「はぁ、はぁ」
俺は暗くてよくわからない道を、やみくもに進んだ。
何度も転んで、何度も足をひねったが、気にしてる場合じゃない。
もうknもmsiもほとんど俺の頭から消えかかっている・・・。
「ついた・・・!」
俺は例の扉に辿り着いた。
「でりゃぁぁぁっ!!」
ドガァァッ!!
俺は最初ここにきたときと同様に扉を蹴りあけた。
「・・・あ」
そこには・・・なにもなかった。
あったはずのカプセル・・・装飾が一切なくなっていた。
「どうなってんだ・・・?」
俺は壁を触ったりたたいたりして調べる。
が、何もない。
(・・・ダメ・・・なのか!?)
俺は目の前の絶望にめまいがした。
(msi・・・!もう・・・会えないのかよっ・・・!)・・・
オレ達は橋の前にある平野で待ち構えていた・・・。
『世界』がくるのを。
「なぁ悠人。おまえ、どーすんだよ?」
光陰が心配そうに言う。
たしかに、永遠神剣のない俺など、戦力にならないだろう。
「・・・剣ならあるよ」
叶さんがいきなり俺の前に立った。
「え?」
「でも、そいつを君が扱えるかはわからない。でも・・・君にしか扱えない」
まるで試すような言葉。
俺の返事を待つ叶さん。
「・・・」
「それでも・・・」
「俺は・・・ほしいです。彼を・・・世界を止める力が」
俺は答えた。
今、俺の心のなかにある思いを。
「・・・そう。なら、あなたに託すわ」
フッと笑って、悠人を見た。
そして・・・
ブズゥゥッ!!
「なっ・・・!」
叶さん以外の人全員が固まった。
叶さんの手が俺に食い込んでいた。
「さぁ、出てよ・・・我の導きで」
{・・・わかった}
叶さんがズブズブと手を抜いていく・・・。
その手には、一本の剣が握られていた・・・。
ブサァッ!
全部抜けきるが、俺に傷はない。
「これが、君の新しい力よ」
微笑みながら剣を差し出してくる。
その笑顔には、どこか安心させてくれるものがあった。
だから・・・俺は迷わず剣を握れた。
「・・・この剣が・・・」
{聖賢だ。よろしく頼むぞ}
「俺は高嶺悠人だ」
{世界・・・厄介な相手を敵にまわしたものだな}
「そう言わずに手伝ってくれ」
{・・・永遠神剣第二位、『聖賢』・・・言わずも手伝ってやるぞ}
「サンキュー」
オレ達は挨拶もそこそこに、気を張る・・・。
コォォォ・・・!!!!
空気が揺れる。
いつか感じた・・・この空気。
「来るか・・・」
{そうだな・・・}
「今度こそ・・・ケリをつけないと」
ザッザッ・・・!!
人が歩いてきた。
「ほぅ・・・聖賢か」
「瞬・・・いや、世界!」
「吠えるな。ちゃんとケリはつけてやるぞ」
「悠人さん、気をつけてください」
世界の強さがわかるのか、心配して俺に声をかけてくる時深。
「大丈夫だ時深・・・手は出さないでくれ」
俺は聖賢を構えた。
「今度はその聖賢を取り込んでやる!!」
「させねぇ・・・もう、俺は負けられないッ!!」
キィィンッ!!
キィンッ!
キキィィンッ!!
剣同士がぶつかると弾かれるのを利用して、流れるようにつぎつぎと攻撃を繰り出していく。
だが、全てがお互いを弾いていく。
「はぁぁぁっ!!」
「うおおぉぉぉ!!」
バギィィィッ!!
鈍い音がする。
(今だ・・・っ!!)
「聖賢!!」
聖賢がオーラを纏う。
俺はありったけ力を込めた。
「オーラフォトンビーム!!」
「!!」
ドゴォォォォッ!!!
