「啓太さん!」
「んあ・・・?」
真夜中に叩き起こされた。
「どしたの?シャルティ?」
「こ、これを・・・」
「ん?」
俺は手紙を読む。
『カクインは頂いた。返してほしくば、高台に来い。裏切り者のシャルティへ』
「・・・誘拐!?」
俺は一気に眠気が吹っ飛んだ。
「ど、どうしたらいいんですか!?」
弟がさらわれたとあって、涙目で訴えてくるシャルティ。
「シャルティが裏切ったから・・・カクインをさらったのか!」
「弟が・・・!」
「・・・とりあえず、行くしかない」
「え?でも何があるか・・・」
「もしかしたら、グレイみたいな強いヤツかもね・・・でも・・・君がカクインを大切にしているのを利用するのは、許さない」
「・・・!」
その言葉に目を見開くシャルティ。
「君はここで待ってて」
「啓太さん・・・よろしくお願いします」
「・・・任せて。いくぞ、カノン」
{ああ}・・・
「しかし、どうやってカオストロの城に侵入できたんだろう?」
{さあな・・・}
「どした?乗り気じゃないな」
カノンの低い声に違和感を覚えた。
{・・・どうも、この事件・・・臭すぎる}
「え?」
{なぜいきなりこんな事件を起こしたのだろうか?それに、カクインをさらえたなら、シャルティを殺すことだってできたはず}
「・・・殺すつもりはなくて、苦しめたかったとか。ホラ、グレイとかそんな感じだったじゃん」
{・・・すごく、イヤな予感がする。気をつけろ}
カノンの緊張した声に、気を引き締める。
「・・・了解」・・・
「・・・さて、来たんだけど・・・どこにいるんだ?」
{・・・やはり、そういうことだったか・・・!}
「え?」
現れたのは、剣を持ったカクイン・・・剣の気迫が物凄い。
永遠神剣か!
「まさか・・・自作自演?」
{そんなカワイイものじゃないさ・・・後ろをみろ}
「なっ・・・ウソ、だろ・・・?」
「ごめんなさい・・・啓太さん」
シャルティがいた。もちろん・・・手に永遠神剣を持って。
(まさか・・・本当に・・・!?)
俺はもう誰もがわかるこの事態を、頭のどこかで否定していた。
「それと、もう一人・・・ゲストが来る予定だ」
「なんで・・・なんでこんなことを?」
「・・・ボクは、アレスティナ諜報部隊長、『犠牲』のカクイン」
「私は・・・アレスティナ偵察部隊長・・・『困惑』のシャルティ」
二人が自己紹介した。
俺はある程度予想していたが、それでも口が開いたままだった。
「アレスティナ・・・?」
「アンタたちがお人好しで良かった。美味しいエサをちらつかせたら、簡単に信じてくれた」
「・・・今までのは・・・・・・ウソ・・・だったのか?」
「ところどころ、本物をちりばめておきました。ウソをウソと見抜かれないコツは、大きなウソの中に小さな真実を入れておくこと、啓太さん。あなたを殺して・・・カノンを手に入れるためのね」
「私たちは本当の姉弟でもない。ただ、あれは演技をしていただけです」
「・・・あれが・・・ウソ」
俺の頭には、今までの二人が思い出された。
まるで流れるかのようにどんどん出てくる。二人の笑顔・・・会話・・・。
「・・・」
「本当は、それだけじゃありませんけどね」
「え?」
「ホラ、もう一人・・・ゲストが来ました」
「・・・メシフィア?」
「ケイタ?何をしてるんだ?」
メシフィア・・・まさか、もう一人のゲストって・・・。
「あなたの次に強い彼女も、目標の一人・・・ですよ」
「・・・何をするんだ?」
俺はカクインを睨み付ける。彼女に何かしたらタダではおかない。
「別に何もしません。ボクは・・・ね。さぁ、シャルティ」
「・・・」
パスッ・・・
「・・・は?」
「・・・!!」
なぜか俺に抱きついてきたシャルティ。
俺は急いでどかそうと腕に力を入れる・・・。
なぜだか、俺の腕はピクリともしなかった。
(おい、カノン!なんで俺の体は・・・!)
