「ふあぁ・・・」

俺は大きなあくびをした。

なんだか・・・カノンの警戒がなかなか反応しないので、すっかり体も気持ちも弛みきっている。

「・・・」

 

コンコン・・・

 

「ん?誰?開いてるよ」

「失礼しまーす」

「え?シャルティ?」

「えへへ〜」

シャルティは片手に持っている箱を見せる。

「なにそれ?」

「ケーキ、ですよ」

「ケーキィ?」

「ちょっと手に入ったんで、持ってきました」

「マジ?くれくれ。ちょうど口が寂しかったんだ」

俺は箱を受け取ろうと両手をだした。

 

スッ・・・

 

「あれ?なんで引っ込めるの?」

「食べさせてあげます」

「えぇ!?」

何を言い出すんだろう?・・・俺は意図を探ろうと目を見る。

だが、別に作為は感じない。

「はい」

俺の口の前に出されるケーキ・・・ものすごく食いたい。

 

でも・・・。

「ダメだよ、シャルティ。俺はメシフィアの・・・だから、メシフィアに悪いから・・・」

「あ、そ、そうですよね・・・でも、別に他意はありません。ただ、昨日・・・弟と少しだけ・・・わかりあえたのが嬉しくて」

「あ・・・そっか。良かったじゃん、カクインと・・・カクインは、戦争に関してなんだって?」

「・・・それは、言えません」

「え?」

「・・・言えば、あなたが傷つくから・・・」

その顔を見れば、すぐになんと言ったかわかった。

「・・・そっか。俺のせいだって・・・言ったんだ?」

「!ごめんなさい!」

「あはは。別に怒らないよ」

「え?」

「だって、実際俺のせいだし」

「・・・でも」

「俺が、人が使っちゃいけないカノンを使ったから、この世界が狂いはじめたのは事実だし。だからこそ、責任の意味もちょっとはあるんだ」

「・・・」

「だから、気にしないで。ね?」

「・・・はい」

さっきのしょんぼりから、一気に笑ってくれた。

 

「それで、はい」

「・・・やっぱりソレなの?」

俺の前にずいっと現れるケーキ。

「お礼・・・ですから」

「う〜ん・・・」

そこまで言われると、無下に断るのも気が引ける・・・。

「・・・でも、やっぱダメ。ゴメン。きっと、これを食べたと知ったら、メシフィアは少なからず傷つくかもしれない。だから・・・ゴメン」

「そうですか・・・残念です」

やっぱりしょんぼりしてしまう。

う・・・気まずいな・・・打開案・・・これだ!

「食べさせてもらうことはできないけどさ。ホラ、カクインも呼んでみんなで食べない?」

「弟・・・ですか?」

「俺、あんまり普段のカクインと話した事ないんだ。だから、この機会に。ケーキもちょうど三人分くらいだし」

「そうですね!」

ぱぁっと明るくなる表情。

本当に弟思いなんだな・・・。

「んじゃ、誘いに行こうか」

「はい」

俺とシャルティは部屋を出る。

 

「・・・」

いきなり、驚いた表情のメシフィアと出会う。

「メシフィアじゃん。どしたの?」

「あ、いや・・・」

「ん?そうだ。メシフィアも一緒にケーキ食べない?」

「ケーキ?」

「シャルティが持ってきてくれたんだ。な?」

「はい、一緒にどうですか?これから弟も呼びに行くところなんです」

「・・・いや、今はいい」

「そう?強制はしないけど・・・」

「じゃぁな」

「ああ・・・」

そのまま部屋に入ってしまうメシフィア。

(様子・・・変だな・・・後で話しよっと)

俺はそう思ってカクインを迎えにいく。

 

 

 

 

 

「へぇ、じゃぁカクインは頭いいんだ?」

「えぇ、少し」

「少しなんてものじゃないんですよ啓太さん。この子、四桁の掛算が暗算でできるんです」

「マジで!?えーっとねぇ・・・って、こんなおいしいケーキ食べながら勉強はやめよう。そういえば、好物とかは?」

「そうですねぇ・・・私はケーキとか、甘いものです」

「ボクは逆に辛いものが」

「辛いものかぁ・・・俺はそうだなぁ・・・庶民的というか、気楽に食べられる物ならなんでもいいな。ホラ、よくめでたいときに食べたりとか、習慣とかで、とかあるじゃん?」