ほぼゼロ距離で俺の攻撃を食らった世界は、かなりの距離を吹き飛ばされる。
「グォォォォ・・・」
「まだやるか・・・!」
あれだけの攻撃をくらっても、まだ立ち上がり剣を俺に向ける世界。
「・・・これでもくらえェェェェェッ!!!」
「俺は・・・負けないッ!!聖賢!全ての力を出してくれッ!!」
{!!}
俺は全ての力を解放する。
聖賢を振りかぶった。
「ウオオォォオ!」
「デヤァァァァッ!!」
ドゴォォォッ!!
ドガァァァァッ!!
あまりに大きいオーラの激突に、あたりが光で包まれる・・・。
だれもが目を閉じて、光が止むのを待つ。
コォォォォッ・・・!!
それが、二人の決着の音だった・・・。
「・・・瞬」
「・・・」
俺は動かなくなった瞬を見る。
体は少しずつマナへとかえる・・・。
世界は砕かれ、聖賢に吸い込まれた。
「・・・なんだろうな・・・あれだけ憎んでいたはずなのに・・・勝ったはずなのに・・・気持ち良くないな・・・」
「ユート」
「アセリア・・・」
「・・・弔ってやろう」
「・・・そうだな」・・・
立派な墓を作って、花を添えた。
(佳織にも・・・伝えなきゃな。そして・・・一緒にお参りにこよう)・・・
「・・・」
俺はその場で崩れていた。
もう・・・打つ手がない。
(・・・a、・・・n・・・)
俺はちゃんと、剣と大事な人を思い浮べているはずなのに、かすかにしか出てこない・・・。
きっと、あと数分でそのかすか、も消えるのだろう。
「・・・はぁ」
俺は天井を仰ぐ。
ゴツゴツした岩が突き出ている。
何もできないのが漠然と悔しかった。
俺はペンダントを見る。
もぅ・・・いつもらったかも覚えていない。
ただ、漠然と大事な物としか覚えていなかった・・・。
それが無償に悔しくて、涙がにじんだ・・・。
あれ?
「最後の・・・手段が・・・あるじゃないか!!」
俺はペンダントに念を送る。
俺はひたすらヤツの事だけを考えて祈った。
(・・ン、こい!俺はここだ!おまえと最初に会った場所だ!!)・・・
{!!}
カノンの意識に直接語りかけてくる声があった。
{これは・・・}
「ん?どうしたの?カノン」
メシフィアがカノンの様子に気付く。
あの時以来、仮契約みたいな感じでメシフィアがカノンをあずかっていた。
{・・・メシフィア、聞こえないか?}
「え?」
『・・・った・・だ!!』
「かすかに何か聞こえる・・・」
メシフィアとカノンはその声に意識を集中させる・・・
俺はもう一度アイツに向かって呼びかけた。
(こぉら!!バカヤロウ!!聞こえないのか!?俺はおまえと会った場所にいるって言ってんだろうが!!)・・・
『・・・!・・・ロウ!!・・・えないのか!?・は・・えと会った・・・にいる・・・んだろうが!!』
{この声は・・・!}
「ケイタ・・・なのか?」
メシフィアは驚きに震えた。
カノンはすぐ返事をした。
{・・・どこにいる!?}・・・
『・・・にいる!?』
(聞こえた!繋がってるんだ・・・!俺は、おまえと出会った場所にいる!!はやくこい!!)
俺はわずかな可能性をこじ開けるように呼び掛ける。
『俺は、おまえと出会った場所にいる!!はやくこい!!』
{あそこだな・・・ヨシ。さぁ、呼べ!}
カノンはあの場所に意識を集中させていく・・・。
『さぁ、呼べッ!』
(よぅし・・・ン!!永遠神剣第一位・・・『・・・ぅ』よ!)
グォォォォ・・・!!
俺の近くに白い空間があらわれた。
俺はそこに手を入れる・・・。
指が何かに触れた。
「うぉぉぉりゃぁぁぁ!!」
ズバァァッ!!