{バカヤロウが・・・!!地面をよく見ろ!}
地面には、俺を囲うように変な陣が光っていた。
(・・・なに、この魔法陣・・・)
{目標がそこに入ると、一定時間動けなくする呪縛だ・・・だからあれほど気をつけろと言ったんだ!!}
(くっ・・・!)
「け、ケイタ・・・?」
「メシフィア・・・」
悲しい顔をしているメシフィアに、俺は何を言えばいいのかわからない。
だけど、何か言わなくてはいけない・・・!
「メシフィア!えっと・・・違うんだ!これは・・・その・・・ハメられたんだ!」
まるで言い訳がましい言葉。でもそれしか思い浮ばない。
「啓太さん・・・」
「シャルティ・・・!何をするつもりだ・・・!!」
俺は怒りの目線をぶつける。が、そんなものを気にしないでいるシャルティ。
「くそっ・・・動いてくれ・・・!俺の体・・・!!」
{・・・啓太}
「え?」
{おまえの・・・負けだ}
「・・・!?」
俺の目の前に、いつのまにかシャルティの顔があった。
俺の唇にやわらかい感触・・・キス・・・だった。
今までで、最悪の・・・。
「愛しています・・・。啓太さん」
シャルティはそう言った・・・。
「!!ケイタ・・・」
メシフィアの目から、一筋の涙が流れたと同時に光が消えていく・・・。
「何しやがるっ!!」
俺の顔が熱くなっているのがわかる。もちろん、照れではなく・・・怒りで。
「これで・・・メシフィアさんも終わりですね」
「・・・メシフィア・・・あっ!!」
メシフィアの剣が・・・変わっていた。
黒く・・・まがまがしいものに。
「カノン!」
{そうだ・・・!この二人の狙いは・・・これだったんだよ!}
「永遠神剣に・・・メシフィアを取り込ませるつもりだったのか・・・!!」
「ええ。あなたと彼女の心の結びつきは、異様に固かった。そして、それが彼女が永遠神剣第二位を制御できる力でもあった。だから、そこに揺さぶりを入れて・・・あなたに不信感を抱かせた。遊びのレベルですよ」
クックッと笑うカクイン。
「貴様ッ・・・!!」
「そして、私がこうして、あなたにモーションをかけるだけで、彼女は崩れたんです。人の心を利用することが、一番楽に勝てますからね」
「シャルティ・・・!!」
「そして、彼女にあなたを殺させて、カノンを持ちかえれば、あっという間に全てがおわります」
俺はとてもじゃないが、表せない程の怒りに包まれていた。
・・・だけど、その中心で、一点だけ冷めた部分がある・・・。
「・・・」
「どうしました?」
「シャルティ・・・おまえの・・・カクインに対する気持ちも・・・ウソだったのか?」
俺は一つだけ聞いた。
「!!・・・そうです」
一瞬・・・シャルティの顔がひきつった。
やっぱり・・・。
「カクイン・・・おまえもか?」
「・・・」
「・・・そうか」
「さて、終わりにしましょうか。メシフィア、やれ」
「・・・」
「メシフィア・・・!」
メシフィアが蒼天を突きの態勢で持ってきた。
「メシフィアを止める方法は?」
{・・・永遠神剣を砕くか、殺すかだ}
「・・・」
長年の(実際そうでもないが)付き合いから、それだけでないことは声でわかった。
だから、俺はもう少し黙って待つ。
{もう一つ・・・彼女が自分で自分を取り戻したい、と思うようにさせることだ。まぁ、それには気絶させないといけないが}
「わかった」
「呪縛は解けないはずだ。何ができる?」
「おまえらを倒す事ができるさ・・・!」
バリィィィンッ!
「なっ・・・呪縛が!」
俺はカノンを構えた。
「メシフィア・・・ごめん。メシフィア・・・!メシフィアァァァァッッッ!!!!!」
「!?」
ズバァァァッ!