「はいはい、あります」

「そういう食べ物って、俺あんまり好きじゃないんだよね」

「へぇ、私は豪華になって好きですけど」

「ボクも・・・あまり特別な食べ物は好きじゃないな」

「おっ、そうだよな?」

いつのまにかすっかり馴染んでいた。

 

(・・・やっぱり、普通の姉弟だ。疑うなんて・・・俺ってバカだよなぁ)

俺は警戒していたのがバカらしくなった。

 

「そういえば啓太さん」

「ん?なに?カクイン」

「メシフィアさんと結婚なされてるんですよね?」

「まぁ・・・そうだけど?」

「どこに惹かれたんです?」

 

「・・・え?」

 

「え?どうしました?」

「・・・なんでもない」

俺は、一瞬カクインの目が光ったのを見た。

悪い意味で・・・だ。

まるで、探るかのような・・・。

その事実が、再び俺の警戒心を増す。

「どこに・・・か。そうだな・・・笑顔だとか、正義感の強さとか・・・なにより、俺を呼び戻してくれたときかな」

「呼び戻した・・・?」

「ああ、俺、一度だけカノンに取り込まれた事があるんだ」

「そうなんですか!?」

驚くシャルティ。恐らく、神剣に飲み込まれるということを知っているのだろう・・・。

 

 

あれ?なんでだ?おかしいな・・・

 

 

「はは・・・んでさ、俺を呼び戻してくれて・・・俺にはこの人しかいないって・・・思ったんだ」

「そうですか・・・」

「納得した?」

「なんとなく・・・ですけどね?」

「そっか。君も人を好きになったら、わかるんじゃないかな?」

「・・・そうですね」

 

(ん?)

 

一瞬だけど、目が曇った。

俺ではなく、カクインの目が。

「ケーキ、ごちそうさま。姉さん」

「お礼なら、啓太さんに言いなさい?啓太さんが、私の背中を押してくれなければ、このケーキもここにはなかったんですもの」

「・・・ありがとうございます。啓太さん」

「いえ、こっちこそ。とっても楽しかった」

「はい。それではまた」

「じゃぁね」・・・

二人を見送る。

 

 

 

 

 

「・・・はぁ」

気付けば、なんだかこんなに疲れている自分がいた。

所々に気になる事が多すぎる・・・。

(そうだ、メシフィア・・・)

俺はメシフィアの部屋に行く。

「メシフィア?」

「・・・今、ちょっと忙しい」

扉越しで返事がきた。どうやら何か手放せない作業でもしているようだ。

「そっか。ただ、メシフィアが変だったから、気になっただけなんだ。元気ならいいんだ。じゃあね」

俺は作業のジャマにならないように、そそくさと退散した。

 

 

 

「・・・バカ」

 

 

 

 

 

「さて・・・今、橋の迎撃部隊から連絡があった。どうやら、敵が進軍してくるらしい。指揮をしているのはアレックス。あまりに戦争を長引かせるわけにもいかない。だから・・・ここで、アレックスを倒す」

「・・・どうした、啓太?」

「・・・え?」

「いつもらしくない発言だな。今の言い方・・・絶対『殺す』が入っていただろう?」

「・・・ああ。もし、降伏しない場合は・・・俺が斬る」

「え!?どうしたの!?啓太!」

アエリアが異義を申し立てた。

メルフィーやレイナもあまり信じられない、という顔をしている。

「・・・今まで、俺は人を殺さない・・・それを貫いてきた。でも、今俺がするべきなのは・・・この無意味な戦争を止めることだ。いずれ、アペリウスの首を取るときがくる・・・更に、絶対に降伏しない、信念を持った兵士も・・・出てくる」

「・・・」

「だからこそ、敵の中枢戦力だけを削れば、兵士の死は少なくて済む。本当は・・・いや、なんでもない。こうして、アレスティナにも平和を願う人がいた。だから・・・異世界の人間にだけは、容赦しないでほしい」

「!」

今までの啓太からは考えられない発言だった。つまり、今彼はこう言った・・・。

 

 

 

殺せ、と。

 

 

 

「だけど、一つ勘違いしないでほしい・・・もし、自分から降伏や、戦闘意志のなくなったものがいれば・・・殺すな。そういう場合は、永遠神剣を砕いて。そして、最後に・・・全員、生き残れ。死んだら許さない」

「・・・はい!」

「チームは、先陣をきるのが俺、レイナ、アエリア。第二陣が悠人、アセリア、オルファ。第三陣が岬、光陰、エスペリア。メルフィーは、一般兵の指揮を執って。他の人は、ワープに備えて王の周辺警戒」