俺は勢い良く引き抜いた。
その瞬間、今までモヤがかかって、消えかかっていた記憶が全て戻ってきた。
「カノン!!」
{啓太!このバカヤロウ!}
「バカヤロウはてめーだ!俺をこんな世界に飛ばしやがって」
{この世界は本当に・・・?}
「・・・ああ。俺のいた世界、もしくはパラレルワールドってやつみたいだな」
{そうか・・・いいのか?}
カノンが突然声のトーンを下げた。
「・・・戻っていいのか、ってこと?」
そうだ・・・
この世界なら、苦しむこともないだろうな・・・。
でも、俺の答えなどとっくに決まっている。
「・・・そんなことないさ」
俺は笑ってこたえた。
{なに?}
「・・・この世界にはメシフィアがいないからな」
{ふっ・・・そんなことだろうと思った}
「よし、んじゃ・・・戻ろう」
{・・・そうだな}
(梢・・・父さん・・・友達A・・・じゃぁな)
俺はカノンの光に包まれた・・・。
二度と戻ってこないであろう・・・俺の世界に別れを告げた。
「随分と殺風景な所に出たね」
{どうやら、全員帰ってしまったようだな}
オレ達は平野にいた。
しずかに風が吹く・・・。
「ん・・・?」
俺は一つの墓をみつける・・・。
『秋月瞬、ここに眠る』
「そっか。悠人・・・勝ったのか」
{ああ}
俺は白い花を摘む。
悠人が添えたであろう花に、並べるようにして置く。
「俺にはこんなことしかできねーけど・・・安らかに眠ってくれ」
俺は両手を合わせた。
{・・・啓太}
「うん?」
{覚えているか・・・?}
「・・・」
俺は、もう一つ・・・墓参りに行かなければいけない。
俺は・・・湖を訪れた。
そこには、一つの簡素なお墓がある・・・。
『アエリア・S・オーカワ、ここに眠る』
とても幼かった・・・でも、とても大きかった姉の墓に白い花を添えた。
「う・・・く・・・っ!姉・・・さん・・・」
添えた花を見た途端に涙が溢れる。
姉さんの笑顔、温かい手、散っていく白い羽・・・
それらが一気に俺の中で溢れだす。
{啓太・・・}
「う・・・あっ!ずっ・・・俺、もっと・・・がんばるよ。そんで・・・」
俺は涙を拭った。ここで止まれない・・・。
あと少し・・・もう、俺は止まらない。
「アペリウス倒して・・・もう、誰にもこんな想いをさせない世界を作ってみせる。だから・・・見ててくれよ。姉さんが夢見た・・・エクステルと人間が手を取り合う姿・・・実現させてみせる」
俺は墓を見据えた後、陽の光を反射する、湖の水面を見て・・・歩きだした。
これが・・・全てが終わりへと向かう道だ。
もう・・・迷わない。
アペリウスを討って・・・全てを終わりにするんだ・・・。
「カノン、帰ろう。みんなのところへ」
{ああ。そうしようか}
俺はカノンの青い玉に触れ、カオストロ城をイメージした。
ブゥゥンッ!!
俺の体は湖から消えた・・・。
「・・・啓太よ、よく帰ってまいった」
俺は王にあいさつした。
すっかりこういう習慣にも慣れてしまった。
「これであとはアペリウスを残すのみじゃな」
「ええ。それで、戦争は終わります」
「正直、おぬしらがここまでやるとは思っていなかった。そうとわかっていれば、あんな作戦を取らなくても済んだのだ」
俺は王の言葉にピクリときた。
「・・・あんな作戦とは、敵と通じてオレ達を殺そうという作戦ですか?」
「・・・ん?何のことだ?」
あくまでトボける王様。
もう、既にわかりきっている・・・。
証拠がなければ・・・アンタが、王にふさわしいかどうかを気付かせるだけだ。
「正直に言ってください。そうしなければ・・・」
俺は静かにカノンに手をかける。
王とも・・・そろそろケリをつけないといけない。
「私を斬るか?」
「・・・正直に言わなければ・・・ですが。言っても、おそらく牢獄へ行きますけどね」
「ふわっはっは。馬鹿者がッ!!おぬしら、啓太を捕まえよ!!」
王は側近たちに命令する。
だが・・・誰も動かない。
俺も激しい強制力に動けないが。
これが悠人が国のために戦わざるをえなかった、王族に逆らえない理由か・・・!