ドサッ・・・
メシフィアの体のあちこちから鮮血が吹きあがると、地面に倒れた・・・。
「・・・カノン、メシフィアの体を拘束して」
{ああ}
メシフィアの体が光に包まれた。
「はっ・・・自分の妻を斬ったか!」
「・・・」
俺は両手を見た。返り血を浴びて、少し赤くなっていた。
震える手から、血がしたたり落ちる・・・。
「啓太さん・・・」
「シャルティ・・・君は・・・全てウソをついたのか?」
「・・・」
「俺は・・・そうは思えない。君の、カクインに対する笑顔・・・とても、作り物には思えなかった」
「!!」
「カクインもだ。君たちは本当は・・・」
「うるさいっ!!」
カクインが怒鳴って、俺の声を止めた。
「ボクたちにそんな感情はいらない。そんな感情なんか、おまえらみたいになるだけなんだ!」
「・・・」
「カクイン・・・私は・・・」
シャルティが苦しそうに声を出す。
今まで抑えこんでいた感情が・・・想いが溢れてきているのだろう。
「シャルティ!それ以上言うなッ!!」
「でも・・・もう・・・我慢できないよ・・・!」
悲痛な顔をして訴えるシャルティ。
「うるさい・・・ボクたちは・・・そんな感情を捨てると誓ったはずだ!アペリウス様の前で!」
それを否定するように荒々しく叫ぶカクイン。
「・・・」
見ていて・・・とても悲しかった。そんなことをさせたアペリウスを恨む。
「そんな感情はいらない。作戦を進める中で邪魔になるだけだ!持っていれば相手につけこまれるだけだ!今そこで、自分の妻を斬った男のように!!」
俺のことを指差すカクイン。目尻には涙が溜まっている・・・。
「・・・」
「でも・・・!」
「えぇい!君ももう邪魔ダッ!」
ビビビビッ!
「きゃぁぁぁっ!!」
突然シャルティが絶叫した。
「!!何してるんだ!?カクイン!?」
「もう、こんな女いらない・・・!いらねぇんだよ!!」
「ああああっ!!!」
シャルティは絶叫すると、いきなり黙った。
「何をしたんだ・・・?」
「彼女の耳に、ピアスがあるだろう?あれは、洗脳器具さ」
「洗脳・・・まさか!」
「シャルティ、こいつを殺せ」
「・・・」
コクッと頷くと、困惑を持って俺に襲いかかってきた。
「くっ・・・!」
キィンッ!
バキィィィッ!
剣の筋に迷いがない・・・!
「そうだ!やれ!やるんだシャルティ!!」
「外道が・・・ッ!!」
{啓太!迷っていると斬られるぞ!}
「だって・・・!シャルティは・・・!」
{そうかもしれないが・・・!}
カノンもわかっているようだ。彼女がどれだけ悲しいのか・・・。
「俺は・・・殺せないよ・・・!彼女だけは・・・!だって・・・幸せになってほしいじゃないか!!カクイン!貴様は彼女の気持ちを裏切るのか!!」
「気持ち?そんなもの・・・とおっくにドブに捨ててきたさ」
シレッと言い切るカクイン。
(もう・・・ダメなのか・・・戻れないんだな・・・)
俺は目を閉じて、覚悟を決めた。
「シャルティ・・・」
「・・・」
無表情に俺を斬ろうと剣を振るうシャルティ。
「カノン・・・」
{ダメだ・・・いきなり強力な洗脳をくらったせいで・・・もう、彼女の精神は・・・戻らない・・・!}
「・・・」
俺は、彼女が見せた笑顔を思い出す。
何かとカクインを気にして・・・一喜一憂して・・・彼の事を話す彼女は、一番輝いていた。
それだけ・・・カクインを・・・愛していた!
「なんで・・・なんでこうなるんだよ・・・っ!!」
{啓太・・・}
「シャルティ!」
ピクッ!
