味のある世界なのだから・・・。
そして、俺はきっとやってみせる。
どの世界も、戦いのない、平和な世界になっている・・・。
そんな未来を、実現させてみせる。
そして、それはエターナルなんかの力じゃなくて、その世界の人々の、行き着いた先の平和・・・そんな未来を俺は信じる・・・。
俺の視界が、物体を捉え始めてきた。
さぁ・・・ここからが、オレ達の新しい物語の始まり。
俺はメシフィアと一歩を踏み出した。
『Connecting・Fate』
〜Fin〜