戦術に長けているメルフィーに、兵を全て任せる。全ての陣も、均等に戦力分けした。

「一つ質問」

「なに?メルフィー」

「メシフィアが後方にいるのはなんで?」

「え?」

「だって、アンタの剣の次に強いんだったら、第二陣より前にいたほうがいいんじゃないの?叶さんは事情あるみたいだし、仕方ないけど」

「・・・いざというときに、後方に強力な仲間がいてくれると助かるんだ。もし、前後で分断されてしまった時とかね」

「・・・本当にそれだけ?」

メルフィーの目が俺を射抜く。

「・・・ああ」

俺は目を見てこたえた。

「ならいいわ。一般兵は任せて」

「期待してる。んじゃ・・・出撃は明日の早朝。ちゃんと起きてくれな?」

「よぉっし・・・!久しぶりの出番の上に、パパと一緒に戦えるんだ!」

「オルファ、あんまりはしゃぐなって」

「今まで出番が少なかった分、がんばるからね!」

「おう、期待してるぞ?」・・・

 

 

 

 

 

俺はメシフィアの部屋に呼び出された。

理由など、特に鋭くなくてもわかるだろう。

「ケイタ、なぜ私を後ろにした?」

「・・・理由は、君が一番知ってるはずだろ?」

「!」

「その目のクマに、充血した目。それに足元もおぼつかない。そんな君を、前線には出せない」

「・・・」

「なあ、本当に変だ。昨日の昼からだよ。何があったんだ?」

「・・・」

「作業に集中してたのか?」

「・・・」

メシフィアは黙って俯いたまま答えない。

「・・・こたえたくないなら、答えなくてもいいけど・・・メルフィーや、レイナに心配させるな。二人とも、とっくにメシフィアの調子が悪いことに気付いてる」

「・・・すまない」

「・・・いつか、話してくれ。今はいいから。だから・・・今は休んでくれ。俺が傍で眠るまで見てるからな」

「・・・ケイタ」

「ん?」

「・・・なんでもない。手を・・・握ってくれないか?」

「こうか?」

俺は両手でメシフィアの右手を握った。

「ありがと・・・」

スッと目を閉じるメシフィア。

 

(・・・何が彼女を追い詰めたんだろう?作業・・・していたけはいは部屋にはないし・・・もしかして、永遠神剣が?)

(そんなはずないよな。メシフィア・・・無理しないでくれよ・・・)

 

 

 

 

 

「ん・・・」

「おはよう」

「おはよう・・・って、ずっとここにいたのか?ケイタ」

「ああ。当たり前だろう?」

だって、両手握って、離そうとしたらつよく握るんだし。

ま、俺も出ていくつもりはなかったけど・・・トイレがね・・・。

危なかった。

「・・・すまない」

「何が?」

「・・・私は・・・また・・・」

泣きそうなメシフィアが何かを伝えようとしている。

「また?」

「・・・ん?その差し入れは?」

「あぁ、コレ?」

俺はサンドイッチの食べかすを差す。

「こうしてたら、シャルティが来てくれてさ。腹減ってないって言ったのに、コーヒーとサンドイッチ作ってきてくれたんだ」

「・・・」

難しい顔をするメシフィア。

 

(・・・なんだ?)

 

「そっか・・・シャルティが・・・」

「でもメシフィア・・・どうしたんだ?」

「え?」

「なんだか・・・少しだけ、うなされてたみたいだし」

「・・・なんでもない」

 

(ケイタが・・・いなくなる夢を見た・・・言えない・・・か)

 

「・・・無理するなよ?前にも言ったけど・・・さ」

「大丈夫だ。そっちは大丈夫なのか?」

「椅子の上で仮眠とったから平気。メシフィアの寝顔も見られたし」

「・・・!!」

その言葉に久しぶりに赤面したメシフィアをみた。

「赤くなってやんの。さて、オレたちも行くか」

「・・・そうだな」・・・

 

 

 

 

 

「啓太さん」

「え?シャルティ?」

部屋を出た所でシャルティとカクインに会った。

「今から出撃なんですよね?」

「ああ」

「・・・がんばってください」

「ここから、みなさんの無事を祈ってます」

「シャルティの応援と、カクインの祈りがあれば百人力だ。バッチリおわらせてくるよ。先遣隊は・・・ね」

「ケイタ、行こう」

「ああ。じゃ!」

 

 

 