「カクインの事・・・好きか?」
「・・・」
「・・・そうか。なら・・・終わりにしてやる」
「!!シャルティ?なぜ動かない?」
俺はカノンを構えた。
「ハァァァァッ!!!」
バキィィィンッ!!
パラパラッ・・・
カノンで困惑を砕いた・・・。
困惑は夜の闇の中で、月の光を反射して、綺麗に輝いたあと・・・カノンに吸い込まれた。
ドサッ・・・
「シャルティ・・・」
「なぜだ!?なぜ彼女は・・・!」
「まだわからないのか・・・っ!!彼女は・・・なによりも、おまえを愛していたのにッ!!」
「!!」
「その気持ちだけは・・・決して忘れなかったのに・・・なんでおまえは・・・!おまえはぁぁぁぁ!!!」
「うあっ・・・シャルティ・・・!」
カクインは、自分をささえていた何かがなくなったように力なく膝をついた。
実際・・・いなくなった。カクインを一番支えていた人物が。
「・・・殺してくれ。啓太」
「・・・イヤだ」
「なに・・・?」
「死んでシャルティの詫びになると思ってんじゃねぇッ!」
「!!」
「おまえが、どれだけ酷い事をしたか・・・わかってんのか!!」
「・・・」
「生きて償えよ。一生彼女の事だけを考えて・・・そんで、最後の最後まで生きてみろよ!!彼女が愛してくれた自分を、簡単に捨てて楽になろうとしてんじゃねぇッ!!」
「うあ・・・っ!シャルティ・・・!!シャルティィィッ!!」
カクインは、シャルティの亡骸にすがりながら泣いた。
その泣き声が、暗やみに吸い込まれていく・・・。
『この役立たずがっ!!』
グサァァッ!!
「ぶっ・・・がはっ・・・!」
「あれは・・・!」
カクインの背後に黒い空間が・・・!
カクインの腹から剣が突き出ていて、血が噴水のようにあがった。
「ゲート!?」
おかしい。まだ1週間経っていない。
(もしかして・・・ゲートを操っていた物自体がやってきたのか!?ということは・・・コイツは!!)
『初めて会話をするな・・・大川啓太』
その暗やみから声だけが聞こえる。
「誰だッ!?」
『アペリウス・・・アレスティナの国王だ』
「アペリウス!貴様・・・!」
『結局ドイツもコイツもこうやってくだらん感情に惑わされる・・・』
「惑わされたんじゃない!!」
『貴様とて同類よ。そこに倒れている女性が見えないのかッ!!』
「!!」
メシフィア・・・!
『おまえがハッキリしていれば、こんな事態になっていなかったと気付かないのか!?』
「ぐっ・・・!」
『おまえの存在は、結局この世界に新たな混乱と悲劇を生み出しているだけだ!おまえに説教される覚えなどないッ!!!!』
「ぐっ・・・!!ちくしょう・・・!!!」
言い返せない・・・。
メシフィアを斬った手を見る・・・。
{啓太!惑わされるなッ!そうやって心を傷つける作戦だ!!}
『カノンか。貴様はいつか私の物になる。覚悟しておけ』
{誰が従うかッ!!}
『おまえの力は、そんな少年に与えていいものではない!』
{貴様に与えるほうがよっぽど危険だ!}
『ふん、今のうちにほざいておけ。さらばだ』
「待てっ!!」
俺は黒い空間をつかもうとするが、少しだけ早く閉じられた。
「くっ・・・カクイン!?」
「ぼ、ボクは・・・結局・・・」
「喋るなッ!今治してやるっ!」
「いい・・・さ。今から・・・シャルティの所へ・・・行くさ」
「ふざけんなっ!!絶対に治してやるッ!!!」
俺はカノンを向ける。が、なぜか光が出ない・・・。
「カノン!?」
{ダメだ・・・もう・・・死んでいる}
「!!」
ドゴッ!!