「な、なぜだ・・・?なぜ動かない!?」
「俺に殺されるのが恐いからですよ」
「おぬしらの命は私を守るためにあるのだぞ!?なんのために高い金を払っていると思っているんだ!?」
王は叫ぶ。
だが、それでも誰も動かない。
「まだわからないんですか・・・!!」
「うっ・・・!」
王は俺の気迫に押される。
「あなたは、自分の命を賭けるほどの価値はないと思われているんですよ・・・!なぜかって?わからないですか・・・!!簡単に大量殺人をしようとし、部下が信頼できないから敵と内通して殺させようとする。そんな作戦を平気な顔でできるあなたに!一人分の・・・自分の命を賭ける程の価値があると思うんですかッ!!」
「っ!!」
「だから・・・あなたは見捨てられたんですよ。たった今・・・この国の全ての人からね。その王座・・・おりてもらいますッ!!」
俺はカノンを王に向ける。
カノンの強制力が止んだ・・・。
つまり・・・アイツを王と認めなくなったということ。
「おぬしが王になるというのか!?ただのクーデターではないかっ!!」
「俺はそんなに偉い人間じゃぁないです。あなたなんかより・・・適正な人がいるじゃないですか。人間として・・・王として相応しい女性が」
「まさか・・・!」
ギィィィッ・・・
トビラが開くにつれて、王の口が開いていく・・・。
そこに立っていた人は・・・元エレキクルの王女・・・レスティーナだった。
ウルカに連れられて俺の隣にくる。
「さぁ、王座を交替していただけますね?」
「・・・くっ」
王は懐からナイフを取り出した。
「うああああっ!!」
走りにくい衣裳でレスティーナに向かっていく。
キィィンッ!!
「!?」
「手前がいるかぎり、レスティーナ殿には触れさせませぬ」
ウルカの剣が、王のナイフを弾いていた。
王はヘナヘナと床に座り込む・・・。
この瞬間、新しい国王が誕生した。
「レスティーナさんが女王か・・・なんだか似合ってますね」
「そ、そうですか・・・?」
照れ隠しなのか、モジモジとするレスティーナさん。
「でも・・・よく、こんな無茶な事引き受けてくれましたね?」
「・・・正直、最初は迷いました。でも・・・ユート・・・が励ましてくれて・・・」
「・・・むふふ」
俺は嫌ぁな笑いをする。
(そういうコトか・・・)
「な、なんですか?」
「いやいや。それでは、これからこの国のコト、よろしくお願いします。レスティーナ『女王』」
「・・・はい!」
その返事は、女王としての自覚たっぷりだった。
俺はそれを感じて、この人なら、この国を任せられる・・・と思った。
「・・・」
俺は部屋でボーッとしていた。
やっぱり・・・俺はこのベッドが一番合うな。
ダダダダッ!!
「ん?なんだ・・・?」
バタンッ!!
いきなりドアが壊れそうな勢いで開いた。
入ってきたのは・・・
「ぐはっ!」
「ケイタッ!!」
メシフィアだった。
本当に・・・甘えん坊になったな、オイ。
その勢いを殺さずに俺を押し倒してくる。
「良かった・・・良かった・・・!」
既に目には涙がたまっているメシフィア。
「前に言っただろ?何らかで別れてしまっても、俺は絶対に君を捜し出すって。ちゃんと、かえってきたさ」
「うん・・・本当に・・・ちょっと目を離すとどこかに消えて・・・私の身にもなってよ!」
「ゴメンって。俺だって別に好きで離れてるわけじゃねぇんだしさ・・・。それに・・・今回のお別れは、いろんな意味で・・・必要だったから」
「え・・・?」
そう・・・元いた世界は、平和で・・・穏やかで・・・温かくて・・・そこには、とても強い、惹き付ける力がある。
でも・・・俺は、もう戻らないって決めたんだ。
メシフィアと一緒に歩いていく・・・どこで生きていても、メシフィアがいなければ意味がない・・・。
そのことを再認識するためにも、今回の別れは意味があったのだろう。
「メシフィア」
「ん・・・?」
「久しぶりに言うよ。愛してる。どの世界の・・・誰よりも」
「・・・私も・・・愛してる」
オレ達は自然にキスをした。
「ん・・・?」
「え?どしたの?」
すっと離れて難しい顔をするメシフィア。
「女の匂いがする・・・」
「げっ・・・」
梢の時か・・・!
