「ふむ・・・それで、アペリウスを討ってほしい・・・と」
王は眉唾な話に難しい顔をしていた。
「たしかに・・・情報に間違いはなさそうだが・・・」
この二人が話したのは、今のアレスティナの状況と、どうしてそうなったのか・・・。
ま、つまりは俺がおじいさんから聞いた事と同じ内容だ。
そういえば・・・敵が、王が情報を漏らしたと言っていた、と報告したら、一蹴りされた。
もっと確実な証拠がないといけないか・・・。
「うぅん・・・それで、具体的にどうすればよいのだ?」
「はい・・・まず、彼の元には強力な人材が数人います」
言うまでもなく、アレックス、グレイ、瞬のことだろう。
「まずはその人たちを倒し、そのあと全戦力でアスペリアを叩くべきかと」
「・・・」
俺はどうにもあの二人が信用できない。
別に、変な事を言ってるわけでもないんだけど・・・どこか、得たいの知れなさがある。
(少し・・・近付いてみるか)
「啓太、どう思う?」
「え?あ、そうですね・・・とにかく、まずは強力なその配下を倒した方がいいと思います」
「そうか・・・よし、今後はしばらく、その配下に集中しよう」
「はい。それで、私達は・・・」
「そうじゃな・・・啓太、部屋に空きはあったか?」
「・・・」
「啓太?」
「え?あ、はい。なんですか?」
「どうしたのじゃ?二人のことをじーっと凝視して」
「いえ・・・なんでもないです。それで?」
「うむ、部屋なのじゃが・・・」
「俺の隣があいてます。何かあっても、あの場所ならきっと大丈夫でしょう」
「では、そう手配しよう」・・・
俺は二人を案内していた。
「お二人の部屋はここです」
「はい、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「いえ、いいんですよ。俺の部屋は隣なんで、何かあったら尋ねてきてください」
「はい。あ、私はシャルティといいます」
「ボクはカクインです」
「シャルティ、カクイン。ようこそカオストロへ。俺は大川啓太です。以後、よろしく」
「はい」
「それじゃ、二人とも今日はゆっくり休んで」
「いいのですか?」
「いいんだよカクイン。二人とも疲れてるだろうし。じゃね」・・・
「ぷはぁ・・・」
俺は溜まっていた息やら他の気持ちやらを吐き出す。
「どうした?」
「別に・・・」
「別に、でそんな顔するか」
「・・・メシフィアはあの二人、どう思う?」
「ん?別に、信用できるんじゃないか?」
「・・・そう。ならいいんだ」
「変なケイタだ」
「そう・・・俺が変な方がいい。いいに決まってる」・・・
「というわけで、次のアレスティナの作戦は、ココから北東にある、あの橋を落とすことです」
「橋を落とされたら、戦争なんてできないじゃない」
岬は当然の事を言っているように見えるが、実際そうではない。
「・・・岬、忘れたのか?敵は橋なんかいらないと」
「・・・え?」
「コラコラ、前、オレ達が急いで帰ったのはなんでだよ?」
「光陰・・・そんなの決まってるじゃない。敵がワー・・・ああ!」
「そうです。アレスティナにはアウターゲートとよばれる瞬間移動があります。逆に、あなたたちはない。つまり、橋を落としてしまえば、あなたたちは防戦一方になってしまう・・・だから、あの橋を落とさせるわけにはいかないんです」
「なるほどな。カクインの言うとおりだ」
「・・・一ついいか?カクイン」
「どうぞ、啓太さん」
「ゲートを防ぐ方法はないのか?あると、すごく楽になるんだが」
「・・・」
「一週間ごとに作動させる・・・ということは、逆に一週間以上開かなければ、いつ来るかわからないオレ達は、それだけ無駄な緊張や警備をしなくちゃいけない。せめて、来るタイミングがわかりたい」
「・・・残念ながら、防ぐ方法はありません。でも、感知なら・・・カノンを使えばなんとかなるかもしれません」
「カノンを?」
「はい。どうです?」
「できるか?」
{・・・できなくもない}
「なら、カノンで感知することにしよう。何時間前から感知できる?」
{そうだな・・・せめて数十分前だな}
「・・・短いけど、仕方ないか。どっちにしろ、オレ達が攻めるときのためにも、橋は残さなきゃいけねぇし」
「んじゃ、作戦開始は明日の八時。メンバーは俺、悠人、光陰、レイナ、エスペリアな。今回魔法をぶっぱなされると橋が落ちかねないし」