地面を殴った。
やるせない気持ちをすべてのせて・・・。
「・・・」
「なんで・・・二人して・・・笑顔なんだよ・・・バカヤロウ・・・ッ!!」
{・・・}
「なんで・・・こんな終わり方になっちまったんだ・・・?なぁ、カノン!教えてくれよ!!!」
{・・・運命だったんだよ}
「・・・」
{おまえの運命がこの世界の運命とつながった時に、全ては決まってしまったんだ・・・}
「そんな・・・それじゃ俺が・・・?」
{そうじゃない!おまえがいなければ、コイツらはもう一度心を通わせることなく、アペリウスの下で死んでいったはずだ!}
「・・・」
{だから・・・前に進め、啓太。まだ、とまってはいけない}
「・・・わぁってるよ。二人とも・・・天国では達者でくらしてくれ」・・・
「まさか・・・あの二人が・・・」
「・・・ああ」
俺はみんなに報告した。ショックでその場が沈黙してしまう。
「でも・・・メシフィアさん、どうするの?」
「ずいぶん傷ついてるし」
「・・・」
「あ、ゴメン・・・」
「いや、気にしないで」
俺はつい両手を見てしまう。メシフィアを斬った両手を・・・。
(うっ・・・と)
つい、胸をかきむしりたくなる。
「・・・そういえば、メシフィア・・・最近部屋で泣いてること、多かったわ」
「え!?本当?メルフィー?」
「本人は泣いてないって言ってたけどね。ちょうど・・・あの二人が現れてから」
「・・・」
あの頃から・・・俺はなんてこと・・・してたんだろ・・・。
「なんせ初恋だものね・・・寂しいとき、どうすればいいか・・・わからなかったんだと思うわ」
「初恋・・・?」
「ホラ、メシフィア・・・ね?」
「ああ・・・」
そっか・・・孤児院で育ったあと、すぐ軍に入ったんだ。
そんな暇なかったんだろう・・・。
「ったく。これだから啓太は・・・」
「・・・ごめん」
何も言い返せなかった。
メシフィアに辛い思いをさせたのは・・・紛れもなく、俺だったから。
「啓太さん、あまり思い詰めないでください」
「レイナ・・・サンキュー」
「ねぇ悠。あたしの時みたいにならないのかな?」
「今日子の時みたいに・・・か」
「・・・もしくは、啓太の時みたいに・・・だな」
光陰がそう言った。その言葉で、みんなの視線が俺に集まった。
そうだ・・・まだ希望はある!
あきらめないのが俺の十八番だったろう?
ちょっとしたことで自分を忘れるなんて・・・!
「カノン、やれるか?」
{今の彼女が、おまえを受け入れるか・・・わからんぞ?それに、蒼天は強制力が強い方で有名だしな}
俺はちょっと考える。
でも・・・
「でも・・・きっと、俺が受け入れられなければ、誰でもダメだと思う。それに・・・俺は、メシフィアが大好きだから・・・なんとかしたい」
{ふっ、そう言うと思った。準備はできてる}
「ああ。みんな、行ってくる」
「しっかり頼んだわよ。メシフィアは・・・親友なんだから」
「おう」
「啓太さん、気をつけて」
「レイナ、留守は頼んだ」
「啓太・・・無理しないでね?」
「おう、アエリア」
俺は意識を投げた・・・。
最愛の人を助けるタメに。
「ここが・・・メシフィアの中か?」
{そうだ。気をつけろ。下手すればおまえの意識も飲み込まれるぞ?}
「おう、サンキューな、水先案内」
{ああ。死ぬなよ?}
「もちろんだ。しっかり二人で帰ってやっから」・・・
「・・・なんとまぁ、わかりやすい擬態で」
俺の前に、檻に入ったメシフィアがいた。
あそこから出さなければ・・・メシフィアは戻ってこない。
「おい、メシフィア」
「!!ケイタ・・・!」
「迎えにきたぜ、帰るぞ?」
「・・・」
俺の目を拒んで、背けるメシフィア。
「・・・なぁ、メシフィア。あのシャルティの愛してるって・・・作戦だったんだ。メシフィアを永遠神剣に乗っ取らせるためのさ」
「・・・」