 

 

「敵の規模は結構大きいな・・・」

「どうする?正面からかかればかなり被害が出るぞ?」

「・・・ここは、マトリョーシカの要領でいこう」

「なにそれ?」

「ロシアの伝統工芸。確かそんな名前だったはず・・・ってもうないけど。ある人形の中に、また人形が。また人形の中に・・・エンドレス。それを作戦にしたものさ」

 

「つまり?」

隊員はみなバカなのか、要約を求めてきた。

いや、俺の説明がたりなすぎたか。

「第三陣から、次々に道を切り開いて、オレ達第一陣が、アレックスを倒して終わり」

「なるほどね」

「よし、いこう!」・・・

 

 

 

 

 

この作戦は見事に成功した。

次々と兵士を拭き飛ばし、その道を進んでいく・・・。

 

 

「・・・来たか」

「アレックス・・・」

オレ達は、ゆっくり立ち上がるアレックスに剣を構えた。

「・・・」

「・・・降参・・・しないか?」

「しない。オレの命はとっくにアペリウス様のものだ」

「・・・アペリウスが正義に点ると知っていてもか?」

 

「貴様が正義を語るなっ!!」

 

「!!」

 

「カノンを覚醒させ、この世界に混乱を生み出し、挙げ句の果てには全世界の共和を計るアペリウス様に刃を向ける・・・そんな貴様が、正義なはずがない!!」

アレックスが俺に剣を向けた。

 

「・・・オレがいつ、自分が正義だと言った?」

 

「なんだと・・・?」

 

「俺は、元から正義のヒーローになった覚えもないし、なりたいと思ったこともない。だけど・・・俺にはわかる。アペリウスがやろうとしているのは・・・自分の箱庭を作ることだと」

 

「なに・・・?」

 

「自分の思い通りに世界を変えて、自分が気に入らなければそれを修正する・・・それが、アペリウスの共和だろう?」

 

「違うっ!アペリウス様はその世界を考えて、一番よい形にもっていくんだ!」

 

「違うものかっ!!他人を・・・世界を自分色に染めてる。それはすなわち『支配』だ!!そんな考えで作られた世界が平和なものか!!本当の平和っていうのは、誰か個人に与えられるものじゃない!その世界に住む人々が、自分たちで作った平和こそが、その世界の本当の平和だ!それが正義なはずがないだろう!!」

「・・・おまえとは、死ぬまで議論しても、一生結論は出そうにないな」

「・・・そうだな」

そこまで言い合うと、これ以上は無駄だと悟る。

「ならば・・・貴様を殺して、全てをおわらせる」

「負けない・・・!」

 

オレ達は剣を構えた。

レイナとアエリアは周辺の敵を近付けないように牽制している。

 

 

 

「・・・うおぉぉぉぉ!!」

「うああああッ!!!」

 

キィンッ!!

 

オレ達の剣が一つの影になる。

「ぐぉぉぉぉ!!」

「っ!?」

{啓太!ちっ・・・!}

 

キィィンッ!

 

俺は押し負け、倒れた。

アレックスの追撃の剣は、カノンが防いでくれる。

「サンキュー、カノン」

{お礼を言う暇があれば、さっさとヤツを止めろ!}

「うぉぉぉぉ!!」

「っ!」

俺は大きく降ろされた剣を避ける。

 

ドゴォォッ!!

 

「馬鹿力が・・・!」

剣で砕かれた地面を見て呟く。

「うおおおお!!」

 

キィィンッ!

 

俺はカノンで剣を受けとめる。

「でやぁぁっ!!」

「!?」

俺の押し返したカノンが振り切られ、風の刃がアレックスを追撃する。

「ぐおおおお!?」

 

ドスゥゥン・・・

 

アレックスはそのまま数メートル吹き飛ばされた。

「決めてやるっ!」

「ちっ・・・!」

バスッ!

アレックスは寸前で避けて、カノンは地面に突きささった。

「こっちだ!」

「!?」

 

パシュッ・・・!

 

俺は胴体を反らし、寸前でアレックスの剣を避けた。

避けきれなかったらしく、腕に掠り傷ができた。俺はすかさずカノンを引き抜いて距離を置く。

「はぁぁぁ・・・竜人剣!!

カノンの先から竜が現れた。

「いっけぇぇぇ!!」

「うぉぉぉぉ!?」

竜はアレックスを飲み込む。

 

ドゴォォォッ!!