しまった・・・!
まるで浮気がバレたような気分・・・
いや!浮気じゃないよ!?
「ケイタ?」
「あ、いえ、これは・・・別にそんな怪しいコトじゃなくて・・・」
「・・・浮気?」
「違うって!」
「そうか、ならいい」
再びピタッとくっつくメシフィア。
(あ、あれ?)
俺は意外な反応に驚いた。
今までなら、『蒼天』の力を借りて斬られていてもおかしくない。
「どうしたの?」
「ケイタが違うと言っているなら違う。ケイタの言葉が、私の全てだ」
「・・・」
俺は口をポカンと開けたまま固まってしまう。
その迷いのない信じる強さは・・・どこで手に入れたのだろうか。
人間であるかぎり、一度生まれた疑問を完全に消すことはできない・・・。
でも、彼女はいま、目の前でそれをやった。
(まったく・・・俺にはもったいないくらいの女性だよな・・・)
俺はメシフィアの後ろに腕を回しながらそう思った。
俺を悩ませる女性は、俺の腕の中ですごく幸せそうな顔をして、目を閉じていた・・・。
オレ達は食堂に集まっていた。
そこはかとなく緊張感のある雰囲気・・・これから、おそらく最後になるだろう作戦会議が始まる。
いや・・・最後にするための作戦会議だ。
「先日、悠人が秋月を倒したのは覚えているな?だから、相手はとうとう・・・アペリウスのみとなった」
「・・・」
いつもなら雑談や苦笑があるはずだが、今回はない。
「とうとう、全てに決着がつくときがきた。アレスティナも総力でかかってくる。だけど・・・オレ達は決して負けられない。それぞれ願いを託して、散っていった命のためにも・・・そして、なにより全世界のためにも、オレ達は負けられない。この一戦に、全世界の運命がかかっていると言ってもいい・・・」
俺はそこでみんなを見まわした。
誰もが俺の言葉を真剣に聞いてくれている。それが頼もしかった。
「オレ達が負ければ、全世界の運命が、全て壊れる。アペリウスの手によって・・・。最終作戦は、全員をアレスティナに送り込んで、城を落とし、アペリウスを討つ。まず城の門をあけたあと、中に入った別の班を守るために、外から来るヤツらを抑えるチーム。それが、叶さん、倉橋。中に入ってすぐに出てくるヤツらをひきつける班が、レイナ、メルフィー、オルファ。別働隊として、裏側から侵入して中で合流する班が、岬、光陰、ウルカ。中で、城の重要部を落とす班が、悠人、アセリア、エスペリア。そして・・・アペリウスを討つ班が、俺とメシフィア。以上だ。何か質問ある?」
「はいはい」
「はい、メルフィー」
「アペリウスを討つのがアンタとメシフィアだけって危なくない?」
当然出てくるであろう疑問の答えはとっくに用意してある。
「・・・中の班は仕事が終わりしだい、俺たちの班に入ってもらうから実際は二人では戦わないかな?」
「なるほど」
「他に質問は?」
誰も声を出さない。
「よし、ないみたいだね。出発は明日の八時。作戦開始はアレスティナの領に入ったらだ。一気に駆け抜けて城を落とす」
そこで、俺は言葉を止めた。
前々から・・・言いたい事があった。
それは、今こそ言うべきだろう。
「・・・みんなには、こんな戦いに巻き込んでしまって、本当に悪いと思ってる」