俺に背を向けたまま、黙っているメシフィア。
「何か言ってくれって」
「・・・そんなの、わかってる」
「・・・じゃぁなんで?」
「・・・私は、寂しかった」
「!!」
その一言が、なにより俺の心に突き刺さった。
「ケイタは気付けばシャルティと一緒にいる。ケイタの隣には・・・いつのまにか、私じゃなくて、あの子がいた・・・」
「・・・」
「何度も・・・心が潰されそうになったんだよ?だから・・・ケイタにそれを言おうとしたけど・・・でも、ケイタはなんだか疲れた顔してた」
「!!」
女言葉に戻るとき・・・俺はその意味を知っている。
「それは、私といるのがイヤだから?」
「違うッ!!それは・・・俺は・・・シャルティとカクインが気になってたんだ」
「・・・え?」
「あの二人は、本当に仲が良くて・・・でも、なんだか心の奥にまがまがしい意志を感じた。だから・・・どこか、安心できなくって・・・警戒してたんだ。そしたら・・・案の定こうなって・・・君を、守れなかった・・・それどころか・・・!俺は・・・君を斬ったんだ。この手で・・・!!」
「ケイタ・・・」
「だから・・・疲れてたんだ。だから、決して君といるのがイヤだったワケじゃない!」
「・・・」
「・・・」
お互いに黙ってしまう。
その沈黙を破ったのはメシフィアだった。
「・・・なら、なんで・・・」
「ん?」
「なんで、相談してくれなかったの?」
「それは・・・!」
「そうすれば・・・あの子に・・・嫉妬することもなかったのに・・・!」
「メシフィア・・・」
「私は、何度も言おうとした・・・私だけを見てって・・・」
「・・・!!」
それだけ思い詰めてたメシフィア・・・目にはいっぱい涙を溜めていた。
なんで・・・俺は・・・。
「ケイタは私がどれだけ苦しかったかわかる!?わからないでしょ!?」
「・・・」
メシフィアの訴えに、反論できない・・・。
「私には・・・もう、ケイタしかいなかったのに・・・なのに、なんで・・・!」
「ごめん・・・」
「それなのに、ケイタはあの子ばかり見て・・・!なのに、都合のいいときだけ優しい言葉をかけてきて・・・卑怯だよ!ケイタなんか・・・大っ嫌い!!」
「・・・!」
「もういい・・・」
プイッと背を向けるメシフィア。
・
・
・
「・・・それでも・・・ここから意地でも出す」
「なんで・・・そんなことをするの?」
「・・・君をどれだけ傷つけたかわからない。どうしたら・・・また信じてもらえるかもわからない。でも、君がいないと、俺はダメだから。ダメ男って言ってもかまわない。でも、俺には君が必要なんだ」
俺はガシッと檻に手をつく。
バチィィ!!!
「ぐあっ!!」
いきなり電流が走り、感電した。
「な・・・っ!」
「もぅ・・・放っておいてよ」
「イヤだ・・・!」
「ケイタ・・・お願いだから・・・帰って」
「絶対にイヤだ。たとえ、君が俺を嫌っていようと構わない。でも・・・俺が君を愛している気持ちに変わりはない。一生・・・愛し続けたいって・・・言っただろ!」
バチィィッ!
俺が再び檻に触ると感電した。
だが、もう檻を離さない。
離して・・・たまるか!
「ぐっ・・・!」
俺の体に電撃が走った。
「蒼天・・・なかなか手強いじゃねぇか・・・!」
「もう、あなたの顔見るのも辛いの!だから・・・帰ってよ!!」
「あのなぁ・・・俺は、ここで現実に戻ったら、まいっちまうんだよ・・・!」
「どうして・・・!いいじゃない!あの子の所にでも行ってれば!・・・もぅ見たくないよ・・・!」
「シャルティは・・・死んだ」
「え・・・?」
「俺が・・・神剣壊して・・・殺した。だから・・・もう、いない・・・!」
「!!」
「でも、そんなの関係ない・・・!さっき言っただろうが・・・!俺は君がいないと・・・ダメだってな!」
俺は檻をこじ開けようと力を加えた。
ギギギ・・・・
バチィィィッ!!