 

後ろの岩にまで押され、強く打ち付けたあと岩をえぐるようにしてアレックスの体が食い込んだ。

「やったか?」

「甘いわッ!!」

すぐ飛び出してきたアレックス。永遠神剣の力だけでなく、体自体を鍛えてあるようだ。

「くそっ・・・根源を壊すしかないか・・・!」

「うおおぉぉ!!」

 

キィンッ!

 

俺はアレックスの攻撃をいなしながら考える。

どこだ?どのチャンスで・・・

「うあ・・・!」

ツルッ・・・

俺は誤って足を踏み外した。

「うおぉぉぉ!」

 

バシュゥゥッ!!

 

「ぐああっ!!」

「啓太!?」

アレックスの剣が俺の右肩の上から食い込んでいた。

「ぐっ・・・でやぁぁっ!!」

「うぉぉぉぉ!?」

俺はカノンを振り切って、風の刃でアレックスを吹きとばした。

「くっ・・・」

右肩に深く食い込んだ傷は、かなりの出血と痛みをともなっていた。左手で抑えるがちっとも痛みは和らがない。

{かなり深くやられたぞ?大丈夫か?}

「チャンスは今だ。やるぞ、カノン!」

治してる暇はない。

すぐにアレックスは向かってくる!

{おう!}

俺の手から光線が空に放たれた。

「うぉぉぉぉ!」

「きたぁっ!!」

俺はまだおさまらない砂煙を利用して、態勢を低くとってアレックスの脇を通り過ぎた。

「む?」

アレックスが気付くと、そこに啓太はいない。

「エタニティー・・・フリーダム!!」

「なっ・・・!?」

バキィィッ!!

バチバチッ!!

カノンに、空からの光線が落ちてきた。

「これで終わりだッ!!」

 

ザパァァァッ!!

 

カノンを宙で横に薙ぐと、そこから、人の何倍もの大きさの刃が現れた。

バシィィィッ!

ビキィィィィンッ!!

アレックスは勝利で刃を受けとめたが、勝利が耐え切れず砕け散る!

「なっ・・・!バカな!!」

アレックスは力なく倒れていく。

 

ズドォォォォッ・・・!

 

刃が岩に当たり、岩が砕けて爆発がオレたちを包む・・・。

 

 

 

 

 

 

「・・・オレの・・・負けか」

「アレックス・・・」

『勝利』は、すでにカノンに取り込まれた。

「・・・斬れよ」

アレックスは観念したかのように、遠い目をして空を見ていた。

「・・・どうしても、オレ達とくるつもりはないんだな?」

「ああ」

「・・・わかった」

オレはカノンを構える。

{啓太!くるぞ!?}

「なにが?」

{今気付いたが・・・ゲートが開く!ここにだ!}

「くっ!どこらへんだ!?」

『ここだよ』

ブシャァァァッ・・・!

 

 

 

 

 

「・・・なっ」

「ぐっ・・・こういう終わりも・・・アリ・・・か」

アレックスは、大量の血を吹き出して倒れた。

みるみる血の気がなくなっていく。

「貴様ァァァァ・・・!!」

「お久しぶり。大川」現れたのは、グレイだった。

あのイヤな笑みを浮かべて、アレックスの血のついた剣を舐めている。

「どうせ殺すつもりだったんだろう?」

「仲間を・・・平気で殺したな!?」

「仲間?アレックスか・・・そうだね。永遠神剣をもっていれば・・・だけど」

 

「!!」

 

「もっていないコイツはもはやいらない。これは、アペリウス様の意志だ」

「仲間だったヤツを・・・簡単に殺せるのか・・・!貴様等はぁぁ!!」

俺はカノンを構えた。

「おっと。別に私は勝負したくてきたんじゃない。剣を収めたまえ」

「イヤだ!貴様もここで斬るッ!!」

「無駄さ。今の私はもう異次元にいる」

グレイは余裕の顔で立っている。それが俺の怒りを更に増す原因になる。

「それがどうしたっていうんだよぉぉぉ!!」

俺はカノンを力一杯薙いだ。

 

 

ブシャァァァッ!!

 

 

「くっ!?そ、そんなバカな!?なぜ・・・異次元を・・・越えて・・・私に攻撃がッ!?」

グレイは驚愕の顔を浮かべて、地面にはいつくばった。

「んなこと知るかァァァァッ!!そのまま倒してやるッ!!」

「くっ・・・!マズい!分裂が・・・効かない!?」

{そんなのとっくに俺が抑えている!}

「カノン・・・貴様ァァァァ!」

「仲間を平気で殺せるヤツがぁ!理想語ってんじゃねぇぞコノヤロォォォォォッ!!!」

俺は怒りのままにカノンを振るった。

 

バリィィィンッ・・・!