それに、何かをしでかしかねないメシフィアとアセリアも外された。
一番しでかしそうなのは俺だけど・・・。
「んじゃ、解散っと」・・・
「お疲れ様です。啓太さん」
「あ、シャルティ」
部屋の前にシャルティがいた。
「どしたの?」
「いえ、ちょっと城を案内してほしいのですが」
「ん・・・まぁいいよ。早速行こうか」・・・
「そういえば、シャルティ・・・元のアレスティナって、やっぱり良かった?」
「はい、それはもう」
とびっきりの笑顔で答えるシャルティ。それだけで、元のアレスティナがどれだけ良かったかがなんとなくわかる。
「そっか・・・じゃぁ、絶対取り戻さないとな」
「え?」
「約束したんだよ。おじいさんとね。だから・・・取り戻す」
「・・・啓太さんは変わってますね」
「え?」
「自分のためにもならないことに、そんなに一生懸命になるなんて」
「・・・シャルティだってそうじゃないか」
「え?」
「だって、元のアレスティナに戻らなくても、アレスティナを離れれば君自身は幸せになれる。でも、そうしないで、オレ達に協力を求めた。それは、オレと同じだろ?」
「・・・かもしれない・・・ですね・・・」
複雑な顔をするシャルティ。
自分でもあまりわかっていない感情なんだろう。
「だから、そのためにはオレはなんだってする。例えこの手足を血で塗ろうと・・・オレは、必ず・・・アレスティナを取り戻してみせる」
「・・・」
「おっとと。湿っぽいね、なんか。というわけで、案内再開しよっか」
「あ、はい」・・・
「・・・はぁ」
オレはドサッとベッドに倒れた。
(明日・・・か。はぁ・・・)
オレはボーッと天井を見ていた。
「・・・戦争・・・か。なんで人間って・・・戦うんだろうな・・・」
コンコン・・・
「はい」
誰だ?こんな真夜中に・・・。
「あれ?シャルティ?」
「ちょっといいですか?」
「ああ、いいけど」
俺は部屋に招き入れる。
「どしたの?疲れてないとか?いや、眠れないのか・・・」
「はい・・・」
「そりゃそうだよな。いきなり周りが全て変わってしまったんだから」
「・・・」
「どうしたの?」
「いえ・・・自分のしたことは、本当に正しかったのか・・・と。昼の、あなたの言葉を聞いて」
「俺の言葉なんか・・・気にしちゃだめだよ」
「え?」
「俺はそういう風にしていく。でも、君は君なんだ。こうやって、この国に来たのは、紛れもなく君の意志。そして、それに間違いなんてありえないよ」
「啓太さん・・・」
「大丈夫さ。君の願いは、きっと届く。それに、俺は嬉しかった」
「え?」
「おじいさんの言ってる事が本当だったから・・・今のアレスティナ国民も、きっと元のアレスティナに戻ってほしいって願ってる・・・って」
「・・・」
なぜか申し訳なさそうに俯いてしまうシャルティ。
「でも、どうしてそんなことを?」
「いえ・・・なんとなくです」
「なんとなくねぇ・・・」
「啓太さんは真っすぐです」
「真っすぐぅ?」
「はい」
「・・・真っすぐねぇ」
「だからこそ、お願いします。アペリウスを・・・討ってください。きっとそれは、あなたにしかできません」
「・・・任せなさいって」
俺は自信満々にこたえた。
「あ、そうだ。お茶でも入れるか」
「・・・」
俺は適当なハーブティーを作る。
「はい、どうぞ・・・?」
「すぅ・・・すぅ・・・」
「・・・おいおい、寝ちゃったのかよ」
俺は隣の部屋に行って、ノックする。
「・・・寝てるのか?」
どうやらカクインも寝てしまったようだ。
「仕方ない。今日の所は俺の部屋で寝させてあげるか」
俺は部屋に戻って、シャルティをベッドに移し、俺はソファーで寝た・・・。
「ぶぇっくし!!」
「本ッ当にすいませんでした!!」
「いや、いいって・・・ぶぇっくし!!」
俺は、何もかけないで寝た上に、ソファーだったので寝違えて、風邪は引くし、体は痛いし・・・。
「と、とりあえずもう部屋に戻りなよ。カクインがきっと心配してる」
「は、はい・・・」
「じゃぁねぇ・・・ぶぇっくし!!」
「じゃ、じゃぁ、失礼しますね」
「バイバーイ・・・ぶぇっくし!」
俺は部屋を出てシャルティを見送ったあと、部屋に入った。
(うぇぇ・・・こんな体調で出撃すんのかよ・・・カノン、治せない?)