「ぐああっ!!くそっ・・・何万ボルトだっつーの・・・!」
「ケイタ!それ以上何もしないで!なんで・・・そんなにがんばるの・・・!?」
泣いて訴えるメシフィア・・・。
でも・・・イヤだ。
「そんなの・・・決まってるだろうが・・・!君に笑ってほしいから!!俺の隣に・・・いてほしいから!!」
バチィィィッ!!
「うぁぁぁッ!!」
プスプスと俺の体から煙があがりはじめた。
筋肉も痙攣しはじめてきている・・・。
「ケイタ・・・!死んじゃうよ・・・!!もぅ・・・私はいいから・・・帰ってよ!」
「俺は・・・ここで帰って・・・現実に生きても・・・死ぬんだよ」
「え・・・?」
「俺の中にはなぁ・・・水分とか、そんなものよりも、生きていく上で必要な物があるんだよ」
「・・・」
「それがねぇと・・・俺はどこ行ったって死んでるんだよ・・・ソイツは・・・たった一つで・・・」
バチィィィッ!!
俺が力を加えたとたんに電撃が走る。
「ぐぅぅっ!?・・・がはっ・・・でも・・・とっても大切なものなんだよ・・・」
「・・・」
「惚れた女が・・・おまえがいないと・・・俺は・・・どこに行ったって死んでるんだよ・・・!」
「!!」
「メシフィア・・・だから・・・帰ってこいッ!メシフィアァァァァァッッッッ!!」
グィィィィィッ・・・
バチィィィッ!!
「うあああっ!!」
俺は檻をこじ開けたと思ったとたんに、今までで一番強い電流が流れて、倒れた。
「ぐっ・・・もぅ・・・ダメか・・・」
・
・
・
「ケイタ・・・!」
「あ・・・」
俺の傍にかけよってきてくれたメシフィア。
「・・・へへ」
俺はつい笑ってしまう。
「ど、どうしたの!?」
「だって・・・ホラ、出てきてくれたじゃん・・・檻から・・・さ」
今は、なにより最愛の人が出てきてくれたことを喜べた。
「だって・・・」
そこで一筋の涙をながすメシフィア。
「また・・・あなたと一緒に・・・生きたいって・・・思えたから・・・」
「・・・そっか」
「私にも・・・あなたが必要みたい・・・」
「はは・・・そこまで言われれば・・・夫冥利に尽きるってもんだな・・・がんばった甲斐があった」
「・・・蒼天」
メシフィアは暗やみに向かって呼び掛けた。
{なに?}
「・・・帰ろう。ケイタと一緒に」
{やっと目に光が戻ったわね。やっぱり、あなたはそうでなくちゃ。しかも、ずいぶんとまぁ啓太さんを大事に抱いちゃって}
「あそこまで・・・がんばってくれて・・・もう、離さないんだから」
{はいはい、お熱いねぇ。んじゃ、帰りましょうか}
シュゥゥゥゥッ・・・
闇が光にかき消されていく・・・。
「・・・ん」
「あ、メシフィア!」
「メルフィー・・・みんな」
すぐに涙目になってしまった人や、笑顔の人など、反応はさまざまだ。
「良かった・・・本当に」
「メルフィー・・・心配かけた」
「本当よ!まったく・・・」
「そういえばケイタは?」
「あら、親友との再会はこれだけで、やっぱり惚れた男ってわけ?」
「ぶっちゃければそうだ」
一瞬眉間にシワをよせたが、ふっと笑ったメルフィー。
「・・・耐性があがったわね。中で何かあったんでしょ?」
「ふふ・・・何にも」
「笑顔で何もないワケないでしょ!啓太なら、ホラ」
メルフィーの指した先に、目を瞑っている啓太がいた。
「・・・ん」
「ケイタ、起きたか?」
「・・・あぁ。良かった、メシフィア・・・」
俺はメシフィアを抱き締めた。その温かさが、俺の心をも一気に温めた。
「ああ。ケイタが呼んでくれたからな」
「・・・」
俺はそのまま倒れる・・・。
『!?』
部屋が静寂に包まれた。
俺がメシフィアをベッドに押し倒す格好で倒れたから・・・。
「ケ、ケイタ!?さすがにみんながいるまえでそれはマズ・・・」
「・・・」
「ケイタ?」
「・・・ぐぅ」
「寝てる?」
「・・・ぐぅ」
定期的な呼吸。
「・・・疲れたのか」
メシフィアは啓太の頭を撫でる。
(くぅ、いいなぁ・・・俺もあんな風にやさしくされてぇなぁ)
(あら、光陰。あたしじゃ不満なの?)