 

「ぐ・・・ウソだ・・・こんなの認めない・・・!」

異次元とやらから這い出てきたグレイ。

「ウソだ・・・私は死なない・・・」

「おまえは負けたんだよ。この俺に!俺は・・・仲間が傷ついて、平気なヤツには負けねぇ・・・負けたくねぇ!アペリウスも・・・俺が倒す!」

「ふんっ・・・混乱の根源の・・・クセに・・・」

 

{一つだけ言っておく。混乱の根源が、同時に平和の調停者だったらどうする?}

 

「な・・・に・・・?」

 

{コイツは、自分で事態の終熄をつけようとしている。しかも、自分だけでなく、現地人の力も借りて・・・}

 

「戦いに・・・巻き込んでいる・・・だけだろうがぁ・・・」

 

{一見そうだ。だが、この世界の事を、啓太一人で決めるようならば、俺は契約しなかった。戦いに巻き込む事になっても、決して自分一人ではおわらせてはいけないからだ。なぜなら、一人の人物が作った平和は偽物だから。そして、それが・・・アペリウスのやろうとしていることだ!}

 

「ぐ・・・剣・・・ごときがぁ・・・!」

「せいやっ!!」

俺はカノンを振り下ろした。

 

バキィィィッ!

 

見事に邂逅は壊れ、カノンへと吸収されていった・・・。

「・・・」

動かなくなったグレイを見下ろす。

マナへと還っていく・・・。

「・・・おわった・・・か」

{啓太・・・}

「・・・俺は、許さない・・・」

{アペリウスを・・・か?}

「・・・それと、人を殺した俺もだ」

{!!おまえ・・・まさか、最初からそのつもりで・・・!}

「そうだ・・・こんなもの・・・背負わせるわけにはいかないからな」

{・・・一つだけ言っておく。おまえは一人じゃない}

「・・・」・・・

 

 

こうして、司令塔のアレックスを失ったアレスティナは撤退し、同時にグレイも消えたアレスティナは、しばらくは沈黙しているだろう。

とりあえず・・・一週間は。

あのとき・・・グレイはワープで来たからな。

・・・はぁ。

 

 

 

 

 

「と、いうわけで今日は休みにしようと思う」

「やったー!パパァ、遊んで!」

「そうだな。せっかくだし、どこか出掛けるか、オルファ」

「どうしたんです?急に・・・」

「やっぱ変かな?エスペリア」

「いえ、変じゃないですが・・・」

「休める時に休んでおかないと、ワープの緊張に耐えられないからな」

結局、グレイ以外は城に送り込まれてきたらしい。

一般兵ばかりだったから簡単に撃退できたらしいけど。

「・・・そうですね」

「だから、今日だけはゆっくりしよう」

「賛成!」・・・

 

 

 

 

 

「ぶはぁっ・・・」

俺はやっぱりベッドに倒れる。

{啓太・・・}

「なに?カノン」

{・・・無理しすぎだ。バカ}

「うっせーよ。このくらい、叶さんの話を聞いたときから覚悟してた」

{・・・正直に言え。あの二人を倒した気分はどうだ?}

「正直、最悪。アレックスは・・・あまり殺したくなかった。グレイは・・・気付けば自分こそが吐き気のする人間になってた」

俺は右手を見る。

・・・まるで肌色をしていないように見えた。

{・・・だが、おまえは覚悟したのだろう?}

「・・・」

{人の屍を越えた、その上にある平和を手にしようと}

「んな立派なもんじゃねぇっての・・・はは」

 

コンコン・・・

 

「はぁい」

「失礼します」

「ありゃ、またシャルティ?よくくるねぇ」

「迷惑ですか?」

「いや、そんなことないんだけど。どうしたの?」

「弟を・・・知りませんか?」

すごく心配した顔でたずねてくる。

「弟?カクイン?」

「そうです。今朝からいなくって」

「カクインか・・・城下町とか出てるんじゃない?」

「あの子、騒がしいのは苦手だから、ないと思うんです」

「買い物とかでさ」

「・・・そうでしょうか?」

「きっとそうだよ。すぐに戻ってくるさ」

 

コンコン・・・

 