「・・・」
「だけど・・・もう少しで、その戦いも終わる。だから・・・最後に、みんなの力を貸してくれ。みんなの力で・・・この不毛な戦争を終わらせよう。んで・・・祝勝会でもパァーッとやろうよ!」
「何水臭いこといってんの?ここまできたら、当たり前でしょ?」
メルフィーがため息混じりにこたえた。
「そうですよ。ちゃんとみんなで戻ってきて、勝利を祝いましょう」
レイナが笑顔で答える・・・。
「では、勝利を祈って・・・かんぱーい!!」
「乾杯!!」
オレ達はグラスを合わせた。
気合いを入れるためのパーティー、のようだ。
レスティーナ王女なども参加している。
もしかしたら・・・こうやってみんなで揃えるのが最後かもしれないから・・・という気持ちもあったのかもしれない。
「・・・」
俺は外に出た。行く所がある・・・。
俺は一つの王家の墓に来た。
「シルビア・・・もうすぐだ。もうすぐで戦争も終わるよ」
俺は新しく持ってきた花を添えた。
「エクステルの人達も、少しずつだけど人間を許せるようになってきてる・・・君が願ってた、平和な世界が実現しつつあるんだ」
俺は語りかける。
もちろん、返事はない。
だから俺は続ける。
「次にここにくるときは、きっと平和な世界が実現してるはずだ。だから・・・待ってろ。必ずいい報せを持ってきてやるからな」
そして俺は両手を合わせて、城へと帰った・・・。
「あ、お〜い・・・」
「ん?」
ヨロヨロ駆け寄ってくるメシフィア。
その千鳥足に不安を覚える。
「酔ってるの?」
「酔ってましぇんよ〜。ドコいっへたほ〜?」
明らかに酔っている。なにより酒臭い。
「ちょっとシルビアのトコに」
「むぅ・・・わはしとひうものがはりはがら、ほかのおんはのほころにひくなんて!」
なぜかボコボコ殴ってくるメシフィア。
もう言葉が理解できない。
「あの、メシフィア。言ってることが全然わからないんだけど」
「ひらばっくれはいで!!わはしの気持ちほしってて、もへあそんでふのね!?はいてーよ!!」
なぜか今度は泣きだしてしまうメシフィア。
(泣き上戸かよ・・・勘弁してくれ。何を言えばいいのかもわからねぇよ・・・う!?)
気付けば、誰もが俺を蔑むような視線で見ていた。
(ん?悠人が・・・あ、アセリアもいない。ははぁん・・・?じゃなくて、今はこいつをなんとかしないと)
「メシフィア?泣き止んでくれって」
俺はしゃがんで泣いてるメシフィアの背中を撫でる。
「いひひ〜?」
「ん?」
突然泣き止み、怪しい笑いをするメシフィア。
フッ・・・
「!?」
気付いたときにはもう遅かった。
足をひっかけられ倒され、メシフィアが上に乗った。
マウンドポジション・・・!!
トラウマがよみがえる。
「な、なにをするつもりだ・・・?」
「他のおんはほトコへいったしかへし!」
メシフィアがテーブルの上にあった酒を一本手に取る。
(い、イヤな予感・・・!)
俺は瞬時に口を閉じた。
ガバッ!
「ごっごご!?」
遠慮なく俺の口に指を入れてこじ開けるメシフィア。
ドゴッ!!
「〜〜!!」
ドクドクドク・・・
俺の口のなかに容赦なく入ってくる酒。
(ま・・・マズイ・・・もうだめ!?)
ボガハッ!!