{むちゃ言うな。俺はなんでも屋じゃねぇんだ}
「はぁ・・・ぶぇっくし!!」
{今日の出撃、誰かにかわってもらえばいいじゃないか}
「そうはいかないよ・・・何があるかわからないし」
{部下を信頼し、仕事を与えるのもリーダーだろう?}
「でも、ダメ。うぅ・・・」
俺はカノンを持って、部屋から出て、食堂へと向かった。
「・・・おはよー」
「・・・」
「・・・」
なぜか、みんなの視線が突きささるように痛い。
「ど、どしたの・・・ぶえっくし!!」
「なぁ啓太?」
「ん?」
「おまえ・・・その・・・浮気、とかしてないよな?」
「ぶぇっくし!!当たり前・・・ぶえぇっくし!!だろ?」
「・・・じゃぁ、昨日の夜・・・なにしてた?」
「悠人・・・なんでそんな引き気味なんだ?別にないけど・・・あ、そういえばシャルティが来たな。なんでも眠れないとかなんとか・・・」
「なるほど・・・で?」
「で?」
「何かした?」
「話を少々。そしたら、俺がハーブティー入れてる間に寝ちゃって、カクインに引き取ってもらおうと思ったんだけど・・・ぶぇっくし!!カクイン寝てたみたいだから・・・俺のベッドで寝かせた。んで、俺はソファーで寝てこの有様」
「・・・誓って?」
そこまで言われれば、どういうコトか誰でもわかる。
「・・・あ、浮気ってそういうこと?」
俺は回転しだした頭で答えを弾いた。
「つまり、今朝、誰かが俺の部屋からシャルティが出ていくのを見て、そういうことになったってわけ?」
「そうだ。無実なのか、良かった良かった」
「なんなら、あとでシャルティにも確認取ってみなって。それよりさぁ・・・あれ?メシフィアは?」
「・・・まぁ、その・・・ね?」
「・・・どこだ?」
「アタシ達が噂話してるの聞かれちゃって・・・」
「あぁ、もう・・・なんで?仕方ない。今日の出撃、悪いけど俺の代わりにメルフィー入って」
「いいわよ。その変わり、メシフィアは頼んだからね?」
「ああ。任せて」
・
・
・
「しかしアイツ、メシフィアの事になった途端に顔つきが変わったな」
「それだけ愛してるってことでしょ?はぁ・・・羨ましいなぁ」
「メシフィア、入れてくれないか?」
カチャ・・・
ドアノブに手をかけると開いた。
「・・・メシフィア」
「・・・」
メシフィアは黙って窓を眺めていた。
「・・・まずは、ごめん。誤解されるような事しちゃって」
「・・・」
「その、怒ってる?」
「・・・誤解、なのか?」
「・・・ああ。断じて俺は何もしてない。みんなにも説明したし、メシフィアもシャルティに確認取ってもらってかまわない」
「・・・別に、ケイタに怒ってるわけじゃない」
「え?」
メシフィアの言葉に疑問が浮ぶ。
じゃぁ、一体どうして落ちこんでいるのだろう。
「・・・自分に・・・だ」
「え?どうして・・・?」
「ケイタの事を・・・信じられなかった自分がいたんだ」
「・・・」
「そんなことするはずない・・・それなのに・・・だ」
「・・・そうなんだ」
「結局・・・私はケイタに依存しすぎていた。ケイタの全てを・・・いつのまにか、手に入れたつもりでいた。それで・・・満足して・・・」