「はあい」

「入るぞ・・・あ・・・」

「メシフィア、ちょうど良かった。あのさ、カクイン知らない?」

「・・・」

「おーい?」

なぜか問い掛けに反応しない。

「あ、すまん。なんだ?」

「カクインだってば。知らない?」

「さっきまで私の部屋にいた。次はメルフィーの部屋に行くとか言っていたぞ?」

「だってさ。行ってくれば?」

「メルフィーさんのお部屋ですね?失礼します」・・・

 

 

 

 

 

「ふぅ・・・」

「・・・ケイタ」

「うん?」

「最近、よくシャルティが部屋にいるな」

「そーえばそーだな・・・よく訪ねてくるし。でも、カクインの方がちっとも訪ねてきてくれないんだよね。あはは・・・」

俺は、あの光った目を思い出す。

絶対に・・・何かある。

でも・・・心のどこかで、そんな俺をバカにしている俺がいた。

「・・・そうか」

「うん?どうした?やっぱり調子悪いんじゃ・・・」

「そんなことない。そんな・・・ことない」

そういっている彼女は明らかに元気がない。

「・・・ねぇメシフィア。何が原因かはわからないけど・・・それを解決する方法がわかっているなら、試してみればいいじゃない」

「・・・!」

「そのとき、俺は隣にいられるだろうし」

「・・・」

「メシフィア?」

「・・・一つだけ」

「ん?なに?」

 

バタンッ!!

 

メシフィアが何かを言い掛けた時、シャルティが帰ってきた。

「メシフィアさーん、メルフィーさんに聞いたら、弟来てないって」

「え?・・・たしかに言ってたはずだが」

「シャルティ、他の人の部屋は?」

「まだ行ってきてないですけど・・・」

「もしかしたら、他の部屋に行ってるかもしれないよ」

「そうですね。じゃぁ、またいってきます」・・・

慌しく部屋を出ていくシャルティ。

よほどカクインと会いたいのだろうと思うと、自然と笑みがこぼれた。

 

 

「で、なに?メシフィア」

「・・・なんでもない」

「え?」

「・・・じゃあな」

「あ、おい!」

・・・

 

「・・・なんで・・・何も言ってくれないんだ?メシフィア・・・」

 

 

 

 

 

「・・・いない」

俺はメシフィアの姿を求めて、城のあちこちを捜し回っていた。

「・・・」

俺は空を仰ぎ見た。綺麗に晴れている。

(・・・きっとどこかにいるはずだ!)

俺はすぐさま探すのを再開した。

「あれ?啓太さん?」

「シャルティ・・・」

「どうしたんですか?そんな恐い顔して」

「え?そうだった・・・?」

「はい。物凄く」

「・・・ちょっと、今必死だったから」

「無理はいけないですよ。ホラ」

 

むにぃぃ・・・

 

「・・・」

「こうやって、無理にでも顔を笑わせないと」

俺の頬をつねあげるシャルティ。その顔が笑顔で怒る気にもなれない。

「そうだな。こんな恐い顔してたら、メシフィアに逃げられるよな」

「メシフィアさんを探してるんですか?」

「うん、知ってる?」

「なんでも、弟と二人で話がしたいって言って、私追い出されちゃいました」

「・・・マジで?」

「マジです」

・・・

 

(・・・一体何の話してるんだろ・・・すごく気になる・・・)

 

「あ、行っちゃダメですからね?」

まるで俺の心を読んだような言葉が来た。

「・・・だよな。後でカクインに聞こうかな・・・」

「弟もきっと話してくれないんじゃないかと思いますけど」

「・・・そうだよなぁ。大事な話を本人の了解も得ないで喋るタイプじゃないよなぁ」

「・・・もしかして、妬いてるんですか?」

「妬く・・・っていうより、ちょっと不安かな」

「不安?」

「最近、なんかメシフィアがよそよそしい感じなんだよね。だから、無理してないかなって。でも、カクインと相談してるなら平気なのかも・・・あぁ、でも何を相談してるか知りたい」

「まさかとは思いますけど・・・カクイン、結構メシフィアさんの事気に入ってるみたいでしたけど」

「・・・ますます不安だ。もうこれ以上心配事増やさないでほしいんだけど・・・」

「ふふ・・・」

 

「!?」

いきなり薄気味悪い笑いをするシャルティ。

この笑い・・・グレイと同じだ!俺の本能が危険を感知する。

 