飲み込む速度の方が遅くて、酒が口の中から溢れて爆発した。
「ごぇっ!?ごほっ・・・ぐっ・・・し、死ぬかと思った・・・」
顔にいっぱい酒がかかった。
(うぅ・・・臭い)
「どうは!ほもいしったか!!」
なんだか胸を張っているメシフィア。
何が言いたいんだかわからないから、何を威張っているのかもわからない。
「ぅぅ・・・酔いざまし」
俺は涼しい空気を求めて再び外に出る。
「ん?」
俺はすぐに身を隠す。
(誰かいたぞ・・・?あれは・・・悠人とアセリアか)・・・
「騒がしいなぁ」
「ん・・・」
二人して夜空を見上げる。
「なぁアセリア」
「ん?なんだ、ユート?」
「今度、二人で川でも行かないか?」
「・・・どうした?急に」
「ん・・・なんとなく、かな」
「変なユートだ、でも、いいぞ?」
「そう、良かった」
「・・・話があったんじゃないのか?」
「ん、あぁ・・・」
悠人は顔を赤くする。
(むふふ・・・とうとう決意を固めたわけか)
{だから俺の能力でのぞくなっ!!}
(うるさいよカノン。いいとこなんだよ)・・・
「なぁアセリア」
「ん・・・?」
「俺はさ・・・佳織が捕まって、戦わせられて・・・いろんな思いをしたけどさ」
「・・・」
「一人だったら、きっとここまで生き抜けなかったんだろうなって思う」
「・・・そんなことない。ユートの力だ」
「そうじゃないんだ。だから・・・えと・・・」
(オイ、ヘタレ!そこまで言って止めるなッ!!)
{のぞくなと・・・言ってるだろうが!!}
俺の視界がブラックアウトした。
(!!カノン!てめっ!!)・・・
「・・・だったら、私もそうだ」
「・・・え?」
「私も・・・ユートと出会う前の私だったら、きっと勝ち抜けなかった」
「アセリア・・・」
「・・・ユート、ユートは戦いが終わったら、どうするんだ?」
「・・・佳織をいつまでもこの世界に止めておきたくはないし・・・やっぱりハイペリアに返してあげたい。啓太の話だと、まだ諦めるのは早いみたいだし」
「・・・ユートは?」
「え?」
「ユートは、どうするんだ?」
「俺・・・?」
アセリアの目があまりにも真剣なので、ちょっと考えてみる。
「・・・俺は、やっぱり帰りたい・・・かな。たぶん、今日子も光陰もそうだろうし」
「・・・そうか」
寂しそうに夜空を見上げるアセリア。
「・・・ユート」
「うん?」
「私もついていってはダメか?」
「・・・えぇ!?」
間抜けな声をだしてしまう悠人。
「アセリアが、ハイペリアに?」
「・・・ユートは、私が傍にいては迷惑か?」
「・・・そんなことない。でも、そしたらエスペリア達と別れることになるんだぞ?いいのか?」
「いい。それでも、私はユートと一緒にいたい、そう思っている」
「・・・なら、俺からお願いするよ。もし、元の世界に帰れる時がきたら・・・一緒に来てくれ。その時は・・・戦友じゃなくて、俺の大切な・・・恋人として」
悠人はアセリアを見据えてそう言った。
「!!」
「一緒に、来てほしいんだ。どうかな・・・?」
「・・・いいのか?」
「いいんだ。誰よりも、アセリアにお願いしたい」
「・・・ん」
ぶっきらぼうな返事。
でも、顔はかなり赤かった。
「そっか。良かった・・・」
「ん・・・」
「!?」
悠人が安心して深呼吸した時に、アセリアがくっと背伸びして、キスをした。
完璧に不意打ちだった悠人は真っ赤になる。
「嫌だったか?」
「い、いや!そんなことないけど・・・」
「私もだ。キスとは、こんなにも気持ちいい物だったのだな」
「・・・あはは」・・・
(カノン、良かったな)
{・・・ああ}
(どうした?不機嫌だな?)
{なんで俺はこんなヤツと契約してしまったのかと後悔していたところだ}
(何言ってるの。俺がいなくちゃ力全部出せないくせに)
{黙れ。ちょっと逆らっただけで、火あぶりにするヤツと契約してしまったのが俺の運の尽きだったのかもしれんな・・・本来、剣と契約者は対等なはずなのに・・・}
(何言ってるんだ、十分対等だろう?)
{・・・とてもそうは思えない}
カノンは『誰か』に焦がされた刀身のコトを、恨みがましく啓太に愚痴っていた。