「・・・」
「それなのに・・・ちょっとしたことで、こうやってケイタを疑ってしまって・・・自分が嫌になった」
「・・・」
「だから・・・私はケイタを愛する資格がない」
辛そうな顔をして俯くメシフィア。
そこまで真剣に考えていてくれたのに、軽率な行動を取った自分を責めた。
・
・
・
「・・・そんなことないだろ?」
そんな顔をしているメシフィアが見たくなくて、言葉を出す。
「早朝にメシフィアの部屋から・・・例えば光陰とかが出てきたとする。そしたら、きっと俺も君を疑ってしまう。何かあったんじゃないか・・・?って」
「・・・そうなのか?」
俺はメシフィアと目線があうように、ベッドに腰掛けた。
「だけど・・・その疑いは、相手を好きだからこそ生まれる。だから・・・別に愛する資格がないとか、そんなことない。人間はそれが普通なんだから。だから・・・そんな事言わないでほしい。俺は、どんなメシフィアも好きだ。だから・・・俺は、いろんなメシフィアを見て、受け入れていきたい。俺は・・・君の全てを受け入れる。だから・・・そんな顔しないで、笑ってほしい」
「ケイタ・・・」
「俺に依存してくれてかまわない。俺はその方がやる気がでるし、もうとっくに・・・俺の全てはメシフィアの物だよ。安心してくれ。俺は、いつでも君と一緒にいるから」
「ケイタ・・・っ!」
抱きついてきたメシフィアを受けとめる。
ゆっくりと・・・頭を撫でる。
「ごめんな。もともと、俺が悪かったんだよ」
「そんなことない・・・」
「・・・メシフィア、愛してる」
「・・・私もだ」
俺はゆっくりと顔を近付け、メシフィアにキスをした。
「・・・まさかな」
「え?」
「いや・・・なんでもない」
俺は一瞬、とんでもない考えが思いついてしまった。
最近・・・心が病んでいるのかもしれない。
「どうした?」
「なんでもないってば。とりあえず、これで安心かな」
俺は深呼吸して、肩の力を抜いた。
「メシフィアが離れていっちゃうんじゃないかって、これでも結構心配したんだからな」
「私だってそうだ。もし・・・何かがあったとしたら・・・もうケイタは戻ってこないって・・・思った」
「はは。お互いそんな心配ばっかりしてたわけか」
「・・・ケイタ」
「ん?」
ブワッ・・・
「!?」
俺の体がいきなり動いた。正確には、メシフィアに動かされた。
(め、メシフィア・・・!?)
あのプロレス女『エルーナ』のせいで、最近どうも誰かに触られるのがトラウマになっていた。
あの女は触れる度にかけてきたからな・・・。
「・・・」
「これは・・・」
「・・・」
メシフィアは俺に覆い被さってきて、いきなり俺の口を自分の口で塞ぐ。
「☆▽◆〜!?!?」
「ん・・・」
いつかのキスの感覚に似てる・・・。
メシフィアは、舌を俺の口に割り込ませてきて、好き勝手にかき回していく。
「む、ん〜!!??」
「はぁ・・・ん・・・」
メシフィアは軽く息継ぎをすると、すぐさままた俺の口を塞いだ。
んが〜!!
こういうことは前もって・・・言うのも変だけど言ってくれ!