「どうしました?」

「・・・今の笑いは何?」

「いえ、啓太さんは本当にメシフィアさんのことが好きなんだなって」

「そりゃ・・・だって、大切な人だし」

でも、絶対その笑いじゃなかった・・・。

あれは・・・あの笑顔は・・・。

「なら、大丈夫じゃないですか?」

「・・・だといいけど」

「啓太さんが心配しすぎると、メシフィアさんも元気なくなっちゃいますから」

「・・・わかった」

「と、いうわけで何か食べません?」

そういや、朝から何も食べてない・・・。

「いきますか?」

「はい!」・・・

 

 

 

 

 

「なるほど・・・」

「そこのところ、どうなんだ?」

「・・・どう、と言われましてもメシフィアさん。別に姉はそんな気はないと・・・」

「本当か?」

念入りに確認するメシフィア。

「・・・確かに、姉は啓太さんを気に入ってる感じがしますけど、メシフィアさんと結婚しているのを知っているわけですし・・・」

「・・・なんだか、不安になるんだ」

「え?」

「ケイタがシャルティと仲良くしてるところを見ると・・・胸が痛い」

「・・・」

「私は・・・狭い女だ」

胸を掴んで、吐き出すように言う・・・。

「・・・そんなことないですよ。それが普通です。それとも、ケイタさんは狭いからってあなたを嫌いになるんですか?」

「それは・・・」

『俺は、君の全てを受け入れる』

ケイタの一言が、メシフィアの頭をよぎった・・・。

「・・・」

カクインはメシフィアの肩に手を置いた。

「だから、きっと大丈夫です」

「・・・ありがとう。少しだけ、楽になった」

そう言ってメシフィアは部屋を出ていった。

「・・・外堀はもうそろそろか・・・」・・・

 

 

 

 

 

「おいしいな、コレ」

「そうですねぇ。このお魚なんか」

俺とシャルティは食堂で飯を食べていた。

「啓太さん、啓太さんの世界って、どんな所だったんですか?」

「そうだねぇ・・・この世界よりも、ずっと発展してるんだけど・・・人は、あんまり良くなかったかな」

「そうなんですか?」

「・・・うん。でも、やっぱりいい世界だよ」

「そうですかぁ・・・私も行ってみたいです」

「・・・もう、ないんだ」

「え?」

「アペリウスに破壊された」

「そうですか。すいません」

「・・・いや、いいんだよ」

(別に悪怯れてる様子もない。そういうときは気にしない方がいいっていうのを知っているんだな・・・すごい女性だ、まったく・・・)

「あ、啓太さん」

「うん?」

「口の脇に、ソースついてますよ?」

「え?マジ?えっと・・・ナプキンは・・・」

こういうとき、マナーはめんどくさい。

「いいですよ、とってあげますから」

「へ?」

と言ったときには、既に俺の顔に触れているシャルティ。

そのまま拭った。

「取れました」

 

「・・・」

 

俺はどうも違和感を覚えてシャルティの目をみる。

(・・・妻がいるって人に、普通こんなことしないよな?・・・狙いはなんだ?)

「・・・?」

「・・・ううん」

やっぱり素でそういう女性なのかなぁ・・・。

「・・・あ」

「メシフィア!いつからいたの?」

気づくと隣にメシフィアが座っていた。

「・・・さっきからだ」

「そ、そんなことより、あ、でも・・・」

「啓太さん、聞いちゃダメですってば」

カクインと何を話していたか聞きたいけど、シャルティに止められた。

「で、でも・・・」

「何をヒソヒソ話しているんだ?」

「え、う・・・いや、その・・・元気?」

 

(違うだろ俺!何を聞いてるんだ!?)

自分で聞いておきながら、すぐにツッコミが入る。

 

「元気だ」

「そ、そう・・・それならいいんだ・・・じゃなくて、ウソつくなってば」

「私はジャマだったみたいだな」

「え?」

「退散するとしよう」

「え?いや、俺はメシフィアと話がしたいんだけど」

「・・・すまん。しばらく一人になりたいんだ。来ないでほしい・・・」

(ウソ・・・本当は・・・心のどこかで・・・来てほしいって思ってる・・・素直じゃないな、私は・・・)

そのまま消えていくメシフィア。

「メシフィア!・・・今のは・・・俺がマズかったかな・・・」

「・・・ふふ」

 

俺は、メシフィアを呆然と見つめていてシャルティがほほえんでいることに気付かなかった。

そして・・・俺とメシフィアの間には、大きな溝ができてしまった。