(・・・ハリセンで頭を撫でるのは勘弁。いつ雷が落ちるか恐くてしょうがねぇ)
(今すぐでもいいけど・・・今はあの二人に免じて勘弁してあげましょうかね)
(偉い!さすが大統領!)
(・・・光陰、廊下ですぐに走りだしても意味がないと思いなさい)
(・・・悠人)
(イヤだ。身代わりになるのは)
(ならば一緒に)
(無理心中させるつもりかっ!!)
(仕方ないわねぇ。悠も一緒にやってあげるわ)
(何が仕方ない、だ!ゴメンだっつーの!!)
(はいはい、雰囲気打ち壊さないように帰るわよ?)
(・・・アセリア、なにやってる?)
(ん?あの雰囲気がどうも胸焼けするから、食えるのか試してみた)
(だ・か・ら・・・!!口をパクパクしても雰囲気は食えないのっ!!)
(でも、胸焼けが・・・そうか。胸焼けしているということは、既に食べていたのか。ユート、どうだ?)
(・・・いや、胸を張られても。なんでうれしそうなんだよ)
(雰囲気とは食えるものだ・・・と)
(だからって、また口をパクパクするなっ!!)
(むぅ・・・)
(鯉じゃねーんだから!二度も同じ突っ込みしてもおもしろくねーんだよ。ホラ、アセリアもこい!)
(ん・・・)
今日子が光陰を連れて、光陰が悠人を連れて、悠人がアセリアを連れて、部屋を出ていった。
それに続く他の人。
『ぎゃぁぁぁぁっ!!』
という男の断末魔が聞こえたのは、その直後だった。
なぜ一人なのかというと・・・悠人はその機転でアセリアを連れていたため、感電(アセリアへの)をふせぐために悠人を離したからだった・・・。
いざというときも男前だぜ、アンタ。
………………………………………………………………………………………………………………………………
『困惑』のシャルティ・・・アレスティナ偵察部隊長。啓太にモーションをかけて、メシフィアに不信感を抱かせた。
実際はカクインの事を愛していたが、アペリウスの部下となった時にお互いに感情を捨てようと誓った。
だが、捨て切れずに悩み、苦しんでいた。永遠神剣第三位『困惑』の持ち主。
永遠神剣第三位『困惑』・・・元々は自我があったが、シャルティのピアス同様洗脳道具として使われるようになってから消滅した。
『犠牲』のカクイン・・・アレスティナ諜報部隊長。周囲の警戒を解かす役割だった。
心の中ではやはりシャルティへの想いは捨て切れずにいた。頭が切れ、今回の作戦も彼が考えた。
どちらかというとデスクワーク派なので、戦闘は得意ではない。
最後の最後でシャルティへの想いを取り戻すも、アペリウスによって殺されてしまった。
永遠神剣第三位『犠牲』の持ち主。
永遠神剣第三位『犠牲』・・・シャルティの『困惑』とピアスと繋がっていて、洗脳ができるようになっていた。
これはアペリウスが付けた機能で、このような状況に陥ると予見していたから。
その時に自我も潰されてしまった。