クチュ・・・時々、とてもイヤらしい音がする。
それがどんどん俺の思考を奪っていく。
あまりにメシフィアのキスは荒々しくて・・・いとおしさに溢れていた。
「ふぅ・・・」
「はぁ・・・はぁ・・・」
やっと口を解放してくれたメシフィア。
空気空気・・・鼻からだけじゃたりねーよ。
「メシフィア・・・一体・・・?」
「・・・」
なんだかんだ言って、メシフィアの顔も上気していた。
「・・・ケイタ」
「う、うん?」
いつにない気迫に少し気圧される。上にいるというのもそうなんだろうけど・・・。
「・・・」
「・・・」
俺はメシフィアの目を見て悟り、そのままメシフィアを抱き締めた・・・。
ドサッ・・・
「うぅ・・・疲れたぁ・・・」
「・・・気持ち良かった」
「・・・そうっすか」
俺は恥ずかしくてそっぽを向く。
「ったく・・・調子に乗って何回もさせるから・・・」
「結構ノってきたくせに」
「う・・・だ、大体、ケイタぁ・・・とか何回も甘い声出せばそりゃ・・・ノッちまうっつうの・・・!」
「う・・・!」
「もっと・・・もっと!とか言ってたのはドイツだよ・・・」
「・・・そんな事言ってたのか?」
「ああ。そりゃもう・・・ハッキリと」
「・・・」
ふいっとそっぽを向くメシフィア。
恥ずかしいんだろう。そりゃ・・・ね。
まだ・・・もっとぉぉぉ!とか言ってましたよ、彼女は。
詳しくは恥ずかしくて言えません。
でも・・・
「恥ずかしがるなよ、メシフィア」
「・・・」
俺は彼女を背中から抱いた。
「俺は、全てを受け入れる・・・って言ったろ?」
「・・・」
ピカーンッ!
「う!?」
メシフィアの目が光った。
「な、なにするつもり?」
「もう一度だ」
「えぇぇぇ!?」
「先にイッたら許さないからな」
「あぁぁぁぁ・・・俺はとんでもない女に捕まったのかもしれない・・・」
・・・
そして、その数時間後。悠人達が帰ってきた。
「無事橋は残したぜ」
「そうか。良かった・・・」
「今回は、瞬とかなぜか出てこなかったからな。楽勝だった」
「敵は?」
「普通の兵隊だったな。火で落とそうとしたみたいだ」
「そうか。でも、いつも見張りをたてておいたほうがいいか?」
「それならもう大丈夫だ。遊撃部隊が交替で見張ることになってるからな」
「動かすのが早いな、光陰」
手際の良さに感心する。
そうやって女も口説き落とせればいいんだけどね・・・という表情で返してくる光陰。
「おまえ、どうしたんだ?疲れた顔して」
「別に・・・強いて言うなら、俺はすごい女に捕まったもんだと実感したせいかな」
「ふぅん・・・相当機嫌治すのに苦労したんだな」
「・・・まぁね」
そういうことにしておこう・・・。
「悠人ぉ・・・」
「うわっ、なんだよ」
俺はガシッと悠人を掴む。
「女を選ぶときは気をつけろよぉ・・・。レスティーナさんとか、エスペリアさんは意外と危険ゾーンかもしれない・・・」
「はぁ?」
「いや、でもあの二人なら普通なのかも・・・うぅ」
「お、おい、メシフィア。コイツ、どうしたんだ?」
「疲れてるんだ。放っておいてやれ」
「はぁ・・・そですか」
「・・・がんばれ、ジゴロ」
「・・・は?メシフィアまで何を言い出すんだ」
「誰とくっつくか・・・見物だ」
「いや、人の人生見せ物にすんなよ」・・・
「さて・・・と」
{どうした?}
俺は準備運動しはじめた。
「だって、今日で前回のゲートから・・・一週間だろ?」
{そういえば・・・}
「だから、警戒しておこうってな」
{そうか・・・}
コンコン・・・
「はぁい」
「失礼します」
「ん?シャルティ?」
「モーニングティーです。今日からみなさん、警戒に入ると聞いていたので」
「おぉ、サンキュー。きっといいお嫁さんになれるよ」
俺は椅子に座って、その紅茶を飲む。
「・・・おいしい。気分が落ち着くよ」
「警戒しても、緊張のしすぎはしないようにしてくださいよ?」
「うん。紅茶飲んだらスッキリしたよ」
「平和が一番・・・ですよねぇ」
そういうシャルティの顔は、今までで一番切なかった。
なんでだろう・・・?
「啓太さん」
「うん?」
「・・・今のアレスティナ、そんなに悪いでしょうか?」
「・・・俺はそう思うよ。ただ、いまいちカノンを狙う理由がわからない」
「え?」
「だって、力がほしいなら、ほしいと思った理由があるはずでしょ?だけど、ちっともそういうのわからないし・・・」
「・・・もし、それが・・・どの世界も平和にするつもりで・・・カノンを欲しがっているとしたら、どうします?」
「え?」
「・・・」
目が真剣だった。
だから俺はちょっと考えて、真っ先に浮んだ考えを答えた。
「そうだね・・・やっぱり、俺は渡さない」
「え?でも・・・」
「おかしいじゃないか。平和っていうのは、その世界の人々が、自分たちで勝ちとらなきゃ、意味がない。他人に作り出された平和なんて、ただの虚構だよ」
「啓太さんは・・・違うのですか?」
「・・・正直、あんまり違わないって思われるかもしれないけど・・・俺は、この世界が好きだから・・・だから、この世界に住む一人の人間として、平和を掴みたい。それも・・・自分一人でなんて傲慢じゃなくて、ここに住む人間と協力して・・・」
「そう・・・ですか」
「・・・カクインはどう思ってるの?」
「弟は・・・わかりません」
「え?」
「いつからでしょうか・・・なぜか、弟の気持ちがわからなくなったんです・・・本当は、もっと明るくて元気のいい子だったのに・・・」
いきなり意気消沈してしまうシャルティ。その暗い顔は、見ていられないほど痛々しかった。
「戦争なんて大嫌いな・・・優しい子だったのに・・・」
「シャルティ・・・」
「ダメな姉ですよね・・・弟の気持ちもわからないなんて・・・」
「・・・聞けばいいじゃない」
「え?」
「わからないから、あなたの気持ちを教えてって・・・言えばいいじゃないか。姉弟なんだから・・・きっと、通じあえるはず。あなたが信じれば、きっとカクインはこたえてくれるって。だから、さぁ」
「・・・はい!」
シャルティは元気良く部屋を飛び出していった。
『カクイン!あのね』
『な、なんだい?』・・・
(ふふ、うまくいきそうだね)
「・・・何があったんだ?」
「あ、メシフィア」
「シャルティがヤケに嬉しそうに飛んでいったが・・・」
「実は・・って、言っちゃっていいのかな・・・。ま、とりあえず秘密にしておいてね?」
「ああ・・・」・・・
「なるほどな・・・」
「だからさ・・・やっぱり、家族っていいモンだなぁって・・・」
「・・・ケイタ、お兄さんのこと・・・?」
「・・・ははっ。メシフィアに隠し事は無理・・・か。うん、俺も兄貴の事思い出してた」
「そうか・・・」
「だけど・・・いいんだ。兄貴は俺の中にいるし・・・なにより、俺には新しい・・・メシフィアっていう家族がいるから」
「・・・そうか」
「だから・・・がんばろうぜ?戦争・・・おわらせるために」
「・・・そうだな!」
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カクイン・・・アレスティナから逃げ出して来た少年。やけに肝がすわっている。詳しい事はあまり話さないのでわからないが
シャルティの事は大事に思っている。シャルティの弟。アレスティナの重鎮であったらしい。
シャルティ・・・アレスティナから逃げ出して来た少女。少し引っ込み思案だが、芯が強い。
アレスティナを救いたい一心で啓太と接触した。
カクインの事を大事にしている。カクインとは姉弟で、いつも心配ばかりしている。
カクインと同じ位のアレスティナの重鎮であった。